我が手には星遺物(誤字にあらず)   作:僕だ!

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脚注による補足、元ネタの簡易解説ですが、ようやくおおよそ完了しました!
イヴちゃん視点でのお話しとそれ以外とで、解説量が違いすぎる件。

いちおう大丈夫だと作者が勝手に思っておりますが、もしも「これはわからんだろ」等用語がありましたら、感想とともにご報告をお願いします。


そして! たくさんのUAや感想、誤字脱字報告、お気に入り登録ならびに評価ありがとうございます!
みなさんの期待に応えられるよう、また満足していただけるように作者なりのぺーすではありますが、がんばらせていただきます!



今回のお話は、遂に奴等の登場です!


1-3

最近、俺に(あおい)くんに関する報告が多々挙がってくるようになった。

 

これは、特機部二の職員の皆が葵くんのことを自然と気に掛けるようになったことが大きな要因だと考えられる。喋りこそしないものの、葵くんは奏たちについて行くその姿からか、もしくはその持ち前の愛嬌と人当たりの良さからか、周囲からの評判は中々のもののようだ。職員たちからすればまるで親戚の子と接するかのような感覚なのだろう。

 

中には、俺に対しての苦情のようなものもありはするが……それを言ってくるのは、主に奏と時々翼、そして了子君といった葵くんと接する時間が比較的多い面々からだ。

 

 

なんでも、自作でカードらしきものを作っただとか、厚紙や紐、輪ゴムを使ってそのカードの束を腕に固定するためのものと思われるものを作ろうとしているだとか。加えて、左腕を胸の前あたりに水平にあげて構え、その左手の上のあたりからまるでカードを1枚引くかのような動作を、朝一番によく繰り返しするようになったという報告も受けている。

その謎の行動を目撃したというのは、もちろん葵と共に暮らしている奏だ。ある日、普段ならそろそろ起きてくる時間になっても寝室から出てこないから、こっそり見に行ったらベッドのそばでまるで素振りのようにその行動をしている葵がいたのだとか。

 

奏曰く、「よくわかんなかったけど、妙に様になっててかっこよささえ感じた……けど、翼には見せたくない光景だった」とのことだ。

……そして、眉を顰めて「どんな映画(もの)見せたんだよ? それとも、今のカードゲームは机じゃなくてあんなふうにするのか?」とも。

 

 

 

いや、それは本当に俺のせいか?

 

 

 

腕にカードを固定? そこからカードを引く?

俺はそんなことをするものを葵くんに見せた覚えはない。だいいち、そんなことをするカードゲームは知らないし、カードショップでそんなことをしている人物も見たおぼえが無い。

 

 

話は多少それるが、俺は映画が好きだ。いわゆるアニメーション映画が特に好きだ。

老若男女から評価を受ける大衆向けのものから、子供騙しだなどと侮ってはいけない子供向けだって観る。時には、たまたま目に入ったからなんとなく借りてみるなんてこともあるくらいには、自分で言うのもなんだが守備範囲は広いと思う。

多少たしなんでいるカードゲームも、そうやってたまたま手に取ったカードゲームアニメの劇場版から興味を持ちテレビアニメシリーズを多少観てから登場したキャラと同じようなデッキを作って実際にやってみたのが始まりだ。

 

何を言いたいのかといえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

葵くんは俺が知らないカードゲームを真似しての行動である可能性がある。もしくは……誰も知らない自分で考えたカードゲームをやろうとしているのかもしれない。

 

 

 

しかし、気になるな。

葵くんが真似している、あるいは想像しているカードゲームとはいったいどういったものなのか……? できれば、教えてほしいものだ。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

あくる日の事。

すべきことはある程度し終え手が空いたため、休憩がてら葵くんと話をしてみることにした。

 

 

 

――のだが、肝心の葵くんが見当たらない。

 

「すまない。葵くんを見なかったか?」

 

本部内を周っている最中、職員を見かけるたびそう聞いてみはするが、それらへの返答は大抵「見ていない」もしくは「朝方には見た」といったものばかり。俺と大差無い状況の者ばかりのようだ。

