我が手には星遺物(誤字にあらず) 作:僕だ!
「希望を与えられ、それを奪われる。その瞬間こそ人は最も美しい顔をする」……そんなファンサービス精神の感じられる美しい顔を見ましたか?
シンフォギアXVよりも全然笑って見てられるからこの作品は「シリアル」。きっと、そのはず。
そして、最近、よく分からないタイミングで日間ランキングの上位らへんにこの作品があったらしく、たくさんの方の目に入ったそうです。ありがとうございます!
うれしさがある反面、クロスオーバー等々、結構人を選ぶ作品だと思っているため、申し訳ない気持ちもあったり無かったり……。
そんなこんなで最新話。
短くまとめようとしたはずが、余裕の一万字越え。いろんな意味でタグが本気を出してきます。……たぶん、きっと、メイビー。
あぁなんだ……?
重い瞼に半ば隠されている視界に見えてるのは、天井。寝かされている……?
薬品の臭いがイヤに鼻につく……病院? いや、
身体を動かそうとする――が、妙に感覚が鈍い。
不可解だけど、この感覚には覚えがある。以前、何かの麻酔だかなんだかを使った処置を受けた後に目ぇ覚ました時も、こんなわっけわかんない感じだったなぁ。
と、上手く動かせない身体をなんとか動かそうとしている中で……ある感触に気付く。
手があった。横たわったあたしの右手を握る手が。
この温かさをあたしは知っている。翼の手だ。……そうだ、昔っから、シンフォギアの適合指数を上げるための実験に付き合って無茶やって倒れたり、LiNKERぶっこんでは薬害を取り除くための処置を受けたり……何かとぶっ倒れてしまうことが多かった。そして、その度によく翼はあたしの手を握ってくれてたんだ。
なんとか、首と視線を動かしてみれば、ベッドわきのイスに座り、ワタシの右手を握ったままベッドの端に頭を預けて寝ている翼が見えた。
……看病か何かしてる間に、寝ちゃったのか?
そういや、昔からここや医務室にはよく世話になってるけど……どうしてあたしはこんなところで寝てるんだ……?
「あっ…………ああっ……!!」
そうだ!
生かされたんだ、葵に。葵自身を糧にして。
不意にあたしの右手を握っていた手に込められた力が少しだけ強くなった。
「ん……はっ!? 奏っ! 目を覚ましたのね!!」
少し身じろぎをした後、バッと跳ねあがるようにして目覚めた翼。
漏れ出していた声で起こしてしまったのかもしれない。
「よかった。全然目を覚まさなかったから、私……! どこか痛んだり、変な感じがするところがあったりしない?」
痛み……?
身体中に鈍い痛みが走っている。
でも、それ以上に自分の手では触れないドコカが痛みやがるんだ……。
「奏? どうし――」
「悪い……ひとりにさせてくれ」
痛む喉から絞り出した言葉は、そんなものだった。
「ぁ……」
何とも言えない、蚊の鳴くような小さな翼の声が聞こえた。
……もっと言うべき事があるような気がする。行動で示すべき部分もあるような気もする――――けど、目を向けることができそうもなかった。
燃え滾る復讐心や、装者としての務めとかも……でも、そんなことは考えられそうにない。「死に物狂いでも、あたしには何もできない、何も守れない」そんな無気力感に包み込まれてしまって、どこかどうでもよく思えてしまってる。
