我が手には星遺物(誤字にあらず) 作:僕だ!
今回はTwitterで予告したように、今回はイヴちゃん視点で恒例の「例のカフェ回」です。さらにさらに、まさかのキャラも登場!?
……あいも変わらず、謎を増やしたりしてます。『非力な私を許してくれ』
ワタシは悩んだ。
「ヒビキに何を教え、どう鍛えるべきか」と。
カナデと色々あって、ワタシのちょーっとだけ気持ちが弱っていたところでヒビキからの「わたしに戦い方を教えてください」というお願い……最初こそ断ろうとしたものの、なんやかんやあって『かっとビング』でお願いを受け入れちゃったわけなんだけど……。
いや、別に勢いで引き受けちゃっただけだから気が変わったとか、ヒビキちゃんに戦い方を教えたくないってわけじゃあないんだよ?
ヒビキは、戦えるようになりたい。それもノイズを倒せるだけでなく、クリボー(仮)ちゃんのような話せる相手には、相手を押さえたり攻撃をいなしたりして言葉を交わせる余裕が持てるほどに……だ。
目指しているモノも
だけど、出来る気がしなかった。
だって、中身は
ならばと、
何をどう教え、どう鍛えてあげればいいのかわからない。
もう引き受けてしまったことではあるが「今からでも頭を下げて断るべきか?」という考えさえ浮かんで……
――そいつはどうかな?*3
手札・フィールド、墓地……その他諸々の情報をまとめ上げ、活路を拓く
ごく端的に言えば、ヒビキは目標のために強くならなければいけない。
ならば、
何を言っているかわからないって? よく考えてみよう。
真の決闘者は強い。
もちろん個人差はあるけれど身体面・精神面共に一般人のそれを越え、超人的な能力を発揮することなんて
ならば、それは生まれついてのものかといえば……そういう例もあるにはあるが全部が全部そうだというわけでもない。そう、
何? マジック&ウィザーズ……
それは大きな間違いである。
デュエルの結果を無視するような
そう、
故に、だ。
決闘者の様な確かな意志と臨機応変な思考を教え、決闘者特有の技術を身につけさせ、決闘者の様に身体を鍛えれば……ヒビキは
そういう結論に至ったわけだ。
―――――――――
――というわけで、ワタシはヒビキちゃんを一人前のデュエリストとすべく準備をし、実際に行動に移ったわけだが……この短期間でわかったことがある。
ヒビキちゃんは逸材だ。その吸収力スポンジの
今朝も今朝とて、早朝特訓でデュエルの基本と言えるドローの練習を『アン、ドゥ、ドロー!』*5の掛け声でやったところだ。
今日は平日でヒビキたちは学校が普通にあったため、長くは出来なかったが密度の濃い特訓になったと自負している。……学校? ワタシが? 無理です(断言)
それにしても、タオルや水を用意してくれたりとサポートに徹してくれているミクちゃんだが……ワタシの気のせいでなければワタシとヒビキが特訓している姿に熱い視線を送ってきている気がするのだ。
……あれは、羨ましがっていたんだろうか?
だとすれば、自作カード(白紙)と紙製デュエルディスクはヒビキ分を作ったばかりだけど、この際だしミクちゃんにも作って特訓に参加させてみようかな?
ほら、やっぱり人数は多い方が楽しいし、ヒビキも親友が一緒の方が力が入るだろうから……いや、それとも「危ない目にあわせたくない」とか言っちゃうかな? まぁヒビキが言うと「
とにかく、検討しておこう。
さて、学校にいかない……というか、いけないというよりも言語能力的に言っても無理が過ぎるワタシだが、今は
徘徊しているわけではなく、ちゃんと目的があっての行動だ。勿体付けて言えば、ある場所へと向かっているところだ。
最早半分くらい習慣になっている部分もあるが、今回は
さあ、いざ行かん! 「ブルーアイズマウンテン」を飲みに! 今日はそんな気分!!(本音)
入り口の扉をほどほどの力で開け放つと、扉に付いたベルの音が小気味良く響いた。
「いらっしゃい、よく来たねぇ」
カウンターの向こうにいるカフェの
それはそうと、この前「特訓できそうな場所は無いかなぁ?」って相談した時に教えてくれた
「『我が名は――アテムっ!!』」*6
特訓中以外だとやっぱりほとんどいうこときいてくれないワタシのお口も、いつも通りで安心感が……あるけど、本当の意味で安心はできないね何言い出すかわかんないから。
むしろ迷惑……だけど、この世界で数少ない「遊戯王」を感じられるモノだからなぁ。なんというか、自給自足すぎやしないかな?
