我が手には星遺物(誤字にあらず) 作:僕だ!
「あるモノ」に関する前後編の前編のようなお話です。
初めてのNINJAさん視点で書いたのですが、正直これでいいのか不安だったりします。
そして、書くのが遅くなるのは大体「シンフォギア要素」と「遊戯王要素」とをすりあわせようとして、さじ加減の調整に四苦八苦するお話の時だと気づいた今日この頃。
「というわけでー……皆神山に行くわよ、おちびちゃん♪」
「「「はぁ!?」」」
葵さんが翼さんと暮らすようになってから数日たったある日。特機部二の司令室にて了子さんが唐突の発言に視線が集中しました。
ただし、葵さんだけは大きく頷きます。
「『進路をアルカトラズに取れ! 全速前進
「何言ってるんだよ了子さん!? それも、よりにもよってあそこに……」
「葵、あるかとらずなんて名前の場所は長野県には無いはずよ。家に帰ったら一緒に地図で見てみましょう?」
「また唐突に……おつかいの時も大概だったか。あの時に比べれば、実行する前にこうして話してくれているだけマシなのか。
「ねぇ? 私が言うのもアレだけど……翼ちゃん以外の2人、この子の言ってることスルーし過ぎじゃないかしら?」
了子さんが言っていることは尤もなんですが、翼さんも翼さんで正面から受け取りすぎだと思いますよ……。
一緒に生活しているためか葵さんの謎発言を真面目に受け止めるようになってしまいました。
……翼さんはもともと真っ直ぐな性格ですし、加えて天然な部分がありましたから、それらが変に作用してしまったんでしょう。個人的には心配ではありましたが、葵さんとの仲そのものには悪影響は無かった――それどころか、会話が比較的スムーズになった影響か、ふたりの距離は縮まったようにすら感じられました。
しかし――――
「そんなこと言われても、何をいってるのかわからんものはわからんし……なぁ、奏?」
――――と、まぁ風鳴司令がおっしゃるような感想が一般的で、翼さんのは少し特殊なんですけどね。
話をふられた奏さんはといえば、バツの悪そうな顔をして髪をかいています。
「あたしは、その、こんな葵になんて言葉かけたらいいかがいまいちわかんなくてさ……ごめんな、葵」
頭を下げてまで謝罪する奏さん。
対する葵さんは慌てた様子で首を横に振り、それから律儀に一度ピタリと止まってから口を開きます。
「『今はまだ私が動く時ではない』」*2
…………。
「……みんな。参考までに聞きたいんだが、今のはどういう意味かわかるか?」
「んなこと言われたって、あたしもわからないし。あーっと……脈絡ないから、言いたい事とは全く関係無いのかもしんないぞ?」
「けど、前みたいに伝わらなくても自傷行為にはしってないから、案外伝わらなくてもいいことを言ってるのかもしれないわね~」
葵さんの発言に司令や奏さん、了子さんまで大真面目に考えだす……中々に奇妙な光景ではありますね。
しかし、どういう意味か、ですか……「気にしていない」という意味で「動かない」そういう考え方ができなくはないかもしれません。
葵さん本人に聞き確認をすれば、頷いてくれるかもしれません。発言は無理でも、精神面では異常は無いそうですから、YES/NOを仕草で示すことはできるはずです。
「奏たちは、さっきから何を言っているんだろう?」
「『シャケ召喚』」*3
……本当に翼さんは、なぜ葵さんの発言になんの疑問も抱かないんでしょうか?
