鬼殺し   作:からくりから

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※また型を捏造しました、許して※


第四話

 

 負傷を抱えたままフラフラと歩いていたら、藤の花紋を背負った人達に救われた。

 お人好しの集団か? と思ったがなんか違うらしい。

 彼らは鬼殺隊──つまり俺と同じ鬼狩りに救われた人達なんだとか。

 その礼として鬼狩りであれば無償で尽くしてくれるらしい。

 いや、受けた恩と返す礼が釣り合ってなくない……?

 明らかにお返しの負担がでかすぎるだろ、とは思ったが、まぁ助けてくれるというのだし文句はない。

 だが只管治療され、薬を飲み、塗られて寝る毎日というのも流石に飽きる。

 話し相手でもほしいな、と思い食事を持ってきてくれた青年に話しかけてみれば、彼は少々戸惑ったものの普通に応じてくれた。

 以来、彼とは良く話すようになった、食事以外の時も、暇さえあれば俺の元に来て話し相手になってくれるようになったのだ。

 良い人すぎるだろ……そう思いながらも俺は彼の厚意に甘えた、彼の話す話は、どうして中々新鮮なのだ。

 あまり、同じ年くらいの男とこうやって話すことが少なかったせいかもしれない、とにかく、俺は彼との話し合い……というよりかは彼の話を楽しみにしていた。

 ここで言う楽しみ、とは娯楽としての楽しみ、というだけではなく興味深い、といった意味も含められている。

 彼の知識量は正直かなりのものだ、いや、俺の学が無いだけなのかもしれないが。

 兎にも角にも彼は多くのことを知っていた、特に、鬼に関しては、話し出せば止まらないほどだった。

 

 鬼どもの首魁にして原初の鬼かつ全ての鬼の始祖、その名を鬼舞辻無惨だと、彼は言った。

 こいつの身体に流れる血が入れられた時、人は鬼化するらしい。

 というかこいつの血以外の方法で鬼になることは無いのだとか。

 あっさりと言ってしまったがつまるところ全ての原因はこいつである。

 父が、母が、弟が、女将さんが、同僚になるはずだった剣士達が、罪のない人々が、命を落としたことも。

 無辜の人間が、鬼へと道を踏み外すことになってしまったことも。

 鬼に纏わることの、その一切合切、何もかもが、こいつのせい。

 あぁ、殺すべきだ。

 否、殺さねば。

 素直にそう思った、同時に抱いた感情はありとあらゆるものを混ぜたようでいて、しかし純粋だったのだと思う。

 何故なら俺の心にそれはストンと、あまりにも自然かつ緩やかに、落ちて収まったから。

 そうと決まればまずは力をつけるべきだ、あの山にいた鬼相手に死を覚悟した程度の俺が、首魁の鬼に敵うとは流石の俺も考えてはいない。

 何事も反復練習、そして実戦。

 そうして少しずつ、しかし確実に、前へと進む。

 それしか方法はないだろう、飛躍的に力が上がる方法だなんて、ありはしないのだから。

 

 呼吸を身に着け、俺自身の身体が常人から外れてきているのか、はたまた施された薬や処置が良かったのか。

 正確な理由は定かではなかったが、しかし事実として俺は三日足らずで傷を癒した。

 たかだかそれだけの日数で、あれだけ深くついた刀傷が塞がったことに驚きはしたが、むしろ都合はよかった。

 人は鬼と違って傷つけば直ぐには治らない、けれども鬼には及ばずとも早く治れば治るほど、この身を鬼を狩る為だけに費やせるから。

 金の入った小さな袋を置き、お世話になりましたと藤の花の家を出る。

 当然(と言っていいのかどうかは定かではないが)彼らは金銭の類を受け取ろうとはしなかったが、しかしこれは気持ちの問題だ。

 鬼狩りであるからという理由で助けてもらったことには感謝の念しか無いが、それはそれとして何事にも対価というやつは必要だと思うのだ。

 彼らがそう思わなくとも、他の誰でもない、この俺がそう思う。

 だから、どうか受け取ってくれと半ば強引に握らせる。

 ついでに色々教えてくれてありがとな、と伝えてから藤の家を出た。

 

