魔剣英雄伝   作:アッシュ

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2話 ガロウ

 

 

 商人の馬車にガタゴトと馬車に揺られ、どれほどの時間が経っただろうか。

 

 村はすっかり見えなくなり、周囲には草原が広がっていた。 

 

 何もない外の景色に飽きた俺はおもむろに魔剣を鞘から少しだけ抜いてみた。

 せっかく手に入れたんだ、売り払う前に鑑賞しなければ勿体ない。 

 スルリとわずかに刀身をのぞかせた魔剣は漆黒で、怪しい光を放っている。 

 

 「おぉ……」

 

 思わず声を出してしまう程に美しいそれは、武器というよりも一つの芸術作品。

 

 《ドラゴンスレイヤー》の名前がなくても高く売れるに違いない。 

 

 どれほど高く売れるのだろうかと、ウキウキとしていたら急に眠気が襲ってきた。

 あー、朝にあれだけ怒ったり、騒いだりしたからな……。

 疲れがたまってたんだろうな……。 

 この眠気に心当たりがあった俺はこの突然の睡魔を疑問に抱くことなく、馬車の壁側に体を預け、商品である魔剣を大事にしまって眠りに着いた。

 

 ★

 

 「なんだ、ここ?」

 

 目を開けると、俺は草原で横になっていた。

 どうなっているんだ?俺はさっきまで馬車の中に居たんだぞ? 

 周りを見渡せば、魔剣がない。それに気が付くと、顔から血の気が引いて行った。

 

 まさか……商人の仕業か!? 

 

 馬車で二人っきりの状況でこんなことが出来るのは商人しかいない。

 あのクソ野郎っ!! 

 

 こうなったら、どんな手を使っても探し出し、泣いて叫ぶほどの拷問をかました後に全財産を巻き上げ、魔剣を取り戻してやるっ!!

 

 「―――おい」 

 

 吟遊詩人が歌う英雄譚の主人公が魔王を倒しに行く感覚で復讐計画を練っていると、思考を断ち切る様に誰かに声を掛けられる。

 振り返ると一人の男が立っていた。 

 

 《ドラゴンスレイヤー》を彷彿とさせる筋骨隆々の鍛え抜かれた肉体に黒い髪。

 鋭い瞳でこちらを睨み付ける見知らぬ男。 

 見たところ武器は持っておらず、盗賊の類には見えない。

 冒険者の格闘家だろうか?

 

 男がじっと俺を睨み付ける事、数秒。男はゆっくりと口を開いた。 

 

 「なるほど、農家の小僧と言うだけあって、肉体はそこそこ鍛えられているな。

 年齢も十七と若い。これならば、我が《雷鳴流》を天下に轟かせる事も可能かもしれん」

 

 何言ってんの?頭は大丈夫ですか?とは聞かない。

 俺は空気が読める男だ。そんな事を言おうものならとんでもない事になると言うことぐらいは容易に想像できる。 

 

 「あのー、どちら様でしょうか?」

 

 「―――《雷鳴流》の開祖。ガロウである!!!!」

 

 うん、ヤベェ奴だ。

 関わったら危険と判断した俺は、直ぐに逃亡を試みる。

 

 ……が。

 

 「おいおい、逃げるんじゃねぇよ。

 それにここは夢の中。逃げ場なんてないから、黙って俺の話を聞きな」

 

 「!!!!」

 

 肩をがっちりと熊の様な大きな手でつかまれると、体が動かなくなる。

 悲鳴や命乞いの声を上げる事も出来ず、俺はこの男の話を聞く以外の選択肢はなかった。 

 

 「俺が生きていた五百年前の事だ。俺は世界最強を目指して剣を振るっていた。

 数多の剣豪を切り伏せ、天災と呼ばれる竜を屠った俺は、竜の素材でこの刀を作らせ、東方最強に上り詰めた。

 そして、ついに外の世界へと足を延ばしたのだが、俺が乗った海外に行く船が岩にぶつかり、船は俺を含む乗客と供に海へと沈んだ。

 だが、ここで死ね訳にはいかぬと未練を残した俺は幽霊となって刀に憑りつき、刀を拾った漁師から持ち主となった者を鍛えながら今日まで転々と渡り歩いた。

 そう。この刀を捨てようが、必ず持ち主の元へと舞い戻り。止めてくれと泣き叫ぼうとも、鍛え続けてやる!!