今度、機会を見てちゃんと話しておいたほうがいいかもしれません。
そして、当初の話からだいぶ逸れてきましたから、このあたりで軌道修正に入るべきでしょう。
「葵さんの意思の確認方法については、ひとまずまたの機会に検証・考察することにしておいて……話を戻しましょう」
先にも考えていたように、葵さんの身に起きている例の現象は頷くなどの動きには影響が出ていないと思われます。そこを元に葵さんに確認を取れば、少なくとも彼女の発言を誤って解釈することは無くなるでしょう。
それについては後にしておくとして、先の了子さんの発言の真意に戻ってもらわなければ。
「意思の確認? よくわかりませんが、葵を長野県の皆神山に連れていくって話でしたよね?」
憶えてくれているのはありがたいんですけど……やはり翼さんには、ここでの話が一段落してから一度お話をしておくべきですね。
「理由はおおよそ予想はつくけど……葵の過去、なんで
「む? 何故わざわざあそこに……? 葵君から聞けばいいのだから、場所ではなく意思疎通の問題ではないのか?」
「長い間一緒に生活してた奏ちゃんはわかってたみたいだけど、この子、昔の記憶は結構曖昧で……。
「なっ!? そんな……そうなの?」
了子さんの言葉に、僕を含めここにいる全員が――特に翼さんが――驚いているようです。
やはりと言うべきか、葵さんが
「『ダメだ、終わったビングだ俺……』」*4
「あはは~……相変わらずねぇ?」
……ただ、葵さんの発言の後の反応からすると、当然ながらと言うべきか理解しているとは言い難いようですが。
「じゃあ、行くのは思い出すヒントを探しにというわけか。俺としても、
「そうですね。葵さんの身の安全確保は勿論ですが、精神面での不安要素も多々あります。しかし……」
僕と目があった風鳴司令が小さく頷きながら「そうも言ってられん、か……」と呟きました。
そう。奏さんや翼さんには伝えていないことがあるのですが、その中のいくつかは今回の件に関わりそうな案件。中には、
もちろんそれら全てをひとまとめに考えることは出来ませんが……この機会を逃さない方が良いものもあるのは事実です。
そして、当然ながら司令や僕以外の皆さんにも
「感覚とか感情のことは今初めて聞いたけど、あたしは元から反対だ。そんなロクでもなさそうな
「その出来事がこの子に……この子の持つ聖遺物に関係するなら、つまりは今後私たちが関わってしまうであろうことよ。それを未知のままにしておくのは危険じゃないかしら?」
奏さんと了子さんがそれぞれの意見を真向からぶつけ合い、睨み合っています。
翼さんは……いつの間にか座って、膝の上に乗せた葵さんの髪で三つ編みの練習をしているようです。……それでいいんでしょうか?
司令も彼女たちを見て同じようなことを思ったんでしょう。「はぁ~」と悩まし気にため息をひとつついてから胸の前で腕を組み、口を開きました。
「奏、了子君、ふたりの意見はどちらも間違ってなどいない。だからこそ、判断が難しいんだが……」
「となると、後は葵さん本人の意思次第ではないでしょうか?」
僕がそう言うと、皆さんの視線は自然と葵さんへと集まっていきます。
その多数の視線を受けながらも、普段と変わらぬ様子で葵さんは話しだしました。
「『自分は――』」
―――――――――
それから数日後、僕はとある駅のホームに来ていました。
電車を待つ列に変装を施して、交じっています。そして、視線の先には同じく列に並んでいる了子さんと葵さんの姿が。
そう。おふたりは長野県の皆神山にある聖遺物発掘現場跡地へと向かっているところです。
その道中、一定の距離を保ちながら護衛するのが僕
そして耳元の小型通信機からは、本部に残っている風鳴司令や「ツヴァイウィング」のおふたりの声が聞こえてきます。
『本当に良かったのかよ、弦十郎の旦那?』
『正直、了子くん発案で葵君が動いて、そのうえ皆神山……これほどまでのフラグがくると、むしろ何も起きない可能性さえ見えてくるな』
『現実を司令の好きなアニメーション映画と一緒にするのはどうかと……』
『冗談だ。葵くんがあそこまで行きたがるとは思わなかったというのが正直なところだな』
確かに、あの指令室での葵さんの発言には少なからず衝撃を受けましたね。
――自分は何者なのか、どこから来たのか、その答えはここにある*6*7
「ここにある」という部分には少しひっかかりはしましたが、風鳴司令を真っ直ぐに見つめているその振舞いからして、葵さんの「行きたい」という意思は本物だというのは疑いようがありませんでした。むしろ、確信めいたものさえあの子の中にはあるのではないかと思えるほどに。
そして、おそらくそれは僕だけでなくあの場にいた皆さんの共通認識だと思います。
『葵のあの様子、言おうとしたことと別の事を言ってしまってるって感じじゃぁ無かったからなぁ……ていうか、行くならせめてあたしが快復してからにして欲しかったんだけど』
『それを言うなら、何故私も同行してはいけなかったんですか? 葵と了子さんでは万が一のノイズへの対応が不十分なのでは?』
小声で「いくら緒川さんたちも陰ながらついているとはいえ……」と不満をもらす翼さんには悪いですが、少々込み入った事情があってのことなので、謝るのはまたの機会ということにしてもらいましょう。
