我が手には星遺物(誤字にあらず) 作:僕だ!
感想欄で見た「キネクリボー」がツボにはまった「僕だ!」デス。Twitterで調べてみたら、シンフォギアXDの「絆結ぶ赤き宝石」イベントのころに「キネクリボー」発言している先駆者がいたようです。つまり、この作品が世に出る前から、適合者は決闘者だったわけです(可逆)。
その「キネクリボー」の本名は今回のお話で地味に出てきます。
「『今明かされる衝撃の真実ぅ~!』」
とはいえ、コレまでに色々フラグはあったんですが……色々と「大丈夫かな、これ」と思いながら書き上げました。
……シリアルどこ行った?
――――アタシが
隠れるようにして建つにしては立派な洋館。フィーネとアタシとが拠点として活用している邸宅でのことだった。
フィーネ……アタシのいちおうの保護者であり、雇い主であり、取引の相手でもある、そんな存在だ。
スタイルの良い金髪の女性なんだが……その日は珍しく外行き用か何かの服をしっかりと着ていた。普段、邸宅内では全裸かそれに一枚羽織るかくらいの格好しかしてないから少し驚いた――――慣れちゃいけないもんに慣れちまってる気もしたが、それは二の次三の次、
そんなフィーネから数枚の紙束資料を渡されながら伝えられた
「お前が
フィーネの言葉に耳を傾けながら、写真付きで書かれている情報に目を通す。
ターゲットの「
前から装者やってた二人は、シンフォギアの
そして……わざわざ
「どちらにせよ、この二人を同時に相手取らない限りは「ネフシュタンの鎧」で後れを取ることは無いだろう。いや、仮に二人と同時に戦うとしても立ち回りさえ多少意識すれば十分勝てる」
まあそうだろうな、とアタシは思った。
「ネフシュタンの鎧」は完全聖遺物ということもあって攻撃力・防御力共にシンフォギアのそれを上回るものだ。
その上、最大の特徴として「自己再生能力」がある。これは、装備した者が傷を負おうがその傷を再生させるもので、ただでさえ十分にある防御性能を根本から底上げするようなものだ。
まぁ、その再生力の代償として、再生の度に体が「ネフシュタンの鎧」に浸食されていってしまうが……それでも、力づくではあるが
「……が、あくまで
最後に改めて今回の一件の確認をしてきたフィーネにアタシは頷き返そうとし――――ふと、あることを思い出してそれを止め問いかけた。
「なぁ、フィーネ。アタシの記憶が確かなら、こいつらとは別に完全聖遺物を持ってるヤツがいなかったか?」
詳しく憶えちゃいなかったが前に1,2回そんなやつの話を聞いた気がして、多少そのあいまいな記憶に不安を感じながらも聞いてみた……。
するとフィーネからは、案外さらりと答えが返ってきた。
「あぁ、
「装者二人の情報はこうしてまとまってるのに、なんでその葵とかいうのの資料は無いんだ?」
「何故も何も、そもそもアレと戦闘すること自体想定していないからな」
想定してない?
それはおかしいんじゃないだろうかとアタシは首を傾げた。
「完全聖遺物をそれも少なくともふたつも持ってる上に使用許可まで持っている、二課の一大戦力だろ? これから先、間違い無く戦う相手じゃないのか?」
そう確か、アタシの聞いた話じゃあ前にあったっていう例のアーティストのライブで起きたノイズの襲撃。その際に完全聖遺物を持ったソイツが参戦したことで流れが大きく変わって「少なくとも装者のどちらか一方は死ぬ」とされていた想定がくつがえされたって話だったはず……。
ノイズ相手だったとはいえ、そんな戦況を覆せてしまうようなヤツへの対策をせずに野放しにしてもいいもんなんだろうか?
そんな疑問を抱いたアタシにフィーネが言った言葉は
「第一、仮にお前がアレを相手にした場合……もはや勝負にもならんからな」
「なっ!? 「ネフシュタンの鎧」でもか?」
「当然のことだ。「ネフシュタンの鎧」だろうと、
そして、アタシは使うつもりも無い
「じゃあなんだぁ? もしもソイツと作戦中のアタシとが鉢合わせたら、逃げろってのか!?」
「それも手だな。とにかく相手にするな、こちらの損害にしかならん」
アタシらが絶対に損するだって!?
