我が手には星遺物(誤字にあらず) 作:僕だ!
反応を返すのは少し時間が必要となりますのでご了承ください。
原作と変わってるようで、変わってなくて、でもやっぱり変わってる……そんな物語。
視点がコロコロ変わったり、今までの過去最長のさらに3割増しくらいの長い文章になっていたりします。
ちゃんとお話として表現しきれているか、まとめきれてるか不安ですがよろしくお願いします。
聖遺物らしき見たことも無い大きな盾によって「カ・ディンギル」の砲撃はなんとか防がれた。
葵が盾と共に光となって散っていった空……私は見上げた視線も身体も動かせずにいた。
――――消えゆく者に、名乗る名前は無い
葵が、私たちに本当の名を――自身の素性を一度たりとも教えようとすらしてくれなかった事に対して私が真意を訪ねた際、葵が言い放った言葉が私の頭の中で思い起こされていた。
だが、それはとんだ見当違いだった。
「まさか、あの時の言葉は……!!」
そうだ、あの言葉は「
つい忘れてしまいがちではあるけれど、葵は明確な原因のわからない言語能力の異常を抱えている。けれど、あの言葉は嘘偽りの想いではないと私は不思議と確信を持っていた。葵はあの時点で
人々の営みを、人命を護る自己犠牲。
そんな葵の姿は、防人としては尊ぶべき
あの夜……「ネフシュタンの鎧」を纏った雪音クリスに対し、自身への反動も省みず「絶唱」を放ち倒れた私。その行為が過ちだと、他でもない
バゴォンッっ!!
硬い何かが砕ける音が聞こえた。
見れば、捻って上半身を「カ・ディンギル」のほうへと振り返ったフィーネが、あの茨を高速で伸ばし一撃を放っていた。瓦礫が吹き跳び、地面をえぐり突き刺さっていたのを、鎧の根元を持って引きぬき何やら呟いて……?
「今、
フィーネの呟きに違和感を覚える。
アイツ……? この状況でこの場所の現れるような人物で、フィーネが警戒・攻撃するような存在が……?
真っ先に思い浮かんだのは
と、私は一拍置いて
その「死」を越える事象……葵の持つ完全聖遺物のチカラ、「蘇生能力」を。
まさか、あそこに葵が!?
たしか以前に
ならば、その時の様に葵が現れ、それに気づいたフィーネが始末しようとして……!?
いやっ、フィーネがあの一撃を放ってからの一部始終を見ていたが、先程のような光の粒…あるいは血のような葵があの場にいたと考えられる物証は一瞬たりとも見て取れなかった。それに、さっきフィーネ自身が呟いていたように、奴の勘違いだったのだろう。
だがしかし、葵があの時の様にこの周辺に
もしそうなら、フィーネよりも先に見つけ出さないと――でも、そのフィーネから目を離すわけにもいかない。だからといって、やっぱり葵を放っては置けな――――
ほんの少し前にも体感したその揺れを、「カ・ディンギル」崩れた学院の校舎の下から姿を現した後に忘れるはずはなかった。
「まさか!?」
この揺れは「カ・ディンギル」が地上に出現した時と、その砲撃のエネルギーの充填の際に起きていた振動だ。つまり――――
もう三発目が、くる!!??
あのとんでもないエネルギーを必要とする砲撃を、すでに二度撃っているにもかかわらずエネルギーは衰え知らず。これまでと変わらない速さで充填されていっているように思える。
これがエネルギーを無尽に生み出す完全聖遺物「デュランダル」のチカラだというの!?
一発目は棒状の巨大な謎の聖遺物が空から降ってきて砲身に突き刺さったことで防がれ、無理矢理押し留められて暴発一歩手前だった二発目は、盾の聖遺物を用い葵がその言葉通り全身全霊で防いだ。
しかし、アレが今みたび発射されたとして、月を守る
……! いや、まだ充填が始まったばかりのはず! ならば、発射前にエネルギーの充填を止める、又は「カ・ディンギル」そのものを破壊してしまえば阻止できるはず……!!
そんな私の思考を他所に、フィーネは私たちのことはすでに眼中に無いかのように目を向けることもなく、今ここに姿のない者に向かって語りかけはじめる。
「あんな巨大な聖遺物を如何にして手に入れ隠し持っていたのかは知らんが、そんなことは多少のズレこそ
芝居がかったかのような
「いくら蘇れたとして、何度も死ぬ苦痛に耐えられる? 痛覚を遮断できるわけでもあるまいし、オマエの精神はいつまでもつ? ……尤も、砲撃を防ぐことを次も見逃してやるつもりはないがな!!」
先程のように身を挺して砲撃を防ぎ続ける。私にも考えられなくはない
けどそれはフィーネの語った通り、何度も死をその痛みを体感するということ。常人であればそんなのは耐えられないことは目に見えている。加えて言えば、葵が抱えている言語能力の異常が「蘇生能力」の代償による異常である可能性も捨てきれないため、なおのことその
そうだ……! これ以上、葵を苦しめるわけにはいかない!
砲撃を防いだという実績で、フィーネの中で葵と私たちとの警戒度の差が生まれたにしてはいささか極端で疑問が残る――が、今ばかりはそれが幸いする。
その明確な隙を突いて、なんとか「カ・ディンギル」を破壊できれば……!!
「――――ぁアァぁっ!!!!」
「っ!?」
フィーネの隙を突つ、そのタイミングを見定めようとした私の耳に入った叫び声にハッとし目を向ければ、そこには奏の姿が。
けど、何か違和感が……私と奏との距離、いつの間にここまで離れている……?
