我が手には星遺物(誤字にあらず) 作:僕だ!
前回に引き続き緒川さん視点と、あと少し弦十郎さん視点でのお話になっています。
つまり……葵ことイヴちゃんが何を考えてるのか全然分からないって事ですね!
葵さんの「
そんな独特の重苦しい空気になった車内から解放されたのは、駅についてからでした。
そこからは公共の機関を活用しながらの移動でしたが、皆神山の山道の途中近くまできたところで徒歩での移動に切り替わります。今現在、聖遺物の発掘現場跡地は正規のルートから外れていますし、人避けのためにあえて車などでは進み辛いような道になっていますので。
さて、そうして皆神山の聖遺物発掘現場跡地を目指し、山道を歩き続けている了子さんと葵さんの様子はといえば……
「異常が起きるにしても、不思議よね。言葉が喋れなくなるっていっても、根本的に声が出なくなるわけでも、声帯の不調で思った通りの
「全く関係の無い事ばっかりを言ってるってわけじゃないみたいだし……何か法則性があるのかしら? 当然、あなたも気になってるでしょう?」
「『だって当然だろ? デュエリストなら』」*3
「ん~? おちびちゃんはあいかわらずみたいだし、深く考えなくてもいいのかしら?」
関係の修復自体は案外簡単なもので――というのも、思った通りに話せないとされている葵さんは今の状況ではどうしようもありませんが、葵さんがそういう状態であると相手がキチンと理解して冷静になれれば――了子さんが戯言だと聞き流せさえすれば、そもそもの性格として至って真っ当な葵さんが実際に口以外で問題を起こすことも無いので、ケンカなどになったりすることはまずありえませんので。
変わって、僕を含めた護衛メンバーは、歩く二人からは極力見えないようにしながらも周囲を付かず離れずの距離で護衛を続けています。……とはいえ、葵さんは気づいていない様子ですが、一方了子さんは歩いている途中で軽く他所へと目を向けてから手を振っているのがみえました。おそらくは、別の護衛の誰かに気付いたんでしょう。司令が事前に護衛を配置するとは伝えていたので驚いたりする様子はありませんね。
「『君の瞳に何が見える?』」*4
「どうしたのよ、いきなり上を指差して……雲……は、今日はあんまり無いし空かしら?」
「『天~~~~~……join!』」*5
「……まぁ、おちびちゃんが楽しそうでなによりだわ」
会話こそ独特ですが、遠足か何かのような軽い足取りで手を繋いで歩く了子さんと葵さんは、親子かそれに近い関係に見えなくもありませんね。
そんな微笑ましさも感じられそうな光景を見守りつつ――――僕は耳元の通信機から聞こえてくる声に意識を傾けます。
『くっ! やはり多少無理を言ってでも、私がついて行くべきではなかったか!?』
ツバサさんは、最初から最後までずっと葵さんの心配ばかりしていますが、時間が経つにつれ徐々に落ち着きが失われつつあります。
普段の乙女らしさのある口調も段々と――いえ、そこに関しては今回だけに限らず「ここ最近」といったほうが正しいかもしれませんが……。
『葵が歩き疲れてたりしない? ちゃんとコマメに水分摂ってるか?』
そう言って僕に確認を取ってくる奏さんは、今回の件に限らずそうですが普段は至って普通
さきの「葵さんが新幹線を怖がっているのではないか?」という時も、一気に取り乱してましたからね。
『ふむ、今度ハイキングにでも連れて行ってみるのもいいかもしれないな。近場にどこか良い場所は無かったか……?』
司令は、まるで休日の行楽の予定を考えるお父さんですね。
緊張感が無いのが少々気にはなりますが……何かが起きると決まったわけではないですから、気を張り詰め過ぎずにほどほどにという意味では決して間違いではないでしょう。
とまぁ、目の前の光景とは打って変わって騒がしさの感じられる
「そろそろ件の聖遺物発掘現場跡地につきます。ここからが本番……ですね?」
『ああ、そうだな。先に警備していた連中にも連絡をまわしておこう。実力行使も有り得るから、気を引きしめておくようにともな』
司令の言った「実力行使」というのは間違いではありませんが、現状僕に与えられた最優先任務はあくまで「
もちろん、そんなことにならずにおふたりが旅を何事も無く無事に終えられるのが一番なのはわかっていますが……何事も無ければ無かったで、
『これがさっき言ってたワケ有りの? 随分と荒っぽい空気ですが、本当に大丈夫なんですか?』
『これって、まるで葵と了子さんが渦中にあるような……まさかっ!
