我が手には星遺物(誤字にあらず)   作:僕だ!

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約2カ月、大変ご迷惑をおかけしました。
世界の流れに置いていかれて、色々、ヤバイくらい書くべきこと書きたいことがあるんですが……そんなことより、本編書けって話ですし、とりあえずこの前書きでは一つだけ……


『マスターガイド6』がヤバイ(語彙力)
そして、その辺りのことは……「今後の話には組み込むけど、イヴちゃんの中身は『マスターガイド6』の内容は知らないままで書き進めていく」ことにして、これ以前のお話の中でのイヴちゃん内の考察等は(※個人の意見です)ってことにして修正とかは特にしない方向で行こうと思っています。


今回のお話、諸事情により視点は一転二転する上に、それぞれの間で時間がほぼ同時期だったり、結構経っていたりします。ご了承ください。


2-15

「カ・ディンギル」。

 

それがノイズを操っている存在(ひと)「フィーネ」の目的に繋がるモノだとわかったのが、今朝のこと。

 

話を隣にいた響の持つ通信越しに聞いてた私は、すぐケイタイからネットで調べてみた……けど、出てきたのはゲームの攻略サイトくらいで「カ・ディンギル(それ)」が何なのかは全然わからなかった。

 

 

その正体……とまではいかなくても、どういうものかを真っ先に突き止めたのは、遅れて通信に参加した櫻井(さくらい)了子(りょうこ)さん。

二課に所属している研究者兼技術者の大人な女性で、響も普段からお世話になっていて私も何度も会ったことのある人なんだけど……その了子さんが「カ・ディンギル」というのは「高みの存在」、転じて「天を仰ぐほどの塔」だと教えてくれ、響や翼さん、奏さんたちはその調査に乗り出すことになった。

 

 

でも、すぐ後にノイズが発生して、それで……色々あって、今、私はリディアン音楽院の地下にあるシェルターに避難していた。

 

 

他に私や響と同じクラスの友達の寺島(てらしま)詩織(しおり)ちゃん、安藤(あんどう)創世(くりよ)ちゃん、そして葵ちゃんとも友達だっていう板場(いたば)弓美(ゆみ)ちゃんも一緒の部屋にいる。

他の部屋(くかく)には、他のリディアン生や一般の人も数人いるみたい。

 

 

 

……そう、私がいるのはリディアンの地下は地下でも、私も響と一緒に度々お邪魔していた秘密基地のような「二課本部施設」じゃなくて、表向きある学校内での避難場所である「地下シェルター」にいる。

 

「東京スカイタワー」近辺でノイズが出現してから響と別れた私は、()()()避難ついでに二課へ行って現場で頑張って戦っている響の、みんなのことを見守りたかった……何かしてあげられることがあるわけじゃなかったけど、そうするつもりだった。

 

 

けど、問題が起きた。

 

 

 

 

リディアン音楽院がどこからか現れたノイズの群れに襲撃された。

 

 

民間人の避難誘導を終えた緒川さんと私が、ノイズへ注意を払いながら二課本部へと降りるエレベーターへと乗った。そこへ駆けこんできた了子さん。

その了子さんが……二課の敵だっていう()()()()()()()()()()

 

 

 

エレベーターに入って来た時点では私は特に違和感は覚えなかった。あえて言うなら「通信してから時間はそれなりにあったはずなのに、まだ本部に来れてなかったんだ。もしかして、家が遠かったり……?」なんて考えていた程度。

 

……でも、今思えばあの時、一緒にいた緒川さんの雰囲気が少し変わってたような――――ううん、もし「櫻井了子=フィーネ」のことをあの時知っていたとして、()()()()()()が私みたいな素人に察せられるような変化を表に出すかな? そもそも、私が知ったからこそ今になって「もしかしたら……」と思っただけだし、確証なんて無いわけで……

それに、もしわかってたならわざわざ本部に入れることをするとは……だけど、事実了子さんが本部に入るのは止めなかったのだから…………予想してなかった、確信が無かったから迷った、あるいは――()()()()()()()()? でも、何のために?

