我が手には星遺物(誤字にあらず) 作:僕だ!
最新話、つなぎだけどこれまで以上に大事なことが起きます!
書き方の問題で、いつも以上に地の文が内心とその他でごっちゃになってしまった気がしますが……よろしくお願いします!
何日か前から聞かされていた通り、行動制限が解かれる。
そんなわけで、これでやっと
けど、そんな気分が変わっちゃうことが起きた。それはお昼前のこと……ううん、
その原因っていうのが――――
「なぁ、葵がどこ行ったか知らないか? それにクリスの姿も見えないんだが……」
――――葵ちゃんと、クリスちゃんがいなくなってた。
朝起きて、朝ゴハン食べた時までは確かに一緒にいたはずなんだけど……言われてみれば、気付かないうちに本当にフッといなくなっちゃってたんだ。
奏さんの呟きがきっかけになって「あれ?」「そういえば」と、その場にいたわたしと翼さんもそのことに気付き疑問に思った。
当然だけど、今わたしたちがいる共同生活しているこの部屋には見当たらない。
となると、施設内の
疑問は色々とあるけれど、何もせずにこの場に留まっておくっていうのもどうかってことで、とりあえず奏さんと翼さんと一緒にトイレやシャワールームにいないか確認しに行った。
……結果は、悪い意味で予想通り。葵ちゃんとクリスちゃんはどこにもいなかった。
「となるとあとは外? いやまさか……」って話が、共同生活部屋に一旦戻ったわたし達三人の中で広がった。
その確認をどうするか……まだ勝手に出るわけにはいかないし、まずは司令か誰か大人に連絡を取って――と、そこにちょうど良く風鳴司令が現れた。
これでなんとかなる、そう思ってわたしはホッとしたんだけど……そんなわたしの予想を裏切り、事態は予想外のものになってしまった。司令の――――
「二人は、今、取り調べを受けている」
――――って、言葉で。
わたしだけじゃなくて、奏さんと翼さんも驚くを通り越して、一瞬完全に固まってしまっていたんじゃないかってくらいピシッと停止してた。
元に戻ったふたりは司令に一気に詰め寄り、揃ってワーワーギャーギャーと司令を問い質しだした。……もちろんわたしも言いたい事聞きたい事があったけど、ふたりの勢いに押されて一歩退いたとこで話を聞くことしかできなかった。
だって、クリスちゃんの取り調べってとっくの昔――葵ちゃんがテレビに映って保護されたころ――には、すでに終わっていたようなものだって聞いてたし、本人もそんなこと言ってた。葵ちゃんも保護されてからここに来るまででほとんど色々と確認は終わってたらしいし、一緒に過ごすようになってからも何度か司令や緒川さんに連れられてお話をしに行ったりもしたし、十分にやって終わったモノだと思ってた。
……というか、葵ちゃんのおしゃべりはあいかわらずよくわかんないから、YES・NOくらいならまだしもそれ以外はなんとなくの感覚で意思というか感情を受けとれるかどうかってモノだよね? それで出来る取り調べってかなり限られてそうだから今更何を聞くのかちょっと疑問だよ……。
疑問といえば……
司令の性格からして、良くも悪くもキッパリ言ってしまうと思ってた。けど、今の問い詰められてる司令はどこか困ったように眉間にシワをきゅっと寄せ眉毛をハの字に傾けてて……なんというか、こう、ハッキリとしない
詰め寄っていた翼さんが動きを止め、数秒口元に手を当て考えるような仕草をしてからハッ!?と顔を上げた。
「緒川さんがいないのは、ふたりを連れだしたのが緒川さんだからですか?」
翼さんの発言には妙な説得力があった。わたし達が気付かない間にふたりがいなくなったのも「あの緒川さんなら」って思ってしまっている自分がいたんだもの。
けど、これまでにも司令だけが――そして逆に緒川さんだけがここに来ることもあった。だから今、司令だけしかいないことが緒川さんがふたりを連れだしたことへとはすぐには結びつきそうには無いと思うんだけど……それでも、こうして言ってるってことは翼さんの中では確信めいたモノがあるのかも?