「気に入ってくれたようで何よりだよ。これからも好きに使ってくれ。僕の私有地だからね、あそこは」
そう言ったマスターの銀色のお
というかあそこ、私有地だったのか。詳しいことは知らないが、維持管理費とか税金とか色々大変なんじゃ? マスターは実は結構な資産家だったりするのかな?
いやだってこのカフェ、今はお昼少し前の変な時間帯とはいえお客さんは他にいないし、ピーク時は満員な事もあるけどそう儲かっている風には思えないんだよね……。他に副業やってるとか? いや、
って、んん?
カウンター奥の扉から誰か出てきた。
パンツスタイルの給仕服という服装からして、このカフェのウェイターさんだろう……って、この店にマスター以外の店員さんっていたっけ?
そのウェイターさんは、そこそこの身長があるプロポーションも顔つきもスラッとした印象を受ける若い大人の女性だった。
おそらく結構な長さがあるだろうやや緑がかったブロンド髪は、給仕の邪魔にならないようにクシュクシュと編んで後頭部あたりにまとめ上げられている。確かアレは……ギブソンだかブイヨンだかそんな名前の結び方……いやフィッシュだったかな? 前にツバサが「女子力を身に付ける」と言ってコッソリ買ってた雑誌に、あんな髪型が書いていた気がするんだよな…………余談だが、ワタシの髪使って三つ編みすらできないツバサがそんな髪のまとめ方を習得できるはずはなかったので、その雑誌は今現在封印されている。
とにかく、そのウェイターさんは肩より下には降ろさないようにと、大量の髪をまとめ上げていたのだ。
というか、マスター、ようやく人を雇ったのか。このカフェをひとりで回すのはいくらなんでも大変なのでは?と思っていたが……
しかし、そうなると初めて雇われたと思われるこの女の人のことが気になる。……まさかとは思うけど、マスターの娘さんとか?
さて、そのウェイターさんだが、カウンターむこうからイスやテーブルのある
気になり観察しようとジッと見ていたワタシと目があうウェイターさん。
「……いらっしゃいませ」
声も表情も「ぶっきらぼう」の一言と言って差し支えの無いものだった。お世辞にも接客業が向いているとは思えない……が、まだ、その判断は早いかもしれない。なんとなくではあるが――特に表情が――強張っているというか、変に固くなってしまっているような気がするのだ。もしかすると、この女の人がただ単純に自然に笑えず、かといって営業スマイルも獲得できていないほど経験不足なのかもしれない。
そんな緊張なんてしなくていいと思うよ?
だって、目の前にいるのはただの
「は、はあ……?」
「何言ってるの、この子」という顔で、首をかしげるウェイターさん。
しかし、ワタシは動じない。誠に不本意ではあるが、そういう反応には慣れてしまっているから……。むしろ、馬鹿にしたり挑発したりしていないだけまだマシだと思うくらいだ。
「あぁうん。大体あっているよ、間違ってるけど」
「えっ!?」
えっ? 何があっていて、何が間違っているんだろう?
マスターの一言に首をかしげる……が、そんなワタシ以上に、ウェイターさんが目を白黒させ困惑していた。
そりゃそうか。わけのわからないこと言ってたのに上司がそれを肯定したんだもの、驚きもするな。
「彼女はつい先日からウチの手伝いをしてくれるんだ。これでも一応、僕の身内のようなものさ……まぁ、お試し期間のようなものだからどれだけの付き合いになるかはわからないけど、よろしくしてやってほしい」
そして、そんなウェイターさんのことはそう気に留めてない様子で、ワタシへと語りかけてくるマスター。
この自覚があるのか無いのかおいてけぼりにしていく感じ……ウェイターさん、身内とか言われてたし、きっと普段からこのマスターにこれくらいかそれ以上に振り回されているんだなーってことがすぐに感じ取れた。
……うん、マスターが言ったからとかじゃなくて、普通に優しくしてあげたい。
「『貴様と俺様では「三」と「万」、9997ほどの違いがあるのだ』」*10
「……!?!?」
ご、ごめんね? 優しくするどころか、困惑しているところに追い討ちかけちゃって……!
って、マスター、今、声は抑えられてたけど肩振るわせて笑ってたよね?