……いいえ。「突如」なんていったけど、もしかしたら私は自分で思っている以上に
「奏っ!?」
「――――――――!!!!」
より一層怒気に溢れ悲痛に満ちた叫び声と共に、
それはただの色ではなく、離れていようと嫌と言うほど感じられてしまうほどの刺々しい
初めて見る奏の姿に唖然としつつ――――しかし、思い当たる
「……まさか『暴走状態』!?」
以前、立花が完全聖遺物「デュランダル」の護送をした際に、偶発的に起動してしまった「デュランダル」を保持するためにソレを手にしたことによって成った
あの時は、立花の纏うギアとなっている体内の「ガングニール」のカケラと起動した完全聖遺物「デュランダル」、その2つの聖遺物のチカラのぶつかり合いによって発生・増幅された破壊衝動が立花の中で抑えきれなくなったため発症した。
聖遺物のカケラと融合してしまっている――融合症例である立花だからこそ起こり易いと考えられるそうだが、融合症例でない私たちでも決して起こらないとは言い切れない症状らしく、複数の聖遺物の同時起動の他にも装者の感情の変化によっても起こりうるという。
……もっとも、それは敵であった
しかし、思い返せば、つい少し前まで奏がシンフォギアを纏えなくなっていたのも、感情――その精神状態が起因となってしまっていた。そう考えると、装者の精神状態とシンフォギアとが密接なことはほぼ確実。であれば、もしも装者の感情が何らかの原因で怒りや憎しみといった破壊衝動へと繋がる
その
ノイズに家族を奪われ、その復讐心からシンフォギア装者となった奏を私は知っている。血反吐を吐いてまでギアを纏うことに執着した姿を、手に入れた
なら、今はあの頃よりも激しい衝動に駆られているのだろう。それは、あの頃は持っていなかったチカラを持っていながら護れなかったからか、あるいは葵の素性云々やフィーネの言動に揺さぶられ不安定な精神状態になってしまっていたからか……。
「騒がしいと思えば、キサマか天羽奏。身の丈に合わない
「ガァアァァッ――――!!!!」
黒く染まりきった奏が叫ぶ、「カ・ディンギル」による地響きに劣らぬほど大気を震わせる咆哮。
周囲の瓦礫を砕き散らすほどの力で踏み抜かれた一歩で飛び出す奏。そのまま真っ直ぐにフィーネへと叩き付けられる
「破壊衝動による暴走か。瞬間出力やそこから来る破壊力は確かに脅威が無いとは言い切れない。だが、その動きはあまりに愚直でワザとでもなければ当たる気もせん…………そもそも完全聖遺物と比べれば、シンフォギアなど
横薙ぎに振るわれた「ネフシュタンの鎧」の茨は、隙の大きい大ぶりな攻撃後だった無防備な奏の横っ腹へと吸い込まれるように叩き込まれ――巻き付くように奏の身体を拘束し、その勢いのまま振るわれて浮き上がり――――地面へと叩き付けられた。
「グハァッ……!!」
「奏ぇっ!!」
「奏さん!?」
葵の事を、そして目の前の状況を整理するので精一杯だった未熟な私。けれど、奏のうめき声を聞き、頭の中のモノを振り払いようやくその場に縫い付けられていた足が動いた。暴走する奏を止めるためか、そんな奏を傷付けるフィーネを打ち倒すためか、どちらなのかは、私自身にもわからなかった。
走りだしたのは私だけじゃない。奏の名前を呼び駆け寄る、悲痛な表情をした立花。
そして、視界の端に映る赤いシンフォギアを纏った少女・雪音クリスの姿。
走る私たちが共に見据えるのは、反撃をしようとする暴走した奏を足蹴にするフィーネ。その口元は不敵な笑みに歪んでいて――――
「ようやく迎える世界の変革……それまでの暇潰しに、踊ってもらおうか」
―――――――――
学院に現れたノイズから逃れ、緒川さんと共に二課本部に降りている最中に
シェルター内を移動した理由は、実は他にもあった。
二課の本部でよく響と一緒にお世話になっていたオペレーターの男性・藤尭さんが、詳しくはわからない何かの機材を持って通路を駆けている姿を見つけたから。
「この緊急事態に何か手伝えることが少しでもあれば」というのは建前。地上の様子が――「東京スカイタワー」近辺でノイズと戦っていたはずの響の事が少しでもわからないかっていうのが本音だった。
そばにいたクラスメイトの3人もついて来てしまうっていう想定外のこともあったりしたけど、藤尭さんはついていくことを認めてくれた……あるいは、事情説明とか追い払ったりとかする時間も惜しいほど急を要する事態だったのかも。なんにしても、私としては有り難いことだった。
はたして、外の様子を私たちは知ることができた。
破壊されたリディアン音楽院の防犯カメラなどをはじめとして、万が一を想定したシステムを万全とは言えない環境の中でなんとかその一部を利用することが出来、外の
鮮明とはいえないけどディスプレイに映ったその映像。そこには校舎の瓦礫の上に立つシンフォギアを纏った響と翼さん、纏えなくなっていたはずの奏さん、あと話では何度か聞いていた雪音クリスちゃんって子。そして、あの独特の衣装と鎧を纏った葵ちゃんも。相対しているのは、特徴的だった頭の上にお団子状にまとめ上げられていた髪をおろし、その髪色を金へと変え……服も、見慣れた白衣ではなく鎧に変わった
戦わずに何か話しているみたいで、映像だけだった私たちにその内容は伝わってこなかった。けど、すぐに藤尭さんが外に生き残っている機器が無いかの捜索とアクセスを行い集音できないかを試すと言って凄いスピードで操作を始めた。
と、そのほとんど同時に、私たちのいる部屋に緒川さんと風鳴司令が入ってきた。ふたりとも目立った怪我こそ無いけれど、服の所々に汚れや疵があった。特に、緒川さんに肩を借りている風鳴司令は明らかに普段の力強さが感じられなくなってた。
司令と緒川さんは自分たちの身体のことも早々に、私たち共に藤尭さんがつけたディスプレイから外の様子をうかがい……険しい表情になった。
「やはり、葵君は……フィーネの……くっ!!」
呻きながら立ち上がり部屋の外へと行こうとする司令、そしてそれを止める緒川さん。
「いけません、司令! 今の状態の貴方にできることは何も――」
「だからと言って、このままだと……! あいつらがあの子と戦うことなど出来るはずがない! させるわけには、いかんだろ!!」
断片的な情報でしかない言葉だったけど、それでもわかってしまった。葵ちゃんがフィーネの――私たちの敵であり、響たちが戦わないといけない相手なんだと。
信じられない反面、納得できてしまう部分もあった。シンフォギアと異なるチカラを持った完全聖遺物の運用。そして寝食を共にしてた奏さんや翼さんに次いで、何かとそばにいることがあった
「そんな……そんなの嘘だ! あの子が裏切る悪役なんて、絶対ありえない!!」
ビックリしてしまうほど響いた大きな声。その声の主は、私についてきてて話を聞いてしまってた板場弓美ちゃんだった。
二課のこととかシンフォギアのこと、ここ最近の一連の
ふたりが一緒にいるところは数回しか見たこと無いけど、それでもわかるくらいに傍から見ても仲が良さそうに思えるコンビだった。弓美ちゃんは葵ちゃんが悪い奴の仲間だと思えないんだろう……私もそうであって欲しいと思う。
けれど状況が――そして、藤尭さんの尽力によって聞こえてきた外のみんなの会話と、その画面越しに見える表情が――葵ちゃんとフィーネの関係を……私たちの敵であるということを、確信に変えさせる。
『嘘であるものか。コイツは最初から櫻井了子がフィーネであることを――アメリカと繋がりのあるスパイであり、ノイズを出現させ操っていることを知っていた。それを密告していない時点で……答えは明白だろう?』
衝撃的な事実を突きつけるフィーネの言葉も――――
『『希望を与えられ、それを奪われる。その瞬間こそ人間は一番美しい顔をする……それを与えてやるのが俺のファンサービスさ!』』
響や奏さん達に対してあざ
それでも、弓美ちゃんは信じて疑わなかった。「あの子が誰かを傷付けることなんてするはずが無い」、「ちょっとオッチョコチョイで変人でも、悪役なんて務まらないおバカさんなのよ」って。
果てには「何とか外に出てあたしが問い詰めてやるんだから!」なんて言い出すほどだった。もしも
その全く疑いもしない様子が流石に気になって、なんでそう断言できるのか私は聞こうとしたけど…………シェルターに複数の悲鳴が響き渡り、タイミングを逃してしまうことに。
大きな揺れ。
地鳴り。
そう、それが「カ・ディンギル」の出現と
………………
…………
……
そこからは一転二転する怒涛の展開だった。
砲撃を防ごうとしたクリスちゃんの邪魔を葵ちゃんがしたかと思えば、空から巨大なナニカが降ってきて、フィーネの仲間で二課に潜んでたスパイだと思ってた葵ちゃんがそのフィーネを実は裏切ってて、そして……「カ・ディンギル」のまさかの二発目の砲撃を、葵ちゃんが命がけで止めて……っ!!