フィーネは……っ
ふざけんな、ふざけんじゃねぇよ……!!
ここまで不快感だろうと痛みだろうと、耐えて耐えて耐えてきたんだ! 手も足も出ねぇ相手だと!?
なにより、フィーネが一片の迷いも無くそう考えてるってのが気に食わねぇんだ!!
確かに、アタシとフィーネとは目的のために結託してるある種のビジネスパートナーのようなもんで、そんな良い仲だとかマトモな間柄ってやつじゃなかったかも知れねぇ。だけど……だからこそ、チカラに関しては――そして目的のための任務遂行の熱意と結果くらいは――正当に評価されてると思ってた。それくらいは認められてるって思いたかった……!
なのに、それすらも……ッ!!
違う、違うんだ。
仕組まれたかのような嫌な事件の中で出会っただけの、目的のために利用し利用される関係でしかないはずなんだ、アタシとフィーネは。
なのに、なんで……なんでこんなにも「認めて欲しい」って思ってんだよ、アタシ……
フィーネに心許せる相手であって欲しいと、アタシもあいつにとってそういう存在でありたいと……心のどっかであたしはそう思ってしまってるんだ……!
あぁ、ムカつく……
ヒトの胸見てアホなこと言うこのふざけたガキが!
何故かアタシを――この
ぶっ飛ばしてもコッチに殺気も向けてこねぇ気味の悪いコイツがっ!!
アタシをアタシじゃなくさせるんだ!!
「なにしてんだよ? 恐いのが……痛いのが嫌ならそのチカラを振りかざしなっ!」
―――――――――
指令室は不測の事態に少なからず騒々しくなっていた。
その不測の事態というのが、万が一の場合の護衛として緒川と共に避難誘導にあたっていた葵君が姿を消したことだ。
「目撃情報はあったのか?」
『幸いにも。避難中の民間人の中に脇道を走っていくのを見た方がいました。その人が言うには、どうやら葵さんとは別の女の子がその林にいるのを見たとも言ってましたので……』
「その少女を追って避難経路から抜けてたんだろう。葵君は、根は真面目で正義感の強い真っ直ぐな子だ……向こう見ずなところがあることは否めんがな」
葵君のことを考えると毎度思ってしまう。もしも、まるで呪いのような言語能力の不備が無ければ、彼女はどのような子だったのか。そして、そんな彼女が周りにどのような影響を与えただろうか……と。
きっと今よりも輝かしいものに違いない、そんな確信じみた物が俺の中にはあった。――それ故に、葵君がああなってしまわざるを得なくなる状況を作ってしまったことを、自身の無力を今でも後悔してしまう。
いかんな、今は目の前の事態への対応をしなければならないというのに。
しかし、笑い事ではないのだが、ふと目を離した隙にどこかへ行ってしまうのは、本当に子供らしいというか何と言うか……。
そんなことを考えていると、オペレーターの友里から待望の報告がきた。
そう、通信機は会話が難しくとも、持たせておけばこういう時に役立つのだ。
「葵ちゃんの通信機の反応絞り込めました! 情報通り市街地脇の林に……しかし、思った以上に奥まった場所まで行ってしまっているようです」
「場所がわかったなら十分だ。緒川、いけるか?」
『もちろんです。そちらからの情報通り、葵さんのいる地点へと向かいます』
「頼んだぞ」
緒川のいる場所から葵君のところまでは結構な距離がある――――が、同時にノイズが発生した地点からも離れている。万が一の事を考えても、身の安全上の問題は無いだろう……もしかすると、生い茂る木々に方向感覚を狂わされて迷子になったりはしているかもしれんが。
「「『「!?」』」」
俺と、オペレーターをしていた友里と藤尭、そして通信越しの緒川が同時に
「
そう。葵君の通信機から感知できる反応が、レーダー上で数十メートル分を一気に移動したのだ。
おそらくは瞬間移動などではなくあくまで速い速度で移動した結果、ラグが起きてそう見えたというだけなんだろうが……問題は、何故そんなことになったのか、だ。緒川や俺は出来るかもしれないが、あの距離を超スピードで移動するなど葵君には出来ないはずだ。では、今さっきの現象は……?