『なっ!?』
一足先に思い至った奏さんの言葉に、おそらくは目を大きく見開き、口もあんぐりと開けてしまっていることでしょう。アーティストの風鳴翼としては人前では見せてはいけない
「奏さん、翼さん、落ち着いてください」
『これが落ち着いてられっかよ! 聖遺物持ってるからって、葵はまだちいせぇ子供なんだぞ!!』
『そうです! 葵に何かあったら……その様子、緒川さんはご存知だったんですね!?』
「もちろんです。
『『なっ!?』』
より一層驚くおふたりに風鳴司令は「緒川にそうするように言ったのは、俺だがな」とわざわざ付け加えて、おふたりの不満の矛先を自分に向けさせるようにしてから話しだします。
『あのライブ以降、葵君が外出した際に
『ただ者じゃないだろ、それ』
「これは、葵さん本人も気づいていたらしく、囮の件と共に話した所すんなりと了承したのもそのためだったようです」
そう。囮の話をした際に僕なりに葵さんとの意思疎通を図りました。
発言は知っての通り意味を持つ言葉だけれど意味不明、字を書こうとすれば絵とも象形文字ともとれそうな線がのたうちまわるばかり。タブレットを使った文字入力もキーボード式、フリック式、音声入力……その他様々に試したのですが、どれもデタラメになってしまうという結果に。
最後に、これまでの経験である程度の意思表示が可能だと判明している
そうして
追跡してくる人がいることに『気付いていた』。その姿を『見た』が『ユラユラ』していた。その人は『たぶん男』。会ったことは『有るような無いような』。
――といった結果となったわけです。
『ユラユラ』というのは葵さんが両腕を広げて波打つ様に動いたからなのですが……遠目だったから曖昧にしかわからないのかと問えば、そうではなく本当にその姿が揺らいで見えたそうです。おそらくは、その追跡者が持っているとされている聖遺物の効果による認識阻害の結果なのでしょう。
そこまでで了承と聞き取りを終えて――のはずだったのですが、ふと以前に葵さんが奏さんと翼さんと共に喫茶店へと行った時の話を思い出しました。
その時、最初に飲み物を頼む際に「ブルーアイズマウンテン」という一杯3000円のコーヒーを選んだあとに「牛乳」に変更した、という話です。
注目すべきは、葵さんが自ら選んだという点。
つまりそこからは「既にある選択肢の中から選ぶことは出来るのではないか?」という仮説が立てられるのです。
結果は、
0~4回……それは葵さんが一つの質問に対する返答の為に
謎の発言と同じく聖遺物の副作用による障害の一部なのか、質問や回答の形式に問題があったのか……はたまた、葵さんの幼さゆえの思考能力の限界からなのか……謎は深まってしまったかもしれません。
なので、この話に関しては葵さんの精神的、肉体的負担も考えて今後何度かに分けて要検証ということになりました。
……とまぁ、そんな意思疎通の実験もありながら確認した
勿論すぐに解決する問題ではありませんでしたが、その時の話し合いもありましてこうして今日、葵さんの過去の一件のついでに囮調査も兼ねることができたのです。
「それで、今日も……」
『ああ。友里と藤尭のふたりが確認をしたが、
司令から名前を出されたオペレーターであるお二方、
ただ、気になる点が少しありますが……。
『これまでにもそんなことが……はっ!? 葵が一人で出歩くことは無かったはず、なら私が一緒にいたときにも……!? 何故、私は気付けなかった!』
『結局危ないことには間違い無いだろ! なんであたしらを……!!』
と、仕方のないこととはいえ、色々と知った「ツヴァイウィング」のおふたりが黙っちゃいられないといわんばかりに騒々しくなってきてしましたが……その対処は今はあちらにお任せしておきましょう。
『心配するな。そのため緒川には葵君の身の安全を最優先で本腰を入れてもらっている。ふたりとも、こちらからの緒川への通信は一旦制限をかけるぞ。緒川……頼んだぞ』
「はい」
もちろんこちらからのコールや緊急時には繋がりますが、ここから僕は一旦目の前のことだけに集中することとなります。
危険性が一気に増すのは、発掘現場跡地に入ってからです。なので、できれば