ワタシを笑うのは別にいいけど、ウェイターさんの方を笑ってるんだったら対応を考えるぞ……対応? 何か出来る事あるっけ? ……うん、ないな。非力な私を許してくれ
「ふふっ……それで、今日は何がいい? お昼にはまだ早いから、飲み物だけにするかい?」
いや、今日は特に用も無いし、早めのお昼って感じで「ドローパン」と「ブルーアイズマウンテン」で、そのままお昼時までノンビリとするつもりなんだが……。
というか、そろそろ約束してた時間だし、注文はあの人が来てから一緒でもいいかな?
「『今夜の特別ゲストを招待しよう』」*11
「待ち合わせかい? いったい誰と……」
誰って? たまたまヒマがあったらしく、昨日のうちに「暇潰しに付き合ってみようかしら~」って言ってきた――
「へぇ~、ここが例の「トリシューラ」の……案外普通ね? もうちょっと面白おかしい所だと思ってたんだけど……」
――リョーコさんだよ。
いやいや、リョーコさん。「ドローパン」や「ブルーアイズマウンテン」、「トリシューラプリン」といった遊戯王シリーズ登場メニューや、「マドルチェ」を中心としたモンスター関連のメニューばっかりならんでいる時点で、色々とおかしいと思うよ、このお店。
まあ、大体このお店の
いちおうこの前「あなたは決闘者なの?」って
って、あれ?
「おぅ……」
「……!!」
気のせいか、マスターの口から魂みたいなのが抜けかけているような……?
それに、ウェイターさんもガッチガチに固まってる……「子供が苦手なのかな?」とか考えてたけど、もしかしてワタシ相手で緊張してるっぽかったアレはまだマシだった可能性が?
なんにせよ、注文してもいいですか?
いや、ダメっぽい。ちょっと待つかな……。
―――――――――
結論から言うと、マスターは案外すぐに復帰した。
ウェイターさんのほうはかなり時間がかかった……というか、未だに肩に力が入っている感じがするくらい固い。
やっぱり重度の人見知りなのかな? お試し期間とか言ってたし、もしかしたら人見知り克服の特訓の一環だったりするのかも? よくわからないが、きっとこれからも会うことになるだろうし、陰ながら応援しておこう。
で、妙な空気を作るきっかけとなったリョーコさんはといえば……
「ふむ……「トリシューラ」以外には聖遺物に関係しそうなものは無かったな、用心してきてみたが無駄足か。ただの偶然、たまたま読んだ物語か何かで「トリシューラ」を知りそれを商品の名前に使ったというだけで、私の考えすぎだったか……?」
……と、そんなことを呟いている。
座っている彼女の前のテーブルに置かれているのは、「ブルーアイズマウンテン」ではない普通のコーヒーと《クイーンマドルチェ・ティアラミス》……まあ「ティラミス」だ。
なお、ワタシは予定通り「ブルーアイズマウンテン」と「ドローパン」を注文したわけだが……ドローパンの中身は「焼きそば」だった。つまりは縦に割ったか横に割ったかの差くらいしかない「焼きそばパン」である。「黄金のたまごパン」を外してしまったショックもあるが、ゲテモノでない安堵感と普通過ぎて面白みのない何とも言えない感じが混ざって、おいしいんだけどなんとなくモヤッとした。
にしても、微妙に
もう一つの人格というか、そのネコ被っているのを隠してる理由をちゃんとは聞いたことは無いから的確なことは言えないけれど、隠すんなら隠すでもっとちゃんと徹底したほうが……まぁ、カウンターからは離れているし、他のお客さんもいないからそう気にする必要も無いだろうけど……。
「それに、さっきの感覚……ハッ、有り得ん。奴が接客など……丹精こめて食事を作り、それを人に提供するなど、それこそ天地がひっくり返りでもせん限りな」
え、なに? 話からして、
……いや、ただの人違いっぽいか。だとしても、
「でも、大丈夫? そーんな一杯3000円のコーヒーなんて飲んじゃって。……今日くらい私が払ってあげても良かったんだけど?」
リョーコさんからの、ありがたい申し出ではあるけど……ワタシは首を横に振る。
毎回高い物を注文してるわけじゃないし、そのあたりはちゃんと予定を組んでやりくりしてるから気にしないでいいよ。
「遠慮するわねぇ……。普段頑張ってくれてるぶんのご褒美のつもりなんだけどなぁ」
……そうだなぁ、ご褒美っていうなら、ワタシの意見を聞いて欲しいかな?
