デビュー三ヶ月で第八回シンデレラガール総選挙第三位になった夢見りあむの見えづらい点とは。

某ツイートを参考に書かせていただきました。

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同期からしか見えない夢見りあむの異常性

 

 

 自分のりあむサンに対する第一印象は、“メンヘラっぽい変な人”だった。

 

 太ももまである大きなTシャツに肋骨? 背骨? とにかく骨がでかでかとプリントされていて、髪の毛は目立つパステルピンクにインナーカラーもパステルブルー。りあむサンの頭を見るだけで目がチカチカする。

 

 そして初顔合わせの第一声が。

 

 

「ぼ……ぼくは夢見りあむ……。何か……二人とも普通に陽キャっぽい……めっちゃやむ……」

 

 

 一人称がぼく。相対的に陰キャを自称。最後は初対面の相手に“やむ”。

 

 ……どう考えてもヤバいデスよね? 同期とはいえ、一瞬距離を置こうかなって思ってもおかしくないデスよね?

 

 だけど、そうもいかなくなったのはこの後のPサンの言葉のせいだ。

 

 

「お前ら三人は新人ユニットとして売り出そうと思う」

 

 

 ──その時頭を抱えたくなったのは想像に難くないんじゃないカナ。

 

 

 ともかく、これが自分とりあむサンの出会いだ。

 

 

 

 

 

「も……もう無理……やむ……」

「コラ夢見! 休憩中だからって床に寝るな!」

 

 

 レッスンルームの床にぐでっと寝そべるりあむサン。トレーナーさんに怒られてビクッとするケド、チラッと顔色を伺ってまた顔を伏せる。怒られないって思ったのカナ。なんというか、小賢しい。

 

 今日はりあむサンと二人でダンスレッスン。曲はこの346プロで最も有名かつ新人の基礎レッスンに使われる『お願い!シンデレラ』。ボーカルレッスンでも使われるから、もうかれこれ百回は聞いたんじゃないカナ。

 

 

「む、むーりぃー……」

「先輩アイドルの盗んじゃダメでしょ……」

「あきらちゃんにも呆れられた! めっちゃやむ!」

「よし夢見! それだけ元気があれば大丈夫だ! 練習を再開するぞ!」

「えぇぇ!? ぼく死ぬよ!? 死んだらPサマのもとに化けて出るからね!?」

「そこはトレーナーサンじゃないんデスか」

「トレーナーさんは怖いからね! ぼくくらいの幽霊ともなると相手も選ぶんだよ! 怖いからね!!」

「#威張ることじゃ #ない っと……」

 

 

 休憩終わりだっけ。膝に手をついてゆっくり立ち上がる。何かりあむサンのせいでめちゃくちゃ休憩時間が短かった気がするケド、まあまだ余裕もあるしね。もうひと頑張り。

 

 

「うぅ……ぼく本当にやんじゃうよぉ……」

 

 

 なんて言いながら、りあむサンもよろよろと立ち上がる。ザコメンタルとかクズとか自分で言っておきながら、実はこの人案外頑張るんだよね。

 何だかんだレッスンからは逃げないし、聞いた話によると日中自分が学校に行っている間もレッスンを受けているらしい。

 

 

 ……ま、実力は比例してないっぽいケド。

 

 

「夢見! 遅れてるぞ!」

「ひ、ひぃぃ!」

「砂塚はその感じを忘れるな! 本番でもそれが出来たら八十点だ!」

「#あと二十点 #どこ」

 

 

 努力が結果に繋がるかはわからない。ただ自慢するワケじゃないケド、多分自分はりあむサンの半分もレッスンしていない。だと言うのにダンスの上手さは自分の方が上。

 

 こんなことを感じるのは傲慢だろうか。それでも。

 

 

 自分の方が、りあむサンよりアイドルに向いてる。

 

 

 でもだからといって勝ち誇ったりなんかはしない。だって勝ち負けとかどうでも良いし。現代っ子特有のそれってやつカナ。

 

 あ、りあむサンまたダンス遅れた。

 

 

「夢見ぃ!!!」

「うわぁんやむぅぅぅ!!!」

 

 

