神様代行始めました ~癒しと成長の奇跡で世界を救え!~   作:ズック

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3. ここがそのダンジョンらしき場所なのだが

 

 

「で、ここがそのダンジョンらしき場所なのだが」

「はい」

 

 街道を道なりに歩き、途中で森の中へ入ってようやくそれらしき洞窟を見つけた。

 しかし結構な時間を歩いていたため日が暮れて、森の薄暗さも相まって夜のような暗さである。

 神様から力を借りているからか、歩き通しではあったが疲れはほぼない。しかしルーナもいるので焚火でもして体を休めてから改めてダンジョンへと潜った方が良いかと考えていたのだが――。

 

「やっぱりダメかね?」

「何度聞かれても変わらねえよ。ダメだっつってんだろうが。帰れ帰れ」

 

 ダンジョンを目前にして守衛から門前払いの宣告である。

 というのもダンジョンは小さいものは街、規模の大きいものとなれば国が管理するものらしく、許可を貰った人、つまりはギルドのようなものに加入して税金なんかを払っている人たちしか入れないようになっていた。

 考えてみれば当たり前のことでどうして思いつかなかったのかという感じなのだが、危険があるとはいえ金の生る木のようなものを為政者が放置するわけがないんだよなあ、ということである。

 

「どうするよルーナ。……ルーナ?」

「……ロウ様、お下がりください」

 

 今まで静かにしていたルーナがピクリと耳を立てダンジョンへ向きナイフを構えた。直後、ダンジョンの入り口から何かが飛び出してきた。

 

「そこで止まって!」

「助けてくれ! ひとりヤバイのがいるんだ!」

 

 ルーナの言葉に反応したのか、飛び出してきた男の切羽詰まった叫び声が聞こえる。

 薄暗くて分からなかったがどうやら男が3人、女が1人。全員傷だらけでボロボロになっている。

 近寄って簡単に傷の確認をする。4人とも結構な傷を負っているが男2人に肩を支えられている男の様子がまずそうだ。着ている鎧は半壊し、左肩から胸にかけて真っ赤に染まっている。男はぐったりとしていて傍目からはもう死んでいるようにも見えるが、生きていたとしてもこのままでは失血死だろう。

 

「ロウ様、どうしますか?」

「俺はこの人治しておくから他の人の傷の具合を確認してくれるかな。ひどいのがあれば呼んでくれ」

「はい」

「よし、そっちの兄ちゃん見せてくれ」

「あんたが……? いや、なんだっていい頼む!」

 

 男の傷は何といえばいいのか。大きな手で肩を掴まれてそのまま握りつぶされたような惨状だ。大変グロテスクでできれば直視したくない。とりあえず治れ治れと傷に手を当てると、潰れた肩がボコボコと盛り上がっていく。隣で心配そうに見ていた女の人が小さく悲鳴上げてあるが、気持ちはよくわかる。この早回しで治っていくのを見るのは2回目だが非常に気持ち悪い。

 肩の傷ついでに他のそれほど大きくもない傷を治す。息も安定してるし、とりあえず死ぬことはないだろう。

 

「すごい……、あっという間に……! でも高位神官の方では……、ないですよね?」

 

(む、高位神官とやらならこのくらい出来るのか?)

(知らないけど出来るにしたって極一部じゃないかしら。なんたってこっちは神の奇跡だから地力が違うわ)

 

 仕組みが分かっていないものに関してあまり根掘り葉掘り聞かれても困るので、質問をしてきた女性に何も答えず曖昧に笑って傷の手当てを始める。

 どうやらそれで勝手に納得してくれたらしく、それ以上の追求はなかった。ありがたいことだ。

 

