「何だ、これ……」
現れたそれを手に取る物間。しっとりとした質感。だが、皮にしては歪で滑らか、古くとも劣化が見られない
彼はニアが普段使っている、真っ黒な魔本が出るだろうと思っていた。
だが、そうはならなかった。
なるはずがないのだ。
何故ならばあの魔本は、ニアが前世の記憶と今世の魔術をもとに創ったオリジナルなのだから。
それを知らない物間は、それに対して違和感を感じるが、
ニアの“個性”だ。そう考えたら何もおかしくはない。
そう言い聞かせて、巻物を開こうとする。
だが、それを止めるように、物間の手を抑える人物がいた。
「(|||O⌓O;)開けちゃダメだ。絶対に」
吹出だ。彼の見た目上、真剣なのかふざけているのか、表情が伺えない。しかし、彼の声は本当に怯えているようだった。
「私もそう思う……怖いんだ、それが……!」
拳藤も何かに怯えたような表情で物間に言う。
2人の怯えっぷりに、物間も頷き、その巻物を手放した。
「⁉︎」
「どっどうした物間⁉︎」
「ヾ(・ω・`;)ノぁゎゎ」
突然、何かが聞こえた。すぐにその方を見るが、何も無い。
いきなり何もない方を振り向いたため、2人は驚いている。
「……聞こえなかったのかい?」
「な、何をだよ…やめてくれ、心臓に悪いから……」
「(;´Д`)アビャア~」
どうやら拳藤と吹出には聞こえていないようだ。こんな状況で嘘をついているとは思えない。
とにかく、今はこの巻物をどうにかしなければ。
「みつけましたよ」
「え?」
振り向けば、白い面の魔術師がいた。すでに目の前に飛び込んでいる。それが戦闘訓練、最後の記憶だった。
物間はニアに蹴り飛ばされ壁に激突し、意識を失った。
「物間ァ‼︎」
拳藤はすぐに“個性”を発動させる。だが手遅れだ。
「貴女も眠ってください」
「がはッ……」
いつの間にか懐に潜り込んでいたニアの拳を鳩尾に貰い、倒れた。
そしてすかさず、吹出に投げ技を決める。
「あとは吹出君、君だけです。私としては降参して欲しいと思っています。抵抗するのであれば直ちに彼らと同じ目に合わせます」
ニアは吹出の胸ぐらを左手で掴み地面に押さえ込んでいる。そして右手は吹出の首元に当てている。抵抗した瞬間、意識を刈り取られるのは明白だ。
「くぅ……分かった。これ以上皆に何もしないなら降参するよ」
「受け入れましょう。交渉成立です。オールマイト、訓練終了の合図を!」
『え、あ、うん……ロンリーヴィランWin!!あと早く核を止めてほしい!部屋から出られるようにもね!』
「それはやってますので、今から2人を送ります」
オールマイトのお願いを軽く遇らい、インカムを切る。
「吹出君、4階の部屋に取蔭さんを寝かせてありますので、モニタールームまで運んであげてください。少しばかり確認しなければならないことがありますので。よろしいですね?」
「うん…でも、それって……」
「ええ、ですが内容を話すわけにはいきません。ご了承ください……」
「……分かった。話せるようになったらいつでも話してよ?僕ら友達だからね‼︎じゃあ行ってくるぜ!!ε=┏(・ω・)┛」
吹出はニアに言われた通り、取蔭のところへ向かう。
その間に、気を失っている拳藤と物間を門の創造によりモニタールームに送る。
1人残されたニアは自己強化の魔術が切れたことを確認して、別の魔術を唱える。小さな静電気が走る音が一瞬鳴る。
「さて、コレは誰にも見られてはいけませんからね。しかし、よりによって遺言を引き当てるとは…運が良いのか悪いのか……」
やれやれと小言を呟きながら、地面に落ちている巻物を拾い上げる。ハラハラとわずかに積もった埃を払い、“個性”にてしまう。
見たところ、巻物を開いて読んだ形跡は無かったため、彼らに及ぶ被害は無いはずだ。しかし原本となれば……どうなるか予想がつかない。なんせ
「ま、それはそれで愉しそうですがね」
仮面の下で笑みを浮かべていると、再びインカムが入る。
『ナイアーラ少年!評価を付けたいから戻ってくるように!あと君がいるフロアの映像が映らないんだが、壊したのかな?故意だったら反省文だぞ‼︎』
「まさかそんなことしませんよー。正直戻りたくはありませんが仕方ありません、今向かいます」
モニタールームの皆に何と言い訳をしようか。ま、無駄でしょうね。
1人腹を括り、モニタールームに向かった。
『何か弁明はあるかナイアーラ?』
「いやアレはですね?ヴィランならどうするかを考えた結果であって合理的な行動をしたまでです。ヴィランだったらそうします。なら私もそうします。何も問題はありません。なので鎌切君、私の首に当てている刃を納めてください」
「断るぜ」
「oh!手厳しい!」
モニタールームに戻ると同時に、裁判が始まった。
ニアの話は一切聞かない、有罪確定の裁判だ。宗教裁判もビックリだぞい。
「ほら、トロッコ問題と似たようなものですよ。核の力で4人のヒーローを確実に始末し自分は逃げ果せるか、人気が多い他の場所に核を落とし自力でヒーローを何とかするか。私は後者を選んだだけです。つまり私は悪くない!なので鎌切君、私の首に向けて刃を構えないでください」