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

今、私の前に立ち塞がっているのは、私や融合症例の娘(タチバナヒビキ)の友人と共に地下の本部行きエレベーターに乗っていた緒川慎次……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

本部の最深部へと続くこの通路で拳銃を片手に私と対峙していた緒川慎次は、今しがた天井に穿たれた穴から降ってきた風鳴弦十郎と入れかわるようにしてこの場から姿を消した。

 

……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、数的有利を捨てこの場から離れたからには何かしらの理由があるのか?

疑問に思わなくも無いが、それ以上に今は最深部に安置されている「デュランダル」の確保が優先される。こちらにも懸念材料は多いため急ぐに越したことはない。

 

そのためにも、まずは目の前の風鳴弦十郎への対処を早急にしなければなるまい。

しかし――――

 

 

()()()()の予想はしていた……が、まさかここまでお早い到着とは。ずいぶんと準備がいいな」

 

風鳴弦十郎はその鋭い視線を私から離さず、拳を握り構えたその姿勢のまま口を開く。

 

「通信でキミに「カ・ディンギル」の話題を振ったすぐ後にノイズが「東京スカイタワー」を狙った時点で確信した、キミが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故に、即急に対策の()()をしたのさ」

 

「ふん……つまりは有り合わせの対策でしかないだろう? いくら貴様が超人的な身体能力を持っていたとしても、その程度の応急処置じみた対策では「ネフシュタンの鎧」との()()()()()を果たした私を止めることはできはしない。さっき逃げた緒川(やつ)と一緒になったほうがいいんじゃないか?」

 

心中では「それでも、敵にはならんだろうが」と呟きつつ、一歩踏み出す。

近づくため――ではなく、足元に転がる()()()()()を踏みにじるために。

 

銃弾(それ)は先に相対していた緒川慎次が、私にむかって拳銃で撃ち放った弾丸たち。

銃弾(それ)は私の胸部へと突き刺さった……が、「ネフシュタンの鎧」がもつ能力(チカラ)である再生能力による再生の際に体外へとこぼれ落ちた残骸。私が完全優位であること――二課を含む敵対連中のいかなる力も通用しないことの証明。

 

それをあえて口にせず、口角を釣り上げる――しかし、私の眼前にいる風鳴弦十郎の身体・視線・表情からは、全くもって動揺や迷いは感じられなかった。

 

 

それにしても……本気で勝てるつもりでいるのか、風鳴弦十郎(コイツ)は? さきに言った通り、超人的な身体能力や格闘センスがあることは認めるが、それでも再生能力を遺憾なく発揮できるよう融合し制御した「ネフシュタンの鎧」を纏った私が後れを取るはずが無い。

肉弾戦による傷はモチロン、通常兵器による損傷も再生できる。唯一の懸念材料といえば、それこそ私が向かっている先――この本部の最深部――に保管されている、無限のエネルギーそのものとさえ言える完全聖遺物「デュランダル」くらいだろう。周囲への被害を省みず、アレのエネルギーの奔流で焼き尽くされようものなら…………だがしかし、厳重に保管されている「デュランダル」はいくら最高司令官であっても持ち出せはしない。それこそ、保管設備の破壊や()()()()()()()()()()()なんてことをするのであれば話は別だが。

なんにせよ、風鳴弦十郎(コイツ)には「ネフシュタンの鎧」への有効な対抗手段が無いことは間違い無い。

 

……しかし、根拠の無い自信と気合で押し切りかねないとも思えてしまうのが、風鳴弦十郎という男でもある。

風鳴弦十郎(コイツ)のことはある程度理解しているため、動じないことは半分予想はしていたし、勝機が薄くとも責任感で立ち向かい気合で無理矢理押し込んでくることも予想してはいた。

 

 

だが、()()()()()

 

 

まるで「見透かしているぞ」とでも言い出すのではないかと思えてしまうほど真っ直ぐな眼。

実際にはそんなことはないだろうが……余裕ともとれてしまいそうな堂々としたその態度に、私は少なからず苛立ちを覚える。

 

 

 

だから――だけでなく、手早く済ませて計画を進めるという意図もあるが――私は半歩踏み出すのと同時に、「ネフシュタンの鎧」の左右から伸びる1対の茨を用いて、機動力を削ぐ足元と、それを避けた先の致命傷となり得る首元を狙った二連撃を……速く、鋭くくり出すッ!!

