神様代行始めました ~癒しと成長の奇跡で世界を救え!~   作:ズック

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2020/01/29 ルーナの口調を修正
2020/07/06 加筆修正


2. え、俺の所為?

 

 

「さーて、どうするかねえ」

「どうしましょうか」

 

 大通りにでてきた。

 ルーナと逃げてきたのはいいが先の展望は一切ない。というか金がない。泊る所どころか食事ができないのは死ぬしかない。

 金を稼ぐとなると働くということになるのだがしかし。

 

「住所不定で身元も怪しい2人組みを雇うところなんぞないだろ……」

「そう、ですね。この街は余所の人には冷たいですし、私のような獣人、亜人も歓迎されてない、です」

 

 街で働いて路銀を稼ぐのは無理ということがわかった。絶望しかない。

 しかしどうすれば金を稼げる。往年のゲームのように魔物でも倒せばいいのだろうか。いや、そもそもだ。

 

「魔物っているのか?」

「……はい。でも、この近くだとダンジョンに潜るくらいしないとたぶんいない、と思います。魔物を倒してダンジョンを攻略できれば、お金持ちになれるって聞いたことがあります」

 

 どうやら魔物自体はいるらしい。魔物が金になるかどうかは分からないが、少なくともダンジョンには金になるものがあるようだ。

 しかしダンジョンか。なんとなくゲームのようでワクワクもするがそれと同時に恐ろしくもある。なにせここは現実でローグライクゲームのように気絶したらダンジョンの外へ放り投げてくれるわけではないだろう。

 

(私はダンジョン行きは賛成なのよね)

(それはまた何故)

(この世界のダンジョンは世界の核に近い所なの。ダンジョンの一番奥にあるコアに触ればそれだけで広い範囲に私の力を与えることができるわ)

(なるほど? そういえば神様の力が世界からなくなると何か悪いことがあるんですかね?)

(そりゃもう大問題よ! 土地は死んでいくし魔物はわんさか現れるし最終的には世界そのものが死んでしまうもの)

 

 世界が死ぬ、というのは世界の崩壊ということだろうか。思っていたよりも大事だったようだ。

 となるとできればダンジョン攻略に乗り出したいところではある。

 

「ルーナはこのあたりにダンジョンがあるか知ってる?」

「ええと、はい。町の近くにひとつあるみたいで、そこそこ大きめのものだとか……」

「ええ……? 初心者用みたいな所は?」

「もしかしたらあるのかもしれませんが……、ごめんなさい。私は聞いたことがない、です……」

 

 どう考えても「その後彼らの行方を知る者は誰もいなかった」となるやつである。

 とはいえ金がなければ始まらないのも事実であるし、ダンジョン奥のコアとやらにも用がある。しかしそもそもダンジョンを攻略するための事前準備すらできないという有様だ。

 思わぬ壁に唸っていると控えめに服の|裾(すそ)を引っ張られた。

 

「あの、街を出る前にしたいことがあって」

「うん? どうぞどうぞ。なんでも言ってくれ」

「その、個人的にお世話になった人たちへのお礼を……」

 

 世話になった、というと孤児院とか教会だろうか。しかしルーナがそういったグループに所属しているとも思えない。あの男──ルーナが殺してしまったリーダーらしき男──は「昨日殴った」と言っていたのだ。それを今日まで放置されていたということは身寄りもないということじゃないかと思うのだが。

 少しの間頭をひねっていたが、ふと思い当たるものがあった。

 

「……あ、あー、なるほど。ついていこうか?」

「えぇっと、その、ちょっと恥ずかしいので一人で行かせてください……」

「うん、じゃあこのあたりで待ってるから行ってきな」

 

 ルーナは何度かこちらを振り返るので手を振ってみる。それを見てかどうかはわからないが、やがて覚悟を決めたかのように走りだした。

 

(ルーナが言ってたのって|お礼参り(・・・・)なんだろうなあ)

(十中八九そうでしょうね。どうするの?)

 

 どうすると言われても、という感じである。ルーナは見られたくないから一人で行ったのだろうし、なによりこっちの勘違いの可能性もある。

 しかしこの街はなんというか活気というものがあまりない感じがする。露天で果物や芋っぽいものを並べているお兄さんもそれを一瞥もせずフラフラ歩いているおじさんも元気がないというか。

 金もないのでそれらを横目に見ながらフラフラ歩き周り日陰になっているところに腰を下ろしてちょっとぼーっとしてみたり。

 

(……なにしてるの?)

(いや、暇だなと思って)

(暇ならあの狐の娘を追うくらいしなさいよ!)

 

 頭の中で女神が机をバンバンドンドン叩いている。うるせえ。

 しかし女神の言うことに一理ある、が、もう結構な時間が経っているので今から向かうとすれ違いになる可能性もあるので動くに動けないのだ。こんなことになるならこっそり付いていけばよかった。

 というわけでよほどのことがない限りはルーナに言ったとおりにこのあたりをうろついて待っているつもりである。

 

(よほどのことって例えばどんなこと?)

(例えば……ルーナが走っていった方で爆発とか──)

 

 そんなことを話していると突然の轟音が体を震わせる。驚いて空を見上げてみれば立ち並ぶ民家の向こうから黒い煙が立ち上るのが見えた。

 

(フラグ立てるの上手ね。さすがの私もちょっと読めなかったわ)

(いやいやいやいや。え、俺の所為?)

