我が手には星遺物(誤字にあらず)   作:僕だ!

44 / 47
大変長らくお待たせしました!
思い付きによる変更や執筆速度等々、遅れに遅れただいま完成!!
誤字脱字(いつもの)……ご報告、いつもありがとうございます!


基本第三者視点、途中でフィーネ、響、第三者、響、フィーネの視点になってまた第三者と少々面倒なことに…

原作改変、捏造設定マシマシ。
登場人物たちの今後の課題、伏線たくさんの最終話!

ちゃんと伝えられているか、表現できているか不安ですが、よろしくお願いします!!


2-18

装者たちの動きが変わった。

彼女たちと対峙しているフィーネはそう感じた。

 

これまで、フィーネの居座る「赤き竜」の中央部になんとか攻撃を通そうと、多方面から攻撃し「赤き竜」の肉を削っていこうとしていた。結果から言えば、削ることは出来たし、フィーネに対しても何発も攻撃が届いた。

だが、それらは「ネフシュタンの鎧」の再生能力もあって全てが無に帰した。

 

そんなことがあってか、装者たちの動きが消極的になっていた。

諦めた――というわけではないことはフィーネはわかっている。だからと言って、長期戦を「ネフシュタンの鎧」相手に挑んできているわけでもないことも、当然わかっている。

はかっている。()()をする機会(チャンス)を、その瞬間を狙うべく待っているのだと……。

 

そして、その時は――来た。

 

 

「クリスちゃん!」

 

「おう! 全弾発射(フルバースト)ーー!!

 

クリスの絶叫と共に展開され発射された無数の弾道ミサイル。

XD(エクスドライブ)』モードでの展開されたミサイルの数、その質量は普段のソレと比ではなく、射出されたミサイルたちはそれぞれ異なる軌道で――しかし、フィーネを狙って――多方面から飛翔していった。

 

「舐めるなよっ、この程度で越えられると思っているのか!?」

 

しかし、防ぎきれない量、威力でないとフィーネには判断でき――事実、余剰エネルギーからうみだした障壁で威力を減衰させれば、あとは「赤き竜」のその身を寄せて壁にすることで、ミサイルの爆炎はフィーネまでは届かなかった。

 

 

が、フィーネにとって予想外の事態が起きた。

とっさに張った障壁で減衰させてもミサイルの威力は竜の身を削るほどあった。けれど、それは想定を下回る被害でしか無く不審に思い――同時に気付く、()()()()()()()()()()

故にフィーネは自身の読みが()()()()だがズレていたことに気付いた。ミサイル(これ)は目眩まし……次への布石なのだと。

 

 

フィーネの視線の先……開かれた「赤き竜」の前面は、クリスが放った無数のミサイルによる爆発の煙で視界が塗りつぶされている。

あの煙のどこから、いつ、どんな攻撃がくるかと考えさせ、気を張らせ、焦らし……少しでも隙を増やそうという算段なんだろう、とフィーネは判断した。

「だが、わざわざ乗ってやる必要もない」とも思い、行動に移した。

 

自身から見た前方、開かれた「赤き竜」の胴周辺にエネルギーを何層かに分けて集めておき、とっさの判断ですぐさま障壁を張れるようにしておく。同時に「赤き竜」の羽から伸ばした触腕の数本を煙の漂う開かれた前面へと伸ばし、それらを一気に振るうことで煙を払い散らす準備をする。

 

 

 

「目眩ましなど小癪な真似が上手くいくとでも……うガアァッ!?

 

 

 

伸ばした触腕で煙を払おうとした、ちょうどその時。

とてつもない衝撃がフィーネを襲った。

 

それも、開けた前方ではなく背後から――そう。目暗ましで前方に意識を向けられていることを逆手に取っての奇襲。

フィーネにとって完全な死角である、ノイズによって形成された「赤き竜」の背中。その肉壁が攻撃の障害になる事も構わず――それを見越した、奏と翼(ツヴァイウィング)による一心同体全身全霊一極集中の回転突撃。

 

双星ノ鉄槌‐DIASTER BLAST‐

 

「赤き竜」の胴に、その横幅半分に少し満たないくらいの直径の穴が穿たれた。

「赤き竜」のノイズ肉は容易に抉られ吹き飛ばされた。けれど、完全聖遺物「ネフシュタンの鎧」との融合を果たしているフィーネ自身は多少削られてもすぐさま再生。そのフィーネが「赤き竜」と一心同体になっている接合部分である内部の台座部分もその大半が吹き飛ばされはしたものの、中に在ったフィーネの足部分は削りきれずやはりこちらもすぐさま再生を始める。

 

大きく穿った「赤き竜」の胴さえも、周りからどんどん寄せて集まるようにして修繕がされていく。

 

 

だがしかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

回転し突き進んだふたり(ツヴァイウィング)の勢いに削られ、その中で弾き飛ばされた――フィーネとは融合していなかったために()()()から離れてしまった――「()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「なっ! 「デュランダル」を狙って……!?」

 

 

 

「そいつが切り札だ!」

 

「勝機をこぼすな、掴み取れ!」

 

渾身の一撃で「赤き竜」を穿った奏と翼が声を張り上げる。

 

「ちょっせぇっ!!」

 

