神様代行始めました ~癒しと成長の奇跡で世界を救え!~ 作:ズック
スライムは多くの冒険者にとって恐ろしい魔物だと伝えられてきた。剣も槍も拳もろくに効かず、獲物の顔に飛びつき窒息させて弱らせてから溶かしていく。もしくは衣服を食われて素っ裸で町へと帰還しなければならない。洞窟を探索するときなどはみな戦々恐々としていたものだ。
しかし、多くの偉大なる
小さく、単細胞で思考する脳もなく、振動や呼気を感知して飛び掛かるということがわかった。斬る、殴るなどはあまり効果がないが、それ以上に火や冷気に弱いということが周知された。
対処さえわかれば可愛いものである。一家に一匹飼う時代が来てもおかしくない。
しかし。もしもの話であるが。火や冷気に耐性がある、巨大なスライムが存在するとしたら。
それはドラゴン以上の驚異になるのかもしれない。
──魔物研究者 モンストル・モンスレー著『スライムでも
でかい。
駆け付けた先で見た光景の感想として真っ先に出たのがそれだった。近くにある3階建ての家屋と比べてもほぼ変わらない大きさだ。
透き通った水色の体に10を超える人が囚われ、もがいている。周りには炎の魔法でスライムを攻撃している人たちがいるがあまり効果はなさそうで、攻撃に反応して体を伸ばして空から落ちるように人を吞み込んだ。潰されてないだけマシだと思おう。
「アル、救出! ルーナとディリスは俺と避難誘導!」
「はっ!」
アルが剣から炎を出して巨大スライムへと斬りかかる。しかし、アルの炎でも巨大スライムは動じない。
スライムはのしかかるようにアルに向かって倒れる。スライムが動くたびに石畳がその巨体の重さによってひび割れていく。
アルがあまり強い炎を使わないのはスライムにつかまっている人たちを傷つけないようにするためだろう。
「ふんっ!」
どうすればいいかと悩んでいると、アルは石畳を踏み砕き、その体を弾丸のように射出し、スライムの体をぶち抜いたのである。
スライムに空いた風穴は映像を逆再生しているかのように塞がっていく。だが、そこにあったはずのもの──囚われた人──が数人減っている。
「ロウ! 任せます!」
アルが粘液にまみれた人たちを地面に横たえている。どうやら体当たりをしたときに救出したようだ。
ルーナとディリスに声をかけて要救助者を運び出す。
助けたうちの一人、まずは女性の状態を確認する。全身が粘液で濡れており、服が溶けてボロボロになっているが肌は綺麗なものである。呼吸が少し荒いような気がするが、息を止めていたのならこれくらいは普通だろう。とりあえず何もしないのも気が引けるので念のため治療の力を使っておく。呼吸が正常に戻った。
さて、気になるのは助けた他の人たちも服だけ溶けているということだ。
「……服だけ溶かすスライム?」
まさかそんな。スケベな漫画でもあるまいし。
「スライムっつったら衣服喰いか死肉喰いだが、あれは衣服喰いの方だったってわけだな。まあ溺れなければ死なないだろうさ」
「すまん、ディリス。あとでその二つについて教えてくれると助かる」
ディリスははいよ、と返事をして、どこからか持ってきた大きな布で女性の体に付着した粘液を拭ってからお姫様抱っこで行ってしまった。
こうしている間にもアルは巨大スライムに突進を繰り返して救出している。
「ええい、愚図共め何をしている! さっさと怪我人を運べ! 動け動け!」
スーツを着た偉そうなお兄さんがやってきて周りの人たちを動かしていく。地味にありがたい。
それのおかげか遠巻きに治療の様子を見ていたおじさんが怪我人を運ぶ手伝いを申し出てくれた。
「診療所はあっちだ。わからねえんなら案内がてら一緒に行くぞ」
髪をオールバックにした白髪と銀髪が混ざったようなおじさんが負傷者片手に声をかけてくれた。はて、どこかで見たことがあるような……。
「ありがとうございます。ルーナ、アルの方に加勢してくれるか?」
「いえ、もう私のすることはないでしょうからロウ様に付いて行きます」
することがないとはなんぞや、と思ったが、アルの周りが陽炎のように揺らめいていたので救出は終わってあとは倒すだけなのだろう。
アルがこっちを横目で見ていたのでグッと親指を立てて応援しておく。たぶんうまいことやってくれるだろう。
スライムはアルに任せて俺は俺のできることを頑張ろう。
診療所は地獄絵図の有様だった。
負傷者のはずの人たちが老若男女関係なく興奮した様子で近くにいる人に襲い掛かっているのである。男女の見境なく、性的な意味で。まだ未遂しかいないが時間の問題だ。
老人が若い狼男に覆いかぶさり息を荒げながら愛の告白めいたことをしているのはちょっと絵面がひどすぎる。
ディリスは襲い掛かってきた男の顎を的確にぶん殴って昏倒させていた。その後ろには先ほど治療をした女性が怯えてうずくまっている。
