神様代行始めました ~癒しと成長の奇跡で世界を救え!~   作:ズック

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14. あれを止める方法は?

 

 少しだけ時間を(さかのぼ)る。

 

 **********

 

「なにか……、なにかないのか」

 

 積み重なったがれきを押しのけて、あるかどうかもわからないこの状況を打開できるものを探す。

 なんだっていい。あの化け物を倒せる武器が転がっているだとか、ちょうどよくアルとディリスが来てくれるだとか、突然俺の力が覚醒するとか、なんでもいいのだ。

 ルーナを死なせたくない。それだけだ。

 そうして指先に何か、石とは違うものが当たった。

 

『聞こえるか』

「うわっ!?」

 

 突然頭の中に声が響いた。落ち着いた、老年の男を思わせる声だ。

 ゆっくりと石の柱のがれきをどかすとそこには青い、海のような色をした宝玉があった。

 

「この声……」

『手短に話す。お前たちが対峙しているあの生物に関してだ。

 あれは正確には生物ではない。神が動けなくなったときに少しの間世界を正常に回すための、神が作り出した歯車だ。

 始めはあれらも正常に動いていた。だが、いつからか周りの魔物を取り込み人を襲うようになり、ついには私まで取り込んで……』

 

 宝玉を手に取るとなんか語りだした。手短にって全然手短じゃないじゃねえか。そういうのは後で聞いてやるから今はこの状況をどうにかする方法だ。

 

「あれを止める方法は?」

『仮面をはぎ取れ。恐らくあれがバグの原因だ』

 

 有能。そうと分かれば早速ルーナに伝えなくては──。

 と、重たい水の音が思考を真っ白に染めた。

 

「ルーナ!?」

 

 音がした方向へ顔を向けると化け物が腕を横に振りぬいた形で止まっていた。が、俺の声に反応したのか、それはさび付いたブリキ人形のようにゆっくりと首を回しこちらに視線を向けてきた。

 ぞわりと足先から頭のてっぺんまで悪寒が這い回る。

 

「やべっ……!」

 

 最初はゆっくり、少しずつ早く、最終的には疾走というべきか。枯れ木のような足からは想像もできないほど速くこちらに一直線に向かってくる。

 仮面を剥ぎ取るにはあの化け物の懐へ飛び込まないといけない。が、俺にそんなことができるだろうか。

 化け物の足であと5歩。瞬きの間に詰め寄られて串刺しになるだろう。

 化け物が槍を振りかぶる。そこで黒い影が俺と化け物の間に割り込んできた。

 

「させない……っ!」

 

 ルーナだ。高速で突き出された槍に蹴りを合わせて横へと弾く。

 反動で吹き飛ばされるルーナをなんとか抱きかかえるが、衝撃に負けて地面を転がってしまった。

 

「ごめんなさいっ……!」

 

 そう言って謝るルーナは全身ずぶ濡れで、動きもどこか精彩が欠けているような気がする。折れたナイフを持つ右手が小刻みに震えている。

 怪我をしていると判断してルーナの体に手を当てて癒しの力を発動させる。ルーナの体の内側から小さく音が聞こえる。折れた骨が無理やり治っている音だろうか。

 

「仮面をはがせばアイツは止まる、らしい。行けるか?」

「はい」

「よし、俺も近づくからいざとなったら囮にしろ。死にはせんからな」

「嫌です」

「……オーケーわかった。でも俺もルーナが怪我するのは嫌だから気を付けるようにしてくれ」

「はいっ!」

 

 言って、ルーナは走った。真っすぐにではなく少しだけ右に弧を描くような形で化け物に迫る。

 ルーナのナイフと化け物の槍が交差し、甲高(かんだか)い音を立てて跳ね回る。

 正直それ以上のことは速すぎて見えないので自分も行動に移す。ルーナとは逆に左から回って化け物の背後をつこう。

 何度目の交差だったのか。化け物の突きをルーナは回転しながら腕の外へと(かわ)し、そのまま化け物の横っ面へ逆手に持った折れたナイフを突き立てた。

 

「やっ……てないな! ルーナ逃げろ!」

 

 叫びつつ、走る。

 これまでただ垂れ下がっていた頭の触手が動き出し、ルーナの左足の先から胴まで絡み付く。

 

「っ、この!」

 

 ルーナが触手をナイフで切りつけるが切断できず、絡みついた触手はゆっくりと体に食い込んでいく。

 俺が飛び込んでも同じように捕まるか、最悪適当に腕を振り回されただけでそのまま死ぬ。俺が死んだところでどうということもないがルーナはそうもいかない。

 手をこまねいていると、前触れもなく小さな影がいくつも降り注ぎ、白煙が化け物を包んだ。

 

「■■■■■■■■!!!!」

 

 空から白煙の中心地に何かが降ってきた。白煙が土煙に変わり、それを突き破る影がある。

 大剣を持ったディリスと、それに抱えられているルーナだ。だが、ルーナの左足が半ばからなくなり、代わりに鮮血がこぼれて地面を真っ赤に濡らしていく。

 

「悪い、ぶった切った」

「全身粉々に砕けるまで締め上げられるよりかはマシです」

 

 ルーナは絡みついた触手を引きはがして放り投げながら答える。淡々としているが、顔を歪めているのがわかった。

 ディリスがルーナの左足の先を布できつく縛ろうとしているので止める。

 