こんなの、葵が命を張ってまで救ったこの命に申し訳が立たないこともわかってるけど……本当にあたしのどこからも力が湧いて来やしなかった。
あたしのどうしようもない弱さを見せてしまっている事への情けなさや、心の奥底にある申し訳なさがモヤモヤとして、翼の顔が見れそうになく顔を
と、そんな時、扉の開閉音が聞こえてきた。
「様子はどうだっと。起きていたか、奏」
入ってきたのはどうやら弦十郎の旦那らしい。
旦那は「調子は……聞くまでも無い、か」と、
「奏に
「ううん、ついさっき起きたばっかりで、とてもじゃないけれどそんな話には……それに、奏がひとりにして欲しいって……」
翼の言葉に弦十郎の旦那が「そうか」と短く返事をしたのが聞こえた。けど、素直に出て行ってくれるわけではないみたいで、背けたままの視線を動かさなくてもそこにまだ居るのが気配でわかった。
「地響きから始まった一連の出来事に関しては、翼から報告を受けた。立場的にも個人的にも、俺から言ってやるべきことはあるだろう……が、それより優先してお前に話しておくべきことがある」
「……なんだよ」
「葵のことだ」
「んなことに、これ以上何があるって言うんだよ。葵は、葵は……あたしを庇って……! あたしのせいで――」
「
喋ってたあたしの言葉を遮るように言った旦那の一言は、確かにあたしの耳に入ったはずなのに全然理解できなかった。
わけがわかんなかったあたしは、つい弦十郎の旦那のいるほうに顔を向けてしまっていた。そこで、旦那の額や腕とかに包帯が巻かれていることをようやく知る……けれど、今はそれどころじゃあない。
「どういう……ことだよ」
「先にも言ったように、葵君がライブ会場でどうなったかは翼から聞いた。だが、今、細胞……その遺伝子レベルで葵くんと同一人物である少女が、ココに収容されている。その一致率は99.9%、指紋や虹彩などといった他のあらゆるデータでも調べたが、葵くんのものとほぼ完全に一致していた」
その内容は、信じ難いものだった。色々とツッコミどころがあるというか、どうしてそんなことになってるかとか……いや、それ以上にその少女とやらの話がどうしてもあたしの頭から離れない。
そんなに一致する人物が、本人以外に果たしているだろうか? けれど、葵は確かにあの時……あたし達の目の前で消えたはずだ。なら、どうしてその葵がここにいるんだ?
「ライブ会場での出来事の正確な時間が記録できなかったことと、エネルギー反応の観測システムが正常に機能していなかったこともあって、当時の状況は詳細には判明していないが……ライブ会場にて葵君が消失したその直後、本部の真上に位置する「リディアン音楽院」にその少女は現れた。今現在の状態で調べられる限りの事柄では、その少女が葵君であることはほぼ間違い無いという判断がされている。あとは未だに戻っていない意識が回復してから本人に確認が取れるかどうか……」
そうだ、あたしの「絶唱」の負荷を肩代わりした――
この二つを繋ぐもの……それは、もしかして……
そんなあたしの推測を肯定することを、弦十郎の旦那が言うのだった。
「詳細は、今もなお了子くんが調査しているが……現段階では
あのライブ以前はノイズに効力が見られなかった完全聖遺物の杖。それが持つ能力が……?