それに、もう一つ気になるのが、その移動の後にいまのところ葵君が移動をしていないことだ。もしも、何かしらの理由――例えばノイズに追われているなど――があっての逃走・超速移動だとすれば離脱するまで止まるはずもない。ならば――――
「っ!? 葵ちゃんがいた地点に
「至急、正確な見地と波形の確認、過去のデータとの参照を行いますっ!」
なっ、まさか……!?
「そうかっ移動した葵君に気を取られていたが……彼女を移動させた存在が!」
しかしそれは、先程の葵君の移動が彼女の意思ではない可能性が露わになったのだ。検知されたエネルギー反応の事も考えると……嫌な予感がする。
「急げっ緒川! 相手は未知、あくまでも葵君の確保と離脱を最優先に――――」
「葵ちゃん、移動を開始! さっきの移動ほどの速度ではありませんがかなりの……っ!? また、トんだ!?」
「高質量エネルギー反応も追うように移動しているようです!」
……!! やはりと言うべきか、観測されたエネルギー反応は
くそっ、暴れているのが市街地でないのは民間人を巻き込まない点では良いが、監視カメラ等を介して状況を確認できないのはもどかしいものだ!
「予測進路先に観測用のドローンを飛ばせ!それと、エネルギー反応の検知結果はどうした!?」
「絞り込みから参照まで終えました。ですが、
「……未知の反応、だと!?」
今日の今まで俺たちの前に姿を現わしていない新たな聖遺物だというのか!?
そんなことが起こる可能性は無いとは言い切れないのは事実。
だが、決して戦闘向けの性能ではないとはいえ完全聖遺物を持っている葵君を逃げる他無いほど圧倒できるようなモノがそうポンポンあって良いものでもない。
未知の相手に対し、打てる手は極力打っておきたい。
本来なら事が無事に終わるまで葵君が出動していることは伝えるつもりは無かったのだが……そんなことを言っている場合ではなくなった。
通信回線を別のものへと繋ぎ――――ノイズと戦っている
「ふたりとも、聞こえるか?」
『ん? ああ、旦那か』
『司令、またノイズの追加発生ですか?』
「一刻を争うかもしれん事態だ。避難誘導にあたっていた葵君が別の場所で何者かに襲撃されている! 今、緒川に追跡をさせているが相手はノイズとは異なる高質量エネルギーを発する謎の存在、緒川だけでは手に余るかもしれん」
俺の言葉へのふたりの驚きと焦りが、通信越しでも伝わってくる。
『なっ!? 葵が避難誘導の護衛に出てたのか!?』
「葵君本人たっての志願だ」
『だからって、あの子を戦場に出すなんて……それも、今は襲われてる!?』
「勝手だとは解っているが……物言いは後で聞く、今は手がひとつでも多く必要なんだ」
「司令っ!」
そこまで言い終わったのとほぼ同じタイミングで、藤尭が声をあげた。
「葵ちゃんの通信機からの反応消えました! ですが、襲撃者と思われるエネルギー反応が変わらず移動を続けていることから、おそらくは通信機が破壊されただけで、葵ちゃんは逃走を続けていると思われます!」
「くっ……! すまないが、そちらの状況がまとまり次第現場へ急行してくれ!」
『わかった! こっちのノイズ共を速攻で片付けて――――』
『奏っ!!』
奏の了解の意を伝える通信に、割り込むように張り上げられた翼の声が指令室内に響き渡った。
『ここは私に任せて葵の所へ行って!』
『!?』
『残ってるこの程度の数のノイズを斬り伏せられないほど、私の
その申し出を聞いて皆驚いてはいた……が、確かにこれまで大きく分けて2回発生した分のノイズは7,8割がた片づいている。そして、今の翼の実力を考えれば、時間はかかりさえすれど残存ノイズ相手に後れを取ることは無いだろう。
なるほど、その判断は正しく思える。
『……わかった! 頼んだ、翼!』
『葵のこと、頼んだわよ奏っ!』
「奏、葵君がいるだろう現在位置と予想進路だ。あと、こちらからのサポートは……」
『いや、いらねぇ! 走った方が早ぇーよっ!』
体力に多少不安要素が出はするが、ヘリや車を手配するよりもその足で走った方が合流は早いだろう。
あとは……
巨悪や怪獣に立ち向かえるほどの力を持ち合わせてはいないが、それでもノイズ相手でなければやれることはあるはずだ。それに……やはり妙な胸騒ぎがする。
「司令っ、響ちゃんが!!」
「響君だと? 手が欲しいのは確かだが、都合
「違いますっ! 響ちゃんの通信機の反応に例の敵性体が接近しています!」
「なにぃ!?」
何故そこに響君が……!?
