弱くても勝てません、強くなりましょう   作:枝豆%

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「おぉおぉお!!!!!」

「おぉぉぉおおおお!!!!」

 

「ォォォオオオオオ!!!!」

 

 番狂わせ。

 それを言うだけなら簡単だ、しかしそんな奇跡に近いことはほとんど起こらない。

 無名校が有名な青道に勝つ事など、普通では有り得ない。

 

 だが、もしもだ。

 それを成し遂げたとしたら。

 

 それはどれだけ周りをざわつかせ、更に鼓舞させるか。後々になって分かってくる。

「あの青道を倒した」

「あの東を抑えた」

「あの──」

「──」

 

 今とは比べ物にならない重圧と、青道全員の想いを背負ってこの夏を勝たなければけいない。

 

 だが、それでも……。

 

 今だけ薬師は最高の表情で勝ちを喜んでいた。

 

 

 

 

 △、!!!! 〇

 

 

 

 青道高校の三年生は皆泣いていた。そして、一二年生は涙を流さないように堪える。

 夏の敗北は三年の引退と同義である。

 そしてそれは変えられない事実。

 

 この三年間で一度も甲子園の舞台に立っていない。

 一度も片岡監督を甲子園へと……。

 

 もうここで終わったんだと……。

 最強のメンバーだった、打撃を磨き上げ化け物クリーンナップを軸に大量得点をとるチームとして。

 

 だが、結果は無名校の一年生投手に完封を決められ呆気なく4回戦で散った。

 

 その事実を三年生は受け止められない。

「なんでだ」

「誰のせいだ」

「誰が悪い」

 

 誰しもが現実逃避をする。

 やり切った……そんな言葉は死んでも出てこない。

 

 夏を一度も負けずに終えることが出来るのは、甲子園で優勝した一校だけ。

 その一校になるための努力は惜しまなかったはずだ。だが……。

 

 

 それでも勝負の世界は歩みを止めてくれない。

 負けた者は無理やり振るい落とされる。

 

 時間は止まってくれない。

 

 

 

 そしてもう一度現実を知らされられる。

 

 ──俺達の夏は……高校野球は終わったんだ、と。

 

 

 

 

 

 

 〇◎! __

 

 

 

「お前ら!! 良くやった!!」

 

 雷蔵は感極まって優勝した訳でもないのに、泣きそうだ。

 この人は「甲子園に連れてけ」だの言うが、こういう一勝を重く受け止めている。

 通過点だなんてよく言われるが、確かにそれは間違いじゃない。それでも一戦一戦には重みがある。

 

 

「やべぇ、体力残ってねぇわ」

 

 足をガクガクさせながら監督のミーティングを聞いている樟葉。

 

「おうおう情けねぇな。記者さん待ってっぞ、今日のヒーローなんだからもっと堂々としてくれよな」

 

 そんな文句のような野次のようなものが聞こえるが、正直立っているのも辛い。

 球数は120を超えていた。自分でも良く投げられたと思っている。

 あの暑さで最終回までよく持ったものだ。

 

 凍らしておいたアクエリを首に当てながら記者さんと受け答えをする。

 普通は立って礼儀正しく取材されるのだろうが、正直出し切って体力がそこまで残っていない。

 

 大物食いを果たしたからか、記者は四回戦とは思えないほど集まっていた。

 三人も囲まれた。しかし、俺よりも凄いのが……。

 

 

 少し離れた場所で取材を受けている東だった。

 まさかの四回戦敗退。三強が散って誰もが決勝まで青道が上がると思われていたのに……。

 まさか無名校に敗れた。

 

 その追い打ちをかけるように記者はこぞって東を囲む。

 それを傍から見ると、強豪も大変なんだ……と思う。

 正直負けて当たり前と思われていた俺らは、負けたところで何も無かっただろうし、記者さんに囲まれることは有り得なかっただろう。

 

 ──今日の試合どうだった? 

