ストーリーとかも特に無いんでギャグ漫画でも見るノリで、どうぞ。
動画はこ↑こ↓:https://www.nicovideo.jp/my/mylist/#/65358308
ともえちゃんがもふキチというイメージはみんなに共通した概念なんじゃあないかなぁ(適当)。
筆が進まないので戯れに髪をつまんでみた。
右に長く伸びた癖っ毛(?)を撫でるように上下に動かすと、繊維の束が指の腹を滑っていくさらさらとした感覚で幾分気が紛れた気がした。
しかし、中途半端に晴らされた気分はあたしに更なる提案を持ち掛ける。
「物足りないよなぁ~。ボリューム不足っていうか求めている感覚と違うっていうかよぉ~。なんかこう『厚みと柔らかさ』が欲しいよなぁ~~ッ」
そんな妙な台詞が浮かんだ後で、あたしの意識は手元のスケッチブックのページに戻った。
ああ、見事なまでに真っ白だ。
空に浮かんでいる雲と同じ色と言えば聞こえは良いけれど、雲というものは影の絶妙な濃淡と周囲の背景の色によって白を浮かび上がらせている芸術品であって、なんにも手をつける余地がなくてただ無意味に白いままでいるこのページと比べるのは失礼な気がする。
「真っ白な雲……かぁ」
いつもならばこの時点で沸き上がる情動に後押され外に駆け出していたんだろうけど、今日はあいにくの雨模様。
おうちの窓から覗く景色は薄いねずみ色に覆われて、しとしとと降り落ちる雨粒が世界を湿らせる。
青い空に白い雲なんて逆立ちしたって見せてくれそうにない。
せっかくの意欲も湿ってくたびれてしまって、あたしはため息をつきながら床に寝転んだ。
「ともえさん、お茶が入りましたよ!」
天井の染みの数を数えていると、キッチンの方からイエイヌちゃんの上機嫌な声が聞こえてくる。
最近アルパカちゃんから分けてもらった茶葉を美味しく淹れることに四苦八苦していたみたいだけれど、あの様子だとどうやら上手くいったみたい。
それに比べてあたしは、あー……。
言い様のないもやもや感に悶えているとイエイヌちゃんがいつものティーセットと共に部屋に入ってきた。
手慣れた手つきで支度を済ませると、彼女は早速紅茶を淹れ始める。
お茶を淹れる時のイエイヌちゃんの顔は、その行為に誇りと自信を持っているからだろうけど、ものすごく凛としていてカッコいい。
でも今日はなんだか表情の端々に笑みが含まれている。
とっても嬉しいことがあったんだね。
「さぁどうぞ!」
「うん、じゃあ頂きます」
今日は雨で少し肌寒いからか、紅茶はホットで淹れてくれたようだ。細かいところに気を配ってくれるイエイヌちゃん、ほんとすき。
温かくされど熱くなく、適温という他ない絶妙な加減の紅茶は詰まることなくカップからあたしへと滑り込んでいく。
気がつくと空、一杯をあっという間に飲み干してしまうくらいに飲みやすくて、とってもとっても美味しかった。
おかわりをお願いしようとして視線を移すと、こちらをじぃーっと見つめていたイエイヌちゃんと目が合う。
その瞬間、イエイヌちゃんの顔がかっと赤くなって視線を外されてしまった。
その様子を見てあたしは、お茶の感想が気になってたんだなぁとのんびり考えていたけれど、一気飲みしちゃった光景を終始見られていたこと気がついてこっちもなんだか恥ずかしくなってしまった。
そうしてしばらくの間、お互いに顔を赤くして俯いていたけれど、落ち着いてきたところであたしは紅茶の感想を伝えようと顔を上げた。
「「あの!」」
「「うぁ……」」
どうやらイエイヌちゃんも同じことを考えていたみたい……。
「イエイヌちゃん、お先にどうぞ……」
「い、いえ、ともえさんからお願いします……」
「あ、はい。じゃあお先に失礼します……」
息を吸って深呼吸、乱れてしまった調子を整える。
「紅茶、とっても、とーっても美味しかった! おかわりちょうだい!!」
「……! はい、喜んで!!」
満面の笑みでおかわりを注いでくれるイエイヌちゃんを見て、自然とあたしも笑顔になる。
再び手渡された紅茶も、あたしはあっという間に飲み干してしまった。
流石にイエイヌちゃんの分まで紅茶を飲んでしまうのも悪いので、手をつけ忘れていた茶菓子のジャパリまんを食べながら、あたしは気になっていたことを尋ねることにした。
「ところで、イエイヌちゃんはなんて言おうとしてたの?」
「ああそれは、紅茶の感想を尋ねようとしたこともあるんですけど、なんだかともえさん、元気が無いようだったから心配になってしまいまして……」
そこであたしはついさっきまで自分が鬱々とした気分であったことを思い出した。今は全くそんなことはないのだけれど。
……この気分屋なところは気をつけておかないといけない。イエイヌちゃんに心配かけちゃったし。
反省しながら黙々とジャパリまんを頬張っていると、イエイヌちゃんが微笑みながら話を続けた。
「嫌なこととか、辛いこととか、一人で抱え込まないでくださいね。だって私にとって、あなたは大切な家族の一人なんですから」
そう言うイエイヌちゃんは優しくて、でもどこか真剣な眼差しだった。
「……ありがとう。なんだかあたし雨で少しナーバスになっちゃってたみたいだけど、もう大丈夫だよ!」
「ふふっ、それなら良かったです」
安心したようで、いつものふんわりとした雰囲気に戻ったイエイヌちゃん。うん、やっぱり、この雰囲気のイエイヌちゃんが一番素敵だな。
「ん? ふんわり……あっ」
その時あたしの中で、唐突にある台詞が思い起こされた。
見つけたよ、厚みがあって柔らかくて、そうそれはまさしく『ふわふわ』とした存在の──
「ねぇねぇちょっと」
「?」
言われるがままあたしの側に近付いてきたイエイヌちゃんを、あたしは無言で抱き締めた。
「ひゃぁっ!? え?! ともえさん!?」
「うん、やっぱり、こういうことだったんだねさっきのは。これからはスランプ気味な気分のときはこうすることにしようっと」
「何を納得してるんですか!? あっ、ダメです抱き締めながら耳元で囁くのはやめてぇ……」
その後結構本気で拗ねてしまったイエイヌちゃんにより、あたしは暫く紅茶が差し止められたのだった。
南無。