我が手には星遺物(誤字にあらず)   作:僕だ!

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※脚注による補足、元ネタの簡易解説完了(仮)


「ファンサービス」
発言者「遊戯王ZEXAL」Ⅳ(フォー)。
希望を与え、それを奪うことで相手に最も美しい顔をさせてあげること。またその行為。

(例)
自分のファンだという相手に対し、「チャンピオンであるⅣにも勝てるんじゃないか?」と思わせるほどのハンデを与え「勝った!」思わせるほどの見せ場を与えた上で、実は全然平気&あっという間に逆転して相手のエースモンスターをいたぶりながらオーバーキル。オ敗者にはデュエルフィールドにお墓をたててあげるオマケ付き。


ファンサービス

(あおい)……」

 

 

どこのブルー(なんちゃら)*1 *2だよ。

リアルもヴァーチャルも《星杯を戴く巫女(イヴちゃん)》と似てないじゃないか。えっ、胸部に関してはリアルとは似てる?*3 ばっか、もっと薄っぺらだよ。

 

 

名乗ることすらできなかったワタシに与えられた名前「(あおい)」。

改めて顔合わせをしてから、ワタシが喋れない・書けないという二重の意味で伝えようが無かったために議論され付けられてしまったワタシの名前。

例のワタシを知っている様子だったメガネの女の人は「それでいいんじゃないかしら? 髪も青いし」とか適当なことしか言ってくれなかった。《星杯を戴く巫女(イヴちゃん)》の名前までは知らなかったのだろうか……あるいは、知っておきながら周りに伝えようとはしてなかったのかもしれない。どうしてかは知らないけど。

というか、あの人は二人きりの時と他に人がいる時とではまるで態度が違う。具体的に言うと、他に人がいる時は雰囲気が丸くなる代わりに、まるでワタシのことを知らないかのように振る舞うのだ。……実は、ワタシは彼女の隠し子でそれを察せられないために……無いな。

 

 

いや、今この場にいない人の話はひとまず置いておこう。

 

 

 

 

ワタシを寝かしつけようと、向かい合うようにして共にベッドで横になっていた《アモウ カナデ》――字では天羽(アモウ)(カナデ)だったかな?――の、ワタシの髪を優しく()でていた右手が不意にその動きを止めた。他でもない、ワタシよりも先に寝てしまったのである。

その手はちょうど髪がかかっていたワタシの(ほお)乗る(そえられる)ような形で力が抜けており、重い……とまでは言わないが、そこはかとない違和感を感じてしまう。

 

しかし、その手を払い()けようとは思えなかった。

触れた手から伝わってくる温もりが嫌いではなかったというのもあるけれど……それ以上に、こうして先に寝入ってしまうほどカナデが疲れている原因が、こうした下に生活させて貰っているワタシにもあるのではないかと思え、払い除けた際に起こしてしまうかもしれず気が引けてしまっているからだ。

 

 

 

 

 

彼女と共に生活するようになってから一週間と少し。《星杯を戴く巫女(イヴちゃん)》のちびっ子ボディに不慣れな事もあって何度も迷惑をかけてしまっていたが、それも段々と落ち着きを見せてきた……と自分では思っている。事実、失敗の数は目に見えて減っているのだから。

 

おかげで、ワタシ一人でも困ることなどそうそうなくなった。

……とは言っても、一人での外出は禁止であり、カナデの借部屋とワタシを保護した組織――トッキブツとかいう変な名前だった――とを行き来するだけの生活。ゆえに、ワタシがすることが許されている事といえば、それこそ家事や読書くらいだ。

 

カナデが時折「翼もこれくらいできたら」だの何だの呟いていたのが少々気になりはするけれど、それ以外に問題は……。

 

いや、不満はあるにはある。

それはインターネットどころか、テレビすらも使わせてもらえないことだ。というか、距離を置かされているというべきか? まあ、テレビに関してはカナデといる部屋にいる以外ではワタシが主に行く場所――トッキブツのメディカルルームや研究室――にはそもそも無いので、意図的に離れさせられているのかは微妙ではある。

おかげで、色々と確認しておきたいことがあるにもかかわらず、全くと言っていいほど情報を集めることができていない。

 

 

 

まぁ、なにはともあれ、何故か得たワタシの《星杯を戴く巫女(イヴちゃん)》としての生。上手くやっていけそうである。

 

ワタシは、頬に触れたままのカナデの右手に静かに自分の右手を重ねて、その温もりを確かに感じながら目を閉じた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