その可能性は十分にあるとは思う。なぜなら、聖遺物――特に完全聖遺物というものはその逸話や伝説に準じたチカラを持っているそうだ。そもそもの数が少ないんだけど、特機部二が保有してるって言う「デュランダル」なんかはその少ない実例……とかなんとかいう話を、前に了子さんから聞いた気がする。
あぁ、そんなことより、今は……
「なぁ、旦那……そいつに会わせてくれないか? 葵かどうか、あたしが……あたしが確かめたい」
あたしの申し出に、弦十郎の旦那はあたしの顔を数秒見つめ返した後……「はぁ……」とため息を吐いてから頷いた。
「……わかった。翼、すまないが手を貸してくれ」
「あたしから言っといてなんだけど……いいのかよ?」
「ダメだと言ったところで、今のお前は
―――――――――
あたしはどこからか用意された車イスに座らされた。
大袈裟だって言ったんだけど、そんなあたしの意見は却下されて半ば無理矢理乗せられた。
車イスに腰掛けさせられて着いた先は、あたしがいたのとは別の医務室。聖遺物の研究室のそばに備え付けられた場所だった。あたしも、以前に実験後の応急処置の時なんかに利用したことがある。
その部屋のベッドに検査衣で寝かされていたのは、出会ってからというもの、毎日のように一緒に過ごしてきたのと瓜二つの……いいや、何一つ変わりの無い、青く長い髪の女の子――葵だった。
「見ての通り、特にこれと言った外傷も無い。奏や翼どころか、俺よりもよっぽど健康体だ」
旦那の話を聞きながら、車イスを押してくれている翼に頼んで葵の眠るベッドへと寄せてもらう。
身体が痛むのも構わず、あたしは横たわる葵の顔へとゆっくりと右手を伸ばす。
そして――――触れた。触れることができた。あの時、伸ばしても届かなかった手が。二度と触れることはできないと思っていた
そこに
「…………っ」
「葵?」
「今、確かに……!」
ああ、確かに動いた。翼が言うように、あたしがなでた手に反応するかのように、ピクリッと動いたんだ。
あたしと翼だけでなく弦十郎の旦那も固唾を飲んで見守る中、徐々に持ち上げられていく瞼の奥には、焦点はまだ定まっていないようだがあの時のような――夕暮れのライブ会場で見たような――光の無い目ではなく、あたしの見知った
「おいっ、葵。あたしのことわかるか?」
あたしの声に葵の首がゆっくりと動き、こっちを向いた。
そしてちいさな口が、その唇が動いた。
「……『
目をパチクリとさせながら葵が言ったのは、そんな一言だった。
「誰が男らしいっていうんだよ、このっ」
あたしを誰かと見間違えたのか、それとも
そんな考えを自分の中で紛らわせるために、あたしは多少乱暴になりながらもその頭を、髪をワシャワシャとなでつけた。
葵はと言えば、ワタシの方へと手を伸ばして来て……それを止めた。
……?
それがなんなのかはわからないけど、あたしは葵の頭をなでていた手を離して、それをそのまま伸ばされた葵の手へと持って行く――――が、その途中でまた葵の口が動いた。
「『彼女は
「「「えっ?」」」
あたし達の声が重なった。
視線の先の葵はその声に驚いたのか、目をまん丸に見開く。
いやそれだけじゃない。まるで慌てたかのようにベッドから上半身を起き上がらせた。その顔は……青くなっていってることに、今更気づく。
「『冗談は顔だけにしとけ!』」
葵がまたベッドの上でガタガタと動き出し……枕元のベッドと接していた壁に手を付けた。
そして、葵が放った言葉に呆然としてるあたし達の前で葵は――――
ガンガンと壁に頭を打ち付けだした。
……? …………!?
「あ、あおいぃっ! なにしてん……ぐあっ!?」
葵の奇行を止めようとして立ち上がろうとして、あたしは足元から崩れ落ち葵が寝ていたベッドへと半ば倒れ込んだ。自分が思っている以上にあたしの身体はボロボロのようで、立ち上がる事すらままならなかったようで……いやっ! あたしのことより、葵はっ!?
「『出た! シャークさんのマジックコンボだ!』」
頭を壁に打ち付けながら、そんなわけのわかんねぇことを……!
