我が手には星遺物(誤字にあらず) 作:僕だ!
「いい……」
そんな決闘者的世間話はさておき、寝落ちして途中で止まってしまっていた最新話、ようやく更新です! 大変長らくお待たせしました!
「なん……だと……」
『橙』。『青』。『赤』。『黄』。
白を基調に、それぞれの色の光そのものを纏っているかのようなシンフォギア。
さらに、彼女らのギアからは部位・数・形状に多少なりとも差異はあれど、光で形成された
本来であればありえない目の前の現実に驚愕し――しかし、ほぼ同時に自身の思考は
『
かつて、シンフォギアを製作する際に構想した最終決戦機能のひとつ。
『絶唱』と同じく――だが、異なったアプローチで――ギア本来の出力に限りなく近づけることを目的とした形態。しかし、これまでの実験・実戦共にその予兆すら見せることの無かったモノ。
そもそも、シンフォギアシステムには、総数301,655,722種類のロックが施されている。そのうちのいくつかを、装者の経験や心象、戦闘能力に合わせて解放し運用しているのが
なぜそうなっているのか? それは、あくまで装者一人の
仮に、完全聖遺物に近いほどの大きなチカラを引き出せたとしても、それを纏い扱う装者が
だが、先にも述べた通り
しかし、だ。目の前の4人が纏うモノは、以前に
おそらく、
けれど、それは机上の空論を現実に落し込めた形態変化。装者の気質・戦闘スタイルに合わせて変化するシンフォギアの機能をさらに拡張した強化。従来ではありえない飛行能力などの機能追加。そして、そんな無理矢理の運用による装者への負荷を最小限に抑制。それらを本来ではありえないほどの出力のフォニックゲインを用いることで可能にしている。
「装者」と「シンフォギア」が導き出した最適解とでも言うべき限定解除にて形を成した
ありえない。
ありえない。
だが、今、眼前に在る。
――――その手をあなたに差し伸べていたはずなんです! きっとあったんだ、あなたに向けた葵ちゃんの言葉が……伝えたかった想いが!!
ふと、
他の装者に……そして立花響自身に立ち上がるチカラを、『
いや、それだけじゃない。
また別の声も、続けざまに記憶の片隅から呼び起こされていた。
――――お前の言う未来とは本当に輝かしいものなのか?
――――例えモーメントが歴史から消えても、人の進化の行き着く先が欲望や誘惑に囚われるならば、お前の生きた未来と何の違いがある。それで本当に世界は救われたと言えるのか?
――――本当に未来を救うためには、みんなの心が正しい方へ向かい、モーメントと共に繁栄できる未来を作らなければいけない――今を救わなければきっと未来も救われない! そうじゃないのか、
呪いに歪められ相も変わらず微妙にズレた――だが、妙に私をイラつかせる――その言葉。アレにはどういった意図があったというのだろうか?
聞いた時からわかっていた。ヤツが、月を破壊し「バラルの呪詛」を解き失われた「統一言語」を――人類の相互理解を取り戻すことを
だから、私は激昂した。理不尽にも唐突に取り上げられた「統一言語」の価値を、相互理解が失われたことで起きた数々の悲劇を、人々がそうあるべき本来のカタチの尊さを――それらをどうとも思わないかのような物言いに、私は何も知らぬ小童の戯言だと聞き流すことが出来ず、その怒りのままヤツを痛めつけた。
だが、しかし。
私が読み取るに至らなかったあの時のヤツの真意が――もしそれが、立花響が言った
絶望を前にしても諦めず歩み続ける精神が。
思いなどという形の無い不確かなモノを信じ力に変えんとすることが。
その場に居ない力無き者…倒れた者…人々が思いを託し紡いだ絆が。
奴等が『
何故、
「認めてなるものかぁーーーーッ!!」
認めない! あってはならないっ!
そんなことは
そうだ……!
湧き上がるこの衝動が、誰かに止められようものか!