 それから数ヶ月、俺は任務をこなし、それ以外の間は宛もなくただフラフラと旅人のように街や村を放浪していた。

 というのも鬼殺隊というのは鴉を通した指令ありきで動いているからである。

 それはつまり、俺たち鬼殺隊というのは常に受け身にならざるを得ない組織である、ということに他ならない。

 誰かが死ぬ、または傷つく、行方不明となる。

 そういった不可解な事件が起きてからやっと俺たちは動き出せるのだ。

 だから、まぁ、自発的に動いていたら不意に鬼と遭遇した、なんてことは早々あることではない。

 あることではない、のだが──まぁ、確率というのは案外あてにはならないものだ。

 沈み込んでしまいそうな夜闇の中、くぐもった悲鳴が耳朶を打つ。

 常に集中を研ぎ澄ましてなければ聞き逃していたと思えるほどにか細く、しかし恐怖に震えた声音。

 誰かに助けてほしいと願い、絞り出された小さな声が、確かに俺の耳へと届いた。

 届いた同時に、地を蹴った。

 どこにいるのか、と思うことはなかった。

 あの日──女将さんを殺した日から、一分たりとも気を抜くことはなかった。

 否、抜ける訳がなかった。

 あの日の昨晩、人が死んだのは言い逃れようが無いほどに、紛れもなく俺のせいだったからだ。

 これを、俺は傲慢だとは思わない。

 俺であれば彼女を止められたのだ。

 俺が油断さえしなければ、あの日の昨晩、彼女は殺したくないと涙を流しながら誰かが殺すことはなかった。

 お嬢さんたちは、恐怖を覚え、痛みを思い知らされながら喰い殺されることはなかった。

 これは俺の──鬼を殺す者としての責任だ。

 全力で手を伸ばせば救えたはずの命を取りこぼした、情けなくも大きな責任。

 だから二度と、同じ過ちは犯さない。

 油断はしない、甘く見ない、常に全てに全力を注ぎこむ。

 そうしなければ俺は俺を赦せない。

 トン、と軽く地を蹴りつけた。

 同時に呼吸をし始める、肺を大きく膨らませ、自分の血流を加速させていく。

 全ては鬼を、殺すために(誰かを、助けるために)

 もう一度、今度は強く、地を蹴った。

 

 炎の呼吸──壱ノ型:不知火

 

 少しの抵抗を感じながら、それでも力づくで片腕を切り落とす。

 いくら鬼といえども、やつらは基本的に見た目は人とそう変わらない。

 どれだけ人外の力を得ようとも、片腕一本無くせば保ち続けていたバランスは容易に崩れる。

 更に言えばこの一撃は完全に不意を突いた、理想的な一撃だった。

 首を断てればそれに越したことはなかったが、しかしそこまでは求めすぎというものだ。

 そう考えながらわずかに崩れた身体の隙を縫うように蹴り上げる。

 振り上げた片足は鬼の顎を確実に捉え、その意識を一瞬揺らす。

 直後に解放された青年の着物を掴んで引きずるように後ろへ飛び退いて、すぐさま抱えて逃げるように走り出した。

 両腕で抱えた青年は、意識を朦朧とさせていて、ぐったりとしたまま浅い呼吸を繰り返している。

 ざっと視線を走らせれば、片腕は千切れ、腹には拳大の穴が空いていた。

 間違いなく致命傷だった、俺でも分かるほどに、助かりようがない。

 間に合わなかったと、思わず歯噛みする。

 済まない、と自然に言葉が溢れていた。

 俺がもっと早ければ、助かったかもしれなかった。

 全ては俺が未熟故の結果だ、恨んでくれても、構わない。

 そう言えば、彼はうっすらとその重い瞼を開き、俺の眼見ながら口を開いた。

 彼に俺の言葉が届いていたかどうかは分からないが、しかし彼は済まないが、一つ、頼みがある、と跡切れ跡切れに言った。

 何でも言ってくれと、返せば彼は、安心したように頬を緩め、それから言った。

 殺してくれ、と。

 ────。

 一瞬、喉が詰まる。

 彼はもう、自分が助からないと気づいているのだ。

 かつての弟のように、既に痛みももう、遠いところにあるのだろう。

 それを察して、同時にこみ上げてきた情けなさを押し込める。

 迷っている暇はなかった。

 鬼は着実に俺たちを追ってきているし、彼だって放っておけばこのまま苦しんだ後に、死ぬだろう。

 そう思い、そっと、彼を横たわらせた。

 それに気づいて、彼は有難う、とほっとしたように、そう言った。

 そうして俺はこの日、初めて人を、この手で殺した。

 鬼を殺し、人を生かすと誓った、自らの手で。

 

