我が手には星遺物(誤字にあらず) 作:僕だ!
切りがいいところが見つからず、結局この作品の最長記録を更新してしまう結果に。
注意!
作品に付いているタグを確認し理解した上で、読み進めてください。
前回に引き続き、視点が何度か変わります。ご了承ください。
「暴走だと……!?」
これまで順調そのものだった完全聖遺物「ネフシュタンの鎧」の起動実験。しかし、突如起こった地響きの後に告げられた「聖遺物が暴走する」という事実に、ライブ会場の下に秘密裏に設けられた実験施設が混乱に満ちた。
そんな中、俺の思考は加速する。
確かに、実験を始めるにあたり、当初の予測とは異なっている部分はあった。思っていた以上にフォニックゲインの高まりが早かったのだ。
その原因はおおよそ見当がついている。ここ最近報告にあった奏のシンフォギア適合指数の上昇だ。大幅なとはいえずむしろわずかな変化だったが、その現象に了子くんも驚いていた。その適合指数の上昇が歌によって発生するフォニックゲインの量にも影響が出てるのではないか――という、仮説だ。
しかしそれでも想定の範囲内に収まるものだったはずだ。それに、今観測された完全聖遺物の極端な数値の変化は、人っ子一人の歌で生みだされるフォニックゲインでどうこうなるものではない。
では、どうしてこんな事態に陥ったのか?
考えられるのは、起動実験に使っている機材の方の異常から連鎖的に起きた事象である可能性。直前のチェックでは何の問題も無かったはずだ。だが、想定外のエラーが起きて……いやまさか、偶然ではなく何者かが意図的に引き起こしたのか? 考えたくはないが、
俺の視界は閃光に包まれ、轟音と衝撃がこの身を襲った。
―――――――――
1曲目だったとは思えないほどの盛り上がりをみせる会場。歓声は地面を奥底から震えあげさせるほど。
そして、その会場の熱気に負けないくらいの熱量が、奏やその隣にいる翼の内から湧きあがってきている。
さあ、この熱が逃げてしまう前に2曲目の「ORBITAL BEAT」へと――「ツヴァイウィング」がいこうとしたその時、地面が本当に揺れ動いた。
ライブ会場にいる誰もが動きを止め「何事か?」「地震か?」と状況を把握しようとする中――――その思考がまとまる前に、まるで畳みかけるかのように新たな異常が発生した。
ライブ会場の中央付近が突如爆発し、炎と黒煙が吹きあがったのだ。
呆然とした沈黙が、悲鳴によって塗り替えられる。
それだけでは終わらない。
ライブ会場の状況はそこからまた一転する。
ソレに気付いた奏と翼は大きく目を見開き、同様に気付いた一部の観客たちは恐怖に顔を歪める。
どこからか湧き出してくる異形の
――――ノイズだ!!
誰が叫んだか、その声を皮切りに会場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化すライブ会場。
ただただ人間を狙い迫っていくノイズ。逃げ惑う人々。地上から、上空から襲いかかってくるノイズによって、他人が次々に炭素へと変えられて崩れ去っていく。
その現実が人々の恐怖心に拍車をかけ、誰もが悲鳴をあげ、抗いようの無い脅威から逃れようと我先にと出入り口へと殺到する。その目には周りの人たちのことなどマトモに映ってなどいない。
そんな周囲の人間の様子を確認してかせずにか、真っ先に行動を起こした人物が2人。
他でもない「ツヴァイウィング」の2人。対ノイズ組織である特異災害対策機動部二課、通称・
「Croitzal ronzell gungnir zizzl」
「Imyuteus amenohabakiri tron」
ふたりは聖詠*1を歌い、その身にシンフォギアを纏い――ノイズの大群へと向かって身を躍りだした。
―――――――――
「「
あたしと翼の口から出ていた言葉は、会場のどこかにいるはずのあたしたちが招待した葵の名前だった。
「邪魔だぁーっ!!」
纏ったシンフォギア「ガングニール」。その両腕に装着されていたガントレットが合わさり変形した
「退きなさい!」
翼も、その身に纏う「
シンフォギアが持つ能力によって「調律」されたノイズはお得意の「位相差障壁」で攻撃を受け流すことが出来なくなる。そうしてあたしたちの攻撃によって破壊されたノイズは時間によって自壊する時と同じく、その身体を炭素へと変えて崩れていく。
「翼っ!」
ひとっ跳びですぐそばまで寄り、背中合わせに立ち構える。
そうして背後にいる翼へ向けて声をかけた。
「爆発した下がどうなってるかもわかんねぇし、判断を仰いでるヒマも無い。今は全力でノイズ共を全部潰すことだけ考えるぞ!」
「ええ。心配だけど、葵を探すのはその後ね」
「こいつらがいたら、結局葵も危ねぇからな!」
葵は希少な完全聖遺物を持っている。けどそれは決して対ノイズ用のものではない。ノイズ相手に戦い打ち勝つどころか、自分の身を守ることすら危ういレベルだ。
そんなノイズを倒せるのは、他でもないあたしたちシンフォギア装者だけだ。
これ以上の言葉はいらない。あたしと翼は合図を送ることもなくノイズの密集している方へと同時に踏み出す。
「「はあぁぁーーーーっ!!」」
一発目を叩き込みそのまま歌う。胸の奥底から浮かんでくる歌詞を自然と紡いでゆくと、不思議と力が湧き身体が軽くなる。振るう槍の一撃一撃の威力が上がり動きも洗練されていく。
ちゃんと避難できてる奴が何人いるだろうか?