クリボー(仮)ちゃんの事も凄く気になるけど、フィーネが何を目的としてノイズを使って人々を襲うのか……そして、なんでノイズ対策の中心に身を置き、そのうえノイズの対抗手段となる「シンフォギア」を作り与えるのか……。
まぁ、ぶっちゃけて言うと、フィーネの目的とやらはノイズによる被害者をこうも多数出さねば成せないことなのか?と問いたいんだけど……教えてくれるかな?
「『お前の言う未来とは本当に輝かしいものなのか?』」
「……?」
「『例えモーメントが歴史から消えても、人の進化の行き着く先が欲望や誘惑に囚われるならば、お前の生きた未来と何の違いがある。それで本当に世界は救われたと言えるのか?』」
「…………」
「『本当に未来を救うためには、みんなの心が正しい方へ向かい、モーメントと共に繁栄できる未来を作らなければいけない――今を救わなければきっと未来も救われない! そうじゃないのか、
うーん……。
フィーネが教えてくれるかどうかじゃなくて、ワタシのお口が聞きたくないみたいだ。……なんでですかねぇ?
というか、遊星さんのイイセリフはいいんだけど、今は世界滅亡とかそんな規模の壮大な話じゃなかろうに…………
ノイズを扱ってあんなに人々の犠牲を出すのも気にせず色々やっているのって、もしかして本当に世界規模の問題に立ち向かうためになりふり構ってないからだったり?
いや、そんなまさか……ッ!?
頭
痛い
熱い
背中
痛い
高く鋭い音
熱い
「貴様ぁッ!思い上がりが過ぎるぞ……!!」
匂い……コーヒーか、それも匂いからして「ブルーアイズマウンテン」ではないな。熱いのはコーヒーで……ああ、横に目をやれば割れたカップとコーヒーが床に飛び散って……つまり、ワタシは店内の床に横になってるわけか。
――繋がった。額の痛みは、リョーコさんもしくはフィーネが投げたコーヒーカップが当たったからで、その衝撃やら何やらでふらついてイスごと後ろにたおれちゃったんだな。で、中身のコーヒーと共にカップが床に落ちて……こうなった、と。
つまり――――
「
どこがどうなったのかはわからないけど、ワタシのお口から出た
熱い……よりも先に、謝るべきだろう。誤射とはいえ
ベチャリッ!!
伝家の宝刀DOGEZAのために、まず立ち上がろうとしたワタシの顔に何かが叩き付けられた。
あんまり痛くは無いけど、これは……甘い。さっきリョーコさんが食べてたティラミスか。
「興が削がれた。今回は戯言だと聞き流してやる……だが、次は無いと思え」
そんなドスのきいた声が聞こえた。
……手でティラミスを拭ったときには、店内にはもうリョーコさんの姿は無かった。
「どのあたりがフィーネに刺さったんだろう?」と考えていると、視界を奪われ、そして、左手に何かを握らされた……。
顔を軽くグリグリされた後に解放され、目を開けば……ティラミスで汚れたタオルを持ったマスターが目に入った。そして、わたしが握らされたのもまた別のタオルのようだ。
見てみれば、カウンター奥のほうにいるウェイターさんは、床に飛び散ったものの掃除のためにかモップを持って来ている。
「ウチのシャワーを使うといい、これで拭いた後にね。その姿で出歩くわけにはいかないだろう?」
ああ、確かに。
頭を中心とした身体も、服も、コーヒーやティラミスで無茶苦茶に汚れてしまっている。……服、奏が買ってくれたお気に入りのワンピースだったんだけどなぁ……シミにならないと良いんだけど。
騒がしくしちゃったこととか、汚しちゃったことは、本当にごめんなさい。そして、タオルとそれとシャワーのことはありがとう、素直に受け取らせてもらいます……。
「キミは大事な常連さんでもあるからね、気にしなくていいさ。それに……」
何か言いかけたマスターだったけど「いや、なんでもないよ」と途中でやめてしまった。……気になるけど、今はそれよりも服の方だ。
と、目の前のマスターの顔が、床の汚れへの対応をしているウェイターさんへと向いた。
「ここの掃除と服の代えは僕がするから、キミはこの子のことを頼むよ。彼女が今着ている服を洗ってあげるといい。シミにならないようにね」
「はい、わかりました」
そう返事をしたウェイターさんは、ワタシの手にあったタオルで手早く全体を拭ってくれた後「こっちだ」とワタシの手を引いてカウンター奥の扉、その奥へと案内してくれた。
―――――――――
そうやってシャワーを借りたわけだが……マスターの趣味だろうか? 浴室はやけに広かったうえに、全体的に装飾がゴテゴテしてた気がする。
何はともあれ、ワタシ自身はキレイサッパリした。お湯をかけた時に
よかった。そんなことになってたらカナデやツバサに隠さないと凄く心配させてしまうだろう。そうなれば、変に気苦労させてしまう――――カナデ、心配してくれるかなぁ……。
カウンター奥の扉の先にあった階段から上がった2階のおそらくは生活用のスペースである一室にいるワタシ。用意してもらった服を着て、イスに座って髪を念入りに乾かしていたところ、何か瓶を持ったマスターとウェイターさんがやってきた。
……二人して来てるけど、お店は大丈夫なのだろうか?