 

 

しかし、ほぼ同時に風鳴弦十郎も動く。

避けるのではなく、こちらへと向かって一直線に距離を詰めてきた。

 

が、茨の軌道をわずかに調整するだけで対処できるレベルだ。その勢いのまま拳を振りかぶってくるが、その前にヤツの脚と首元に致命的な一撃が入ることは目に見えている。

 

 

こちらのほうがわずか一手……ほんの一瞬だけだが確かに早い。その拳は間に合わめり込む――――

 

 

 

 

 

「ガ…ぁ…………ッ!?」

 

 

――――()()()()()()()()()()()()……!?!?

 

 

聖遺物と完全な融合を果たしているとはいえ、その基盤となっているのは間違い無く人間(ひと)のモノ。身体を作り上げている要素は聖遺物由来のモノとなっている部分が大半だが、体構造自体は現時点では人間の骨格と何ら変わりない。

故に感じた。自分の身体の中から、嫌な音が聞こえてきたのが。

 

 

とっさに腕を振るい、「ネフシュタンの鎧」の茨も用いて振り解きそのまま打ち付けようとする。だが、万全の状態では無い事もあってか風鳴弦十郎には悠々と避けられてしまう……。

しかし、一旦距離を取ることはできた。

 

いったい、どういうことだ?

風鳴弦十郎の超人的な身体能力は把握している。その上で先程は完全に動きを読みきっていたはず……。だというのに、その予想に反して、ヤツは私の攻撃を避けきり強烈な一撃を私に叩きつけてきた。

 

 

「映像と(じか)と見るとでは違うものだろう? データだけではわからんものが戦場にはあるのさ」

 

「確かに、キサマのことを甘く見ていた部分はあったようだ。しかし、結果は変わらん。「ネフシュタンの鎧」の能力(チカラ)、忘れたわけではあるまい……「再生」だ。この程度――――」

 

相変わらずのあえて口角を釣りあげ、鼻で笑ってみせ――

 

 

 

――違和感

 

そして気付く。

鈍く、しかし焼けるかのようなジリジリとした痛みが未だに続いていることに。

 

呼吸による僅かな動きだけで、嫌でも認識せざるを得ない痛み。

痛みが私に教えているのは、他でもない身体の損傷――生物が元来持ち合わせている生存のため必要な警告(シグナル)なのだから、生命活動に関わる損傷(そういったもの)があって当然――だが、何故だ……?

 

「な……」

 

自然と落された(しせん)

風鳴弦十郎の拳がめり込みできた痣、内出血、歪んだ肉や切れた筋、折れたりヒビが入った骨……それらが()()()()()()()()()()()()

 

 

 

あまりの予想外の出来事に思考が入り乱れ――――

 

「ぜぁっッ!!」

 

「――――――っ!?!?」

 

目の前の敵はそのスキを逃すはずも無く、私の身体に再び――いや、続いて三度(みたび)と衝撃が走る。瞬間的に圧迫された身体からは声も出ず、ただただ空気が何かの液体と共に口から吐き出されるばかり。

 

困惑し平静を欠いた思考の中では、今しがた風鳴弦十郎からどのような攻撃を受けたかすらマトモに観測出来ず、そんな中でも苦し紛れの反撃もロクな手応えが無い。

 

 

「……ぜだ…? 何故、 治らん……ッ!?」

 

「想定通り、ノイズ対策に用意していたモノが効果覿面のようだなッ!!」

 

口から漏れ出した疑問に、答えは返ってこなかった。が、()()()()()()()()()

しかし、未だに風鳴弦十郎からの攻撃は止まらないっ。

 

 