その中に葵はいるだろうか?
あたしは知っている。
大雑把な表現にはなるが、葵は歳の割には頭がいい。家事にしろ何にしろ、一度教えれば大抵覚えるし、一度失敗したことは二度と失敗しない。同様に観察力や判断力も高いから、とっさの事態にも対応が出来る。
その強みがわかりやすく表に出たのは、このあいだノイズが発生した時――後に、葵を知るためにも記録を確認したんだけど――良くも悪くも偶然が重なりながら、とっさの判断や行動によって多数のノイズから逃げ続けることが出来ていた。
そしてあの時、同時に葵の強さ以外にも
葵は優しい。逃げている最中に会った女の子、葵は一度握ったその子の手を離そうとはしなかった。例え、女の子がその場から動こうとせずとも、自分よりも足が遅く逃げる速度が落ちてしまおうとも、手を離したほうが生き残れる確率が上がるとしても、葵が女の子のことを見捨てようとしたことは決してなかった。
あたしは葵がそう強くも優しくあることを嬉しく思いつつも、心配でならなかった。
ノイズにまた襲われた時があったとして――今まさにこの
「周りを見捨てろ」なんてことは言いたくないし、葵には誰にでも優しいその心のままでいてほしいとも思う。だけど、だからこそ逃げて生きてくれと願ってしまう。
くそっ! 頭から離れてくれやしねぇ!!
翼と話したように、あたしだって
ああ、この
けど、それだけじゃない。もう二度と大切な人を失わないためのチカラであり、あたしのような思いをする奴がいなくなるよう一人でも多くの命を救うためのチカラでもあるんだ。ただでさえ自分の身を削るなんていう親不孝なことして……こんなところで迷ってちゃあ、葵にも、
どこから聞こえてきたのか、確かめる間も無く――動かした視線の端に、崩れていく二階席の一部が映った。
「きゃぁーっ!?」
悲鳴が聞こえた。崩れ落ちていく二階席の瓦礫に交じって逃げ遅れたのか、隠れていたのか一人の13、4歳くらいの女の子が落下しているのが見えた。
そして、それに気づいたのはあたしだけじゃなかった。
悲鳴からか別の何かなのか……とにかく女の子に気付いた人型ノイズの数体が、女の子の落下した地点へと向かって動きだしたのだ。その行動は、間違い無く女の子を
それを見過ごせるあたしでは無い。
「このくそっ!」
翼から距離が離れてしまうが、どうこう言ってられる状況じゃない。
つられてついて来ようとする数体を流れるように叩きのめし、女の子のほうへと全速力で向かう。
見れば、恐怖に震える女の子へと、ノイズが形状変化して弾丸のごとく――いや、大きさ的には砲弾か――飛びかかっていく、ちょうどその時だった。
女の子と襲い来るノイズとの間になんとか割って入れたあたしは、前に構えた槍を高速回転させることで飛びかかってきたノイズを弾き飛ばすと同時に大きな損傷を与え炭素へと還していく。
「駆け出せ!!」
少し振り返りながら背中ごしに言葉を投げかけ逃げるように促すと、女の子は小さく頷き走り出そうとする――が、どうにも速さが走るという表現が合わないくらいに遅い。横目で確認してみれば、女の子の表情は歪んでいて、まるで片足を庇うようにしてなんとか足を動かしているようだった。
そうかっ! さっき落ちた時にあの子は足を負傷してしまったんだ! ただ単にくじいただけなのか、それとも骨にまで異常が出ているのかはわからないが、歩くだけでも精一杯なんだろう。
けど、それじゃあノイズから逃げきるなんて無理な話だ。
