IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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いつも投稿前に文の見直しはしてるんですけど、最近はその時間も無くてあまり出来ていません。毎回誤字修正をして下さる方々には頭が上がらないです……ありがとうございます。


33.とろとろしゃるろっと

sideシャルル

 

「どうですか?そろそろ落ち着けました?」

 

「……ぐすっ。う、うん、ごめんね綾崎さん。こんな風に泣きついちゃって……」

 

「気にしないでください。私の膝なんかでよければ、いつでも貸しますから。好きなだけ使ってくれてもいいんですよ♪」

 

「うぅ、みんなが綾崎さんのことを"お母さん"って呼ぶ理由がやっと分かった気がする……こんなの勝てないよぅ……」

 

「ふふ、素直に甘えられるのはいいことですよ。ほ〜ら、もっとも〜っと甘えちゃいましょうね〜♪」

 

「うぅぅ……だめになっちゃうよぉ……溶かされちゃうよぉ……でも離れられないよぉ……」

 

あの後、寮監室に招かれた僕は、その流れのまま彼女の膝に泣きついてしまった。

部屋に入ると直ぐにベッドに腰掛けた時は不思議に思って戸惑ったものだが、膝上にブランケットを掛けて『さあ、どうぞ?』と言われてしまえば行くしかあるまい。行きました。

あんなにも慈愛に満ちた表情で手を広げられれば、きっと一夏だって、織斑先生だって抗えないと思う。だからこうなってしまった僕はきっと悪くない。

 

ブランケットのかけられた彼女の膝はとても柔らかくて、ぎゅっと抱き締めたら折れてしまいそうなほどに細いのに実際にはとても頼り甲斐があって……

ぎゅーっと頭を抱き抱えられて頭を撫でられているともう本当に駄目になってしまう。

 

ストレスとか悩みとか全部吹き飛んでしまって、同級生にこんな甘え方するのは良くないと思って離れようとしても、彼女がこれでもかと甘やかしてくるので全く逃げられる気がしないのだ。

 

こんなの母性の暴力だ。

 

こんなことをされては、きっと僕は一生彼女から離れられなくなってしまう。

それなのに、それなのに……

 

「んっ……今日も一日頑張りましたね。今だけは辛いことも悲しいことも全部ぜ〜んぶ忘れて、私に身を任せてください。」

 

「う、うぅぅ……綾崎さんの鼓動が聞こえてすごく落ち着く……」

 

「大丈夫、大丈夫ですよ〜?私はここに居ますからね〜。私が近くに居る間は、シャルルさんの事は私が守ってあげますからね〜♪」

 

「うぅ……好きぃ……」

 

さり気なくとんでもないことを口走ってしまったが、この部屋には僕と彼女しか居ないから問題ないはず。

彼女の仕草や言葉の一つ一つが死んだお母さんを思い出させて、僕の心を解きほぐしていくのだ。これくらいは許して欲しい。

 

「ふふ、嬉しいことを言ってくれますね。そんなシャルルさんにはもっとも〜っとご褒美しちゃいましょうか♪」

 

「あぁぁあぁぁ……」

 

もうだめだ、おしまいだ。

世界の真理はここにあったんだ。

綾崎さんの膝と胸の間こそがこの世界に残された最後の楽園だったんだ……

ここに居れば全ての負の感情から解放される。

ここに居れば全ての嫌なことを忘れられる。

もう何も怖くない、一生ここで暮らしたい。

 

お母さん、ごめんなさい……

僕にももう一人のお母さんが出来てしまうかもしれません。

でも、お母さんのことを忘れたわけじゃなくて、ただ僕がこの母性に抗えないというだけの話なのです。

むしろお母さんが居たからこそ、2人目のお母さんができてしまったというか、僕は悪くないというか、僕じゃなくてもみんなこうなるはずだというか、だから、だから……

 

「は〜い、シャルルさん?耳掻きのお時間ですよ〜?」

 

