神様代行始めました ~癒しと成長の奇跡で世界を救え!~ 作:ズック
地上へ戻ると一言で言っても簡単な道のりではなかった。女神が言ったように確かにあの化け物はいなかった。しかしその代わりなのか、行きでは見なかった本来このダンジョンに生息している魔物たちが群れを成して立て続けに襲いかかってきたのである。
四方八方から飛びかかってくる魔物たち。逃げ惑う俺。切り払うルーナ。炎で薙ぎ払う無双状態のアルベルト。酸欠になる俺。
2人のおかげでかすり傷ひとつないが主にアルベルトのせいで死にかかった。川の向こうで
「えー、ではちょっと時間が空いたけれども無事にダンジョンの攻略を終えたということで、乾杯!」
「「かんぱーい!」」
そんなこんなで脱出できた俺たちは衛兵に事情を説明、アルベルトが保証人になってくれて無事犯罪者の汚名を
グイ、と木の杯を傾けて中身を一息で飲み干す。
アルベルトはワインだが俺とルーナはブドウジュースである。未成年の飲酒、ダメ、絶対。まあこの国ではそんな法律もないらしいし、なにより自分が未成年だかも記憶が怪しいのだがなんとなく心情的な問題である。
「で、この先どうしようか」
「私はロウ様となら例え地の果てでも一緒に行きます!」
「愛が重い」
とはいえなんとなくこの言葉は予想していたのでそこまで動揺はない。ただちょっと頬が緩んでいるかもしれない。
「アルベルトはどうするんだ」
「せっかくですから私もご一緒させてください。私の目的も世界を見て回ることですしね」
「ありがとう。これからもよろしく頼む」
意外ではあったが素直に嬉しいことである。旅の道連れは多い方がいい。
「じゃあどこに行くか、だが……。まずどこに行けば何があるのかも知らないんだよな」
「では大雑把に。東は平原や森が続きますね。亜人や獣人が多く住んでいるという話です」
アルベルトがなにやら紙のようなものを荷物から取り出してテーブルへと広げる。よくよく見ると街や山のような絵が描かれている。地図だ。かなり大雑把であるが。
アルベルトは広げた簡易地図の中央からやや右にずれた一点を指差してそこがおおよその現在地だと言う。そこからさらに指を右に滑らせて平原や森があると言う。
「亜人、獣人ねえ。ルーナの故郷があったりするのかね」
「私は故郷どころか父や母の顔も思い出せませんからちょっとわかりません……」
「いや、なんかすまん」
「あっ、気にしないでください! 私はロウ様に出会えたことの方が嬉しいです!」
気をつかわせてしまった。しかし、そうか。親を探すとか全然考えてなかった。そりゃ樹の股から生えてきたとかいきなりそこに現れたとかでもない限りはいるよなあ。……それが生きているかどうかは別の話ではあるが。
「とりあえず話を続けますね」
「よろしく頼む」
「西は山々が連なる土地です。正直あまりお勧めしません。南は海……があるそうですが見たことはないのでなんとも。北は山を越えると年中雪が降る土地になっています。こっちの国へは一度だけ行ったことがありますが……、まあ快適なものではなかったとだけ。景色は素晴らしかったです」
アルベルトはひとつひとつ手書きの地図を指差しながら説明をしてくれる。西側が割と書き込まれているのに対して南や東がスカスカなのは行ったことがないからだろう。
「西がお勧めできない理由は?」
「単純にここから向かうとすると非常に金がかかる飛竜艇か、足で山を越えるかですから。あとは個人的な理由ですが、故郷なので後回しにしたいです」
飛竜艇か……。つまりドラゴンかワイバーンみたいなものを飼い慣らしているのだろうか。少し見てみたい気持ちはあるがアルベルトは後回しにしたいと言っているし資金を貯めてから乗りに行けばいいだろう。
そうなると西以外のどこかだが……。
「ルーナ、東と南どっちがいい?」
「えぇっと、海、ですか。ロウ様、どんなものなんですか?」
「どんな……? 塩水で満たされたどこまでも続く湖みたいな?」
「??」
いかん、説明が下手くそすぎてルーナが混乱している。
アルベルトに笑われつつ、四苦八苦しながらなんとかルーナに納得してもらえる説明ができた。
「じゃあその海を見てみたいです」
「決まりですね」
海か。今はどのくらいの季節で海に着くまでどれ程時間がかかるだろうか。できれば夏に着いてくれ。他意はない。水着とか期待していない。本当である。
ほかに聞くことあるだろうかと頭を捻ってみると、そういえばアルベルト自身について何も知らないなと気付く。
「アルベルトの故郷の話とか、アルベルト自身のことについて聞いても大丈夫か?」
「構いませんよ。とはいえ特に面白いことなどないと思いますがね」
行ったことのない土地の話なんてのは悲惨な話以外なら大体何を聞いたって面白いし、純粋に興味がある。
「故郷は西って言ってたな」
「はい。西の霊峰を越えた先にある国ですね。少し軍事色の強い国ですが、気候も安定していますし普通に暮らす分には良い所ですよ」
「へえ……。宗教には寛容だったりする?」
「ええ、結構な数の宗教家たちがいますよ。というのも多種族国家だからでしょう。大昔には宗教を統一しようと試みたらしいのですが、やはり元々持っていた宗教観などは捨てることは難しかったようで小規模な宗教戦争が勃発、それを先々代の王が力で収め、争いの火種になるくらいならばと多様な宗教の存在を認めて、それぞれ不可侵とするということで一応の決着をつけたようです」
「えぇ……?」
これもしかしなくてもやべー国では?