……いや、今回のノイズの発生がすでに打ち止めなのはわかっている。数はそれでも山ほどいはするが、厄介な飛行型ノイズの姿はもうない。地上戦力のみなら、あたしたちで引き付けつつ追わせないように立ち回れば、女の子の一人や二人逃がせないことは無いはずだ。
と、巨大なイモムシに角と口がついたような大型ノイズが一体迫ってきた。
一度息を吸うような動作をしてから、その口から緑色の液体のようなものをあたしたちの方へと大量に吹きかけてきた。噴出してきたソレは時に小型ノイズをそこから生み出すこともある正にノイズの身体そのものといったモノであり、当然のように人を炭素化させる性質を持っている。
そんなモノを吹きかけられちゃあひとたまりも無い。あたしはさっきノイズを弾き飛ばした時と同様に槍を高速回転させて緑色の液体のようなものを弾き飛ばして、あたし自身やその後方の避難しようとしている女の子の身を護った。
そして、攻撃が少しでも緩んだ瞬間が反撃のチャンス。そこから一気に攻勢に移る。
「奏! ……くっ!?」
離れた所から翼の声が聞こえてきた。離れてしまったせいか、さっきまでよりも押されているみたいだ。
くそっ、手を貸したいけどそうも言ってられない。逃げるのに時間がかかりそうな後ろの女の子のこともある――が、同型の大型ノイズがもう一体こっちに来たというのもある。翼の方へ行かなかった事を喜ぶべきか、コッチに来たことを悲しむべきか……そんな感想は倒してしまった後でいいっ!
もしも、この大型ノイズがもう一体と同じように緑のを噴きかけてきたとして、あたしはそれを防ぎきれるだろうか? ――いや、防ぐんだ。
歌っていた歌こそ途切れてしまいギアの出力が下がったけど、あたしはまだまだ戦えるっ、もう1体デカブツが増えようが、あたしは後にいる女の子を守り切ってやる! 一人でも多くの命を救ってやる!!
二体目の大型ノイズが息を吸うかのように上体を反らし、噴き出す体勢へと入って――――
――――は?
崩れたところとは別の二階席から、青く長い髪をなびかせて躍り出たのは――
二体目の大型ノイズにむかって、
「「葵っ!?」」
あたしと、遠くにいる翼との声が重なった――――
―――――――――
時間は少し遡る……
―――――――――
ようやく、たどり着いた! カナデとツバサの……「ツヴァイウィング」のライブ会場に!!
ドーム状の建物は破壊の痕がみられ、所々から黒煙が上がっている。
見れば、真正面の出入り口……そこの瓦礫や
しかし、なんということだ。
「
「ノイズ」だ。
今、目に見える範囲にはいないようだが、あの
ただの爆発事故レベルなら直撃さえしてなければ大丈夫だろうと思っていた。それに裏方としてマネージャーである
ワタシとあの女の子は小柄だから2人まとめて抱えあげることはできただろう。しかし、いくらシンジさんといえど、カナデとツバサを連れてノイズから逃げ出すことが果たしてできるだろうか?
そこにワタシが行く……あの、ノイズに対して何もできずに必死こいて逃げ回ってただけのワタシが。果たして、それが何になるのだろうか?
いや、
ワタシは再び走り出す。今度はドームの外周を回るようにして。
助走があればこのドームの屋根の上まで跳べるんじゃないだろうかとも考えはしたが、それはいくらなんでも厳しいだろうって判断に。結果、搬入口や売店なんかの裏口を探しそこから侵入してみることに……。
――――!!