「さて、今のところは……異常無し。今までの傾向だと第一陣と第二陣の間にいるはずですが……ソレもハズレですか」
皆神山に到着するまでの道のりで確認されたという追跡者。しかし、今現在僕を含めたエージェントたちの中にその姿を確認できた者はいません。
現状であと考えられるのは、
しかし、葵さんが認識できたということを考えるとその線も薄いでしょう。となると――――
「さとられてしまいましたか」
葵さんたちを中心に第一陣、第二陣、第三陣と取り
取り囲んでいるエージェントは互いに見えるギリギリの距離であり物理的に囲いきっているわけではないので、スキを突けばいくらでも外へ逃れることは出来るでしょう。本部が確認した影が現時点でもまだ近くにいる可能性は低いかもしれません。
「この先に王だなんて、そんなピラミッドとか古墳じゃないんだから……しかも、それじゃあ死んじゃってるわね」
っと、ついにおふたりが、坑道のように掘り進め整えられた発掘現場跡地に入ってくようです。
追跡者の尻尾を掴めなかったことは残念ではありますが……今回はそれだけじゃありませんし、切り換えて行きましょう。
そして、その人物がいなくとも、
―――――――――
「「開かずの間」?」
一旦落ち着かせた奏と翼に
俺は「ああ」と頷きながら答え、話を続ける。
「正確にはその先に空間があるかは不明なんだが、皆神山の発掘現場にはそう呼ばれている場所があったんだ」
「空間があるかわからないのに「開かず」とは……いったいどういうことですか?」
当然と言えば当然の疑問に翼は首をかしげている。
「発掘現場である遺跡を形成する石や土、山そのものを形成する岩々……それらどれとも異なる物質の人工物が遺跡のある壁の一部にあってな。発見当時に音波で調査をしたらしいが……全体像は掴みきれず、一部判明した形からして地中深くへと続く通路のようなものの先端らしかったそうだ」
「けど、その通路は閉ざされていたってわけか」
「ああ。さっき言った通り、その通路を形成している
大きな岩盤などという自然物ではなく、表面上にもムラの無い間違い無く人工物であろうソレを形成する物質。金属質なのはほぼ間違い無いが地球上で確認されているどの物質とも異なるモノで、金属同士を掛け合わせた合金でもなく……精密検査をしようにも、全く傷つかないソレからはカケラの採取すらままならず、正体不明の物質のままというわけだ。
「「その壁に沿って掘り進めれば、どこかに入り口が見つかるのではないか?」という意見もあったそうだが……今現在、費用や重要性、危険性など様々な面で問題視されあの発掘現場は凍結、跡地扱いとなったわけだ」
それらの要因の一つには、奏とその家族が巻き込まれたあのノイズ発生の一件も当然入っているが……今わざわざ言うことでもないだろう。
当の奏はそのことに触れることも無く――仮に気づいていても言いはしないだろうが――片眉を跳ね上げて疑問を投げかけてきた。
「でも、なんで今回そんなところの話が出てくるんだ? まさか、葵の記憶に関係あるかもってことだったり?」
「もちろんそれも可能性として考えてはいるが、問題はここ最近この発掘現場跡地に
「謎の人物が……まさか! さっき話に出ていた葵をつけ狙う者と同じ人物だというんですか!?」
「直接的な証拠は無いが、複数回その存在を確認されながらもその正体を認識できないという事態を考えると……葵君の追跡者と同じチカラを使って正体を隠しているというのもおかしい話ではないだろう」
「追跡者」と「皆神山の発掘跡地への侵入者」。確信を持てるような証拠こそないが、今言った姿の隠し方以外にふたつを繋ぐもの……それは他でもない葵君ではないかとも考えられなくもない。となれば、当然気になるのが初めて俺たちの前に姿を現した葵君が、何故この皆神山にいたのかという話になるのだが……。
それ以外にも考えなければならない点はある。
「時に、ふたりは「一瞬で影も形も無くなった遺跡」を知っているか?」
「司令が葵に「トリシューラプリン」を買って帰ったあの日に下見に行っていたあの遺跡ですね」
「ああ……あのライブの日の地響きの原因だったっていう