 全ては我が《雷鳴流》を世界に轟かせる為に!!」

 

 背中越しに熱く語るガロウと名乗った男。

 未だに分からない事があるが、一つだけハッキリと分かった事がある。

 

 それは……。

 

 あのクソ外道な冒険者が俺に、面倒事を押し付けたって事だぁぁぁぁああ!!

 俺の様な心優しい青年に、なんという悪魔の如き所業!!

 草の根分けても探し出し、慰謝料を請求した後で、あの剣を返品してやるっ!!! 

 口を動かす事が出来ない代わりに、俺は正義の炎を心で燃やした。

 

 「さて、喋る事も喋ったんだ。

 さっさと、お前さんを鍛えさせてもらうぜ?」 

 

 肩から手を離し、見覚えのある黒い刀身の刀を手に持った男がジリジリと寄ってくる。

 その姿を見た俺は恥も外聞もかなぐり捨て、思いっきり泣き叫んだ。

 

 「く、来るなケダモノぉぉぉぉおおおおお!!!」

 

 「なんて叫び声をあげるんだ、このガキャァァァァァアア!!!」

 

 虚を付いて逃走を図った俺だったが、直ぐにガロウに捕獲された俺は生きているのが不思議なくらいにボコボコにされた。

 どうやら、この世界が俺の夢である事も本当のようだ。

 

 

 

 ★

 

 「えっと、そもそも《雷鳴流》ってなんですか?」

 

 俺をボコボコにしてスッキリしたのか、ガロウは上機嫌で答えた。 

 

 「よくぞ聞いてくれた。《雷鳴流》は一撃必殺を基本とする剣術だ。

 雷の様な速さで動き、相手をたたっ斬る。

 防御は存在しない最強の攻撃剣だ!!」

 

 ドドンっ!!と効果音が付きそうな単純明快な説明であるが、何やら凄そうだ。

 しかし、前の所持者である《ドラゴンスレイヤー》がドラゴンを倒せたらしいので、謎の説得力がある。 

 

 「……で?どんな修行をするんですか?」

 

 「お?意外とやる気じゃねぇか。

 今までの経験だと、もう十発ぐらい殴ったり恐怖を叩き込まないと無理だと思っていたんだが……。

 いいねぇ……決意に満ちた男の目だ。さっそく鍛えてやるよ」 

 

 やる気のある俺の姿に不敵な笑みを浮かべるガロウ。

 当然だ。この男は『刀を捨てようが、持ち主に戻って来る』と言っていた。

 つまりだ。他の所有者となる人間を見つけない限り、この魔剣は俺を地の果てまで追いかけてくるという事に違いない。

 ここは下手に逆らわず、従順なフリをしておくのが正解なんだ。

 

 「じゃあ……。目が覚めるまで、殺し合おうぜ。

 実戦こそが最高の修行だからな。まずは殺しのいろはを叩き込んでやるよ」

 

 「……へ?」

 

 「なに、心配すんな。死にやしねぇよ。

 ここはお前の夢の中だからなぁぁぁぁあああ!!!」

 

 父よ、母よ。俺はこんな不幸な目に合わせてくれた《ドラゴンスレイヤー》はボコボコにするだけでは許せそうにありません。

 思いつく限りの地獄を味合わせてやろうと思っています。

 

 俺はヤルと言ったらヤル男だぁぁぁああああ!!!

 

 この後、めちゃくちゃ殺されました。

 ごめんなさいしても許してもらえませんでした。

 

 ★

 

 眼が覚めるとそこは自分の血で染まった地獄を彷彿とさせる真っ赤な草原ではなく、馬車の中だった。

 ハァハァと息を整えて、刀を睨み付ける。

 

 夢の中で何度も殺された。何も出来ないまま、好き放題に四肢と頭が飛ばされ、胴体が真っ二つにされるなど、百を超える死を体験した。

 まったく、とんでもない魔剣だ。

 このままでは、本当に殺されるかもしれない。

 

 何か対策をしなければ……。

 

 「ん?」

 

 そういえば、あの《ドラゴンスレイヤー》から本を貰っていたな……。

 冒険のノウハウだけでなく、もしかしたら魔剣について書かれているかもしれない。

 俺は慌てて、馬車の隅に置いておいた手記を手に取って中を開いた。

 

 ここに何かヒントがあれば……。

 

 

 【△月〇日】

 

 木こりの仕事で溜めた貯金で、念願の双眼鏡を手に入れる。

 これで、山にあると言う温泉街の女湯を覗いてやるぜ!!