突如、ワタシの目の前にあった外壁の一部が小さな爆発を伴って崩れ落ちた。
巻き上がった砂煙によって見え辛くはあるが……部屋? いや、その部屋の壁にも穴が空いていてその先に通路が続いているのが見えた。原因は不明だが、どうやら外壁一枚だけでなく真っ直ぐに穴が空いたようだ。
不可解である……が、奥から必死の形相で逃げてくる十数人ほどの人が見えてきたから、おそらくはこの人たちの誰かもしくは複数人が何らかの方法で瓦礫その他諸々に埋もれかかった出入り口とは別に外への道を力づくで
が、正直に言って今はそんなことどうだっていい。
とにかくカナデとツバサだ。ワタシは我先にと外へと出てくる人々の間をすり抜けるようにしてライブ会場の建物へと入っていった。
ああ……通路に複数個所、黒い塵が固まっている場所がある。外で見たよりも数が少なく感じるのは、きっと施設内に侵入してきたノイズの数が少なかったからだろう。代わりにと言ってはなんだが、外に比べ風が無いから人の形がはっきりとわかりやすい……。
違うはずだ。これらはカナデやツバサではない。
爆発およびノイズの襲撃があった時、何をしていたかは知らないから断言はできないが、彼女たちがいるとすればバックヤードかそれこそステージ上かだ。
どちらにせよ、この建物の構造をよく知らないワタシにはまず中央にあるであろうライブステージへと向かうのが単純明快な行動方針となるだろう。
走る、走る、走る。
黒い塵が所々に積もった階段を駆け上がった先には、夕焼けへと染められていく空とそこに舞う黒い塵。
視線を少し下へとずらせば、体色は違えども見覚えのある形をした
それら人物が誰かなど見定めるヒマも惜しく、走ってきた勢いのまま客席から飛び出す――――その先には、人を襲おうとしているもう一体の大きな
空中で、ワタシに
「ノイズ」は、共通効果として「攻撃対象にならない」、そして「戦闘を行う時、自身と相手を破壊or墓地送り」または「攻撃した時、自身と相手を破壊or墓地送り」という
前者に対しての対策は現時点では無い。だから、この捨て身の突進も無意味だろう。
しかし、後者は何とかできるかもしれない。問題は条件を満たせているかどうか……そして、満たせているのであれば、倒すことは出来ずともワタシ自身を肉壁とすることであの
そう。それは《
イメージするんだ、チカラを得たあの姿を。あの《星遺物―『星杯』》の鈍い色の光沢を持つ外殻と、同色の鎧を纏った《
そう、ワタシは――――《
「『かっとビングだ!』」
「「葵っ!?」」
聞き慣れた声がふたり分耳に入る。
勢いに乗ったまま、大きく振りかぶった「鍵杖」を叩きつける。
その一撃は――――確かに、大型
~!?
一発で倒しきることは出来なかったようだが、大きく抉り損傷を負わせることが出来た。大型
と、そんなこと考えている場合じゃない。殴り飛ばせたことで先に倒れた大型
するとどうだろう。側頭部を損傷していた大型
巻き込まれて倒れたもう一体のほうの大型
そこには二人いて、そろって目をまん丸に見開いている。
ひとりは
ななな、なっ! 何だぁあの子はっ!? 見た瞬間に背中にゾゾゾォッ!と悪寒が駆け上がったぞ!! なんでだよぅ!?
なんでそんな意味不明な子と一緒にいるのさ、カナ……でぇ?
カナデ? その手に持ってるのは?
「剣」? 「ス●カバー」?
にしては、
うーん、なんだろう? いや、知ってる気がするぞーあの形は。
そうだね、「
ははははっ、カナデが「槍」持ってるぞ?
「槍」だよ、「槍」。
家族大好き暗い過去持ち姉が、シスコンが「槍」を持っちゃってるよ。
槍のおねえさんだね!
あーっはっはっはっはー!!
性別以外アウトじゃないかーっ!?
タスケテ!
ツバサー! ツバサー!!
どこだー!? どこにいるー!?
ワタシは知っているぞ! いるんだろう、どこかに!?
さっき声聞こえたんだもん!! 聞いたんだもん!!
……ああっ!? 人型とかまん丸ノイズたちに囲まれてる!?
ひとりで刀持って戦ってるぞ!?
何でそんなところにいるんだよ!?
今行くぞ!
―――――――――
大型ノイズを
「『みんなまとめてやっつけてやる!』」*7
そんな事を言って、ノイズの群れへと突進していく葵。
なんで、
いや、そこじゃあない。
葵が、喋ったんだ。
ああ、葵は踏み出したんだ、一歩前へ。実際にというわけではない、精神的にだ。
何がきっかけだったかは分からない。あたしたちのライブが歌が……だったら、嬉しいな……。
杖を振るってノイズを殴り倒していく葵が、声を上げて戦う姿が、それが嬉しくもあり、頼もしくもあり……寂しくもある。
そう、あたしは――――
――――葵に、気を取られすぎていた。
ーー!!
