我が手には星遺物(誤字にあらず) 作:僕だ!
相棒こと表の遊戯によって仕向けられた杏子とのデート。その行き先を決めるときの一言がこれである。
連載当時のナウでヤングな読者からもなかなかの評価を貰ってしまった表現であり、闇遊戯の独特のワードセンスが光る台詞。なお、アニメ版である「遊戯王DM」では言っていない。
お待たせしました。……分割して早めの投稿をして見ようかと考えている、今日この頃。
前回の話とかぶる部分があるから、そのあたりは短くおさめられるかなーなんて思っていましたが、全然そんなことはなかったです! 原因は、無口なのにその分内面が騒がしいイヴちゃんでしょう。あと、イヴちゃんの扱う遊戯王ネタの数々。
……つまり、作者のせいですね!
最近、カナデやツバサとの距離が縮まった。精神的な意味合いではなくて
こうして街中を歩いている時には、決まって二人で左右から挟んでワタシの
……心配なのはわかるが、ちょっと鬱陶しい。
そうなった理由というかきっかけは分かっている。
先日、襲われたのだ。ワタシが、
そう。あれは数日前、リョーコさんにおつかいを頼まれたあの日……
―――――――――
おつかいを頼まれたワタシは、すぐさま理解した。
なるほど、これが先日言ってたワタシを試すためのテストか。
しかし同時に、頼まれたおつかいのメモ書きの内容を確認して首をかしげた。いくらなんでも簡単すぎるのだ。
買ってくる物が多いわけでもなく、間違えてしまいそうな紛らわしい物なわけでもない。行先だって、地下にトッキブツ本部があるリディアン音楽院からそう遠くない店だけ。かといって数か所店を跨ぐような面倒なものでもない。
というかそもそも、道に迷うことはまず無いだろう。手書きとはいえおおよその地図があるというのもあるが、行先とトッキブツとの位置関係を理解していれば本当に何の心配もいらないのだから。なんとなくの感覚ではあるが、トッキブツのある方向はどこにいても何故か分かってしまうのだ。
テストのことを話していた時随分と期待していない様子だったが、リョーコさんの中でどれだけワタシの評価が低いのかが気になってしまう。
色々と引っかかる部分もあったが、それでもワタシは言われるままおつかいへ向かった。
なぜなら、おつかいは一人で外出しても悪く言われない……というか、一人で外出するのがおつかいなのだから当然か。そして、つまりそれは、ずっと気になっていた例の「トリシューラプリン」をあつかっているお店もそれとなく探すことが出来る恰好の機会だということ。場所や店名すら知らないが、なんとかなるだろう。きっと「ターミナル・エイト*1」みたいな感じの名前のお店だろうから。
そう。言われてすぐに手早く準備を済ませおつかいに向かったのは他でもない、おつかいをさっさと済ませて「トリシューラプリン」のお店を探すためである。
そんな下心あっての行動をとったからか、買い物を終えて「さてどっちの方を探しまわってみようかな?」などと適当に歩いていたワタシの前にそいつは現れた。
ポヒョン♪
よくわからんサイレンが聞こえてきて「なんだろう?」と首をかしげた直後、ソレは――そのモンスターは奇妙な音と共にワタシの目の前に現れた。
寸胴な身体に手足を持つ人型のモンスター。その大きさは大の大人とそう変わらないくらいだが、そのどことなく丸みを帯びたシルエットは「着ぐるみ」か何かのようで生物味は無い。なにより、その体色が銀というか白というか透明というか……ザラザラふわふわギラギラと、こう、揺らいでいたのがそのモンスターの非現実感を煽っていた。
ポヒョポヒョ音を立てながらゆっくりと二足歩行で歩み寄ってくるモンスター。
それを見たワタシは、背負っていたバットケースから素早く「
一昔前のワタシなら意味不明なモンスターに恐れをなして逃げ出したことだろう。
だがしかし、ワタシはモンスターと……
ならば、やるべきだ!
その決意の根幹にあるのはもちろん「トリシューラプリン」のお店を探したい思いである。そこはブレなかった。
ヤル気満々で「鍵杖」を構えたまま走り出し、モンスターまであと数歩――――その時、ワタシの身体に悪寒が走った!
何故? 原因はあるのか?
この間、実に1秒たらず!