 

 

こうして足を運んだ休憩スペースにもいない。

 

他に葵くんがよく居る場所と言えば……

 

「ここ以外だと医務室や研究室(ラボ)、その二か所には既に寄ってきたんだ。……となると、あとはどこかですれ違いになったか?」

 

可能性は全く無いとは言えない。

特に、俺が直接確認するわけにはいかない女性用のお手洗いのほうにいた、もしくは現在もこもっている可能性。腹の調子が悪くなったりしたのであればそういうこともあり得るかもしれない。が、それならそれで、医務室のほうに行っているんじゃないかって気もするんだがなぁ?

 

 

 

ひとまず司令室まで戻りながら探してみるとしよう。

それでも見つからなかったら、アナウンスで呼びかけてみる他あるまい。用事としては私的な理由が強く大々的に呼び出すものどうかと思うのだが……何処にいるかもわからないままなのもどうかと思う。その場合は、仕方ないな。

 

 

 

 

 

「やはりと言うべきか、ここにもいないな」

 

そうして戻ってきた指令室だったが探しに出る前とは()()()()、オペレーターである職員たちを中心に、各々作業をしている。探し人である葵くんは当然ながら見当たらない。

 

 

「なんだか難しい顔しちゃって、どうかしたのー?」

 

「了子君か」

 

ひょいとコッチに顔を向けてきたのはいつもの白衣姿の了子君だった。

そう言えば、一通り周った最中に葵くんに会わなかったが了子君とも会っていなかったな。

 

今はひとりのようだが、もしかするとついさきほどまで一緒にいたりして、何か知っているかもしれない。

 

「葵くんを知らないか? 少しばかり聞いておきたいことがあったんだが、本部を一通り周ったはずなんだが、何故か見かけなくてな……」

 

「えっ? あの子なら、おつかいに行ってるわよ?」

 

「そうか――――……?」

 

どうしたものかと、腕を組んで目を瞑って考え込み――そうになったその顔をあげて、再び了子君のほうへと向けた。

聞き間違い……ではないよな? いや、そうであってほしい気もするが、あいにく「おつかい(それ)」以外の単語だったとは到底思えないほどその言葉はしっかりと俺の耳に届いていたのだ。

 

 

 

「おつかい……だと……!?」*1

 

 

 

だがしかし、聞き返さずにはいられなかった。

 

目を見開く俺をよそに、訊いてもいないのに了子君はペラペラと喋り続ける。その内容は……どうやらおつかいという発想に至るまでの簡単な経緯のようだ。

 

「身元とか不明なままだけど、素行を見てる限りじゃあ悪い子ではなさそうじゃない? だから、引きこもりっぱなしで不満が溜まってそうなあの子のためにも、社会勉強のためにおつかいを頼んでみるのよ。ついでに監視の目がないように見せかけて、本当に何も裏が無いか、何かしでかさないかを確認……って、伝えてなかったかしら?」

 

「……聞いてないな」

 

「あ、あら~? でも、大丈夫っ! 監視と護衛はちゃーんとついてもらってるから! もちろん、あの子にはバレないように、ねっ?」

 

途中から目を泳がせていた了子君だったが……相変わらずの切り替えの早さで、最後にはサムズアップとウィンクまでキメてみせている。

 

経緯も言い分もわかった。

了子君の意見や考えを全否定はしない。俺としても葵くんの扱いに関しては思うところはあったのだからな。

とはいえ、今回のことに関して了子君には色々と言うべきことは組織的にも個人的にもある……が、ここはひとまず置いておこう。

 

早急に手を打つべきなのは、おつかいに行っているという葵くんへだ。

 

 

「そんなに心配しなくてもいいんじゃないかしら? 他所の誰かと通じてるんじゃないかって疑いだって実際のところは全然してないし、おつかいだって年齢の割にはしっかりしてるあの子なら問題無いと思うわよ? きっと迷ったりもせずにちゃちゃっと買い物済ませて帰ってくるってば!」