「服は今洗濯しているところだ。まだ時間がかかるから、今度来店した時に返そう」
「ああ、そうだね、それがいい。……それと、これは塗り薬だよ。塗るといい、物がぶつかった個所や火傷を負ったところにね」
そう言ってワタシに薬瓶を渡してくるマスター。
だが、そこに割って入ったウェイターさんが薬瓶を横取りして「私が塗ろう」とその蓋を開け始めた。
……うん、そうだね。カップがぶつかったおでこも鏡を見ないとわかんないし、ワタシでは見えないところがどうかなっているかもしれない。なら、このままウェイターさんにお願いして診てもらうことにした方がよさそうだ。
ワタシはイスに座ったまま服を着崩し、いつでも脱げるようにしてから改めてイスにどっしりと座った。
ウェイターさんは、そのイスのそばにしゃがみ込んで、まず手始めに、ワタシのおでこに薬を塗りだした。……塗りはじめに、ちょっとひんやりしてビクッとしちゃったのは秘密である。
「……少し、いいか?」
ん、どうかした?
ワタシが気付いてなかっただけで、どっか火傷になってたりしてた?
「もしも……もしも、だ」と言ってから語り出すウェイターさん。どうやらワタシの身体の怪我の状況とかそういう話じゃないっぽい。
とりあえず、ワタシはそのお話に耳を傾けることにした。
「
あーっと……つまり、簡潔に言えば「犠牲を伴う選択への賛否」の話かな。
正直なところ、デュエルではよくある事なんだよなぁその手の話は。召喚のための
そして、それを良しとするか、悪とするかの線引きは凄く曖昧なものだ。原作やアニメなどでの描写に関して、決闘者たちで議論に発展するくらいには……。
生け贄にされるということで嫌な顔をするモンスター。モンスターを弾丸にすることを拒むデュエリスト。気にせず自爆特攻するモンスター。やむを得ず犠牲にしてしまうことに謝るデュエリストに、それに無言で応えるモンスター。自らデュエリストに自身を生け贄にすることを勧めるモンスター。きてくれた相棒を手札コストに利用するデュエリスト。自身のライフを削ってまで特定のモンスターを守り続けるデュエリスト。特定のカードを捨てて暴走するデュエリスト……良くも悪くも、本当に様々である。
それらが正しいか否かの結論は判断基準によって結果は変わるだろう。
モンスターとデュエリストとの信頼関係や、状況下で必要な犠牲か否かのモンスターの理解とデュエリストの配慮、根性というか精神論……もう本当に色々な要因があって、正確な答えは無いと思われる。
だがしかし、デュエルとは人生であるが、同時にデュエルでの犠牲とリアルでの犠牲は――一部を除いて――話が別だ。
それこそ、さっきワタシのお口が口走ったセリフで言えば、人類最後の生き残り「
「Z-ONE」にとっての現在――人類滅亡の絶望の未来を回避するために、その未来で滅びたシティを基につくられた空に浮かぶ廃墟の城「アーククレイドル」をネオ・ドミノシティに落とす。シティでの人々の営みやその人命などを軽んじる行動に出るのだが……。
それは、数多くの積み重ねられた絶望や残されたわずかな時間で確かな
……とある世界線*16では、「アーククレイドル」をシティに落して「モーメント」が歴史から抹消された未来が出てくるのだが……その結末は、ここで言わなくてもいいだろう。
とにかく、だ。
「Z-ONE」の行動……何かを犠牲にして、何かを救うことは完全に悪だとは言えない。だが、それ以外の答えが無いとも言いきれないし、そもそも絶対に正解があるような話でもない。
そして、誰か一人がひとつの選択肢を選んだとしてもそれが最終的な結果となるとは限らない。「Z-ONE」が犠牲を払ってでも絶望の未来を回避しようとしたが、それを阻止しようとする人物が多方面にいたように……。
力あるひとりが示す答えがあっても他の人たちが他の解を出し邁進すれば別の結果が生まれる。……そして、成せなくとも、犠牲を払ってでも成そうとした「Z-ONE」がいたことによってはじめて生まれる可能性が――そこに人々の想いや努力が積み重なって初めてあらわれる「輝かしい未来」が――あるのも事実なのだ。
話を戻そう。
ウェイターさんが求めているのは、素晴らしい世界のために犠牲を払ってでも事を成すか、否か。それに対する
タイムリミットなどがどういう状況で、迫っているのがどういう問題なのか。また、何故その犠牲を強いる方法に至ったのかという経緯やその正確性……そういった情報が余りにも足りないんで、ここでは結論は出せません、だ。
「『知らん、そんなことは俺の管轄外だ』」*17
コレハヒドイ。
わかんない、って意味合いは大体あってるけど、あんまりにもつっぱね過ぎじゃあないかな?