 

 

 【△月〇日】

 

 斧を片手に、草木を刈り。以前から下見をしていた絶好の覗きスポットに到着。

 けしからんフトモモとお尻の観察を開始。だが、いい場面でドラゴンが登場。

 温泉街もパニックとなり、俺は近くの小屋へと非難した。

 もう、俺はもうダメなのかも知らない

 

 

 【△月〇日】

 

 小屋で一晩を過ごしたら、外から凄い戦闘音が聞こえてくる。

 もしかしたら温泉街に居た冒険者達が戦っているのかもしれない。

 小屋の扉を少し開けて双眼鏡で外の様子を見ていると一人の男が武器を片手に、凄まじい速さでドラゴンと戦っていた。

 ドラゴンを翻弄し、ボコボコにしていく男。

 もしかしたら俺は助かるかもしれない。

 俺に出来るのはこの戦いを見て日記に書き記す事だ。

 

 

 【△月〇日】 

 

 ドラゴンと男の戦いは二日目の今日で、ようやく決着した。

 恐る恐る近づくと、男とドラゴンは死んでいた。

 なんてこったい!

 俺はドラゴンを倒した勇敢な男の亡骸をそのままにしておくことが出来ず、彼を彼の手荷物と一緒に埋葬した。

 墓標は落ちていた剣でいいかと、剣を手に持った瞬間に夢の中に閉じ込められて酷い目にあいそうになった時、ドラゴンを討伐する為に派遣された冒険者と国の討伐部隊が到着。

 お陰で夢の中で地獄を見ずにすんだが、剣に意識を持っていかれた時に頬を切ってしまったようだ。目が覚めたら血が流れてすごく痛い。

 怪我に狼狽えていたら、良く分からない内に軍の人に保護された。

 王都の城に連れていかれ、綺麗なお姉さんに世話もしてもらえる事になった。ラッキー。

 え?俺が龍殺しの英雄??

 

 

 【△月〇日】

 

 何故か俺が龍殺しの英雄になった翌日の今日。

 俺は話を聞きたいと言ってきたお偉いさんに『俺は冒険者ではない』と正直に話したが、冒険者ギルドに登録させられた。

 しかも、世界でも少ないSランクで登録されるらしい。

 俺の話を聞いてた?その耳は飾りか?それとも耳クソでも詰まってんの?

 Sランク冒険者にさせられた俺は、ドラゴンスレイヤーの二つ名を貰った。

 最近では夢の中でも変な男にひどい目にあわされて居るのに勘弁してほしい。

 ギルドからドラゴンを討伐した報酬と軍が回収したドラゴンの素材で大金を得た。

 男に言われた修行メニューをこなした後、ストレス発散の為にキャバクラに行く

 

 

 【△月〇日】

 

 一ヵ月ぐらいキャバクラで豪遊したが報奨金はまだまだ沢山ある。

 本来であれば報奨金を返さなくてはならないのだが、既に俺の返せる金額ではなくなっていた。

 ドンペリってやべぇ……。

 悩んだり後悔しても答えはでないので、体を鍛えた後に冒険者の友達と今日もキャバクラへ行く。

 アナちゃんのおっぱいは最高だ。

 

 

 【△月〇日】

 

 数十年ぶりに日記を書く。

 死んだ冒険者の事は忘れる事にして、遊びまくって居たら報奨金はキャバクラに消えた。

 しかし、筋肉は増えた。

 生活がそろそろヤバいと思い、お金が欲しくて冒険に出ようと思ったが、魔物が怖いので辺境の村で畑を作ってスローライフを送ろうと思う。

 俺、元々木こりだしね。農業も大丈夫でしょ。

 

 

 【△月〇日】

 

 久々に日記を書く。

 キャバクラを奢った冒険者君と再会。歓迎会を開いてくれた。

 ここでスローライフを送ろうと思ったら『息子を弟子にして欲しい』と十万ゼニーを貰った。

 俺は、ガロウに魔剣を若者に渡す事を伝えて、村長となった冒険者君に魔剣と俺が主人公のライトノベルを渡す事にした。

 ここが旅の終着点だと思ったが、どうやら違うらしい。

 若者の母親から貰った十万ゼニーで軽く遊んだ後にスローライフを送ろう。

 

 「《ドラゴンスレイヤー》どころか、冒険者ですらねぇぇぇっぇぇぇぇえええええ!?」

 

 「お、おい!?一体、俺の馬車で何してんだ!?

 もう、街の中なんだから大人しくしてくれよ!!」

 

 手記を真っ二つに引き裂き、魂を雄叫びを上げる俺。

 なんてこった!?奴はただのキャバクラ通いのおっさんだった!!

 もう完全に遊び人じゃねぇか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

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