回転しながらも自然落下を始めた剣のカタチをした「デュランダル」に銃撃を放ち、弾くその勢いで浮き上がらせ軌道を修正するクリス。

 

 

そして、浮かびあがった「デュランダル」へ向かって飛び手を伸ばす響。

 

「届けぇえぇっ!」

 

 

「デュランダル」をその手で掴み取った響は、『黒』に染まった――

 

 

 

―――――――――

 

 

 

どこまでも黒く、黒く……そして冷たく沈む闇。

その中で沸騰し湧きあがるように押し寄せてくる破壊衝動。

 

 

この感覚を立花響(わたし)は知っている。

 

 

完全聖遺物「デュランダル」。

まだ起動していなかった「デュランダル」の護送中に、「ネフシュタンの鎧」を纏っていたころのクリスちゃんが襲ってきて戦闘になって、その戦いの中でわたしの歌に反応してか起動してしまった「デュランダル」。

それを渡すまいととっさに伸ばした手で掴んでしまい――暴走した。

 

 

あの時は、「デュランダル」が起動してすぐだったこともあってか、破壊衝動のままその刀身から溢れ出てくるエネルギーを全てクリスちゃん目がけて解き放ったことで一時的に「デュランダル」内とわたしの中のエネルギーがスッカラカンになりわたしが意識を手放したことで収拾がついた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?

 

 

思考が、恐怖がわたしをより闇の深くへと堕としていき…………より深く沈んだ闇の中で、()()()()()()()()()ソレはいた。

 

 

うごめく闇の中で私の前に現れたのは、周りの闇よりももっと黒いわたしのカタチをした(だれか)

 

 

【壊せ、潰せ、殴り飛ばせ】

【ノイズも敵も、誰も彼も】

【人を殺して自分は生きた殺人者と】

【そんなことを言った奴らを】

【そんな心無いことを言うに至る人間を】

【助けるの? 護るの? なんで命を張らなきゃいけないの?】

【友達だから、家族だから、仲間だから違うって?】

【そいつらも、結局はみんなしてわたしを傷付ける】

【わたしはあのライブ生存者】

【沢山の人を傷つけた、今更何を躊躇う】

【壊せ、壊せ、壊せ】

【■■■、■■■、■■■】

【■■■!■■■!■■■!】

【■■■!!■■■!!■■■!!】

 

 

目の前の私のカタチをした闇の口から、破壊衝動の言葉が溢れ出してくる。

そして、わたしの中からも破壊衝動の感情が湧きだしてくる。

 

 

けれど、(おく)さない。

知っているから……葵ちゃんが教えてくれたから!

 

わたしの使命「人の心を導き、人の心を繋ぐ」その意味を!

 

わたしは独りじゃない。

繋いだこの手が築き上げてきたものが――「見えるけど見えないもの」が! 離れていても、わたしとみんなとを繋いでくれている!!

 

 

――正念場だ! 踏ん張りどころだろうが!

――強く自分を意識してください!

――昨日までの自分をっ!

――これからなりたい自分をっ!

 

二課のみんなの声が()()()()聞こえてくる。

 

わたしの背後の闇に穴が開き、光が差し込んだ。

 

 

――心の闇から目を逸らすな! 真正面からぶつかってくんだ!!

――屈するな、立花! 貴女の胸の覚悟、私に見せてくれ!

――みんながお前を信じ、お前にかけてるんだ! お前が自分を信じなくてどうすんだよ!!

 

装者の仲間たちの声が()()()()()()聞こえ、肩に、背中に、心強いチカラを感じた。

 

穴から広がるように闇が砕けていき、そこから漏れ出す(ぬくもり)につつまれていく。

 

 

――あなたのお節介を!

――あんたの人助けを!

――今日はあたしたちが!!

 

クラスメイトの友達の声も()()()()聞こえてくる。

 

暖かな光に引き寄せられるように、わたしの身体も光へ――現実へと引き戻されようとしていた。

 

 

 

だけどわたしは、()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

目を向けるのは、背後の光じゃなくて目の前にあった、『わたしのカタチをした闇』。

 

ソレは、光に照らされたからと言って消えたりはしていなかった。

けれど、黒い影は光にかき消され、その姿がわたしの目からもシッカリと見えるようになっていた。

 

 

「あぁ……()()()()()

 

 

『わたしのカタチをした闇』は、紛れも無くわたし自身だった。

そして、その表情(かお)には怒りの感情はまるで感じられなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

【どうして】

 

その言葉と一緒にポロポロと零れてくる涙。

 

【どうして恐くないの】

 

「何が」恐くないのか……その意味は、()()()()()()()()()()

だから、それに対する答えはもうこの胸の内にある。それを(わたし)に言葉にして伝えなきゃいけない。

 

「ううん、恐いよ――でもね、()()()()()()。恐いだけじゃないってことを」

 

【……】

 

「わたしなら、わかるはずだよ? だって――」

 

 

 

――響ぃーーーーッ!!

