鬼殺し   作:からくりから

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第二話

 

 なんか生きてる。

 目が覚めてから最初に思ったのがそれだった。

 確実に死一直線だったはずだが、案外人間って頑丈なんだなという感想を抱き、遅れていや、そうではないな、と思った。

 視線を下げれば、視界に入ってくる俺の身体は包帯でグルグル巻きにされていたからだ。

 特に原型を失くしたはずの左腕はそれっぽい形に戻った上で包帯が巻かれている。

 これから推察するに、どうやら俺は誰かに助けられたらしい。

 そういえば確かに、意識が落ちる瞬間足音のような音を聞いた気がしないでもない。

 通りすがりの人でもいて、拾ってくれたのだろう。

 取り敢えずはそう思うことにして、一見広くは見えない部屋の中、ただじっと家の主が戻るのを待った。

 というよりは、それしか出来なかったというのが適切だろうか。

 なぜかって言えばそりゃ全身──特に横っ腹が死ぬほど痛いし左腕は微塵も動かなかったからだ。

 ただじっと、努めて何も考えないように天井を眺める、これからどうなるのだろうか、という不安はあまり抱かなかった。

 目が覚めてから、どこか現実味が湧かないのだ、どこか夢を見ているような感覚がして、意識がふわついている。

 ずっと頭の中では昨夜───もしかしたらもっと時間が経っているかもしれないが───の出来事が繰り返されていた。

 何度も親と弟の姿を見て、幾度も鬼を殺す己を見る。

 もっと早く着いていれば、走って帰っていれば、そう後悔するがその後悔に意味は無いのだと、そうとも思う。

 やり直しはきかない、繰り返すことは出来ない、それが現実で、たった一つの答え。

 こみ上げてくる吐き気を呑み込んでいれば、不意に扉がガラリと音を立てて開いた。

 首を傾ける、外の風と共に入ってきたのは、顔も知らない老人だった。

 長く伸ばした白髪を後ろで一纏めにしているおっさんで、こちらと目が合うなりニヤリと笑って言った。

 やっと起きたか、おせぇぞ、なんて、まるで知り合いかなにかのように気安く。

 条件反射のようにおはようございます、と返せばおっさんは突然こう言った。

 これからお前を鬼を狩る剣士へと育てる、と。

 いや意味不明が過ぎる。

 何言ってんだこいつ? という目で見れば男は軽く笑ってから口を開いた。

 曰く、その人並み外れた体力は素晴らしい、剣士に向いている。

 曰く、その異質なまでの筋力は素晴らしい、剣士に向いている。

 曰く、その強靭な精神は羨ましいくらいだ、剣士に向いている。

 曰く、激怒しながらも冷静な判断が下せる、剣士に向いている。

 曰く、戦いの才能がある、剣士に向いている。

 曰く、曰く、曰く、曰く……。

 といった感じで懇々と言葉を重ね、最後に咳払いを一つしてから彼はこう言った。

 そもそも、お前さん、この世を未だ堂々と、多くの鬼が闊歩しているのを、赦せるのか?

 

 「赦せる訳、ねぇだろ」

 

 俺は反射的にそう答えていて、男は決定だな、と言って笑った。

 

 

 それから三ヶ月、怪我を治した俺は家の前でおっさんと向かい合うように立っていた。

 所謂修行というやつだ。

 おっさんは俺に今度から師匠と呼ぶように、と最初に良い、それから修行というやつは始まった。

 師匠は取り敢えず走れ、と俺に言った。

 走って走って走りまくって、体力を取り戻せ、と。

 それから俺の一日の大半は、師匠に指定された道を走るだけで埋め尽くされるようになった。

 流石に三ヶ月も寝込んでいれば相当鈍っていはいたし、そもそもそんなに長いこと走るというのは単純にしんどい。

 ただでさえ師匠の家がある場所は山の中腹で、酸素が薄いし、道はちゃんとしたものが無くてガタガタ、獣が出てきたら全力で逃げなければならないのだ。

 適当な所で休むことすら出来ず、疲れと恐怖に支配される毎日だったが、二週間もすればそれも慣れた。

 元より体力はある方だった、それに加えて成長期なのか、走れば走るほど体力は目に見えて増えたからだった。

 後は獣の生息範囲を把握、足音等の聞き取りさえ出来れば難しいことではなかった。

 そんな感じで大分余裕になってきた、と言えば師匠は軽く目を見開いて、それからじゃあ次のステップだ、と刀を投げ渡してきた。

 慌てて受け取ればずしりとした感触が手にかかる、ちょっと不用意すぎない?

