あ、あと昔のアカウント改造して投稿日に報告とかしようかなと思ってます。基本的に難産しながらオタクしてるだけですが……↓
@suresuredrink
奈桜がこのアジトへ来て数日が経ち、とうとう学園へと戻る日が来てしまった。
長いようで短かったここでの生活は、存外奈桜にとっても悪いものでは無かった。
……その理由の一つとして、今部屋で荷物をまとめている彼の後ろでじっとその様子を見守っている少女の存在がある。彼女は荷物をまとめる彼を見守りながらもギュッと両手を握り締めていた。
「……本当に、行ってしまうのか……?」
「ええ、私にも役割がありますから。それはマドカさんだって同じでしょう?でしたら、いつまでもここで停滞している訳にはいきませんよ。」
「……強いのだな、貴方は。」
「そんなことはありません。私だってここでの生活は気に入っていますし、皆さんと離れることにも寂しさは感じます。……ですが、私達はまた会えるでしょう?マドカさん。」
「!!……あ、ああ、そうだ。必ず近いうちにまた……いや、今度は私から貴方に会いに行く。絶対だ、約束する。」
「ふふ、マドカさんならそう言ってくれると思っていました。……それでは、行きましょう?荷物は私に持たせてはくれないのでしょう?」
「と、当然だ!私に任せて欲しい!……よ、よし。これくらい楽勝だ!」
「ええ、とっても頼もしいですよ。マドカさん。」
「〜っ!!」
この数日の時が経っても、マドカの彼に対する想いは一切変わらなかった。
それどころか間近で見た彼が自分の想像通り、どころか想像以上の人物だったことで、増している節すらある。
奈桜も多少は手足の神経が戻り、束が即席で作った補助道具があるとは言え、それでも満足に動かせるわけではない。
そのためマドカはいつも彼の代わりになって色々なことを率先して行い、憧れの彼に直接教えて貰いながら家事をしていたりもした。
不器用ながらも彼の言うことをしっかりと聞いて必死に実行しようとするその姿はとても愛らしくて、基本的に自分で出来る事はなんでもやろうとする奈桜もこの時ばかりは一歩引いて彼女の成長を見守っていた。
2人の相性は意外と良く、仲良くなるのにそう時間はかからなかった。
奈桜の前ではどうしても緊張して上手く話せなくなってしまうマドカでも、言葉を言い終わるまでしっかりと聞く姿勢をしてくれている奈桜とはゆっくりとでも話すことができたし、
他人に対して命令や頼み事をするのが苦手な奈桜でも、マドカの習う姿勢とお願いをされるととても嬉しそうな顔をする姿から素直に頼み事ができるようになった。
滅多に部屋から出てこない束、基本的に日中は外へ出て何かをしているオータム。
必然的に2人で過ごす時間は多くなり、可愛らしい少女に懐かれて奈桜の母性はホクホクで、憧れの存在にドキドキしながらも言葉を交わせる程の仲になり興奮冷めやまぬマドカと、需要と供給の成り立つ互いに良い関係が築けていた。
「ん〜?あれ、まーちゃんとちーちゃんの嫁ちゃんじゃん。……あー、今日帰る日だっけ?」
廊下をゆったりと歩いていると、ガーッと開いた重厚な扉の奥からいつもの青ドレスを着た天災科学者が、それはもう酷くみすぼらしい格好になってヨロヨロと這い出てきた。
徹夜3日目。
流石の天災・篠ノ之束と言えど、72時間殆ど休息無しの働き詰めは限界である。
むしろ彼女ほどの天才が何をそんなに時間をかけてしているのか凡人には想像もつかないが、何処か生き生きとしているだけに誰も止めようとは思わない。
なんだかんだで自分の体調管理は最低限しているのが彼女だ、誰も問題だとは思わない。
……とは言っても、三度の飯より人の面倒を見るのが好きな奈桜に関しては例外であるのだが。
「大丈夫ですか……?よければこのタオル、使ってください。冷たいお茶もありますから。」
「たはは〜、いやぁ助かるよ〜。嫁ちゃんが居てくれると疲れててもご飯とお風呂が出来てるからね〜。一生ここで働かない?お金なら出すよ?」
「あはは、大変魅力的なお話ですが今はやめておきます。今は学園の方でやらないといけないことがありますので。」
「ま、それもそっか。束さんも嫁ちゃんを奪ってちーちゃんに殺されたくないしね。……あ、まーちゃん。先に行って荷物だけ運んどいてよ、束さんは嫁ちゃんとお話しがあるからさ。」