「黙ってろ」
「なんてこったい」
どう足掻いても絶望。口を開けば開くほど、罪が重くなる。だがニアは喋らねばならない。だってニアだもの。
そこに骨抜が入る。
「まぁ皆、落ち着こう。ナイアーラだって真剣に取り組んだ結果だと思うんだ。確かに核を爆発させる細工をしてこっちに送ったのは良くないが、実際にこういうヴィランもいるかもしれないしさ、俺たちの成長のためだと考えることもできるんじゃね?」
「あー、確かに。こんなケースもあり得るかも」
「なら……まぁ、今回だけは許そうかな?」
「ナイアーラ氏ですし、次も何かやらかしますな。その分私たちも成長できると思えば許すこともやぶさかではないですぞ」
骨抜の柔軟なフォローにて空気が良くなっていく。
「骨抜少年の言う通りだ。ナイアーラ少年のように過激なヴィランも少なからずいる。それをどう止めるかもヒーローには欠かせないぞ!今回はナイアーラ少年がMVPだ。無駄がなく最小限の動きで相手を翻弄する。そして部屋での戦闘を想定して核を別の場所に移すこともGOODだね!内容はえげつなかったけど!そしてヒーローチームの4人も素晴らしい連携だった!限られた時間でそれぞれの役割を果たしヴィランを追い詰める。これは現場でも非常に大切なことだ!即席のチームアップでの連携は、授業じゃなかなか学べないからね!やっぱMVPはヒーローチームの4人かな、これ?さて、これにて戦闘訓練は終了だ!各自、何が良かったか、そして何が足りなかったか分かったはずだ!それぞれの反省点を踏まえて、今後の授業に励んでほしい!今日はお疲れ様‼︎各自着替えて教室に戻るように‼︎」
『ハイ!!!』
オールマイトは授業を終えるとすぐに部屋を出ていく。とても忙しそうに見えるほどにだ。
残されたB組は、被告人のニアを許す方に傾いていた。
だが、
「いやぁ、骨抜君とオールマイト先生には感謝ですよ。皆さんにとっては訓練になりますし、私も愉しめましたしね。まさにWIN-WINですよ」
仮面を取り笑顔でそう言った瞬間、これまた笑顔の骨抜がニアの肩に手を乗せる。
「……沈んどけ」
「え?ちょっと骨抜君?骨抜くぅーーーん⁉︎」
ニアは首から下が地面に沈み、身動きが取れなくなる。
「よし、じゃあオールマイトも言ってたことだし…皆、教室に戻ろうか」
『はーい』
「OK、わかりました、もう一度弁明させてください。なので皆さん私を置いて行かないでくだ」
無慈悲にもモニタールームの扉は閉められ、ニアは1人残された。
「……やり過ぎはダメだよ?」
「善処します」
その後、忘れ物を取りに来たオールマイトに救出されたのでした。チャンチャン。
放課後、鉄哲がA組に行くと言い始めた。何でも、ヴィラン襲撃を乗り越えたクラスだから、その話を聞きに行くのだという。
正直、どうでもいい
それがニアの考えだった。たかがヴィランたちが襲撃してそれを何とかしただけだ。最後のゴローさん招来?アレはノーカン。
逆に何故、襲撃されないものだと思うのだろうか。未来のヒーローたちを未熟のまま潰せるのだ。多くのプロヒーローが在籍する雄英高校とはいえ、ヴィラン側としてはデメリットよりもメリットの方が多い。
今回はヴィランたちが未熟だったということになる。
これを口にしたら、B組の皆に何をされるかは目に見えている。今回のナイアーラは賢いからね。お口チャックなのさ。
「ニアは入試一位通過なんだから行こうぜ‼︎」
「一位は関係ないでしょう?それに良いんですか?先程の戦闘訓練はやり過ぎだかもしれないとほんのちょっぴり反省してますが……これから私がやろうとしていることとは別ですよ?加減なく、温情なく煽りに煽りますよ?やめろと言われても私が満足しなければやめません。やるからには徹底的にです。それでもよろしければ、行きますが?」
「おおう……わかった」
ニアは鉄哲の誘いを断り、帰る準備をする。
いざ帰ろうと教室を出ると、A組の前が騒がしい。ヴィラン襲撃を乗り越えたクラスを見ようと考えているのは、他のクラスも同じだったようだ。
(話だけでも聞いておきましょうか……)
ニアは人混みに紛れ込んで観察を始める。
するとA組の1人が、
「意味無ぇからどけ、モブども」
「知らない人の事をとりあえずモブって言うのやめなよ!」
と、挑発する声と静止する声が聞こえた。すると有象無象の中から、ヌッとクマが凄い男子が割って出る。
何でも、普通科やその他学科には、ヒーロー科の受験に落ちた人がいるそうだ。そして体育祭の結果によっては、ヒーロー科への編入が検討され、その反対もあるという。
「調子のってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー宣戦布告しに来たつもり」
何と素晴らしい向上心なのでしょうか。調子には乗っていないと思われるが。
煽りたい気持ちを抑えて観察を始める。
「隣のB組のモンだけどよぅ‼︎ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ‼︎エラく調子づいちゃってんなオイ!!!」
(何してんですか鉄哲ぅ?)