「ま、待って……そんなのだめ……」

 

「ふふふ、そうは言っても抵抗する気が無いのは分かってますからね〜♪ は〜い、こしょこしょ〜♪」

 

「あぁあぁあぁぁぁ………」

 

他人に耳の中を見られてしまうなんて、普通は汚れていないかとか気にしてしまうものなのだが、勿論どうにも逆らえない。

強過ぎず、弱過ぎず、浅い所から深い所まで彼女の手によって遠慮なく暴かれていくのだが、それなのに自然と指の一本にも力が入らなくなるほどに骨抜きにされてしまう。

この間、僅か3分。

たった3分で僕は彼女の虜になっていた。

 

「……ん、よく取れました。シャルルさん、引き抜きますからね〜。」

 

「あっ、あっ、あぁ〜」

 

ゆったりと耳垢を取った綿棒が引き抜かれ始めると、それに呼応する様に身体全体が震え始める。ピクリピクリと跳ね上がるそんな僕を見て綾崎さんはクスクスと笑っているが、その手を止めようとはしない。

 

「さ、ふーってしちゃいますよ。びっくりしちゃ駄目ですからねー。」

 

「まって、まって……!」

 

「はい、ふ〜っ……」

 

「ひぁあぁあぁっ!?」

 

無理だと、これ以上は本当にもう無理だと。

この締まりのない僕の顔を見てどうか分かって欲しい。

これ以上情けない顔を見せたくないという僕の最後のプライドを汲んで欲しい。

許して……許して……

 

「な〜んて言いつつも、本当はもっとして欲しいんですよね〜?シャルルさんは♪」

 

 

 

……はい。

 

 

 

「はいは〜い、じゃあ次はお耳のマッサージですよ〜♪ お耳の中に指を入れたり、塞いだり閉じたり、もみもみしたりしますからね〜♪」

 

 

……お母さん。

どうやら今日が僕の最期の日になりそうです。

 

 

「やあぁぁあぁぁ〜……」

 

 

 

 

 

 

「うんうん、やっぱり元が良いと違いますね。これからは毎日ちゃんと続けるんですよ?一夏くんに怪しまれたら私に命令されたとでも言って誤魔化して構わないですから。」

 

「う、うん!わかったよ、ありがとう!」

 

綾崎さんに存分に溶かされてしまった後、僕は彼女にいくつかの化粧品を分けてもらっていた。

 

あの後なにが起きたのか……?

そんなの今の時間があの時から2時間も後だという時点で色々と察して欲しい。

綾崎さんはすごかった、あの細くて白い指が僕の両耳に入った瞬間の何とも言えない背徳感と快楽は多分もう一生忘れられそうにない。

 

「……乙コーの化粧品の噂は聞いてたけど、やっぱり凄いね。これ高かったりしないの?」

 

「確かに一般的なものに比べて値は張りますが、それでも庶民の手に届く範囲ですよ。それに私の場合は勝手に色々と送られてきますから、気にしないでください。」

 

一夏と同部屋になることを危惧してそういった類のものを持ってこれていなかった僕としては、これは本当に嬉しいものだった。

しかも分けて貰った物は乙コーの化粧品の中でも僕が名前を聞いたことがあるくらいに人気のものばかり。常時品薄状態が続く様なものをこうして使うことができるなんて、1人の女性としても嬉しい。

 

それに、こうして彼女に化粧品の使い方を実際に教えて貰っていると、昔お母さんに初めて化粧の仕方を教えて貰った時の事を思い出して、それもあってこの時間は僕にとって凄く楽しく感じられた。

 

 

「……さて、そろそろ私は夕食を作ろうと思うのですが、勿論シャルルさんも食べていきますよね?」

 

「え?綾崎さんが作るの?」

 

「え?ええ、そのつもりですが……」

 

そう言ってフラフラと車椅子から立ち上がろうとする綾崎さん。

なぜそんな状態で当然のようにそんなことが言えるのか……

 

そういえばと思い返せば、亡くなった母も体調が悪いにも関わらず僕の心配も他所に当然のように家事を行なっていたことを思い出す。

お母さんというのは、どこもこんな感じなのだろうか?