 しかし師匠は俺の言葉に耳を貸すことはなく、今度はそれを持った上でここから先を走れ、と今まで走っていた道とは逆の方向を指さした。

 逆の方向──つまり方角で言えば北側。

 つまり今まで走っていたのは南側だったという訳だ。

 北の山は、南に比べれば別世界だった。

 一歩踏み込んだ瞬間先の尖った丸太が迫ってくるとかそんなことある?

 取り敢えず全治三日だった。

 

 

 罠の気配を悟れ、師匠はそう言った。

 出来るわけねーだろ阿呆か、そう思ったものの一ヶ月経過した辺りでようやく意味が分かった。

 罠のありそうな場所、怪しい場所、もし己ならどこにどういった罠を仕掛けるか、そういったことを丁寧に探り、素早く思考しろということだったのだ。

 いや言語化するのがが下手くそ過ぎない? とは思ったがまあそれはそれ。

 無傷で生還することが多くなってきた頃、師匠はやっと次だな、と立ち上がった。

 今度は何をするのだろうか、と思えば師匠は"呼吸"を覚えてもらう、と言った。

 呼吸……? いやしてるけど……

 そう言えば師匠はしたり顔で違う違う、と首を振り、正確には"全集中の呼吸"だ、と言う。

 全身の血流と、鼓動を爆発的に上げる方法らしい。

 これを使えるようになればそれこそ"鬼のように"強くなれるのだとか。

 師匠は教えるのは"炎の呼吸"だと言った、口振り的に他にも種類があるのだろう、数を聞いたがそれこそ山程だ、と返された。

 炎の呼吸というのは九つの型がある、その全てを師匠は見せてくれて、そして俺はその全てに炎を幻視した。

 いや、実際に炎を纏っているのか?

 良く分からなかったが少なくとも俺の目の前には確かに炎がそこにあった。

 俺にも出来るものなのか? と不安げに尋ねれば勿論だ、と師匠は言った。

  

 とにかく肺をでかくして空気を取り込め、魂に炎を宿せ、師匠はそう言った。

 後はもう全部感覚だ、少なくともお前にはその方が合っている、そう付け加えて師匠は言葉を少なく、直接身体に触れて教えてくれた。

 触れる、というよりは叩いたり無理矢理動きを矯正したり、という方が正しいが。

 何はともあれ師匠は熱心に教えてくれて、お陰で型を一通り覚えるのに時間はかからなかった。

 魂に炎を宿す、全身の血を高速で張り巡らせる、鼓動を死ぬ寸前まで早くする。

 正しく言われたとおりのことをすれば、確かに俺の身体能力は比べるのが馬鹿らしいほど向上して、そして俺は炎を纏った。

 師匠に拾われて、一年経った頃のことだった。

 師匠はここに来て突然鬼を狩る剣士───通称:鬼殺隊とやらの隊員になるには最終選別とかいうやつを乗り越えることが必要だと語った。

 そしてそれに、まだ俺を行かせる訳にはいかないとも。

 何をしたら行かせてくれるのか、と問えば師匠はこう言った。

 俺に一太刀でも浴びせられたら許可する、と。

 

 師匠との交戦は一日に一度きりだった。

 雨が降ろうが雪が積もろうが必ず昼を少し過ぎてからの一度のみ。

 そして半年経った今、俺は一度も、掠らせることすら出来ずにいた。

 あの人単純に強すぎるし、早すぎる。

 俺との練度に差がありすぎるのだ。

 我武者羅に刃を振っていては何時まで経っても当たらない。

 もっと型を極めなければ、もっと力を、速さを、技術を研ぎ澄まさなければならない。

 刀を振るう、何千何万と振り続ける。

 架空の敵を視ながら振るう、踏み込む、地を蹴りとばす。

 常に思考を張り巡らせる、自ら北側の山へと入り、全ての罠を躱し獣を斬る。

 己の感覚を鋭敏にしろ、限界まで尖らせ全てを見てきたかのように察知しろ。

 そう自分に言い聞かせながら日々を過ごし、半年が経過した。

 