「ぐぅぅっ!!」

 

 

痛みに耐えつつ、悪あがきでも抵抗しながら思考を巡らせる。

 

今、私の身に起きている異常は、偶然などではなく「ノイズ対策に用意していたモノ(なにか)」によるものだということはわかった。

しかし、ノイズ対策だと? 二課の――いや、世界的に見ても明確な「対ノイズ」のモノなどそれこそ「シンフォギア」以外に在りはしない。そんなものがあれば、とっくの昔に二課の活動でも使われているだろう。

 

例外的に、完全聖遺物は何かしらの効力を持つ物もある――――が、それは全てが全てノイズを消滅させるに至るわけではない。それぞれの持つ能力(チカラ)にもよる。

第一、完全聖遺物となるとそう簡単に持ち出したり使用が許されるわけではない。それこそ、例外的に()()()が杖や、どこかにしまわれている鎧の聖遺物を持ち歩いている。だが、アレはどうしても()()()の手元へと行ってしまうためであって特例中の特例だ。

 

 

そもそも、特別なんのアクションも無しに「ネフシュタンの鎧」の再生能力を封じるようなマネが出来る聖遺物など聞いたことも無い。

私は今の今まで聖遺物研究の第一人者である櫻井了子として、二課を含む日本政府全体が保管してきた聖遺物はその見た目と能力を全て把握している。もっと言えば、私はアメリカ政府側でも活動をしてきたが、あちらでもそのようなモノはなかった。あえて挙げるのであれば()()()だが……それならばもっと目に見て判り易い現象が起きるはずだし、日本が類似の聖遺物を保有しているという話も聞いたことがない。

 

故に、今、風鳴弦十郎が使えるような聖遺物で私が知らぬものなど――――いやっ、あった! ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「っ!! まさか、貴様――――()()()()()()!?」

 

 

「風鳴の秘宝」

それは、古くから続く防人(さきもり)の一族「風鳴家」がいつからか保有している()()()()()()()()()存在(モノ)の総称。見た目、能力、ひとつなのか複数なのかも不明……そもそもその実在するのかすら疑われるほど。()()()()()()()()()()櫻井了子も「噂で聞いたことがある」程度しか知らなかった代物だ。

 

もちろん興味を持ち、何とか調べようとしたこともある。

しかし、いくら問い詰めようと懇願しようと風鳴弦十郎(コイツ)はその存在をそれとなく認めはしてもそれ以上はだんまり。それの詳細は話してはくれず、当然見せることも調査も許可してはくれなかった。

「ならば」と、それらしい理由を並べたり、コネなんかも可能な限り使って、なんとか日本政府からの要請として秘宝の調査協力を「風鳴家」に求めたことも……。が、裏で何かあったのかもしれないが、それさえも退けられ――やはり「風鳴の秘宝」の正体に至ることは出来なかった。

 

 

風鳴の秘宝(それ)」が今、目の前にある――かもしれない。

いや、そうでなければ現状に説明がつかない。逆に言えばその存在を考慮すれば、風鳴弦十郎の謎の自信にも納得がいく。

 

ただ、その「風鳴の秘宝」の姿が見受けられないことが多少気にはなる。

私の予想では、その秘宝は風鳴のルーツである防人(さきもり)に関係のある――あるいはそれらに混じっても違和感のないモノ。例えば刀や薙刀、鎧といった武具などだろうと踏んでいたのだが……目の前の風鳴弦十郎(コイツ)はそういったモノを持っているようには見えない。

私の見当が外れていてもっと別の形をしたモノのか、あるいは完全聖遺物ではなく聖遺物のカケラが持つ力を、シンフォギアのような「歌」では無い何かで増幅させているのか……。なんにせよ、その姿はパッとは見当たらない。

 

 

「「ノイズ対策」……そうか! ()()()――()()()と共に「皆神山」へと行ったあの時に、軽率とも取れる警戒態勢でありながら私の提案をすんなり通したのは、追跡していたあの忍びに()()を持たせていたかっ!!」

 