 

 あまりにも現実感がない。自分が考えたことが現実になる能力があるというほうがまだ理解できる。もちろんそんな能力などないのだが。……ないよな?

 とりあえず周りの人たちと同じように野次馬しに行こうではないか。万が一ルーナが巻き込まれていたら治療の出番があるかもしれないし。

 

 

*********************

 

 

 爆発があったらしい現場に着くと、倒壊してなおも燃え続ける大きな屋敷とそれを遠巻きに囲む野次馬たちがいた。

 

「あそこの屋敷の人って……よね」

「きっと恨みを持った誰かが火を……」

 

 野次馬たちがヒソヒソと喋っているのが途切れ途切れに耳に入る。詳しくは分からないが恨みを持たれるということはあくどいことでもしていたのだろう。たぶん。

 消火活動をしている人たちもいるが、そのうちの何人かが何もない所から水を出している。魔法だろうか。俺も使えるようになったりは……。

 

(ならないわよ)

(ダメですかそうですか)

 

 魔法を使えるようにはならないらしい。貰った力でどうにかしろという無慈悲な宣告である。貰えるだけましではあるが、やはり自分の力で強大な敵を打ち倒すというのはロマンがあると思う。そのロマンはたった今無残にも潰えた。

 さて、ルーナはこのあたりにいるだろうか。爆発に巻き込まれたりしていないだろうか。まさかとは思うが屋敷の中にいたりしないだろうか。

 キョロキョロとあたりを見回しているとボロ布をフード代わりに目深に被った人物を見つけた。野次馬たちよりも屋敷から離れたところからじっと燃える屋敷を見つめている。というかたぶんあれがルーナだろう。ボロ布を頭の方に寄せているせいで黒い尻尾と生足が丸見えである。眼福。

 声をかけようと近づくとフードがこちらを向いた。顔を確認。うむ、ちゃんとルーナだった。間違えていたら恥ずかしい思いをしていたところだ。

 

「ロウ様。待っていてくださいって……」

「あー、待っているつもりだったんだけどな。この騒ぎに巻き込まれてないかと心配だったんだ。怪我はしてないか?」

「はい、近くにいたからびっくりしましたけど、大丈夫です。それよりも、これ……」

 

 なにやら小さな袋の口をこちらに広げて見せてくれる。どれどれと覗いてみると硬貨や宝石がほんの少しだが入っている。

 

「お世話をしてくれてた人たちから貰いました」

 

 これはどう反応するべきだろうか。お礼参りという予想が外れて本当にただ世話になった人にこれらを貰ったのか。それとも今目の前で燃えている屋敷から火事場泥棒でもしてきたのか。

 結局、何も思いつかずにフードの上からワシワシと頭を強めに撫でて終わりにする。

 

「よし、それを仕舞おうか。あの屋敷は関係ないんだろ?」

「――はい」

 

 うん。俺には何もわからない。ルーナ本人がこの金品とあの屋敷は関係がないと言うのだ。俺が信じないで誰が信じるというのだ。

 で、あれば今自分がやることはこの惨状をどうするかである。

 

(さあ怪我人がいれば治して布教よ! キリキリ働きなさい!)

(あっはい)

 

 どうやら決定事項らしいので素直に従うことにする。ルーナには助手という|体(てい)で隣にいてもらおうかと思ったが本人があまりノリ気ではなさそうなので少し離れたところで待っててもらうことにした。

 

「あ、ちょうどよく怪我人発見。えーと火傷と打撲かな? はい治しますねー」

「は? いやあんた一体何を……。すげえ、もう治っちまった……」

「はい終了。女神グロウス様をよろしく」

 

 次だ。

 

「お姉さんも怪我してますね。少し見せていただけませんか」

「え、はい。あの、神官の方ですか?」

「神官……? 違いますただの通りすがりの女神グロウスの信者です。はい、治りましたよ」

「わ、すごい。こんなに綺麗に……。ありがとうございます!」

「女神グロウスの名前だけでも憶えて帰ってくださいね」

(名前だけじゃなくて信者しなさい!)

 

 次。

 

「足引きずってますけど、怪我ですか?」

「あ? 昔の傷だよ。もう走れねえだろうって医者も神官も匙を投げやがった」

「なるほど、まあたぶん治せるだろう。ほい」

「何をバカな……。治ったな……」

「よし、癒しの女神グロウスをよろしくお願いします」

「あっおい、待て! ……チッ、どうしたもんかね」

 

 

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 やっと終わった……。とりあえずもう怪我人はいないだろう。

 屋敷の関係者らしき火傷を負った人たちもいたが、その多くは女性で皆一様にフードを被った子供――背の低さから子供だと思ったらしい――に助けられたと言っていた。もしかしなくてもルーナのような気がするんだけれども本人は屋敷とは無関係と言っているので違うだろう。そういうことにしておく。

 

(……あっ、お礼としてちょっとずつ金貰っとけばよかったのか)

 

 今更ながらに気付いたが後の祭り。今からやっぱりお金くださいなどとは口が裂けても言えるはずもない。

 仕方ない、お金はルーナのものを少し使わせてもらって軽く準備をしよう。それでダンジョンの入り口付近を探索、大丈夫そうならそのまま探索続行。ダメそうなら他の町へ移るなりなにか案を考えるか。

 


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