理由はともかく、おそらく葵君が逃げているだろう場所はすでに避難区域から出た範囲。
「申し訳ありません。自分がもっと早くに彼女のことに気付いていれば……通信を試みますっ」
「ああ。過ぎたことよりも現状への対処優先だ。反省会はその後でいい。……それと、俺も今から出る」
「「ええっ!?」」
「嫌な胸騒ぎがおさまらんからな。もちろん、俺も通信機を使って引き続き対応をしていく。何かあればすぐに言ってくれ」
そう言い残し、驚くオペレーター二人をよそに俺は早足で指令室から出る。
葵君、響君、無事でいてくれよ……。
―――――――――
「未来っ、葵ちゃん! 逃げて!!」
「誰が逃がすかよっ!」
ノイズに捉えられた響の叫びに、「響を助けたい」と「響の言う通りにしなきゃ」という意識が混雑していた私の頭の中が「
けど、さっき吹き飛ばされた衝撃を思い出してしまい、身体が固まって動けなかった。
地面にぶつかる衝撃。
――でも、それはついさっき感じたものとは違った。痛い、とギリギリ思えないくらいの、走ってこけるよりも全然柔らかな感触だった。
聞こえた甲高い音に振り返ってみれば、私たちの背後から迫っていた棘の鞭を誰かが防いでいるのが見えた。
それは、
理解した。私が肩を抱えて連れて行こうとしてた葵ちゃんが私を突きとばしてから、私と相手の変な鎧を着た女の子との間に立って、立ち向かっていってるんだってことを。
「逃げてばっかりだったが、ようやく戦う気になったかよ! 随分とスロースターターだな、テメェは」
「『一見正しいように見えた攻撃……しかし、それは大いなる間違い!!』」
「そうか、よぉっ!!」
「やめてーっ!!」
戦いはじめる鎧の女の子と葵ちゃん。そして、それを止めたい一心で叫んでいる響。
私は……私には、何が出来るの?
響を助ける? でも、囚われた響のそばにはノイズが……。
極論、響を助けられるなら私はどうなってもいい。だけど、ノイズを私じゃあどうにもできない上に、下手をすれば目の前で炭素化させられて響の心に大きな傷を作ってしまいかねない。
でも、だからって、このまま何もしないだなんてことは……!!
――! ――!
不意に音が聞こえてきた。それは決して大きくは無い振動音。
音を頼りに発生源を辺りを見渡し探してみると……逃げ込もうとしていた林の中の手前の方の木の根元、そこに響から受け取っていた通信機があるのが目に入った。
吹き飛ばされた時に手元から何処かへ行ってしまってたけど、その時に
私は急いで駆け寄り、
初めて見るタイプの通信機だったけど、なんとか操作は……っ!
