A.朝起きて、学校行って、お昼食べただけです。
……マジで進まねぇなコレ。終わるのかしら?
今の時代では珍しい、型落ちのスマートフォンが朝を告げるアラームを鳴らす。寝ぼけ眼を擦りながらソレを止めようと頭上に手を伸ばす。しかし、オレの手は空を切るだけでスマホを掴むことは無い。
いい加減アラームがうっとおしく感じてきた頃、誰かの足音が聞こえアラームが止まった。
「随分と眠そうだなテト」
「ん、おぉ、達也……。おはよー……」
「あぁおはよう。もう朝食の準備は出来てるから早めに来てくれ。……それにしてもこの半世紀以上前の情報端末、確か『すまーとふぉん』だったか?コレは使い慣れないな……」
そう言って達也手に持っていたオレのスマホを床に置き、上へと登って言った。
達也はああ言ったが、2000年代からやってきたオレとしてはどうしてもこの時代生まれである情報端末の方がが肌に合わない。というか操作が慣れないと言った方が正しいか。向こうにとっちゃ骨董品だがオレにとってはこれが最新機器だ。
それに、スマホだとデジタルゲートを繋げられるためにデジモンとしては使い勝手が良い。情報端末の方は人間の侵略対策にゲートが開かないようになっているからな。逆に言ってしまえば、スマホを持っている人間がいればそれはデジタルワールド関係者か侵略者という事だ。
「……あー、そうだ。達也にボコボコにされてそのまま寝たんだった」
身体を起こすと、掛けられていたブランケットが落ちる。ふわりと香る嗅いだことのある甘さと、見覚えのあるピンクの可愛らしい物であることから深雪さんの寝具だと判断する。
……自分の寝具を他人に貸しているとしたら、深雪さんは昨日どこで寝たのだろうか。……深く考えないようにしよう。
気付いてはいけない事に気付かないよう思考を切り変え、硬い床でそのまま寝たせいで凝り固まった身体を軽くほぐす。バキバキと音がなり、言葉に出来ないような声が漏れる。一息ついて、ブランケットを手に持って階段を上る。善意で貸してくれたのだ。返却するのは当たり前だろう。
「おはよーごぜーまーす」
「おはようございます、テトさん」
リビングの扉を開けると、制服に着替えた深雪さんがいた。手にバスケットを持っているのを見て、今日は八雲さんとこでの稽古日という事を思い出した。
「ん、ブランケットどうもな」
「あぁ、いえお疲れのようでしたから。本当ならベッドまで運びたかったのですが……」
「それは仕方ねーよ。ブランケットかけてもらっただけでも助かったわ」
そもそも眠った竜族に触る事自体が危ないからな。事前に声さえかければ無意識の反撃はしないが、運ぶとなると難しいだろう。
「テト、俺と深雪は今から稽古に行くがお前はどうする?」
記憶通りで良かったよ。……にしても、達也。なぜコッチに視線を合わせない?
「行ってもする事ねーし、先に学校行ってるわ」
「そうか、ならまた学校でな」
「お昼はご一緒しましょうね」
「あいあい。んじゃ、行ってらっさい」
達也と深雪さんを見送り、オレは準備されてあった朝食を食べながらテレビをつける。
今日の天気は晴れか、なら洗濯物でも干していくとするかねぇ。
今の時代なら洗濯機に取り付けられた乾燥機すら2000年代初期のソレを凌駕し、柔らかフワフワの仕上がりにはなるのだがオレも達也も深雪さんも太陽の匂いというものが好きなため、なるべくは外干しを心がけている。
「ジャバジャババシャーン、ザブンザフーン!ってな」
洗濯機を回すと聞こえる水音に合わせて前世で好きだった某魔法使い系ライダーの変身音を口ずさむ。
そもそもオレ用の指輪型CADはここから着想を得た訳だからな。コスプレと言われようともオレはこの指輪スタイルを続けるぞ。
そんなことを考えていると、ピー。という洗濯終了の音がなる。蓋を開け、中身を取り出す。
「……ん、やっべ」
その途中で、深雪さんの下着1セットが中から発見され思わず言葉を漏らした。
「普通に洗っちまったよ……」
女性物下着はおしゃれ着洗い+洗濯ネットが基本だ。でないとほかの洗濯物に引っかかってワイヤーが曲がったり、水流のせいで型崩れする可能性が高いからだ。
「コレは事情を説明して新しいの買わせた方がいいな……」
手持ちの金を思い出し、下着ワンセットならどうにか買えるだろうと当たりをつける。それよりも恐ろしいのは罰として何かしらをされないかだ。
「あ、後のことを考えても仕方ない……。今は早く干して学校に行こう……」