 ……まあ指摘されたら直るし、致命的ってワケではなさそうだけど。

 

 

 

 

 

「りあむサンは何でアイドルになろうと思ったんデスか?」

 

 

 ある日の午後のレッスンが終わった夕方。自分は前から気になっていたことをりあむサンに訊いていた。

 

 

「え? アイドルやめろってこと?」

「誰もそんなこと言ってませんよ」

 

 

 この人は受け取り方が一々ネガティブに振り切れてるなぁ……。どんな環境で育ったらこうなるのやら。

 

 

「何で……何で……、Pサマにスカウトされたから……?」

「何で自分のことなのに疑問形なんデスか……」

「だ、だってちゃんと考えてなかったし……。人生詰んでるから最後の希望、誰かに初めて認めてもらえたから、後は……」

「後は?」

 

 

 りあむサンは一本二本と指を折り、うーんと唸る。何か言いにくいことなのカナ。

 

 

「アイドルってさ、尊いの」

「よく言いますね。誰々チャン尊いーって」

「そう! そうなんだよ! ぼくもそれになりたい!」

「うわっ、近」

 

 

 顔をパッと輝かせて自分へ詰め寄る。キラキラと光る瞳は早く語らせてとお願いしてるようだった。

 

 

「あのね! アイドルは凄いんだよ!」

「は、はい」

「現地のライブはこう、心臓にぎゅんって来てね! ぼくみたいに胸がデカくても感じるんだから、あんまり胸がデカくないあきらちゃんはもっと感じると思うよ!」

「胸の大きさは関係ないデショ……」

 

 

 まあアイドルのライブなんて行ったことないからわからないケド。でもやっぱり一度は行っておかなきゃダメだよね。自分もアイドルなワケだし。

 

 

「あきらちゃんは?」

「自分デスか」

「あ、えと、答えたくなかったらごめん……」

 

 

 ちょっと聞き返しただけなのにすぐへこんじゃって……。りあむサンは俯いてあらぬ方向を沈んだ顔で見ていた。

 

 

「自分は特に。アイドルになりたかったワケでもなければ興味もなかったデス」

「あ、そ、そうなんだ。何かごめん……」

 

 

 どちらかと言うとこっちのセリフなんだけどな、それ。自分からしてみれば真剣にやってる人に対して失礼だと思うし。

 

 

「だからデスかね」

「? 何が?」

「自分はりあむサンほど頑張れなくて」

「何それ嫌味!? やむ! ぼくやむ時は早いからね!?」

「……なんて言いつつ、自分もトレーナーさんには良くて八十点しか付けてもらえませんケド」

「ぼくなんてお情けで六十点が関の山だよぅ……、しかもお情け分が二十点もあるのに……」

 

 

 りあむサンにあげるお情けと自分に足りない残りの点数。どっちも丁度二十点だ。何か関係してるのカナ。そんな気がしてならない。

 

 

「……ぼくもせめて人並みにはならなきゃ。あっ調子乗った、クズは脱却しなきゃ……」

「誰もそんなところツッコミませんよ」

 

 

 マイナス発言が目立つせいで、というか語弊生みまくりな言い方のせいで同じアイドルにまで勘違いされてるケド。

 多分彼女は現状誰よりも頑張ってる。仕事がなくてレッスンしかすることがない、って言われたらそれまでだけど。

 

 さて、今日のレッスンは終わったしそろそろ帰ろうかな。のそりと立ち上がってレッスンルームを出ようとする。

 

 

 〜♪

 

 

 突然レッスンルームに流れ出すイントロ。振り返ると、いつの間にかりあむサンはまた『お願い!シンデレラ』を流して鏡の前に立っていた。

 

 

「帰らないんデス?」

「ぼくみたいなクズはやらなきゃ捨てられるからね! ザコメンタルでもやるか捨てられるかだったらやる方を取るんだよ!」

「……自分は帰りますからね?」

「え、あとちょっとだけ話し相手になってほしい……」

 

 

 ダンスの振り付けを確認しながら、りあむサンは自分をチラ見する。あ、ほらそんなことするからまたワンテンポ遅れた。

 

 

「……三十分だけデスよ」

「ありがと! あきらちゃんすこ! めちゃ推し!」

 