――――《
一部状況を除き、返り討ちにあって破壊されてしまう。
つまりはほぼ間違い無く「敗北」。というか、
シリーズにもよるが、遊戯王の作品内では「基本攻撃力至上主義」が根強く、
実際は違う。特殊な効果を持っていたり、種族・属性・
「どんなカードでも存在する以上、必要とされる力がある」*2……とある伝説のデュエリストはそんな言葉を残している。
が、今回ばっかりは《
とまぁ、そうして逃走を始めたワタシだったが、次なる困難がワタシを襲った。
そう。先程対峙したモンスターと似た体色をした別のモンスター――まるで人ほどの大きな饅頭に尻尾がついたかのようなヤツ――が、路地の先にいたのだ。
丸いモンスターまでの十数メートルの間に脇道は無く、引き返せば間違い無くさっき逃げた相手である人型モンスターと鉢合わせてしまう。
しかし、この時すでにわたしの中では次なるプランがあった。
確かに《
妙な雰囲気ではあるが
《
その隙を見て通り抜ける。これで攻撃力がなくても突破できる。
そんなことを考えながら走り続け距離を詰めていくと、丸いモンスターがこっちへと圧し潰そうとするように――といっても半分くらい正面衝突になりそうな高さなのだが――跳び上がった。よくよく見れば、そのずんぐりとした図体にはアンバランスな細めの脚がいつの間にか生えていた。
しかし、これは好都合。跳びかかってきたところを正面から受け止め隙を作ってから突破する。うんっ、いける!
そう判断していたワタシは、跳びかかって来ているモンスターへと向いて「鍵杖」を水平に素早く構え、いつでも受けられるようにして――――その時、ワタシの身体に再び悪寒が走った!
なんでまた? 原因は? ……わからないが、さっきもそうだったのだから今回もその予感に従ったほうが良いのではないか? ならばと、受け止めるより先に、自ら後ろ向きに倒れ込み――跳びかかって来ていたモンスターの下を通り抜ける形でやり過ごした。
呆けるヒマも惜しく、バッと立ち上がって逃走を再開。それと同時にあのモンスターたちのことを考える。
再び感じた悪寒……まさかとは思うが、やつらは《
その割にはポンポン出てくる。ほら、路地の先の方からまた10体弱。
いやまあ、ある時期から大量展開が基本になってきた遊戯王では高攻撃力のモンスターがフィールドを埋め尽くすことは多々あるが……5~7体以上はさすがにルール違反だろう*4?
相手の攻撃を避けてるワタシもおかしい? ……回避確率*5が何%かあったんだよ、もしくはアクションマジック*6。
冗談はさておき、正面方向から来るモンスターたちをどうするか……。
当然ながら倒せるとは思えない。かといって、あの群れの合間を縫って回避するなんて芸当は出来る気がしない。じゃあ、打つ手無しか……そんなことは無い。
幸いなことに、やつらとワタシとの間には十字路があるのだ。単純明快、曲がってやつらがいる道とは別の道を進めばいいのだ。……曲がった先にモンスターが待ち伏せてるかもしれない? それはさすがに無いだろう。こんなやつらがそこまでポンポン出てくる環境って、いつの間にこの世界は世紀末と化したんだろう?
ちょっとだけ楽観視をしながらも十字路を右へと曲がる。左へは行かなかった理由? 自分でもよくわからないけど……左腕をよく切り落としてた*7からだろうか?
そうして曲がった先には、ワタシの睨んでいた通り、例の謎のモンスター
勢いがあって止まれなかったのと予想外だったこともあってぶつかってしまい、尻餅をついてしまう。ちょっと痛い……が、さすってる場合ではない。あのモンスターたちがもうじき追いついてくる。
急いで立ち上がり、同じように尻餅をついて「パンなんて銜えてないのに――」だのなんだの言っている女の子の手を取って、無理矢理引き立ち上がらせてそのまま走り出す――――はずだったが、何故か抵抗された。女の子が言ってることをよくよく聞いてみれば、アッチのほうに「避難シェルター」なるモノがあるとか。……そんなものを用意するとか、よく出てくるものなのかあのモンスターたちは。というか、ワタシはあの時左に曲がってればよかったのか?
過去の自分の選択に少し後悔しつつも、目先の問題を第一に考える。「でも、アッチはダメ。もうすぐ横道からやつら出てくるから」と伝えようにも、あいもかわらずワタシの口はいうことをきいてくれず何も言葉を発せない。
手を引っ張る
と、不意に抵抗していた力が抜けたのがわかった。
まあ、「こっちだって」って言いながらアッチへ振り向いたのは、目の前にいるワタシにはよく見えた。そこで動きをピタリと止めた事と、抵抗が無くなった事。そして、女の子越しにワタシからもあのモンスターたちがチラッと見えた……だから当然女の子の目にも入ったんだろう。理解したんだろう。「よくわからないけど、なんかヤバい」って。
「の、ノイズ……!?」
あっ、何か知ってるっぽい。どうやらあのモンスターたちは「ノイズ」というらしい。
そこではたと気付いたのだが、その「ノイズ」とやらは案外世間一般に知られているのではないだろうか?
