ただ守り通すだけの物語   作:寝る練る錬るね

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どうも、遅くなりました。福袋で最も引きたくなかった鯖イヴァン雷帝を当て、さらにマーリンピックアップ120連を回して星四すら出さず爆砕し、友人に自分しか持っていなかったギルガメッシュやら巌窟王やらを当てられ絶望し、最後の答え(シャルロット・コルデー)を得た作者です。





第7話 過去

「……ぁ……」

 

 燃える。燃えている。燃えている。視界の全てが、まるで嘘のように燃えている。

 

 火だ。炎だ。焔だ。ありとあらゆる赤が、周囲の全てを埋め尽くす。

 

 木ではない。森ではない。都市ではない。生命ですらない。世界(・・)だ。人理という世界そのものが、何者かによって焼かれていた。

 

『……すまない。正直侮っていた。まさか、僕の力を以ってして数分しか保たないとは……』

 

 魔神は驚いていた。数千年しか生きていない若造に自分が遅れをとったことを。それまで自分を欺き続けたことを。抑止力に気がつかせなかった手腕を。自分とは違う、呪いと呼ぶのが相応しい執念のようなものを、何より魔神(同族)が持つことに驚いた。

 

『いいのよ。誰かが予測できたからどうこうできる問題じゃないわ。これも、きっと運命だったの』

 

 魔神が咄嗟に結界を作ったはいいものの、所詮は急造品。結界が耐えきれなくなれば彼らも周囲と同じ末路を辿るのは自明の理であった。

 

 無論、普段の彼であるならばこのような状況は窮地にすら成り得ない。直ぐにでも別次元への扉を開き、脱出どころかこの事件の元凶すら殺すことができるだろう。だが……

 

『……チッ。もう、長くないか』

 

 原初の魔神の体は、細かな光の粒となって消え始めていた。指先や足先という体の先端から、輪郭がぼけて世界へと溶けていく。

 

 原因は単純明快。人理を滅ぼした72の魔神が策を講じた。それだけにすぎない。なにせ、この騒動を解決どころかなかった事にまで出来る同族の存在だ。人理を滅ぼすならば真っ先に排除の対象となる。

 

『……あと数分、ね。それだけの時間があれば……』

 

 ポツリ、とホムンクルスの女性が呟いた。もしかすれば、程度の可能性。それでも『彼』を救うためなら、全ての手段を尽くしてみせる。

 

『何をするつもりだ?』

 

『私が元々何だったかは知っているでしょう?問題は、あなたがそれを受け入れてくれるかなのだけれど』

 

『……あぁ、そういうことか。確かにそれなら、『この子』だけは、救えるな』

 

 ホムンクルスの女性……母親は、元は万能の願望器、聖杯を守護するための人格だった。しかし、『原初』は魔力の溜まった聖杯を聖杯自身の魔力を使用して具現化することで、彼女という人格の崩壊を防いだ。

 

 そしてそれは、裏を返せば彼女が魔力さえあれば聖杯足り得るという証左でもあった。器である聖杯は中身が空なだけで、未だにホムンクルスの女性の中に存在している。それを満たす魔力(・・・・・・・・)さえあれば、聖杯は彼女の人格を破壊こそするが、願望器としての機能を十全に発揮する。

 

 問題は、英雄(サーヴァント)の魂七つにも相当する膨大な魔力だが……

 

『何。崩壊しかけでも、宇宙や抑止力よりも長生きだった僕さ。体を全て魔力に変換すれば、サーヴァント七騎分を補って余りあるだけにはなるだろう』

 

 どのみち、崩壊の始まった魔神に迷いはない。このままでは子供を含め三人共倒れになるのだ。二人が犠牲になって最愛の一人が生き残るなら、彼に後悔はなかった。

 

『……本当に、いいの?私はともかく、あなた一人だけなら、助かる手段ぐらい……』

 

『まぁ、無いといえば嘘になるけど。……でもいいんだ。僕は、君達を置いて逝くぐらいなら、片方でも生かしてあげたい。それが無理ならせめて、一緒に逝かせてもらいたいんだ』

 

 魔神の体から、眩い……けれど優しい光が溢れ出す。透けていた体はもう輪郭が無くなっていた。暖かな光が空間を照らし、ホムンクルスの女性へと流れ込んで行く。

 