思い当たったのは、「ネフシュタンの鎧」の起動と奪取のために仕組んだあの「ツヴァイウィング」ライブの一件があった後に、表向きは櫻井了子(わたし)()()()()だけで向かった「皆神山の謎の通路の調査」の時の事。結局は「皆神山」内の遺跡が謎の崩壊を起こし、(なにかしら)のエネルギーの発生が衝撃波となったのかノイズが消滅させられたため、陰から追跡していた緒川慎次がノイズと交戦するには至らなかったが……。

だが、そう考えると今このタイミングで風鳴弦十郎が切り札を隠し持っていたことに納得がいき――――同時に、疑問を超えて怒りにも似た激情が湧き上がってきた。

 

「国からの要請でさえ門外不出だった秘宝を持ち出すどころか、よそ者に預けるまでするとは風鳴(キサマら)は何を考えている!?」

 

「さあな。あいにくその辺りは俺の知ったことじゃぁない。俺はただ、万が一に備えて出来ることをしてきただけだっ!!」

 

くり出された拳をなんとか凌ぐ。

最初は予想外だったその拳にも大分慣れてきた。しかし、完全に無効化することも出来ず、加えてこれまでに蓄積してきたダメージもあって、ついには膝をついてしまう。

 

「……このまま大人しくお縄についてもらおうか」

 

そう言った風鳴弦十郎は、これまでと同じく私の予想を超えた速さで……いや、その上を行く拳を振り抜いてくる。

 

 

 

無慈悲な一撃。この一発で確実に私を沈めるつもりなのは明白。

 

受けるわけにはいかない。

退くわけにはいかない。

この()()()()()()()()()()()の中でようやっと()()へと手が届こうかという櫻井了子の(この)人生……この機を逃すわけにはいかないのだっ!

 

力を込め、立ち上がりながら――カウンターを狙った一撃を放ちながら――――

 

 

 

 

 

「弦十郎君っ!!」

 

「っ!?」

 

 

フィーネではなく、櫻井了子としての顔と声で目の前の男の名を呼んだ。

 

 

輪廻転生(リインカーネイション)システム。

自分の因子を持つ存在が聖遺物が発する「アウフヴァッヘン波形」をあびた時、その人間の中で上書きする形で地上に再誕することが出来る。それが(フィーネ)という存在が――()()()()()()()()()――現代に在り続けている理由であり、目的のための執念のカタチである。

 

つまり、少なくともこの身体はフィーネとして目覚める前は、間違い無く風鳴弦十郎の同僚であり仲間だった。向こうにもその意識はあるだろう……となれば、情に厚いタイプである風鳴弦十郎が何とも思わないはずが無い。

その読み通り、ヤツの両眼は大きく見開かれた。そして――――

 

 

 

「ぬ、グッ……ゥ」

 

「ぃッ!か……ぁ!?」

 

 

 

拳の勢いは弱まったし、直撃は避けられた。だが、これはどうよく見ても()()()()

 

 

風鳴弦十郎の拳はズレ、私の脇腹をとらえ――その勢いに合わせて私が反射的に身をよじったことで、結果、身体にめり込むことは無く衝撃の多くを受け流すことができた。だが、それでも肋骨を含めた骨の幾らかに異常が起きているためお世辞にも無事とは言い難く……やはりというべきか、「ネフシュタンの鎧」の再生能力が発揮されておらず、傷が癒える気配がない。

 

対して、私の腕の、そして茨のスペックを最大限振り絞りくり出した突きの一撃は風鳴弦十郎の腹を貫き、ヤツは身体をくの字に曲げて――――――

 

 

――――チャガッラッ

 

 

数多の傷を負った結果荒くなっていた私の息づかいに交じって、硬質感のある音が私の耳に届いた。

 

 

その音の発生源はすぐにわかった。が、同時に()()()()()()()()()()()()()

 

風鳴弦十郎の腹を貫いたはずの、「ネフシュタンの鎧」から伸びた桃色の茨。それが通路の床に落ち音を立てた。

そう、私が茨を引き抜いたわけでも、風鳴弦十郎自身が引き抜いたわけでもなく、ヤツの身体からこぼれ落ちたわけだ。

 

自然と(ついかってに)私の視線が、ヤツの身体と抜け落ちた茨とを行き来し――――気付く。ヤツの身体を、肉を貫いたはずなのに綺麗すぎる。その上、床には血だまりどころか血の一滴も跡が見当たらないことに。私の放った一撃は、風鳴弦十郎の腹を貫けていなかった……!?