そう、それはふたりが言うように、俺が以前に下見に行った小山の地表にその一部を覗かせた遺跡であり、「ツヴァイウィング」のライブの日に姿を消し小山が崩壊するに至った遺跡だ。
そこの監視を務めていたエージェントからの目撃談等から「何者かの襲撃によって破壊された」という結論に至ったのだが……それにしたって、それなりの大きさがあったと思われる遺跡の痕跡がまるで残っていないという不可解な事態に、破壊ではない何かが行われたのではないかという憶測までとんでいる、未だに謎の多い事件だ。
それが、今回の件と何の関係があるのかといえば……
「緒川を連れ添った葵君に資料を並べられて指摘されるまで俺も気づかなかったが……
先にも述べたように「開かずの間」を形成する物質の正体は未解明のままだ。だが、残されていた資料に記されていたそれら特徴は、下見にいったあの日に見た遺跡の一部分の材質とが酷似しているように思えたのだ。
しかし、葵君は何故あの資料を……おそらくは了子くん経由で閲覧し手に入れたんだろうが……そのあたりについては、ふたりが帰ってきてから改めて確認する必要があるだろう。
だが、今はひとまず置いておこう。まずは目の前のことだ。
「では、遺跡に侵入していた謎の人物は、ライブの日に遺跡を破壊した襲撃犯とも同一人物である可能性が……?」
「待てよ? それじゃあヘタすりゃ――――」
――――!!――――!!
突如けたたましく鳴り響く警報。
これは……!!
「このパターンは、ノイズです!!」
「場所は……皆神山!?」
警報に続いて緊迫した様子でオペレーターのふたりから伝えられる情報。
当然、指令室の空気が一変する。
「いわんこっちゃねぇ!」
「駆けつけようにも、ここからでは時間が! ……葵は!?」
「聞こえるか、緒川! 例の――――」
不測の事態に直面した場合の対策として
「っ!! 新たなエネルギー反応観測! 位置は……同じく皆神山です!」
「何ぃ!?」
「これって
―――――――――
「まさか、このタイミングで来ますか……」
僕の視線の先には通路を塞ぐかのように現れた人型のノイズ。そう。了子さんと葵さんの護衛の為に、発掘現場跡地に入っていた彼女らに続くようにいこうとした矢先に、ノイズが現れ行く手を塞いだのです。
それだけでなく、発掘現場跡地の周囲を取り囲むように配置されていたエージェントたちが驚いている声が遠くから聞こえてきます。ここだけでなく、遺跡の周囲……皆神山のあちこちで発生しているのかもしれません。
触れた時点でアウトなノイズ。それと通路との隙間を縫って奥に進んだであろうおふたりを追うことは……正直、厳しいですね。
ここはあえて退くことでノイズを跡地の遺跡内部へと続く通路から引っ張り出すくらいしか……。これにはノイズたちが僕ではなく遺跡の奥へと進んだおふたりを目指して動く可能性というリスクもありますが――――僕の目論見通り、ノイズたちは僕を追いかけて通路の外へと出てきてくれました。
と、ちょうどその時、耳元の通信機から風鳴司令の声が聞こえてきました。
『聞こえるか、緒川! 例の――――』
司令が
突如、地鳴りと共に、足元が大きく揺れ始めたのです。
「――――っ!? 地震? いや、これは……!?」
地震による地滑りではなく、比喩でもなんでもなく足元の地面が崩れ始めたのです。
その瞬間を直接見るのは
そう、これはあのライブの日に遺跡を監視していたエージェントの報告にあった「遺跡の襲撃に伴う山の崩壊」。崩れる山の規模に違いはあるでしょうが、その現象に違いないでしょう。
この山で崩れる遺跡といえば、聖遺物発掘現場跡地とそこから「開かずの間」で繋がっているであろう謎の空間。
ならば――――
崩れる山の上で、脚をとられぬよう、倒れる木々に気を付けながら何とかやり過ごし……ほんの一分足らずで
見渡すとみえるのは、山だったとは思えない岩や石がゴロゴロと転がっていて草木が乱雑に倒れている光景。そこには僕と同じく無事だったエージェント複数人の他に倒れた木の下敷きになってもがいているエージェントも見受けられました。
先程まであちこちにいたはずのノイズが何故かいませんが、今は幸運だということにして救助を優先すべき――――
――――そうだ! 中に入った了子さんと葵さんは!?