『さようなら……いいえ、行きましょう、原初君。あなたと会えて、本当に良かった……!』

 

『あぁ、そうだね。君と一緒なら、三兆年だって一瞬だ。何処へだって、行けるとも』

 

 最後に、深く抱きしめあって。微笑みあって。原初の魔神は、その全てを光に変えて女性を包んだ。

 

 

 

 

 ……魔力(とき)は満ちた。

 

『『(われ)、聖杯に願う……』』

 

 願う。請う。請い願う。(こいねが)う。一つ願うは子供の為。二つ願うも子供の為。三兆年生きた化け物と、齢十に満たない母の願い。積み重ねられたその全て。純粋な心が、かの子に注がれる。

 

 

 

『『どうか、この子(アンヘル)が──』』

 

 思う。想う。憶う。子供の安全を。子供の成長を。子供の未来を。大切な、宝物の行く末を。……どうか。……どうか──

 

 

 

 

 

『『健やかで、平和で、優しく、あれますように──』』

 

 

 ……願いは、問題なく叶えられた。聖杯はその機能を十全に発揮する。

 

 あらゆる可能性を網羅し、検索し、この世界に救いがないことを理解して。別の世界へと()を開いた。

 

 少年の安全を考えて、時は人理の消える遥か過去に。それでいて人の発展(あたたかさ)のある時代へ。体は最低限動かせるよう、十歳のものへと成長させ。それに伴って脳も進化させた。

 

 能力(チカラ)余った魔力(父の遺産)で、人格(ココロ)器の面影(母の遺産)で。

 

 土地は都市。その時代、その世界で、最も輝いた男の場所へと。聖杯(魔神)の知る限り、最強に近かった男の寝所へと。

 

 

 

 そして、寵愛を受けし子供(アンヘル)は目を覚ます。地はウルク。紀元前2300年近くの、神代との境目の時代。

 

 そんな中で生きたてきた(ボク)は、一体──

 

 

『こんなことなら!こんなに辛いなら!………………人なんて、知りたくなかった……暖かさなんて、知りたく、なかった……』

 

 何を、見ていたのだろうか─?

 

 

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「………………痛い」

 

 起きて最初に出たのは、そんな一言だった。熱と勘違いしてしまいそうな頰の痛みが、その存在を主張してくる。

 

「……そっか。そういう、ことか」

 

 アンヘルは理解した。いや、とっくに理解はできていたのだ。ギルガメッシュが自分を殴った理由も、悪し様に罵った理由も、全ては……

 

「僕を人間にするため、だなんて。本当に、お人好しなんだから……」

 

 人間は、生きているものなら少なからず立場(・・)というものに縛られる。それは例えば生まれ持った個性であったり、或いは生まれてきた家であったり、はたまた容姿であったりと、大概は自分だけではどうしようもないものだ。

 

 つまり、その程度(・・・・)。大袈裟に嘆くまでもない、誰しもが持つ、ちょっとした悩み。ギルガメッシュはアンヘルの悩みを『不幸自慢だ』『その程度の悩み』と一蹴することで、アンヘル自身が自分を人外と宣言するのを防いだ。もしあそこでギルガメッシュがアンヘルへ慰めの言葉を口にしていれば、その場しのぎにはなったものの、アンヘルはいつか自分の種族にコンプレックスを持ち、自己嫌悪に陥っただろう。

 

 だから、手を汚した。自分の最も攻撃力の低い武器で、彼自身の手が痛むほどに。彼はアンヘルを無理矢理納得させたのだ。その程度で悩む愚かな人間(・・)だと。

 

「……そっか。いいんだ、これで。この力を持って、生きていけば、それで」

 

 人間は、多かれ少なかれ立場に縛られる。

 

 

 それでも(・・・・)

 

 人間は生きるしかない。どれだけ手札が悪くても、配り直すことは出来ないように。いくら努力をしても生まれた家は変わらないし、生まれもった才能というのもまた、変えられない。人間という生き物は、生まれ持ったもので生きていかなくてはいけないのだ。それは決して、人間ではないアンヘルとて例外ではない。

 

 だから、アンヘルは誇りを持てばよかった。彼自身のカード(能力)に満足すれば、それだけでよかったのだ。それこそ、エルキドゥが自分の在り方を『人の為に』と定めたように。