『ああっ、やっと繋がった! 響ちゃん? 大丈夫!?』
聞こえてきたのは、初めて聞く大人の女性の声だった。
「助けてくださいっ!」
これまでの恐怖や緊張感からか、焦りからか……色々と考えてたはずなのに、とっさに出てきた言葉は、その一言だった。
『っ!? その声、あなたは一体……!?』
「響の親友で、一緒にいたら、葵ちゃんが血だらけで……!! 響を、葵ちゃんを助けてください!」
『落ち着いて、救援はもう近くまで向かってるから。早急な対応のためにも、できるだけ状況を教えてくれないかしら?』
「私たちを守るために、変な鎧を着けた子を葵ちゃんがなんとか相手をしてて、でも、ドンドン怪我が……! 響はその子が出したノイズが吐き出したモノに捕まってて、どうしたらっ!?」
通信越しに聞こえてきた声は、今度は若い男性の声みたいで、焦った様子がイヤに伝わってきた。
『やっぱりさっきの反応はノイズの……まさか、操ってるのか!? しかも新型を!?』
『となると、そこにいるのが
「白くて、ピンクの棘と鞭が付いてます……あっ、今「ネフシュタン」だとか何とか言いましたっ!」
大声をあげながら変な鎧の子が葵ちゃんを吹き飛ばす。……その時に言っていた言葉からあの鎧の名前らしき単語を通信機の向こうへと伝える。
すると、大人の女性と男性の声に、一段と驚きと焦りの色が浮き出てきた。
『ネフシュタン……まさかあの「ネフシュタンの鎧」ですって!?』
『そうか!
『急いで司令へ連絡を!』
そ、そんなに大変な情報だったのかな、その「ネフシュタン」ってもののことは……?
通信機から聞こえてくる声が、安心感じゃなくて私の中の不安感をかきたてる。
いや、きっとあっちも忙しくて大変ではあってやれることを目一杯やってるはず、そうに違いない。それに、さっき言ってたようにすぐに助けが――
「これで、終いだっー!!」
――そんな声が聞こえた。
とっさに向けた視線の先では、鎧の子がバチバチと音を立てる大きな光の球を撃ち出そうとしてるその瞬間だった。
その
「ダメェええぇぇー!!」
「――えっ」
「なぁ!?」
――――気づけば、足が勝手に動いてた。
通信機も投げ捨てて、響と葵ちゃんの前に両手を広げて立ってた。……そんなことで何が変わるわけでもないと、心のどこかでは思いならがも、そうせずにはいられなかった……!
「どうして、なんでここにっ!?」
「あの時みたいに、響を置いて逃げるなんて――自分だけ安全な場所にいるなんて、絶対に、絶対に出来ない! そんなことしたら、わたしは響の親友を名乗れない!!」
「未来――逃げてぇー!!」
そうだ……
その後も、何故か私だけ助かってしまった。私は、そんなこと望んでいなかったのに……。
こんなの自己満足だってわかってる。
だけど……だけど、私はっ! 響を守りたかったんだ……!
私は目を瞑って、その光に呑まれる瞬間を受け入れた……
「なっ!?」
鎧の子の驚く声が聞こえた。
痛みは無い……なんで?
瞼を上げて目の前を見る、そこには――――
「……ぅぁ……ぁっ!!」
――肩で息をしながらも両手で杖を構えて立つ、女の子の背中がそこにはあった。
私は……響も含めた私たちは、また葵ちゃんに守られたんだ……。
やっぱり、私には見覚えがあった……知っていたんだ。この鈍い藍色のような鎧と独特の意匠の服を着た葵ちゃんのことを。
流れに揉まれ、握られていた手は離れてしまった。
探すこともできないまま、迷い込んだ……
だけど、そこにすらノイズは侵入してきていたみたいで何人もの人が炭素化されて、通路のあちこちに散ってて……。
突如、軽い衝撃と音と共に通路の片面――ライブ会場の建物の外周側――に穴が開いた。
ノイズか何かによるものかと思ったけど、その奥にも穴が見え……壁が壊れた際に起きたんだろう舞い上がった
はぐれてしまった響が中にいるかもしれない、そう不安を感じたけれど周りにいた人に「ここにいちゃあ危ない!」って手を引かれ、私はそのままライブ会場を脱出した……。
でも、薄い土埃の中……他の人たちは気付かなかったのかもしれないけど、私は確かに見たんだ。変わった格好をした、長い髪の小さな女の子を。
埃の中に紛れてすぐに見えなくなったけど……すれ違ったあと振り返って見た、ライブ会場の中心に向かって走っていくその背中を。
その姿と、今、私と響の前で光球を防いだ葵ちゃんの姿とが……重なって見えた。
「……あ、えっ……?