どうやらスライムから助け出された人たちがおかしくなっているようだ。もしかしたら興奮剤のようなものがスライムの粘液に含まれていたのかもしれない。つくづく薄い本に出てくるような生態をしたスライムだ。
ディリスに守られている女性が正常なのは先ほどの治療で気付かぬうちにそれを解毒していたのだろう。そう考えると今の状態に説明がつく。
「ルーナ、とりあえずみんなを止めてくれ」
「はい。……ああいうのは腕の一本くらい落としても大丈夫ですよね?」
「そういう物騒なのはダメです」
暴走した人たちをルーナが片っ端から締め落とし、それを追うように治療をしていった。揉み合ったりで多少の怪我人は出たが幸い(性的な)被害者が出ることもなく、一息つくことができた。
邪魔にならないように、また暴れださないようにと全体が見える位置の壁際で休んでいると、診療所へ案内してくれたおじさんが水を持ってきてくれた。ありがたくいただくとしよう。
「相変わらず見事なもんだな」
「はい?」
「ロウ様、前の町で脚の古傷を治した人です」
……そんな人もいたような気がする。正直ほとんど覚えていない。
改めて水を持ってきてくれた人を観察してみる。
身長は俺よりも少し高く、180くらいだろう。ぶかぶかの服に身を包んでいてよくわからないが、大きく、威圧感のある体をしている。元は灰色だったであろう白髪混じりの短髪を後ろへ撫でつけてある。顎ひげも少し、これは無精ひげだろう。
一番印象に残ったのは、目だ。切れ長の、獲物を狙う
こんな人を見ていたら忘れ無さそうなものだが、ここ最近の、特にダンジョン内での出来事が濃すぎて忘れていたようだ。
「まあいいさ。脚の礼を言ってなかったと思ってな。ウィルフリッドだ。よろしくな」
「それで、ディリスさんのところの人がそれだけのことで来たんですか?」
ルーナの言葉で、ウィルフリッドの動きが固まる。
「……なんでわかったんだ?」
「あなたは自然体でしたがあっちにいるディリスがあなたの顔を見て少しだけ反応してたので」
「ガキにしちゃあ良い眼をしてやがる。あの馬鹿娘にゃ、なにも言ってなかったからな」
娘、ってことはこの人がディリスを拾ったという人なのか。
「で、なんの用かってのは勧誘だよ。お前ら、うちの傭兵団に入らねえか?」
「えーと、なぜ?」
「お前さんはどこの神官でも匙を投げた俺の傷を治せる力。そっちの嬢ちゃんはその観察眼とさっきの身のこなし。うちのもんにならなくても、最低でも囲いこんでおきたい」
コップから水を一口。
良い考えでも浮かぶかと思ったがそんなことはなかったので直接聞いてしまおう。
「所属するメリットとデメリットは?」
「メリットは、まあ、そうだな。後ろ楯になってやれる。自慢じゃねえが規模だけは大きいからな。デメリットは……、戦争の参加だとか、まあ自由にはしてやれねえな」
「ですよね」
あくまでも俺の目的は世界を旅してダンジョン攻略をしつつ、ついでにグロウスの名前を広めることなのでそれが一番困る。
「じゃあ適度なお付き合いという方向でお願いします」
「ま、仕方ねえか」
ガタン、と大きな物音。音の発生源を見ると大剣を床に落としたアルが
「ロウ……。まさかあなたが男色家だったとは……!」
「ちょっと待とうか?」
「ロウ様は男性より女性に目線が行くことが多いので男の人が好きという訳ではないと思いますよ」
「ちょっと待って?」
「冗談はさておき」
「決して浅くない傷を負ったんだが?」
「アルベルトです。よろしく」
ついには無視された。この野郎、明日の朝起きたときにリンゴモドキを目の前に置いておくから覚悟しておけよ。
「お前さん、どこかで……」
「?」
「……いや、なんでもねえ。ウィルフリッドだ。よろしくな」
ウィルフリッドが何事か呟いていたが、頭を振ってアルと握手をする。
そこに慌ただしくローブを着た男が息を切らせてやってきた。
「団長、報告です」
「……ま、そうだろうな。人を集めておけ」
小声で報告を受けたウィルフリッドは手早く指示を出してこちらに向き直る。
「さて、俺たちはこれからお仕事なんでな。また後でよろしく頼むわ」
「ディリスはどうしますか」
「今回は別に必要ねえからあいつに任せる。あんたらと一緒にいるってなら、まあ、あんな女だがよろしく頼む。もしこっちに来るってんなら街の西門近くにある宿に来いと伝えてくれ」
ウィルフリッドはそう言って、団員だろう人たちを引き連れて去っていった。
「どんな仕事をするのか興味あるな」
「見学しに行きますか?」
「まずディリスに相談してみるか」
くう、と可愛らしい返事が来た。ルーナが顔を真っ赤にしてお腹を押さえている。
「メシ、食いに行くか」
何をするにしてもまずは腹ごしらえだ。
評価等よろしくお願いいたします。