 いつものように、師匠と対峙する。

 全身から無駄な力を抜き落とし、最低限の力で刀を握る。

 勝負は一瞬だ、長々と戦えば戦うほど経験の差で潰される。

 だから、初手で決める。

 最速最高最大の一撃を、刀に籠めて打ち込む。

 躊躇はしない、遠慮はしない。

 師匠が合図の石を空に放り投げて、ゆらりと刀を構えた。

 石が落ちる、静かに息を吸う。

 石が落ちた、瞬間、炎を吹き出した。

 

 全集中・炎の呼吸───壱ノ型:不知火

 

 その日初めて、俺の刀は師匠の身体を斬った。

 切っ先がほんの少し、身体に触れただけだったが、確かに肉を裂き、血を跳ねる。

 師匠はニヤリと笑い、合格だと、そう言った。

 

 最終選別というのは年中藤の花が咲き誇る藤襲山という場所で行われるらしい。

 そこには複数の鬼がいて、その中で七日七晩生き残れたら合格だとか何とか。

 といってもそう難しくは無いそうだ。

 何故かと言えばそこにいる鬼は大したことが無いから。

 師匠曰く、鬼の強さとは人を喰った数に比例するらしい。

 そしてそこにいる鬼たちはどれも一人二人しか喰っていないのだとか。

 まぁそれでも油断だけはするな、絶対に生き残れ。

 師匠はそう言って俺に刀を渡した、この刀であれば、鬼の頸を斬れば殺せるらしい。

 有難う御座います、とそう頭を下げてから、俺は藤襲山へと歩を向けた。

 

 藤襲山の所謂待機場には既に複数の人間がいた。

 見たところどいつもこいつも俺と同じ鬼殺隊志願者のようだ。

 皆一様に刀を腰に差しているから、一目で分かる。

 こういう職は男ばかりかと思っていたが、思いの外女性も多い。

 特にあの、狐の面を付けた少女、あの子は強いな、と直感的にそう思った。

 まあ他にもヤバそうなのはいるけどあの子は多分飛び抜けている、そんなことを考えていたら不意に、二つの人影が姿を現した。

 少女だった、少なくとも俺の目には、髪と目の色くらいしか違いのない、あり得ないほど瓜二つの少女が映っていた。

 少女は交互に喋り出したが、内容は概ね師匠から聞いた話と同一のものだった。

2人の少女は最後に、言葉を重ねてでは行ってらっしゃいませ、と試験のスタートを合図した。

 

 山へと踏み込む、藤の花が見当たらなくなって、途端に雰囲気がガラリと変化、もしくは変質した。

 修行で散々走った山の北側に近い雰囲気、だけれどもこっちのはもっと悪質だ。

 薄く風に乗る血の匂い、漂う邪気。

 あぁ、鬼がいるな、そう察して怯む己ごと柄を握り込む。

 今の俺ならあの日より上手く殺せる、震えるな、怯えるな、己の魂に、炎を宿せ。

 状況の変化に昂ぶる身体を、精神を沈ませる、ゆっくりと目を閉じ、落ち着かせて静かに神経を張り巡らせた。

 悲鳴が聞こえる、肉が斬られる音がする、刀が落ちる音がする、そして、足音が、嫌な気配が近づいてくる───!