私がそう言ったのとほぼ同時に、片膝をついて……そして倒れそうになった葵ちゃんの肩を抱きしめ支える。
「……癪だが、その丈夫さだけは認めてやるよ! けど、優れているのは……最後に立ってるのはアタシだぁ!! テメェはおとなしく地面と添い寝しときな!」
だけど、鎧の子がそう言ったからか、フラフラになっていながらも葵ちゃんは立ち上がってまた両手で杖を構えた。
「ダメだっ! 葵ちゃん……お願いっ、逃げて! ううんっ、もう起き上がらなくてもいい、だからこれ以上は――――!!」
響の叫びが、私には嫌と言うほど聞こえている。でも、葵ちゃんは聞こえていないかのようにその場を動かず、ジッと鎧の子の方を見ている。
どうしてこんなに傷ついても立ち上がるの? 私たちがいるから? でも、だからって逃げもせずに一方的に痛めつけられるなんて……私には、私には理解が出来ない――
「何度でも受け止めてやる! 全部吐き出せ、お前の悲しみを!!」
力強いその言葉を聞いて、私の中で何かが「すとんっ」とはまるような音がした気がした。
ああ、だから葵ちゃんは……そして、私の中にあるこの気持ちは……
なおも声を荒らげる鎧の子の鋭く伸びる鞭の一撃が、また葵ちゃんへと迫り――――
ドガァンッッッ!!
何かが空から降ってきた。
鞭の一撃を防いだソレは……舞い上がった土煙の中から姿を現したその人は、私も知っている人だった。
そこにいたのは「ツヴァイウィング」の
あのライブに響を誘ったのは、他でもない、私。「
響が纏った「なにか」とよく似たものを纏っていて、その上大きな槍のようなモノをその手に持っていた。
そして何より、奏さんから感じられるその気迫は鎧の子と同じ……ううん、それ以上に恐ろしく思ってしまうもので、私は思わず身体を震わせてしまう。
そんな私の前に、ついに体力も気力も尽きてしまったのかふらついていた葵ちゃんが、後ろ向きに倒れ込んできた。
とっさに受け止めようとするも上手く力が入らず、支えきれなくて私もそのまま地べたの芝生へとペタンと座り込むように倒れてしまった。
「名前も、その目的も、聖遺物の入手経路も関係ねぇ――――今、ここで消えろ」
そんな声が聞こえ、慌てて視線を戻すと――そこには突進の勢いのまま手に持つ槍で鎧の子のお腹を貫いた奏さんが!
さらには、その槍の先端部分が回転をはじめて、血が……!?
「――……」
「えっ」
私に力無くもたれかかっている葵ちゃんから何かが聞こえた気がして耳を寄せる。
…………。
奏さんの回転する槍から発生した竜巻に呑まれ、宙へ吹き飛ばされる鎧の子。
そんな光景を前に、その言葉が鎧の子に向けられたものなのか、それともあの奏さんへ向けられたものなのか……私には判断しきれなかった。
―――――――――
「うらぁあーッ!!!」
「ぐうぅ!?」
ありえねぇ……!!
目の前の相手が歌う耳障りな歌を嫌と言うほど聞かされながら、アタシは内心悪態をついた。
最初の不意打ちに近いいきなりの突進からの攻撃はまだいい。
だが、なんだこれは。
身体にいくつもの傷を作り血を流し続けているのは
もしも「ネフシュタンの鎧」が……その再生能力が無かったら、アタシはすでにここで敗れ倒れていただろう。そのくらいに、実際に受けたダメージはアタシのほうが断然多い。
「肉を切らせて骨を断つ」。その言葉が的確なほどに
その結果が、体中の切り傷から血を流す
なんでだッ!?
アタシの想定より時間制限がもっと長い……? いや、連続投入のリスクを考えずにここに来るまでに薬を追加して来たのか?
仮にそうだとしても、たかが時限式装者のシンフォギアに完全聖遺物である「ネフシュタンの鎧」が後れを取るなんてことは、認めらんねぇ……!!