そう、
―――――――――
「認めてなるものかぁーーーーッ!!」
眼下で瓦礫の上に立つ、フィーネの絶叫。
それと共にその手に掲げられたのは、どこから取り出された「ソロモンの杖」。
「ソロモンの杖」が輝き、無数に
ノイズはあっという間に瓦礫に埋もれたリディアン音楽院の跡地を埋め尽くして――いや、決して狭くはないリディアンの敷地をも越え、少し離れた町にまで大量の様々な
あのライブの日の比にもならない大量のノイズ。けど、不思議とあたしの心は落ち着いていた。
スカイタワー周辺でのノイズ発生に続き、フィーネとノイズによるリディアン音楽院襲撃。そういったことがあってすぐ後だから、あのノイズたちのいる場所はすでに人々が避難した後で人命の心配をしなくていいという一種の安心感があったからかもしれない。……もちろん、人がいないからってノイズ共を野放しにして置く気は無い。それにアッチもあたしたちのことを敵として認識いるのがわかるから、衝突は間違い無く起こるだろう。
それでも、やっぱり不安は無かった。
纏ったこのシンフォギアから力があふれるからか。葵の言葉を思い出したからか。あるいは――
「「カ・ディンギル」を失っても衰えるどころか増すばかりのフィーネの執念、放っておくわけにはいかないわ」
「はいっ! 葵ちゃんから受け取った意志も、わたしの中の想いも言ってます! フィーネさんを止めないと、って!」
「あったりまえだ! 自棄か何かは知らねぇけど、これ以上暴れさせやしない……誰も犠牲に何てさせやしない!」
――離れていても耳以外のどこから聞こえてくる
それがあたしの背中を押してくれていた。
「ああ……いくぞ、みんな!!」
「オォリャアァァーーッ!!」
「はぁっ!」
両手で構えた
「墜ちろ、
数もさることながら、その変幻自在な飛行で装者へと迫ってくる厄介な飛行型ノイズ。それらを背中と腰回りから展開された武装から、直線的だったり時に弧を描く曲線的な誘導型の赤いレーザー光線を発射し、余すことなく飛行型ノイズを撃ち抜き――オマケにと地上のノイズまでも面制圧の乱射で霧散させる雪音クリス。
「負けてらんねぇな!!」
あたしも槍を自分の身体に添わせるように構え、
幾らかの時間を経て、自分だけでも結構な数のノイズを倒したと自信を持って言えるくらいになった時……あたしは上空に一旦とどまり、一度状況を確認した。
追加で出現したのか、あまり減っていないように思えるノイズ。
「だったら、周囲のノイズへの対処もそこそこに元凶であるフィーネを叩かないといけないか」と視線を動かそうとしたところで不意に違和感を感じた。
「なんだ……?」
あたしが動きを止めたのとほぼ同時、偶然か否か、ノイズの動きが変わったことに気付く。
ほんの一瞬前まであたし達めがけて襲ってきていたのに、急にその動きを止め不自然なほど揃った動きでどの
奴等が向いたのは、「ソロモンの杖」で奴等を出現させ操っているはずのフィーネがいる方向。それが操っているフィーネの意思だとして、一体何をしようっていうんだ?
いざとなれば、すぐにでも多少強引に
「なっ!?」
「一体何を……!?」
まるで切腹するかのような光景に目を見開く翼をはじめ、皆がフィーネの奇行に目を奪われた。
そして気付く。フィーネの口元に笑みが浮かべられていることに。
と、動きを止めていた全てのノイズ共が一斉にフィーネへと殺到しだした。
しかし、その動きはフィーネを襲うためにと言うわけではなく、ただ単純にフィーネめがけて集まっているようで……集まったノイズがぶつかり合い結合し、一つの塊になっていっていた。
その融合し大きくなっていくノイズの身体に呑み込まれるようにしてフィーネは取り込まれ――いや、あれは
「まさか!?」なんて叫ぶ間も無くフィーネはノイズに埋もれ、その姿は見えなくなった。それでも次々に集まっていくノイズは重なり合い、積み上げられ、空へ空へと伸びていく様に形が整いはじめる。
その自重を支えるためか、まるで根を張るかのようにノイズの塊の根元付近からゴポゴポと沸き立つように流れ出たノイズ肉が瓦礫を呑み込みながら地面へ――そのさらに下の地下へと浸透していくのが上空から見て取れた。
「オイオイ!? 何だよ、アレはっ!?」
あたし達装者全員の気持ちを代弁する雪音クリスの驚愕の声が響いたころには、その高さはあたし達がいる上空を越えたあたりにまで達していて、そこでようやくその成長を止めた。
「カ・ディンギル」よりはひと回り小さい――けど、並大抵の建物よりは大きいソレ。
ソレはまるで生き物のように蠢き、その中腹辺りから上が数か所
しかも、その手には「カ・ディンギル」の砲撃の原動力となっていたはずの、剣のカタチをした完全聖遺物「デュランダル」が握られていた。
「まだ全てが終わったわけではない、否、終わらせはしない! そして……我が手中にある3つの完全聖遺物、そのチカラが貴様らを葬るにこと足りぬわけがあるまい!!」
3つの完全聖遺物……フィーネが完全な融合を果たしていた「ネフシュタンの鎧」。さっき腹に刺したノイズを操る「ソロモンの杖」。そして、あの手に持つ剣「デュランダル」。
っ、そうか! 地下にまでノイズの身を伸ばしたのは、地下で原動力の完全聖遺物「デュランダル」をその手中に収めるためだったか!? となると、その無限のエネルギーを活用できるわけで……まさか「カ・ディンギル」と同じ「砲台」としての機能があるのか、コレには!?
