ただ守り通すだけの物語   作:寝る練る錬るね

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難産!そして長い。インド来るので三章やりながらやってたらこんな長さに…分割しろとかいう正論は受け止めます。

あ、魔神については本当に情報少ないのでオリジナル設定若干入ってます。


第3話 共感

『宇宙』というモノができるまで、八兆年ほど待った。それが最も古い記憶である。『始まり』であった己は、ただの『原初』であり、何の力もなく、生きているのかすらあやふやな、どちらかと言えば概念に近しい存在だった。

 

 己を認識する頃には『地球』ができていて、自意識が芽生えたところで『生命』らしいものが生まれた。今度は前ほど待たず、百億年と少し程度だったろうか。

 

『人間』が生まれたのは恐竜の滅亡後だから、それからさらに六億年だ。

 

 人が神を拒絶したことによって神秘が失われ、真祖の吸血鬼達の興亡を眺めること五千万年。漸く『己』という一個体が生まれた。

 

 そこから先は早かった。今まで出来なかった魔術やら、それこそ神代以前から見続けてきた魔法やらを再現する楽しみが出来たのだから。大体三千年前の話だったろうか。

 

 様々な(モノ)を見た。意思のない王も、孤独な王も、鮮烈な王も、愉快な王も、理想の王も、王に代わった偽の王も、王のいないという(モノ)も見た。人間とは面白いもので、どれも飽きない現実という展開を迎え、滅びという形で幕引きを迎える。

 

 その中でも最も興味深い事象が起きたのは、そう。最近も最近、200年前程度の話だ。なんと言ったか……あぁ、そうそう。『聖杯戦争』だ。

 

 己から見れば必死で大人になろうとする子供の癇癪にしか見えなかったが、驚いたことに200年間『それ』は続いた。世代を越え、種類を変え、場所を変え、時には星すら変えながら、奇妙なその儀式は続いていった。

 

 そして己が生まれて、8兆5786億5463万632年と、322日が経った日。己が初めて愛した『彼女』を、聖杯戦争のマスターとして見つけたのだ。

 

 だからこそ、許せなかった。人理■■などという大雑把なもので、愛する『彼女』が、兆年かけて出会った『彼女』が、楽しみ諸共理不尽に奪われることを、己は到底許せはしなかった。

 

 だから───

 

 

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 謎の少年、アンヘルが現れて数日。ウルク城は普段の慌ただしさをさらに加速させていた。

 

「はい!ここの資料に纏めといたよ!外交に使う道具は粗方ここに書いてあるやつ!」

 

「イシュタル様への献上品!?要らないよ!要るにしても今話すことじゃない!却下!」

 

「関税増加!?エリドゥのやつら、平気で足元見てくれやがって……これ以上やるようなら王様そっちにやるって言っといて!ある程度の抑止力にはなる!」

 

 その中心で忙しなく指示を飛ばしているのは、何故か英雄王ではなく、ほんの数日前に現れたアンヘルであった。

 

「えぇ……」

 

 これにはアンヘルの働き具合を見に来たエルキドゥもドン引きである。そりゃあ驚く。精々雑用程度に、と雇った子供が数日で国の中核を占領しているのだから。「王」国の概念が今一度検討されるかもしれない。

 

「ねぇ、そこの君」

 

「あ、エルキドゥ様!どうなされました?」

 

「あの子供のことなんだけど……」

 

 取り敢えず目の前を通った文官の女性を捕まえて、アンヘルについて尋ねる。見る限りそんな形跡はないが、魅力などの幻術で国の中核が操られては堪らない。

 

 しかし、そんなエルキドゥの不安を笑い飛ばすかのように、女性はとてもいい笑顔で質問に答えた。

 

「あぁ、アンヘル君ですね。いやぁ、本当によく働いてくれてますよ!初日は端で仕事を見てるだけだったのでやる気があるのか疑ったりもしましたが、次の日からコツを見つけたのか、あれよあれよと書類が片付いていくんですよ!気がつけば国の業務の三割はアンヘル君に、特に外交問題なんてほとんど任せっきりなんです!」

 

「えぇ……?」

 

 流石に困惑が極まった。たった数日前に来た少年を文官(ここ)に推薦したのはエルキドゥとはいえ、人間とはそこまでするものなのだろうか。

 

「あの、一応訊いておきたいのだけど、ギルは……」

 