これから毎日異教徒焼こうぜ、とかやってそうで怖い。
「ああ、今は国の中で宗教戦争を仕掛けようものなら軍が動いて粛清することになっていますので、あっても悪口を言い合うくらいで済んでいますよ」
「うーん、この力技」
とはいえ有効な手だったのだろう。でなければそんな国とっくに滅んでるわ。
「……そういえばアルベルトはそのお高い飛竜艇とやらで来たのか? 実は金持ちさん?」
「まあそこそこの貴族の三男坊ですね」
「きぞくさまでいらっしゃいましたか……」
やっべえ。育ちが良いんだろうなとは思っていたけれどもそこまでとは思ってなかった。
斬首で済めばいいほうだろうかと、今までの発言や態度を振り返る。
「ああ、言葉遣いなどは気にする必要はありませんよ。ここにいるのはただのアルベルトです。実際、父親からは目的が果たせるまで帰ってくるなと言われてます」
「放逐じゃん」
「それに、ロウやルーナのことは友人だと思っていますから」
「いい奴すぎて逆に怖い」
「ロウ様、こういうことを言って寄ってくる奴はだいたい悪い人間です。ここで斬っておきましょう」
「ははは、テーブルの下でナイフを構えるのはやめなさいレディ」
和やかでいいことである。
2人が和気あいあいとしてる間に運ばれてきた料理に目を向けて、目に留まった丸っこいものを口に入れる。モチモチとしていてうまい。たぶん芋を練って丸めたようなものだと思う。
とりあえず運ばれてきた食事を一口ずつ食べてみたがどうやら自分の口には合ったようでどれも美味しく食べることが出来た。なにせこっちに来てからここまで食事と呼べるようなものはダンジョン前留置所で出されたガチガチのパンと具なしのスープくらいである。今ならおおよそなんだって美味しく食べられるだろう。
……テーブルの隅に追いやった芋虫の丸焼きはちょっと勘弁してもらいたい。これだけは手をつけられなかった。姿形が完全に残っているのはちょっとどうかと思う。
「ええ、まあ、ついていく理由としてはロウの不死身の秘密は気になっていますが、教えてもらえるようなものでもないでしょう?」
そういえばアルベルトの目の前でがっつり死んでるんだった。
とはいえ不死身の理由なんてたぶん神様代行だからとかそのあたりなので、あの女神に気に入られでもすればなれるんじゃなかろうか。
「うちの神様信仰してればいつかはなれるんじゃねえかな……」
「……なるほどなるほど」
答えを聞いて納得したのかしていないのか、アルベルトは頷きながら俺がテーブルの隅に追いやった一口大の芋虫の丸焼きを口に放り込んでワインを飲んでいる。もしかしてこいつ酔っ払ってるんじゃなかろうか。というか美味しいんだろうかあの芋虫。
フォークでひとつ掬ってみる。……いやいやいやいや、無理だわ。
口をつけずに皿へと戻すと、ふと、アルベルトと目が合った。
「……案外美味しいですよ?」
「そうか、いや、すまん。俺には無理だ……!」
食事もほぼ終わりちびちびとコップを傾けながら雑談をしていると、ルーナがぱたりとテーブルに突っ伏してそのまま寝息をたて始めた。
「お疲れのようですね」
「俺が言うのもなんだが無理させたからなあ」
出会ってからずっと切った張ったを続けていたからこうして一息吐いたことで気が抜けたんだろうか。食事も終わったことだし部屋まで運ぼう。
起こさないようにゆっくりとルーナを抱き抱える。肉付きも少ない
「ごめんな」
「駄目ですよ、ロウ。そこで必要なのは謝罪ではなく感謝です」
「そうだな……。ルーナ、ありがとう。アルベルトも」
「いえいえ」
腕の中でルーナがもぞりと身じろぎをするので落とさないようにしっかりと支える。……狸寝入りだったら恥ずかしいからやめてほしい。面と言わないといけないことは分かっているが恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
幸いなことにそのまま寝息を立てているので聞かれてはいないだろう。
「私はもう少しだけここにいますから、先に休んでください」
「ああ、わかった」
アルベルトはまだ芋虫の丸焼きと格闘している。
ふと、思いついたので言ってみよう。
「おやすみ、アル」
「! ええ、良い夢を」
アルベルト――いや、アルは驚いたのか少しだけ目を見開いて、その後いつもの柔らかい表情で応えてくれた。
なんとなくだが、今日は良い夢が見れそうである。