――――こちらの損害にしかならん。
あの言葉は葵ってヤツ相手にアタシじゃあ敵わないとフィーネが言い切ってのものだった。実際はアタシが一方的に痛めつけたのだが……しかし、そもそもワタシは葵に相手にすらされてなかった。
そして……もう一人と一緒になってるのと戦っても勝てるとフィーネが判断していたはずの天羽奏に拮抗されてる……いや、むしろ劣ってしまっているかもしれない状況にまで持ち込まれてしまってる。それはつまり、
そんなわけがねぇ!!
「邪魔だぁああっ!!」
突き振るった
「なっ! このっ!!」
もう一方の茨の鞭を
「……考えたんだよ。いくらでも治る奴相手にどうトドメを刺せばいいのか」
「んなことっ知るか! ……チィッ! 離しやがれ!!」
「単純さ。最大出力で、粉々に吹っ飛ばせばいいだけだよなぁ?」
アタシの背中に悪寒が走った。
シンフォギアのことは
シンフォギア装者への
「まさか、「絶唱」を……!?」
返答は無かった。ただ、その口元には獰猛な笑みがうかんでた。
「ただでさえこの「ネフシュタンの鎧」相手じゃあ無駄撃ちになるかもしれねぇってのに……テメェみたいな半端者が歌ったらどうなるか、犬死だぞっ!?」
「お生憎よく知ってるんだよ、生き永らえちまったもんでね。あたしはどうなってもいい、お前をぶっ殺せるならなぁ!!」
くそっ!? 鞭を引こうがどうしようが離さないどころかビクともしやがらねぇ!?
このままぶっ放されたらどうしようも……!
「止めてください! 奏さんっ!!」
そんな声をあげたのは、ノイズに捕まったままのあの甘ったれた「融合症例」だった。
「奏さん、言ってましたよね!? シンフォギアでノイズからみんなを……街の人達を守ってるんだって! なのに、そのシンフォギアで人を殺すだなんて、そんなの……っ!!」
あいかわらず甘ったれた事を言ってる「融合症例」を
槍から放たれた衝撃波がノイズを……
「ぐあ゛あっ!?」
「響ぃーっ!?」
「とっとと二課を辞めたほうがいいぞ、一般人。戦場はお前が思ってるほど甘くない……悪い、あたしのせいでまきこんだのに、な」
「融合症例」と一緒にいた奴が、悲痛な叫びを上げるがそれを見ることも無く、またアタシに向きなおる。
「今の隙に、懺悔は済ませたか」
「ハッ! 懺悔することなんて……いやっ、懺悔する神なんざどこにもいやしねぇよ!!」
「……なら、地獄で会おうぜ」
そう言った
こんなところでおとなしく地獄に逝く気なんざ無い。
最悪、
問題はそのタイミング。早すぎても遅すぎてもダメだっ!
…………?
再び
口をぱくつかせるばかりで、
それだけじゃない。アタシにはわかる、鞭越しに伝わってくる力が格段に落ちていることが。
これなら――っ!!
「どぉぁりゃやぁああぁぁっー!」
二つの鞭を同時に思いっきり引っ張る。
予想通り、さっきまでの抵抗が嘘のように
「がぁっ!?」
大きく立ち上がる土煙と共にそんな悲鳴に似た声が、そしてアタシの鞭から力が抜けた。
引っ張ってみれば、鞭の先端部分が手元へと戻ってきた。どうやら
……にしても、なんだったんだ?
やっぱり第一に考えられるのは、薬の効力切れによる適合指数の低下。だが、それにしたって急降下過ぎる……それに、
わからない……が、もう終わった事だ。どうでもいいな。
20メートルほど先で地面に倒れ伏していながら、なおも立ち上がろうともがく天羽奏を見据えてアタシは攻撃態勢に入る。
「最後だ。ひとおもいにぶっ飛ばして――」
「Gatrandis babel ziggurat edenal――――」
耳障りな歌が聞こえた。
視線の先にいる天羽奏が――違う。顔をあげたそいつの口は動いてないし、その目は驚愕に染まっている。
じゃあ、さっき
そう思い首を動かしてそいつがいた方へと目を向けるが、意識はあるものの例の民間人に肩を貸してもらってようやく立てているような様子で歌えるような状態じゃなさそうだ。
ついでに、葵ってヤツは木にもたれ掛けさせられて眠っているように目を閉じていて、コイツもまた違う。
だが、まだ、歌は続いている。
いったい誰が……?