 

「そのあたりはあまり心配していない。ただなぁ」

 

確かに、葵くんは同じ歳頃の子よりも落ち着き過ぎているほどだ。子供のようにはしゃいでいる姿なんて、それこそあの「トリシューラプリン」を与えた時くらいのものだ。

かといって、内向的かといえばそうでもない。喋りこそしないものの人と接すること自体は積極的でむしろ社交的であると言える。その上、視ていればわかるが何か物事に没頭していない限りは周囲に常に気を配っている節がある。これは一見警戒しているようにも思えなくも無いが、そこから彼女の起こすアクションが手伝いかスキンシップかなので違うとすぐにわかる。

 

また、奏が言うには「葵は、少なくとも特機部二本部(リディアン)の場所を完璧に把握してるっぽい」だそうだ。

というのも、自宅と本部との行き帰りの際に何度か――初めはちょっとした悪戯心だったらしい――寄り道したり道をわざと間違えてみたりして、それから「どの道行ったらいいんだろうなぁ?」と葵に聞いてみるということをしたそうだ。すると、自宅に帰る時は6割がた正解し、本部へは百発百中で道を当てられるらしい。リディアン音楽院の建物が見える範囲からなら当てることが出来ても納得だが、離れていたり建物のせいで中々遠くが見えない市街地で聞いても迷わなかったそうだ。

そういう話を聞いたことがあったから、葵くんが迷子になるという心配もしていない。いざとなれば、本部(ここ)へと戻ってくることだろう。

 

 

と、まぁこのように、これまでそこそこの期間葵くんの行動を観察することができたわけだ。そこで彼女は思考能力や判断能力その他諸々、あらゆる面で一般的なレベルよりも高い水準であることがわかっている。

 

故に、葵くんがおつかいをすること自体にそこまでの心配はしていない。ひっかかることといえば、彼女が持ち歩いている杖の完全聖遺物に関係することや、音楽の仕事で本部にも葵くんのそばにもいない奏と翼のことだ。

特に後者は「なんでそんな大事なイベント、あたし(私)がいない時にやったんだ!?(ですか!?)」と後々ワーワー言われそうで……。あいつら、葵くんがひとりでおつかいするって聞いたら、某おつかい番組のように隠れてついて行くに違いないからな。

 

 

 

「もうっ、仕方ないわねぇ。起動実験の事前準備も一段落したところだったし、心配性な弦十郎君のためにちょっと様子を見に行ってくるわ」

 

「了子君!? 待っ……行ってしまったか」

 

そんな風に考えをめぐらせていた俺を見てどう思ったかはわからない。だが、了子君は俺が止める間も無く軽い足取りで指令室を出て行ってしまった。

 

 

「……司令。監視システムのカメラで彼女を探してみますか?」

 

何とも言えない静けさが漂っていた指令室で、待機していた一人の男性オペレーターがかけてきた声はよく耳に入った。

彼が言う監視システムというのは、街の防犯カメラやその他カメラを拝借しノイズ発生時の対応の際にそれらを活用するそのシステムのことを指しているのだろう。確かに、街の監視カメラを網羅するだけでなくいざとなればドローンを飛ばせるあのシステムなら、葵くんを見つけ出すことはそう難しくないだろう。

だが……

 

「いや、アレはあくまでノイズが発生した緊急時の避難誘導や駆逐すべきノイズの捕捉のための()として扱うのが主目的だ。今使うようなものじゃあない……気にならんと言えば、嘘になってしまうがな」

 

「葵ちゃんはただの少女ですが、正体不明の完全聖遺物を所持する保護監視対象なのですから、建前としての理由も十分にあるのでは?」

 

「フッ。なんだ、俺よりもお前たちの方が随分と葵くんのことを心配しているんじゃないか?」

 

女性オペレーターの言葉を聞いて納得すると共に感じた()()。それを指摘すると、「バレましたか…」と行った様子で揃って多少バツが悪そうに笑みを浮かべるオペレーターふたり。それだけでなく、話を聞いていた他の職員からも似たような雰囲気がかもしだされていたのは、微笑ましささえ感じられるものだった。