そう頭に思い浮かぶと同時に入り口があったあたりへと駆け寄る。……が、当然、入り口もその先の通路も影も形も無くなってしまってます。
「絶望的」そうとしか言い表せない状況に、思考が一瞬止まり……その耳に小さな爆発音が聞こえ、反射的にそちらへと向き直ります。
砂煙を噴きあげながら岩々が砕け数メートル上空へ打ち上げられる。そこから続くように飛び出してきた
報告にあった服と鎧を纏い、見慣れた杖を片手にもう反対には了子さんのことをしっかりと掴んだ葵さんが地面から飛び出してきた。
無事着地した葵さん。どうやら怪我はなさそうで――――
――――言っていることは、深く考えなくていいでしょう。とりあえず、今は……。
―――――――――
「「葵っ!!」」
また長い旅路を終えて帰りついた地下の特機部二本部。
帰って真っ先に、跳びつくように葵さんにひっついた奏さんと翼さんは、「怖かったよな、もう大丈夫だ!」「怪我は無い?」などと言いながら葵さんのあちこちを見たり触ったりして無事を確認した後、ふたりで挟み込むようにして葵さんを抱きしめています。
指令室の床に正座していた――おそらくはおふたりにするように強要されたのでしょう――風鳴司令がゆっくりと立ち上がりながら口を開きました。
「色々と言うべきことはあるが、まずは……無事に帰ってきてくれてよかった」
「まぁ、この通りピンピンしてるし、私もこの子のおかげで何ともないから大丈夫よ~」
おふたりのことを心配している、もしくはその姿を見て安堵している指令室にいた
一見すると、あんなことがあった後だとは思えないほど本当にいつも通りですね。
「すまない。俺の見通しの甘さもあって」
「いいのよ、弦十郎くん。今回は私が急かしちゃってた部分もあるし、事前の考察も含めて私の責任もあるわ」
頭を下げる風鳴司令に、「いやいや」と待ったをかけ自分の責任でもあるという了子さん。葵さんは……「ライディングデュエル」とはなんなのか不明ですが、おそらくは「気にしていない」と言っているのでしょう。……いえ、やはり発言に関してはわからないことが多くて判断に困りますね。
「それで今回の一件である仮説が立った。そのことを共有し意見を聞いておきたいのだが……いいか?」
さて、司令の言う「仮説」とはいったい……?
「「ツヴァイウィングライブの襲撃犯」、「謎の物質で作られた遺跡の襲撃犯」、「葵君の追跡者」……これらは
「「「なっ!?」」」
「えっ」
「『ゑ?』」*16
流石の了子さんでも予想外だったのか、珍しく呆けた声を漏らしている様子。
そして、葵さんも意味不明な言葉ではなく普通に驚きの声をあげていますね。
「遺跡の襲撃犯と葵の追跡者との共通点に関しては、先程聞きましたのでなんとなく理解は出来ますが……」
「なんでここであのライブなんだ? 確かに、弦十郎の旦那が下見した遺跡が破壊された日で、場所も近所ってほどじゃないにしろ近くはあるけど……それだけじゃそうだとは言い切れないだろ?」
「もちろんその通りだ。だがしかし、
あの時、遺跡が破壊され起こった地響きの直後に
これを偶然と片付けてしまうのは、あまりにも出来過ぎている気はします。
「前々からされていた推測で、ライブ襲撃犯および、その下で行われていた完全聖遺物起動実験で扱われていた「ネフシュタンの鎧」が奪われた一件の黒幕には「
葵さん以外が頷きます。あのノイズを使役できるとは思えないこともあってか保留とされましたが……
「今回の出来事、もしかして……」
「緒川も気付いたか。聖遺物暴走の一件こそ無く順序の逆転はあるが、「ノイズの出現」と「遺跡の破壊」が立て続けに起きているんだ。……ライブの日と同じく、な」
指令室に驚きの声とそれに交じって息を呑む声が聞こえてきました。
「待ってくれ旦那! 今日とあの日はまるで違うじゃないか!?」
「そうです! あの時と違って、怪我人こそいても死者はいません……これが同一人物による犯行だとは思えません!!」