もうこのまま深雪さんの下着を泥棒か誰かが盗んでくれればいいのだが……。
そんなアホなことを考えながら学校へと向かう。気分は憂鬱だよコンチクショウ。
〇✕〇✕〇✕
「おはよーごぜーまーす」
洗濯物を干してからのためか、案外いい時間に学校へ着いたオレは席には付かず千葉さんと柴田さんのいる席の近くへと向かった。
昨日オレはあの後黒神に連れられたからな。まぁその分仲良くなっとこうって算段だ。
「おはよー八……神く……ん?」
「おう千葉さん。どうしたよそんな困惑した声出して」
「え、いや、え?気付いてないの?」
コチラへ視線を向けようとしない千葉さん。そう言えば、今朝の達也も視線を合わせようとしなかったな。
……嫌な予感がする。
「すまん、千葉さん鏡ある?」
「あ、はい」
「どうも」
昨日深雪さんに付けられた大量のキスマーク、アレらは全部服で隠れる場所だったはずだ。そうだ、顔になんてあるはずが……。
しかし、現実は非情であった。
付いてますねしっかりと。両方のほっぺたに1つずつ。
「鏡、ありがとう千葉さん。あとマスク持ってない?」
「あたしは持ってないなぁ」
「私もありません、ごめんなさい」
「いや、この時代じゃ花粉症対策でマスクを持ってる人を探すのが厳しいし、仕方ない」
さて、どうしようか。入学式翌日にキスマークを頬に貼っつけた人間なんてとんでもない噂になるぞこれ。
「おはよう!いきなりで悪いがマスク持ってないか!?」
キスマークのことを考えていると、レオが教室にダッシュで入ってきてオレら3人へそう言い放った。
「いや、全員持ってねぇ。てかオレが欲しいくらいだ……よ」
ふと視線をレオへ向けると、彼も頬に2つのキスマークが付けられていた。
「レオ、もしやお前もか」
「……もしかして、そういうテトもか?」
数十秒ほど無言で見つめ合い、オレたちは肩を組んだ。
この日、オレとレオは友人という枠を超えた真の親友になった。
……それとは別に
「……何をしてるんだお前らは」
「あ、達也」
こうなる事を想定してマスクを持ってきてくれていました。まじセンキュー。
〇✕〇✕〇✕
「やっぱレベル高いな、第一高校は」
少し早めに見学を切り上げたオレたちは食堂で昼食を取っていた。そんな時、食べ終わって暇なのかレオがそう切り出した。
ちなみに、オレは購買部で売っていたパンを何個か、ほかの全員はオススメ定食を頼んでいた。
「高校にあんな工房作るとかバ……すげぇよな」
「寸前に言い直したことは褒めてやる。だが口に物を入れて喋るな」
あと口を拭け。達也はそう言ってオレの口をテーブル備え付けの紙ナプキンで拭う。
ケチャップつきっぱなしだったか、何時もすまんな達也。
その光景を見てか、女子組の方から笑い声が聞こえた。
「……何だよ無駄にいい笑顔して」
「いやー、2人が兄弟みたいに見えてさ」
「する方もされる方も慣れているように見えますし、それも要因かと思います」
「あー、確かにな。達也とテトの身長差ってどれくらいだ?」
「オレが130ピッタで」
「俺が170代だからだいたい40センチだな」
「いや、何サバ読んでんだよ。達也はもう180近いし切り上げ50だろ」
「ひゃ、130!?お前本当に高校生か?」
「じゃなきゃココにいねぇだろうが」
手に持っていた菓子パンを1つレオの口に黙れという意味を込めて突っ込む。
突っ込まれた菓子パンはシュレッダーに入れた書類のようにレオの口へ吸い込まれていく。
……食べんの早すぎだろ。
「体質でな。小学2年の頃から身長が伸びねぇんだわ」
恐らくだが、
「はー、難儀な体質だな」
「テトが出かける時は俺か深雪が付いていないと小学生に間違われるからな」
いらん情報を与えるんじゃない。お前にはこの『激辛麻婆豆腐パン』をくれてやる。
達也の口へ麻婆豆腐パンを突っ込む。
「ゴホッゴホッエホッ!!?テト、なんだこれは……」
「激辛麻婆豆腐パン。つい買ってみたが食べなくて正解だったぽいな」
「他人で実験するんじゃない……。レオ、食べてみないか?」
「少し気になるし、いらないならくれ」
今さっき達也がむせたの見てた?考える時間なしで貰うなんてすげぇよ。
達也から麻婆豆腐パンを受け取ったレオはパンを躊躇せず口へ運びかぶりついた。
「辛ッ……。でも美味いなコレ。この辛さがクセになるって言うか?」
「なん……だと……」
レオは問題なく食べられるようだし、
そして達也さんや、今日1番の驚愕をそんなモノで晒さないで?