その翼さんの考えが正解だってことを肯定するようにほんの少しだけ――でも、確かに――司令がピクリと動いた。
もちろん翼さんもそのわずかな反応を見逃してなかった。目を細めてまた考え込むような仕草をし――
「……! まさか、
そして――唐突に翼さんの口から出てきた言葉。
目は大きく見開かれていて、声色からも察せるけれど凄く驚いているようで――それでいて、どこか悲しそうに思えた。
そんな翼さんは、わたしや奏さんが声をかける隙も無く部屋から跳び出して行ってしまった。
いったいどこに? まさか、あの勢いのまま外へ出て葵ちゃんたちを探しに……って、それは流石に無いか。でも、それならなおさらどこへ行こうっていうんだろう?
行先のわからなさに思考が埋め尽くされ、追いかけるための一歩が踏み出せなかった。
考えに考え、ヒントになりそうなモノがなかったか直前までの翼さんが言ってたことを思い返し……その一部が疑問となって口から自然と漏れてきた。
「いまさっきの「おとうさま」って……?」
「文字通り、翼の
奏さんはそう言ってから、「そうなんだろ」と確認するように風鳴司令に視線を向けた。
でも、なんで司令はそのことを隠そうとするような様子を……?
そしてもう一つ。別の疑問も湧いてきた。
なんで翼さんはあのタイミングで自分のおとうさんに思い当たったんだろう? そんないきなりポンと出てきそうにないんだけど……?
司令に向けられた奏さんの鋭い視線。わたしの口から煮詰まった疑問が出てきそうになった――その時、誰かが部屋に入ってきた。
戻ってきた翼さんでも……もちろん、クリスちゃんや葵ちゃんでもなかった。
「司令、こちらの書類の件で……って、あ…あれ? 何かマズい時に来ちゃった?」
入ってきたのはオペレーターの藤尭さん。わたし達の様子もしくはこの場の雰囲気を感じ取ってか、一瞬固まってからスススーッと退室しようとする。
けど、それを止めたのは司令だった。
「いや、構わない。それに、わざわざ来たということは、重要性の高い用件なんだろう?」
「あ、はい。葵ちゃんの保有している聖遺物に関してで……」
そうして、話しながら風鳴司令は藤尭さんを連れて部屋を出ていってしまった。
司令にしては本当に
ふたりだけになってしまった部屋の中で、ワシャワシャと自分の髪をかいた奏さんが大きなため息を吐いてから「翼の父親の事なんだけど――」って言って、私に話しかけてきた。
「あーっと……あたしも直接会ったことは1,2回しかないし、軽く挨拶を交わした程度なんだけどな。政治家か何かやってて、二課がこうして活動出来てるのもその人の活躍が一役買ってるとか。なんにせよ、あたし達装者とは別の方法で国や人を護ってる人だ」
……よくわからないけど、味方で色々凄い人だってことはなんとなく伝わってきた。
けど、それならなおさらわからない。
「それじゃあ、なんで翼さんはあんな顔を……?」
「有力な家系ゆえの跡取りとかでってのもあるんだが……とにかく、色々とあってその親父との関係があんまりよくないんだよ」
ズキンッ!!
頭を強く揺さぶられたような――それだけじゃなくて、胸に大きな
声が出ない。頭が真っ白になりかける。
そうなる理由は
「……響になら、いいか」
そんなわたしの様子をどう見たのか、少しの間ジッと黙っていた奏さんが静かに口を開き、話しだした。
「昔に言われたらしいんだ、「お前が私の娘であるものか」って」
「…………え?」
「他所の家庭……それも結構な由緒正しい家柄ってヤツってこともあって最初は口挟まなかったんだけど、流石にそこまで聞いたら一発言ってやらねえと……って、動こうとしたことはあったんだけど、正規の手順でアポ取って会おうにも「忙しい」の一言で突っぱねられ、無理矢理にでも会おうとしたら緒川さんに実力行使気味に止められるしで、どうしようもなくてさ」
そして、翼さんたちが出ていったドアの方を向く奏さんの横顔を見て思う。
奏さんはお父さんを、ノイズによってお母さんと妹と共に失っている。
そんな奏さんにとってかけがえのない相棒である翼さんの父親との不和。そのことをどう思っているのか……。今のわたしだって優しい気持ちと恐い気持ち、悲しい気持ちが混ざりに混ざって何とも言えない訳の分からない感じになってしまってる。
「んで、見ての通り旦那は旦那でどっちつかずって感じで、珍しく頼りにならないんだよ。一番ワケ知ってて、一番口挟めそうな立場、その上本人も思うところは十分にありそうなのは見ててわかるってのに」
最後に「結局、あたしにできたのはいつものあたしとして翼のそばにいてやることだけだったよ」って付け足した奏さんの顔を、わたしは見る余裕が無かった。
どうして翼さんのお父さんはそんなことを言ったのか……
なんで緒川さんと司令は翼さんや奏さんの味方をしないのか……
――――! ――――!