 濃く広がる真夜中の闇の先からヒタ、ヒタと薄気味悪い足音が耳へと届く。

 だがそれでも、激高したまま飛び込むような真似はしなかった。

 黒く渦巻く殺意も、怒りも、憎しみも、全て腹の底に沈め、冷静に頭を回し、鬼を観察する。

 随分と余裕のある鬼だ。

 藤襲山に始まり今に至るまで多く戦ってきた、所謂雑魚鬼と称しても良いような鬼は基本的に知性が飛んでいる。

 人を殺す、喰らう、それしか考えることのできない、程度の低い鬼。

 それらのような鬼というのは人を──彼らにとっての獲物を逃した、もしくは第三者によって逃がされたとき激しく激昂し言動も粗野になるものだ。

 故に余裕がない、戦い慣れているという訳でもないから相手を警戒しない。

 例外はあるだろうが大体はそういうものだ。

 それを知っているからこそ、緊張感が身体を駆け抜ける。

 何故ならその例から漏れるということは、あの鬼がそれだけ戦い慣れているということであり、またそれだけ人を喰らっているという、ある種の証左でもあるからだ。

 嫌な予感がチリチリと肌を焼いている。

 それを感じながらゆっくりと、沈み込ませるように呼吸を深めていれば、そいつはゆっくりと姿を現した。

 当然ながら既に再生しきっていた左手で顎をさすりながら、しかし至極愉快そうに口を開く。

 鬼狩りか?──等と聞くのはいささか愚問であるな、然らばこう聞こう。

 お前は──()()()()()()()()() と。

 

 問われたその言葉を切っ掛けに、確信に近い懸念が確信へと変わる。

 この鬼は間違いなく多くの人を喰らってきてて、少なくとも一人以上の鬼殺隊と戦い、殺している。

 その事実に、腸が煮えたぎるような思いすら感じたが、それでも動揺することはなかった。

 世に蔓延っている鬼の、その悉くが鬼殺隊より格下なのであれば今頃とうの昔に鬼も、鬼殺隊も存在しない。

 それの意味することは、即ち鬼という存在はこの世で最も優れた力を持つ生物ということに他ならない。

 そっと息を吸ってから口に出す。

 応える義理は無い、そも、問答する気は元より無い。

 お前のしてきたことも、何故お前がそうなってしまったのかも、須らく興味がない。

 お前に纏わるありとあらゆることが、心の奥底からどうでもいい。

 だから、なぁ、喋るな、もう、口を開くな。

 ただ、只管に──疾く、死に晒せ。

 

 炎の呼吸──壱ノ型:不知火

 

 炎の呼吸において壱ノ型は"最速"の型だ。

 瞬き一回の内に眼前へと踏み込み、そのまま袈裟懸けに刃を振るう。

 急速で後退したやつの身体を切っ先が掠めたのを感じながら滑るように回転、極低姿勢のまま勢いを保ち、跳ね上がるように振りぬけば、その一撃は確かに身体を捉えて斬り飛ばした。

 人と変わらぬ色の血が夜闇に解ける、同時に響く浅い悲鳴を聞き流し、更に空こうとする距離を食いつぶす。

 炎の呼吸は基本的に攻めの色が強い呼吸だ。

 故に守りには入らない、多少の無理があっても強く踏み込み道理を叩き潰す。

 今、この場の戦闘において主導権はまだ俺にある。

 だからこそ、手の内にある間にその頸を跳ね殺す。

 血鬼術など使わせる暇は与えない。

 一見我武者羅に見えて、その実隙が無いように刀を振るう。

 この接近した距離を維持して抵抗してきたその全てを斬り捨てながら進み続ける──が、それでも仕留めれない、仕留めきれない。

 致命的な一撃だけを上手く躱す、むしろそれ以外の攻撃なぞ意味はないと言わんばかりの様子で、そいつは笑った。

 笑いながら、口を開いた。

 カッカッカ! 随分とまぁ、血気盛んじゃあないか!

 それほどまでの殺意を育むにはそれ相応の時間と出来事があっただろう!

 何、安心しろ、そこまで踏み込んで聞くような無粋なことを俺はしない!

 ただ、なんだ。

 そうやって()を見るその目、その形相、ぞっとするほどの殺意。

 まるで貴様の方が鬼のようじゃあないか!