 

 

 

「ほらっ」

 

()()()()のような温もりが――

()()()()のような輝きが――

闇の世界、その全てを照らしだした。

 

 

そう、()()()みたいに――

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「ツヴァイウィング」ライブの惨劇。

あの日を機に、立花(たちばな)(ひびき)という人間の人生は変わった。

 

辛い思いをし、長いリハビリを終えてなんとか戻った家。再び通えるようになった学校。

そこにはもう以前までの日常は無くて、心無い人たちの誹謗中傷、暴力……そんなものばかりが立花響の生きる日々を彩っていた。

 

 

彼女にとっての救いは、()()()()()を除いて唯一味方でいてくれた1人の友人・小日向(こひなた)未来(みく)という存在。

立花響と一緒にライブ会場に行き、惨劇の中を生存していながら「ライブには参加していなかった」ことになっていた小日向未来は、参加していない証拠があがろうと「自分も生存者だ」と言い立花響を守り擁護しようとし――「殺人犯の肩を持つから」と言う理由で嫌がらせを受けるようになる。

 

けれど、そんな状況も長くは続かなかった。

 

何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ある日の放課後、立花響が小日向未来に手をあげた。それだけじゃ飽き足らず、口汚く罵り、彼女自身だけでなく彼女の持ち物まであたったのだ――それも、部活動で残っていた生徒たちが見ている前で。

結果、立花響は「やっぱりそうだったのか」と一層の悪意を向けられ、小日向未来は立花響の暴力の被害者として同情され庇護され……こうして、ふたりの関係(なか)は寸断された。

 

 

 

数カ月……

それは短くもあり、当事者にとっては長く苦しい日々。

けれど、それもまた変わる。

 

 

その区切りになったのは、あくる日の朝。

早朝も早朝、まだ日が昇り顔を出しはじめた頃。

 

投げられた石で割られた幾枚もの窓が見える立花家、その玄関。

玄関や門柱、敷地の塀には、剥がしても剥がしても、何度も貼られる誹謗中傷の張り紙。心無い言葉での落書き。

 

そんな場所で数カ月ぶりに一対一で対面した立花響と小日向未来。

静かなノックと聞こえてきた声で、来訪者が普段来る人間じゃなく小日向未来であることに気付いた立花響が、心配してついてきた母と祖母を下がらせ自分で対応することにした――目的は「小日向未来を傷付ける」ただそれだけだった。

 

 

「なに? 大した用じゃないならさっさとどっかに行って欲しいんだけど……ていうかアンタ、どっか他所へ行くんでしょ? 良かった、周りをウロウロされてウザったかったからせいぜいする」

 

大きなバッグを背負い、そして手にもまた別のバッグを持った小日向未来に向けられた言葉。

学校で誹謗中傷の切れ間に聞こえてきた「小日向未来が親の都合で引っ越しする」という噂話からして、本当にライブの生存者であることが露見するのを恐れた小日向家が計画した引っ越しが今日。小日向未来はその荷物を持って別れの挨拶をわざわざしに来たんだろう――――立花響は、そう判断した。

 

()()()()()()()()()()()()

別れの言葉(そんなもの)はいらないから。

これまでの感謝でも、恨み辛みでも、泣きごとでもなんでも自分たちには必要無いものだから……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

「――――えっ」

 

下げられた頭。

かけられた言葉。

 

立花響はすぐには理解できなかった。

小日向未来が、あろうことか世間からの誹謗中傷の矛先である立花家に居候しようと大荷物を抱えてきたということを。

 

「響が出ていけっていっても私は諦めない。わたしは、絶対にここに住む――響を独りになんてさせない!」

 

「アンタ、何言って……!? ば、馬鹿か! とっとと出ていけっ!!」

 

「やだよ! ダメって言っても、入れてくれるまで玄関の前にずっといるっ! 自分の気持ちに、嘘をつきたくなんて無いから!!」

 

「そんなの、すきにすれば――――っ!?」

 

 

今はまだ陽の昇りだした早朝。人がいるはずもないからこうも静かだが、()()()()()()()()

またいつもの連中が群れを成して立花家の前で騒ぎ立てるはずだ。……もしそこに小日向未来がいたとすれば、どうなるだろう? そこで「立花響の親友だ」、「私もライブの生存者だ」なんて言ったらどうなるだろう? その言葉の真偽関係無しに向けられるだろう、悪意の矛先が。

 

だから、立花響は拳を突きだす。言葉の凶器(ナイフ)と共に小日向未来へ。

手をあげ、口汚く罵った()()()()()()()()()、最後にそえて。

 

 

「ウザいんだよ! 目障りなんだよ!! なんで放っておいてくれないのさッ!? 同情なの? 何なの!? そうやって手を差し伸べて助けようとする自分に酔ってるのか!? この――偽善者!!

 

 

偽善者でいいよ!! それで響のそばにいられるなら! だから――――もう自分を傷付けないで…!