この女の子が呼び名を知っていたこともそうだが、最初に聞いたサイレンといい、女の子が言っていた「避難シェルター」といい……。うん、やはり一般常識レベルなくらいの存在なんだろう。
何はともあれ、だ。
状況がわかったのなら……というわけで、手を一度クイッと引いてから改めて手を引いて走り出す。今度こそ女の子もついて来てくれた。
問題は、追い付いてきたノイズたちとの距離が少し近づき過ぎていること。
走り出すと同時に手に持つ「鍵杖」をノイズに向かって投げつけた。
やけっぱちと言われては否定はしきれないこの行動。しかし、考え無しというわけでもない。
攻撃と判定されるか否か。判定された場合は
そして、「鍵杖」は何故だか知らないが少し念じれば
そんな風に考えていたのだが、逃げだした横目でノイズの方を確認したワタシが見た光景は、目を疑ってしまうものだった。
そう、人型ノイズに「鍵杖」がぶつかった――かに見えたのだが、何の抵抗もなさそうにすり抜けていき、地面に音を立てて転がった。
――――なるほど。「攻撃対象にならない」効果*8持ちか。
確か、「
逃げながら、女の子の手を握ったのとは逆の手に「鍵杖」を呼び戻し、もう一度追ってきているノイズへと――今度は丸い形のノイズへ――投げつけてみる。
やはりと言うべきか、人型ノイズの時と同じく「鍵杖」はすり抜けてしまった。どうやら「攻撃対象にならない」効果は「ノイズ」カテゴリモンスターの共通効果らしい。
なんとか逃げ続けれてはいるが、事態が好転したとは言い辛いこの状況。
心配なのは、まだ走り始めてあんまり経っていないのにもう息切れし始めた女の子だ。……いや、この場合、未だに息切れ一つ起こさない《
なんにせよ、この状況がいつまでもつかはわからない。そして、崩れるとしたら間違い無く
そんな中、またもやと言うべきか正面方向の路地の先……その脇道から何者かが出てくるのが見えた。
しかし、先程の女の子と同じで、ノイズではなかった。いかにもな感じの黒メガネとスーツを装着した大人だ。何やら手を振りながら声を張り上げているようだが……どうやら、例の避難シェルターへと誘導しようとしてくれているようだ。誘導の方向からして、女の子が最初に向かおうとしていた後方の避難シェルターに迂回するのか、別のモノがあるのか……どっちなのかは分からないが、あてがない以上従うべきなのだろう。
女の子の手をギュッと握って離さないよう意識した上で、走る速度を少し速めようとしたその時――――空から降ってきた何かが黒メガネスーツの人にぶっ刺さった。
ソレがなんなのか一瞬わからなかったが、例の独特の体色と同じ感じだったのでおそらくはノイズなのだろう。
たちまち色を変えていき……黒い砂のようなナニカになって崩れた。
「ひぃ」
わずかな風に乗ってサラサラと散る
――――「道連れ系*10破壊」効果持ちかぁ。
そりゃあ、守備力がいくらかあったところで意味が無いだろう。感じた悪寒から、攻撃を防御せずに避けたワタシの判断は正解だったわけだ。
「鬼畜モグラ*11」……いや、どっちかと言えば《異次元の戦士》*12の破壊バージョン効果といったところか? そして、これも共通効果なのだとしたら「ノイズ」モンスター群は随分と尖がった性能のテーマのようだ。面倒なことこの上ない。
そんなことを考えていると、元人の黒い粉の塊がある路地先に一対の翼を生やした――おそらくは黒メガネスーツを貫いたのと同種だろう――ノイズが数体、舞い降りてワタシ達の行く先を塞ぐかのように一列に並んで浮遊している。
そして、後方からはポヒョポヒョという独特の足音が。振り向かなくても分かる、これまでワタシ達が逃げ続けていたノイズたちが追い付いてきたんだろう。
……つまるところ、挟み撃ち。路地の端と端をそれぞれ数体がかりで塞がれたのだ。
絶望的とも言えるこの状況。
繋いだ手ごしに隣にいる女の子の震えが伝わってくる中、ワタシは「緊急事態なんだし、塀とか家とか壊しても怒られないかな?」と道の脇にある建物を壊すことを考えて「鍵杖」を強く握った。
だが、ワタシと女の子の冒険はここで終ってしまったのだ。
なぜなら、突如現れたどこかで見たこのとある男性が
―――――――――
その後についてだが……
いつの間にかトッキブツ本部のすぐそばまで連れてこられて、とりあえずひと息つけた。
途中から一緒に逃げた女の子にはお礼を言われそのままちょっとお話をしていた。もやは当然だが、実際に声を発しているのは女の子だけである。
だが、その途中にワタシたちを救出してくれた男性――後々思い出したのだが、カナデとツバサのマネージャーだった――が「お話があるので……」とか言ってその女の子を何処かへ連れていってしまった。いったい、彼は何者だったんだろう?