「……何もしないだろうな?」
「大丈夫大丈夫、多分今の束さんOちゃんと同じくらいの力しか出せないし。」
「……十分なのではないか……?」
そうブツブツと言いながらもマドカは束の指示に従ってその場を離れる。
マドカとて別に束の事を信じていないわけではない。
初めこそ色々と酷い事をされたので警戒していたが、今ではそれなりに信頼しているのだ。ただ価値観が普通の人間とかけ離れているという点を心配しているだけで。
マドカがその場を離れると、束は廊下に設置してある長方形の椅子に腰掛け、奈桜に対してもその向かい側の椅子に腰掛ける様に促す。
奈桜はそれに素直に従い腰掛けるが、直後に束から黒い布のような物と、一つの携帯端末を投げ渡された。
なんとかキャッチには成功したが、他でもない彼女に手渡されたものだけにどんなものか分からず、困ったような顔をして束に目を向ける。
「君専用の視力補助装置と、私達と直接通話できる携帯端末。どっちも束さん特製なんだから、感謝して欲しいな。」
「……本当にありがとうございます、束さん。」
「……そう素直にされると反応に困るよね。」
そう苦笑う束が落ち着いて見えるのは単純に彼女が疲れているからなのか、それともまた別の理由なのか。
しかし気を取り直すようにして彼女は人差し指を立てて自慢げに語り始める。
「とりあえず、そっちの奴は鉢巻みたいにして目の上に巻くだけでいいよ。窪みのあるプレートが入ってるから、それを目の上に被せる感じで……そうそう。後は自動で長さ調節してくれるから、目を開けてみて。」
「……っ!これ、ハイパーセンサーですか……!?」
「それの応用みたいなものかな。コア使ってないから視界自体は普通の人間と変わらない程度だし。違うのは暗い所や明る過ぎる所でも問題無く見えることくらいかな?
あとその布が紫外線カットしてるから、固定装置があるとは言え、くれぐれも外で外さないようにね。最悪失明するよ。」
「わ、分かりました。ありがとうございます。……もしかして、他にも機能とかあったりします?」
「ん〜、実は付けようと思ったけどやめたんだよね。余計な機能つけるよりも必要な機能だけ付けて、その分つけ心地を良くした方がいいと思ったんだよ。……それで、どう?」
「凄いです!左目でもしっかり物が見えます……!ありがとうございます!束さん!」
「……ちーちゃんの頼みだし、別にいいよ。それより、そっちの端末は私かOちゃんかまーちゃんに繋がるようにしてあるから、それも好きに使って。私以外には傍受は不可能だし。」
「はい、ありがとうございます。丁度それをどうしたらいいか困っていたので、とても助かります。」
「……だから、一々お礼なんて言わなくていいのに。」
奈桜にお礼を言われるたびにくすぐったそうな顔をしてそっぽを向く束。
ぶっちゃけ彼女はお礼なんて言われ慣れていなかった。
今現在彼女の周囲にいる人間は素直に感謝することのできる者はほとんどいない。何を作って渡そうともそんな感じなので、それが妙に新鮮に感じたのだった。
「それに、感謝するのはどっちかって言うと束さんの方だしね。」
「……というと?」
「まーちゃんのこと。まーちゃんが元気になったのは君のおかげなんでしょ?ありがとね。」
「い、いえ、私は別にそんな……」
「君がそう思っていなくても、今にも自殺しそうだったまーちゃんを引き止めたのは間違いなく君だし。まーちゃんの力は私達の計画に大いに役立つからね、助かったよ。」
「……自殺するのは、止めようとしなかったんですか?」
「……ノーコメント♪」
そうニッコリと笑った彼女の顔は、本当に何を思っているのか分からない様な作り笑いだった。
けれどそれが妙に人臭い気もして奈桜は何も言えなくなる。
しかしそんな顔も一瞬だけ。束は一転して瞳を薄く開ける様にして妖しい笑みを浮かべて、彼の顔を見つめ返した。
「……うん、まあ感謝の心は形で表さないとだよね。特別に君にはこれもあげちゃおうかな。」
「は、はあ……これは、なんですか……?」
手渡されたのは瓶いっぱいに詰め込まれた白色の粒。それは石やラムネなんてものではなくて……
「鎮痛剤だよ、必要でしょ?」
「……っ!どうして、それを……?」
「言わなかった?束さん、一時期本気で医学について学んだって。今の束さんに身体のことで何かを隠すことなんて不可能なんだよ、"綾崎直人"くん?」