 

 

手から離れ落としてしまった荷物なんて構う様子もなく――突き出された拳を受け止めた手で包み込み、そのまま小日向未来は立花響の()()()()()()優しく抱きしめた。

 

 

ふたりの環境が()()()()動くのはそれからわずか一週間後。

それをこの時の彼女たちが知る由もない……。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「……そう。わたしはあの時、間違えた」

 

 

未来は「自分を傷付けないで」って言ってくれたけど、わたしは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

わたしのせいで自分が傷付くのは自分が苦しいだけ。

けど、わたしのせいで未来(みく)が傷付くのは自分が傷付いた時の何倍も苦しくて……だから、わたしはわたしの手で未来を傷付け遠ざけ、未来が傷付けられないように他人であろうとした。

(わたし)に傷付けられた相手(未来)の苦しみなんて考えられてない、本末転倒な手段だったことに気付きもしないで……。

 

 

――――『それがお前の心の闇か』

 

 

修行を受けていた時……武器(アームドギア)を出せないことに悩み、その要因として、誰かを守るチカラが誰かを傷付けるチカラでもあることを――そして、起動した「デュランダル」を持ってしまい破壊衝動に呑まれてしまった時のことを話したあの時。

未来はその破壊衝動を「デュランダルのせいだ」って言ってくれてたけど、それ以上に葵ちゃんが言った言葉が心に残っていた。

 

自分の大事なモノを守るために、他の誰かを…全てを傷付けることも(いと)わない意志。

逃れようがない、わたしの中に確かにあった破壊衝動(やみ)

 

 

()()()()()

 

 

今はもう違う。

未来が間違いを教えて、道を示してくれた。

未来がそばにいてくれて、その身で感じた。

だからわかった……奥底にあった(わたし)の「想い」、その全てが全て間違いではなかったってことを。向き合い考え続ける、その意味を!

 

 

「だからわたしは……わたしはもう(わたし)を恐がったりしない!」

 

 

【……そっか。今の、立花響(あなた)なら大丈夫かも、ね】

 

零れた涙をぬぐった(わたし)が、つきものが落ちたかのように笑みを浮かべ――そして決心した様子でその鋭くした目を、真っ直ぐわたしへ向けてきた。

 

 

【ねぇ、みんなを…未来(みく)を護って!】

 

「ううん、わたしだけじゃダメだ――これからは、()()()()()()()()

 

【……!?】

 

「そうすれば、きっとこの手は届くから!」

 

 

そうだ、確かに間違えた。

傷付く未来を見たくない自分のために、わたしは未来を傷付けてしまった。

 

方向が、手段が間違っていた……けど、その奥にあったはずの「傷付いて欲しくない」という「想い」だけはきっと間違いなんかじゃない!!

だから――()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

装者の内からの負の感情の爆発。

シンフォギアに用いられた聖遺物の欠片と完全聖遺物との拒絶反応。

 

過程こそ違えど、同じ『暴走状態』。

融合症例である立花響は、身体と聖遺物との繋がりが密接であるため暴走状態への移行が比較的容易に起こり易く、同時にそこからの破壊衝動への抵抗が難しいと考えられる。

 

()()()()()

 

ついさきほどまでしていた「カ・ディンギル」をめぐる攻防戦にて、『暴走状態』に陥っていた天羽奏が見せた()()()が頭を(よぎ)り、判断を惑わせていた。

 

天羽奏は終盤には『暴走状態』から脱し、「完全な克服」とはいかなかったが――しかし、ある意味で厄介そうな――「理性と暴走を併せ持った状態」に成った。ソレが偶然だったとして、可能性が(ゼロ)ではないことの証明にはなろう。

例え先に述べたように通常のシンフォギア装者以上に暴走の影響を大きく受けやすいだろう融合症例である立花響だからと言って、絶対にありえないとは言い切れない……そう思えてしまっていた。『暴走状態』であるまま理性を保つなどという荒業でなくても、ただ単純に『暴走状態』を克服する可能性も捨てきれない。

 

 

前回、工業地帯にて「デュランダル」が起動し『暴走状態』となった立花響がくり出した一撃から、その範囲と威力のデータは得てありこの頭の中にすでに入っている。

そこから割り出された予測では、『暴走状態』での「デュランダル」の一撃はノイズの肉の壁と「ネフシュタンの鎧」の再生能力をもってすれば凌ぎきることは十分可能である。()()()、もしもあの爆発的高出力のエネルギーが明確な方向性を持たせられた一極集中の一撃を向けられたとすれば、その際のこの身の安否は不明確――いや、「ネフシュタンの鎧」の再生能力の範囲・速度の上限を把握しきれていないが故の「不明確」であるため、むしろ私の予測では死の可能性の方が高いまである。

 

 

(ゆえ)に、今のうちに、わずかな可能性であっても確実に潰しておかねばならない……!

 

 

幸いにも、今現在、装者共の意識はこちらへはほとんど向いていない。

立花響は、握った「デュランダル」によって『暴走状態』になりながらもその破壊衝動を抑え込もうとし、顔周り以外が闇に呑まれながらも必死に抵抗を続けている。

他の装者共は、そんな立花響のもとに集まりその腕に、背に手をそえて支えるように付き添い、立花響に対して何か必死に声をかけている。

いきられているのであれば地下で大人しくしておけばよかった連中も、何を思ったか無理矢理道をこじ開けて地上へと飛び出し、(かしま)しく立花響へと声を投げかけているが……無意味なことを。

 

 

なんにせよ、すぐさまコッチへは手を出してくることは無い。

 