煽りにもならない発言に引っかかるのはまさかのクラスメイト。
熱血単純な鉄哲だからじゃね?
だ。ここまでの模範解答は無い。このままいても面白くないと思った時、この騒ぎの発端のなった男子が放つ一言が、実に素晴らしかった。
「上に上がりゃ関係ねえ」
そのまま彼は人混みを押し除けて教室を出る。
(クマの凄い彼とは違う向上心……これほど大きなものは見たことがありませんね。大きくて輝くその心……壊したらどうなるのでしょうかね?さて、用件は済みましたし…帰りましょう)
「ハァ…ハァ…ハァ……!」
暗闇の中、走る男子がいる。
怯えた表情でひたすら走っている。
その様子はまるで、何かに追われているようだった。
「ハァ…ハァ…クソっ!来るなっ‼︎」
暗闇の中、彼以外に色は無い。
だがその男子は明らかに、何かを見て、逃げている。
「ハァ…ハァ…っあ」
その男子は転んだ。転んでしまった。
痛みは無い。ならばすぐに逃げなければ……
男子は立ち上がろうとした時だった。
「ッ⁉︎来るな‼︎来るなァァア!!!」
男子はさらに表情を歪め、その何かから逃げ出そうとする。
だが、逃げることが出来なかった。
「あ…足がぁ……⁉︎」
男子の脚が、膝から下が塵と化していたのだから。
次第に塵に侵食されていき、ついには胸から下が塵と化した。
逃げられない。
男子が悟った時だった。
「………!」
声のする方を見た。見てしまった。
子どもよりも小さなそれは、カラカラに干からびた人型のような存在だった。干からびた腕をまっすぐと伸ばし、こちらに近づいてくる。表情という概念すら無い貌は、確実に男子を見つめている。
男子は恐怖からか、声が出なかった。
何かを呟いたと思えば、その腕が男子の胸に触れる。
その瞬間に、男子の残った身体は塵となった。
「うわぁぁぁあぁぁ!!!」
男子は目を覚ました。
まだ夏でもないのに、びっしょりと汗をかいている。
「……ゆ、夢?夢か……」
あたりを見渡すが、どこも異常は無く、ただただ動悸がするだけだった。
「起きなさい寧人!」
部屋の外から女性の声がする。
時計を確認すれば、いつも起きる時間から、10分ほど過ぎていた。
「……あー…今起きたところ‼︎」
彼はベッドから出て、身支度をする。
アレはただの夢だ。凄く気味の悪い夢なんだ。気にしてはいけない。すぐに忘れよう……
今日のヒーロー基礎学は救助訓練のはずだ。気を引き締めなければね……
身支度を済ませた彼は、部屋を出る。
彼は“夢”に向かって頑張っているのだ。この先、どんな困難があろうとも……
彼には見えてなかった。
彼のベッドのそばには、小さな塵の山に、小さな2つの穴が出来ていたことに……
深淵を覗いた時には、もう既に深淵に入っていると思うんです。
ニア=ナイアーラにヒロインっている?誰が良いかな?
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A組の誰か
-
B組の誰か
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最近出番がないアビゲイル・ウィリアムズ
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外なるブラコン、イブ=スティトル
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ニャルラト……は要らないか
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物間
-
要らぬ。いない方が人類のためだ。