神様代行始めました ~癒しと成長の奇跡で世界を救え!~   作:ズック

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16. いやまずお前が誰だよ

──声が 聞こえる

 

 小さい頃の記憶だ。

 今よりもずっと目線は低く、両手を両親に引かれて歩いている。

 燃えるような夕暮れ時に、買い物帰りに3人で歩いた記憶。

 

──声が 聞こえる

 

 場面が切り替わる。

 ()()()()()()()()()に、姉と、小さな犬。

 抜けるような青い空の下で、みんなで朗らかに笑っている。

 

──声が 聞こえる

 

 場面が切り替わる。

 また違う両親(ひと)の前で、叱られ、心配されている。

 

 場面が切り替わる。場面が切り替わる。場面が切り替わる。場面が切り替わる。場面が切り替わる。

 どれひとつとして同じ人物は出てこない。そのどれもが懐かしく、どれもが他人のアルバムを見ているような、矛盾した感覚。

 

 

──声が 聞こえる

 

「お前は、誰だ?」

 

──俺/僕/私は──

 

 

*******************

 

 

 ざあざあと音が聞こえる。それが浜に打ち寄せる波の音と気付けたのはいつかの記憶に海へ行ったことがあったからだろうか。

 ゆっくりと(まぶた)を開ける。

 どこかの家屋の中だろう。薄暗いが、なにか小さな灯りが壁と天井を照らしているのが見て取れた。頭と視線を動かして周りを見渡すと、薄暗い中でもテーブルとイスがあるくらいは見て取れた。たぶん誰かの住まいを貸してもらっているのだろう。窓らしき場所からうっすらと光が入ってきているのでおそらく昼間といえる時間帯だろう。

 ひとまず安全か、とゆっくりと鼻から息を吸って一拍。肺にたまった空気をすべて口から吐く。

 

「いやまずお前が誰だよ」

 

 そうして、口から出たのはそんな言葉だった。

 夢の中の出来事とは言え、人に名前を聞くときはまず自分から名乗れってんだこの野郎。

 

「あ、ロウ様」

 

 木が軋む音とともに光が室内を照らす。

 頭上から小さな声が聞こえた。この声はルーナだ。

 上半身を起こして声の主を探す。ルーナはちょうどこの家屋に入ってきたようで、手に持っていた皿のようなものをテーブルに置いて近寄ってきた。

 

「3日も眠っていたんですよ。このまま目を覚まさないのかと思いました……」

 

 3日もか。随分と寝過ごしてしまったようだ。

 

「寝る子は育つというからたぶん成長期なんだろう。ルーナもしっかり寝て大きくなるんだぞ」

「……大きいほうがいいですか?」

「そのままの君でいて」

 

 ふよん、というか、むにゅん、というか。ルーナが自分のふくらみに手を当てて考え始めたので慌てて止める。

 大きかろうが小さかろうがどちらも好きなので、大きすぎず小さすぎないルーナも好きである。

 それはさておき。

 

「アルとディリスは?」

「今は村のお手伝いの時間ですね。沖に出ているか、漁の道具のお手入れをしていると思います」

「馴染んでるなあ……」

 

 俺がこんな状態だから村の世話になるためにやってくれているだろう。足を向けて寝られないな。

 

「とりあえず村長さんにロウ様が起きたと報告してきます。お食事も持ってくるので待っていてください」

「ああ、うん、ありがとう。急がなくていいからな」

 

 ルーナはぱたぱたと駆け足で出て行った。

 ──さて。

 

 目を閉じて、一息。目を開けるとそこはもうさびれた家屋の中ではなく、いつか見た白い部屋の中だった。

 目の前には木製の机がひとつ。その上にはなにかの書類が散乱している。

 ──神造人形制作手順書……?

 書類に書かれた文字に少し興味が湧いたが、とりあえず紙はひとまとめにして机の端に置く。そうして見つけた小さなスイッチを押すと、なんとも間の抜けた音が鳴り響く。遅れて、どこからか騒がしい足音が近づいてくる。

 

「あーっ! あなた今まで何してたのよ!?」

 

 何もなかったはずの壁に扉が現れ、それを壊れそうな勢いで開けて女性が中に入ってきた。グロウスだ。

 真っ白な肌を黒いドレスに身を包んだ女神は矢継ぎ早に質問をしてくる。やれなんで呼びかけに答えなかったのか、だとか他の神の気配がするのはなぜかなどだ。

 

「とりあえずあの鯨……、ダンジョンに入ったところから話します」

 

 

 

「ふーん。ま、だいたいわかったわ。呼びかけが繋がらなかったのも、よそ様の家に勝手に入れないものね」

 

 ダンジョンであったことをほぼすべて話した。

 とりあえずそれで納得したらしく、先ほどまでの勢いは無くなっている。

 

「それで、その……」

「そうね。私とあなたは正しく侵略者よ。間違ってないわ。でも世界が滅びるよりかはよっぽどマシだと思わない?」

「それはそう思います」

 

 頷き、答える。

 

「この程度の世界の危機なんてのはここの主神がさっさと起きればそれで終わりだし、そんなところを助けてやるんだからちょっとくらい見逃せってのよ。なんなら今すぐにでも女神が起きて世界を私に譲渡してくれるのが一番いいわ。楽できるもの」

「無茶苦茶言いますね」

 

 ふむ、主神さえ目覚めればハッピーエンドなんだろうか。それをするためにどうすればいいのかは全くわからないが。

 頭の中でもらった情報を組み立てていくがまだまだパーツが足りていない。

 