ついでに、念には念を入れて「赤き竜」の羽の根元から数本の触腕を伸ばし、装者共を墜落(おと)すべく振るい叩き付ける。――が、その攻撃は(はじ)かれた。

その要因は主に二つ……ヤツらが纏うXD(エクスドライブ)モードの素の出力が高いこと。そして暴走の原因でありヤツらが必死に抑え込もうとしている「デュランダル」から溢れ出ているエネルギーもまた高出力であること。……そういったこともあって、触腕での攻撃はヤツらに触れる前に弾かれてしまっている。だが、()()()()()()。暴走を抑え込もうとしている装者共の集中を削ぐことが出来れば、結果的にこちらの得になるのだから。

 

 

そんな妨害を片手間にしながら、本命の準備を早急に行う。

無限のエネルギーを持つ「デュランダル」が手元から離れてしまった今、「赤き竜(コレ)」を出現させたすぐ後に町へ向かって砲撃(レーザー)を再び放つことは難しい――そう、()()()()()()()()()()()()()

残留しているエネルギーを基に、「赤き竜」の身体も担っているノイズの肉――その一部を変換しエネルギーへと精製、砲撃(レーザー)を放つための糧にしていく。さらにさらにと、充填していく。目指す出力は、触腕で計り知る事が出来たヤツらが周囲に漂わせているエネルギーを難無く撃ち散らした上でその身を穿つことが十分可能であろう高出力。さらにはあの時、どこかに潜んでいた錬金術師が出現させた半透明の盾の存在を考慮し、(それ)さえも穿つ威力にするために限界まで溜める。

 

 

時間にしてほんの十数秒足らず。

未だに装者たち(アチラ)の態勢は整っていない。

 

 

 

エネルギーを錬成しかき集め、「デュランダル」の無い現状において最大限まで出力を高めた砲撃(レーザー)。ソレを持ってして穿つ。装者たち(ヤツら)を、その切り札(キボウ)を……!!

 

 

 

突如、肩に何かが触れた。

 

 

(いな)、突如などという言葉では表現できようものか。

そこに勢いなどなかった。けれど、先程までは確かに存在せず――しかし、気づけば(そこ)()った。

 

 

手。

 

 

私がいる「赤き竜」内部の空間、誰もいないはずの背後から伸びた手。

そこには、肩を引くほどの腕力(チカラ)も、骨を握り砕くほどの握力(チカラ)も無く。唯々(ただただ)、優しくそえられた程度でしかない、片手が在るだけだ。

 

 

空飛ぶ装者共は、未だ「赤き竜」から数十メートル先「デュランダル」を持つ立花響のそばから誰一人離れてはいない。

当然、空へ飛ぶことの叶わぬ風鳴弦十郎たち二課や、立花響の友人ら一般人であるはずもない。

ならば、この戦いを陰から見ている錬金術師か?

 

 

――()()()()()()

 

 

何故、私は振り払わない?

何故、私は動けない?

何故、私はこうも()()()()()()()

 

 

 

 

 

()()()()()

 

 

その手が置かれた瞬間から、()()()そう感じていた。

 

振り返り際に見えた、私の右肩に乗った左手の金色(こんじき)腕鎧(ガントレット)

そこから遡るように伝う視線に映る腕には、浅黒い御肌と紺の御衣。

半身を隠すかのように纏われた木蘭色(もくらんじき)の外套。

その下の上半身には黒を基調とした鎧。

鋭く透き通った眼に、凛々しく整った眉。

そして、いつか見た蒼天のように澄み渡った青の逆立った頭髪。

 

見間違えるはずが無い。

背後から私の肩に手を置いたのは、「あの御方(おかた)だ。

 

 

 

 

 

ずっと望んでいた、「あの御方」との再会。

 

何故此処(ココ)に?

今まで何処(ドコ)に?

 

何故「バラルの呪詛」を?

 

聞きたいことが山ほどある。

言いたいことはそれ以上にある。

 

特に、この胸の内の想いは、「あの御方」がその姿を消したあの時から今もなお燃え続けている。否、薄れるどころかより深く激しくなっていっている。

「バラルの呪詛」により統一言語を失った今、その想いを口にしたところで「あの御方」に伝わるのか不安にかられた――が、()()()()()()抑えきれそうもなく、今にも声に出してしまいそうだ。

そうだ。幾度もの人生を越えても衰えること無い…むしろ日に日に増していった(想い)が、その想いで焦がれる私自身に止められるはずもない。そして今、「あの御方」を前にして喉元寸前のところまで来て――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

引き止められたのだ、「あの御方」に。その眼に、その表情に視線と心が奪われて。

どこか(かな)しみを抱いた表情(かお)で――しかし、安らかな笑みをうっすらとうかべ――「あの御方」は目をつむり、小さく首を横に振った。

 

 

否定か。

拒絶か。

 

 

その意味が解らず、答えを求め無意識に伸びた手。

伸ばした手は「あの御方」()()()()()()()()()()()()

 

私の肩に確かにあった感触――その手の先や、他、足先等、四肢の末端から頭部(かお)へ向かって、サラサラと、光の粒となって散っていき私の手をすり抜けていく。

伸ばそうとも、握ろうとも、かき集め抱き締めようとも、そこにはもう身体は無く空ぶるばかり。最後に残った「あの御方」も刻一刻と失われていく。

 

ほんの数妙間での消失。であるにもかかわらず、これまで繰り返してきた人生と同じくらいの長い時間に感じられる時間の中……

哀しそうな表情(かお)で……けれど、うっすらと優しく笑みを浮かべた「あの御方」はついには光の粒と消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

今になって現れたのは?