 

「……ココロは、ちゃんとここにある」

 

 母の記憶(優しさ)は、しっかりと体に受け継がれている。

 

「……ここにある」

 

 父の能力(憂慮)は、しっかりと体に受け継がれている。

 

「ここにあるよ、お父さん、お母さん……」

 

 今はもう遠く離れてしまった両親へ、感謝の祈りを捧げる。自分は今元気だと、あなたたちのお陰で戦えると。そう知らせるように。

 

「なら、僕は……生きていける。お父さんと、お母さんの血が流れてるなら、きっと」

 

 誇りは、ちゃんと胸に抱いた。迷いは、もうない。アンヘルは、自分の力に自信を持って、生きていける。

 

「……なら、まずは──」

 

 下で暴れている本物の化け物(・・・・・・)を、倒さなければいけない。

 

「力を貸してね、クリフィ」

 

 愛盾は持ち主へ応えるように、朧げな光を放った。

 

 

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「……ぐっ!」

 

 ギルガメッシュとエルキドゥは、かなりの苦戦を強いられていた。噂に違わぬフンババの力もそうだが、見た目にそぐわない頭脳に追い詰められている。

 

 ギルガメッシュとエルキドゥは、まず開幕から宝具を遠慮なくぶっ放した。自身における最大火力、乖離剣エアを以った一撃と、エルキドゥの全力の一撃。さしものフンババにも多少のダメージを負わせた。

 

 ……が、この戦闘でフンババが受けた被害は、その一撃のみ。初撃で二人の戦闘スタイルを看破したフンババは、カエルのような巨躯を生かした跳躍によって自在に飛び回るギルガメッシュを付け狙った。

 

 当然、一人を狙えば一人が空く。完全無視をされたエルキドゥは容赦なくその隙を突いたが……

 

「くそっ!……これでもダメなのか!?」

 

 フンババのぬらりとした体表は、エルキドゥとこの上なく相性が悪かった。鎖で縛ろうとすれば簡単に抜けられ、突き刺そうにもぬるりと躱される。エルキドゥに出来ることはせいぜい土の壁を作ってフンババの進路を妨害することぐらいだ。それもフンババにとってはほぼ障害になっていない。

 

 そして、森にいる限り無尽蔵に近い体力を有するフンババに対し、ギルガメッシュの体力は有限だ。フンババの攻撃は全てが一撃必殺。移動用の宝具も、生憎と貸出中だ。その全てを避けていれば、いずれは限界も来る。

 

「……なっ!?しまっ……」

 

 ついに、疲労から距離を図りかねたギルガメッシュの腕をフンババが掴んだ。咄嗟に振り払おうにも、その一瞬で、フンババの怪力は全てを粉砕する。

 

 まずは腕一本。ギルガメッシュの腕が肉と骨の塊になるのを、誰もが幻視した。

 

 

「せぇぇぇぇ……

 

 

やぁぁぁ!!

 

 醜悪に歪んだフンババの目を、天空から降ってきた侵入者が貫いた。栓をコルクスクリューで引き抜くかのように。呆気なく、簡単に。その眼球を、抉り取った。

 

 堪らずギルガメッシュを離したフンババは、経験したこともない痛みに悶えはじめる。真っ赤な血飛沫が、緑の森で噴水のように吹き上がった。

 

「王様!大丈夫!?」

 

 宝具を片手に血まみれになったアンヘルがフンババの目を盾に突き刺したまま、血に塗れたその姿で、ギルガメッシュへと手を差し伸べる。

 

「なっ、き、貴様!……い、いや!とりあえずその目を盾から外さぬか、気持ち悪い!あと手を差し伸べるな!血で汚れるだろうが!」

 

 たしかに、赤い血に塗れた姿で盾を眼球に突き刺したまま持ち歩く今の状況は、かなりバイオレンスな光景だ。グロテスクに耐性のない人間ならば卒倒しかねないほど凄惨な有様になっている。

 

「あ、ご、ごめん!そうだね!まずは服で血を拭って、それから手を差し伸べればいいんだね!」

 

「戯け戯け戯けェ!血で汚れた服で血を拭ったところで血まみれに決まっておろうが!変わらず汚い手を伸ばしてくるな!ついに頭がおかしくなったか……オイやめろ!その手で(オレ)に触るな!触るなと言っている!貴様あれだろう!実は(オレ)に殴られたこと根に持ってるだろう!?」