「奏っ!」
「落ち着けっ! くっ、思った以上に力が……強い!」
崩れ落ちたあたしにかけより助け上げてくれる翼。
そして、弦十郎の旦那が葵を羽交い締めにして奇行を止めてくれていた。けど、葵は旦那の腕の中で暴れ続けている。
「『表出ろ、この野郎!!』」
と、そんな時だ。
隣の聖遺物の研究室の方から誰かがやって来た。
「なんだか騒がしいけど……どうしたのー? せっかくの機会なんだから聖遺物のほうに集中したいのに~」
「了子君、いいところに!」
葵を羽交い締めにしている弦十郎の旦那が、入ってきた了子さんに加勢を頼む――――その前に。
「『ドクター、鎮静剤を! 早く!』」
葵が、そんな事を言った。
「この子、自分の状況よくわかってるみたいだし、案外大丈夫なんじゃ……?」
「了子君!?」
「了子さん!?」
「櫻井女史!?」
―――――――――
弦十郎の旦那が葵を押さえつけている間に了子さんが何かの薬を投与し……眠るように徐々に大人しくなっていき瞼を閉じた葵。
意識を失った葵を再びベッドに寝かした後にまた自傷行為にはしらないように「念のためだ」と難しい顔して拘束具を付ける旦那と、ベッドの上の葵の身体を触ったりして何かを確かめるように調べる了子さん。
一通り終えたふたりは、隣の研究室で待たされていたあたし達のそばまで来た。
「呪いが強まった……? いや、逆にこの子の何かが弱まった?」
「櫻井女史? それで、葵の容体は?」
「え、ああっ! そこだけど……やっぱり根本的な原因はつきとめられそうにないわ。いくつかの要素から推測は出来るんだけど、逆に言えばそれだけよ」
「何でもいいっ!葵はどうしちまっ――ゴホッ!!」
「かなでっ!」
「落ち着け、奏。お前の身体も万全じゃないんだ――」
「はぁはぁ! …これが、落ち着いてられっかよ……! エフッ…」
翼に背中をさすられながらも、そっちは気に留めずに了子さんや旦那の方を見る。それはもう睨み付けているのと同じようなモノだったと自分でもわかってる。けど、そんな事はどうでもよかった。
「おそらくは「完全聖遺物」の代償もしくはその負荷による身体への影響でしょうね。「蘇生能力」なのか「身代わり能力」、はたまたその二つの併用か……そう考えるのが妥当じゃないかしら?」
あたしの視線は特に気にした様子も無く、いつもの調子で語り始める了子さん。
それが少し頭にキはしたが、その内容があたしには無視できないモノだった。
「
「前例?」
「憶えているか? 葵と初めて会った時のことを……いや、彼女は意識が無かったから「会った」というのは不適格か? ともかく、皆神山の発掘跡地近くで巨大なエネルギー反応があり、ノイズの可能性も考え急遽奏と翼を向かわせたあの時だ。その時の葵くんの見た目を……服装を憶えているか?」
あの時……当然、覚えている。
最初旦那は翼だけに行かせようとしてた。あたしの過去を考えての判断だったんだろう。まあ、結局はあたしの耳に入ってあたしのほうから一緒について行くように申し出たんだったか。思うところはもちろんあったけど、翼一人に行かせるのは不安だったからな。
その時の葵の服装……?
確か、かなり短めの筒状のスカートに、ほぼ帯の1枚布で胸あたりを隠し、腕にふりそでみたいな変に長い袖が着いていて……そして、全体的にこのご時世に見かけないような、かといってどこか外国の民族衣装でもない、なんとも言えない不思議なデザインの格好だったと記憶にあるな……。
けど、それがどうかしたんだろうか?