突然鳴り響いた音に、わたしは意識を引き戻された。
「この警報音…!?」
「ノイズか!」
「ソロモンの杖」は二課の手で厳重に保管されているから、これまでフィーネさんがやっていたように誰かが使ってノイズを呼び出すことは出来ない。
けど、ここ最近の頻発したノイズ出現の原因が「ソロモンの杖」だったというだけで、ノイズが根絶したわけじゃない。頻度は減るもののこれからも、偶発的な自然発生のノイズによる特異災害は起こり続けるんだろう。
そして、こうなったらわたし達装者は行動制限がどうとかいって、動かずにいるわけにもいかない。きっとすぐ手元の通信機に出動の要請と外へ出る許可とが同時に来るはず……!
「いくぞ! 響!」
「はい!」
通信が来るよりも先に、外へ出るために駆け出す奏さんを追いかけわたしも走り出す。
頭の中に在ったモヤモヤを振り払って…………
―――――――――
朝飯を食べ歯磨きを終えたあたりで、気付いたら抱えられててそのまま車に乗せられ連れ出されてた。
……もし文字で書き表すなら、本当にこれだけなんだよな。わけわかんないくらい手際よく運ばれてしまってたんだよ、
連れ出されたのは、
共通点は最終結果はともあれ、フィーネ側に与していたふたりだ。政府側でも、その敵対組織側でも誘拐するには十分な理由があるだろうさ。
でも、アタシは別段焦ったりしてないし、ましてや暴れて逃げ出そうとはしていない。
アタシ達を連れだしたのは
この人に関しては、そこそこ関わりがある。それにあの御人好しな
なにより、おちびが心を許している感じもある。……信用すべきではないけど、現時点で暴れて逃げだしたりするほど警戒しなくてもいいだろうって判断だ。
最悪、監獄みてぇなゴツイ所に連れて行かれると思ったけど……黒塗りの車から降ろされたアタシ達を待っていたのは、時代劇に出てきてもそう違和感を感じないデカイ和風の屋敷だった。建物もデカければ、日本庭園のある庭も広く、それらを取り囲む塀だって端から端までの距離が半端ない。
想像していたのとは別方向に圧倒される雰囲気があるな、これは。
んで、おそらくは「応接間」ってやつだろう座敷に通されたアタシ達は、向かいに誰もいない机を前にして、座布団の上に座って待たされている。
……座布団が良いモンだから大丈夫だと思ってたんだが、正座、結構キツい。慣れないことはやるべきじゃないか……。
「辛かったら崩してくださって構いませんよ」
アタシの右斜め後ろ、部屋の端で待機していた緒川慎次がそんな風に声をかけてきた。
ありがたい。ありがたいんだけど……なぁ。
首を動かし視線をズラす。緒川慎次がいるのとは逆、アタシのちょうど左っ側へと。
「…………?」
視線に気付いたのか、おちびがコッチを見て「なぁに?」とでも言いたげに首をかしげてきた。
そのおちびは、アタシと同じ様に座ってる――――そう、座布団の上に正座で、何の苦もなさそうにして、だ。
いや、
そもそも相手がおちびだし、対抗意識を燃やす理由なんて
そう自分に言い聞かせ、変な意地を張らずに足を崩そうとし――――そこに足音が聞こえてきて、数秒の間に
「すまない。こちらからの急な呼び出しだというのに、待たせてしまったな」
入ってきたのは、ど派手なわけじゃないけど見るからに安物ではない和服を着た男。白髪混じりなのか地毛なのかわからないが、青みがかった灰色っぽい色合いの髪と、四角寄りの型をしたメガネをかけてるのが特徴か?