衝撃。
吹き飛ばされた。
とっさに受け身を取ろうとしたが上手くいかず、十数メートル地面を転がり最終的には壁か瓦礫かにぶつかって止まった。
どこもかしこも痛む身体。揺れる視界と、少し朦朧とする意識。
視線の先には、先にあたしらに攻撃してきていた方の――巻き込まれて倒れていただけで、炭素へと還っていなかった大型ノイズがいた。起き上がりと共にその太い首を振るってあたしを横薙ぎにし吹き飛ばして……?
「ひぃぁ……!!」
女の子の小さな悲鳴が聞こえた。
ぶっ倒れたあたしにはもう見向きもせずに、大型ノイズがあの女の子の方を向いたのか……。
「なに、やってんだ……あたしはぁあっ!!」
軋む身体に鞭打って跳びだし大型ノイズへと飛びかかり、槍をふるった。
女の子に向けられていた大型ノイズの頭をよそへとはじき飛ばす。……逆に言えば、倒すには至らない程度のダメージしか与えられていない。
のけぞった大型ノイズが、その体勢から流れるように再びあの緑の液体を噴き出してくる!
女の子と大型ノイズとの間に立ち、槍を回転させてはじき飛ばす――
「ぐぅううー!!」
――けど、
さっきの……葵が乱入する前と同じ、一体だけからの攻撃であるにもかかわらず、あたしはその攻撃を防ぎきれそうにない!
なんでだよっ! 歌を歌わな過ぎたか!? ダメージを受け過ぎたか!? いや、もっと単純に、
槍にヒビが入り、シンフォギアの一部が砕け散り、身体中にさらなる痛みが走った。
けど、退くわけにはいかなかった。倒れるわけにはいかなかった。なぜならあたしの後ろには――
「ぇ……」
――小さな声だった。けど、あたしには何故か嫌なほどはっきりと聞こえた。
つられて振り返れば、胸元から
ノイズの攻撃によってただの人間が血を流すことはない。なら、アレは……?
わかってしまう。他でもない、自分がよく知っているものだったから……今、この時にあの女の子の胸にぶっ刺さるモノなんて限られてるんだ。なら、間違い無く、さっき飛び散ってしまったあたしのシンフォギア「ガングニール」の砕けた破片だ。
そう、あたしのシンフォギアが、あたしの失態で――――
「あぁああぁぁーーーーっ!!」
大型ノイズの噴きかけてくる攻撃が自身に当たるのも構わず、強引にその中を進む捨て身の一撃で大型ノイズを葬ってみせる。ただでさえあちこち痛んでいた身体だったが、そこにさらにいくつもの傷を受けることになった……が、そんなことはどうでもよかった。
あたしは後で胸元から血を流し瓦礫に倒れかかっている女の子へと駆け寄り肩を掴む。
「おいっ、死ぬな! 目を開けてくれ!」
うっすらとしか開かれていない瞼の奥の瞳には、生気が感じられない。
痛みか、恐怖心か……もっと別の何かか。この栗毛色の髪の女の子から、生きようとする気力というものが薄れているのがわかった。
「生きるのを諦めるな!!」
その言葉が伝わったのかどうかはさだかじゃあないが、瞼が動いた。口も少しとはいえパクパクとゆっくり動いた。
息は……何とかしているみたいだ。だが、それだけだ。気持ちだけでなく、生命維持に必要な処置も施さなければいけない。そのためには、当然ノイズが邪魔だ。
「……悪い。あたしはいつだって気持ちばっかり先走って肝心なところで空回りしやがる。薬頼りのシンフォギア装者の半端者。復讐も、人助けも、ついでに姉代わりとしても半端にしかできなかった……」
会場を見渡す。
離れた所には、囲まれながらも「
けど、ふたりのその状況が著しいものかと言えばそうでもない。特に葵の方は、はたから見ればすぐわかるが戦い慣れしてない。一体ずつ着実に倒しているようだけど、むしろ良くここまでもっていると思えるくらいだ。
そして、包囲している連中とは別に、あたしたちの方へと向かってくるノイズも2,30体いる……か。
「けど、それでもやることには筋を通す。意地でも、何が何でも……お前を、翼を、葵を……みんなを守るためなら! 全力全開で思いっきり歌ってやるよ、あたしの命……全部乗せの歌を!!」
そうだ。半端者のあたしでも自分の全部を賭ければ、みんなの未来への道を
シンフォギア装者への
歌を聞いてくれるのは山ほど。けれど、憶えていてくれるのは
生き残るのは翼、葵、そして名前も聞けていないファンの女の子。……あたしの歌を、生きていた証を憶えていてくれる人が、最後の最後まで3人もいるんだ。あたしには勿体無いくらい上等な舞台だ。もう、この「絶唱」で燃え尽きるとしても、恐れることなんて何も無い……!!
