神様代行始めました ~癒しと成長の奇跡で世界を救え!~   作:ズック

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5. どうしてこうなった

 

 ポチョンと小さく水の音が聞こえた。どこから音がしたのかと確かめようと見回してみるが水が垂れている所など見当たらない。

 ひとつ溜め息を吐いて現実逃避をやめる。目の前には鉄格子。何度見ても変わることのない現実である。

 

「どうしてこうなった」

「どうして……ですかね……」

 

 事態は1時間ほど前にさかのぼる。

 

 

*******************

 

 

 アルベルトの仲間の遺品回収とダンジョンからの脱出は道中モンスターに襲われることもあったが、2人のおかげで無事に地上まで戻ることが出来た。真夜中だというのにアルベルトの仲間も守衛さんたちも、ダンジョンの入り口周りに火を焚いて待っていてくれたらしい。

 アルベルトは先に出てきた4人と合流し互いの無事を喜びあっていた。遺品を見せたときには涙を流していたが、彼らはきっとそれを乗り越えて前を向いて歩き出すのだろうと根拠もなく思った。

 

「本当にありがとう……!」

「どういたしまして。癒しの女神グロウスをよろしくな」

 

 リーダーらしき男に両手を握られ涙ながらにお礼を言われるのはなんとも気恥ずかしいものである。

 

「ロウ、守衛たちへ説明しますのでこちらへ」

「わかった、今行く」

 

 さて、ここから言い訳タイムである。頑張って屁理屈こねて自由を勝ち取るのだ。

 

「あ、えーっと」

「来たか」

 

 さてなんと言おうかと悩んでいると守衛の人が俺の手首にロープを巻いて拘束した。手際が鮮やかで反応できなかった。きつすぎず緩すぎず絶妙な加減の縛り方である。こやつプロだな?

 

「よし、連れて行け」

「はい?」

 

 ロープを引っ張られて歩きだす。向かう先は守衛の詰め所だ。詰め所へ入り奥へと進むと簡単な作りの牢屋がある。牢の中へと入れられて扉を閉められる。ルーナは牢の外にいるが守衛はあまり気にしていないようだった。

 ガシャリと牢のカギを閉められてそのまま守衛は出て行ってしまった。

 

「……はい?」

 

 

*******************

 

 

 そんなこんなで牢の中で過ごす羽目になってしまったのである。

 

「これは不当拘束では? 弁護士を呼んでくれ」

「残念ながら無理やりダンジョンへ入った時点で有罪なんですよ」

 

 いつの間にか来ていたアルベルトにもっともなことを言われた。いや、しかしそれをどうにかするために我々は屁理屈をこねくり回す予定だったのではないのか。

 

「これから事情説明と色々な手続きをしてきますのでそれまでお待ちください」

「ああそういうこと。じゃあ気長に待ってるわ」

「私がロウ様のお世話をしますから少しくらい遅くなってもいいですよ」

「訂正、できるだけ早く頼む」

「……? なんでもお世話しますよ?」

 

 だからだよ。年下の少女に一から十までお世話になりたくないという小さなプライドである。

 アルベルトが苦笑いを浮かべながら詰め所へ行くのを見送って、鉄格子越しにルーナと二人きりになってしまった。

 

「……あの人、強かったですね」

「アルベルトか? そうだな。あんな化け物を相手に囮になるっていう考えができるってのも含めてな」

 

 ダンジョンから脱出する道中でも、大勢のモンスターの注意を引き付けつつ攻撃をして、モンスターの攻撃を盾や鎧で受け止める。まるで物語に出てくる騎士のようだった。もしや俺はお姫様的な立ち位置なのではないだろうか。配管工のおっさんよりも美少女に助けてもらいたい。

 

「私も、あの人みたいに強かったらあの時ロウ様を守れたかも知れません」

「……まあ、生きてるし」

「でも普通なら死んでます」

「普通じゃないから大丈夫だったろ?」

「でもそれはっ!」

「いいんだよ、ルーナ」

 

 鉄格子の隙間から手を出して泣く寸前の少女の涙を拭い、頭を撫でてやる。

 

「確かに普通なら死んでただろう。でも俺は今こうして生きているし、なにか後遺症があるわけでもない。お前が気にすることなんてないんだ」

「……はい。でも私、もっと強くなります。ロウ様にもっと頼って貰えるように。もうロウ様が傷つかなくて済むように」

「いやあ、死なないってことがわかったんだから前に出して囮として使いつぶせばいいんじゃねえかなあ」

「……そういうことを言うロウ様は、嫌いです」

 

 待った。その言葉は思っていた以上に心にダメージが来る。

 自分で考えた案だが、俺への被害を考えなければいい案だとは思う。ただし俺は逃げ出すだろうが。死なないのか生き返るのかは知らんが痛いものは痛いのだ。なによりあの体から何か大事なものが流れ出ていくような感覚はあまり何度も経験したいものじゃない。

 

「私、ロウ様のことが知りたいです」

「……俺?」

 

 そういえばまともな自己紹介をしていなかったし、俺もルーナのことはほとんど何も知らない。アルベルトが戻ってくるまでは暇なんだしちょうどいいかもしれないな。

 

「よし、じゃあ交互に質問して答えていこうか」

「はい!」

 

 よしよし。なんとなく重い雰囲気もなくなった。あとはこのまま何事もなく交流を深めながらアルベルトを待つだけだ。

 

「じゃあ、ロウ様の好きな従者のタイプは……」

「もうちょっと普通の話題からにしようか?」

 

 


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