年齢は50代前後あたり……か? 近いのは、例のカフェの店長あたり……いや、アレは生えそろった
そんなことを考えてる間に、机を挟んでアタシ等が座っている対面に腰を下ろしたメガネのおっさん。
「さて。キミ達にこれからいくつかの質問をしていくが……いいかな?」
「お――は、はい」
「おう」と答えてしまいかけたのをなんとかひっこめ、言い直してから改めて姿勢を正して前を向く。
覚悟は決めた。――さぁ、やってやる……!!
―――――――――
メガネのおっさんとの会話は、アタシの予想を大きく下回りあっけなく終わってしまった。
っていうのも、聞いてくることが大体アタシらがこれまでの取り調べで聞かれてきたことの繰り返しに近いものだったんだ。
嘘を言っていないかの確認のため、供述や証言にブレが無いかあえて同じようなことを聞いてる? いや。にしては、わざわざこんな
なんにせよ、このメガネのおっさんとの拍子抜けな面談は終わった。
アタシ等は帰るために、足が痺れてないことを確認しつつまずはその場から立ち去ろうと立ち上がり――
「キミはもう少し残りなさい」
「なに……?」
――けど、おちびだけ引き止められた。
あからさまに、不自然だ。
「何言ってやがる、コイツが残るならアタシも残るに決まってるだろ! それとも、アタシの目がない所でコイツに何するつもりなんだ……!?」
ここまでおとなしくしていた態度と言葉使いを取り繕うのもやめ、アタシはドカリッと座り直した。
当然おっさんもいい顔はしない――と思ったがそれほどでもなく、静かに目を瞑っただけ。むしろ淡々とした様子だった。
「緒川。彼女をさがらせなさい」
メガネのおっさんは短くそう言ってきた。
抵抗するために、おっさんを視界に入れたままアタシは軽く身構える――けど、アタシの後ろにいた緒川さんが何かしらの行動に移す気配が無い。
「どうしてだ?」と視線をソッチに移そうとした――その直前に、緒川さんの声が聞こえてきた。
「お言葉ですが、彼女にも話の場にいて貰った方が良いかと。事情を理解している者がいた方が、何かと都合が良いのではないでしょうか?」
「……」
「お考え直しください。事を焦っては、かえって良い結果に結びつかないことはご存知でしょう」
まるで言い聞かせ諭すかのように言う緒川さん。
正直なところ、ココに連れ去られた際のあの
「『ドゥヒン☆』」*1
合間に変な声が聞こえてきた気もするが、そんなことを気にしてられないくらい張りつめた空気があたりを包んでいた。
そんな静寂が数秒……数十秒、いや、もっと続いたか?
「…………確かにその通りだな。私としたことが、少しばかり冷静さを失っていたようだ」
ようやく聞けたその言葉に、アタシは内心ほっと息をついた。もっとも、まだ安心はしきれないと思い、その心の緩みを表には出さないよう気を付けてはいた。
つーか、今この場で冷静さを失うってどういうことだよ? 特別何かあった気はしないんだけど……アタシが気付いてないだけで本当に何かあったのか?