「ま、海の神だったかしら? それのお墨付きってことなら多少無茶したって何も言われないでしょ。これを機にもっとダンジョンを攻略して、さっさと世界を救っちゃいましょう」

「わかりました。……それで、ですね」

 

 以前から言おうと思っていたことを、いい機会なので言ってみることにした。

 

「なに?」

「ご褒美ください」

 

 普通なら首を突っ込まなくてもいいところに関わって、それを全部やらされているのだからこれくらいわがままを言ってもいいと思う。

 

「……なにかほしいものでもあるの?」

「いや、思いつかないんですけれども」

「んー……、ちょっっっと待ってね」

 

 そうして女神は何もない空中に指で線を描いて小窓を作り出して、その中を乱雑にかき回し始めた。

 程なくして目的の物を見つけたのか、腕で(ぬぐ)ように小窓を消し、こちらに黒い輪っかを差し出してきた。

 

「はい、これ」

「腕輪……、ですかね?」

「そうよ。それを身に着けていれば、さっき言ってた海の神にもらった宝玉を普通に扱えるようになるはずよ」

 

 黒を基調として、白銀の線が2本、輪を断つように縦に入っている。

 ひとまず左腕にはめてみるかと手を通すと、ぶかぶかだった腕輪が手首のあたりで小さく締まり、ぴったりとしたサイズになった。

 魔法の道具を扱えるようになる魔法の道具、ということだろうか。なんとも迂遠なものであるが、ありがたくもらっておこう。

 

「それと、あなたの脚の不調。推測になるけれど、力の使い過ぎ……、というよりは出力オーバーってところかしら。そのくらいなら出来るような器だったと思うのだけれど……、なんででしょうね」

「なんとかなりませんかね」

「まずひとつは欠損を生やすだなんてそんな大奇跡を行わないこと。とはいえ奇跡なんてものは普通じゃ起こりえないから奇跡なんだし、それを使うなっていうのは布教的には本末転倒なわけで。っていうことで、頑張って使えるようになりなさい! たくさん使ってれば体の方が勝手に順応していくはずだから!」

「なんという力押しな思考……。ゴリラはこっちにもいたのか」

「……捻じり切るわよ」

「何を!?」

 

 捻じり切ると言ったグロウスの目が笑っていなかった。あれは本気だ。怖い。

 

 

「ありがとうございます。じゃあ、行ってきます」

「布教を忘れずにね!」

 

 

 

「この度は村をお救いいただきまことに──」

「あー、いえ、そんなに固くならずにお願いします。こちらとしても言い方は悪いですが成り行きというかついでと言いますか、あまり深く考えずに行ったことですから」

 

 神様空間から戻って左手首に腕輪があることを確認していると、間もなくルーナがアルとナマズの魚人を連れて帰ってきた。ディリスは今手伝っている仕事が中途半端なのでパスと言っていたそうだ。

 そうして開口一番、ナマズに人の手足が付いたナマモノが目の前で深々と頭を下げはじめた。鯨が起こした津波が来るときに一番前に立って呪文を唱えていた人、らしい。そしてこの人が村長としての役割を持っており、呼び名も村長でいいとのことだった。

 あんまりにも長々と頭を下げられたものだから、慌てて頭を上げるように促す。

 

「それでも、あなたがたの行動の結果として村が救われた。礼のひとつでもしなければ我らの気が済みません」

「ロウ、素直に受け取っておきましょう。あまり断るのも失礼になりますよ」

「……まあ、そうか」

 

 どうしたものかと困っていると、アルにもっともなことを言われてしまったので素直に礼を受け取ることにした。

 

「ではささやかではありますが、宴をご用意させていただきますのでどうぞご参加ください」

 

 

*******************

 

 

 大きな焚火を中心に、魚人と人が分け隔てなく酒を飲み、笑っている。宴会はまだまだ続きそうだ。アルとディリスがマグロのような魚人と飲み比べをしているのが見えた。

 その様子を少し離れたところでコップを傾けながら地べたに座って見ていると、横から声をかけられた。ルーナだ。

 

「ロウ様、どうしました?」

 

 ルーナは俺と同じようにコップだけ持って、左隣にちょこんと寄り添うように座った。

 問われて、口に出していいものだったかと、少し考える。幾分か思考がふわふわとしているが、なぜだろうか。酒は飲んでいないはずだ。これが場酔い、雰囲気酔いというものか。

 頭の中の自分が「ヨシ!」と言っているので、考えていたことを口に出す。

 

「感謝されるっていいもんだな、と思ってな」

 

 ルーナは何も言わず、ただじっとこちらの目を見つめてきている。

 見つめあうのはなんだか気恥ずかしいので手に持ったコップに視線を落とす。中身の果実水はまだ少しだけ残っている。

 

「どこか義務感というか、そういうものが引っかかってたんだ」

「でも今日あんな風に礼を言われて感謝されて、そういう義務感とか抜きにして世界を救うんだって、この先もああいう人たちの助けになれればいいなって。そう思えた」

 

「うん、まあ、だから」

 

「これからもよろしくお願いしますってことで」

「はい。どこまでもお供いたします」

 

 コップを掲げて、ルーナのものと軽くぶつけ合う。

 鈍い音は喧騒にかき消され、俺とルーナにしか聞こえなかった。

 




──黒い腕輪
 グロウスからもらった腕輪。魔法道具を使えるようになる。海の宝玉(仮称)で試してみたところ、ルーナと同じくらいの水柱を作ることができた。
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