「――――、――――ぞ」

 

 

不意に意識が覚醒した(させられた)

少しばかり息苦しさを感じてしまう程度の締め付け。反射的にもがいて逃れようとするが、思った以上に身体が動かない。

何故……いや、その答えはすぐに得られた。

意識を手放す直前までと同じくベッドに寝転がっているワタシ、そのすぐ目の前に、正に眼前と表されるべき距離にカナデがいたからだ。近すぎて実際にはほとんど胸部あたりしか見えないのだが……。

 

この状況に真っ先に思い浮かんだのは「寝ぼけて抱き枕にされてしまったのでは?」という可能性だったのだが、どうやらそれは違うらしい。カナデはワタシをガッシリと抱きしめながらも時折ポンッポンッと背中をふんわり叩いており、その上、優しく言い聞かせるかのように何か言ってきているのだ。

 

 

 

「大丈夫、落ち着けって。ここには葵を虐めるヤツはいないから、な?」

 

「落ち着くのはそっちだ」とか「苦しいんですけど」などと言いたいところだけれど、残念、ワタシのお口はいうことをきいてくれない。

肩でも背中でも叩いてなんとか「放してくれ」と意思表示ができたらよかったんだろうが、抱きしめられている体勢やそもそもの体格差の関係もあって、何度か身体を動かし試みてみたが上手くいかなかった。

 

 

「何かあっても、あたしが護る。だから大丈夫……」

 

 

やはり、そのカナデの言葉と声色からして、何故こうなったかはわからないけれど少なくともカナデ自身は至って大真面目にワタシをギュッと抱きしめ優しく背中を叩いているということはわかった。

ということは、詳しくはわからないが「落ち着け」と言っている以上、逃れようともがくのは逆効果だろう。……実のところ、冷静であるつもりだったが寝ている最中にいきなりという事もあって、案外ワタシも混乱していたのかもしれない。

 

 

 

さて、抵抗をやめ大人しくしたわけだが……やはりと言うべきか、先程考えていたように天羽奏はその腕に込めていた力を緩めてくれた。まだ完全には放してはくれなかったが、身体を押し付けられるほどではなくなったのでようやくちゃんと顔を見ることが出来るようになる。

 

ワタシを見るカナデは、笑っていた。ただ、その笑顔は普段のカラッとした軽快な笑みとは違う、ホッとした安堵感から自然と漏れ出したような柔らかい笑みだった。

 

「おはよう、ってのも変か。まだまだ暗いし」

 

外は全然真っ暗闇。深夜そこらの時間帯、確かに「おはよう」ではおかしいだろう。

 

そんなことよりも、さっきのアレは何だったのだろうか? いったい、何があって……と聞きたいところではあるんだけど、あいも変わらずワタシは喋ることが出来ない。聞こうにも問うことが出来ない。

よもや、ここまで自分自身に困ってしまうとは。記憶にある前のワタシも含めても、これ以上無いくらい面倒くさい。

 

 

「大丈夫か? もの凄く()()()()()()から何かあったんだとは思うけど……恐い夢でも見たか?」

 

ワタシを撫でながらカナデが言ったことを聞いて、おおかた理解し納得した。

なるほど、寝ていたとしてもすぐ隣にいるワタシ(ひと)がうなされだしたら気づくだろうし、落ちつかせようと何らかのアクションを起こして当然だ。

結果、ワタシは落ちつくというか、目覚めて混乱したわけだが……なにはともあれ結果オーライということにしてしまえばいいだろう。

 

 

しかし、「恐い夢」か。

言われてみれば何か見ていたような気もするな……?

 

 

 

海、波飛沫のあがる音。

 

緑の髪をした人物、突き出される手。

 

浮遊感、衝撃、冷たい海にのまれる感覚。

 

 

――――こうすればよかったんだ! *4 *5

 

 

そんな声が聞こえたような聞こえなかったような?

 

……って、それってまるで、遊戯のカードである《封印されしエクゾディア》*6とそのパーツカード*7を投げ捨てた羽蛾(はが)*8じゃないか!? なんでよりにもよってその場面? しかも、ワタシの視点がエクゾディア側だったのが……なんとも意味不明である。

どんな夢見てるんだ、ワタシ。

 

 

 

 

「そんな顔するなって。さっきも言ったけど、もし何かあってもあたしが護ってやるから、な?」

 

はたして、ワタシはどんな顔をしていたのだろうか? またもや、カナデにギュッと抱きしめ撫でまわされだしてしまう。

 

 

 

「■■……」

 

ん?