「……っ!!」
座っている"直人"に近付いて、束はツンとその鼻先を叩く。
そのまま彼の首に腕を回しながら隣に座り、優しげな表情で彼の頭を撫で回す。驚愕に歪む彼の顔にそのニヤニヤとした顔を近づけて、視力補助装置を取り外して彼の瞳を直接覗き込んだ。
「いやぁ、人間って言うのも分からないものだよね。まさかISが誤認するくらい女性としての完成度の高い男の子が居るなんて、流石の束さんも想像してなかったよ。君の頭痛の原因はその不安定な遺伝子が原因かな?」
「……頭痛に関しては昔からずっとです。ですがそれは本当に軽微なものが偶にという感じで、激しさを増したのはあの治療の後からです。」
「ふ〜ん、意外と後遺症は残ってたのかな……ま、気が向いたらまた調べておいてあげるよ。君ほどの子が人前で表情に出すくらいなんだから、よっぽどなんだろうしね。」
「……そんなに出ていましたか?」
「顔に出そうになると君はそっぽを向くからさ、天才の束さんには背中越しでもその仕草が見抜ける的な?」
「か、軽く医学を学んだだけでそんな風になるんですか……?」
「今の地球人で一番人体に詳しいのは間違いなく束さんだと断言できるね!」
「鬼に金棒どころの話じゃないじゃないですか……」
そのおかげで助かったとは言え、物事の極め方が尋常では無い。
普通の人間ならば特定の分野を学ぼうとすればそこそこ上位の位置に立てればそれだけで満足する。誰が頂点までやるというのか、そんなことをやってしまうところが既に凡人との差というか……
「……あの、束さん。一つ質問なのですが、私のことをどうこうしようとするつもりは無いんですか?」
「うん?」
「いえ、だって、その、私はこれでも一応男性IS操縦者ですし。貴女の事ですから一夏君のことは把握しているとは思うのですが、もし貴女に何か思惑があるのならば私はむしろ邪魔だったり……原因の解明のために解剖されたりとかも……」
「ん〜、確かに昔の束さんなら排除しようとしてたかもね。けど君は別にいーくん達に悪いことしてる訳じゃないし、むしろ支えてくれてるじゃん?誘導してるとかならまだしも、君は本当に下から支えるだけだからね。……それにそれなりの実力と頭もあるし、今の束さんにとってはそれが大きいかな。」
「そ、そうなんですか……?」
「そうそう。それにさっきも言ったけど、君がISを動かせる理由なんて明白じゃん?今更解剖した所で分かりきった結果しか出てこないよ。束さんにはそんなことをしている暇はございません♪」
「……つまり、私には興味はない、と?」
そんな風に少しの安心と期待を込めて奈桜は束の顔を見る。
自分にはISに乗れること以外に束の気を引くような要素が無いと確信していた故に、奈桜は油断していたのだ。
……そうして、当然のことながらそんな期待は裏切られる事になる。
この、待っていましたとばかりに口角を上げたメルヘンサイコウサギによって。
『興味津々だよねっ!!』
「ふわっ!?」
突然奈桜の肩を抱いていた手を彼の胸を鷲掴みにする様に動かし、彼の後ろに回り込んだ束。
ニヤニヤと笑いながら服の上から器用に奈桜の下着をズラしていく。
先程はマドカに対して「Oちゃんくらいの力しか出せないから大丈夫」なんて言っていたが、そもそも今の奈桜に対してオータムが本気で襲い掛かれば抵抗などできないのだ。まどかの予想は大当たりだった。
「いやぁ全く。例外の男性操縦者ってだけじゃなく、まーちゃんを救ったり、ちーちゃんを支えたり、箒ちゃんを成長させたり。それにあのOちゃんと引き分けた上に、私の発明で後遺症を発症、しかも何よりオトちゃんのお気に入りときた!それにもそれにも飽き足らず、私の所にあ〜んな"痕跡"持って来てさ〜♪そ〜んなに束さんの気を引こうとして、君は一体どういうつもりなのかな〜?かなかなっ♪」
「な、なんの話を……ひうっ!」
「分かってる、束さんは分かってるよ〜?きっと君と私は切っても切っても切り離せない運命にあるんだって。……だってそうでもないと、コアにあんな記憶が残ってるのはおかしいもんね〜?」
「き、きおく……?」
「ふふ……ねえ、なーくん?」