 

 全くりあむサンは……。ちょっと見直すとすぐこれなんだから。

 さっきまでいた場所にもう一度戻り、自分はりあむサンを眺めていた。

 

 

 

 

 

 自分とりあむサンとあかり。この三人だとあかりが一歩リードしてる。なぜなら既に一つテレビの仕事をもらっているから。あかり可愛いしね。“んご”はどうかと思うケド……、それも彼女の天然さをアピールするには良い材料だ。同業者や世の中の人達もそう考えてると思う。

 

 

 ──だけど、その下馬評は一瞬にして覆った。

 

 

 第八回シンデレラガール総選挙。その中間結果が発表された。予想通り本田未央サンが一位で、次点に北条加蓮サンが並ぶ。ここまでは納得の順位。ケド。

 

 

 三位、夢見りあむ。

 

 

 まさかの大躍進。スタートダッシュにしては上手く行き過ぎなレベル。いやそんな言葉で表していいものなのカナ。聞くところによると既に百万票も獲得しているらしい。

 

 

「やむやむやむぅぅぅ!!! めっちゃやむ! バカじゃないのオタクども!」

「りあむサン、ちょっと落ち着いて」

「だってぼくが三位だよ!? 二百人弱居て三位だよ!?」

「十分凄いと思いますケド……」

「凄くないの! ぼくなんかが三位とか見る目なさすぎだろ! 乳か! そんなに巨乳が好きかオタクども!」

 

 

 事務所で暴れ回るりあむサン。幸い自分の他には誰もいないから角は立たないケド……。

 

 

「だって三位だよ!? Pサマ言ってたけど百万票も入ってるらしいからね!? ……あれ? ぼく三位? うへ、うへへ……ってああ違う! 嬉しいけどそうじゃなくて! うわぁん! やむ!」

「怒ったり笑ったり泣いたり忙しい人デスね……」

「お願いあきらちゃんだけはぼくを見捨てないで! 呆れないで!」

 

 

 そう思ったら呆れられない態度を取れば良いのに……自由な人だなぁ。今度は自分の前で膝をついて服にしがみつく。

 

 

「ちょ、重い重い」

「重くないよ!? 仮に重いとしてもそれは乳だから! 太ってはないから!」

「そう言えばりあむサン、スリーサイズめちゃくちゃでしたよね。上からでっかい、ふつう、たぶんふつう……。もしかして太さを隠すために……」

「ちーがーうー! 胸は覚えてるの! 胸は九十五! くらい!」

「わかった、わかりましたから」

 

 

 ぐいーっとりあむサンを引き剥がす。あう、なんて言いながらぺたりと床に転がった。

 

 

 でも実際、何でりあむサンが三位に選ばれたんだろう。

 

 

 自分とあかりとりあむサンで行ったライブはたったの一回。新人としての紹介PVはホームページとか動画サイトに上がってるケド、それも大した宣伝にはならない。

 

 

「何かあきらちゃんがぼくに厳しいこと考えてる気がする!!!」

「考えてませんよ」

 

 

 鋭いなこの人。顔に出てたのカナ。

 ……あとはあれか。ライブの時に炎上しそうな発言をしたこと。あの時もう決めゼリフみたいになってる『オタクどもチョロいな!』を観客の前で言ってたんだよね。案の定炎上したし。

 

 

 え、でもそれで? むしろマイナスじゃないの?

 

 

「うぇぇ……もうぼくやだよぉ……。古参のファンから目の敵にされて死ぬんだ……やむ……」

 

 

 残る理由は愉快犯的犯行……ですケド。

 

 

 たったそれだけで百万票も集まる?