 

今、ワタシのことを抱きしめているカナデの呟きが、変に耳に残った。

聞こえたのは人の名前のようだった……が、聞き覚えはまるで無い。よく聞く「(ツバサ)…」という呟きでもない。そして、トッキブツにいる人達の名前でもなかったと思う。

もちろん、ただ単にワタシがたまたま聞いたことがなかった(知らなかった)という可能性は十分にある。トッキブツの人たち全員のことを覚えているわけでもないし、ましてやカナデが通っている学校のクラスメイトのことなどほとんど知りもしないのだから。

 

……身元不明という立場もあるが、喋れない・書けないワタシは学校なんて縁が無いのだが、それはまた別の話だ。

 

 

「あのころの■■もちょうどこのくらいだったっけ?……いやっ、どっちにしろ重ね合わせるのは悪いよな、(あおい)にも■■にも」

 

んん?

 

「あのころ」とか「だった」とか、過去形なのが……うん、気のせいだよな。きっとワタシが気にし過ぎてるせいで、脳内で勝手になんでもかんでも変な方向に捻じ曲げて受け取ってしまっているだけだ。そうに違いない。

カナデが昔亡くなった誰かをワタシに重ねて見てるとか、そういうのじゃあ決してない…………はず。

 

 

これ以上何か聞いてしまってはワタシの精神衛生上よくない。

もしも()()なら、問題の先送りをしているだけであり無意味な抵抗だろう。だが、それでもワタシは意地でも眠るべくカナデにこちらから軽く抱きつき目を瞑ってみせた。

 

 

「……おやすみ、葵。恐い夢もあたしが追い払ってやるから」

 

ワタシの意図を感じ取ってか、カナデはそう言ってから撫で回していた手を止め、抱き締めも数段ゆるくなった。それでもやはり放してはくれなかったが。

……まあ、先程寝付く前にも思ったように、存外ワタシは人の温もりというのは嫌いではないので、これはこれで良しとしよう。今度は文字通り包まれるほどの温もりなので、悪い夢は見ないのではないだろうか。

 

 

 

先に寝息をたてはじめたのがカナデだということはご愛敬である。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

翌日。

 

カナデはツバサと音楽活動でどうたらこうたらあるそうなので、いつものようにワタシはトッキブツに預けられることに。学校の時とかもそうなのでもう何度目になることやら。こっちもむこうも完全に慣れたものである。

ただし、それなりの役職を持っている面々は時折難しい顔をする。「彼女とセイイブツは~」とか「セイイブツの回収を~」とか事あるごとに星遺物(せいいぶつ)について話してるっぽい。ワタシの今いるトッキブツは研究施設っぽいし、もしかすると星遺物(せいいぶつ)を研究する施設・組織だったりするのか?

 

「星遺物」テーマで研究施設と言えば魔法カード《星遺物(せいいぶつ)機憶(きおく)*9に描かれている(おそらくは)星遺物の過去にあたるであろうあの施設を思い浮かべてしまう。とはいっても、アレとは違って獣っぽいのとかエルフっぽいのとか小人っぽいヒトはいないのだけど。いたらいたで、それこそ本当にココが「星遺物」世界ってことになりかねなくってフラグがいっぱいになって困ってしまうんですけども。

……あれ? じゃあなんで「星遺物(せいいぶつ)」の話なんてしてるんだろう? あれだろうか? 実はみんな遊戯王のコアなファンだとか……それならワタシのことを《星杯を戴く巫女(イヴちゃん)》だとわかるはずかぁ。

 

 

「――――ふん、だんまりか。以前からお前は……今はそれ以上か。わかりきったことだ。自主性の欠片も無いお前が一人でどうこう出来るはずもないのだから……となると、なおのこと今までの動向が……いや、どちらにせよお前には選択肢など無い。まだ()()はこちらの手中にあるも同然、変な気をおこせば……わかっているな?」

 

 

……何の話だ?