 

昔のように声をかけてはくれなかったのか?

 

先史文明期よりいくつもの人生を越えた今現在、姿形を変えずに隠れておられたのか?

 

いくら我々「人間」とは異なる存在とはいえ、そんなことがありえるだろうか?

 

光の粒となって消えてしまったのは何故なのか?

 

 

本当に先程の人物は「あの御方」本人だったのか?

 

 

今の「あの御方」は、幻だったのか?

 

ならば、誰が見せた?

 

あそこにいる装者共か?

 

どこかから干渉をしてきていた錬金術師か?

 

それ以外の第三者か?

 

 

否、否っ!

私以上に「あの御方」の姿を、その仕草を、その表情を知り得る者がこの地にいるはずが無いィッ!!

 

 

まさか――――

 

 

 

 

 

――――()()()()

 

 

 

 

何故?

ナゼ?

なぜ?

 

 

()()()()()()()――――

 

 

 

「うおおおおぉぉおぉーーーーっ!」

 

 

 

――――私に残されていた、最後の反撃のチャンスを逃してしまったということだ。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

「うおおおおぉぉおぉーーーーっ!」

 

 

 

地上からの呼びかけが――響を呼ぶ未来(みく)の声が――空に響き渡ったその数秒後。

 

響は身体を覆っていた『黒』を打ち払い、その姿をXD(エクスドライブ)モードに至った光り輝くシンフォギアへと再び変えた。

その両手で握るはより一層強い輝きを放つ「デュランダル」。

 

 

「なぁ、なんか……変じゃないか!?」

 

「変って……まさか立花に何か!?」

 

「そういうのじゃなくって、アタシが前に見た「デュランダル」が、もっとこう……ギンギラギンな感じだった気がするって話で!?」

 

「言われてみれば、記録映像で見たのに比べておかしい気が……」

 

確かに、翼の言う通り「デュランダル」護送任務の時、クリスとの衝突のさなか響が起動した「デュランダル」を彼女が手にした際、響は聖遺物同士の反発がおきそれが精神へ直に影響したため暴走状態になってしまい黒く染まった――が、「デュランダル」自身はその無限に感じられるほどのエネルギーを光り輝く閃光の如く噴出していた。

 

しかし、今の「デュランダル」が放つエネルギーは、眩しいほどに輝く光だけでなく、ソレ全体を覆おうとするような()()()()()がまとわりつき流動している。

 

ひかり輝く閃光と、赤黒い輝き。もはや別物のように思え――それどころか『暴走』の影響が完全聖遺物のほうに移行し制御不能になってしまっているのではという未知数の予測さえ出てくる始末。

 

 

しかし――

 

 

「ん? 大丈夫だろ? そんな悪い感じはしないし――むしろ、なんか妙な安心感すら感じられるくらいじゃないか」

 

 

――そう奏が言ったように、騒ぎ立てていたクリスとツバサ自身、違和感を覚えつつも不思議とその輝きに恐れは抱いておらず、いつの間にか受け入れてしまっていたのだ。

 

 

「奏さん! 翼さん! クリスちゃん!」

 

 

赤黒い輝きを纏った「デュランダル」を(かか)げていた響。

彼女の『暴走状態』復帰後、開口一番の言葉は「お願い」だった。

 

 

「お願いがあります! 私を――――」

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

装者たちに支えられた立花響が高らかに掲げ構えた「デュランダル」。

その刀身から放たれる赤黒い光は、いくつもの人生を渡り生きてきたフィーネ(わたし)も見たことのない――荒々しくもどこか柔らかい輝きで目が離せなくなるものだった。

 

その拡散気味だった輝きは一つに束ねられ、天高くそびえ立つ光の柱となり――今、私の前に立ちはだかる。

 

「何だ、その輝きは……!? そのチカラ、何を束ねた!?」

 

 

「響き合うみんなの歌声がくれたっ、シンフォギアでぇええぇぇぇーーーーーーっ!!」

 

 

咆哮と共に振り下ろされた「デュランダル」。

その太刀筋の延長となる光の柱が「赤き竜」を頭から呑みこみ、縦に斬り裂いていく――――いや、()()()()()()()()

 

「ネフシュタンの鎧」と融合した身体が――その延長線上にある「赤き竜」を形成するノイズ肉が異常を感じる。

まるで沸騰したかのように泡立ち沸き立つのだ、「赤き竜」の身体がボコボコと。

ソレとほぼ同時に「ネフシュタンの鎧」の再生能力の不全が感じられた。斬り裂かれた「赤き竜」の身体が……余波を受けた自分自身の肉体が()()()()()()()()()()。まるで、「ネフシュタンの鎧」の機能そのものがなくなったかのように――――

 

 

――――ひとつだけ、思い当たった。

この事態を起こすに至った現象に。

 

「完全聖遺物同士の対消滅……!?」

 

XD(エクスドライブ)モードと同じく――しかし別方向に机上の空論であるはずの現象。

全く同じ聖遺物同士でなくても起こり得るが、発生条件の未確定さや、実験のコストの面でロクに実験などは行われず「起こり得る」とだけ判断された現象。

それが今、目の前で――この身で起きている!?