 

 

 どうも違和感が拭いきれない。素直に凄いと思う反面、元見る側だったりあむサンならではのアイドルとして成功する裏技的な方法があるんじゃないかと、穿った目で見てしまう。あわよくば教えて欲しいケド。

 

 

「イミワカンナイ……」

「また人のを……。ほら、元気出してください」

「あきらちゃぁん……すこぉ……」

 

 

 頭を撫でてあげると涙目でしがみついてくるりあむサン。この人本当に歳上デスか……。

 

 

 

 

 

 ──そして一ヶ月後、りあむサンはいつまで経っても事務所に来なかった。

 

 

 

 

 

「あきら! お前はりあむの家に行ってくれ! 俺はアイツが行きそうなところを回ってくる! あかりはりあむが遅刻しているだけの可能性を考えてここに残っておいてくれ!」

「わ、わかりました!」

 

 

 あかりは素早く反応し、自分の返事は待たずに事務所を飛び出すPサン。

 

 今日は第八回シンデレラガール総選挙の結果発表日。十二時には事務所に来ておけとの連絡が入っていた。言われた通り自分とあかりは事務所で待っていたケド、肝心のりあむサンが一時間経った午後一時になっても姿を見せない。

 中間発表では三位に選ばれたことに不満たらたらだったので、そのメンタルケアをしようって話だと思う。自分から見てもあのりあむサンはいつも以上に異常だったし。

 

 

「じゃああかり、自分も行ってくるね」

「き、気をつけるんご! あっ、気をつけてね!」

 

 

 会釈をして事務所を出ていく。りあむサンの家までは歩いて大体十五分。柄にもなく走ってそこへ向かった。

 

 

 考えたくもない可能性。自分がいるから他のアイドル達の順位が一つ下がる。メンヘラ臭いあの人なら有り得る。

 

 

「……ように見せかけてりあむサン、意外と鋼メンタルだけど」

 

 

 走りながら愚痴のような独り言を呟く。結局そういう人だ。何も心配する必要なんてない。

 

 

 走ること七分程。ぜえぜえと息を切らしながら、夢見の表札がかけられたアパートの一室の前に立った。

 インターホンを鳴らす。安っぽい電子音のピンポンが響くが、返事はない。

 

 

「りあむサン? いますか?」

 

 

 返ってくる声はない。

 

 

「りーあーむーサーン」

 

 

 今度はドンドンと強めのノックをしながら呼び掛ける。だがやはり応答はない。

 

 ダメもとでドアノブに手を掛ける。

 

 ガチャリ。

 

 何の手応えも無くドアが開く。

 

 

「……不用心デスね」

 

 

 これだと不法侵入だな、なんて考えながら部屋にあがらせてもらう。何かが燃えているような、そういう異臭は特にないのでひとまず重荷の一つを下ろす。一酸化炭素中毒が麻酔作用もあって一番楽に死ねるらしいデスからね。不謹慎だけどあの人が選ぶ自殺方法としたら真っ先にそれが浮かぶ。

 

 

「りあむサーン……?」

 

 

 この部屋はワンルームだからすぐに人がいるか確認出来る。廊下を抜け、見渡してみるが中には誰もいなかった。荒らされた様子がないのはせめてもの救いか。

 とりあえずPサンに鍵は開きっぱなしだったケド部屋にはいなかったとメッセージで伝え、りあむサンの家を出る。

 

 

 部屋にも居ない。外はPサンが探している。じゃあ残る選択肢は。

 

 

「……灯台もと暗しってやつデスか」

 

 

 自分はもう一度来た道を駆け出した。

 

 

 

 

 

 レッスンルームの外からでも『お願い!シンデレラ』の流れる音がする。ふう、と軽く息をついてドアを開けた。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 中には一心不乱に踊り続けるりあむサン。肉眼でわかるほどの床に落ちた汗の量は、一体何時間ここに居たのか想像すらさせない。

 

 

「りあむサン」

「っっっ!?!? うわぁ!?」

 

 

 自分に気付いてなかったのか、りあむサンは声にびっくりしてズデン! と汗で足を滑らせた。倒れた身体をぷるぷるとさせながら自分へ視線を向ける。

 

 

「あ……あきらちゃん?」

「それ以外に誰に見えるんデスか」

「へ、へへ……その、ごめんね? どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、りあむサンを探してたんデスよ。……そうだ、Pサンに連絡しなきゃ」

 

 

 りあむサン捕捉、レッスンルームにて、と。これで大丈夫カナ。

 

 

「……はぁ、とりあえず言い訳から聞きます。何で今日十二時に事務所来なかったんデスか?」

「へ? 今日そんな予定あったっけ……? ぼくそれ知らない……」

「え、でも昨日グループチャットに送信されてますケド……って、りあむさん既読付けてないし。そういうことデスか」

 

 

 つまりここに来るまでスマホを見ずにずっと自主練してたってことか。スマホを見ないって半ばSNS中毒のりあむサンにしては珍しいな。

 

 

 ……いや、本当に珍しすぎない? あのりあむサンが? 昨日の夜からずっとスマホを触らずに?