「
そして、最期の歌を紡いだ。
「Gatrandis babel ziggurat edenal―――――」
「いけない、奏!
悪いな、翼。こんなことになっちまって。翼は真面目が過ぎるからな、気を付けなきゃどっかでポッキリ折れちまう……ああ、やっぱりちょっと心配だなぁ。
「『そんなことしちゃいけない!』*8」
葵は優しい子だ。あたしが言わなくてもきっと支えてくれるだろうけど……翼のこと頼んだよ。そして、葵自身の幸せも見つけてほしい……あたしがそうだったように、きっと葵の手をとってくれる温かい奴がいるはずだから。
「うたが……きこえる」
こんな状況でおかしいだろうけど、あたしらのライブに来てくれて、本当にありがとな。……あんたのことはふたりに丸投げすることになっちまうけど、大丈夫だ、絶対助かる。だから……生きてくれっ!
あたしの中の全部が解放され、そのチカラがノイズだけを呑み込んでいくのが……薄れてく感覚の中でわかった――――
「――――!!」
…………曖昧になった聴覚に、小さくだけど、確かに翼の声が聞こえた気がした。
「かなでぇっ!!」
「どこだ、翼。真っ暗でお前の顔も見えやしない」
声は聞こえた。けど、瞼は開いてるはずなのにそこには翼も、何も見えない。
薄れてる身体の感覚が、誰かが倒れてたあたしの肩を抱いて上体を起こさせたのがわかった。……ああ、この温かい手は翼の手だ。間違い無い……装者になるために血反吐を吐いていたあたしの手を何度も握ってくれていたあの手だ。
「……悪いな、もう一緒に歌えないみたいだ」
「どうして、どうしてそんな事言うの? 奏はいじわるだ」
どうして、か……わかるんだ。いろいろ
けれど、なんの偶然か残されたこの時間、あたしは見えないがそばにいる翼に力の限り笑いかける。
「だったら翼は、泣き虫で弱虫だ……葵よりも、よっぽど子供っぽいな」
「それでもかまわない。だから、ずっと一緒に歌って欲しい」
……ああ、わかる。あたしだって未練が全く無いといえない。翼のことも、それこそ葵のことも。
けど、どこかで満足しきっているあたしもいるんだ。
「翼、勝手で悪いけど……葵の事、頼んでいい…………」
「えっ……かな、で……?」
―――――――――
気付けば、目の前にいたノイズたちは全部消滅していた。
状況を理解できず何事かと首をかしげていたが、駆けて行くツバサに気付いてワタシもとりあえずついて行った。
カナデだった。
目から、口から、体のあちこちから血をダラダラと流しているカナデが、力無くツバサの腕に抱かれていた。
目は開かれてはいるが、どこか淀んでいて焦点があっているようには見えない。
口は動きツバサと話をしているが、その声にはいつもの軽快さが影も形も無い。
ノイズには、勝ったのか? 負けたのか?