そこまででも部屋の雰囲気は「悪い」なんて言葉だけじゃ表せないほどとても沈んだものになった……。
だけど、そんな私たちを現実は休ませてくれるはずも無くて、事態は刻一刻と変わっていく。
三発目の砲撃の充填開始。奏さんの暴走状態への変貌。その奏さんの強襲をものともせずにフィーネが迎撃したことが皮切りに始まったフィーネ
こうして画面越しで見ててもわかる。響たちはフィーネに遊ばれてる。
単純な力の差だけじゃあないと思う。精神的余裕の無さが、そこから来る焦りが響たちの行動を鈍らせ、さらには連携が取れなくなっている。そもそも、これまで連携をする機会なんて無かったクリスちゃんがいるだけでなく、周りの事なんて眼中に無い様子で暴れるように何度もフィーネに襲い掛かり続ける奏さんがいることも状況の不利に拍車をかけてしまってる。
どう考えても限界を超えた動きで酷使してしまっている奏さんを止めないといけない。だけど、充填の始まっている「カ・ディンギル」も止めないと大変なことになる。そして、フィーネはそれらを
そんな様子を見守ることしかできない私たち……
そして、葵ちゃんのことを信じ続けていた弓美ちゃんは今――――泣き崩れている。
二度目の砲撃の時――砲撃の光で画面が白まり、その轟音が聞こえてくる中で葵ちゃんの叫び声が遠くに聞こえたあたり――で、弓美ちゃんは膝から崩れ落ち声を上げて泣き出してしまったのだ。
へたり込んで嗚咽をもらす弓美ちゃんのそばには、詩織ちゃんと創世ちゃんが寄り添ってあげている……けど、ふたりは弓美ちゃんにかける言葉が見つからず――ううん、それに加え画面越しに見る現実離れした現状についていけなくて、口をつぐみ苦しそうに歪めるだけだった。
……と、女の人に肩を貸した友里さんが、他にも数人の避難者を連れて入ってきた。その中には、学年は違うけれどリディアン音楽院の生徒もいた。
「む、どうした」
「連絡通路の崩壊と一部シェルターが破損し安全面が不確なため、避難場所が減少。本来の収容可能人数よりも超えてしまっていて……」
「いや、この状況だ。やむをえまい。とは言え、ここもあまり良い状況とは言えないが……」
申し訳なさそうに言う友里さん。この状況下で出来ることがどれくらいあるかはわからないけれど、それでも一応ココは今、仮の対策本部的な立ち位置になっている。シンフォギア等の機密情報を取り扱う以上、一般人がそばにいることは好ましくないからだろう。……それを言ったら、私たちリディアンの学生メンバーもアウトな気もするけれど。
対して、風鳴司令は問題無いと力強く頷き承諾する。けど司令さんの表情はどこか優れないように思える。「良い状況じゃない」って、ここのシェルターは別段崩れかけだったりはしないはずだけど……ああっ、でも、現状で外の状況がわかってしまうというのは、わからないよりも恐怖や不安で精神面でよくない。それは、戦ってる響たちの事を知らない人たちにとってもきっとつらく苦しいものに違いない。
「あっ!「かっとびんぐ」のおねえちゃんだ!」
「「えっ」」
不意に、肩を貸された女性の隣に寄り添っていた幼い女の子が部屋の雰囲気からは場違いの明るく元気の良い声をあげて軽い足取りで駆け出した。
でも、そのお母さんらしき女の人は片足を怪我していたからかとっさに動いたり駆け寄ったりはできないみたいで――女の人に肩を貸していた友里さんも同じく――止めることが出来ず、女の子はそのまま私たちのいる藤尭さんのそばまで来てしまった。そして、画面を覗きこんで「あっ、やっぱりだ!!」って言って
「かっと、びんぐ……だと?」
「うんっ!!」
つい口に出てしまっていたかのように聞き返した司令。周りの人たちが首をかしげている中、女の子はそんなの気にした様子も無く「奏さんと助けてくれたおねえちゃんも……あっ! 翼さんもいる!がんばれー!」って、まるでテレビのむこうの主人公を応援するかのようにはしゃぎ出した。
と、この時遅れながらも偶然気付いた。私以外に、女の子の言葉に周囲と異なる様子を見せた人が、
そう、それは泣きはらした顔を両手で覆って嗚咽を漏らしていたけどハッと顔を上げた
「かっとビング」という言葉。私には二人の口から聞いたことがあった。
初めては葵ちゃんの特訓を一緒に受けた時で、
響はそれ以前にも――あのツヴァイウィングライブでの惨劇の最中助けられた際にも――聞いたことがあったらしく、「
……そういえばあの日は、確か弓美ちゃんも特訓してるとこにいたっけ? だから、今、反応したのかも。
そして、それから幾らか時期をあけてから……落ち込んでいた葵ちゃんを励ますために、今度は響が言った事があった。
でも、なんでこの子が「
私の知ってる範囲では、「かっとビング」を言ってる時にこの子がいた記憶は無い。なら、響を見て言ってる気がするから、どこか私の知らない所で響が言ってて……?
「ねぇ、響の事知ってるの?」
「……? うんっ!」
少しの間を置いてから頷き、返事も早々に女の子はモニターの方へと視線を戻して食い入るように見つめた。
そんな女の子に変わって、女の子のお母さんなんだろう女の人が友里さんに肩を貸してもらったまま私の質問に答えてくれる。
「あの、詳しいことは言えないんですけど……前にこの子が事件に巻き込まれた時に助けてくれた人がいたんです。その意味は私もわからないんですけど、以来娘は「かっとびんぐ」という言葉を口にするようになったんです」
「きっとあの子が娘を助けてくれて、その時に」と、そのお母さんは言ってて、確信は持ててはいない様子だけどおそらくはその通りなんだろう。
それを裏付けるように、友里さんの「たしか、響ちゃんが初めてシンフォギアを纏った時に助けた――」という小さな呟きがかすかに聞こえた。
どうやら、シンフォギアに関わる特秘事項だから口止めされてて、それが何時どのタイミングでの話なのかは、比較的最近から二課に関わるようになった私にはわからないけど……とにかく、そんなことがあってこの女の子は「かっとビング」という言葉を知ったんだろう。
そういえば、
「ああっ?!」
言葉の意味を思い出しそうになったところで、モニターを見ていた女の子が声をあげた。すぐそばにいる藤尭さんの顔は強張っていて目も見開かれていて――
「響っ!!」
――その視線の先に映し出されていたのは、吹き飛ばされたのか勢い良く瓦礫の上の倒れこむ響の姿。
大きな声が出てしまい、この手が届くはずもないのにそばに行きたいとモニターへと駆け寄ってしまっていた。
いや、倒れたのは響だけじゃなかった。
クリスって娘もより高く吹き飛ばされてたのか、一拍遅れて離れたところに転がり倒れた。また少し離れたところでは剣を杖代わりにしてなんとか立っている翼さんがいて……フィーネとまだ戦えそうなのは、現状黒くなっててボロボロになりながらも未だに獣のように飛びかかり続けている奏さんだけだった。
いえっ、翼さんも瓦礫につきたててた剣を引き抜いてふらつきながらも構えた。クリスちゃんも、ゆっくりとだけどなんとか立ち上がれたみたい。でも、響は……倒れてピクリとも動かない。最悪の事態を想像してしまい震えが止まらなくなって、頭も真っ白になってきて――
「おねえちゃんたち、大丈夫なの……?」
――遠くに聞こえる女の子の声に、言葉を返すことができなかった……。
――――――――
ノイズの襲撃を受けて混沌とした町、崩れ落ちたリディアン音楽院の校舎。アニメがあって、学校で皆で過ごす楽しくって刺激的な時間も、ちょっと退屈だったり憂鬱としちゃうこともある日常はあっけなく壊れた。
それだけじゃない。この非日常は、あたしの友達を傷付け奪っていってる。
わかってる、本当に痛いのは今戦っている響たちのほうだ。あんなバカでっかいレーザー砲を一身に受け止めた葵ちゃんだッ。
でも、息が出来なくなりそうなほど痛く苦しくて、溢れ出す涙が止まらなかった。
アニメを観てて、困難に立たされたキャラに感情移入をして胸が苦しくなった体験なんて山ほどある。けど、今の
戦ってる響やツヴァイウィングの人たちから目を背けたい。葵ちゃんが死んでしまったことを忘れ去りたい。現実逃避に走りたい。こんな辛くて苦しいのはアニメの中だけでいい。
現実は楽しいことばかりじゃないし、退屈もする。そして、それ以上に理不尽、ノイズはヒーローの登場なんか待ってくれず犠牲者はでるし、そもそも世間一般的に「ノイズへの有効対策は無い」のが常識、ヒーローなんていなかった。もちろんあたしみたいな人が絶体絶命の危機に遭ったとしても、アニメのようにご都合主義で覚醒からの超展開なんて起こったりしない。
だけど……
あの言葉を聞いて思い出したんだ! あの日、死んでしまってもおかしくなかったあたしの手を引いて助け出してくれたあの子のぬくもりを……! このまま泣きわめいているだけでなんていられないッ!
