神様代行始めました ~癒しと成長の奇跡で世界を救え!~   作:ズック

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19. 万が一ってこともあるしな

「そんな感じだったんだけど、実際、仕事ってどういうことをやるんだ?」

 

 パキッ。

 飯屋で一息つきながらウィルフリッドとの話をディリスに伝える。

 この町は港町ということもあってやはり新鮮な魚介が売りだということでエビやらカニやらを頼んでみた。

 

「アタシがいらない仕事だろ? 大方ご禁制品使ったバカの拠点探しとその家探(やさが)しだな」

 

 パキッ。

 俺の指の力では折るどころか曲がりもしなかったカニの脚を一息でへし折りながらディリスが言う。その隣ではアルがカニ解体マシーンと化している。

 ルーナは大鎧騎士海老(アーマードシュリンプ)などという大層な名前の綺麗に茹で上がったそれを瞬く間に解体してこちらに差し出してきている。とりあえず一口もらう。身は引き締まり硬めの触感で塩味がちょうど良い。

 ルーナに断ってからみんなで分けるようにテーブルの真中へ押しやる。

 

「ご禁制品?」

「今回の感じなら薬、強力な惚れ薬か媚薬ってところだろ。どっちも国で取り締まってるもんだからな。それをどっかのバカが捨てたかして(よど)みで下水に自然発生したスライムが食っちまったんだろうさ」

「ああ、だからスライムに吞まれてたみんなの様子がおかしく……。そういえばアルは特になんともなってなかったな」

「私が受けている加護は多少の毒なら無害化しますからね」

「多少……?」

 

 パキッ。

 横でディリスが首を捻っているが、アル本人がそう言うのであればそうなのだろう。正直、アルの自己評価はあんまり当てにできないと気付き始めたので、そういうものなのだと納得しておく。

 

「で、行くのか?」

「傭兵団に興味はあるけど家探しじゃあなあ」

 

 周りでウロチョロしてても邪魔なだけだろうし、見ててもたぶん絵面的に地味だろう。

 と、思考の外からアルが言葉を足してくる。

 

「ロウ、恐らくですが下水調査もありますよ」

「下水……ってスライムがまだいる、とかそういうことか?」

「ええ。あの巨大スライムですが核が見当たりませんでしたのでたぶん本体は地下にいます。あれは石畳の隙間から地上に体を出していたんでしょう。ここの町長(まちおさ)にそういう可能性があると伝えておいたので、恐らくウィルフリッド殿へ話は伝わっているでしょう」

 

 そういえば一番最初にスライムに襲われたときは石畳から湧き上がる様に出てきていた。

 

「そういうことなら行ってみよう。俺たちの手が必要になるとは思えんが、万が一ってこともあるしな」

 

 パキッ。

 

「ところでアル。そろそろ自分で食べていいと思うぞ」

「ああ、つい夢中になってしまいました」

 

 山盛りになったカニの身と殻でテーブルが埋まりそうである。

 

 

*******************

 

 

 ウィルフリッドに教えられた宿屋に到着。

 中に入るとなにやら唸っているウィルフリッドと、慌ただしく走り回る人たちがいた。

 扉が開く音に気付いたのかウィルフリッドが顔を上げる。

 

「よう、そんな連れだってどうした」

「うちの仕事が見たいんだとよ」

「仕事ぉ? おい、人手が欲しい奴はいるか?」

「そらネコの手も借りたいってとこですが……、シロウトに場を荒らされても邪魔なだけなんすわ」

 

 ウィルフリッドが走り回る男の一人を捕まえて聞く。だが、男の答えはあまり良いものではない。

 全くその通りだと思う。だがしかし、うちには秘密兵器がいる。

 

「そのあたり、ルーナなんとかならない?」

 

 ルーナは少し考えて、ポツリと喋りだす。

 

「上に9人。男性が5人、女性が4人。3人が獣人でそのうちの1人は鳥人、1人は猫の獣人、1人は蛇人(ナーガ)、ですかね」

 