「お兄様!テトさん!私もお昼をご一緒してよろしいでしょうか?」
そんなことをしていたら、入口で固まっていた集団から深雪さんが飛び出てきた。
「ちょっ、司波さん!!二科生と相席するの!?」
「一科生と二科生のケジメはつけなきゃ……。ね?」
深雪さんの後ろをゾロゾロと付いてきた一科生たちがそう声をかける。しかし麻婆豆腐パンの香りのせいか、顔はしかめっ面であったり、鼻をつまんでいたりする。
うーん、この姿は―――
「他人に母親を取られたくないワガママな子とそれの母親みたいだな、深雪さん」
ほんのり泣いてるやつもいるしマジでそう見える。
……いや涙は麻婆豆腐パンのせいだろうけども。
「でしたら夫はテトさんですか?まぁ、テトさん以外認めませんが」
「OK、オレが悪かった。だから今すぐ睨んでくる一科生の皆様をどうにかしてくれ」
この人数が相手となると口撃で普通に負ける。てか肉体はデジモンだが精神は人間だからな。多人数からボコられれば泣くぞ。
「む、レオか。何を食べているのだ?」
「お、めだか。いやさっき貰った『激辛麻婆豆腐パン』だよ。これが中々美味くてな。1口食うか?」
「い、いや、やめておく。そしていつも通りめだかちゃんと呼ぶが良い!」
あ、黒神もいたのか。てかそこオレの席だから。無理矢理食わせた達也に悪いと思って牛乳取りに立ち上がった間に弁当展開してるの早すぎるわ。
「く、黒神さん!なに二科生の隣でご飯食べてるんだ!」
「誰と食事をしようと私の自由だ。それに、だ。この時間は司波同級生が学内で兄と共にいられる数少ない時間なのだ。昼食の時間は諦めよ」
「なっ!ウィードは所詮僕たちブルームの補欠だ!他のみんなの言う通りケジメはつけなきゃいけないだろう!!」
一科生の群れから男子生徒……というか森崎くんか。森崎くんが出てきて黒神の行動に対して反論を行い、それに加担してほかの一科生も黒神へ口撃を続ける。
一般的な一科生ならそれで説得出来ただろうな。でもな、森崎くんよ。お前の相手にしているやつは―――
「哀れだな、森崎同級生。いや一科生諸君よ」
―――再現とはいえ、『黒神めだか』だぞ?
「人とは優劣で測れるものでは無い。月並みな言葉だが、人は生きているだけで価値がある。優劣など関係なくだ。ブルーム?ウィード?そんなモノ、魔法士から見ればあってないような分類だろう。知っているか、第一高校の卒業者は元一科生より元二科生のほうが歓迎されるらしいぞ?……私は少しだけ怒っている。自分の好きな人を、愛している人を貶されて怒らない人間なぞいるはずもない」
いつの間にか席を立ち、森崎くんの前へと立っていた黒神は髪先をほんの少しだけ緋色に染めながら言う。
「去れ。ココは他人を自分の評価上げの為にしか見れない人間がいていい場所ではない。……どうした?私は貴様らに言っているのだ、先程から司波同級生の後を金魚のフンのように尾けている貴様らにな!」
黒神の声を聞くと同時に、一科生は蜘蛛の子を散らすようこの場から離れていった。いや、逃げていったと言う方が正しいか。まるで、本能から黒神を恐れるように彼らは消えた。
「めだか、お前またアレを使ったのか」
「使ったが、気にするなレオ。私は友人たちが貶されているのを黙って見ているくらいなら、名前も知らない有象無象に恐怖される方がマシだ」
「あのー」
おずおずと千葉さんが手を挙げた。話を切るようで悪いとはおもっているのだろう。柴田さんは顔を青くしていた。乱心モードの気に当てられたか?