そして、「はてさてどうしたものか」とひとり首をかしげていたワタシはといえば、どこからか颯爽と現れたカナデとツバサに捕まった。というか、カナデに跳びつかれるようにしてガッチリと抱きしめられたのだ。ツバサもツバサでゆっくりとだが近づいてきて、カナデとは逆方向から優しくギュッと抱きついてきた……いわゆるサンドイッチ状態である。
ふたり揃って、「一緒にいて護ってやれてれば……」とか「もっと早く駆けつけられなくてごめんなさい……」とかそんな感じの実現不可能なことばっかり言って、挟まれたワタシからしてみればたまったもんじゃなかった。
いやだって、実際のところ、あのノイズというモンスターは攻撃が
心配だったという気持ちはとてもよくわかったが、ワタシのことはいいから
そして、落ち着いたふたりに連れられて向かった本部では、ちょうどワタシにおつかいを頼んでいたリョーコさんがゲンジュウロウさんからお叱りを受けているところだった。なんでも、報告を怠っただとか、肝心な時に行方不明だったとか……知らない所で色々あったみたいだ。
「そういえば、おつかいした物って逃げてる最中にどっかにやっちゃったんだよなー」なんて思っていたら、女の子を連れていったはずの例のマネージャーさんがどこからか現れ、無くしたと思っていたおつかいした物が入った袋をリョーコさんに渡してくれていた。
ついでに……後日の話になるが、やはりと言うべきか学校や歌手活動の関係でどうしても四六時中カナデやツバサはワタシと一緒にいるわけにはいかないので、これまで通りトッキブツに預けられたりするのだが……。
そんな中で、またリョーコさんとふたりっきりになる機会があって、ふたりっきりになった瞬間から「思ってた以上に使えなかった」や「昔のほうがましじゃなかったか?」、果てには「
途中アクシデントがあっておつかいは完遂できたとは言い難い結果だったが、いくらなんでもあんまりではなかろうか?
あと変化があったことといえば、GPS付きのケイタイを持たせてもらえたことだろう。それだけは嬉しかった……
電話での通話はもちろんメールを打つこともできなかった――それはもう割り切っていた――だが、ウェブで「遊戯王」と打って検索することすら
けれど、ゲンジュウロウさんから貰った無線通信機もあるから、変にかさばってるんだよねぇ……。
―――――――――
……と、そんなことがあって、
今現在では冒頭にあったように、本部内だけでなく街中でもふたりでそれぞれワタシの手を握り左右を固めて歩くようになったわけだ。
ふたりは髪型を変えたり帽子やメガネを着用して、歌手としての身バレを防止しているようだが……「仲良しすぎる」とか言って視線を集めたりしてしまってないだろうか? 「仲の良い姉妹と姉の友達」くらいにしか見られていないなら大丈夫なんだけど……。
そんな心配事が頭を過りはするが、「トッキブツの本部に居たい」だとか「
何故なら……
「今日の葵は、いつもに増してご機嫌ね」
「そりゃなぁ? 前に旦那の買ってきたあの「トリシューラプリン」の店に行くんだからな」
そう! ついに、ついにこの時が来た!
カナデの手作りのおやつやデザートをごちそうになること十数回。
「一口貰ったから美味さの次元が違うのはわかってる……けど、食べる前の反応からここまでテンションが違うのはなんでなんだよぉ」などと落ち込むカナデを(時々ツバサと一緒に)慰めること数回。
最後のほうではワタシも空気を読んではしゃいでみせたことがあったけど、カナデには
その後も紆余曲折あり、やっと例の「トリシューラプリン」を扱うお店に行くこととなったのだ!!
