神様代行始めました ~癒しと成長の奇跡で世界を救え!~ 作:ズック
炎が消えて魔物の体が多量の光の泡となったあと、残ったのは握り拳よりも一回りも大きな魔石だけだった。
熱によって空気が揺らめき、アルベルトの姿がぼんやりとしている。手に持った剣から炎が上がり、その姿はまるで炎の化身のように見えた。
アルベルトは炎を振り払うように剣を払い、鞘へとしまう。そして魔石を拾い声をかけてきた。
「ロウ、やりましたよ」
「えっ、あっ、おう」
いかんいかん、呆けていた。
アルベルトが拾った魔石を受け取って鞄にしまい、改めて魔物の死体があった場所に目を向ける。
どんな力の作用があったのかは全く分からないが、すり鉢状に抉れ、熱によって石畳の一部が溶けだしている。
「すごい力だな」
「これほどとは思いませんでした。流石は太陽の剣。名に恥じない名剣です」
「……うん?」
「……なにか?」
話が噛み合っていない。
「あの炎はあなたの力じゃないんですか?」
ルーナが聞きたいことを言ってくれた。しかしその言葉にアルベルトは笑い、否定する。
「ははは、まさか。この剣は知人から譲り受けた物なのです。『お前が一人前になったらこの剣もそれに応えてくれるだろう』と」
「へぇ……」
強制的な成長でも一人前判定出るとかずいぶん緩い縛りである。それに助けられたのは事実なので文句など一切ないが、なんとなく思うところはある。もっとこう修行とか命の危機だとかのイベントが前提のものではなかろうか。いや命の危機はあったわ。
「なあ、アルベルト……」
「ロウ様! 扉が開きました!」
「さあ、奥へ行きましょう」
こんな形で成長してしまって本当に良かったのか?
そう聞いてみたかったが遮られてしまった。いつもと変わらないように見えるし、なによりやってしまった本人が聞くのは怒らせるだけだろうか。
奥の扉をくぐり通路を抜けると小部屋に突き当たった。照明のようなものはないが部屋の奥にある物体が淡い光を放って部屋を照らしている。
「これが……ダンジョンコア?」
「大きな魔石みたいですね」
ルーナが言うとおり、見た目は大きくて丸くて光るってだけの魔石だ。壁に埋め込まれているのでその大きさの全貌はわからないがたぶん俺が抱えても腕が回りきらないだろう。
で、だ。
(神様います? これどうすればいいんですか?)
何をどうすればいいのかさっぱりわからないのでとりあえず女神に丸投げである。
(いるわよ。まずそれに手を当てなさい。……そう、はいじゃあそのままね)
女神の言う通りに石に手を触れて待つ。すると体の中から何かがゆっくりと腹、胸、肩、腕、手から石へと伝っていく。
ゆっくりと注がれていく何かが石へと溜まって、限界を迎える。ゴウ、と強い風が一瞬だけ吹いて、そして何事もなかったかのように収まった。
「……なにかが起きたような気はするけど」
「なにか強い力が溢れたような感じがしました」
「そうですね、ロウが手を当てた場所から、なんというか清らかな力が広がったような気がします」
何かが起こったのはわかるが具体的に何が起きたのかがさっぱりわからない。
(あなたたちが見てわかる変化っていうのはあんまりないからなんとも言えないのよね。あの魔物が出なくなるくらい?)
「あの枯れ木の化け物みたいな魔物は出なくなるらしい」
「なるほど、それなら一安心です」
ダンジョンも制覇して、あの化け物もいなくなり、今回は大成功と言っていいだろう。あとは悠々と帰って寝るだけだな。ちょっと良いものが食べられたりすればなお良い。
「それで、俺たちはどうやって帰るんだ? ここまで来るのに結構気疲れというか、疲れてるからパッと帰れたら嬉しいなー、なんて」
「……」
アルベルトは静かに首を横に振った。
いつだって現実はこんなもんである。
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暗闇に少女が立っている。少女はその黒く艶やかな髪を乱して肩を震わせていた。
「ふふ」
少女にあるのは悲しみではない。逆だ。どうしようもない喜び少女の頭を染め上げている。
「ふふ、ふふふ、あーっはっはっは!」
「うるせえ、こっちは忙しいんだ。少しは黙ってろっての。あと電気をつけろ」
「あーっ!?」
そしてそれを他人に見つかり、少女は羞恥に悶えることになった。
女はグロウスの小さく漏れ出ている笑い声に少しだけイライラしてきたので、手元にあった消しゴムを指で弾き、耳障りな笑い方をしている少女の額に見事に命中させた。
「ったく、いつまで笑ってるんだ」
「もう! これが笑わずにいられるかって感じなんだから! うちのがダンジョン攻略したのよ!?」
「それ聞くのは13回目だよ……」
「これでゆくゆくは私のもの……!」
「聞いちゃいねえし」
耳にタコが出来るほど聞いたと感じるほどに、目の前の少女神
(そう簡単にいけば誰も苦労しないんだがなあ)
まだ最初の一歩を歩き出しただけ。なによりこれからが大変だというのに。
とはいえ喜ばしいことではあるのは確かだ。今この時くらいは浸らせておいてやろうと、そっとしておくことに決めた。
「でも信仰があんまり集まってないのよね。なんでかしら」
ふと、グロウス自身が気になっていたことを口に出した。答えを求めるようなものではなく、ただ口に出ていたというものだが、女は心当たりがあったので素直にそれに答えた。
「そりゃああれだろ。よくわからん見たこともねえ神よりも、実際に救ってくれた神の代行の方が実感があるだろ?」
そういうことである。
名前を聞いたこともない、姿を見たこともない。そんな実在しているかわからない神様を信仰するくらいなら、目の前にいる自分を助けてくれた人に感謝と祈りを捧げる。人間なんてそんなものだ。それを痛いくらいよく知っている。
「……あれに取られてるってことじゃない!」
「嫌なら自分でどうにか考えるんだな」
飼い犬に手を噛まれる、とは少し違うかもしれない。なにせ犬の方は噛んだことすらわかっていない。
そうして考え事をしながらパラパラと書類を確認していると、書類のひとつにこの短期間で恒例となった文字を見つけた。
「ああ、また増えたな」
「はぁー!? また増えたの!? 何人目よ! 私が最初に目を付けてたのよ!?」
「他からすりゃそんなもん関係ないだろ」
「ぐぬぬぬぬ……! 出来るだけ早く終わらせないと取られる……!」
「お前のじゃないけどな」
「もう私のみたいなもんよ!」
ガキ大将かと思うくらいに言っていることが無茶苦茶である。とはいえ狙っているものを横から取られるのは女にとっても不味いし、なによりも面白くない。
(ま、最後に勝つのは私だがな)
様々な思惑が、ゆっくりと絡まって行くことになる。
――アルベルトの剣 改め 太陽の剣
アルベルトが知人から譲り受けた剣。
一人前になればこの剣の力を引き出して炎を操ることができる。らしい。