 

 

「あれ、ぼく夜ご飯食べたっけ。今何時?」

「は? 夜ご飯?」

「ぼく昼の三時くらいからずっと踊ってたんだよ。もうバテバテのバテだよ。中間三位だからそうも言ってられないけど……まあ落ちてるはず……でもそれもやむ……」

「三時? 今は一時デスよ?」

「あれ? いやでもぼくガチャ更新確認してから始めたし多分あってると思う……」

「……りあむサン、今日は何日デスか?」

 

 

 大量の汗。りあむサンが長時間スマホを見ない。噛み合わない時間。

 

 

 もしかして、りあむサンは──

 

 

 

 

 

「五月十九日でしょ? 良いよ言わなくてもわかってるってばぁ! 明日が総選挙の結果発表ってことは! やむやむやむ! オタクどもめ、ぼくに投票してたらヌッコロシてやる!」

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

「今日は二十日デスよ」

「え、嘘!? じゃあもう結果出てるってこと!? あ、結果知ってても言わなくて良いからね!」

「はい。りあむサンは三位ですよ」

「言わないでって言ったじゃんばかぁぁぁ!!!!! ていうかオタクどもがバカだよ! なんだよぼくが三位って! ぼく頑張ったか!? 結局努力なんてムダじゃん! ムダムダの無じゃん! ……あいたぁ!」

 

 

 前のめりになりすぎてまた汗で転ぶりあむサン。ゴン、と後頭部をぶつけてしきりにさすってる。

 

 

「うぅ……汗までぼくの敵……やむ……」

「あの、りあむサン。お腹空かないんデスか? あと筋肉痛」

「え? 筋肉痛は大丈夫だけど……あっお腹空いた! 凄い何これめちゃくちゃお腹空いてる! ちょっと怖い!」

「……筋肉痛がないだけでも化け物デスね」

 

 

 口振りからして十五時から十三時。都合二十二時間。しかもノンストップ。

 

 

 

 一体どの口が、努力してないなんて言うんデスか。

 

 

 

「ねぇあきらちゃん……? 何か食べ物を恵んでくれるとりあむちゃんめちゃんこ嬉しいなーというか……?」

「りあむサン」

「は、はい! ごめんなさい調子乗りました! 床の汗拭いてから自分で行きますごめんなさい!」

「……気持ち悪いデス、本当に」

「はうあ!? だ……ダメだよあきらちゃん……、ぼくは名実ともにザコメンタルのふにゃふにゃ豆腐なんだから……うぅ……」

 

 

 

 本当に気持ち悪い。

 

 あれで『ぼく頑張ったか』って、この人の目には世界がどう映っているんデスか。

 

 何をどこまでやれば、この人にとって『努力した』ことになるんデスか。

 

 どこまで頑張れば、この人は自分のことを認めることが出来るんデスか。

 

 

 

「食べ物でしたね。あとついでに飲み物も持ってきますので、その間に床の掃除をしておいてくださいね」

「な、なんだよあきらちゃん! ツンデレかよ! ぼくのこと大好きかよ!」

「……」

「ごめんなさいだからぼくをそんな目で見ないで! やむやむのやむ!」

 

 

 両手で頭を抱えるりあむサン。みんなが見るいつものザコメンタルなりあむサンだ。

 

 

 気持ち悪いくらい努力出来る、……いや自分の努力を努力と思えない異常さ。言い換えると、目標に向かって一目散に頑張れる精神。

 

 

 現代っ子だと言い訳をする自分にはない面。

 

 

 もしかしたらこれがトレーナーさんの言う“残りの二十点”なのかもね。確認はしてないし、ただの推測。だけど。

 

 

 りあむサンにあって自分にない部分は、確かにそこにあった。

 

 



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