「ギル……?あぁ、あの穀潰し(王様)のことですね!今日もまともに仕事すらせずそこら辺歩き回ってんじゃねぇですか?」

 

「酷い!呼び方(振り仮名)から何まで酷い!口が悪い!敬意を全く感じない!」

 

 嘘、ウルク(うち)の国民の忠誠低すぎ……?と、ドン引きを通り越して地面に伏せるエルキドゥ。友の人望の無さに呆れんばかりである。

 

「ま、実際強いですし顔はいいので、国としての象徴にはなってるんですが……正直なところ、文官からしてみればギルガメッシュ王は傲慢で他国と摩擦を生むトラブルメイカーですし」

 

「うっ……」

 

「てかこっちに指示全然出さないどころか思いつきの国事ぐらいしかしてくれません。正直邪魔です」

 

「ぐぅっ……」

 

「その点、アンヘル君はバリバリ仕事をこなしてこっちを楽にしてくれる分、凄く役に立ってますからね!しかもアンヘル君はまだ研修中の身ですから、それが終わったら更に頼ることになるかと!」

 

「むぐぅっ……」

 

 とうとう体を支えることもできずに崩れ落ちるエルキドゥ。ぐぅの音も出ない正論は効果抜群だった。ついでに、「王様ぐらい顔もいいですし、性格もいいですね」と、華麗な死体蹴りも決まる。3OUT。ゲームセット。

 

(もう、誘われるまま冒険に行くのはやめようかな……)

 

 言いたいことを言ってスッキリしたのか、スキップを決め込んで去って行く文官の後ろ姿を見て、割と深刻にエルキドゥは悩んだ。

 

 

 

「……それにしても、よく働いている」

 

 遠目から見ても、アンヘルが真面目に仕事をやっているのは瞭然だった。普段の数十倍のスピードで政治が動いているのが素人のエルキドゥにも目に見えてわかる。百人力、と言う言葉を体現するような光景だ。

 

 子供が四方八方へ指示を、それも大人に対して出し続けている非現実的な現実。さしものエルキドゥも放心するというものである。

 

 ふと、アンヘルと目があった。こちらを完全に認知した少年は、朗らかな笑みを浮かべて、早足にエルキドゥへと近づいた……

 

「あ!こないだの。どうも、エルキドゥ……だっけ?改めて、アンヘルだよ。素敵な職場(ところ)をありがとう、とだけ」

 

 最大級の皮肉を笑顔で喰らわせながら。決して、おしょんの件を根に持っているわけではない。

 

「……気に入ってもらえて何よりだよ。まさか数日で君のいいように改良されるのは、僕の演算機能の不足だったけれど」

 

「元々そんな造りにしてるのが悪いんだよ〜だ。あ、こっちの資料、祭祀長に渡しといて。その物資は海の方に手配。哨戒中の兵士達の大切な食糧だから、しっかり運んで」

 

 エルキドゥとの会話中も、指示を緩めることなく人を回す。至近距離で見ると、改めてこの光景の異常さが伝わってくる。

 

「……君をもう一度拷問して、何者なのか吐かせた方がいい気もするね」

 

「……勘弁して。今大切な時なんだ。色んな国が戦争の準備なのか騒がしいし、まだ文官の労働時間を改訂しきれてない。僕がいなくなったらブラック企業も青ざめる真っ黒行政に戻るよ。ほんと、今の今までよくこんな業務形態で回ってきたよね……」

 

「そんなことにまで………君、ウルク滅ぼすつもりなのかい?今の君なら簡単に内部崩壊させることができそうだ」

 

「ふふん!面白い冗談だね。ま、僕をクビにしなければ大丈夫だよ。はい、今から昼休み!一刻の休憩の後、業務を再開!まだやってる人には教えてあげて!」

 

 片手間の休憩宣言に、城中から統一された返事が上がる。どうにも、馴染みすぎている。ウルク人の適応能力は知っていたつもりだが、まさかここまでとは予想すらしていなかった。

 

(きっと、ギルが同じ事をやっても同じ結果にはならないんだろうな)

 

 悪戯が成功したように頰を緩ませた少年と話しながら、全能と呼ばれる友を否定する言葉が、何となく頭に浮かんだ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 日が沈み、月すらも沈みかける丑三つ時。街が夜に包まれる中、ウルク城中の一室は未だ光を灯していた。

 