それともずっと前から? 例えば……アタシらがここに呼ばれたのも今朝いきなりだったし、早朝か昨日の夜中とかに? それならそれで、とっくに何か対処してそうだけどなぁ……。
「では、改めて話をしていこう」
ひとつ息をついたメガネのおっさん。アタシの顔を見た後その視線を隣のおちびに移した。
わざわざこうしてココに呼びつけて、さらには
おっさんは、ジッとしてる
「……報告によれば、普段天羽奏の下で生活していたそうだが、そのほとんどが翼と共に――
これまでの事情聴取の時から変わり、うっすらと温かみを感じられる声色で葵に問いかけはじめたおっさん。
「翼はキミ達に迷惑をかけてはいないかい? あの子は少し不器用なところがあってな。忙しさを理由に、礼儀作法以前の私生活の部分を幼い頃から気に掛けてやれなかった
メガネのおっさんの顔は、申し訳なさそうな――けど、どっか恥ずかしげでいて嬉しそうな表情だった。
「――って、親!?」
「ああ。……名乗っていなかったか。どうやら、私はそれほどまでに焦り先走ってしまっていたらしい」
はぁ~……。
言われてみれば、そのスッとした雰囲気が風鳴翼に似てなくもないような……でも、言ってもその程度しか似てない気がする。まあ、アタシもママ似で風貌はパパとはあんまり似てなかったし、親子でも異性だとそんなもんか。
……ん? ってことは、話の流れからしてさっき言ってたこのおっさんが冷静さを失ってた原因って「
その為に、事情聴取という建前で
「
メガネのおっさん――もとい八紘さんは軽く会釈をし、あたしと隣に座る葵はそれに応えるように頭を下げた。
顔を上げた時にみえたのは、小さく頷くおっさん。その頷きの意味はよくわからないが、大したことない小さなことだからそう気にしなくていいだろう。
おっさんが「では改めて」と口を開いた。
「翼はちゃんと食事を取っているだろうか? 規則正しい生活は心がけているだろうが、あの子はストイックな部分もある。歌手や装者の活動を優先してその他をおろそかにしないか心配でな……」
……なんだ、フィーネの下にいたころ与えられた情報には全くと言っていいほど出てこなくて、ここ最近アタシたちがしてた共同生活の中で全く話題にも上がらなかったから、もう亡くなっているのか
自分のいない時の、この堅苦しいメガネのおっさんもなんだかんだあの
あぁ……なるほど。
アタシをどっか他所へやってから話そうとしたのも、
そんなメガネのおっさんと風鳴翼のことが微笑ましく――同時に、
ああ、うん……おちびはそうだよな。質問にマトモに答えられるわけがない。
本人の意思はどうとかおいといて、その場に合わないこと言うのは目に見えてた。
引き合いに出すのもおかしいかもしれないが、むしろ今日はこれまで大人し過ぎたくらいで、普段ならもっと変なこと言ってこの場をかき乱していただろうって思う。だから、大目に見てやってほしいってわけじゃないけどさ……本人もどうしようもないわけだしなぁ。
「…………」
いや、まぁ、仕方ないとは思うけど……これまでの事情聴取中にもあったことだし、これまでの会話的に考えても報告とやらで
それでも、この反応ってのは……案外うっかりさんか、天然なのか?
「…………」
視線を向けられた緒川さんも、困ったように苦笑いを浮かべるばかりで特別反応を返すことが出来ずにいる。
んで、当然のようにアタシの方に二人の視線が集まってくる――――
「……あー、今、何言ってたのかはわかんねぇけど、こいつは特別苦労したりはしてないと思うぞ?」
――――そんなことされても、アタシに出来るのは知ってること・見た光景を話すことくらいしか出来ないんだけどな。
まぁ、たぶん緒川さんもある程度は知っているだろうから、そこからメガネのおっさんにも話は行っているだろうけど……それでも、わけわかんないままよりは実際に話を聞いた方が幾分気分が良いだろう。
「私生活や体調管理は問題無い……っていうか、
「そうか」
「まぁ、おっさんが言ってたように不器用だったけどな。服たたんだり食器洗いとかは
「そうか……」
さっきのと同じ言葉なはずなのに、随分と聞こえ方が違ったけど……仕方ないよな。
前からわかっていた風だったとはいえ生活能力が
瞼を閉じて数秒間のゆっくりとした呼吸……それで心の整理をつけられたのか、おっさんは「すまない。少し考え事を、な」と言ってからまたアタシ達に向かって問いかけてきた。