 そう放たれた言葉を、直ぐに理解できなかった。

 瞬間的に思考が止まり、噛み砕くように言葉を呑み込んで、そしてそれから──浅く、笑った。

 安い挑発だ、そもそも、俺は俺が侮辱されたところで何とも思わない。

 俺はただ、お前らが殺せれば、それでいいのだから。

 そのためであれば、それこそお前ら鬼にとっての鬼になっても構わない。

 だから、俺が今すべきことはもっと早く、もっと強く、もっと鋭く、もっと正確に刀を振るい、お前を殺すことだ。

 呼吸を深く、深く深く深く、どこまでも己の身体に馴染ませていく。

 それに呼応するように、宙にたなびく炎は勢いを増していく。

 だが、足りない、まだ足りない。

 もっとだ、もっともっともっと。

 恐れを捨てて、怯みを忘れ、一歩でも多く踏み込む。

 捌ききれなかった拳が肩を穿つ、それでも止まらない。

 避けきれなかった蹴りが頭を揺らす、それでも止まらない。

 止まらない、止まらない、止まらない。

 必ずこいつの頸を撥ね殺す。

 そうしてついに守りを抜けて振りぬいた刀は頸へと向かい──しかし甲高い音と衝撃と共に、弾かれた。

 ──!?

 一瞬だけ、思考が真っ白く塗りつぶされる。

 そんな俺を見て、鬼が笑った。

 

 衝撃が胸を貫いて、視界がグンと変わった。

 遅れてやってきた激痛に掌底で吹き飛ばされたと察し、空中で姿勢を立て直して何とか着地すれば、ゴボリと血が吐き溢される。

 血鬼術の可能性を考える、だがそう決めつけるのは早計だとも思い直した。

 血が上りきっていた頭を落ち着かせ、無駄な力を抜き落とす。

 そうすれば、やはり奴はカラカラと、酷く愉快そうに笑って言った。

 あぁ、良い、良いなぁ! とても見事だ!

 一瞬の動揺を呑み込み慌てることなく構え直し、俺の能力を判別するために防御と回避に徹するように神経を尖らせている!

 前の奴にはできなかったことだ、ただ動揺したまま死の運命を享受した!

 故に、見事だ! さぁ、もっと楽しませて見せろ!

 そうして鬼は地を蹴った、その速さは、さっきの比じゃない。

 だが見える、どう動き、どこを狙っているのかを見過ごすことはない。

 腹の底でどす黒く燃え滾る感情を、努めて抑え、振りぬかれた腕に合わせて刃を振るう。

 断ち切る為ではなく、受け流すために角度を変えて、激しい火花を上げながら拳をやり過ごしながら思考を回転させた。

 明らかに表皮の硬度が上がっている、鬼というのは人を喰えば喰うほど、つまり強くなれば強くなるほど身体は、頸は硬くなるというが、しかしこいつには当てはまらないだろう。

 俺は先ほどまでこいつの腕をズバズバと斬り飛ばしていたのだ、となればやはり、ああなった絡繰りは間違いなく血鬼術にある。

 そうなれば自然とその正体もわかるだろう、些細な違いはあれど。やつの血鬼術は純粋な身体の硬化だ。

 至極単純、だがそれ故に歯噛みする。

 最初の一撃から今に至るまで、俺は全力で刃を振るい、限界まで呼吸を深めていた。

 だがそれでも弾かれた、即ち今の俺にやつを殺す手立ては無い、ということに他ならない。

 ここで刃以外の手段、例えば爆薬や銃などがあれば話は違ったかもしれないが、生憎俺はこの刀しか持ち得ていない。

 つまり、一般的に言うところの詰み。

 だが、諦めるということは、あの日抱き、今も俺の内を破らんとばかりに吠える己の獣性が赦さない。

 あの日、己が立てた誓いが赦さない。

 どのような力でさえ、どのような絶望でさえ、諦めることは赦さない、赦されない。

 斬れぬなら斬れるまで刀を打ち付けよう、その頸が落ちるまで呼吸を深め続けよう。

 振るわれた拳を躱して弾き飛ばす、流れるように迫る蹴りを叩き飛ばす。

 未だ鬼は何かを言っていた、だがもう、何も聞こえない、聞く気が無い。

 ただ只管に集中力を上げ、静かに、しかし力強く息を吐いた。

 炎はより強く、燃え上がる。

 