つまり、起死回生の一撃は()()()()()()()()()()()

 

更に、気付く。つい先程殴られた場所とは――加えて言うなら、これまでの攻撃で設けた覚えの無い()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

視覚、そして痛覚が伝える現実に混乱しながらも、私はある可能性に思いたつ。

 

 

――まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!?!?

 

 

「ネフシュタンの鎧」の再生能力を封じるだけでなく、自身が受けるダメージを相手に押し付けるなどという因果干渉レベルの事象まで操る聖遺物だとでもいうのか、「風鳴の秘宝」は!!

あるいは、複数の聖遺物を同時に……?

 

 

再生能力が発揮できず、蓄積しつづけたダメージによってついふらついてしまい……数歩下がりながらも、通路の壁に手をつきなんとか体勢を保つ。

 

 

「くっ……まさか、ここまでとは。貴様、演技を……いや()()()()()()()()()()()

 

何故か無い私が貫いたはずの腹部を注視していて――あるモノに目が止まる。

 

黒い瘴気(しょうき)

 

それが、風鳴弦十郎の身体のあちこちにまとわりついていた。

 

「「()()」……いや、精神力でその数歩前にどうにか踏み留まっているのか。どうやら、キサマといえど「風鳴の秘宝」の完全制御までは至っていなかったようだな」

 

「……っ」

 

以前、半分事故で起動した完全聖遺物「デュランダル」を手に取った融合症例(立花響)が、そのエネルギーに、破壊衝動に塗りつぶされた……いわゆる「暴走」状態。

それとは細かい症状は違うものの、風鳴弦十郎もあの時の融合症例のように(クロ)に呑まれかけていた。

 

だがしかし、風鳴弦十郎は完全には飲み込まれず踏み留まっている。

それは完全聖遺物「デュランダル」と謎の聖遺物(?)「風鳴の秘宝」との差異からか、あるいは「融合症例の少女」と「超人的な身体を持つ大人」という差異からか、それとも風鳴弦十郎の内にある義務感、正義感、その他もろもろの気合か――――はたまた、先程私の口から出てきた櫻井了子の言葉が引き留めたのか。

 

 

なんにせよ、私が一瞬「私の意表を突き、隙をつくるための演技ではないか?」と考えてしまっていた「負傷していないにもかかわらず、身体をくの字に曲げて動きを止めた」ことは、外傷ではなく「風鳴の秘宝」の暴走を押し留めようとしていたためだと理解した。

 

同時に、もはや目の前の風鳴弦十郎(こいつ)をわざわざ相手をする必要は無い事も理解した。

 

私は傷付いた身体に鞭打ちながら、つい少し前までと立場が変わって膝をついてしまった風鳴弦十郎の脇を通り抜ける。

 

 

「上にいた時、小日向未来(小娘)が装者へ連絡を取った事を考えれば……今回ばかりは()()の先を読んだような働きによる足止めも期待は薄いか。余裕はほとんど無いと思ったほうがいいな。……ちっ、生命力も丈夫さも規格外な貴様へトドメを刺す時間も惜しい」

 

「ま、待て……ぐッ」

 

 

ついには倒れ伏してしまいながらも引き留めようと声を上げる風鳴弦十郎を無視する。

その頭の中は、口にした言葉とは異なることを考えていた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

暴走していてもいなくともあの「ダメージを相手に押し付ける能力」がまだ有効だった場合――――生命力が高いからといって確実にトドメを刺そうとすれば、逆に私が致命傷を受けてしまう。しかも、どの程度の負傷から押し付ける効果が発揮されるかもわからない現状、一度弱い攻撃で様子を見た上でトドメを刺すというのもやはり大きなリスクがつきまとう。そもそも、並の攻撃ではこの男を傷付けられん気さえするのだからなおのことだ。