「今回「リディアン音楽院」にて発見された際にも
「前々から言ってたじゃない? あの子が全然お喋りしない理由……それがあの
了子さんにそこまで言われて、あたしも二人が言いたいことがなんとなくわかった。
あたしが理解したことが分かったのか、旦那は一回大きく頷いてからまたしゃべり出した。
「
「そしてさっきの自傷行為は、今回の出来事にそれらを含めたストレスから……というよりは、問題になってた言語能力の不備に起因してるんだと思うわ。きっとこの子の思考自体は正常なまま、だからこそ自分の異常に気づいて苦しんでるのよ……いっそのこと頭の中までおかしくなれてたら――」
「了子君」
「あ、あらっごめんなさーい。不謹慎よね、さすがに」
重たい空気があたし達の間に流れる中、まじめな顔をした了子さんが改めて口を開いた。
「原因を特定できないからなおのことなんだけど、今後また蘇生能力とか聖遺物の能力を使った場合にあの子の身に何が起こるかは……誰にもわからないわ」
―――――――――
「あたしのせいだ」
自分のいた医務室へ戻された後、ひとりになってからまた葵のいる部屋へと車イスを使って自力で来ていた。
そして、眠りについている葵の前で、ひとり懺悔のように語りかける。
「あたしが強ければ……いや、いつも通りに戦えているだけでよかったはずなんだ……」
どうしてあんなことになってしまったのか……それは、きっとあたしが葵のことを「あたしが守ってあげなきゃいけない存在」だと自分で勝手に決めつけていたからだ。だから、あたしの前で戦いだした葵にあんなにも唖然としてしまったんだ。
「あの時、あたしが唖然としてなけりゃ――一緒に戦ってれば、あの子も、葵も傷つかなかったんだ!」
そうだ。そのせいで民間人の女の子にあろう事かあたしのギアで傷を負わせてしまい、最終的に葵を死まで追い詰めてしまった。
あれさえなければ、変にダメージを受けることも、時間でギアの出力が下がっちまうこともなかった。だったら、残って居たあのくらいのノイズは倒せていたはずだ。そこに翼と葵がいたのだから、なおのこと。
「ごめん……葵は頑張ったのに、一歩踏み出したのに! あたしのせいでその道を塞いじまったっ、踏みにじってしまったんだ! 本当に、ごめんなぁ……!!」
強く、強くなろう。
身も、心も、今度こそこんな思いを二度としないように……!!
―――――――――
「私のせいだ」
部屋の奥から聞こえる奏の嗚咽を廊下で聞きながら、私は小さく呟いた。
「私が弱かったから……それは、葵にすら理解されていたんだ……!」
危機に駆けつけた葵は、奏を一瞥しただけですぐに私の方へと来てしまった。それも、大型ノイズのうち1体にとどめを刺す事も忘れて。
それは、私がノイズ達に押されていたから――少女を守って戦う奏よりも危険な状態だと判断されてしまったからだ。
「
あの戦いのさなか、私の頭の中に「絶唱」という選択肢が無かったわけじゃ無い。
けれど、私はそれを否定した。「また、奏と一緒に歌いたい。いつか、葵と一緒に歌いたい」その気持ちが、装者への負荷を考慮しない危険を伴った「絶唱」の使用をためらわせたのだ。
「我が身かわいさで……そんなもので、私は奏に十字架を背負わせて……っ!!」
そう。私の選択は、逆に私にとって大切なものを失いかねない結果に結びついてしまったのだ。奇跡的にふたりは死にはしなかった……しかし! 大きな傷を与えてしまったのは紛れもない事実!!
そして私は、ただ守られていただけだ!
私は剣……私が
私がやらずに誰がやる!
私は、強く……強くならねばならんのだ!!
―――――――――
「いいんですか、司令? 特に奏さん、彼女自身絶対安静にすべき状態です」
葵くんの寝る医務室、それが奥にある扉の前にいる翼を廊下の曲がり角の陰から様子を見ていた。そんな俺のすぐそばに、いつの間にか緒川がいた。
「いや、ふたりには少しの間時間が必要だろう。そのためにも、ここは下手に手出しはできん。……しかし、俺がこうやって見守り続けておくわけにもいかんか」
「今現在の特機部二は、かなり危うい状況におかれてますから」
ライブ会場で起きた出来事はもちろんだが、その裏で起きていたことも……「完全聖遺物」である「ネフシュタンの鎧」の紛失。