 

「そんなことないよ!……ただ、ちょっと……別に言葉で言ってくれても良かったのになとか、もう少し加減してくれても良かったなとか思ってるだけで」

 

「絶対それ引きずっておろうが!」

 

 わーぎゃーわーぎゃーと、戦闘中にもかかわらず締まらない空気が流れはじめる。しばらく言い争っていると、エルキドゥが驚いた様子で駆け寄ってきた。

 

「あ、アンヘル!もう大丈夫なのかい!?」

 

「うん、もう平気。王様に殴られたのももう気にしてない()ね。心配してくれてありがとう」

 

「嘘をつけぇ!嘘を!その言い方、絶対気にしておろう!あっ、おい!近づくな下郎!汚れるだろうが!」

 

 またしてもじゃれつき始めた二人をエルキドゥがなんとか仲裁する、完全にいつもの流れになってしまった。しかし思い返してみれば、最近は忙しすぎてこんなやり取りすらできていなかった。実際は一週間程度でも、エルキドゥにはこの瞬間がまるで数ヶ月ぶりのように感じたのだ。

 

「……おっと、相手さん起き上がってきたよ。……どうする?」

 

 自分を相手にそんな弛緩した空気は許さない、と激昂するようにフンババが歪な声で(いなな)く。さすがというべきか、傷口は跡形もなく塞がっていた。

 

 今までのアンヘルなら尻餅をついた末に漏らしてもおかしくない迫力だが、不思議と、アンヘルに恐怖はなかった。絶対に勝てる、そんな確信がある。

 

「……アンヘル(・・・・)。奴の攻撃を防げるか?ほんのわずかな間で良い」

 

 アンヘルはフンババの攻撃を一度だけ見ていた。自分の背丈の十倍はある木を平然となぎ倒す程の腕力。空高く飛び立つ脚力。全てが桁外れの性能を持っている。

 

 ……たが、だからどうした。両親の苦難にしてみればこんなもの、困難と呼ぶのすら烏滸がましい。

 

 

「……おいおい、英雄王ともあろう者の頼みが拍子抜けだね!ひとときと言わず、半刻ぐらいもたせてあげるよ!」

 

 啖呵を切ったアンヘルに、英雄王の口角がニヤリと上がった。

 

「フハハハ!!よい!それでこそが真の(オレ)の臣下よ!ならば宣言通り半刻!防ぎ切ってみせよ!」

 

 英雄王の高らかな笑い声が、二回戦開始の合図となった。

 

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 再び、ギルガメッシュを狙って森の恐怖が動き出す。醜悪な叫び声を上げながら、音を超える速度で黄金をむさぼり食わんと大口を開ける。

 

「それっ!」

 

 それがどうしたことか。あと数センチというところで、フンババは目に見えない何かに止められてしまった。

 

 空中に浮かぶビットから貼られたバリア。隔絶すべき絶望壁(クリフ・アイソラレータ)から派生した盾が、フンババの行く末を阻む。

 

「繝輔じ繧ア繝ォ繝頑?縺玖?」

 

 それが壁のようなものであることを理解したフンババは、即座にルートを変更する。先にエルキドゥを襲うように見せかけ、木を利用してギルガメッシュを空から急襲する作戦だ。

 

「よいせっと」

 

 が、それすらも阻まれる。ほぼ完璧なタイミングでバリアが解除されたのだ。フンババがバリアを足場にしようと力を込めたその一瞬。もっとも態勢が崩れやすい場面で、バリアはその質量を失った。

 

「縺ゥ縺?>縺?%縺ィ縺?縺ェ縺ォオキ縺薙▲縺」

 

 恐怖の象徴は、惨めに地面へ崩れ落ちた。その隙にエルキドゥの土の槍がフンババを貫かんと押し迫るが、フンババの体液がそれを躱した。

 

「蜈医↓螂エ縺九i陦後¥剛」

 

 即座にフンババは次の策を練った。さまざまな選択肢の中で最も最善と思われる行動を模索する。

 

「縺薙?縺上a縺オ縺サ繧√m」

 