いや、そこは間違い無く勝ったんだろう。もうノイズは一体もいないのだから。
だがそのかわりに、幾人もが黒い塵となり、カナデが相打ちか何かで破壊されるんだろう。ただ、それだけ――――
――――カナデが
ああ、そうだ。
この建物の入り口に瓦礫と供にあった
黒い塵に変えられ、破壊されたんだ。
血を流して、死んだんだ。
黒い塵に変えられて、破壊されるんだ。
血を流して、死ぬんだ。
攻撃されて、破壊されるんだ。
攻撃されて、死ぬんだ。
《
カナデは死――イヤだ。
《
カナデは「シスコン」気味で「槍」持ってて強くて……「兄」ではなく「姉」。リーチだ。《星杯に誘われし者》に最も近い存在と言っても過言ではないだろう。
ああ、なんと恐ろしい。そんな存在のせいであんな過酷な運命に巻き込まれたくなどない。ワタシには無理だ。
でも、
いちいち構ってくるところも、ちょっとしたことでも本気で心配してくれるところも、オシャレさせようとしてくるところも、喜ばせようとおやつやデザートを作ってくれるところも、風呂には極力一緒に入ろうとするところも、
だから、イヤなんだ。
だから、死んでほしくないんだ。
だから、泣いてしまうんだ。
だから、視界がぼやけるんだ。
だから――――どうしようもなく、そばにいてほしいんだ。
「『―――――、―――』」
……? ワタシは何をいっ――――
―――――――――
両親の仕事に妹と一緒について行ったあの皆神山の聖遺物発掘現場。
遺跡の中でいきなり現れたノイズに、あたしと妹を真っ先に逃がそうとした両親。
けど妹は逃れきれなくて、あたしだけが生き残った。
独りだった。苦しかった。辛かった。
家族を失ってから、ずっと今の今まで長く続いた――――わけじゃなかった。
情報を手繰り寄せ、「対ノイズ」のチカラを得るために殴り込みのように組織のもとへ行った。自分の身を売り込み実験体まがいに扱わせ、そしてついに「シンフォギア」を纏えるようになり、あたしは家族を奪ったノイズへの復讐に燃えた。
けど、あたしは復讐にどっぷりとつからせては貰えなかった。余計なお世話だと、当時は鬱陶しいと思っていた周囲からのお節介が始まったんだ。
その周りの温もりを、はねのけてしまっていた時期もあった。それでも、あたしなんかに手を差し伸べ続けてくれるもの好きは山ほどいたんだ。
そして、いつの間にかあたしのほうが折れ、そこから遠くない未来……あたしは
「奏っ、目を開けてっ!」
そう、翼もその手を差し伸べ続けてくれた一人。翼がいたからあたしは――――
「どうしてっ! どうしてなのっ!?」
翼がいたから――…………ちょっと揺らし過ぎじゃないか?
「イヤよ、返事をしてかなでぇー!!」
翼……ガクガク揺らされたら――――
「イタイだろ、この馬鹿ぁ! 乱暴に揺するんじゃねぇよ!!」
「かなでっ!!」
「ぐはっ!? 抱きつくな、抱き締めるなぁ~! 痛いって言って……
なんで痛いんだ? さっきまでは体のあちこちの感覚はうっすらとだけだったし、傷や負荷によるダメージなんていっそのこと気持ちいいほど感じられていなかった。
その上、泣きはらしている翼が確かに見えているし、耳のほうも問題無いっぽい。……いったい、どういうことだ?
わっけわかんないけど、とりあえず生きてて声が出せてるんだ。動くのは……やっぱり関節とか筋肉とかどうこう以前に全身どこもかしこもが痛みやがって、まともに力が入らない。これじゃあ、肩を貸してもらわなきゃ立つこともままならなそうだ。
「とにかく、奏は絶対に目を閉じたりしないでね! 下の施設か本部に何とか連絡を取って救助を要請するから! 到着までに私の方で応急処置をして……!」
「いやいや、あたしは……よくわかんないけど、大丈夫だって。だから、あの女の子を先にしてくれ、翼。胸の傷からの出血がヤバいことになるかもしれないし……救助のほうは、こんな大事があったんだからもうすでに向かって来てるだろ、絶対」
そんなことが出来ないほど、無能なやつ揃いじゃないからな
「ええ、そうね、わかったわ。あの子と奏を、ね。……あっ! 葵にも手伝ってもらえば……ちょっと、葵――――――」
翼が固まった。
つられるようにして見たのは、あたしから見て右手方向……瓦礫にもたれかかった女の子がいるのとは反対方向だ。
あたしと翼「ツヴァイウィング」をイメージした巨大な一対の双翼の舞台装置と、そのさらに奥には水平線に沈んでいく夕日――それらを背景に、夕焼けの逆光に照らされた葵がいた。
綺麗だった。夕焼けの逆光の中、青く長い髪をなびかせた葵は――――そう言えたかもしれない。
「あお……い?」
なんでだよ、意味わかんねぇよ。
けど、嫌でもわかってしまった。どうしてそうなるのかという過程はわからなかったけど、原因はそうとしか考えられなかった。
目が見えなくなり、耳も近くでなければ聞こえなくて、身体の感覚も薄く……痛みも無く、死ぬんだと確信できるほどだったあたし。
しかし、何故か目も耳も問題無くなり、身体が痛みを……生命活動の危険をうるさく伝えてくる状態まであたしの身体は
理屈はわからない。けど、わかってしまう、あの逆光の中に見える光を灯さないあの瞳を見ると――アレはつい先程までのあたしと全く同じ症状なのだと。
さっきまでのあたしの症状を、葵が肩代わりしたんだと。
「…………めて…れ……」
葵は、右足が膝下あたりまで、左足にいたっては付け根まで
「……やめ゛てくれぇっ!!」
守りたいものも守れなくて! むしろ守られ生かされてっっ!!