影も形も、カケラさえも残っていないことから、実験の際に過負荷によって破壊されてしまったとは考え辛い。そして、周りの状況、証拠などから「ネフシュタンの鎧」はあの騒ぎに乗じて何者かに盗まれたと考えられる。そこの責任問題や後始末が残っている。
「上からどやされるのも今から頭が痛い。だが、今回のライブ関係の情報操作のほうが数倍手間も気もつかう。それだけ大切なことであるのは確かだ。ついでに、
「一筋縄ではいかない問題ばかり積み上がっていますね」
「これもまた俺たちの仕事だ。緒川は俺がこっちを片付けているあいだ翼たちを見守ってやってくれ」
「はい、特機部二の一員として。そして、マネージャーとしても……」
―――――――――
――リースのせいだ。
夜になったのだろうか? 誰もいなくなった部屋のベッドで寝転ぶワタシが出した答えがコレだ。
どれもこれも、諸悪の根源は《星杯の妖精リース》であることに疑いは無い。
薄まった意識の中で周りの会話が断片的にではあるが聞こえてきて……ワタシは一人、心の中で「いや、そうじゃない」とツッコミを入れ続けていた。
曰く、「セイイブツによる身代わりの負荷で脳がやられた」。
曰く、「セイイブツによる蘇生の副作用で言語能力に異常が出た」。
曰く、「しかし、櫻井氏が言うには精神面は真っ当なままでそれ故にストレスフルで奇行に走るらしい」。
だから、そうじゃない。……そうだけど、そうじゃない。
まず、
そう、《星杯神楽イヴ》の持つ効果である。
《星杯神楽イヴ》
水属属性・リンク2(左/右)*1・魔法使い族・効果モンスター
①:リンク状態*2のこのカードは戦闘・効果では破壊されず、相手の効果の対象にならない。
②:このカードのリンク先のモンスターが効果で破壊される場合、代わりにこのカードを墓地に送る事ができる。
③:このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。手札から「星杯」モンスター1体を特殊召喚する。
対ノイズに効果があるかもしれないと考えたのは、この①の能力だった。
ノイズの「攻撃対象にならない」効果によってこちらの攻撃が通らずとも、向こうからの攻撃は受け止め「攻撃した時、自身と相手を破壊する」効果を《
実際は、生き残りどころかカナデとツバサが一緒に戦ってくれてたし、何故かノイズへの攻撃は普通に通ったので、何とも言えないのだが……「攻撃対象にならない」効果は何かしらの発動条件もしくはコストがあったのだろうか?
そして、あのライブ会場で
まず②による「破壊の身代わり」効果によって、無茶をして死ぬところだったカナデの代わりに、ワタシが
まあ、正直に言うと②の効果を使おうと思ったりはしていなかった――が、おそらくは「カナデに死んでほしくない」と言うワタシの意思によって発動されたのだろう。尤も、先程会ったカナデがボロボロだったことを考えると身代わりとして引き受けられるのはあくまで
しかし、カナデたち人間へのダメージが、モンスターに対するダメージなのか
そして、
それ以前に今のワタシは《星杯を戴く巫女》であっても別の同名カードというわけなのだが……いや、それを言ったら《星杯を戴く巫女》から《星杯神楽イヴ》になった時点で別カードになって元々の《星杯を戴く巫女》は墓地にいっているんだし、情報が少ない事もあって深く考えたところで現時点では無意味なのかもしれない。
……というか、だ。コレってもしかして、ワタシ自身が《
しかし、本当に考えるべきことが増えてしまった。
最初、兄や幼馴染、幼竜、そして妖精に怯えて存在を探っていたが、下手すると
確かめる方法は……《星杯神楽イヴ》になってもう一回墓地送りになってみる、とか?
うーん、それは気が進まない。
もしも手札に《星杯に誘われし者》や《星杯に選ばれし者》がいないどころか《
いや、今語るべきことはそこから少々ズレてしまっている。
重要なのはワタシが直面している問題だ。
ワタシ自身でもわかっている。思ったように喋れない……否、
そう、先程目覚めたら医務室で、目の前にカナデが、その周りにはツバサやゲンジュウロウさんがいたあの時を例にしよう。
(カナデ? 生きてるのか!?)
「……『
(へっ?
「『彼女は
(ひぇっ!? 今、腕が動いてカナデのお腹なぐりそうになった! あぶなっ!?)