 フンババが出した結論は、全力の前方跳躍だった。最短ルートでギルガメッシュとの距離を詰め、秒殺してから残りの二人を殺す。

 

「残念、行き止まり」

 

 しかし、それも上から封殺される。フンババが飛んだ先には、バリア。それも、ビットの腹が見える薄い部分が迫っていた。

 

「繧??縺ィ繧九%繧?繧峨f縺サ!?」

 

 戦闘が始まってから三度目に、フンババがダメージらしきダメージを負った。例えるなら、鉄棒に全力でその身を突撃させたのだ。自身のスピードと巨大な質量も相まって、フンババが憤怒するのには充分な負傷を負った。

 

「…っ痛っぅ…ちょっと響く…。でもまぁ、王様の手ほど、痛くはないかな」

 

「縺ッ縺ゅ&縺ッ縺セ縲√?縺セ縺ク繧峨◆!」

 

 フンババは、一度ギルガメッシュを諦め、アンヘルを狙う方針をとった。動きが読まれないよう、ギルガメッシュを狙うふりをしてアンヘルへと距離を詰めて……

 

「縺輔?繧上◆縺ェ繧峨i縺セ?」

 

 一気に飛びついた、筈だった。バリアの展開速度は見た。事前に予知でもしていないと、防御は不可能なはず……

 

「ごめんね、そういうの(・・・・・)わかるんだ」

 

 何故か、アンヘルはフンババの思考を読んでいるかのようにバリアを張っていた。フンババ全力の体当たりでバリアが一枚破れたが、それだけ。フンババが視認できる限り、層は五枚以上重なっていた。

 

「^縺昴↑縺ィ繧峨m繧峨◆繧」

 

「あ、割れちゃった。まぁ、いいか」

 

 フンババが力を込めて拳を振るえば、バリアを破壊することはできた。しかし、それだけだ。どれだけバリアを叩き割ろうと、次の瞬間には次のバリアが待っている。それを壊している間に先ほど割ったバリアは再生し、また同じ枚数に戻った。

 

「縺薙∪繧九⊇縺溘?繧九≠繧峨♀」

 

「……乱暴だね。いいよ。……好きなだけ、絶望してって」

 

 何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も、数十、数百もの装甲を叩き割った。

 

 たまには角度を変えて、たまには速度を変えて。フェイントを交えつつ、様々な方向から、角度で、打ち込んだはずだ。

 

「よいしょっと」

 

 その一言で……潰される。完璧な角度、時間、広さで、悉くの攻撃は無力化された。狙いをギルガメッシュやエルキドゥに変えても、面ではなく線と化したバリアに、利用しようとした瞬間に消えるバリアに、そして何層にも分かれた破れないバリアに、幾度となく攻撃は防がれる。

 

「縺昴♀繧?f縺ィ繧峨≠繧!!」

 

 もう、それは恐怖になっていた。自分の怯えをかき消すための雄叫び、強がりと化した単なる大声は、もう誰にも恐怖を与えてなどいない。ただ自分を奮い立たせるための鳴き声だ。

 

「さて、そろそろ、時間だね」

 

 途端に、フンババを取り巻いていた空気が静まりかえった。何かが。何かが、今までとは違う。そんな名状しがたき本能的恐怖が、フンババを襲っていた。

 

「縺溘%繧?◆縺ク縺滂シ溘m……!?」

 

「……ふぅ、やっと刺さった」

 

 もう、森の主人ですらない、ただ子供に弄ばれた蛙が、そこにいた。全身を内側から貫かれ(・・・・・・・・・・)、モズの早贄のように、地面から伸びる鎖によって空中で留められていた。

 

「……ほんっと、エルはどうかと思う」

 

「そうかい?弱いところを狙うのは、戦闘の基本だろう」

 

 エルキドゥは、ずっと模索していた。体の表面は粘液で満たされていても、例えばアンヘルの攻撃が目玉に刺さったように、弱い点は存在するのではないか、と。

 

 勿論、もう片方の目や口は常にフンババも警戒していた。だからこそ、土を操って探した。自分が貫ける場所を。何度も何度も。結果───

 

「いやはや。まさか、肛門に粘液がないとは恐れ入る」

 

「そういう、わざわざ口に出すところだよ……」

 

「しかし、排泄孔だよ。一番ヌルヌルしてそうじゃないか。僕には無いから知識がないのだけれど」

 