「あともう一つ……「ツヴァイウィング」に海外進出の話があるのは知っているかな」
「海外進出!? マジか……!」
「これまではシンフォギア装者としての活動もあって、その誘いを断っていたが……『ソロモンの杖』が二課に保管された今、これまで非常に頻発していたノイズの発生は落ち着き、そう遠くない内に歌手活動に精を出すことができるようになるだろう」
世界進出。歌手にしろ何にしてもかなりデカイ事で、そう簡単なことじゃないだろう。
そんな話が来てたことにも驚いたが……それ以上に、アタシも加担していたノイズ騒動でその話を流していたってことへの罪悪感が、少なからず溢れてきた。ソレと同時に、確かに、『ソロモンの杖』が使われなくなってから0まで激減したノイズの発生件数の事を考えると、おっさんの言う通り余裕はできて海外進出も不可能じゃないだろう。
けど――――
「世界の舞台に立ち歌を人々に届けることは、翼にとって幼いころからの夢なんだ。だが、生真面目な翼は防人としての義務などと自身の夢を二の次にしてしまうかもしれない……キミ達に背中を押してやってほしい」
――――その時、葵の存在は
でも、様子を見るに
となると、
夢、か……。
それも、歌でのってなると、モノは違えどアタシとしては見過ごせないものだ。
ああ、なるほど。もしかすると緒川さんがアタシをこの場に残したのは、「ツヴァイウィング」が海外進出した際の代打の保護者候補としてなのかもしれない。
もちろん、二課の本部内で保護でもいいし、もしくは二課所属の誰か大人が引き取っても問題は無い。けど、やっぱり最初っから積極的な人間がいたほうが置いていく側も心配が少しは薄れると思うし……
で、たまたま一緒に呼んでいたアタシに白羽の矢がたった、って感じか。
ま、まあ、アタシは別に世話好きってわけじゃないし面倒なのは嫌だけど、
「そっ、そういうことなら、アタシも応援するし、もしもの時は――――「『断る』」*4*5*6――――へ……?」
アタシが預かるのを、葵が嫌がった……? うそ、だろ……!?
あ、いや、まだその事をアタシが言う前に断ったから……もしかして、アタシのことじゃなくって「翼の背中を押してやってほしい」っていうおっさんのお願いを断ったのか!?
それはそれで驚いてしま――――って、だから!
「『ハハハハ! 走れ走れー!迷路の出口に向かってよー!』」*7
ほら! やっぱりわけわかんねぇ!!
っていうか、ここまで比較的静かだった分を取り戻すかのような騒ぎっぷりだな!? 顔もカワイイ顔してるはずなのに、やけに怖い笑顔になってるように見えっぞ……!?
ほら! 八紘のおっさんは首かしげるどころか呆然としてるし、あの緒川さんでさえも片手でとはいえ頭抱えるなんてリアクションをとってるぞ!?
「『マーカー無しかよ。クズはクズ同士庇い合いか?』」*8*9
……アタシもそんな丁寧で清楚な喋りはしてないと自覚してるけど、
いや、本人にそんなこと言う気は無いってのはわかってるつもりなんだけど……こうも目の前でイキイキと喋られたら……なぁ?
ドゴォッ!!
そんなことを考えていたら、大きな音が辺りに響いた。
発信源は……アタシの隣、つまり葵の方。
見れば、葵が両手を目の前の机の天板に付け、その手と手の間をめがけるように叩き込まれてる頭突き――というか、自分の頭を叩き付けて――――って!何やってんだ!?
まさかコレが、話には聞いていた「言語能力の異常によるストレスからくる自傷行為」なのか!?
いろんな意味で驚かされ、より一層困惑してしまう――が、あることを思い出す。
確か、昔に頭を壁にぶつけた際には自分から何度も何度も叩き付けていた、と聞いた。ってことは、コレもまた何回も机にするんじゃ……!?
「止めないと!」って気持ちは、アタシだけじゃなく当然そばにひかえてた緒川さんにもあったんだろう。
葵を抑え込もうと動いたアタシよりもワンテンポ早く緒川さんの手が伸びてきて――――
葵の発したこの場の空気からズレた間の抜けた声に、拍子抜けを受けたかのようにアタシと緒川さんは取り押さえる寸前のところでピタッと動きを止めてしまった。
……いや、ある意味で葵の
というのも、葵が懐から取りだしたのはケイタイだったんだ。しかも、なにかしらの操作をされてすでに通話状態になっている。
……え? もしかして、今の「もしもし」の時にはもう繋がってた、のか? まさか、あの取り出す一瞬で操作をして……!?