「『冗談は顔だけにしとけ!』」*5
(カナデに言ってるんじゃないよ!? そんなショック受けた顔しないで!)
「『出た! シャークさんのマジックコンボだ!』」*6
(この頭がいけないのか!? この頭かぁ!! 止めるなぁ!!)
「『表出ろ、この野郎!!』」*7
(ああああああ!? 何でけんか腰!? いっそころして!!)
「『ドクター! 鎮静剤を、早く!』」*8
パニック状態とはいえ、我ながら「キャラ崩壊」レベルのヒドイ慌てっぷりである。しかたないね、ワタシは
とにかく、これは《
話を戻そう。
この異常を周りの人たちは「
この異常、正確には、《星遺物―『星杯』》を――そのチカラを手に入れてからなってしまっているのだ。
それに気づいたのは……実は意識を失う本当に寸前のことだった。
それまでにも「ん?」と首をかしげてしまいそうになることもあったが、大体合っていたし目の前のことに精一杯でそこまで気にするヒマも無かったから軽く流してしまっていた。
そして、気付かざるをえなかったのは、あの時――カナデが死にかけ、涙で視界がぼやけたかと思った後――目の前が真っ暗になった後だ。
(何で真っ暗に!? ってか、身体中痛い!!)
「『城之内くん、大好きだ』」*9
……? ワタシは何を言ってるんだ?
アレだよ? そのセリフ自体は嫌いじゃないよ? あのシーン、遊戯王の中でも屈指の名シーンだとワタシは思っているし。……一部から特殊な扱い受けてるセリフだけど、普通にこれまでの積み重ねとか一言では言い表せない二人の「YU-JYO」がステキな
だが、しかし……何故ワタシが
その後、目覚めてからより一層わけのわからないこと言いだしたこのちびっ子ボディにワタシは混乱したわけだが。
投与されたのだろうお薬の影響がまだ残っているのか、イヤに冷静になっている頭で考えて、ようやくワタシは
「『当然だろ? デュエリストなら』」
いや、その理屈はおかしい――というか、やっぱりおかしいぞ、ワタシのお口は。
ああ、何がわかったかといえば――――
――リースのせいだ。
そう、これが最初の考えへと繋がるのだ。
会った事も無いのに《星杯の妖精リース》のせいにするのは流石におかしい? それは違う、ちゃんとその考えに行きついた理由があるのだ。
《星遺物―『星杯』》とそのチカラを手に入れて、思ったこととは全然違う「遊戯王
……よく考えてほしい。するとわかるはずだ。そうじゃないんだと。
《星遺物―『星杯』》とそのチカラを手に入れて、思ったこととは全然違うが「遊戯王
つまりこれは「異常な状態になった」のではなく「異常な状態が一段階改善された」のだ。
そして、その鍵となったのが
リース「わたしがいなくても、ちゃーんと7つの星遺物を巡って起動させてくださいねー? じゃなきゃ、アナタはずーっとこのままお喋りできませーんwww」
ワタシの脳内に、そんな声が聞こえてきた気がした。
結局のところ、この状況は《星杯の妖精リース》によって仕組まれた結果であるということだ。
でも、どうしたものか……?
私生活とかその辺りの環境の整備はカナデやゲンジュウロウさん、トッキブツの人たちにおんぶにだっこなワタシが旅をしてまわるなんて無理な話だしなぁ……。これからすぐにでも出来そうなことといえば、
リースのせいでワタシが夢見た平穏な暮らしなんて影も形も無くなりそうだ。なんてことしてくれたんだよ、奴は。
「『絶対に許さねぇぞ、ドン・サウザンドォォォォォッ!!』」*10*11
あっ、流石に今回はドンさん関係無いです。
次回は、原作1話のあのあたりまでの、細かい話を数回に分けて短期間で更新できたらなーと思っております。
こらっ、そこ「どうせ、また長くなる」とか言わない! 「僕だ!」が一番そう思ってるんですからね!?