『そこに関しては、少しばかり思うところがあってだな……もちろん、対策もちゃんとしているぞ』
『ワケ有り、ですか……』
『あたしたちとしては、そのワケをちゃんと話して欲しいんだけど……はぁ~』
『すまない。大人の事情というやつで、現段階では話せなくてな』
こちらには音声しか届いてませんが、翼さんと奏さんの不満たっぷりの雰囲気は通信越しでもヒシヒシと感じますね。これは、全員無事に帰れたとしても、結構なお小言を貰ってしまいそうです。
……と、通信先である本部の方に気を取られている内に、時間がきたようですね。
「どうやら、電車が無事到着したようですよ」
『緒川、例のブツは?』
「事前に葵さんの荷物に取り付けてあります」
司令の問いに答えながら、動き出した列の流れに従って進んで行きます。
前のほうにいる了子さんと葵さんが僕よりも一足先に車内へと踏み込まれていますね。……まぁ、ふたりよりもさらに先に別のエージェントが乗り込んでいるので、僕の視界から離れたこのわずかな時間でもよほどの事態でも無い限り問題無いでしょう。
『司令、一体何を葵に?』
『マイクだ。周囲の音を拾い、葵君と周りの人とがする会話を
『いや、それって普通に盗聴じゃん!?』
今回はそんな大規模の作戦というわけではなく、あくまで葵さんが皆神山の発掘現場跡地へと訪問するだけ
奏さんに盗聴と言われたこれも、そんな色々な事情の一つというわけです。
『まあ、そうなるな。あくまで
『みられ方も何も、その通りなような……?』
『それに、緒川の護衛の件もマイクの件も、葵君には話は通している。気にするな』
翼さんからの「そうなんですか?」という問いかけに、不自然にならない程度に短く「ええ」とだけ答えておきます。
そして、自分の座席へと腰を降ろします。
了子さんと葵さんが座っている席の斜め後ろの席で、直接だけではなく座席や室内所々にある金属製の装飾の反射からふたりの表情等を覗き見ることができ、なおかついざという時にすぐに対応できる距離と位置であるので安心です。
「席に着きました。本格的に会話を始めるならここからでしょうね」
『なら、緒川は予定通りに……』
「はい、わかりました」
その通信を受けたちょうどそのすぐ後に、僕の耳には斜め前方向から聞こえてくる小さな声と、マイクが拾った声が通信機越しに聞こえてきました。
もちろん聞こえてきたソレは了子さんと葵さんの会話です。……
「そういえば、おちびちゃんってこういった乗り物も初めてよね? 大丈夫~? 腰抜かしちゃったりしない?」
「『おぉ、こわいこわい』」*8
『あおいーっ!?』
『葵が怖がってるじゃんか! 早く降ろしてあげろよ!』
通信機の向こう側が一気に騒がしくなりました。普段はそれほど感じられませんが、やはり「ツヴァイウィング」のおふたりはあのライブ以前と比べて葵さんに対し過敏になりましたね。
『二人とも落ち着け。声色ではそこまで怯えているようには思えない。となれば、意思とは別の言葉を口走っているだけかもしれん。緒川、どうだ?』
「……いえ、至って普段通りですね。意思の合否はわかりませんが、本当に怖がっているとは考えにくいのでは」
『なら心配いらんだろう』
風鳴司令はそう言い切りましたが、通信機の向こう側はまだ少々騒がしくあります。原因は言わずもがなあのおふたり。こちらからの情報だけでは納得できていないのでしょう。
……多少無理をしてでも、隠しカメラ等を取り付けておいて、本部に映像も送れるようにしていた方が良かったでしょうか?
「ほーらおちびちゃん、さっき売店で買ったカフェオレよ~」
この発言は、自分の好物を貰った子どもの反応……のようにも思えなくもありませんが、やはりと言うべきかどこかおかしいです。
『カフェオレとは、新作ケーキの名前か何かでしょうか?』
『いや。俺たちが知っている「カフェオレ」だと思うが……』
『でも、葵は甘いケーキ類とかが好きだし、カフェオレが好きって意味なら発言としてはそんなに間違いじゃないよな?』
ほら、本部の方でも
データ収集目的とはいえ、そもそも葵さんの発言を真正面から受け止めて解析しようとすること自体が間違いなような気がするんですが……まぁそれは今更な話ですね。
「ふふふっ。あなたは旅になれて無いだろうから、何かあったら遠慮無く言ってちょうだいね? お手洗いも早め早めに、気分が悪くなっても我慢なんてしないで……ああっ、そうね、万が一に備えて酔い止めも今のうちから飲んじゃ――」
「『うるさい
「はぁ?」
僕の気のせいでは無いでしょう。車内の空気が一瞬で冷え切りました。
重圧と言いますか、了子さんの言葉から感じられる威圧感が一気に車内の雰囲気を塗り替えてしまったのです。
僕も、一瞬臨戦態勢に入りかかってしまうほどでした。
『緒川、葵君は……?』
司令に言われ、反射を利用し自分の席から動かず確認した葵さんのその顔は――――
「白目をむいてますね」
『……そうか』
『あー』
『こんな時に、私はそばに居てあげられなくて……!』
出発早々この状況。
もはや僕の頭の中には「前途多難」という言葉しか思い浮かびませんでした……。
了子さんの思惑、司令と緒川さんが隠している事、イヴちゃん(葵)が積極的な理由、皆神山……
伏線っぽいものを仕込めるだけ仕込む。全部回収できるのはいつになるかは「知らん、そんな事は俺の管轄外だ」(作者なのに)。