思い出すとこんな姿でさえも何処か懐かしく感じる。

 

……けれど、

 

「だめ。」

 

「え?」

 

「綾崎さんは座ってて、今日は僕が作るから。そんな身体で家事なんて絶対させないよ。」

 

「で、でもいつもは……」

 

「絶対だめ!いいから座ってること!ほんとにだめだからね!?」

 

「そ、そうですか?そこまで言われては、我慢、しますが……」

 

その結果、母は倒れたのだ。

その時、僕は大いに後悔した。

だから、もう二度と同じ間違いは犯さない。

 

……だからそんな悲しそうな目を向けられても絶対に屈しない。

ダメなものはダメなのだ。

いくらそんな上目遣いでねだる様にこちらを見てきても負けない。

心を鬼にしてでも、あの目に勝たなければ……!

 

これでも料理には多少の自信があるんだから、少しでも綾崎さんの負担を減らすんだ!

 

 

 

……なお、この五分後に気になって綾崎さんの様子を覗いてみたら、彼女は当然のように洗濯物を畳んでいた。

いや、確かに料理よりはマシだとは思うのだけど、なぜジッと座っていることができないのだろう。

ワーカーホリックという奴なのだろうか?

 

それでも、洗濯物畳みなんて面白くなさそうなことを、見て分かるほどに楽しそうにしている所を見ると、僕には止められなかった。

 

この人は本当に僕と同い年の女の子なのだろうか?

自分が大人になったとしても、こんなにできた人になれるイメージが全くできない。

 

……一夏も言ってたけど、お嫁さんにするとしたら、男の人はやっぱりこんな人が理想なのかなぁ。

 

 




--おまけ--
sideシャルル

「ぬわぁぁぁぁ!疲れたぁぁぁ!!」

「ふわぁぁっ!?」

「一夏くん……?」

あれから更に1時間程が経ち空も真っ暗になり、僕の料理も完成に近づいた頃、一夏達は漸くドタバタと寮監室へと入りこんできた。
突然扉をあけてその場で倒れ伏した一夏の勢いに思わず驚いてしまったが、それまでベッドメイクを行なっていた綾崎さんが直ぐに近付き労っているところを見ると、やはり見習いたいと思ってしまう。

「あらら、これはまたお疲れですね。そんなに箒ちゃん達に絞られてしまいましたか。」

「い、いや母さん。今日は私達のせいではない。あのラウラ・ボーデヴィッヒとか言う奴のせいだ。」

「???ラウラさんですか?」

「そうなのよ。あいつってばいきなりやって来て『お前のことを教えろ!』って襲い掛かってきたの。良い機会だと思って私達も傍観してたんだけど……」

「やはりラウラさんは軍人なだけあって強さが桁違いでしたわ。」

「結局、生かさず殺さず1時間ほどかけて痛ぶっていたな。15回ほど一夏がぶっ飛ばされた辺りでスッキリした顔をして帰っていったが……」

「くっそ!あいつ絶対許さねぇ……!!次は絶対ぶっ飛ばし返してやる……!」

床に這い蹲りながらそう宣言する一夏。
しかしそんな風に憤っていても綾崎さんに頭を撫でられれば酷くみっともない顔をするのだから格好がつかない。

「えっと、一応みんなの分も作ったんだけど……食べていくよね?」

「「「「もちろん(だ)(よ)(ですわ)!!」」」」

「そ、そっか。それならよかった。」

お腹が減っていたのか凄い勢いで詰め寄ってきた4人は、普通に怖かった。


……けれどこの日、僕はようやく本当の意味で彼等と笑い合えた気がした。

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