口元を三日月の様に歪めた束は息の乱れる彼を解放して両手を肩に置き、ぐったりとした彼の耳元へ口元を近付ける。呼吸すらもしっかりと聞こえてしまう様な超至近距離で、その自身の特有の甘ったるい声をこれでもかと注ぎ込む様に、ある言葉をゆっくりと、しかしはっきりと、単語一つすら聞き逃す事を許さない様に息をたっぷりと使って呟いた。
『死ぬことは許さないから。絶対に生き残って、苦しみ続けることがお前の罰だ。』
「っ!!」
それまで力の抜けていた身体に一気に活力が戻り、まるで反射の様にして身体が立ち上がりそうになる。
しかしそんな奈桜の身体を束は離さない。
押さえつける様にして自分の身体を彼に押し付けて、彼の首筋に手を這わせる。
「あはは、やっぱりあれ束さんだったんだ?……ふふ、どう?ちゃんと思い出した?いやぁ、私も酷いよね〜?こ〜んな呪いみたいな言葉を君に押し付けるなんてさ。でも許してよ、記憶にはないけどこの時の私はそれくらい君に怒りを抱いてたってことなんだから。」
「……あ……た、束、さん……」
段々と息を荒らげ始め、顔色を青くしていく奈桜。
そんな彼の様子ですら束は愛おしげに見つめて、笑う。
「ふふ、私は嬉しいよ。まさか君の中で一番大きな存在が、ちーちゃんでも、箒ちゃんでも、他のどの女の子でも無く、この私だったなんて。記憶を無くしても私の言葉は忘れられなかったの?私の顔を見るだけで心拍数が上がっちゃうね?自然と身体に力が入ってたの気付いてたかな?そんなに束さんの事が好きなんだ?」
「わ、私は……わたしは……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!!」
「だぁめ、絶対に許してあげない。君はこれから先もずっと私の言葉を背負って生きないと。私が許してあげるまでは、絶対に楽になんてさせてあげないよ。」
「う、あぁ……ああぁあぁ……」
「ふふふ、君は本当に可愛いなぁ。ついつい滅茶苦茶にしちゃいたくなるくらい可愛い。『ちーちゃんの嫁ちゃん』なんて呼んでたけど、これだけ愛されてたら私もなーくんのこと欲しくなっちゃうよね〜♪私があんな酷い事を言っちゃったのも納得だなぁ♪」
体を抱える様にして震えている奈桜を抱き抱えながら、束は更に彼を追い詰める。
2人の間の会話の真意は2人にしか分からない、だがそれが普段冷静な奈桜が相当に取り乱す程の内容であることだけが事実で……
「正直ここに来る時まではなーくんの事は大して認識してなかったんだけどね。この数日で君のISのコアデータを解析してたらこんなに面白いものを見つけちゃったんだもん。あんなものを見せられたらもう、今の束さんは誰よりも君にゾッコンだよね。」
「た、ばね、さ……うっ、ぁぐっ……!」
「おっと、やっぱりその頭痛はこれが原因の一つだったか。理屈は全然想像つかないけど……ほらなーくん、口開けて。」
「んっ、くっ……こほっ、こほっ……あぅ……」
強引に薬を飲まされた奈桜は、しかしそれまで苦痛に歪んでいた表情が少しだけ和らいだ様に見える。
顔色はやはり青いままではあるが、強烈な痛みによって冷静さを取り戻したのか、身体に力ははいっていないがそれでも先程よりは冷静に周囲が見えている様だった。
そんな彼を見て気を良くした束は胸元から取り出したリモコンを操作し、一台の車椅子をここへ呼び出す。
ボタン一つで呼び出された場所まで自走してきた特製のそれに束は奈桜をもたれ掛けさせると、最後に再び力無い奈桜の前に屈み込んで笑顔で語りかける。
「薬が効かなくなったらまた言ってね、根本的な治療にはならないけど無いよりマシでしょ?束さんの方でも君のことは調べておいてあげるからさ。……ま、君も知ってる通り、近いうちにまた会えるよ。それに私は基本的になーくんの味方だからね、君は君なりに頑張ればいい。邪魔はしないし、いつでも逃げて来て構わないよ。」
「ぁ……わ、わたし、は……」
「じゃあね、なーくん。……私だけが君の本当の理解者だってこと、忘れないようにね。」
自動走行で走り始める車椅子に運ばれていく奈桜を見つめながら、奈桜の姿が見えなくなるまで束は軽くその右手を振っていた。
その顔は憐憫と慈愛の入り混じった複雑な表情で……
今までで一番難産でした。
束さんに適度に知ったかぶりさせつつ、後々の矛盾にならない様に調整して、かつ詰め込みたい話もいっぱいあったので、一度もう全部投げ出したくなりました。思い切って投げました。
助さん格さん……もう、いいでしょう……?