神様代行始めました ~癒しと成長の奇跡で世界を救え!~   作:ズック

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11. 鯨……?

 水飛沫と共に巨体が海を破る。

 

「鯨……?」

 

 本物なんぞこの目で見たことはないがたぶんそうだろう。

 それにしたって大きすぎる。ここが海のど真ん中ならともかく陸地に近いこの場所でどこにそんな体を隠せる場所があったんだ。

 

(うーわ、また懐かしいものが出てきたわね)

(懐かしい?)

(あれは神じゃなくてダンジョンよ。昔に流行った生体型のね。とっくに全部廃棄されたと思ってたけど……。ま、あの娘は情が湧いたとかそんなところでしょ)

 

 突然の解説についていけない。

 あの娘って誰だよ。いやそんなことはどうでもいい。問題は、だ。

 

(その生体型ダンジョンとやらがなにをしてるってんだ)

(さあ……? 私はあのタイプ作ったことないし……。とりあえず攻略してみればわかるわよ!)

 

 使えない女神である。

 それはさておき、なんだか大きな波が迫ってきているような気がする。というかこれ津波か。

 

「ははは、やっべえ。走れルーナ!」

 

 走れ、なんて言っても開けた平地で山には程遠いしいったいどこへ行けばいいのか。

 

「ロウ様失礼します」

 

 これは死んだかなと諦めモードになっていたら強く体が引っ張られ、景色が流れていく。いつぞやぶりにルーナに抱えられて運ばれているのだろう。今回は急に曲がるなどがないので比較的冷静でいられる。

 急停止。体の中身が引っ張られる感覚。気持ち悪い。

 ……どうやら漁村の真ん中まで来たようだ。魚人たちがみんな杖のようなものを持ってなにやら集まっている。

 そういえば波を止めるとかなんとか言っていたが、何か手立てがあるのだろうか。

 固唾を飲んで見守っていると一人の魚人――ナマズだと思う――が手に持った杖を3度地面に突き立てる。それに続いて他の魚人たちも杖を同じように突き立て音を鳴らす。

 

「のちにとにみ らといちみら とにつなもちすにかちもちい」

 

 ナマズの魚人が大声で呪文のようなものを唱え、両手を空へ掲げる。

 つられて空を見るとそれほど高くない所にうっすらと何か影のようなものが浮いているのが見えた。

 人のようだが、古代の人が纏うような服や手に持った杖、肌すら青白く透き通っていてまるで幽霊のようだ。

 幽霊のようなものが杖を海へと突き出すと光の壁が浜にずらりと並び、迫り来る津波を受け止めた。

 ビリビリと壁が、地面が、空気が震えている。

 魚人たちは繰り返し呪文を唱え、空に浮いた人影は服をはためかせながら杖を握る手に力を込める。

 やがて振動も収まり、壁の向こうには一部を除き穏やかな海が戻った。

 

「……止まった、か?」

「そう……ですね」

 

 見れば魚人たちもなんとなく雰囲気が緩んでいる。一先ずの危機は去ったということだろうか。

 

「って、そうだ。アルは!?」

「こちらです」

 

 体のところどころに海藻をひっかけ、水を(したた)らせたアルがいた。ぱっと見、怪我もなさそうである。コイツ頑丈すぎやしないか。

 

「無事だったか!」

「ええ、運が良かったのか波に飲まれず流されてきました。壁に激突するあたりは死ぬかと思いましたが……。それよりこちらの2人の治療を頼めますか」

 

 男が2人。ルーナが言っていたように普通の人間だ。1人は脚、もう1人は肩と脇腹から血を流している。とはいえせいぜい抉れてる程度でそこまでひどいものではない。この程度ならすぐにでも治せる。 

 いつも通りに傷に手を近づけて念じていると、手元に青い影が落ちた。見上げてみると青白い影が佇んでいる。腰まで届く長い髪、口元を覆う長い髭、鋭い眼光。身の丈は大きくそれに見合う岩のような体躯(たいく)を大きな一枚布で包んでいる。杖だと思っていたものは三叉の槍で、柄尻(つかじり)で足元を叩いている。

 なんとなくのイメージだが、海の神様ってこういう感じかな、という姿である。

 その海神様(仮)は空いた手でたっぷりとした顎鬚(あごひげ)を弄りながら俺の手元を熱心に見つめている。怖い。というかこの状況を誰も気にしてないのかと周りを見るが、ルーナもアルも不思議そうな顔でこちらを見ているだけである。

 見えているのは俺だけ…?

 混乱しつつ治療を終えると魚人の集団から1人、近づいてくる影があった。ツリザオだ。

 

「……助けたのか」

「礼ならアルに言ってくれ」

「そうか、ありがとうよ」

 

 まるで助けたことが悪いかのような雰囲気だったが、意外にも素直にアルに向かって頭を下げた。よくわからない。

 他人の気持ちなんてものは深入りしないとわからないし、それを追うくらいなら何が起こったのかを聞くべきだろうと問いかける。

 

「なんなんだあれは」

「海神様か、もしくはその遣いか。だいたい半年前から月に一度か二度、海に出た船を一飲みにして津波を起こして帰っていくんだ」

 

 ひょいと見上げてみると海神様(仮)が首を横に振っている。グロウスが言っていた通り、どうやら違うらしいが今ここで俺がそんなことを言っても村人たちに袋叩きにされそうである。

 

「俺たちか、どこかのバカか。海の怒りを買ったんだ、なんて言っていたんだが、ただで死ぬわけにもいかんしな」

「しかしどうする……?」

「どうするもこうするもねえ。俺らにゃどうすることもできねえじゃねえか」

「だがいつもはすぐに帰っていくのに今日はあんなところで留まっている。なにかできることがあるんじゃあねえか?」

 

 魚人たちが集まり口々にあーでもないこうでもないと言葉を重ねている。

 沖を見ると確かに山のような黒い巨体が海に浮かんでじっとしている。

 

「……ロウ様はどう思います?」

「さてね、怒り狂ってるっていうならもっと暴れまわると思うがどうだか」

 

 『◯◯はちからをためている!』みたいな状態かもしれないのであんまり楽観視できない。誰かが言ったように今ここで何かしら干渉してみるべきだろう。

 となれば――。

 

「……仕方ねえ、行くか」

 

 それしか選択肢はないのである。

 




次回からダンジョン探索できたらいいなあ

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