 

 

 

……叫び声はあげなかった。

あげられなかったわけではなく、あくまで「あげなかった」。そして、抗いもしなかった。

 

ノイズによる襲撃をかけてから、風鳴弦十郎に、()()に、そして装者たちに予想を裏切られ、想定を上回られ、常識を覆された。

そして、あの時見た「あの御方」の姿が私の中で()()()()()()()()()()()()()()()()()…………。

 

 

「だが……遅すぎた。なにもかも全て、もう――――」

 

 

 

 

 

 

「そんなこと、ないですよ」

 

 

光の中。

憎たらしい顔と、ソイツの伸ばす手が見えた。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

光の柱は消えた。

「赤き竜」もその姿を完全に消し、辺り一帯はリディアン音楽院校舎の瓦礫と、その瓦礫が吹きとばされ更地になった大地……そして半ばから折れた「カディンギル」のみとなっていた。

 

 

「とんだ阿呆(あほう)だな、()()()()は」

 

そこに、空から降りてきたXD(エクスドライブ)モードの装者たちと、響とクリスに肩を貸されながら降りてきた「ネフシュタンの鎧」を纏っただけの姿に戻ったフィーネ。

 

「特に天羽奏……お前は私を殺す道理はあれど、助ける義理など無いだろう」

 

地におろされ、更地に残る大きめの瓦礫にもたれかかるように地面に座ったフィーネ。

その問いに、自身の髪をワシャワシャとかきながら奏が口を開く。

 

「そりゃあまぁなんとも思ってないわけじゃあないし、色々と言いたいことはあるけどさ……葵が言ってた気がしたんだ。「フィーネ(お前)を助けてやってくれ」って。だったらそれを無下にするわけにはいかないってだけだって」

 

面倒くさそうにして――けれど「仕方ないなぁ」と呆れ気味に――奏は笑みを浮かべた。

 

「櫻井女史。既に起きた出来事は、無かったことにはできません……でも、これから変わっていくことは出来るはずです。そして、確かに貴女によって失われた人命があります。けれど櫻井女史のチカラによって守られた命、救われた命があるんです。それは、きっとこれからも……」

 

「……無駄だ」

 

「フィーネさん、あなたはこれで本当に納得できてるんですか? 本当は――」

 

翼に言葉だけで答えたフィーネだが、響の問いかけには静かに首を横に振ってから返した。

 

「完全な融合を果たしていた――()()()()()()()()私のこの身体は、完全聖遺物同士による対消滅によってこの世界から消えることが決定つけられた「ネフシュタンの鎧」と運命を共にすることとなる」

 

ハッとした響。

それを見てか見らずにか、どこか申し訳なさそうに目を合わせず明後日の方向を見て「だから――」と言葉を続けようとしたフィーネ。

 

 

 

 

ガララッ…

 

 

見上げたフィーネの双眸が、見開かれた。

 

 

砕けた。

 

遠く、遠く、はるか上空。それも宇宙。

故に聞こえるはずが無いのに、その音は聞こえてきたような気がした。

 

砲撃がかすり、わずかに抉れた部分。そこから広がるひび割れがいつの間にか大きくなっていたのか――――「月」という球形の天体、その一部が剥がれ落ちたのだ。

 

 

 

「な――――」

 

 

「カ・ディンギル」がそうだったように、フィーネが穿とうとした月もまた時間を置いて壊れたというのだろうか?

いや、それはありえない。

第一射目は葵が空から落したモノに逸らされかする程度。第二射目は葵による盾の捨て身の行動で完全に防がれた。三発目は砲身が崩れ砲撃は霧散し月には届かなかった。

 

「ならば」とフィーネは別の可能性を考える。

第三者……例えば、途中干渉してきた「錬金術師」が何らかの手段を用いて月の破壊をうながした……?

しかし、フィーネはそれを否定する。手段はもちろん、目的が不明だ。ただ単に月を破壊したいのであれば、それこそフィーネを止めようとする装者を妨害すればいいだけなのだから。

ならば、なぜ? 答えは出ない。

 

 

何にしても、事実は事実。

フィーネの悲願は、達成されかけているのだ。

 

 

「何故だ」

 

 

月遺跡の機能が不全を起こすには十分な破損を与えられている。完全にではないが「バラルの呪詛」を……その呪いを撃ち砕く一歩手前まで来ているはずだ。

だというのに、力無く瓦礫にもたれかかり座ったフィーネの顔は苦痛に歪んでいた。

 

 

「ナゼ……なぜこうも、笑えんのだ……っ!!??」

 

 

「そんなの、言われなくても自分でわかってるんだろ、フィーネ」

 

そのクリスの表情は、フィーネと同じように目尻に溜まった涙が今にも零れ落ちそうなほど歪んでいた。

 

「心のどこかでわかってたんじゃないか……「こんなの違う」って。アタシの受け継いだ夢がそうだったように、あんたの目指したモンは、呪いも人もぶっ壊した先に本当にあったのかよ……!」

 