また、残されてー!!
今、あたしが感じているこの激情は、さっきまでの翼と葵の心と同じなんだ。
残されるものの苦痛を自分が一番知ってるつもりのくせに、あたしはその痛みを
「なん……でぇ! だんで――ゴホッ!?」
痛んで声を出すどころか息も難しくなる喉。
軋んでまともに動いてくれやしない身体を引きずり、這ってでも進みながら、あたしは消えていく葵に手を伸ばし続ける。いかせやしない――――けれど、あたしの手はいっこうに届きやしなかった。
「『―――――、―――』」
「えっ……あ」
葵が口を動かし何かを言った……が、もう首元まで光の粒子になってしまっていたためか、声には出しきれなかったようだ。
けど、その口の動きが見えていたあたしには確かに見えた――
――――ねえさん、大好きだ――――
――そう言っていたように、見えたんだ。
最後まで――葵の髪の先から指先まで光になるまで宙に留まっていた――杖が、ゴトリッと地面に落ちた。そして、その杖もまたあたしの目の前で、葵を追うかのように光の粒子になって散っていった…………
そう。もう葵は、あたしを残して、あたしのためにと……ああ…………ああぁ! ああぁあぁぁ!!
「――――――――――――!!!!」
声にならない声を張り上げて、痛む喉が、胸が、身体のあちこちが…………あたしがどうしようもなく生きているんだという事実を、突きつけ続けてきやがった。
―――――――――
「あ…お…い……?」
夕焼けに呑まれるように葵が消えて――――
「かなでぇ……!」
いつの間にか腕の中からいなくなってた奏は、地面に頭を擦り付けるような体勢で這いつくばり、血反吐を吐きながら叫び続けていて――――
「どう、したら……!?」
奏に頼まれた女の子が、胸元の傷から流した血だまりの中で瓦礫にもたれかかったまま――――
「叔父様! 緒川さん……っ!?」
一番初めに爆発し煙をあげた
「誰か……だれかーーーーぁっ!!」
――――私の声に、答えてくれる人は……誰もいなかった。
―――――――――
場所は変わって「特機部二本部」。
その指令室は慌ただしい雰囲気につつまれていた。
当然だろう。聖遺物があるとされる遺跡の襲撃(?)に加えて謎の地震、さらには完全聖遺物の起動実験中に聖遺物の暴走、ノイズの発生……ダメ押しで原因不明の通信障害。
こんな事態に平常運転など不可能だ。
そんな
「新たなエネルギー反応発生!」
「今度は何さ!? まだ、ライブ会場の
「場所は……
まさかの自分たちのいる場所での謎のエネルギー反応に、指令室内が一気にざわつく。
「学院内のカメラで発生地点周辺の確認を行います!」
「この波形パターン、葵ちゃんが発見された時と同じ!? いや、微妙に違う……?」
「映ります!」
優男風のオペレーターが何かに気付くのとほぼ同時に、正面のモニターにリディアン音楽院の何カ所かで撮られたカメラ映像が画面を分割して映し出された。
「「あれは……!?」」
その中の一つの画面に映っていたのは、リディアン音楽院のとある校舎そばの緑の芝生の茂る校庭の一角。
そこで杖を抱くようにして眠る、どこかトラディッショナルなヘソ出し衣装を着た
やった! タグ通りの「原作死亡キャラ生存」だ!
「シリアル」? 色々とおかしいですし、次回からがあれですからねぇ……?
あと、一期が終わるまでにこれ以上に真面目な話は一切無い予定なのでご了承を。
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