 ウィルフリッドと男が呆然としている。

 

「……どうだ?」

「……合ってます。非番の連中です」

「あっ、お酒を飲み始めました」

「いやまあ非番なら構わねえけどよ」

「団長のところからくすねた20年ものだーって言ってます」

「……あとでぶん殴っておこう」

 

 ウィルフリッドの額に青筋が立つのを見た団員たちはそそくさと逃げ出した。

 団員の1人がルーナに尋ねる。

 

「……お嬢さん。いま、どれくらい聞こえるんだ?」

「ここから5軒先の親子の会話まで聞こえてますね」

「決まりだ団長。この娘ください」

「おう、10万で1日貸してやるよ」

「うちの子で勝手に商売を始めるのはおやめください」

 

 俺のでもないがな。

 

「おうディリス、そっちのお嬢ちゃんを頼めるか?」

「はあ……。ま、いいけどさ。おチビちゃん、着いてきな。親父、適当に武器と人を借りていくよ」

「ロウ様……」

 

 ルーナが見上げてくるが、意図がよくわからない。なのでとりえず頭を撫でてお茶を濁す。

 

「頼めるか?」

「はい!」

 

 ルーナは元気よく返事をしてディリスに付いて行った。

 なんだかわからんがとにかくよし。

 

「下水の話は聞いていますか?」

「聞いた。正直面倒くせえ。が、前金ももらっちまった」

 

 正確には押し付けられたんだが、とウィルフリッドは続けた。

 そんなに嫌なら断ってもいいのではないかと聞いてみたが、この依頼は町のトップからのものとなるので断りたくとも断れないということらしい。

 

「ま、兄ちゃんも心強いがあんたがいるなら無理ができるな」

「一応言っておくけれども死んだらそれまでだからな?」

「そりゃ当然だろ。ミッドライヒ」

「魔術師と斥候ですね。見繕(みつくろ)っておきます」

 

 痩せぎすの男が間断なく答え、ウィルフリッドはそれに手を上げて返した。

 テキパキと指示を出している姿を見ると本当に傭兵団のトップなんだなあと感心する。

 

「お前ら、スライムについてどれくらい知ってる?」

「さっきディリスに服を食うやつと死肉を食うやつがいるって聞いたくらいであんまり…」

「隙間などに潜んで音や振動に反応して飛び掛かる。熱や冷気に弱い。核が体のどこかにあり、それを失えば自壊する。これくらいでしょうか」

 

 隣からアルがスラスラと答えてくれた。が、その内容の何かが引っかかり首を捻る。

 

「それだけ知っていれば十分だ。だが今回のスライムは熱や冷気に耐性がある、マジックスライムだろう」

 

 そうだ。

 広場に着いたときに巨大なスライムに魔法使いらしき人たちが炎を浴びせていたがまるで効果が無さそうだったし、アルの炎も手加減した状態では似たようなものだった。

 

「コアとやらを壊すしかないのか?」

「私が突進してぶち抜くか、全力で焼くか、ですかね」

「お前さんの全力で火出されたら全員焼け死ぬから絶対にやるな。……マジックスライムの対処法はあるから心配しなくていい。問題は取り込まれた時の窒息死、ないし圧し潰されての即死だな」

「ああー……」

「衣服喰いってのは体にまとわりついてくるんだが、あれだけデカイと捕まったらそのまま窒息して死ぬ。そのあたりをケアしてほしいってわけだ。どうだ?」

 

 頷く。誰かが捕まったらアルが助けて俺が治療をすればいい。

 即死は頑張って避けてくれ。俺にだってできないことはある。

 

「よし。これが町長からもらった下水道のおおまかな地図だ。とりあえず逃げられるように地上に繋がる道だけは叩き込んでおけ。30分後に出発だ。なにか必要なものがあるならそこの男、ミッドライヒに言えばいい」

 

 そう言ってウィルフリッドは8人掛けのテーブルいっぱいに広がる紙を指さした。

 ……これを30分で覚えるのは無理では?

 

 


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