覚悟を決めたあたしが胸に抱くのは、目の前の現実に引き戻してくれた――今にも泣き出しそうになっている女の子がさっき言ってた――「かっとビング」の言葉とその意味。それが勇気をくれた。
両手で拳を作って、脇を締めて、グッと力を込めて――――
「ガンッバレーーーーッッッ!!」
突然の大声に、目をまん丸に見開いたみんなの視線があたしに集中したのが、確認しなくたって
それがどうしたっ。気にしないで、ポカンとしてる女の子に心底不思議そうな表情をなんとか作って「どうしたのよ?」と話しかける。
「ほらっ、一生懸命立ち向かってる子がいるのよ? あたしたちが応援しないで誰がするっての! それがきっと、みんなのチカラになるんだからっ!」
「……! うんっ!!」
目尻に涙が浮かんだ目を一度二度とパチクリと瞬いた女の子だったけど、一転してイイ笑顔に変わって大きく頷いた。
あたしが「あの○○を応援するみたいにねっ」って
「まけないで、おねえちゃん! がんばれー!」
「翼さん、奏さん! かっとビングだー!!」
「ちょ、ちょっとユミ!?」
「こんな時にこんな場所で騒いでは……」
「それに「応援がチカラに」って、アニメの話でしょ!?」
創世ちゃんが、詩織ちゃんが、未来ちゃんがあたしを止めようとしてきた。
響や葵ちゃんが所属してる組織の事はよく知らないけど、どう考えても場違いなことは百も承知。常識的に考えても間違った行為だってこともわかってる。
だから、女の子との応援も、この想いも、あたしの我儘なんだ。
でも――
「アニメを真に受けて何が悪いっ!ここでやんなきゃ、あたしアニメ以下だよッ!非実在青少年にもなれやしないッ! この先、葵ちゃんと響の友達と胸を張って答えられないじゃない!!」
「!!」
「ノイズに立ち向かうチカラなんてあたしにはない。
――あたしの中にある想いは、限界突破して止められそうにもなかった。
気づけばまくしたてるように、口から言葉があふれだしていた。
「自分の事を全然考えないで葵ちゃんが命張ってまで守ろうとしたんだ! いつもお節介ばっかり焼いてる響が必死になって立ち向かってるんだ! 当り前のはずの明日をつかみ取るために!! なにもしないでただ助けられるのを待ってるなんてあたしには出来ない。だって、あたしはあの子たちの友達なんだから! だから、あたしは信じて応援するんだ! 守ろうとしてるもののために、ただのありふれた日常のために、生きるためにただ一生懸命に立ち向かってる響たちを――あたしだって一緒に守りたい! 「応援がチカラになる」! 成功率0%だとか絶対無理だと証明できないなら、あたしは何でも全力全開でやってやるわ!!」
あたしは言いたいことを言いきった。その全部が全部あたしの本心だったとは言い切れない。恐いのは恐いし、自信なんて言うほど無い。あの子たちに顔向けできないからって意地張っちゃってるし、振り絞ったなけなしの勇気で自分自身を奮い立ててる部分が大きい。だけど、こうしてぶちまけたことを後悔なんてしてない。
恐いほど静かな数秒間の後……怒鳴り声をあげる人も、
でも、何故か――
「ふっ……ふっははははッ!」
――何故か、笑う人が一人だけいた。
「風鳴司令……?」
「俺としたことが余計なところで足踏みをしていたらしい、そこまで言われてようやく重い腰をあげるなんて大人として恥ずかしいもんだ。それに……なるほど。確かに、
モニターを操作してたおにいさんやその人と同じデザインの服を着たおねえさんも、までもが呆然とする中でシェルター全域にまで響いてそうなほど高らかに笑ったのは、赤いワイシャツの下に鍛え抜かれた筋肉が見え隠れしている男の人――未来ちゃんが「風鳴司令」って呼んでる人だった。
……言ってることはよくわからないけれど、あたしの言葉のどこかにヒントを見出して、そこから地上の響たちを助ける算段を立てた、のかな? でも、その方法って? それになんでこんなにも笑って……?
「藤尭、スピーカーでも何でもいい、外部へ音声をつなげられるモノとその経路を確保しておいてくれ。こっちはなんとか非常用の電源の確保に行く」
「ちょっ司令!? 何をする気ですか!」
「なに、声援を――
それを聞いたおにいさんは「え、いや、まさか……?」「可能性は0とかそんなレベルじゃぁ……」と不安気に呟いて――でも、そのすぐ後、手は素早く動きキーを叩きはじめた。その手捌きにはまるで迷いが見られない。
と、肩を貸していた女の人を用意したイスに座らせたおねえさんが、どこからかタブレットのような機材を持ち出して藤尭さんの隣で何やら作業を始めた。
ふたりと入れ替わるかのように、今度はスーツを着た――あの日、葵ちゃんと一緒に私を助けてくれた人で、葵ちゃんは確か「シュウジさん」とか呼んでた――おにいさんが風鳴司令に近寄って口を開く。
「しかし、司令。確か、あちらの施設の方は全てが全てではないですが崩壊している部分が……それに、電気系統の不全を考えると主電源を非常用に切り替えたとして、上手くできるかどうか」
「大丈夫だ、身体の調子も大分戻ってきてることだ、俺が直接修復に行く。通路が塞がっていようとこの拳で打ち砕くさ」
「状態にもよりますが、大きな振動などで瓦礫やその周囲がさらに崩壊を起こす可能性も十分考えられますから、そのような力づくの行為は――」
「何もしないわけにもいかんだろう。それに……よく言うものだろう? 道とは自らの手で切り拓くもんだとな」
とんとん拍子で、まるで最初から決まっているのかって思ってしまうほど素早く問答を風鳴司令とするスーツのおにいさんは少し呆れてて……でも、どこか嬉しそうに笑い頷いた。
立ち上がり部屋の外へと向かおうとする風鳴司令に、自分でも気付かない間に「待って!」と声をかけてしまってた。
「あたしもついていくわ! アニメでもあったりするじゃない、大人じゃあ通れない瓦礫の狭い隙間とかがあった時、あたしみたいな小さな体格の人が役に立つ、って時が!」
「覚悟は――――いや、聞くまでもないか」
睨みつけるような険しい表情を私に向けた風鳴司令だったけど、すぐに口元を緩め「フッ」と笑みをこぼした。
応えるようにサムズアップをしニカッと笑う。
……涙の跡はまだ残ってるかな? 残り赤くなっている目元は? あたしの
「あたりまえよ、
ココは理不尽な現実だ。ましてやあたしはアニメに
あたしは立ち上がれる、勇気をくれる
待ってて、響! おやっさんとあたしが――――あたしたちが「歌を届ける」からね!!