いや、そうとも言い切れないか? あくまで手に持っているだけなんだから。
それに、地上から伸びる筒状の形だけならば
フィーネがいるあたりより少し下の部分から伸び広がっている複数本の突起物が
そういえば昔、聖遺物のことを勉強した時に「
――――ワタシの知ってる「赤き竜」と違う……
「ん? なんか言ったか、翼?」
「えっ? いえ、別に何も……?」
気のせいか? 今、確かに誰かの声が……
「余所見とは随分と余裕だなぁ!!」
フィーネの声にハッとし気を引き締め、すぐさま行動に移す。
視界には、首をわずかに動かし下から上へ薙ぎ払うかのように振るわんとする「赤き竜」。その矢印のような形をした頭の先端から発射された
「あっ! 町が……!」
「クソッ――――
「なん……だと……?」
いや、固まったのはあたしたちだけじゃない。フィーネさえもその光景に固まった。
「あれは……
「葵が出したのと……っ!?」
翼の言う通り、大地を抉り焦がし町へと迫っていたはずの
それも、葵が「カ・ディンギル」の砲撃を防ぐのに使った
違うのは、全体が半透明のオレンジ色だということ――よく見れば、ソレは正六角形の板状の物体が集まって形作られていることだろう。
その違いが一体何を意味するのか、あたしには全然わかりそうもなかった。
けど、まさかアレは葵が……?
「ここにきて邪魔立てするか!? 錬金術師ぃいぃぃぃーーッ!!」
怒り心頭のフィーネの絶叫。
それが状況がイマイチ飲み込みきれないあたしに「あの盾は葵が出したモノではない」ということを理解させた。
もしあの半透明の大盾を出現させたのが葵だとわかったのなら「葵」と――とは
なのにフィーネの口から忌々し気に吐き出されたのは『
『
なら、今、フィーネの砲撃を防いだ「盾」は、葵じゃなくて『
「よくわかんないけど、町の事は気にしないでいいってことですね!」
拳を握り直し、改めてフィーネの方へと向き直った立花に、あたし達は頷きかえす。
「ええ。これで背後の憂いは無くなったわ」
「へっ! なら、遠慮なくブッバなしてやる!」
「だなっ。どこのドイツかは知らないけど、気の利く奴もいたもんだ!」
拳を、剣を、銃を、そして槍を構え、あたし達は飛んだ。
葵から――みんなから受け取った想いを束ねたこのチカラで、フィーネとその野望を止めるためにっ!!
―――――――――
「困るんだよ。街が――店やその近所が壊れでもしたら」
リディアン音楽院の敷地と町との間。人や車が行き交うための道路のそばにいくつもある緑地帯の一角、木々の陰に身を潜ませ事態を見守る人物が一人。
銀髪、そして同色の顎から口周りにかけて生えそろった
「あるからね。ウチの店にまた来るっていう、少女との約束が」
そう言う店長の手には、ガラスのような光沢を持つ拳大の橙色の
彼の背後、雑木林の奥から不意に人影が現れる。
どこから現れたその人物は、少し前から「ラ・ジーン T8」でパンツスタイルの給仕服を着て接客をしている女性だった。……尤も、ウェイターとして活動している時とは服装も纏っている空気も違っているため、同一人物だと言われても気付けない人もいるかもしれないが。
そんな店員が「報告です」と、実に事務的な態度で告げる。
「構成員たちへ世界各地での捜索の指令を発信。指揮を取らせ息のかかった者たちも使い、各要所からの捜索網を展開。本部では情報の操作・隠蔽を行いつつ収集された情報、捜索結果の随時報告の整理と現場への指示を――」
「
部下からの報告もそこそこに口を挟み、切り上げさせた店長。
彼は手に持っていた橙色の
「納得のいく説明を聞かせてください」
――そんな店長の背中に、先程までの事務的な様子とは打って変わって強い声色をしたウェイターの言葉が投げかけられた。
「本当に大切なのであれば、隠すなどしてから手元に置き危険から遠ざければいい。何故、こんな見捨てるような真似を……!」
「見捨てる気なんて無いよ、欠片も。信じられやしないだろう、こんな現状じゃあ」
ウェイターの方へと振り返ることも無く、店長は動じた様子も無く淡々とした調子で――しかし、その声と瞳の奥底に確かな堅い意志を携えて――答える。
そんな店長が右手の
「長く置いておくわけにもいかないんだよ。僕らの手元には。それは彼女自身の為であり、世界の為であり……他でもない、僕の為に。今は、特にね」
「いったい、彼女とこの世界に何の因果関係が――」
「いずれわかるさ。いずれな」
笑みを浮かべながらそんなセリフを言い放ち、手に持つ白い
「ココの事は頼んだよ。フィーネの暴挙の妨害と、店を守ること……その姿は決して見せずに」