『葵っ! 無事だったのね! ――って、まぁ、テレビに出てたのを見たから知ってるんだけど……だからって心配してなかったわけじゃないんだから!』
部屋の中に響き渡る声。
確かハンズフリー状態だとかそんな機能だったか……? とにかく、ケイタイを耳元につけなくともあたし達まで声は届いてきた。
ケイタイから聞こえてきた声は、女性――というか女の子の声のようだった。アタシよりも幼い……
なんとか思考を巡らせる――けど、どっかズレてしまってるのに困惑してて修正がきかない――アタシやおっさん、緒川さんが半分付いていけていない状況。
そんなの関係無しに、
『それで、自由になったの? というか、こうして電話してきてる時点である程度予想はできるけど……』
「『デュエル開始の宣言をしろ! 磯野!』」*12
『ふぇ? え、いやまぁ構わないけど……いきなりどうしたのよ』
わけのわからないお喋りに振り回されている通話相手――――って!「構わない」って言った!? 「デュエル」とかいうののことを知ってるのか、
いやいや、待て待て! そもそも
『あなたは馬鹿にしてるのか? あるいは、本当はツバサを応援なんてしてないんじゃないの?』
……ん?
「『ハッキリ言うぜ……羽蛾! お前、弱いだろ』」*15
『誰かに応援するように言われないと背を押してあげたいと思われないような人だって、ツバサのことを思ってる? なら、見る目が無いか、ちゃんと見てないかだ!』
「『どうしてあんたは帰ってきたとき、あいつらに優しくしてやらなかったんだよ!どうして復讐なんてくだらないこと、やりはじめちまったんだよ!』」*16*17
『ワタシはツバサを笑顔にしたい! 家でも、外でも、助けたい。楽しくて、助けてもらってて、あったかくて……歌手も装者も、ツバサで大好きだから』
いや、まてよ……?
「『分かるさ!父ちゃんがいなくて、どんなに寂しい思いをするのか俺には分かる!あいつらはみんな、あんたがいなくて寂しかったんだよ!不安で泣きたくて一生懸命だったんだよ!』」*18*19
『アナタがツバサのことをどれくらいどのように想っているかは他人のワタシには量る事はできないし、実際に何をしてあげてるかは知らないけど……でもそれで本当にツバサは笑顔になれてるの? 街に出た時に辛そうな顔をするのはなんで!? 家族でいる人といない人だから!?』
葵の後を追うように話す通話相手、これはまるで――――
『陰で支えてること、見守ってることで『満足』してるって言うなら、ワタシはアナタを絶対に許さない!』
――――
「『借り物の言葉で語るな!俺と話したければお前自身の言葉で…デュエルで語れ!』」*22*23
『ソレはただの自己満足だ! 例え、本当にそれでツバサが助けられていたとしても、ツバサ本人のココロまで届かなきゃ意味が無い。辛さは……寂しさは癒されやしない! あいた穴は、他ので埋められやしない!!』
葵の話す間がいつもより少し開いている気がすることや、通話相手の言ってることが所々
「『デュエルとは相手との対話。そこで使う言葉は誰から習ってもいい。大切なのはそれをいかに使いこなし相手に自分の意思を伝えるかだ。そこにこそデュエルの神髄がある!』」*24*25
『心配なら、まず見てあげなきゃ。何かしてあげたいなら、そばにいてあげなきゃ。親なら、まずは自分で背中を押さなきゃ……そのほうが、きっとツバサもがんばれる』
……そこまでで言いたいことを言い終えたのか、葵が黙った。
続いて、通信相手のほうも黙ったため、あたりは一気に静かになった。
「ふふふ……なるほど。
数秒間漂った静けさを消したのは、八紘のおっさんの呟くような大きくない声だった。
その顔にうかべられた笑いは「満面の笑み」とか言われるモノとは全くの別物で、嬉しさにあふれたモノじゃなかったけど……どこかスッキリとしたような、フワッとした薄い笑み。
きっと、アタシと同じように葵の言葉とあの通信相手の言葉との関係性や信憑性を考えたりしたうえで、通信相手の言葉を――あるいはどっちともの言葉を聞き入れたんだろう。そして……何かを感じた。あの笑みからして、悪いことじゃない。
その気持ちは、アタシにもなんとなくわかった。
だからこそ、か。アタシも
『あのー……葵? あたしの気のせいじゃなかったら、あんた以外の声が聞こえた気がするんだけど……誰かいるの? ていうか、聞いてるの?』
「『知らん。そんなことは俺の管轄外だ』」*26
『――へ? ツバサってあの翼さんのことで、相手はお父さん!? マジの!? あああ、あたしっそんな人に偉そうな事言ってたことになってるの~~!? 翼さんに顔向けできない、知られたらファンに何言われるか、ていうか過激なのにはコロ……!? ……きゅぅ~』
遠くに聞こえる倒れる音と、ガンッと床に堅い何かがぶつかるような音とがケイタイから響いてきて……まさか、気絶して倒れて、ケイタイが手からこぼれ落ちて……?