 ──誰が一番手強いバッターだった? 

 ──青道を完封した感想は? 

 

 

 東の周りの記者も大人気ない。

 青道を叩くような発言ばかり。

 

 負けて泣いていた高校生(ガキ)にする行為ではない。

 だからといって、そんなこと正面から言うことも出来ない。そんなことをすれば俺だけでなく薬師全体の評価が意図的に落とされる。

 

 勝てば問題ないだろ。

 しかしだ、今回薬師が青道に勝ったのは間違いなく場の雰囲気が関係している。

 番狂わせを願った観客が、薬師を応援してくれたおかげで球場全体の雰囲気を飲み込んだと言って差し支えない。

 

 つまり、俺ができたことといえば。

 

 

「あはは、そうですね」

 

 作り笑いを浮かべて、記者の言葉を無難に、そして欲しそうな言葉を選んで答えただけのなんの面白みもない会話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎♡

 

 

 

 

「あー、しんどっ」

 

 疲れている中に変な気を使って、本当に疲れた。

 財布から小銭を出して自販機で水を買う。

 

 多分自分が思っているよりバテている。

 早めにトイレを済ませて薬師の選手が固まっている所に戻ろうとすると。個室の方から何か音が聞こえてきた。

 

 それは嗚咽を飲むような。

 

 夏バテで誰か嘔吐しているのかと思ったが、それは違った。

 

「……うっ、う……うっ」

 

 それは啜り泣く音だった。

 多分誰がないているのかは何となく分かった。

 

 青道の選手だろう。

 ここで鉢合わせするのは気まずいと思い、早めに尿を足して便所を出ようとするが個室から水を流す音が聞こえた。

 

 

「あ……」

 

「……ども」

 

 気まずい……。

 そんな気がしていたが、本当に出てくるものなのか。

 

 それも確かこいつは捕手だった、俺と同じ一年の御幸。

 試合後の挨拶では3年生とは違い泣き崩れてはいなかったが、我慢していただけなんだと今悟る。

 多分監督からのフォアボールからのホーム直行で誰に一番責任が行くかといえば捕手だろう。

 

 一塁手も声を出せば未然に防げただろうが『タイム』のかかっていない状態でホームベースを空けたのは捕手の責任だ。

 

 多分この敗戦を人一倍重く受け止めているのはコイツだろう。

 

 

「……やられたよ、まさかお前みたいなのが無名で隠れてたなんてな」

 

 話しかけずに立ち去ってもらいたかったが、なんで話してきちゃうのだろう。ここは無言でいいだろうが。

 気まずいよ、ほんと……誰か助けてっ! 

 

 

「ま、まぁ、高校からピッチャー始めたから」

「──!? ……そっか〜、次は打ち崩すから覚悟しとけよ」

 

「おう」

 

 そう言って御幸は便所を出てく。

 

 

「やっぱ強豪は大変だな〜」

 

 樟葉はその時心底そう思った。

 

 

 

 △、! 〇〇

 

 

 

 

 

「なぁ! 今日祝勝会しね??」

 

 ミーティングが終わり、現地解散となったので俺と真田、阿部に米原に平畠の一年組で帰っている所に阿部が提案した。

 

「パス、金ない」

「右に同じ」

「俺も今日はパスかな」

 

「お前ら付き合いわりぃぞ! っで? クズはどうする?」

「お前そのあだ名定着させようとしてるだろ、させねぇよ?」

 

「分かったから、それで? いく?」

「いくったって、帰りの交通費抜いてみんなあとどんだけ持ってんの?」

 

 出てきたのは合わせてたった二千円程だった。

 

「これでどうやって祝勝会するつもりだったんだよ」

「それはほら……ファミレスとかで」

 

 全員ドリンクバーで終わりだぞ?? 