―――――――――
力が、入りきらない。
打ちのめされて吹き飛ばされ、瓦礫の上に前のめりに倒れ込んでて、ただでさえ傷付いて痛む身体を一層刺激してその痛みで声にならない悲鳴を上げそうになる――が、そんな声さえ出せないほどわたしの身体は言うことを聞ける状態じゃなかった。
むしろ、そういったズキズキとした痛みも薄れていってしまうほど、少し気を抜けば意識が遠のいてしまいそうな状態。
「今確かに物音が……また気のせい、なのか? しかし、ここまで蘇りの兆候が見られないのは、いったい……?
ぼんやりとだけど聞こえてくる了子さんの声。
痛む首と重い瞼をなんとか上げて見えたかすんだ世界では、ところどころから血を流しながらも暴れる
――――■■■よ
あぁ……もうその姿さえぼやけていく様に感じ、意識が遠のいていくのがわかった。
なんとか意識を手繰り寄せようとするけど、どうにもなりそうになかった。
それは、目の前の現実に心のどこかで諦めが生まれてしまったからか、あるいは
――――3つだよ3つ
そんな中、聞き覚えのある声がわたしの頭の中に響き、意識が急浮上した。
ハッとして再び上げることができた
「あ、れ……ここは?」
暗闇に包まれた空間。
だけど、どこまでも平らな地面にはうっすらボンヤリと輝く極彩色の光の
そんなわたしを見下ろすようにして誰かが立ってる。
「あおい……ちゃん……?」
視線を動かせば、あの独特なデザインをした服を着てる葵ちゃんが、そこにいた。
――でも、ありえない。
だって、葵ちゃんは「カ・ディンギル」の砲撃で……。それに、仮に話には聞いてた復活をしたとしても、さっきまでいたはずのリディアン音楽院とは大きくかけ離れたこの場所にいるのはおかしい。
夢……なのかな? なら、葵ちゃんやこの場所のことにも説明はつく。
それとも、葵ちゃんは復活できなくて、わたしももう死んじゃってて、ここがあの世だったりする……?
うつ伏せに倒れてたところから腕の力でなんとか上体を起こした体勢までは来れたけど、そこで腕と脚に力が入りきらずにへたりこんじゃって立ち上がるまではできず、その場に座り込んでしまう。
「ゴメンね、葵ちゃん」
力を振り絞るために
自分で言ったのに一瞬「なんで?」って疑問に思ったけど、でも確かにわたしは葵ちゃんに謝りたいことがいくつも思い当たってしまった。
弟子で、それ以前から友達だったのに、裏切ったりしないと信じてあげられなかったこと。本当の事を教えて貰えなかったほど頼りなかったこと。暴走した奏さん、翼さんやクリスちゃんを守れなかったこと。「カ・ディンギル」の砲撃を止められず月を壊そうとする了子さんに負けてしまったこと……たくさん思い浮かんでは上手く言葉にできず、上げた顔をただ俯かせることしかできなかった。
葵ちゃんの――でも、どこか違和感を感じる――声。
「遊星」という知らない
いつものわたしなら、誰の名前なのかなんて大して気にすることも無く自分の
もしここがあの世じゃなくて、わたしがまだ生きていたとしても……今から立ち上がって、了子さんを倒して、砲撃を止める……なんてことできっこない。そんな姿が、
「……無理だよ。わたしなんかに……ううん、わたしだけじゃない。翼さんやクリスちゃん、奏さんだって死に物狂いで了子さんと戦ったんだよ。それでも……全然届かなかった。このままじゃあ月が……世界がどうなっちゃうのかわかんないのに……リディアンや二課のみんなの――
勉強に四苦八苦しながらもクラスメイトと楽しく過ごしていた学院、ド素人だったわたしの「誰かの助けになりたい」なんて我儘を受け入れサポートしてくれた二課の人たちがいた本部も……日常は、わたしの帰るべき場所は散乱した瓦礫と同じく崩れてしまった。
そんな怒りや悲しみが入り混じった激情を乗せていたはずのこの拳は、あまりにもあっけなく了子さんに弾かれてしまった。わたしの唯一といっていい戦う手段であるこの身体もいうことをきいてくれなくて……もう、戦う
『遊星』
また短く呼ばれた誰かの名前。その呼びかけが、葵ちゃんがわたしに向けたものだってことはわかる。
反射的に俯いてた顔を上げちゃってた。けど、すぐには葵ちゃんの顔を直視はできなかった。
恐いんだ。葵ちゃんにどんな目で見られているかを考えるのが。
友達だからどうだとか、年上・年下だからああだとか、弟子と師匠だからこうだとか……でも、そんな葵ちゃんとの関係以上に、ただ単純にこんな弱い自分が嫌で嫌で仕方なかった。
怒られるかもしれない。「無理だ」って言ったわたしに対しての失望されたのかもしれない。もう、わたしを見てくれないかもしれない。
パシンッ!!
「――――えっ」
音。
痛い。
左頬。
一瞬の間を置いて、ようやく理解した。
わけがわからず、わたしを
怒っている様子も、失望してる様子もなく、ただただ真っ直ぐ視線をわたしに向けていた。そのブレることのない視線には、全くと言っていいくらい迷いが感じられなかった。まるで、未だなおわたしのことを信じ疑っていないかのように透き通った眼で、眩しくて目を背けたかったけど――同じかそれ以上に魅き寄せられ、目が離せなかった。
『遊星、お前にはまだやるべきことがある。粒子と粒子を繋ぐ遊星粒子のように、人の心を導き、人の心を繋ぐのだ。その先に必ず新たな境地が見えてくる』
誰かの名前だと思っていた言葉に「
「人の心を、繋ぐ? そんなこと、わたしなんかにできるわけが……」
葵ちゃんの眼に引き寄せられ上げていた視線をまた伏してしまう。
人の心。
『ツヴァイウィングライブの惨劇』。
突如出現したノイズによって、沢山の人が犠牲となったあの日。
でも、ノイズに襲われて亡くなった人ばかりでなく、我先にと必死に逃げようとしたり様々な要因が重なった結果
クラスメイト、親友、家族……そんな親しい人を失えば、理不尽に怒りが湧くのもわかる。人の手には負えない災害という扱いのノイズに向けてもやるせないだけだってことも理解できる。
けど、なんでそんな憤りが、
シンフォギアっていう、ノイズに対抗できる手段を手に入れたわたしは戦うことを選んだ。
あのライブの日、ノイズたちへと立ち向かう翼さんたちのように強くありたい。
ノイズから守ってくれた奏さんたちのように誰かを守りたい。
そして――あの誹謗中傷を受けた日々のわたしのように、助けを求めていても声も上げられずにいる人に手を差し伸べてあげられるようになりたかったから。少しでも多くチカラが欲しかった。
痛みを、苦しみを知っているからこそ、この
けど、だからこそ……わたしを、わたしの家族を、親友を傷付けた
胸の奥が、痛んだ。
わたしの中に浮かんだ考えが間違ってるって事はわかってる。でも、頭の中をゴチャゴチャにかき乱すナニカは静まってくれない。
暗く深いソコへと沈んでいく――――
座り込んでいたわたし。その膝上に
うだうだと考えていて目の前の事から意識がそれていたからか、あおいちゃんは気付かないうちにすぐそばまで来て膝立ちになって視線を合わせてきてた。なにより、その表情がさっきまでの力強いモノから変わってて、
その表情が、その手の温かさが……
誰なのかという答えにたどり着くよりも先に、握る手を伝って葵ちゃんからわたしへと極彩色の光が伝ってきて――声が聞こえてきた。
――本当に、これがあの子の助けになるのね!