ほら見ろ、ウェイターさんが怒っているのか悲しんでいるのかわかんない、複雑そうな
いや、まだだっ! まだワタシの考えは、伝えるべきことは残っている!
さぁ……! こい、こいっ!!
だけど――――!!
「『だが、しかし、まるで全然っ! この俺を倒すには程遠いんだよねぇ!!』」*18
……ダメでした。
もの凄くイイ笑顔(当社比)でいきなりそんなこと言い出す
「そ、そうか」
――怒りも悲しみも消えて、もの凄く困惑しているウェイターさん。そうなるよね。
ため息と共に、ワタシは大きく肩を落とすのだった……。
――――――――――――
薬を塗った後、「本部の人へのお土産用に」とスイーツをいくらか買って店を出た
そんな彼女を店内から見送ったふたり――
「どうだったかい、彼女は?」
「不思議な子でした。確かに、何かしら特別な感じもしますし、貴方が目をつけた理由もわかります。それに彼女が言っていたことには考えさせられる部分もありました。ですが、最後の方は……むしろ危険人物のように思えるくらい、歪んだ……」
ウェイターさんの言葉に、マスターは目をまたたかせ首をかしげた。
「おや? キミには伝えてなかったかな? 彼女の言語能力の不備を」
「聞いてはいます、アレがそうなのですか? 確かに不可解な部分もありましたが……」
ウェイターさんは思い返す。
……思い返してみれば、たしかに大抵変だった。ズレが無いような気がした部分も、よくよく考えてみればどこかおかしいような気もする。
けれど、やはりどうにもしっくりこなかった。なにより、「今を救わなければきっと未来も救われない!」といったあの言葉と、遠目でも見えたその横顔――その目に宿るチカラが言語能力のエラーによるものだとは、ウェイターさんには到底思えなかったから。
「そうだとは思いきれないようだね、下手に噛み合っている部分があったからこそ。しかし事実なのさ、言っている事と思っている事との差異はね」
そう言ったマスターは、一度大きく頷いてから……
「彼女は言ったんだよ、「情報が少なすぎて判断できない」と。そして……「だけど、もしもそんなことになった時には手を貸すよ」とね」
「本当にそうだとして……いや、そもそも何故、貴方は彼女の言葉が理解出来るんですか?」
ウェイターさんが投げかけた当然の疑問。
それを聞いたマスターは髭の奥でニヒルに笑う。
「当然だろう?
「? それは、
そう指摘しても「
「それで? どう判断するんだい?キミはさ」
「正直に言うと、私は貴方を信用はしきれません。ですが……いえ、だからこそあの子の事を見極めたいと思います」
「それはそうと……事情は分かりましたが、勝手な行動は控えてください。あと変装もそうですが、それ以上に口調を直した方がいいのでは? フィーネにバレますよ」
「まあ、あるだろうかね、今日のようなことも。ポロッと素が出ないように気を付けるよ、これまで以上にさ」
「いや、今もその口調が……」ウェイターさんは、そう心の中でツッコミをいれた。
そんな、オリキャラタグ無しなのに名前の出てこないカフェのマスター&ウェイター。おそらく適合者の読者はその正体にお気付きでしょうが……みんなには内緒でお願いしマース!!
解らない方は、とりあえず本編中で出てきている字面通りに受け止めてもらえれば大丈夫です。
あと、ウェイターの表記はあえて「ウェイトレス」ではなく「ウェイター」にしていますので、よろしくお願いします。