よくわからないが、そんないきなりぶっ倒れたりするものか?
「『ああ! それってハネクリボー?』」*27
「アタシじゃねぇよ!」
通信を切っているのか、ケイタイを操作しながらの葵の言葉についつい反応してしまいながらも、アタシは考える。
風鳴翼やその親の事、海外進出の事を知ったり、
―――――――――
「通訳……?」
葵とクリスが屋敷を出た旨をわざわざ通信で伝えてきた兄・八紘の口から出てきた言葉に風鳴弦十郎は首をかしげた。
『その反応だと、やはりこれまでにそのような存在がいたことはなかったようだな』
「知っての通り、緒川を中心に発言の記録と翻訳・解明を行ってはいるが進展は無いのが現状だが……何かあったのか」
『ああ。詳しくは、帰還する緒川からあるだろうが……話しておきたくてな』
そこから聞いたのは、今日屋敷であった事の大まかな流れと、その中で起きた謎の通信相手との
『話を終えてから通信機を緒川に調べさせてみたんだが……
「なに?」
『そしてそれは彼女にとっても予想外のことだったらしい。取り返そうと通信機器を操作していた緒川のそばにいた彼女も、緒川の呟きを聞いて驚いた顔をしていたからな』
「つまり、通信相手を何かしらの意図で
『彼女の意思をくんでなのか、あるいはその人物にとって都合が悪かったからかはわからんがな』
その場にいた者がやったのでないなら、遠隔で……? それも、ただ一度だけの通話、そのピンポイントだけを狙って介入し改ざん・隠蔽ができるだろうか?
弦十郎は悩む。「絶対できない」とは言い切れず、かといって現実的でもない。まるで自分たちの常識の範疇から飛び出してしまった事象だ。
しかし、だからこそ弦十郎にはある可能性が浮かんできていた。
「『錬金術師』か……」
『報告にあった「
「ルナアタック事件……いや、その前のノイズ騒動から度々不可解な事象があったのは事実。関わりは不明だが、『錬金術師』の存在は無視してはおけないだろう」
『それとは別に、通訳の方も少し探ってみる必要があるな。こちらは『錬金術師』が関わっているともいないとも言い切れんが……なんにせよ話を聞く必要はあるだろう』
「ああ。頼む、兄貴」
★各キャラの
奏:言葉というか、どっちかといえば表情や動きを見て判断する。
翼:何とか解読しようと考える。時折天然で真に受けてしまう。
響:基本字面通りに受け取る。が、ソレとは別に心で感じようとする。
未来:疑って深読みする。ただ考えてもあまり意味が無いことは気付けない。
クリス:話半分に聞く。が、ツッコミが止められない。
通話相手:最初期は違和感を感じたりしてたけど今は……「なんでみんなわからないんだろう?」
某店長:『当然だろ? 決闘者なら』
次回……
翼、危機一髪!
クリス、仏壇を買う。
弦十郎、案件!?
を書いて、二期「G」へと突入する予定です。