――前に道を聞いたら、案内までしてもらっちゃって……
――自転車倒しちゃった時に手ぇ
――ワシも助けてもらったことがあるんだ。なら……
顔とあんまり聞き覚えの無い声。なんとなく聞いた覚えのある声。
年齢も、性別もバラバラの、いろんな人たちの声……。
――自分の事だってあるのに、毎度手を貸してくれた
――立花さん、風鳴さん……どうか無事に……そして、少しでもお力になれれば
――
クラスの人、先生、上級生の先輩の声。
――あの日、娘を助けてくれたお礼を、恩返しを、少しでもできれば……
――あきらめないで! 「かっとびんぐ」のおねえちゃん!
どこかで聞いた覚えのある女の人の声と、
――腕っぷしはなくとも、俺たちに出来ることを……
――今できる最大限を、一生懸命な響ちゃんに!
――翼さんと奏さんを支え、ふたりと共に戦う覚悟を持ち全力で響さんにお力添えするのも僕の務め!
――装者の皆だけで背負う必要は無い! 独りでも、4人だけでも決してない。俺たちもついているッ!!
藤尭さん、友里さん、緒川さん、司令……
――状況も、どうしてこんなことになってるかもいまひとつわかりませんが、それでも……っ!
――ビッキーが頑張ってる、立ち向かってる! 力を貸したいと想う理由がそれ以上に必要なはずがない!
――受け取って! あたしたちの全力全開の
詩織ちゃん、創世ちゃん、弓美ちゃん。
どこからともなく聞こえてきた、みんなの声。
ここが、あの世や夢の世界、妄想のモノじゃないならみんなはきっとどこかにいる――まだ生きている!
そして――――
――響っ。
通信が途切れてしまってから、ずっと聞きたかった
ただ一言、名前を呼んだだけ。
頑張って、でも傷付かないで。立ち上がって、でも無理はして欲しくない。護って、でも護りたい。
ううん、
みんなの沢山の想い。大元になってる部分も、向いている方向もバラバラなモノだけど、それはきっとぶつかり合わなきゃならないモノなんかじゃない。だって――――
『ああ、それがお前の役目だ』
まるでわたしのたどり着いた
するとどうしたことか、了子さんと戦ってる間も、倒れてこの不思議な場所に来てからも……今までどれだけ力を振り絞ろうとしても湧いてこなかった
「あはははっ、ゆーせーりゅうしとか、新たな境地とか……言ってる
「わたしはこんなところで立ち止まってなんていられない。だって、独りじゃないから……まだ歌える、頑張れる! 戦えるッ!」
両手は葵ちゃんに握られたまま、座り込んでいたわたしは自分の両足で、その湧き上がってくる活力のまま勢い良く立ち上がる。視線の高さ関係が葵ちゃんとワタシとで入れ替わって、今度はわたしが見下ろす形になる。
微笑みを消して真っ直ぐ透き通った眼でわたしを見る葵ちゃん。それに対して、目を背けたくなることもなく――ようやくわたしは自信を持って力強い笑顔を返すことができた。
見つめ合う、静かな数秒間。
葵ちゃんがスゥっと目を瞑ったかと思えば、一瞬の間をあけて、これまで以上の一層輝く笑顔をみせてくれた。まるで満足したかのように。
そして――葵ちゃんは黄色い光の
「えっ、まって……!!」
「まさかこれって成仏して…とかそういう!?」と思って、さっきまで握ってくれてた手を掴もうとするけどその指は光の粒をすり抜けるだけで――――でも、そんな慌てたわたしの様子を見てかどうかはわからないけど、葵ちゃんだった光の粒たちの流れがわたしの身体を包み込んだ。
『私はいつでもお前のそばにいる、遊星!』
……そんな言葉を残して、その光の粒がわたしの中に流れ込みきってしまった。
そして――――
――――3つだよ3つ
!!
また、あの言葉が……!?
――――考えることを忘れないで。生きるための3つのこと。帰るための3つのこと。敵を倒す3つのこと。考えることでキミはまだ生きられる。
あぁ! 思い出したっ!
3つのこと。あの特訓の時、葵ちゃんがわたしに言った言葉を。
ぁ…………わたしってなんてバカなんだろう。大事なことを忘れちゃってた……!
まだ、何も終わってなんかいないってことを。今までのわたしがフィーネに負けたのは当然だったってことを。
そして、みんなの想いだけじゃない。他でもないわたし自身の中にも答えは確かにあったってことを!!
あぁ、そうか……そうだったんだ。
だからあの時、葵ちゃんは
葵ちゃんには、確かにおかしなところはあった。
けど、そこに意図はあった。たとえ、多少のズレじゃあすまなかったとしても、その声を発してた葵ちゃんの奥底には――葵ちゃんの中に心は確かにあったんだから、なにも無意味だなんてことはない。少し考えれば当然のことだった。
あの子が、思い通りにいかない中でも、見て、聞いて、悩んで、必死に考えた末に抱いた想いが、
奥底から湧きあがって、全身にみなぎるチカラ。それにつれて深い海の底から浮き上がるような感覚――そこに、また声が聞こえてきた。
――――世界を救い、フィーネを救ってやってほしい!
「……えっ?」
―――――――――
最初に
それでもなお私の前に立ち続けているヤツが、今、10mほど前にいる。
確かに
前提として、戦闘能力ではなく単純な装者としての適性はコイツが他よりも一段格下――薬頼りの時限式だ。そう、本来であれば実力云々以前の問題で最も長期戦に適していない。
だというのに、コイツは未だに戦い続け、倒れてもこうして立ち上がってくる。いや、そもそもコイツは少し前からシンフォギアを纏うことすら出来なくなって、装者として使い物にならなくなっていたはず……。しかも、それだけじゃない。
「ハァ…! ハァ…! ハァ…ッ!」
立ち上がった天羽奏の荒い息づかい。
唸り声や叫び声ではなく、ただただ身体の調子と息を整えるための呼吸をしているのだ。
そう、最初こそ確かに暴走状態となっていた天羽奏だが、時間経過か別の要因かは不明ではあるが途中から様子が変わったのだ。
暴走状態が解け理性を完全に取り戻すわけでもなく、力を使い果たしギアの強制解除と共に意識を失うわけでもなく――――
興味。
しかし、それ以上に不確定要素の強いモノだと断定し、今ココで消すことに決め優先順位を多少切り替える。天羽奏本人がこの状態を意識してやっているかどうかなど、どうでもいいことだ。とにかく消す。
「カ・ディンギル」の第三射目の発射はもう直前まで迫っている。
私の勝ちだ。だが、勝ちを確信し誇らしく語ることもせず、かつ「カ・ディンギル」のほうにも目を向けない。向ける必要も無い、立っているのは目の前の天羽奏だけなのだから、発射までコイツを押さえておくのが最低限、仕留めることが今私が求める最大の結果。
「Gatrandis babel ziggurat edenal――――」
「っ! 暴走状態での絶唱……だと……!?」
完全融合を果たしその力を遺憾無く発揮できている完全聖遺物「ネフシュタン」であれば、シンフォギアの絶唱程度凌ぐことはそう難しくは無い。しかし、暴走状態という出力は高くとも本来であれば歌うことすらままならない状態での、瞬間火力の高い絶唱は完全に未知数。ましてや、「カ・ディンギル」を守りきれる確証はない。
もちろん天羽奏もフィードバックでただではすまないだろうが、ヤツの眼に迷いは見られない。侮ってはいけないと私の頭脳が警鐘を鳴らしている……だが!