周囲の視線がちょっと気になる程度で、どうこうブレるワタシではないのだよ!
「弦十郎の旦那からは、この辺りだって聞いたんだけどなぁ……?」
「奏、あのお店じゃあないかしら?」
「おおっ、それっぽい」
ツバサが指差したほうへと向かってみれば、いかにもそれらしい外観の店舗が。
その入り口付近に掲げられている看板には、独特の書体で「ラ・ジーン T8」と書かれている。それがこのカフェの名前なのだろう。
ん? 「ラ・ジーン T8」……?
「T8」はおそらくはワタシが予想していたように「ターミナル・エイト」由来のモノだろうけど……「ラ・ジーン」だと!?
「
有名なのは、ガニ股歩きのウエイトレス・ガニ子ことステファニー。そして
当然ながら、そんな事に考えが回るのは
カナデとツバサは「ちょっと変わった名前だな」程度にしか思わなかったようで、ワタシの手を引いたままお店へと入っていくのだった。
―――――――――
店内は中々に小綺麗なものだった。
入り口から見て左手にはいくつかのテーブルと椅子が並べられたカフェスペースが。右手にはL字に設けられたショーケースと、そこから奥へと伸びるカウンター席、その間には行き来するスペースとお会計があった。
「いらっしゃい。よく来たねぇ」
カウンター奥にいたこのカフェのマスターらしき人物からそう声をかけられた。
銀色の髪とお髭のおじ……おに……? いやおじさん、なのだろう、きっと。
うーん? 遊戯王シリーズをほぼ全て知っているつもりではあるが、この人のような
しかし、そこまで考えると、むしろワタシのような別
「
「ええ。葵も座れそうな椅子だから、それでいいんじゃないかしら?」
「席についてメニューをじっくりと眺めるのもいいけれど、ここのショーケースで実物を見て決めるのもいいんじゃないかな? 用意しておくよ、飲み物は。先に注文してくれていればね」
はぁ、なるほど、コーヒーとか紅茶とかを作って貰っている間にスイーツ類を吟味する。そういうのもありか。
このショーケースには、お持ち帰り以外でもそういうことが出来るという利点があるんだなぁ……他の客が多ければ出来ないだろうが、「ケーキも作りたてじゃなきゃヤダ!」とかいうこだわりがなければ普通に良いだろう。
「んん、コホンッ……失礼。飲み物のメニューはこちらだよ」
そう言ってメニュー表らしき物をショーケース越しに渡すマスター。
……? 風邪って感じでもなさそうだけど、何とも言えない咳払いをするなぁこの人は。……実は、ふたりが
「ふーん、そういう選び方も悪くないかもな。ほい」
「ええ。結構種類も多くて迷うかもしれないものね。はいっ、わからない
……なんで、自然にカナデ
だからといって、これに悪ノリしてワタシ
どれどれ……? ショーケースの中身も結構な種類がありそうだったが、飲み物のメニューも中々に豊富だ。これは悩む……わけないな。
ワタシは決めたメニュー表の中の
「もう決まったの? ……凄く早かったけど大丈夫かしら?」
「さーて、葵は何を飲みたがって――」
「「ブルーアイズマウンテン」、1杯3000円!?」
やっぱりあったよ、「
最初期のころから高攻撃力の最上級モンスターといえばこのモンスターというくらい強力で、漫画やアニメでの使用者である
これを見つけたら、頼まないわけにはいかない。当然だろ?デュエリストなら。
「コーヒーはすごく苦いけど、葵はちゃんと飲める?」
「そこかよっ!?」
正直に言うと、ブラックは飲めない。が、聞くには「ブルーアイズマウンテン」は「苦みばしったパワー」が特徴なのだという。ソレを体感してみたいから、まずは何も入れずにブラックで……といきたいところだ。
「もっと、ほら! 値段のことで、ぼったくりかーとか色々あるよなぁー?」
「そうかしら? お茶も一級品となるとかなりの値段になるのだから、コーヒーもそういうのがあったりするんじゃないかしら?」
「……そういや、忘れてたけど翼のところってなんだかんだ凄い家柄だったよな。そこら辺の感覚、微妙に違ったりして……? いや、それともあたしがおかしいのか?」
へぇ、それは初耳だ。ツバサはあんまりそんな雰囲気を感じた事が無いから意外である。
ってことは、同じ苗字で「叔父様」と呼ばれているゲンジュウロウさんも、良い所の出なのかな? ツバサ以上に似合わないなぁ。