 

メディカルチェックを終え医務室で二人きりになり、雰囲気も変わり普段とは別方向にお喋りになったワタシを知っているっぽい女の人――櫻井(サクライ)了子(リョウコ)――リョーコさんが、一人でペラペラ何か言ってるのを聞き流しつつ、少し困ってしまいそうな事に思考を割く。

 

それは「ワタシが忘れているんじゃなくて、実はリョーコさんが勘違いをしているだけでワタシは人違いなのではないか?」という懸念だ。なんとなくうろ覚えではあるが、リョーコさんやその他数人うっすらと思い出しかけている顔はあるのだが……それこそ昨晩のことではないが夢で見ただけの存在くらいに(しか)記憶されている(いない)

しかし、リョーコさんとの会話――正確には喋っているのはリョーコさんだけなのだが――はまるで噛み合わない。言葉を返せてないのだから当然のことだと感じるかもしれないが「そうだったかも?」なんて思うことがまるで一つも無いのでどうにもそんなことを考えてしまう。

 

ホント、何を言ってるんだろうかリョーコさんは……。

 

 

「もう少し判断が早ければな。起動された杖の件もだが、ココに匿われることが無ければもう少し駒として使い勝手も良くなるが……今から距離を離そうにも正攻法では無理があり、力技ではどちらか片割れを失いかねん。時限式であろうと失われるのは現段階では問題がある。天羽奏を中心に思った以上にご執心なのが面倒だ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

オイ待てコラ。

 

あまりの唐突な発言にキャラがブレてしまったが今はそれどころじゃない。

 

話の流れからして、ワタシが保護された場所は、そのカナデの家族が亡くなった発掘跡地で……おいおい、それじゃあやっぱりアレなのか? 昨晩カナデが言ってた人物はそこで亡くなったカナデの家族の誰かなのか?

「あのころの■■もちょうどこのくらいだったけ?」とか言ってたから、何年前の出来事かはわからないが今のワタシの大きさ考えるとおそらくその人物はカナデよりも年下と思われる。ということは「()()()」ではないだろうか?

 

「妹」ならヤバくないか?

だってさ、カナデにとって死んだ妹の代わりがワタシで、そのワタシにカナデはご執心でって、何それフラグたちまくりな予感っ!?

 

 

 

 

ん?

……あれ? あれれ? いつの間にかワタシが《星杯を戴く巫女(イヴちゃん)》じゃなくて《オルフェゴール・ガラテア》ポジションになってるんですが、これはどういうことだろう?

 

いや、落ち着いて考えればわかる。心配ないとわかるはずだ。

 

まず、ワタシは《オルフェゴール・ガラテア》のような人形ではない。……中身が純粋な《星杯を戴く巫女(イヴちゃん)》ではないという意味では合ってはいるかもしれないがそれだけだ。

次に、ワタシやカナデを取り巻く環境。世界観は勿論だが、幼馴染(アウラムくん)――は、もしかするとツバサなのかもしれないが――守護竜(イムドゥーク)妖精(リース)は影も形も無い。星遺物(せいいぶつ)は言葉だけはやけに聞くからグレーではあるが、それ以外は限りなく別世界。

最後に、兄《星杯に誘われし者(ニンギルス)》とカナデとが乖離(かいり)している。共同生活の中で風呂の世話もしてもらったりもして胸部なり何なりも見たことがあるがカナデはまぎれもない女性である。()にはなりえない。それに兄《星杯に誘われし者(ニンギルス)》とは切っても切れないアイテムである「(ヤリ)」とは全くもって無縁。

 

結論、ワタシの取り越し苦労である。

自分が《星杯を戴く巫女(イヴちゃん)》であるせいか、ありとあらゆることを「星遺物」ストーリーを基準に考えがちになってしまっている感がある。この悪癖、少しは何とかしたほうがいいのかもしれない。

 

べ、別にビビったわけじゃあない。断言しよう。

 

 

 

 

「大体、お前は――――」

 

「失礼する……っと。何かあったのか?」

 

「別にたいしたことないわよ~? 女同士水入らずでコミュニケーションをとってただけっ♪」

 

司令(シレイ)こと《風鳴(カザナリ) 弦十郎(ゲンジュウロウ)》が医務室に入ってきて、ようやくリョーコは長々としたお喋りを止めた。そして、何とも素早く手慣れた変わり身である。まるで別人のようだ。

……実は、さっきまでのは闇人格*10 *11だとかそういうのだったりしないだろうか?