 カリカリ、と規則正しい音の鳴る部屋の扉を、緑の青年は手にかけた。建て付けが悪いのか、やけに耳に響く音を立てながら扉は開き、中で一人作業をする子供の姿が映った。

 

「こんばんは。いや、この時間だとそろそろおはよう、かな?こんな時間までやってるとは、勤勉も甚だしいね」

 

「……エルキドゥ?」

 

 動かしていた手を止めて、少年、アンヘルはエルキドゥを不思議そうに眺める。 長く起きているからか表情の読み取れない目は、見た目も相まって人形のようだった。

 

「何の用?こんな夜更けに、僕を殺しにでも来たの?」

 

「そんなことはしないさ。ただ、君の健康状態が気になってね。寝てないんだろう。ここ数日」

 

 エルキドゥの優れた観察眼は見逃さなかった。アンヘルの隈も、繕った笑顔も、声が嗄れていたことも、机の上に転がった滋養強壮剤の空き瓶も、その全てを見通していた。

 

「流石に驚いたよ。来て数日で国を回していたのもあるけど、まさか、その数日の国の為に身を粉にする子供がいるだなんて。規程の範囲外だった、といったほうが正しいだろうか」

 

「……あの時点で、ね。会った時から思ってたけど、君こそ、ハイスペックが過ぎるんじゃない?」

 

 壁に備え付けられたランタンの蝋燭が不気味に揺らめいた。仄かな明かりが両者の姿を朧げに照らす。

 

 次の瞬間、自嘲するように笑みを浮かべるアンヘルの首元に、黄金の鎖が突きつけられた。部屋の淡い光を受けて鎖の先端が鈍く光る。

 

「……どうしたの?殺すつもりは無いんじゃなかったっけ」

 

「惚けないでほしいな」

 

 先程までの温厚な雰囲気はエルキドゥから消え去り、ギラついた目の剣呑さがアンヘルへ向けられた。

 

「魅了の類を使わず人の心理を操るその手際。夜分遅くにコソコソと何かをしている。そも、記憶喪失なんて都合の良すぎる設定。そして、神に造られた僕と容姿が似ている。ここまで判断材料があって、怪しまないほうが不自然だろう。──幾らか拷問したとはいえ、嘘を見破られない術の類……権能でもいい。……そう、例えば、僕に拷問されるときは本当に記憶喪失で、1日経ってから記憶が戻るだとか……そんなことをされれば僕だって見逃す。つまるところ、君の潔白は全く証明されてないわけなんだけど……」

 

 天の鎖が、ほんの少しだけ前に進む。アンヘルの首を数滴、鮮やかな赤い(・・)血が滴り落ちた。

 

「君は、何者?魔神(ジン)であるのはわかったけど、魔神はこんな血をしていない。これは、この赤は、人独特の血だ」

 

 血が赤いのは、混血であるならばわかる。血液の色というのは両親に左右されるもの。人間を親に持つならばあり得ない話ではなかった。しかし、それでは魔神の血を持つことに矛盾する。

 

 魔神とは正体不明の存在だ。未だ謎が多く、長寿であること以外、正体どころか、出現する理由すら掴めていない。ただし、こういった謎の者には共通点がある。『人と子を作らない』のだ。

 

 正確には、作れない。長寿の生き物は例外を除いて生殖能力が限りなく低く、短命の人間とは相性が悪い。従って、アンヘルが魔神と人間の混血、それも人間の血を持つ生物であることは酷く謎が多かった。しかし、神々直々に造られた合成獣(キメラ)や人形であれば納得はいく。

 

「さぁ、話してもらおう。君が何のためにウルクへ送り込まれたのか、何者に造られたのか、より詳しく、鮮明にね」

 

 でなければ首を落とす、と言外に伝えるように、鎖がアンヘルに接触した。

 

 暫くの沈黙が流れた。部屋にこだまするのは、アンヘルの息づかいと、呼吸の必要がないエルキドゥの鎖の音だけ。

 

 そして、状況が動く。わなわなと震えていたアンヘルが、ついに行動を開始したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁあん!!」

 

 マジ泣きだった。号泣していた。エルキドゥの鎖を突きつけられたアンヘルは、滂沱の涙を流しながら泣き喚いていた。

 

「え、えぇ……?」

 

 先程までの怪しげな雰囲気とは打って変わって、全力で泣き始めた子供にエルキドゥは戸惑うばかりだ。

 