そう言ったクリスはフィーネの元を離れ、他の装者と共に「月の欠片の落下予測」と「欠片の落下による被害」を計算して慌てふためく二課のメンバーの元へと寄っていき――他の装者たちと共に一つの覚悟を決めることになる。

XD(エクスドライブ)モードのチカラで落下してくる月の欠片を破壊する」……そんな前代未聞の無茶苦茶な作戦を実行する、その覚悟を。

 

 

……力無く座り込んだフィーネのそばで握った拳を震わせていたクリスの心境は、果たして彼女自身が吐いたその言葉だけで伝わりきっただろうか? ――「バラルの呪詛」がある限り、それは不可能だろう。

それでも、フィーネの中の「何か」を動かすには十分だったことだけは、確かな事実だ。

 

 

「胸の歌を、信じなさい」

 

「……はいっ!」

 

たった一言、それだけの言葉にどれだけの力があるか。

理論も答えも無く、そのフィーネの言葉に響が応え、3人の装者も頷き……そして、落下してくる月の欠片目がけて空へと飛んだ。

 

 

 

 

「風鳴、弦十郎……か」

 

「ああ……」

 

皆が装者たちを心配そうに――あるいは涙ながらに――見送り見つめ続ける中、ただ一人、風鳴弦十郎だけはフィーネの隣に静かに腰を下ろした。

 

 

並び座り、共にソラを見上げたままの静寂の一分半。

先に口を開いたのはフィーネだった。

 

「……3年だ」

 

「…………?」

 

「6年前、アメリカの研究施設での事故に巻き込まれ()()が姿を消してから、皆神山で発見されるまでの空白期間の話だ。私が把握できていなかっただけで他所で復活し活動していたのか、あるいはどこにも存在していなかったのか。そのどちらなのかはわからんが……また会いたいというのなら、気長に探すんだな」

 

弦十郎に口を挟む隙を与えることも無く――かくいう弦十郎も口を挟む気はさらさら無いのか黙って聞いているのだが――フィーネは「忠告」をした。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()。それをヤツ自身が認識しているかどうかはいまひとつ分からんが……まぁ、気をつけておくといい」

 

「『錬金術』……科学と魔術が分化される以前に存在したというオーバーテクノロジー、か……」

 

その呟きを肯定することも否定することも無く、フィーネは4色の光が(かけ)る夜空を見上げたままポツポツと、段々と力が弱まりながらも言葉を紡いていく。

 

 

「このことは……アイツらには、言うだけ無駄だな。わたしにさえ手を伸ばしてきたんだ。例え、()()の陰に誰かが居ようと、その手を離しはしない――わかり合うことを諦めやしない……だろう?」

 

最後には、まるで隣にいる、遥か遠く宇宙(ソラ)を行く装者に語りかけるかのように呟いたフィーネ。

 

 

 

砕けた。

 

月の欠片が、4つの光の筋が貫き、バラバラに。

フィーネの身体が、四肢の先のあたりから、ポロポロと。

 

 

「成した、か。繋いだ絆で未来(みらい)への道を拓いて……」

 

 

そう呟くフィーネの目には、もうすでに光は映っていなかった。

それでも、その夜空を――砕けた月の欠片が降り注ぎ、燃え、流れ星となって輝く光景(そら)を――本当にみているかのように、薄っすらと笑みを浮かべて。

 

「嗚呼、今宵(こよい)は、フィーネ()なぞには勿体無いほど……けれど、櫻井了子の最期には相応しい、美しい手向(たむ)け……だな」

 

その笑みは、音楽院を襲い、駆けつけた装者たちを嘲笑った時とは異なり、見たものを安心させるようなどこまでも優しい笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしも、お前の言葉を、想いをちゃんと理解できていたのなら……あるいは、もっと昔に出会えていたなら……お前(あなた)の言う「本当に輝かしい未来(もの)」に私がいることも、できていたのかしらね……なぁ、(あおい)…ちゃん

 

 

初めてあの少女のことを()()()で呼んだことへの意図も、フィーネと櫻井了子の口調の混ざったその意味も……そばでただ静かに聞いていた風鳴弦十郎には計り知る事はできなかった。

そして――問いただす時間も残されてはいなかった。

 

完全に砕けきった櫻井了子(フィーネ)の身体は、どこからか吹いた風にさらわれこの地を後にした…………

 

皆神山で天羽奏の一家を襲った惨劇。裏で「ネフシュタンの鎧」の起動実験を行っていた「ツヴァイウィング」ライブで起きた惨劇。そして、ノイズのリディアン音楽院襲撃と「カ・ディンギル」による月破壊未遂……

様々な事件の黒幕であった櫻井了子(フィーネ)の一生が、(おわり)を迎えた。

 

 

 

 

 

幾何かの時、流れ星に交じって、宇宙(そら)から4色の光が地上に振ってくる――4人の装者が地上へと返ってくる。

 

 

互いの無事を、一度はもう二度と会えないとさえ思った再会を果たす人々が笑い合い、涙を零して言葉(こころ)を交わす。

 

まずは真っ先に舞い降りた、響が太陽のように輝く笑みを浮かべて――――

 

 

未来(みく)っ、みんな…………ただいま!!

 




次回から、エピローグ&小話導入の予定

主人公・イヴちゃん! 何処でなにやってる!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。