「貴様の歌に最後まで付き合ってやる義理は、無いッ!!」
これまでの装者を適当にあしらってきた攻撃とは違う必殺技の一撃。
聖遺物と完全融合したこの身体の力を最大限に活かした茨の鋭い一撃がヤツの喉元へと叩き込まれ――
「ぎぃっ!?」
――貫く寸前で手に持つ槍の腹で防がれた。
が、防いだとはいっても反射的な反応であったためか完全にではなく――また、腕に力が入りきらなかったのか――数m後ろへ押し出され倒れ込み、その勢いのまま1,2回転がる。絶唱も自身の槍に押し潰される形で息が圧迫され途切れた。
つくりあげた隙。
それを逃すこと無く、突き出した茨だけでなく反対の手で操るもう1本も合わせた2本の茨で、すぐさま無防備をさらしている天羽奏へと全身全霊の一撃を文字通り叩き付け――――っ
「これくらい、へいき、へっちゃら……!!」
私と天羽奏との間に突如現れた
「「なっ!?」」
一番最初に倒れ伏したはずの立花響の登場に、私だけでなく立花響の後ろで倒れている天羽奏も目を見開いていた。その眼にはより理性が戻ったのと同時に、暴走状態の黒も随分と一気に引いていったのがわかった。
立花響が茨を押し返すのと、私が茨を引くのとはほぼ同時だった。
その腕は、「平気」と言った割にはギアの装甲は半ば砕け、所々から血も流れ出しているのが見える。
「立花響。お前、まだ立てたのか。だが、そんな体たらくでいったい何をしようというんだ?」
「了子さん……
顔がやや伏せられた状態のヤツの口から出てきた言葉は、私に笑みを浮かばせ、天羽奏を絶句させるものだった。
「はッ! ようやっと諦めたか! 貴様らの足掻きが何と無意味か理解したか? このさきの天変地異の狂乱を乗り越えた続く、統一言語を取り戻した未来がいかに素晴――「そうじゃ、ありません」
私は眉を顰める。
「なにぃ? ……いや、もはや関係無い! 今ぁッ! 充填を終えた「カ・ディンギル」は発射される! この第三射目で私の悲願は果たされるのだからなっ!!」
ようやく……本当にようやくだ!!
歓喜に震え上がり、大笑いをしてしまいそうになるのをなんとか抑えて、発射直前となった「カ・ディンギル」を振り返り、見上げ――――
――――「カ・ディンギル」の中段あたりに大きなヒビが入り、そこから幾筋もの細かいひび割れが広がっていくのを見た。
「…………は?」
コロコロと、ガラガラと……ヒビの入ったところから段々と崩れ落ちていく。
その規模が、崩れる範囲が広がっていき――砲撃の発射の瞬間、ちょうど半ばくらいの高さから上の部分が全て吹き飛んだ。
「カ・ディンギル」に発射直前まで集束されていたエネルギーは、砲身のヒビ割れや一部崩壊で術式が不完全になったからか、砲撃とは呼べない勢いで噴出し月へと届くこと無く、道半ばの空中で霧散してしまっている。
そう……最早この「カ・ディンギル」の砲撃は、月を穿つどころか砲撃としての効力などカケラもなくなってしまったのだ。
「ば……
「わたしは何もしてない……何も、してあげられてなかった……っ!!」
伏せ気味だった立花響の顔が上げられ、その表情が私の目に入った。
「ただ、これが葵ちゃんが迷った末に出した「答え」の……その結果です」
「ナニィ!?」
「空から降ってきたあんな大きな物を受け止めて、蓋されてギリギリまで無理矢理閉じ込められて、月を壊すほどのエネルギーで内側から圧迫されて――保つわけがなかったんです。だってそれは、どう考えても「カ・ディンギル」が本来想定してた負荷よりもずっと大きかったんですから」
「!!」
言われてみれば、その通りではある。
あんな巨大なモノを…ましてやソレを意図して「カ・ディンギル」に突き刺し栓をするなどという状況を…そんな考えを想定できるはずがない。そんな想定外の衝撃に耐えられるか否かなどの検証や、見越しての補強など、到底無理だ。
「そんな限界を超えた状態で何とか建ってる「カ・ディンギル」は、自身の砲撃のエネルギーに耐えられなくて壊れたんです。誰も殺さないし、誰も死なせない――なるべく現状を保ったままにしようとした……それが、あなたの敵にも味方にもなりきれなかった葵ちゃんが何とか絞り出した、苦肉の策だったんですよ」
限界以上だったのはわかったが、今のこんな絶妙なタイミングで? 敵でも味方でもない? それがヤツの苦肉の策だと?
頭が理解しきるよりも早く、新たに理解が出来ないことを立て続けにぶちまけてくる
「葵ちゃんは、あなたのことを何かから助け出したかった。それが何からなのかわたしにはわからない――――けど、だから葵ちゃんはわたしたちに情報を渡したりしてあなたの敵になることは出来なかったんだ。でも、やってることは間違ってるって伝えて止めたかったから、あなたの味方のままじゃいられなかった――あなたを助け出したかったから……でも、みんなで手を取り合いたかったから――誰にも明かせなくて独りで抱え込んじゃったんだっ」
「貴様、何を言って…!?」
「その手をあなたに差し伸べていたはずなんです! きっとあったんだ、あなたに向けた葵ちゃんの言葉が……伝えたかった想いが!!」
―――――――――
――――なんだその目はっ!?
葵の、言葉……
――――そんな捨てられた飼い犬のような目をしているから、キリュウに敗北したんだ!!
――――キサマがどうすべきか教えてやると言ってるんだ!
自分のせいで誰かが傷ついてしまう事を恐れ、護りたいものを護れなくて自分自身の在り方を見失った。そんなあたしがシンフォギアを纏えなくなって焦り、自暴自棄になったところを非難を受けることを覚悟で止めて、そしてその原因に
もっとも、情けないことにあたしはその答えに気付くのに、結構時間をかけてしまって迷惑かけちまったんだけどさ。
――――ワクワクを思い出すんだ
……ははっ!
あんな時でも――いや、今だったとしても「そうあって欲しい」って、コッチの都合も心の整理もそこそこにそんな無茶な注文をつけてくるに決まってる。
あぁ、そうだよな葵。
怒りも悲しみも憎しみも……この胸の中に渦巻いてるモンは、間違い無くあたしのモノで消しようがない。そう、元々あたしが歌うようになったきっかけは、今と同じような復讐心だった……けど、あたしが見出した歌は違うんだ。
そう、ツヴァイウィングとして活動する
シンフォギアを纏う
ソレがみんなの――他でもないあたしの本当の願いだってのに、見失ってちゃダメだってのはちゃんと教えてもらってたはずなのに、怒りに囚われて暴走しちまってたなんて……本当にあたしは仕方のない姉貴分だよな。
でも、もう見失ったりなんかしない。今のあたしは独りで戦ってるんじゃなかったんだ。翼や響、クリス、そして弦十郎の旦那や二課のみんな、ファンの子に、そして
だからあたしは――――!!
―――――――――
――――…………。
あの子の言葉……
私は自分で言うのはどうかと思うけれど、葵とは良い関係を築けていたと思っていた……でも、実際はどうだっただろう?
――――進路をアルカトラズに取れ! 全速前進DAだ!