 掛け値無しのビビリ泣きであることが直に伝わってきてさらに困惑する。

 

「知らない知らない知らないもん!!嘘なんかついてないし……ヒック……記憶喪失もホントだもん!」

 

「ええぇぇぇぇ…………?」

 

「ヒッ……何なのもう!ヒック……折角夜まで働いて、早くこの国に馴染もうって、記憶が無い分、しっかり頑張ろうって思ったのにぃぃ……!!」

 

「…………夜遅くまで残ってたのは、それが理由かい?」

 

「だってそうじゃん!!頑張らないと、お仕事しっかりしないと、ウルクを追い出されるかもしれないんでしょ!?僕一人だし、追い出されたらのたれ死んじゃうもん!魔獣の餌になって死ぬもん!だからがんばったのにぃぃ……」

 

「……」

 

 部屋に突っ伏しながら泣き続けるアンヘルを見て、今度こそ全く嘘をついていないことを悟ったエルキドゥは、鎖をしまいつつ天を呪った。

 

 予測できるか。偶々子供が英雄王の寝室に入って、偶々魔神との混血で、偶々それがエルキドゥに似た子供で、偶々記憶喪失で、偶々政治の才能があって、偶々人を動かす才能もあって、夜中に起きてでも仕事をする努力家だとか、どうやって予測しろと。

 

「……僕の一方的な失態だな、これは」

 

 ひたすらに床を涙と鼻水で濡らす少年を見ながら、どうやって宥めたものかと思案を巡らせる神造兵器の図がそこにはあった。

 

 翌日、アンヘルが仕事場から居なくなったことにより、仕事効率の著しく落ちた文官達がエルキドゥへの恨みを募らせるのだが、それはまた別の話。

 

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「ということがあってね。なんというか、これが悪いことをしてしまったという感情なんだろうか。一応和解はしたんだけど、とんでもないことしてしまったのではないかなって」

 

「フハハハ!成る程。昨日の喚き声はそれか。滑稽!実に滑稽よな!」

 

 王の一室。昨夜の泣き声について尋ねられたエルキドゥは、反省も含めて親友たるギルガメッシュに事の経緯を語っていた。

 

 尤も、深刻そうに語るエルキドゥとは対照的に、ギルガメッシュは酒のつまみ感覚で話を流し聞きしているが。

 

「滑稽?ギルはアンヘルが怪しくないってわかっていたのかい?」

 

「フン、当然。エルキドゥ、(おれ)と初めて会った時のことは覚えているか?」

 

「勿論だとも。確か君が初夜権を……」

 

「戯け!余計な所は覚えんで良い!出会った状況だ。天の鎖たる貴様は(おれ)に正面を切って挑んできたであろう」

 

 今もなお横暴だが、それよりも更に横暴だった事の話を持ち出されかけるのを必死に止める。エルキドゥに会う前の自分はギルガメッシュにとっては黒歴史なのだ。色々な意味で。

 

「そうだね。それが何か関係あるの?」

 

「あの童を見るに、正面からこの(おれ)とやり合うだけの実力は無い。ならば、考えられるのは暗殺か奸計の類だと予測したわけだな?」

 

 エルキドゥは無言で首肯し、続きを促す。

 

「で、あるならば。(おれ)の寝台に居るわけがあるまい。謀りというものは畢竟(ひっきょう)、隠れて行うもの。わざわざ怪しさを強調するような寝台へ放り込むわけがなかろう。考えたくも無いが、(おれ)が神の立場なら移民か何かに偽装させている」

 

「……成る程。いくらでも判断材料はあったのに、怪しいところだけを僕が抽出してしまったわけだね。これは一本取られたかな……」

 

 やってしまった、と頭を抱えるエルキドゥを眺めながら、一息に美酒を煽る。酔いの甘美な感覚に身を任せていると、真剣な眼差しで親友が話しかけてくる。

 

「ところでギル」

 

「何だ、友よ?」

 

「そんなに賢いなら王の仕事に手をつければいいんじゃないかな?」

 

 その日から、何故か無職の息子を持つ母親のように口酸っぱく、親友へ『仕事をしろ』と急かすエルキドゥの姿がたびたび目撃された。

 




スキル
業務処理 (B)
王が仕事をしないウルクを、あくまで文官の一人として収めたことから発現したスキル。事務に関する作業効率が飛躍的に上昇する。これで職員の負担も減るよ、やったねダヴィンチちゃん!
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