その光景から、葵くんがいかに職員たちに受け入れられているのかが見て取れる。

 

 

皆の気持ちも汲んで、葵くんの様子を確認させてやりたいところではあるが――――

 

 

 

 

『―――!! ―――!! ―――!!』

 

 

突如、本部内に警報が鳴り響く。

 

この警報……! そして観測された反応パターンは――

 

「ノイズです!」

 

「なに!? 現場周辺の映像の確保ぉ! シンフォギア装者への通信も頼む!!」

 

「了解っ!」

 

「発生地点は――――」

 

示された場所は、本部から近いと言うほどではないがそこまで遠くも無い街中。

……不味いな。ノイズの行動次第だが、この時間帯ならば民間人への被害も少なくない状態になりかねない。迅速な誘導が必要となってくる。

 

「住宅地が近いため、避難させるべき民間人の数が……ですが、反応からすると発生したノイズの数はあまり多くはないようで……えっ!?」

 

「どうしたっ!?」

 

「ノイズ発生地点付近の路地周りに特機部二や一部政府関係者が持つ通信機と同じ反応が複数あるようです! まさかと思いますが、これは――」

 

女性オペレーターが()()()()()()()()を告げるよりもさきに、()()がカメラから送られてきた映像に映し出された。

 

 

 

 

 

「葵くん……!?」

 

 

 

 

 

おつかいに出たと聞いていた葵くんがそこにいた。その手には買った物が入ってるのであろう手提げのエコバッグが。その背中には例の杖が入っているバットケースが背負われていた。

ということは、オペレーターの言っていた通信機の反応というのは、おそらくは了子君が葵くんにつけたという監視・護衛のためのエージェントだろう。

 

そして、その葵くんの視線の先には……大人と同等かそれ以上の大きさの人型ノイズが1体、立ち塞がっていた。

その距離、おおよそ10メートル。ノイズがその気ならいとも簡単に詰めることが出来てしまうだろう距離。それが0となった時、ノイズの持つ特性(ちから)によって炭素化させられてしまう。

 

「まずい!」

 

葵くんとノイズとは、意図的に距離を離していた。

 

理由は色々とあるが、謎の聖遺物を持つ葵くんが奏のようにノイズに襲われた過去がある可能性が指摘され、ノイズを観た場合の彼女の反応が予測できなかったからだ。

故に、ある程度落ち着き彼女から事情を聞き出せるまで、テレビやインターネットを遠ざけて彼女が得られる情報に規制をかけた。その上、本部内でもノイズに関する話やノイズへの対抗手段である「シンフォギア」に関しても極力葵くんには触れられないようにしたのだ。

 

そんな葵くんだが、はたしてノイズを前にして正常な状態でいられるものか……!

 

 

 

「奏と翼は!?」

 

「二人とも、すでに現場を目指し移動を開始しています! しかし、数分……いえ、いくら早く見積もっても十数分はかかってしまうかと……」

 

「なっ!!」

 

これから十数分もの間、ひとりの少女がノイズから逃げ切ることが出来るだろうか? 今葵くんのそばにいるのは1体だけだが、周囲にはまだ別のノイズもいることも考えると常識的に不可能に近いだろう。……いや、「近い」なんていう表現も不要か。

 

せめて、手を差し伸べてやれる大人がいれば……いや、いるにはいる。周囲にいるであろう監視・護衛をしていたエージェントたちだ。

だが、彼らもノイズ相手には無力だ。葵くんを、子供一人を抱えて逃げることはできるかもしれないが、おそらくは自分自身が生き延びることに必死になる者が大半だろうため期待は出来ない。仕方のないことではあるが……しかしそうなっては困るのが俺たちであり、現場にいる葵くんだ。

 

 

俺は数分前に了子君も出た指令室から廊下へと続く扉へと足早に向かう。……が、その背中に声をかけられてしまう。

 

