「名琴さん。昨日、あなたは調査中のぼくに、宴会参加者の情報を提供してくれました」
「うんうん。その通りその通り」
「その内容はこうです。“宴会の参加者は全部で十人。鬼が六人、その他の妖怪が二人。そして人間は自分一人”。……間違いありませんね?」
「ああ。あっているよぉ…………いや、ちょっと待っ……!」
最初、彼はぼくの説明に笑顔で首を振った。が、直後に失態に気づいたのか、再び目を見開くとこちらを制止しようとした。
それをぼくは、机を今日一番の強さで思いっきり叩き、それを制止し返す。
「……ここでもう一つ! ……証人、あなたに聞きたいことがあります」
怯んだ名琴さんは、しぶしぶ「ぐぅぅ…………なんだい?」と問い返す。
こういう場面では、声がでかいほうが有利だなと改めて認識した。
「証人。この情報をぼくが受け取った時、あなたはまた、確かにこう言いました。……“ちょうど今から事情聴取でさ”……と。そうですね?」
「…………」
名琴さんは、ハンチング帽を深くかぶり、こちらから視線をそらした。額には脂汗がじんわりと浮かんでいる。答える気はないようだ。
「被害者の正体が人間ではなく鬼だった……この情報をあなたが最初に知ったのは、事情聴取の時だったはずです。ところがどうか。あなたは事情聴取を受ける前に、宴会に参加した人間は自分だけだったと話しているのです。……つまり! あなたは被害者の本当の種族をずっと前から知っていた! ……どうやらあなたの言葉は、“説明不足”どころか、“説明過多”だったようですね!」
「ぬぅぅぅっ……!」
手帳のページを強く名琴さんは握りしめ、そして引きちぎった。何枚かが破れて床に落ち、残ったページもしわくちゃになってしまっている。
「静粛に! 静粛に!」
少々騒がしくなった傍聴席を、紫さんが木槌を鳴らして鎮める。
「異議あり!」
続けて検察側から異議が飛んできた。
「弁護人の主張は正しい。しかし、証人に動機はあったのか、という議論の的を射ているとは、決して言えません!」
「異議あり! 被害者が絶対に他人に漏らしたくなかった秘密を、証人は知っていた! その秘密をめぐって、何か争いの種が生じると考えるのは、ごく自然なことです!」
「異議あり! 秘密を共有するほど仲の良い関係だった、と解釈することも可能です。秘密を知っていたことが、即ち、争いの種になるというのは弁護側の主観にすぎません!」
「ぬぅぅ……!」
「いいですか。あなたが証明したのはあくまでも、この証人が被害者の正体を知っていた、という事実のみなのです。その事実が何を意味するかを説明できなければ、弁護側の証明はなんら効力を持たない!」
「ぐぅぅ……」
正論だ。ぼくが示したのは、あくまでも事実。その先を証明しないと、動機が成立したとは言えない!
「裁判長の立場としては、検察側の意見を支持するわ。……それに伴い、証人。なにか反論したいことはあるかしら?」
紫さんも向こう側の肩を持った。そう一筋縄ではいかないようだ。
「えぇ、えぇ。もちろんですとも。反論させていただきたく思いますとも」
名琴さんは、ノールックで手帳に何やら書き込んでは、紙を破り、また書いてを繰り返している。それを続けているものだから、証人席の周りは、次第にしわくちゃの紙で囲まれつつある。
法廷が紙で埋まってしまう前に、ケリをつけないと。……ところで、あの手帳、どれだけページがあるんだ? 一向に無くなりそうにないんだが。
「では証人。もう一度証言をお願いするわ」
紫さんの言葉に続けて、名琴さんの反論が始まった。
弁護側の証明を裏付けた人物をつきつけろ!
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綾里真宵
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八雲紫
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四季映姫
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小野塚小町
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鬼道酒華
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メディスン・メランコリー
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河城にとり
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名琴為人
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茨木華扇
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星熊勇儀
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伊吹萃香
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水橋パルスィ
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東雲璃月
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陽皐瑠夏
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鬼灯鈴
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朝霧純透