 

 

さて、そのゲンジュウロウさんだがトッキブツの総司令官、つまりここで一番偉い人だそうだ。

 

ワタシの印象としては、熱血漢的だがほど良い距離感を心得ている兄貴質の面倒見の良い親戚のおじさんみたいな感じ。

一応何度か面と向かって会話(私は喋ってない)したことはあるが、その時も内容をなるべく噛み砕いて優しく言い聞かせるような感じだった。というか、ワタシがいることを意識してか、仕事をしている姿さえも人当たりがいいというか子供受けがよさそうな軽快なお兄さん(おじさん)でしかなかった。

……実は裏でヤバイ実験を主導してるとかだったらショックだ。まあ、カナデも所属してることを考えるとそんなことはあり得ないだろうけど。

 

 

「それで? どうしたのよ、いきなり。そもそも、貴方は一応今日はオフだったはずでしょ?」

 

「いやなに。いい加減、年頃の子供を室内に縛りつけておくのはいかがなもんかと。まずは練習で俺が散歩がてら街に連れ出してみようと思ってな」

 

「まさか今から? そんないきなり、護衛も監視も無しに……って、弦十郎君にはいらない心配よねそれは」

 

「おうっ! その辺りの手配はすでに終えているさ!」

 

「そういう意味じゃないんだけどねぇ~?」

 

よくわからないが、どうやら今からワタシはゲンジュウロウさんと街へとおでかけをすることになったようだ。

住んでる家と、地下にトッキブツ本部のあるリディアン音楽院までの道しかほぼ知らないワタシからすれば、とんだ大冒険である。

 

 

メディカルチェックの際にリョーコさんに預けておいた「鍵杖(けんじょう)」をひょいと掴み、それをトッキブツからという名目で渡された(プレゼントされた)斜めがけのバットケース――を模した特別製の一品――の中に詰めこむ。

これで、一定距離離れたり、ワタシの意思どころかちょっと考えただけでも手元に瞬間移動したりしていた「鍵杖」の持ち運びが随分と楽になったのだ。トッキブツ様々である。……十歳そこらの女子がバットケース背負ってるのもいささかおかしいかもしれないが、「鍵杖(あの杖)」をそのまま持ち運ぶよりは何倍もマシだろう。

 

 

 

そうしてゲンジュウロウさんに連れられて医務室を出て行く際に、リョーコさんがワタシだけを呼び止め、「女の子のお話よ。すぐに終わるから」とゲンジュウロウさんだけを先に行かせた。

また、小難しいことをきかされるのだろうかと内心面倒に思ったのだが、その表情や声色からしてそういうわけでもなさそうだった。

 

 

 

「……念のためにいっておくけど、あんまり影響されないようにね?」

 

 

 

…………?

はて? どういうことだろうか?

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

リョーコさんに言われたことが気になって少し身構えてしまったが、ゲンジュウロウさんに連れられてたどり着いたのは、なんてことはない前いた世界でもあった至って普通のレンタルビデオ店。

「もしかして、そこで選ぶラインナップが何か変なのか?」とも考えたが、見た目十歳そこらのワタシ(イヴちゃん)に合わせたアニメ映画を重点的に選ぶ気配りの良さしか無かったので、思い過ごしだったのだ。それも、一作品(ひとつ)一作品(ひとつ)ワタシにパッケージを見せ簡単な説明をして反応を見た上で判断する徹底っぷりで感心すらするレベル。

 

そうして選ばれたものの中には、いわゆる日アサの女児向けアニメ劇場版や、ジ〇リ、海の向こうのネズミさんのところのヤツ……それ以外にもいくつか見覚えのある作品(モノ)があった。

でも、ずらっと並んだパッケージを見て「あれ? この作品(コレ)はあるのにあの作品(アレ)は出回ってないのか?」と疑問を抱くことが何度かあったので、何もかもが前いた世界と同じわけではないらしかった。

 

 

 

 

そうして、特に不満も問題も無くレンタルビデオ店をあとにしたワタシとゲンジュウロウさんだったが……

 

 

「ん? どうかしたか?」

 

道沿いのとある店の前。そこではワタシは足を止めた。

ガラス張りの向こう側に見える店内には、商品棚の他に、イスが備え付けられたいくつかの長机が置かれているスペースが。そこでは老若男女は言い過ぎかもしれないが年齢性別様々な人たちがカードゲームを和気藹々と、時に真剣そのものの様子で楽しんでいるのが見えた。

 

これはいい。前の世界でもそうそうなかったぞ、こんないい雰囲気のカードショップは。

 

「なんだ、カードゲームに興味があるのか?」

 

無いわけがない。

前いた世界はそういう世界ではなかったが故に仕事になったりはしなかったものの、生活のすぐそばにカードゲームがあるくらいにはワタシにとってかけがえのないものだったのだから。ワタシ自身が《星杯を戴く巫女(イヴちゃん)》になっていなかったら、今頃遊戯王成分不足で禁断症状が出ていたかもしれない……いや、流石にそれは盛りすぎか?