 ゆるりと肺に空気を溜め込んだ、瞬間、抜刀。

 全集中・炎の呼吸────弐ノ型:昇り炎天

 刀が纏う白炎が、高速の斬撃によって軌跡を残し、迫ってきていた身体を左右に別つ。

 股から真っ二つになったそれの頸を、叩き斬る。

 ゴトリと頭が落ちた音がして、再生する間もなく消えた。

 殺せるってそういうことか、と特に感慨深くもなくそう思い、同時に思いの外戦えるものだな、とも思った。

 どうやら師匠はそれくらい、ガチガチに鍛えてくれていたようだ。

 感謝の念を今更ながら捧げていれば、次の瞬間膨大な殺気が肌を焼き尽くした。

 つい先程まで得ていた余裕を塗りつぶすほどの殺気、怖気、悪寒。

 進めていた足を思わず止める、軽い吐き気がしてそっと木の陰に隠れた。

 何となくわかる、この先にいるやつは相当()()()

 今の俺で勝てるのか、そう己に問えば返事は返って来ない。

 逃げるが吉だな、一目だけ確認して、それからさっさと逃げよう。

 そう思ってそろりと見れば、そこらの鬼とは比べ物にならないほど巨大で、異質な鬼がそこにいた。

 そしてそいつは、()()()()()()()()

 うわマジ? あんなのと戦うとか正気の沙汰じゃないでしょ……ていうか戦いになっているとか強すぎる、誰だ?

 もう少しだけ頭を出して、場を覗く。

 目に入ってきたのは、狐の面を付けた少女だった。

 

 彼の少女の戦いは見事だった、今の俺にとって最早理想的とも言える体捌きに相手の動きの予測。

 全てを躱し、幾度となく刀を振るう姿はいっそ美しい──が、足りていない。

 純粋に力が足りていない、それはつまり、呼吸が足りていないということだ。

 鬼を翻弄していながらも刃は通っていない、首を裂くことが出来ていない。

 あれじゃ千日手だ、決着がつかない……いや、鬼が勝つ。

 体力の差で、間違いなくあの少女は死ぬだろう。

 それを俺は、見て見ぬ振りをするべきか? 分かっていながら、見殺すべきか?

 自分に問いかける、本能は退くべきだと言っていて、素直に従おうと足を下げた、その瞬間だった。

 地をこじ開けて、巨大な腕が幾本と姿を現し少女の身体をその手で握り込んだ────刹那、母を幻視した、父を幻視した、弟を、幻視した。

 命を空にされた人達の姿が、脳裏によぎって、同時に師匠に言った言葉が甦る。

 赦せる訳、ねぇだろ。

 俺の家族を殺した鬼という存在が、未だこの世に存在していることを。

 その鬼が、俺の家族のように幾人もの人を殺していることを。

 俺は、鬼を滅ぼす。

 そう決めた、そう誓った、ならば!

 これを、その一歩目にしろ──!

 

 全集中・炎の呼吸───壱の型:不知火

 

 

 宵闇を、炎が斬り裂いた。

 残り火があちらこちらに舞って、異常なまでに発達した腕を切り落とす。

 呆けたように口を開いた少女の着物の裾を握り、そっと投げ飛ばした。

 あいつ、上手く避けたな、いや、俺が殺気を出しすぎたか。

 もっと冷静になるべきだったな、と反省しながら振り向けば、青筋を立てた異形の鬼がこちらを睨めつけていた。

 怒ってんの? はは、奇遇だな、俺もだ。

 お前個人に恨みは無いけど、俺はもう鬼ってだけで心底嫌いなんだよ。

 だから、早く死ね。

 鬼が叫んだ邪魔をするなという声を聞き流し、勢い良く炎を散らした。

 

 斬る、斬る、斬る、斬る、斬り続ける。

 無限とも思えるほど湧き出てくる異形の腕を幾度も細切れにし続けて、徐々に、確実に歩を進める。

 動きを眼で追えないことはなかった、刀を振り遅れることは無かった。

 ただし今は、という注釈が付くが。

 体力が万全の状態でこれだ、疲れてくれば当然、追えなくなってくる。

 早く決めなければ、思えば思うほど焦りが募り、嫌な汗が頬を伝っていく。

 そんな俺を鬼が嘲笑い何かを叫ぶ。

 が、聞かない、聞こえない、聞く気がない。

 ただぶった斬る、ぶっ殺す。

 それだけで良い、それ以外はいらない。

 そうやって無駄な思考を排除しようとして、それでも苛立ちと焦りが積み重なっていく。

 斬り損ねた腕が俺の肩を、腕を、身体を抉る。

 肉が落ちて血が溢れるが、まだだ。

 まだ、斬れる。

 俺はまだ、生きている。

 何度も何度も斬り裂いて、そして、やがて斬りきれなかった腕が俺に迫り──そしてその全てが一刀のもとに斬り落とされた。

 狐の少女──真菰と名乗った少女は頸を狙って、私が他を斬る、とそう言い前に躍り出た。

 