 刀と拳がぶつかり合って、激しい火花と共に金属音が響き渡る。

 接近されすぎず、されども離れすぎず、適度な距離を常に保ち続けながらも拳を捌く。

 当然、俺の振る一撃は頸を跳ねるどころか傷一つつけることすらできずにいた。

 元より余裕を持ちながら戦える敵でもない、故に長引けば長引くほどこちらが不利だったが、しかし焦燥感だけは感じなかった。

 あるのはただの殺意だけ、それだけ只管研いで、磨いて、己の芯に据える。

 深まる集中が、精度を上げる呼吸がそれを熱し、焼き上げる。

 どこまでも強く、どこまでも熱く、己の全てを燃やし尽くすかの如く。

 そうして幾度も振り続けた刀は、ついに鮮血を走らせた。

 浅くではあるが、しかし確かに肌を裂き、そして鬼は目を見開いた。

 直ぐに傷は塞がったが、それでもやつはそこに目を向けてから、これ以上ないほど嬉しそうに笑った。

 クク、クカカ、カッカッカッカッカ! 素晴らしい! これまで五十と八の剣士を殺したが、この状態の俺に傷をつけたのはお前が初めてだ!

 良いぞ善いぞ好いぞ! もっとだ、もっともっともっと! お前の力の底まで全部俺に──と、そこまで言ったやつの口へと刀を突きたてた。

 ズブリと肉を裂き、そのまま斬り払う。

 その醜く歪んだ口元からパックリと真横に裂き、そのまま両の目を指で貫き抉り、斜め前方へと投げ飛ばす。

 刹那、鬼の拳は肥大化した。

 いや、正確に言うのであればその両拳はまるで金属をがさつに集め凝縮したような、巨大な槌とでも言える形状へ変質したのだ。

 それを見ながら、しかし退かない。

 強く地を踏みしめ柄を握りこんだ。

 全集中・炎の呼吸──弐ノ型:昇り炎天

 鈍重な一撃が刀を通して全身へ、一瞬だけ駆け抜け──そして、その一撃を斬り裂いた。

 炎が揺らめき散って舞う。

 クカカ、と幾度目かの笑い声が耳を打つと同時、刀を振りぬいた。

 全集中・炎の呼吸──捌の型:迦楼羅の炎

 ゆるりと焔は燃え上がる、防御をするかの如く持ち上げられた脚ごと首を半分裂き、高速で斬り返す。

 頸に刀身が張り込む瞬間、あぁ……やっとか、という安堵にも似た言葉を聞いた。

 

 頸が跳ぶ、血飛沫と共に呆気なく。

 けれどもこれまで会ってきた鬼のように、直ぐにその身を塵に還すことはなかった。

 それだけ強かった、もしくは生命力が高かったということだろう。

 まぁそれも関係なく、直ぐに消えるだろうが。

 頸の落ちたそこへ歩み寄る。

 そうすればやつはいやに安らかな表情で、こともあろうに礼を言おう、と言った。

 この身が鬼へと堕ちてから今日まで三年と六か月。

 俺は俺より弱いやつに負けることだけは赦せなかった、だからこそ来るものを殺して、殺して殺して、時には今宵のように喰らい、そうしてようやく俺を殺せるもの(お前)と出逢えた。

 あぁ、良かった、俺は満足だ。

 これで、やっと、死ねる──。

 そう言ったやつの頭に刀を捻じ込んだ。

 巫山戯るな。

 貴様がその、くその役にも立たん下らぬ誇りの為に、何十何百の人の未来を奪ったと言うのであれば。

 貴様にはもう、赦される余地はない。

 地獄に堕ち、その罪を永劫を以て償え。

 そう言うと同時、鬼は静かに、跡形もなく滅んでいった。

 ふと、身体が落ちていたところを見れば、そこには幾つもの刀の鍔が落ちている。

 やつが喰らったという、剣士たち──先輩方の物だろう。

 数もピッタリ五十八だ。

 それを全て袋に詰めて、悪いがよろしくなと鴉に持たせる。

 遺品を見つければ、鬼殺隊の方で作られた墓所へ送るのが基本的な決まりだ。

 これだけ数がある為、何回かに分けようかと思ったが、鴉が問題ないとバタバタしたので全て持たせれば鴉は直ぐに飛び立った。

 その姿を眺めながら名も知らぬ先輩方を思い、どうか安らかに、とそう願った。

 

 

 

 




この主人公煽り耐性ゼロどころかマイナスに振り切ってんな……
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