「その必要が無かった……ということだろう。あるいは、そもそも人の命に対して何の関心も抱かない
納得できず「どういうことだ」という気持ちが顔に出ているおふたりのために、ぼくなりの考えを司令の言葉に付け足します。
「つまり、犯人には別に目的があり、それを成すための混乱の規模を目印にノイズを出現させているだけで、そこでのノイズによる犠牲者は計算にいれていない――入れる気が無いわけですか」
「そして、あの日に遺跡の破壊をわざわざ聖遺物起動実験と同じタイミングで実行したのかは、周囲の目や本部からのサポートの分散のため。何らかの方法による遺跡破壊で現場との連絡や地響きによって実験施設を浮足立たせ、細工を施し聖遺物を暴走させる。そこにさらに大量のノイズを使役し暴れさせることで注意をそらす……そうすれば、「ネフシュタンの鎧」の強奪はよりやりやすくなるだろう」
確かに、そう考えてみれば偶然とは思えない一連の出来事に繋がりが見えてこなくはありません。
「そうなると、今回は目的が遺跡の破壊だけだったので、発掘現場跡地への侵入のために周囲の人々の注意をそらすべくノイズを出現させ、周囲を固めていた僕らエージェントがノイズへ対処しようとしている隙に遺跡に侵入。これにはライブの時ほどの混乱は必要でなかったので、結果的に死者が出ないほどの数のノイズしか現れなかった……そういう予測ですね」
僕の言葉に頷く風鳴司令でしたが、一転して眉間にシワを寄せ首をかしげ「ただ……」と自信なさげに言葉を続けました。
「これまでに侵入した際に……もしくは、了子くんたちが去ってから破壊を行えばよかったのに、なぜわざわざ危険をおかしてまで特機部二のいるこのタイミングで破壊を実行したのかがいささか疑問であるうえに、そもそも何故あの謎の物質で出来た遺跡を破壊するのかその目的と手段がまるで見当がつかない……了子くんはどう思う?」
「えっ!? あ、あーと、その~……ねっ? 私にはそういう着眼点はなかったわ! …………流石に、ちょーっと考える時間が欲しいかなぁ?」
…………?
話をふられた了子さんはこれまた珍しくかなり焦った様子です。ということは、了子さんにとって風鳴司令の推測はそれほどまでに予想外のものだったのでしょうか?
「なぁ、旦那」
「ん? どうした奏」
「了子さんも時間が欲しいって言ってるし、葵も疲れてるみたいだから今日のところはここまでにしとかないか?」
言われてみれば、確かにどことなく表情が疲れているように見え、顔色も良くないですね。
帰りの道中ではそんな様子は無かったはずですが……帰りついて気が抜けたのか、はたまた奏さんと翼さんに会えて安心したのか、今になって疲労がドッとでてきたのかもしれません。
「そうか……この話はまたの機会にということにしておこう。葵君、今日はよく頑張ってくれた、ゆっくり休んでくれ」
そう言いながら、司令は葵さんの頭を撫で回します。
元々の体格も、司令の性格的もあってか多少の荒っぽさのある撫で方ですが、葵さんは嫌がったりする様子は無く受け入れています。
とはいえ――――
「旦那ァ?」
「叔父様?」
――――葵さんに色々あった後だと、過保護なおふたりは黙ってはいませんね。
翼さんなんて、立場ををわきまえるなどと言って頑張っていた「司令」呼びがすっかり抜けてしまってますし。
葵さんと風鳴司令の間に割って入り司令にくってかかる奏さんと翼さん。そんな様子を見て、指令室にいた皆さんの雰囲気もいつの間にやら和んでいました。
……葵さんは、元気が無くなろうと、周りの空気がどうであろうと、葵さんのままですね。
そこに安心感を覚え始めている僕はそろそろ気を付けないといけませんね……。
葵ことイヴちゃんが何を考えていたのか?
発掘現場跡地の中で何があったのか?
「開かずの間」の正体は?
緒川さんと司令が用意してたという策とは?
謎は数多く残ったままですね。
次回で原作前が終了します。ラストはイヴちゃんの内心の分かるお話であり……あの例のカフェ回です。