あの子が言った言葉を真意をよみとろうとせずにそのままの意味で捉えてしまったり、お世話をしようと思ってたのに逆に身の回りの世話をされたり……そう、私は間に奏がいてくれたからなんとかなっていた部分がある。
でも、そのままでいいなんて最初のころから思ってなかった。
――――…………♪
まだ会ってそう経ってない頃、奏に呼ばれて二課の本部で唐突に二人きりにされた時……コミュニケーション能力不足、そして嫉妬と不安でどうすればいいかわからなかった不器用な私に寄り添い微笑んでくれた葵に……。
――――りんごは 浮かんだ お空に
――――りんごは 落っこちた 地べたに
葵と奏を襲い傷付けた「ネフシュタンの鎧」を身に纏った人物に「絶唱」を放ち倒れた私に、夢にまで現れてきて涙と表情、そしてその歌で自己満足ではなく本当の意味で護るということを気付かせてくれた葵に……。
そして……奏と共に、唯々
だからこそ、葵の言葉を、想いを、歌を人一倍理解しようとした。
その上で、素敵な歌声を持つ貴女と「ツヴァイウィング」とでステージに立ちたかった。一緒に歌いたかった。私の我儘でもある……けど、知ってほしかった。私の知る幸せを、葵に感じてほしかったから。
……葵。やっぱり私はどこか自己満足なところが残ってて、貴女にちゃんと寄り添ってあげられていなかったかもしれない。
もっとそばに居てあげられたなら何か違ったんじゃないかと思ったりもした。
でも、もう大丈夫。
誰よりも優しい貴女の想いは他でもない私の胸の内に温かく灯っていて、進むべき正しい道を照らしてくれているから! だから私は、まだ立ち上がれる!!
だから私は――――!!
―――――――――
――――何度でも受け止めてやる! 全部吐き出せ、お前の悲しみを!!
あいつの……言葉、だと?
――――いい加減にしろシェリー!!お前の親父さんは、そんなことのためにそのカードを託したのか!?
……あぁ、忘れるもんか。ふざけているようで、そのくせアタシん
――――お前の魂はまだここに囚われたまま。だが、そこから脱出する道の見つけ方もお前はわかっていないようだ。……お前に道は見つからない!
――――旅立った人達はお前の人生から完全に消えたわけではない。先の場所に行っただけだ。私はそう信じている。……ただ、私は彼らのもとへ行く時それに恥じぬよう生きていくだけだ。お前とは違う
結局のところ、どんなものでもチカラってのはどれもそう変わらないんだと思う。いや、仮に違ったとしても一番大事なのはアタシ自身の心だったんだ。
アタシの歌はぶっ壊すことしかできなくて、起動させてしまった
けど、アタシの中にあるチカラってのは、本当にそれだけのチカラなのか? それに、それを持つアタシの想いは何も意味をなさないモノなのか? パパとママがくれた歌のチカラはそんなもんだったってのか? 違う、よなッ!!
おまえの……葵のような底抜けな優しさも、どんだけ窮地に立たされようと耐える丈夫さも、折れない心の力強さなんてあたしには真似できやしないけど……二度と迷わない! 受け継いだ夢は叶えるまで絶対になくしたりしない! もう、自分の本当の気持ちに嘘をついたりしねぇっ!
だからアタシは――――!!
―――――――――
「ヤツが私に向けた言葉だと?」
向かい合う響とフィーネ。
互いに向けられた視線をそらすことなく――しかし、フィーネは不機嫌そうに眉を跳ね上げた。
「……そんなものに何の意味がある? いちいち記憶することも煩わしい!」
対照的に、その言葉を聞いた響は悲しみに顔を歪めた。しかし、泣きだすわけでもなく――かといって、その瞳の奥に怒りの炎を宿らせているわけでもなく――声を荒げるフィーネをジッと見つめていた。
「第一、ヤツの口から出る言葉は「バラルの呪詛」をより
「そんなこと、ないです!!」
段々とヒートアップし声が余計に大きくなっていっていたフィーネに負けず劣らずの大声で、響は否定し大仰な語りを立ち斬る。そして自身の胸に手を当て、どこか苦しささえ感じられそうな歪んだ表情になって言葉を紡ぎ出した。
「たしかに、変なことも言ってて聞いてもわけがわかんないこともあった。そのせいで葵ちゃん自身はきっとたくさん傷付き苦しんでた……でも、だからってそれで葵ちゃんは諦めたりしなかった! 葵ちゃんは何も感じずに……何も考えずにいたわけじゃない! 了子さん――ううん、
「知っている? 何故今更そんなことを口にできる? ヤツの正体に気付かず、幻想を抱き続けていたキサマらが!」
響はフィーネの言葉を否定することも肯定することも無く、ただ目をつむり胸に当てた手をギュッと握りしめ拳を作った。
後悔が無いわけじゃない。嘆きたくもある。
だけど、それでも歩むことを決めた響の意志は曲がることは無かった。立ち上がり、前を向き、この世界の――
「
カッ!と目を見開き、勢い良く脚を多少の前後のズレをうみつつ肩幅ほどに開き、その両手で拳を作って構える。
「わたしが葵ちゃんに代わって伝える……あなたを止めてみせる!」
そして――――どこからともなく、
仰ぎ見よ太陽を よろずの愛を学べ
歌だった。
響や翼といったリディアン音楽院の学生、奏や
朝な夕なに声高く 調と共に強く生きよ
装者たちとフィーネしか見当たらないこの瓦礫だらけの場所で鳴り響く歌……それを聞いてか聞かずか、響は高らかに声をあげる。
「
響の奇妙な数え方を疑問に思いつつ、不可解な言葉にその意図を探ろうとするフィーネ。
だが、それを探る暇も無くフィーネの思考は乱れた。
何故なら、小石ほどの大きさの光球が彼女の足元の瓦礫の下から湧き出してきたのだから。
遥かな未来の果て 例え涙をしても
いや、漂いはじめた光球はひとつふたつではない。
フィーネの足元だけでなく、周囲一帯からいくつも湧きあがってきていた。
「
誉れ胸を張る乙女よ 信ず夢を歌にして
「何処から聞こえてくる、この不快な歌――――歌、だと? まさか!?」
あることに気付いたフィーネの双眸が大きく見開かれる。
そう、彼女の周囲を、辺り一帯を漂う光球の正体は可視化されるほど高密度となった
もし仮にこの場でフォニックゲインを測定することができたのならば、ここにいる装者
知らぬ者が見れば、無数の光球が舞い散るの幻想的な光景。だが、フィーネはこの光景を誰よりも理解している。偶然ではないことを――しかし、意図的に起こされた必然な結果としてはありえない規模だということも、彼女自身が培ってきたもの全てがそう結論付けている。
「そして――――葵ちゃんがあなたに伝えたかった
だからこそフィーネは困惑し、硬直し、響の言葉に耳を傾けてしまっていた。
そして気付けない。響の後ろにいた奏が――そこから離れた場所で力無く倒れていた翼が、クリスが――立ち上がったことに。
「お前が言った仲間同士で争うだけが人間の姿じゃねぇ。自分の思いを…魂を仲間に託してともに戦うこともできる。人はそれを絆と呼ぶんだッ!!」
あたり一帯を
それらが奏に、翼に、クリスに――それぞれの装者たちの周りへと集まり、傷だらけだったシンフォギアと共にひとまとまりのヒカリの奔流となって、装者の身体を包み込んだ……!!
「まだ戦えるだと!?
何を支えに立ち上がる!?
何を握って力に変える!?
鳴り渡る不快な歌の仕業か?
……そうだ、お前が纏っているものはなんだ?
心はたしかに折り砕いたはず!!
まさか
『バラルの呪詛』に歪められたアレが力だと言うのか!?
相互理解を失った人が成せるはずがない!!
ならばおまえは何を纏っている!
それは私が作ったものか?
おまえが纏うそれはいったいなんだ、なんなのだッ!?」
目の前の光景に追いつけず、
その「答え」は、立花響の……いや、装者たちの胸にあった。
「「願い」の力が!」
「「想い」の力が!」
「「夢」の力が!」
「わたしたちの――みんなの力がっ!」
――――集いし星の輝きが、新たな奇跡を照らし出す!
『橙』、『青』、『赤』、『黄』。
星の如き輝きを持つ無数の粒子を纏った
――――光さす道となれ!
「これがわたしたちの」
「「「「シ・ン・フォ・ギィィッ――ヴウゥワアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」」」」*7