ふと振り返った店長が「
「復活した彼女――それと雪音クリスの命を護る場合はその限りでは無い。あと……一人二人、減っていたほうがいいくらいだからね。見捨てるべきだよ、僕らの悲願の為に他の装者は」
言い終えた店長は「用は済んだ」と言わんばかりに、店員の返答を待つこと無く一瞬の光を伴ってその姿を消した。
残された店員も店員で、一方的に言うだけ言って姿を消した店長に対し特別文句を吐くこともなく、その表情にはほんの少し前まで感じられた怒りの感情はカケラも存在せず――――呆れか諦めか、大きなため息をついた。
「
どこか慣れさえ感じられる店員の呟き。もし第三者がいたとすれば、その表情や言葉の
そんな、行く先を憂うような表情をしていたのもほんの数秒。
多少沈んだ気持ちを切り替えるように、軽く首を振った店員は木々の影から覗くようにしてその視線を空へと向けた。
彼女の視線の先では青、橙、黄、赤のシンフォギアを纏った装者。
フィーネの操る「赤き竜」の
中でも店員の目にとまるのは『赤』。
「雪音クリス……」
シンフォギア装者の中では唯一『
何故、装者の中でも
喫茶店に来て、話し、交流があったからか? ……いや、それなら天羽奏や風鳴翼の方が来店回数も、内容はともあれ会話回数も多い。
店員は考えに考えたが、候補はあがれど遂には確信のある答えは見当がつかなかった。
疑問はある。だが、状況が状況。
そもそも、店員個人としても雪音クリスに対しては特別思い入れがあったので、その命を守ることに対し特に異存はなかったのだが……。
こうして、万が一の事態に対応できるよう
―――――――――
トンデモない姿になったフィーネとアタシたち装者の戦い。
戦況はアタシたちが押してはいるけれど楽観視できる状況じゃないってことは、当事者であるアタシ自身が嫌というほどわかっていた。
ただでさえ強力なチカラを持つ完全聖遺物。それが3つも揃っている。しかも、そのうちひとつが「無限の再生能力」、また別のひとつは「無限のエネルギー」ときたもんだ。
いくらアタシたちの纏っているギアが通常のシンフォギアを超えたシンフォギアだと言っても、際限無く回復し無理矢理にでも長期戦に持ち込まれその上で終わり無く砲撃を撃たれ続ければ、間違いなくコッチが先に限界が来てしまうのは目に見えてる。
にしても……あんなにも再生能力を多用して、フィーネは何の問題も無いのか?
浮かんできた疑問。あの完全聖遺物「ネフシュタンの鎧」を纏ったことがあるアタシだからこその疑問なんだろうけど……それにしたって、あまりにもいき過ぎた能力の行使に思える。
損傷の大半がノイズの集合体が構築した部分で、いくらでも代えが効くからか? いや、アタシたち装者4人の攻撃は流石のフィーネも完全には防ぎきれはしていない。だから、人のカタチをしたフィーネの身体にも何度も攻撃は通ってはいる。けど、やっぱりその時の傷もいとも容易く再生してしまっていた。
アタシの身におきていたのは使用に伴うネフシュタンによる生身の浸食、そこからくる拒絶反応――けど、拒絶反応の無い完全な融合をすることができた今のフィーネには――生身と聖遺物との境界が無くなった身体にはそんなリスクは存在しないってことなのか?
「いくら刃を通せども、その度にすぐさま再生されてしまっては
いっぺんにやられてしまわないよう、攻撃を分散するために上空で展開しそれぞれが離れて飛んでいるアタシたち。
それでも何の問題も無く聞こえてきたツヴァイウィングの
「だったらどうするってんだ? まさかとは思うが、いまさら諦めようだなんて言いだしたりしねぇよな?」
「当り前よ」
「だよなぁ、翼。けど、いつまでもこうしてるわけにもいかない。……だったら、発想を変えて全力全開の一発に賭けてみないか?」
「発想を変えて……それってどういう?」
「完全聖遺物がヤバイっていうなら、コッチだってそれを利用しない手はないだろ?」
完全聖遺物を? けど、そんな貴重なもん持ってるわけも無い。いったいどうやって……?
アタシたちの疑問に答えるように、その姿が遠目に見えた天羽奏が不敵な笑みを浮かべ
「ぶっ飛ばそうぜ、
フィーネの3つの完全聖遺物のうち、唯一融合を果たしていない完全聖遺物「デュランダル」――――それがアタシの切り札……!?
今回のお話の引きが、原作を知らなくてもわかる今後の展開のネタバレな件について。
これでどうやってラストを盛り上げる気なんだ……?(目に見えた伏せカードブラフ)
次回! 一期最終回「ヒダマリと流れ星」!
たぶんサブタイトルは違うものになるけど、デュエルスタンバイ!!