 

声の無いワタシの反応からどれほど読み取ってもらえたのかは不明だが、ゲンジュウロウさんは「なるほど、なるほど!」と何故か満足気に呟きながら頷いた。

 

「実は、前に縁あってカードゲームを題材とした劇場版アニメを観る機会があってな。そこから少しばかり脚を突っ込んだ時期があって、今でもたしなむ程度ではあるが俺もやっていたりするんだ」

 

意外や意外……と驚くことは無かった。

だってゲンジュウロウさん、見た感じからして良いデュエルマッスル*12 *13してるから「あっ、やっぱり?」と思うくらいですんなりと受け入れることができたのだ。

 

 

「ならば、簡単にではあるが俺がレクチャーしようっ! もちろん、(あおい)くんが気に入ってくれそうなデッキ……カード一式も用意するさ!」

 

 

手持ちのカードもおこずかいも無いワタシにとっては有り難い。至れり尽くせりとは正にこのことである。

正直に言おう。ワタシは《星杯を戴く巫女(イヴちゃん)》になってから最も胸躍らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やろう! ヴァン〇ード*14!!」

 

 

希望を与えられ、それを奪われる。その時、人は一番美しい顔をする……らしいから、きっと今のワタシは美しい顔をしているんだろう。*15

 

*1
ブルーエンジェル→ガール→メイデン。遊戯王VREINSの舞台の一つ仮想空間「リンク・ヴレインズ」内の女性アバター。アバターはその見た目・名前を変更できるのだが、彼女は見た目・名前共に変更回数最多である

*2
財前葵(ざいぜんあおい)。ブルーなんちゃらの現実世界の姿「遊戯王VREINS」のヒロイン……と思いきや主人公との絡みはイマイチで、協力したり人質になったりした彼女の兄の方がヒロイン力が高いのでは?と言われたりもした

*3
放送開始前の頃から、リアルの財前葵よりもアバターのブルーエンジェルの胸部が盛られていると話題になっていた

*4
虫野郎でおなじみインセクター羽蛾が、後述する最強のカード「エクゾディア」に勝つにはどうしたらいいか?その答えが「海に投げ捨てる」という盤外戦術どころではない所業。その際に発した言葉がコレである

*5
なお、原作とアニメ版の「遊戯王DM」とでは微妙に違う模様

*6
手札にこのカードと《封印されし者の〜》というパーツ4種を揃えると勝利となる「相手のライフを0にしたら勝ち」というゲームの大前提を覆す元祖特殊勝利カード。世の中にはこれを揃えるためにただただカードを引きまくるデッキがあったりなかったり

*7
《封印されし者の右腕》《封印されし者の左腕》《封印されし者の右足》《封印されし者の左足》

*8
インセクター羽蛾。原作や「遊戯王DM」に登場。その名の通り虫をモチーフとした昆虫族カードを好んで使う。全日本の大会で優勝するほどの実力者……のはずだが、相手のカードを捨てたり、自分の用意したカードを相手のデッキに勝手にまぜたりと卑怯な手を使うため小者臭が漂っている

*9
魔法カード。特筆すべきはそのイラスト。どこかで見たような特徴を持つ人物がチラホラいる他、とあるジャックナイツの設計図?やイヴちゃんの杖らしき物も見受けられる

*10
所謂「闇遊戯」「闇バクラ」「闇マリク」などの存在のこと。もう一人の◯◯。本来の体の持ち主とは別の存在・人格であり、基本的に元よりも過激だったり攻撃的だったりする。なお、上記の3人の中では「闇マリク」だけ出自が異なる

*11
以降の作品にも闇落ちやら別人格のようなものがよくあるが、固有の名称があったり特に何とも呼ばれていなかったりと特別「闇◯◯」と呼ばれることは少ない

*12
その名の通り決闘者の筋肉、転じて筋肉質な決闘者。カードゲームに筋肉は必要なのか? いや、必要である。動く必要のあるアクションデュエルやバイクを乗りこなす必要のあるライディングデュエルはもちろん、決闘者にリアルダメージが入るデュエルでは体力が持たずに敗北した例もある。ゆえに精神的にだけでなく肉体的にも強くなければいけない

*13
また、引きたいカードを引く(ドロー)ために必要な「ドロー力」にもデュエルマッスルは関係している……らしい

*14
「イメージしろ」でおなじみのスタンダップするカードゲーム。遊戯王とも少しばかり縁がある

*15
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