「アレって何?」
よくぞ聞いてくれた。千葉さんも柴田さんほどではないけど顔青いのによくやるわ。後でオイちゃんがスイーツ奢っちゃるよ。
「あー、言っていいか?」
「構わぬ。深い付き合いをしていく友だ。それに当てられているのに説明せずバイバイは出来ん」
「OK。説明するからよ、とりあえず座ろうぜ?」
レオの言葉に全員が同意して、席につく。
……えーと、元々6人がけのテーブル席だったんだよな。
「椅子足んないけどどーすんの?」
「テトが俺か深雪の膝の上に乗ればいいだろう」
「さぁテトさん!コチラにどうぞ!welcome!!」
「……達也、膝上失礼するぞ」
「あぁ」
「Nooooooo!!」
誰が鼻血ドバドバ垂らした人間の膝上に乗るかよ。身の危険感じるわ。あとその無駄に気持ち悪い動きした手を止めろ。座ったらオレは何をされていたんだ……。
「「み、深雪(さん)が壊れた……」」
「スマンそれ通常運転なんだ」
2人には申し訳ないが慣れてくれとしか言いようがない。オレと達也は慣れてるし、レオも別の変態で慣れてるからな。……悲しいけど。
「説明するぞ。めだかは「めだかちゃん」……めだかちゃんは生まれた環境のせいか、特殊な業を持ってる」
「特殊な業?」
「それが、さっき感じた寒気ってこと?」
「そうだ。本人はそれを『人間避け』なんて呼んでるな」
あぁ、なるほど。 『動物避け』の人間ver.か。しかしなんで避ける対象が人間なんだ?
「……私の実家『黒神』は少々特殊な家でな。家長はある技術が最も長けている人間がなる決まりなんだ。歳や性別は関係なくな」
「ある技術……ですか?」
「あぁ。私は子供の頃からその技術が高かった。だからこうなった」
黒神はそう言って制服の袖をまくった。
「なっ!」
「痛そう……」
「それは、もしや……」
そこには痛々しい火傷のあとが存在した。いや、火傷だけじゃない。袖をまくるという小さな範囲でも切り傷やすり傷の後がいくつも見えた。
「司波同級生の思っているとおりだ。コレは家族に付けられた。寝てる時、食事の時、風呂の時など、我が家で気の休まることは無かったな」
だが学校の宿題をやる時だけは誰も殺しには来なかったか。黒神は小さく笑ってみせた。
「そんな生活を続けた結果、生まれたのだろうな。『人間避け』が」
幼少期から襲われ続ける事。だが、その肉体は超人とも言える『黒神めだか』のもの。彼女からすれば家族が自分の元へ来るのは死にに来たようなものか。誰も自分のせいで死なないように。そんな思いから『動物避け』が『人間避け』に変わったのかもしれない。
「さぁ暗い話はここまでだ。そろそろ昼食の時間も終わる。午後も頑張ろうではないか。行くぞ、司波同級生」
「えぇ。では皆様ごきげんよう」
黒神の言葉に深雪さんを除いた全員は時計を確認する。見ると、昼休み終了5分前だった。急がないと次の見学に間に合わなくなってしまう。
「うっそ!こんなに時間たってたの!?」
「まずいな、テト急ぐぞ!」
急いでトレーを片付けた後、達也はオレをお米様抱っこで抱えあげた。
「……おい」
「急いでいるからな。お前の足じゃどうしても置いてくだろう」
「いやそうだけども。……安全運転で頼む」
「任せろ。アクセル全開でぶっ飛ばしていく!」
「安全運転って言いましたよねぇぇ!?」
いちおう、授業には間にあった事を報告しておこう。とてつもなくグロッキーではあるが。
一週間くらい前の話ですが、この作品が日間ランキング37位にランクインしました。
この場を借りて読者の皆様に感謝の言葉を。
ありがとうございました。
今現在(2019年6月21日7:55。全3話)UAが約7800、お気に入りが146件と、私の投稿した作品の中で1番の記録を叩き出しました。こちらも合わせて感謝の言葉を。
本当にありがとうございます。
さて、読者の皆様に感謝を示すため、番外編なる物を描きたいと思うのですがどちらが良いかアンケートをさせていただきます。期限は来週の2019年6月28日23:59までとさせていただきます。票が1つも入らなかった場合は友人に凸って読みたい方を問いただしますので読めないということはありません。ご安心を。
評価も7人の方から頂きました。そのうち2人が1評価ということですが、私の文章力がクソなせいで気分を悪くされたのかと思います。申し訳ごさいません。
これからも努力して文章力と語彙力を上げてまいりますので応援して下さるととても嬉しく存じます。
番外編、どっちが読みたいですか?
-
変態淑女深雪さんの一日
-
変態乙女めだかちゃんの一日