 何度でも言うようだが、真菰の体捌きや刀の扱いは理想的なものだった。

 相手を翻弄し、腕を裂き、足を止める。

 二人で行っていたそれをほんの少しずつ真菰への負担を大きくしながら位置を変えていく。

 やるなら一撃、それだけで総てを決める。

 全集中・炎の呼吸────

 集中を高める、構えることも、型を決めることもなくただ呼吸だけを身体に慣らして己の鼓動を早めていく。

 地中から飛び出てきた腕をバックステップで躱し肩に刀を担いだ。

 真菰が振るう刀に流水を見た、それが、俺に迫る全ての腕を斬り流す。

 ──ここだ、決めるなら、今しかない。

 

 ()()───玖ノ型:煉獄

 

 獄炎が、闇夜をぶち抜いて、異形の身体が斜めに斬り崩れて落ちた。

 ───まだだ、まだ、頸が落ちていない。

 全集中・炎の呼吸───伍ノ型:炎虎

 別れて落ちていく全身を全て呑み込むように、噛み砕くように、斬り砕く。

 頸を固めるように巻き付いている腕を切り砕き、裸に晒す。

 瞬間、水流が頸を断ち切った。

 

 

 鬼の頸が地に落ちて、やがてその姿がボロボロと少しずつ宙に消えていく。

 その頭を見届けながら、気が抜けたようにその場に座り込んだ。

 全身が死ぬほど痛い、出ていたアドレナリンとでも言うものが消え失せて全身の神経が正常な働きをしはじめていた。

 抉れた箇所が焼けるような痛みを発し、血液が流れ続けている。

 そんな俺の隣に、真菰もまた腰を落とした。

 彼女はただ一言、有難うと言葉を漏らし、静かに泣き出した。

 ………!? 何で泣き出した……!?

 どうしたら良いのか分からず俺はただ傍に居た、彼女の流す涙が止まるまで、俺はそっと近くにいた。

 

 数分もすれば、真菰は泣き止んだ。

 ただ俺に礼を言って、それから折角だし協力でもしようと言い出した。

 それ有りなの…? と思ったがそう言えば駄目とも言われていない。

 生存率が上がるのは良いことだ、ただ鬼と出会ったら必ず殺す、それが条件だ、大丈夫か?

 そう問えば彼女は快く了承した。

 そんなこんなで俺たちは七日七晩、二人でこの選別を生き残ったのであった。

 朝が来て、待機場に戻った時、十数名いたはずの受験者達はその数を大幅に減らし、俺たちを含めてたったの三人しかいなかった。

 生存率が低すぎると、素直にそう思う。

 俺と真菰が殺ったやつ以外は大したのはいなかったはずだが……まぁ仕方のないことか。

 もしかしたら更にヤバイのがいたのかもしれない、出会わなかったのは幸運だったのかもだな、そう思いながら双子の話を聞いていれば、鎹鴉とかいうやつを貰った。

 仕事の指令は全てこいつから貰うのだとか。

 便利なもんだな、と思って撫でようとしたら啄かれた、解せぬ。

 そんなこんなで鴉と戯れていたら、鋼を選んでください、と多種多様な鋼の入った箱を押し付けられた。

 この先使う刀の鋼は自ら選ぶのが決まりらしい。

 取り敢えず直感で選べばこれでよろしいですか? と聞かれたので黙って頷く。

 そうして全員が選び終わった後は、そのまますんなりと解散となった。

 育手の元に帰り、刀と隊服が来るのを待てとのことである。

 じゃあさくっと帰るか、なんて思えば裾を引かれた。

 何だ、と思って振り返ればそこにいたのは真菰だった。

 ひび割れた狐の面を頭の横に付けながら、また会えたら良いね、なんて言う彼女にその時はよろしくな、とそう返してやっと俺は帰路へと着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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