「それで、どうしたんだ?」

「見たこともねえ化け物が現れて、そいつがドグとメルを……! たぶんあの若いのも……」

「落ちつけ、それじゃわからん。まず化け物ってのはなんなんだ」

「あ、ああ。ボロ布を纏った死神みたいな奴だったんだ。背中に棺桶みたいな箱を背負ってて……。そいつが突然現れてドグの頭を握りつぶしたんだ……っ! 次に魔法を使おうとしたメルが殴られて体が弾けた……。こいつは捕まれたところが肩だったから死ななかったが……、あんたに治してもらわなきゃそのまま死んでただろう。改めて礼を言う。ありがとう……!」

 

 見たこともない化け物が突然現れて仲間2人を殺した、と。そりゃ冷静じゃいられないわ。これでも十分落ちついてる方だろう。

 

「若いのってのは?」

「若いの……、昨日パーティに入れたやつが自分から囮になってくれて、そいつのおかげでなんとか俺たちは戻ってこれたんだ。仲間の治療をしてもらってこんなことを頼むのは図々しいかもしれないが、あいつを助けてやってくれ!」

「……ルーナ」

「私としては関わらないことをお勧めしますが……、おそらくなんとでもなりますのでお好きなようにしてください」

「うん、じゃあ最短で行こう」

「了解しました」

 

 うーん、頼もしい。自分より小さな少女に頼るのもなんだかなあとは思わなくもないが、それはそれこれはこれ。なんせ自分には戦う力などないのだから出来る人に頼らざるを得ないのだ。

 とはいえ少しばかり心苦しいのは確かなので無事に戻れたらルーナになにか報いなければならないだろう。考えておこう。

 

「このランタン借りていくぜ」

「ああ! 頼む!」

「おい、待て!?」

「人命救助が第一! ちょっと行ってくる!」

 

 走りだそうとした直後に、ひょい、と足が地面から離れた。何をどうやっているのかわからないがどうやらルーナが俺を小脇に抱えているらしい。

 

「急ぎますので抱えて行きますね」

「え? おああああああああぁぁぁぁぁぁ……」

 

 一瞬で守衛の制止も景色すらも置き去りにして飛び込むように洞窟へと入った。はたしてこの速度と急激なカーブに俺の体は耐えられるだろうか。

 

 

 

*******************

 

 

 

「ぜああああああっ!」

 

 どれほど奥へと進んだだろうか。最早息も絶え絶えで気持ち悪いを通り越していっそ殺せと思うようになった頃、ようやく迷路のような曲がりくねった通路から大きく開けた部屋に出た。

 その奥から男の声と鈍い金属音が響き渡る。おそらくあの男が救助対象だろう。

 男と相対しているのは異形の存在。聞いていた通り、ボロ布を纏って棺桶のような箱を背負っている。腕や足は木の枝のような細さであるが、その身長は対峙している男の倍近く。およそ3メートルくらいあるだろう。

 死神は細い腕を振り回して男に襲いかかっているのだが、非力そうな見た目とは真逆に防御した男を大きくたたらを踏ませるほどの力が込められているらしい。

 死神は体勢を崩した男へと真上から腕を叩きつけようとしている。助けに入るならもうこのタイミングしかない。 

 

「ルーナ、頼む!」

 

 声に反応したのか、死神がこちらに視線を向ける。その一瞬の隙。音もなく死神の背後を取ったルーナは振り上げた腕を斬り飛ばし、次いで枯れ木のような首を刈り取った。惚れ惚れするほどの暗殺術である。あんな娘に誰が育てたというのだ。俺か?

 いやそんなことはどうでもいい。今はあの男の怪我を確かめるべきだろう。

 

「大丈夫か!?」

「救助……? っ、こっちへ走れ!」

「ロウ様!」

「……え?」

 

 ルーナの呼ぶ声が遠くに聞こえる。胸に圧迫感。赤く濡れた何かが胸から突き出ている。うまく息が出来ない。喉の奥から込み上げてくるものを小さく吐き出した。頭に圧迫感。ああつまりこれは──

 ──グシャリ。

 

(あら、死んじゃうなんて情けないわね)

 

 最後に女神の声が聞こえた気がした。

 

 


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