 

ならば、風鳴弦十郎が所持しているはずである「風鳴の秘宝」を奪取してから……というのも、やはり危険だろう。

「窮鼠猫を噛む」などという言葉があるように……いつもの気合でもどうにもならずに倒れた風鳴弦十郎であっても、おとなしく身体をまさぐらせてはくれないだろう。それに「風鳴の秘宝」の姿形を知らないのもこの手段を取らない理由である。

 

であればと、極力安全策を取ろうとすれば……それこそ時間的な問題になってくる。

 

もちろん、装者たちが戻ってきたところで、私が負けるとは思わない。

だが、目的達成のための計画に支障が出る程度の被害を受ける可能性は捨てきれない。その可能性を0にするには、装者たちが来る前にある程度まで準備を済ませておく必要があるだろう。

ならば、行動不能に陥っている風鳴弦十郎相手にここで時間を費やすのは得では無い。

 

 

それに――「風鳴弦十郎にはまだ何かあるかもしれない」――そう、私の中の警鐘は鳴り響いている。

 

 

 

私は計画を推し進めるために、完全聖遺物「デュランダル」がある最深部を目指して歩を進めた……。

 

 

 

そして――――

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来からの「リディアンがノイズに襲撃された」っていう通信がきて――それが途切れてすぐに、気づけばわたしは駆け出してた。

 

最短で、真っ直ぐに、一直線に……それでも、リディアン音楽院までの道のりは長くて、随分とかかってしまってた。

もしかしたら、わたしの体感が長かっただけで、実際はもっと短かったのかもしれないけど……とにかく、たどり着くことはできた。

 

 

 

「未来……みくーーーーっ!!」

 

リディアンまであと少し!って辺りで嫌でも気付いてたけど……遠目からでも見えていたリディアンの校舎は影も形も無く崩れていて、瓦礫の山でしかなくなってしまっていて……呼んでも、呼んでも、いくら呼んだって未来からの返事も、その姿も……っ!

 

 

「こいつはいったい……!?」

 

後からの足音と声にハッと振り返ったけど、そこにいたのはようやく一緒になってノイズと戦うことができたクリスちゃんだった。

その後ろからは、クリスちゃんに続いてわたしを追いかけてきてたんだろう翼さんと奏さん、そして葵ちゃんも走ってきてた。

 

「ただ単にノイズが襲ってきただけなら、校舎そのものがここまで壊されるものなの……!?」

 

「状況的に、(やっこ)さんはリディアンの地下にある特機部二の本部を狙って大暴れしたって考えるのが妥当だな。くそっ……! 通信が不通になってるのは電波妨害かと思ってたけど、まさか――っ」

 

奏さんの言った()()()()()に、身も心も震え上がる。

「未来が地上(ここ)にいなくても、地下の本部にいてくれれば――」なんて考えていたけど、もしも地下の本部まで襲撃されていたとしたら、未来は――――!?

 

 

 

そんな絶望的な考えが浮かんでしまったわたしの耳に、わずかだったけど確かに瓦礫の上を歩く音が届いた。

 

 

聞こえてきたのは、瓦礫の小山のひとつ向こうから。わたしやみんなが来た方向とは反対方向からだった。

 

誰かいるんだっ!!

 

居ても立っても居られなくて、わたしは駆け出した。

小山を越えた先に見たのは――見えた人は――――

 

 

「了子さんっ!! 無事だったんですね」

 

 

独特なお団子ヘアで白衣を着たその姿を見て、駆け寄りながら「みんなは、未来は!?」と問いかけようとして――――

 

 

 

そんな私の横を疾風が通り過ぎ――銃声が響いた。

そして――了子さんの左頬に赤い一線が引かれた。

 

 

 

「クリスちゃん!? 何して――――!」

 

銃を撃ったのが誰かは、すぐにわかった。持ってる人をわたしは独りしか知らなかったから。

だから、振り返ってアームドギアを構えたクリスちゃんを止めようと――

 

「やっぱりかっ……見た目は多少変わってるが、今のアタシの目は騙せねぇ。状況証拠も十分すぎっぞ……フィーネ!!