聞くのも嫌な歌だが、耳を澄ませて探る……上かっ!?
ハッと見上げれば、月をバックに落ちながらも空中で歌う奴が一人。
遠目だがわかった。「ツヴァイウィング」のもう片割、
歌が……終わる。
それと同時に、辺りに蔓延していたエネルギーが一気に
「貴様のような外道相手……卑怯などとは言わせないッ!!」
「絶唱」の反動からか、口から血を、目からも血涙を流している
だが、馬鹿正直に受けてやるわけがない。
当然ここから離脱するに決まっている。ただ避けるだけではなく、
なら――――ッ!?
動きだそうとして気付く。
いつの間にか、自分の身体が上手く動かせないことに。
ギリギリ首や手元を少し動かすのは出来るが、コレじゃあ逃げるなんてことはとても出来るもんじゃない!
「くそっ!? なんで――っ!?」
身体が何かで縛られているというわけではない。だが動けないのは事実。
でも原因が……っ!
目に入ったのは、月明かりで出来たアタシの
「なっ、まさかこんなちっちゃなモンで!?」
理屈はわからない。しかし、直感でそうだと感じた。
あの小刀を取る……動けねぇから出来ねぇよ!? あとは何か手が……っ!
「はぁあああああぁぁーっ!!」
振り下ろされた「絶唱」の一撃が、アタシをあたりを包む――――
―――――――――
「くっ、まさか
葵さんを追って入った林。そこには
方向感覚を狂わせる基礎的なものではありましたが、それでも少なからず足止めを受けてしまうことに……焦りがあったとはいえ、忍びでありながらこのようなモノにかかってしまうとは。
葵さんを襲撃した人物は葵さんを追跡しながらこういった結界を仕掛けた……?
いえ、もしくは葵さんが入り込んだ時点で仕掛けられていたのでしょうか?
しかし、どちらにせよあの結界、 我々以外の忍びの者がこの国にいる可能性が……!?
何はともあれ、全速力でようやくたどり着いた葵さんたちのいる場所は――――どうやら、一足遅かったようです。
と、車道の無い道なき道から飛び出してきた車がドリフトしながら急停車。
運転席から風鳴司令が飛び出してきました。
「くそっ! 緒川、お前も間に合わなかったか……」
「申し訳ありません。敵の方が一枚上手でした」
そう言いながらも、歩きだす僕と司令。
その視線の先には――――
先程聞こえてきた翼さんの「絶唱」で十数メートル一直線上に
その破壊痕のそばには、顔周りを中心に血を流し、片膝をつき肩で息をしながらも握った
離れたところには、奏さんがシンフォギアが解除された状態でうつ伏せに倒れています。
それとはまた別方向には支え、支えられながら立つ、呆然とした響さんと、夕方に響さんと一緒にいるのを見かけたご友人。
そして、そのそばの木に凭れかかった状態で目を閉じている葵さんが……その身体はパッと見える範囲だけでも数多くの傷を負っているのがわかりました。
「今は、彼女たちの救護が先決だ! 救急の者が来るまでそう時間はかからんが……それまで緒川は響君たちを頼む」
「はい」
姿を消した襲撃者のことが気になりますが……優先順位が違います。
今回の一件で
終わり方がちょっと納得がいかないというか、しっくりこないというか……そのうち微修正するかもしれません。
まとめ
響「つらい」
未来「つらい」
奏「つらいし痛い」
翼「痛いけど防人れて満足」
OTONA「不甲斐ない大人ですまない」
OGAWA「襲撃者が忍びかもしれない…!?」
キネクリボー「つらいし死ぬほど痛い」
フィーネ「部下が言うこと聞かずに勝手なことしてる」
イヴちゃん「スヤァ……」