「司令っ、どちらへ行かれるおつもりで!?」

 

「ココから俺が直接行ったほうが早いっ!」

 

「いけません!! いくら司令でも、ノイズ相手には無理があります!」

 

「だからと言って、ここで黙って見ておくことなど――――」

 

「葵ちゃん、杖を取り出してノイズに接近!? 交戦するようです!」

 

「なにっ!?」

 

 

予想外の葵くんの行動に、つい身体ごと映像の方を向いてしまう。

するとそこに映されていたのは、いつの間にかバットケースから杖を取り出して構えている葵くんの姿だった。

ヒタヒタと……しかし軽快な足取りで歩み寄ってくるノイズに向かって、杖を横薙ぎにせんとばかりに構えて駆けて行く葵くん。

 

 

 

「殴りかかっ――る勢いのまま素早く反転し、そのまま逃走を開始!」

 

ノイズの2,3メートル手前で杖を横に振るい、その勢いで半回転して来た道をここまで駆けてきた速度よりもより速く走りだした葵くん。

 

つまりは、自らノイズとの距離を詰めてしまっただけというあまりよろしくない結果になったわけだ。

だが、ヤツらにしては珍しく、あっけにとられたかのようにノイズが数秒間停止していたために、葵くんとの距離は再び開いた。ノイズの行動次第だが逃げきれなくはないかもしれない。

 

本部(こちら)から離れていきます! ですが、ちょうど装者のふたりが向かって来ている方向です! ノイズもつられてついてきていますが、合流までの時間短縮されます!!」

 

「よしっ! 葵くんの逃走経路を予測し、避難誘導はそのルートから離れさせることを優先させろ! 彼女の周りにいた人員には避難誘導の協力を!」

 

本部のある方向とは別方向へと逃げ出した葵くん。ただでさえギリギリだった「俺が出て現場に急行する」という作戦の実行はこれで無理が過ぎるものとなってしまった。

だが、その逃走方向が装者たちがいる方向だというのは不幸中の幸い。絶望的な状況には違いない……だが、どれだけの足しになるかはわからんものの、間違い無く良いほうへとむかっているはずだ。

 

 

 

「逃走先にノイズが!?」

 

「葵ちゃん、防御態勢――倒れ込んで避けました!」

 

「ああ。見えている……」

 

杖を両手で持ち水平に構えた葵くん。

その葵くんに、丸々とした身体に短い手足と尾を持つ一部でオタマジャクシ型ノイズと呼称されるノイズが跳びかかったが、葵くんは倒れ込むことによって跳びかかってきたノイズの下にあった空間へと滑りこみノイズとの接触を回避してみせたのだ。

 

「葵ちゃん、素早く立ち上がりそのまま逃走を続行! これは、案外簡単にこのまま逃げ切れるんじゃ……」

 

確かに、男性オペレーターである彼が言うように、当初想定していた事態よりもかなりマシな状況だといえる。

最初に遭遇した人型ノイズについ先程回避したオタマジャクシ型ノイズを含め、葵くんを追うノイズは数を増やしているが、彼女のとっさの判断・機転、そして想像していたよりも高い身体能力による逃走速度もあって装者との合流まで逃げきれそうに思えなくも無い。

 

ノイズに追われながらも逃げる葵くん。

正面からも数体ノイズが来ていたため、十字路を左手に曲がった――のだが、何故だ……!!

 

「ええっ!? こ、今度は民間人の女の子がっ! 逃げ遅れたのかもしれません」

 

俺も含め、指令室(ここ)にいた誰もが葵くんばかり気を取られていたせいもあっただろうか?