「あ? ああ、お前が治療できるんだったな」

「ロウ様、ごめんなさい……」

「謝らないでくれ。俺は何もできなかったんだから、むしろこっちが謝らなきゃならないんだ」

 

 左足は欠損しているので気合を入れて全力で治す。欠損くらいなんぼのもんじゃいこっちは神の力使わせてもらってるんだ足の1本や2本くらい生やしてみせるわ。

 

「よし、それじゃアタシはあの野郎を仕留めて……、いや、いらねえか?」

 

 轟音が土煙を吹き飛ばす。

 化け物が地面に跡をつけながら後退し、ついには海へと吹き飛ばされた。

 アルが片手剣を振りぬいた形で息をついている。

 

「アタシも力には自信があるほうなんだが、あいつ本当にゴリラだよな」

 

 ディリスはルーナを回収するときに化け物に全力で蹴りを入れてみたがビクともしなかったらしい。それを軽々と吹き飛ばせるアルは確かにディリスからゴリラ扱いもやむなしというものだ。

 

「ロウ! ルーナ! 無事ですか!?」

「俺をかばったりでルーナがだいぶやられた。アルたちは怪我はないか?」

「問題ありません。道中は出てきてもあのイカくらいでしたから。ディリス、私の剣を」

「ほらよ。……おい、アタシの剣が短くなってるんだが?」

 

 ああ、ディリスが持っていたのがアルの剣だったのか。そしてアルが持っている片手剣はディリスが言うように半分ほどになっている。

 

「折れました。心配せずとも斧の分も合わせて報酬に足しておきます」

「いや……、まあいいか」

「?」

 

 ディリスは固定化がどうのと小さく呟きながら受け取った折れた剣を眺めている。よくわからないが、なんとなく呆れたような表情だった。

 

「で、どうすんだ?」

「ああ、あいつの仮面をはがしてほしいんだ。たぶんそれで終わる、はず」

「おいおいおい。そんな"たぶん"だとか"はず"だとかに命を懸けろってのか?」

「……そうだ。もちろん、ディリスに強要なんてしない。もしも嫌なら──」

「いや、面白え。乗るぜ」

 

 ディリスは、笑った。

 犬歯をむき出しにして、獰猛に、気炎を上げて笑っている。クッソ怖い。

 

「ここんところつまらねえ仕事ばかりだったからな。たまには死線くぐらねえと(なまく)らになっちまう」

 

 やっぱり思考が蛮族だよこの人!

 ん? いや、待て。俺の提案に乗ってきてるんだから俺の思考がまず蛮族寄りなのでは……?

 ……気にしないことにしよう。

 現実から眼をそらしたところで、地鳴りとともに大きな水柱が上がった。

 

「……は?」

「回避!」

 

 そびえ立った水柱がうねり、曲がり、生き物のように動き落ちてきた。

 そしていつものようにアルにぶん投げられる俺である。っていうかルーナは!?

 

「大丈夫です。()()()()()」 

 

 隣に立っているルーナを見ると確かに失われていた左足が綺麗に生えて白い肌が見えている。

 自分でやっておいてなんだけど無くなったものを生やすとかすごいことしてる気がする。いや、そもそもルーナに初めて会った時に失った視力を戻してたし、こんなもんなのか?

 

「ほれ立て! んで走れ!」

 

 海に水柱が次々と立ち昇る。まじか。ただでさえ狭くて何もない島なのに更地になった後に沈むぞ。

 ディリスが俺の腕をとって立ち上がるが、地面を踏みしめた瞬間に膝から崩れ落ちた。

 ……えっ?

 

「おいバカ遊んでる暇はねえぞ!?」

「待って待って遊んでないまじで一切足に力が入らんしなんなら足叩いても感覚が薄いしなにこれぇ!?」

「ロウ様失礼します!」

 

 ルーナに抱きかかえられて降り注ぐ水の柱から逃げ回る。いや足を動かしているのはルーナだけれども。ディリスもちゃんと避けているようだ。アルはー、水柱に正面切って炎を纏った剣で打ち返してる。……あいつ本当に人間か?

 

「で、この状況どうすればいいんだろうな」

「ロウ様、舌を噛みますよ」

 

 俺は完全にお荷物だしルーナもアルもディリスも海から出てこない相手にはどうしようもないだろうし、詰んだか?

 と、俺の懐から何かが転がり落ちたのを慌ててキャッチする。海色の宝玉だ。完全に忘れてたわ。

 

『忘れていたか。まあ、いい。私を海に投げろ。どうにかしてやる』

 

 間髪入れずに宝玉を全力で海へと投げ捨てる。どうにかするってんならどうしかしてくれるだろう。

 腕だけで投げたせいで随分と浅瀬に落ちてしまったが、はたして、宝玉が落ちた場所から力の波のようなものが放たれた。

 降り注ぐ水柱が、崩れていく。

 崩れた水柱の1つからあの化け物が体勢を崩して落ちてくる。

 

「ルーナ、アル、ディリス! やっちまえ!」

 

 アルが落下中の化け物の触手をすべて断ち切り、背中に大剣をぶち当てて叩き落す。

 ディリスがうつぶせに落ちてもがいている化け物に飛び乗り踏みつける。地震のような揺れが起こり、化け物が地面にめり込む。

 そして、俺を地面に置いたルーナが……、目の前から一瞬で消えて化け物を通り過ぎた。右手には化け物が着けていた鳥の顔のような仮面を持っている。なにをどうしたのか一切見えなかった。

 化け物は──、止まっていた。

 

 


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