 食べ物なしの飲み物オンリー? それなんて罰ゲームだよ。

 

「ちぇーじゃあ帰るか……せっかく青道に勝ったのによ」

「……あ」

 

 何故か「あ」と漏れた樟葉に二年の視線が集まった。

 

 

 

「じゃあ、ウチくる?」

 

 

 

 

 

 △〇〇◎!? 

 

 

 

 

 

「「「「おおー!!!」」」」

 

「ボロいな」

「うん、ボロい」

「Theアパートって感じだ」

 

「ボロカス言うなお前ら、きーつかわれるよりマシだけど、ストレート過ぎるのはどうかと思うぞ」

 

 そう言って制服でアパートの階段を上がり、鍵を開ける。

 

「ってか樟葉って一人暮らしだったんだな」

 

 真田がそう聞いてくる。

「まぁ、親いないしな。ばっちゃんも中三の時にぽっくり行ってな、親戚のとこにたらい回しにされる様な歳じゃないからな」

 

 そんなことを何も無い感じに言うが、樟葉以外はテンションダダ下がりだった。

 全員が重いっと思ったのは間違いないだろう。

 

 そこは親の転勤とかにしとけよ。など思いつつこの話題には触れないようにする。

 

「ん? あー気にすんなよ、そういうのって周りが気にするほど当事者は気にしてないから」

 

「そ、そうか……なんか悪ぃな」

「だから気にすんなって」

 

 そう言われてみれば、樟葉はこの3ヶ月で結構不審な点はあった。

 朝練に遅れてきても監督からは怒られてないし、週一のoffは自主練をせずに秒で帰ってるし。

 

 

 それについては直ぐに答えがわかった。

 家、というか部屋にあげられ。安さと多さが売りの業務スーパーで食材を買ってきていたので、それを机に広げた。

 

「じゃあ俺作ってるからくつろいどけよ」

 

 やばいコイツ……できるっ! 

 と、そんな事言われても暇を潰すようなものはこの部屋にはない。ゲームを探していたが樟葉に無いとキッパリ言われた。

 

 自動的にスマホに手が伸びるのだが、帰りの電車で触っていたので充電がそこまで無いのでこれも除外。

 

「お、俺も手伝うぞ」

「おおう、俺も出来ることあれば言えよな」

 

 早く料理できろ! という感じになる。

 するといつもどうりリラックスした真田が、カレンダーを見ながら声を出した。

 

「おーい樟葉、この◎と△ってなんのマーク?」

 

「ん? あー、◎は朝の新聞配達のバイトで△はカフェのバイト」

 

 

「「「お前バイトやってたのかよ!!??」」」

 

「うわっ、びっくりした。火使ってる時に大声出すなよ、ビックリするだろ」

 

「え!? マジでお前バイトしてたのかよ」

 

 阿部が驚いて聞く。だが……。

 

「いやいや、ウチの学校バイト禁止してないし。ってか監督からOK貰ってるからいいだろ」

「マジかよ……」

 

「すげぇな」

 

 

 それからはいつもの調子に戻って、主に今日の青道戦の話をしていた。

 

 ──真田のタイムリーは痺れた。

 ──樟葉の最終回のピッチングはアドレナリンでまくりだった。

 ──小便カーブwwwwww

 ──米原の粘りは渋かっこよかった。

 ──阿部? 知らん、4タコだろ? 

 

 

 そんなことでバカ騒ぎしていたら、台所から樟葉が大皿を持って机に来た。

 

「簡単なもんしか作れないけど、要望あったら言ってくれ。具材と相談しなきゃならんけど」

 

「お好み焼きを簡単っていうクズさん、マジパネェ」

 

「もういいや、ほら熱いうちにさっさと食っちまえ」

 

 

 ボロいアパート故に壁は薄いのだが、逆に入居者がほとんど居ないのでクレームは来ることなく。

 バカ共がバカ騒ぎしてバカみたいに飲み食いして……。

 

 

 

 そんで今日はバカみたいに楽しかった。




こういう日常回って大事だと思う(主観)
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