そう。今の今まで気付けなかったが、曲がった先には避難誘導が行き届いていなかったのだろう葵くんよりも数歳年上に思える少女が葵くんの方へと向かって駆けて来ていたのだ。しかも、勢い余ってか二人はぶつかって尻餅をついてしまっていた。

 

 

あいかわらずの素早さですぐさま立ち上がっている葵くん。

ぶつかった相手である少女の手をすぐさま取り、その手を引いて再び逃げようとする葵くん。だが、どうしたことか少女は立ち上がったものの葵くんの後を追おうとはせず、むしろ抵抗しているようなのだ。

 

映像越しでは何を言っているかは不明だが、どうやら少女は葵くんが行こうとしている道とは逆へと避難しようとしているようだ。……手早く地図に目を通してみると、一番近場の避難シェルターへは少女が行こうとしている道が最も近い道筋だ。

 

 

だが――――

 

 

「ノイズ、二人に接近します!!」

 

少女もその目で見て気づいたことだろう。

自身が行こうとしていた道。その左右の曲がり角から複数体のノイズが顔を出し自分たちの方へと向かって来ていることに。本当にそちらへと向かっていたらどうなっていたか――――その想像さえできてしまっただろう。

 

抵抗をやめた少女が、葵くんが逃げようとしていた――さきほどまで少女が通って来た――道へと身体を向けた。

だが、ノイズたちが二人のすぐそばまで接近してきてしまっている。

 

 

葵くんは一手を打っていた。

少女の手を引いていた手とは逆の手で持っていた完全聖遺物である杖を、追ってくるノイズたちに向けて思いっきり投げつけたのだ!

 

しかし、杖はノイズ達をすり抜けて地面に転がってしまった。

 

 

「……位相差障壁*2!」

 

「あの聖遺物じゃあ、ノイズに有効打を与えられないのかっ!?」

 

現代科学では再現不能、異端技術の粋である完全聖遺物である、葵くんが持つ完全聖遺物。そんな超常的なモノにそのチカラに望みがかかっていたのだが……どうやらノイズが多少驚いた程度で効果を成さなかったようだ。

だが、俺の目に写る画面向こうの葵くんは、まだ諦めた様子ではなかった。

 

「いや! 葵くんの様子からして効果云々……そもそも倒せるなどとは思ってはいなかったんだろう。あくまで逃げるための一瞬の時間稼ぎだ」

 

そう、葵くんは投げた時には自分よりも背のおおきい少女の手を引いてすでに走り出していたのだ。

地面に転がりノイズたちにもスルーされていた杖だが、次の瞬間、空いていた葵くんの手に杖がおさまっていた。その光景は俺にも見覚えがある。

そして、また再びノイズへと投げつけられる。ぶつかったりなどはしないが、ほんのわずかにノイズの動きに抑制をかけられているようでヤツらは不自然な動きをしている。

 

 

 

 

なんとか隙をつくりつつ逃走する葵くんと少女。

その視線の先に、新たな影が現れた――が、それはノイズでは無かった。

 

黒のスーツを纏った男性。避難誘導に手を貸してくれている例の護衛兼監視のエージェントだろう。

駆け寄ることこそしなかったものの、声をあげつつ身振り手振りも加えて「早く来い、あっちへ避難するぞ!」といったことを伝えているのだろう。それは、葵くん……ましてや必死について来ている少女にとっては希望であり、あと一歩頑張るための活力となる。

 

 

 

「……っ」

 

オペレーターの一人が息を呑む音が嫌というほど聞こえてきた。

 

息を呑んだ理由はわかる。葵くんたちを誘導しようとしていたエージェントが、どこからか現れ翼を折りたたみ急降下してきた()()()()()()の手によって炭素化されたのがドローンからの映像越しに見えたから。

 

一生に一度あるかないかなどと言われていたノイズとの遭遇率。しかし今現在、場所に多少のばらつきはあるものの、少しずつ……だが確実に発生件数は増えてきていた。

この仕事をしてきた中でも、何度か目にしてきた……そしてこれから先、目にしてしまうだろう。取り乱したり動揺してはならず、同時に慣れてしまってはいけない光景。

 

 

思うことは色々とある――が、今は捨て置いておかねばならなかった。

なぜなら、そのエージェントがいたのが()()()()()の先で炭素化された彼は……そちらへ逃げようとその路地を走っていた葵くんと少女の視線の先でその最期を迎えてしまったのだから。

 