 

 

 

「は?」

「な、櫻井女史が……!?」

「…………えっ」

 

クリスちゃんの口から出てきた言葉に、奏さんも、翼も――わたしも固まった。

 

「うそ、ですよね……? だって、了子さんはいつも、わたしたちを……」

 

信じられない。

でも、確かに、こんな状況で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ううん、だけど、いやだ。状況証拠って……他にも、了子さんだったら……繋がって……!?

 

 

グルグルグチャグチャ、考えも気持ちも、わかんなくなるくらいまぜこぜになってしまって――――おさまったのは、いつの間にか頬の傷が無くなってる了子さんの口角がニヤッとつり上って、今まで見てきた優しい笑顔とは違う、その笑顔を見たから(見てしまったから)

 

 

「いささか早いが……まぁ許容範囲内だな。にしても、半分予想してはいたが、まさか私の手駒を連れてノコノコやって来たか」

 

そう言った了子さんが白衣を脱ぎ捨てたかと思えば、一瞬淡い光を放って――――次の瞬間、その格好が一変した。

見たことが無いはずなのに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、お団子ヘアがほどけ色が茶から金色へと変わったロングヘア、そして同じく金色になった瞳が細められた鋭い目……どれもわたしの知っている了子さんとは似ても似つかないものだ。

 

 

「ハッ! 誰が手駒だ、自分から捨てたくせに……いや、もうアンタとアタシの道は違えてる。そもそも違ったんだよっ、見ているモンが!! アンタの下で犯してきたアタシの罪は……消えたりなんかしない。でも、戦いの火種を増やしては潰して、力も罪も無い人たちの犠牲の上で成り立たせる平和なんてあんたが言ったやり方なんかじゃ不可能だったんだ! パパとママの「夢」は……そんなモンじゃあねえ! それをアタシは実現してみせる! それをアンタに、潰させやしねぇぞ!!」

 

ようやく手を取り合えたクリスちゃんの決意の言葉。

それを聞いて、敵だからとわかり合おうとせずに戦ったりはせずに、向かい合おうとしてきたことはきっと意味が無くなんてなかったんだ!って思えて、どこか胸の奥辺りがほっこりとした。だから、わたしは改めてクリスちゃん助けたい、一緒にいたいって思えた。

きっとわたしの望んでる世界も、クリスちゃんの言う「夢」の中にあるモノだと思うから……。

 

 

 

「お前の意志など、私にはなんの興味も無い」

 

だけど、了子さんはそれを心底興味が無いかのように切り捨てた。

凄く冷たい目でクリスちゃんを見て、一度鼻で笑ってから嘲るように言ってくる。

 

「第一、お前のような多少歌のチカラを持ってるだけで子供の遣いも出来ん、使えん無能など手駒にもならん。それなら、雑魚でも頭が回り使いようのある奴を手元に置くさ」

 

 

クリスちゃんの表情が歪んだ。

それは怒ってるような、悲しんでいるような…………()()

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――――――「『僕だ!』」

 

 

 

 

「…………え…………?」

 

 

頭の中に、ぽっかりと真っ白な穴が、空いた。

それでも、自然と体は、()()()()()声が、した方へと顔が向く――――

 

 

後ろへ振り返った先に見えたのは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 




やめて!意味不明な体の不調で出てくる迷言で、勘違いされて皆との関係が悪化したら、闇のゲームで(イヴ)ちゃんと繋がってる『作者(僕だ)!』の精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないで(イヴ)ちゃん!
あんたが今ここで倒れたら、奏さんやキネクリボーとの約束はどうなっちゃうの?

ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、フィーネに勝てるんだから!



次回「(イヴ)ちゃん死す」デュエルスタンバイ!



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