「場所聞いた時に弦十郎の旦那がわざわざ駄賃をくれたのは、これを見越して……? いや、まさかなぁ? 他のメニューはちょっと名前が変なのはあるけど、普通の値段だし…………なぁ、葵。ホントにそれでいいか?」
そこまで念押しされると、流石に申し訳ない気がしてくる。
仕方ない。「ブルーアイズマウンテン」はまたの機会――具体的に言えば、何とか収入源を得た後に――個人的に来店できた時に注文することにしよう。
となると、代わりの飲み物を何にするかだが、ワタシはまたもや迷わずメニューを指差した。
「別のものにするの? ……これは」
「さすがに1杯3000円は……ああ、「
これしかあるまい。
まぁ、実際のところは「ブルーアイズマウンテン」以外であれば飲み物にはそう
「私はこの「抹茶ラテ」をひとつ」
「あたしはこの「カプチーノ」でいいかな」
「承ったよ。出来上がるまで、ゆっくりと選ぶといい」
そんな事を言ってマスターはカウンター奥へと向かっていった。
促されるままに……というか、当然の流れなのだが、ワタシ達はショーケースの方へと視線を移した。
「じゃあ、選ぶかぁ。っても、葵はもう決まってるようなもん……!?」
「どうしたの、かな……で?」
二人の視線の先には、「2700円」と表記された「トリシューラプリン」が。
「プリンひとつでこの値段……!?」
「葵に一口貰ったから美味しいのは知ってたから、この値段には納得だわ」
「原価もそこそこに高いけど、その値段は「ブルーアイズマウンテン」に合わせただけだよ」
「合わせたって何をどう!?」
カウンター向こうから聞こえてくるマスターの声にツッコミを入れるカナデ。
攻撃力基準でって意味ですね、わかります。
いや、まあ、そもそも「トリシューラプリン」は「人気が高い・価格が高い・カロリーが高い」で知られている物なのだが……いくら何でもそこまで高くないんじゃないかな、いちおう頑張ればアカデミア生も買えるものだし……いや、買えるか、この値段なら。
しかし、この値段で人気商品っていうのは凄いな。
「ああ……コッチか。旦那が見越してたのは絶対コッチだ。おかしいだろ、この値段はさすがにさぁ」
「でも、「トリシューラプリン」以外は普通……普通? だと思うわよ?」
「値段はな? 商品の半分くらい名前は微妙に変だし、形がわざわざパズルのピースみたいな形になってたり皿のほうがピースの形になってたりもするし……なんだよこれ」
「普通に美味そうなのが、なんだかなぁ……」と呟くカナデと、それを見て苦笑するツバサ。
パズルのピースの形とスイーツ……どう考えても遊戯王に存在する
その特徴を頑張って活かそうとした結果、そうなったんだろう。ここのマスターの努力がうかがえる。
……いやぁ、やっぱりあのマスター絶対にそうだわ。「遊戯王」関連のものが存在しないこの世界に、なんでそんな人がいるのかは不明だが……トリシューラの攻撃力の事も知っているし、間違い無く
このイヴちゃんボディにかかっている「喋れない&字が書けない」という謎の制限が無ければ、色々と根掘り葉掘り聞いているのに……本当につらい。
そんなワタシだが、これ以上どうこうできるわけでもないので、いったん諦めてそんな思いは表に全く出さず自分が今日食べるものを選ぶことにした。
―――――――――
なお、最終的にカナデ、ツバサ、ワタシが注文したのは「ミィルフィーヤ」「シスタルト」「ホーットケーキ」。それぞれ《マドルチェ・ミィルフィーヤ》《フレッシュマドルチェ・シスタルト》《マドルチェ・ホーットケーキ》のモチーフとなったモノを彼らをモチーフにして作ったとかいう、再翻訳みたいな状況だった……が、それがわかるのも
頼んだものを互いに食べさせあったりもしたが、どれも値段以上に美味しかったんじゃないだろうか?
そして、マスターが「今度は昼時にでも来てみるといいよ。時間限定の人気商品があるからね」と言っていたが……最近、カナデたちも忙しくなっているし、次来れるのはいつになることだろう?
ついに始まる奏と翼「ツヴァイウィング」のライブ。
緊張する翼とそれを励ます奏。その水面下で行われる特機部二による完全聖遺物の起動実験。そして、己の悲願をなすために暗躍する謎の人物。
幾人もの意図が絡みあいターニングポイントを迎える。
次回、「1-4&俺、方向音痴だからな」デュエルスタンバイ!
……盛大そうに言ってみるだけ言ってみました。