そう。葵くんと少女は人が炭素化するその光景を目の前で見て、走るのをやめて固まってしまったのだ。

 

「葵ちゃん!」

 

「足を止めるなぁ!!」

 

急な外出という事もあって葵くんには通信機器の類を持たせることができていない。故に、ここで葵くんに向かって声を張り上げても決して届くことは無い……だが、叫ばずにはいられなかった。

(炭素)の山となってしまったエージェントのいた方からは飛行ノイズが数体飛来し道を塞ぎ、逃げてきた後方から人型ノイズやオタマジャクシ型ノイズが続々と追い付いてきたのだから。

 

逃走劇を嘲笑うかのような挟み撃ち。これまで仕留め損なっていたのは、この状況を作るためなのではないかと思わせるほど出来過ぎた状況(もの)だった。

 

 

 

 

 

その時、黒い影が葵くんと少女にかぶさり、小規模の煙と共に二人がその場から消えた。

 

 

 

 

 

「あっ、今のは……もしかして!」

 

 

しかし、俺の目では確かに捉えることが出来ていた。

 

 

「緒川か!!」

 

特機部二の中でも一位二位を争うほどの身体能力の持ち主で、忍の一族の末裔である緒川慎次(おがわしんじ)、その人だ。

 

『お待たせしました。葵さんと民間人の確保完了。このまま、現場から離脱します!』

 

「頼んだぞ!」

 

 

 

「緒川さんが来たってことはっ……!」

 

 

 

そう。緒川は特機部二に所属しているが、表の顔は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

つまり、彼が居るということはそのアーティストたちも現場そばまで来ている……そういうことだ。

 

 

 

 

 

 

 

よう

 

 

ここ最近は、寄り添い優しく投げかける声やふてくされた声、軽快に笑う声ばかり聞いていて忘れかけていた――――出会った頃によく聞いた、刺々しく触れたものをすべて切り裂いてしまいそうな雰囲気を漂わせる声。

 

そしてもう一人も、静かに、だが確かに、言葉の内に熱い熱を秘めさせていた。

 

 

『随分と楽しそうに鬼事(おにごと)をしていたようね』

 

『あたしらも交ぜてくんないかなぁ?』

 

 

位相差障壁を持つノイズへの唯一の対抗手段、『シンフォギア』。

それを纏った二人が、葵くんを追い詰めていたノイズたちの前に立ち塞がったのだ。

 

 

 

他人(ひと)の妹分に手ぇあげといて、逃げられると思うなよ! クソノイズ共ッ!!

 

『あなたたちにとっての鬼は奏と私よ! 覚悟なさい!!』

 

 

 

奏が纏う第三号聖遺物「ガングニール」のアームドギア*3である槍が――

翼の纏う第一号聖遺物「天羽々斬(あめのはばきり)」のアームドギアである刀が――

 

 

 

――――ノイズを貫き(裂き)、蹴散らしていく!!

 

 

 

 

 

 

頼もしい限りで、助かったことには違いないし、ありがたいのだが……周囲の被害は押さえてくれないものか?

 

感情が入ってか普段以上に暴れ回る二人を見て俺が感じたことは、今はまだ口に出さないほうが良いだろう。

とにかく、助かったのだから、な…………。

*1
適合者にはお馴染みの、司令による「○○だと…!?」発言。この作品では原作一話の「ガングニール……だと……!?」よりも先に登場することに

*2
世界への存在比率をうんたらかんたら……簡単に言えば、現実世界と別の世界との間を行き来することで「そこにいるんだけどいない存在」となり、周囲からの物理的干渉を受けなくなるようにできるノイズの特殊能力。一般兵器が意味をなさない理由であり、コレに対処できるのがシンフォギアシステムである

*3
シンフォギアに備わっている武装。基本的に元となる聖遺物に関係する形を取るが、装者の心象や戦闘スタイルによってその姿形を変え、戦闘中であっても技や使用方法に応じて変形したりもする




フォントとか色々と少しずつお試し中。


次回、例の場所へ。
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