「は?喧嘩なら買うよ?初対面のアレ忘れてないだろうね?」

 

 まさかの弱点から全身串刺しだった。どれだけ硬い体を持っていても、内側から刺してしまえば関係ない。エルキドゥの鎖は内臓器官を全て抉り回し、根こそぎ捻りとり、そして体外へと飛び出したのだった。

 

「……相手が悪かったよね、ホント」

 

 ぐちゅり、と。フンババの体が音を立てた。

 

 それはフンババが死んだ音ではない。寧ろ、本体(・・)の現れる兆候のようなものだった。

 

 エルキドゥの鎖が、一斉に崩壊を始めた。それと同時に、フンババの体の変化も、速やかに行われる。

 

 骨格が、色が、そして肉体の材質さえも変化していく。気味の悪い白だった色は闇すら飲み込む漆黒へ。カエルのような粘着質な肉はさらに触手のような軟体へ。

 

 手は増え、足すら増え、体長は伸び、新たな巨悪が目を覚ます。

 

「鬮俶ス皮アウ逕溽セ手ォ也キ壽婿髱豬懃ク!!!」

 

 天地開闢から絶え間なく続く生と死の穢れ。

 全生物の怨念の塊。人に害為す大山山河の瘴気。世界の悪という悪を集めたような巨人が、そこに佇んでいた。

 

 手は長く。足も長く。ギョロリと赤い眼球の直径はアンヘルほどで、それが忙しなく動いている。巨大というだけで、その化け物は圧倒的な脅威を誇る。

 

「こんな化け物、踏み潰されたらひとたまりもないね」

 

 至って、エルキドゥとアンヘルは冷静だった。二人して真の姿を見せたフンババの感想を言い合い、どこがいいとかどこが悪いとか批評を進めている。

 

 気に入らない。フンババは、まず二人を踏み殺して戦闘を始めようとした。

 

「ん?あぁ、ごめんね。放置しちゃって。いやさ、そういうの、知ってた(・・・・)から」

 

 知っていた。またその言葉だ。フンババは心底不快になった。そんなもの、まるで、こちらの心境が見透かされているようではないか。

 

「そう、見透かしてるんだ。だから、対策も当然してある」

 

 返答が、帰ってきた。本当に、見透かされている──?

 

 そして、考えても、もう遅かった。策は、既に執行されている。

 

『元素は混ざり』

 

 何故だろうか。フンババはらしくもなく当惑していた。

 

『固まり』

 

 何故。

 

『万象織りなす星を生む!』

 

 自分の体の中から、人の声が聞こえてくるのか──

 

『死して拝せよ!』

 

天地乖離す(エヌマ・)───

 

 

───開闢の星(エリシュ)

 

 

 その日、人類は初めて『森』という場所へ進出した。森の主人フンババは英雄王ギルガメッシュによって討伐され、人類が新たな一歩を踏み出したのだ。

 

 後に、とある天文台が著したギルガメシュ叙事詩にはこう記されることになる。

 

 

(オレ)、流石にあれはフンババが可哀想だと思った』

 

 と。




アンヘル シールダー キャスター(New)
サーヴァントにクラス適正が追加されました

隔絶すべき絶望壁(クリフ・アイソラレータ)

 * ランク:EX
 * 種別:対人宝具
 * レンジ:──
 * 最大捕捉──

アンヘルが宝具を(防衛という面のみで)完全に使いこなした場合。相手の思考を糸として読み、行動を理解した上で、ありとあらゆる場所に、相手の最も嫌であろうタイミングで盾を設置することができる。例え一つ破れたとして、バリアの展開数は十枚以上あるので壊れたところで新しいバリアが展開される。文字通り『まるで世界から隔絶したかのように硬い』バリアが『絶望』するまで貼られ続ける。攻略する場合『アンヘルが気がつかないぐらい高速』か『無心で殺す』か『エア並みの破壊力を持った宝具をポンポン打ちまくる』必要がある。

要するに、無限A●フィールド


次回予告



『エルッッ!』
『大丈夫だ、必ず…!』
『誰も、一人じゃ生きられない』
『ぁぁ…あ゛あ゛あ゛!!』
『みんなッ!友達だッ!!
だから…!そんな寂しいこと、言うなッ!!』


離別




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