逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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探偵 後半 その13

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 【同日 八時三十三分 鍛冶屋・一徹】

 その店は、下町エリアの中央にあった。

 

 いっぷく堂とは比べ物にならないほどに大きな平屋は、ざっと見た限りでは五十坪ほどの面積がある。巨大な平屋を改造してできた工房は、中にいくつもの器具が並べられている。製鉄については全くと言っていいほど知識がないが、多分、ここではたたら製鉄という方法で鉄を作っているのだろう。

 工房内には、遅い時間にもかかわらず、十人ほどの職人さんが、汗を流しながら製鉄作業にいそしんでいた。

 

 「うう、なるほどくん……ここ熱いよ」

 工房に入ると、真宵ちゃんは早々に汗をかき始めたようだ。手のひらでパタパタと自分自身を扇ぎ、暑そうにしている。

 「外に出ていてもいいんだよ? 情報を聞くだけなら、ぼくだけでも出来るから」

 「も、申し訳ないけどそうさせてもらうね……このままだと暑くて溶けちゃいそうだよ」

 真宵ちゃんは、そう言って、フラフラと工房から出て行った。さて、急いで情報を聞き出さないと、ぼくも暑さで倒れてしまいそうだ。

 

 「おう。何だい兄ちゃん?」

 工房の出入り口で突っ立っていると、職人の一人がこちらに話しかけてきた。

 ねじり鉢巻きを巻いて、お祭りのときに着るはっぴのようなノースリーブの和服を着ている。

 

 一目で誰もが職人だな、と判断できるような服装の男性は、なにかを疑うような目つきで、こちらを軽く睨みつけている。こんな時間に、スーツを着た男が尋ねてきたのだから無理もないが。

 

 「えっと……ぼくは弁護士の成歩堂というものです」

 「弁護士ぃ? 一体何の用だ」

 「その……昨日、この近くで起こった殺人事件について調べていて……ここに来ればナイフについての情報がもらえると聞いて来たのですが……」

 ぼくがそう言うと、男性は腕を組んでなにかを考え出した。かと思うと、すぐに何かを思い出したようだ。先ほどまでとは打って変わって、気さくに話し始めた。

 

 「ああ! あのナイフについてのことか!なんだよ、兄ちゃん。そんならそうと早く話してくれよ!」

 男性はバシバシと背中を何度も強く叩いた。……正直言って、こういうタイプは苦手だ。

 「よし、そうと決まれば話は別だ。立ち話もなんだし、上がれ! 話はそこでしようじゃあねえか」

 男性はそう言って、ぼくの背中をグイグイと押し始めた。

 

 半ば強制的に、応接間であろう畳の部屋に連れて来られたぼくは、鍛冶屋の男性と囲炉裏をはさむ形で座った。

 「朝霧って奴から話は聞いてるよ。まま、いっぱい飲みな」

 鍛冶屋の男はそう言うと、ぼくの前に湯呑を差し出した。口を付けないのも申し訳ないので、少しだけ口の中に流し込む。が、その瞬間、少しむせてしまった。

 

 男性が、差し出した湯呑の中に入っていたのは冷酒だったのだ、てっきりぼくは冷やした水かと思っていたもので、つい吐き出してしまった。夏場に、麦茶とめんつゆを間違えた時の様なアレと同じだ。

 

 「こ、これお酒じゃないですか!」

 急な出来事に驚いてしまい、思わずきつめの言葉が出てしまった。

 「あたりめぇよ。“飲みな“って言ったんだからそりゃあ酒に決まってるだろう」

 「飲むってそういう意味ですか……」

 もう夜も遅いとはいえ、訪ねてきた人に対してお酒を出すとは。この人の性格や気質故なのかもしれない。思えば、最初、入口であった時、汗のにおいの方が強くて分かりにくかったが、かすかにお酒のにおいがした。恐らく、飲み物と言えば、真っ先にお酒が浮かぶタイプの人なのだろう。

 

 「驚かせちまったなら済まねえ。俺は、素面の状態で話をするのが苦手でよぉ。ほら、素面だとお互い固いまんまじゃあねえか。ちょっとぐらい酒が入った方が話しやすくていい。そう思って酒を出したんだ。済まねえ」

 「いえ、そこまで謝らなくても」

 「兄ちゃん、どうやら酒は苦手のようだから、無理に飲まなくてもいいぜ」

 「そう言っていただけると助かります。この後も仕事があるので」

 男性は、少しばつが悪くなったのか、鉢巻きを締め直して、頬を少し掻くと、再び口を開いた。

 

 「俺は、多々朗一徹(たたらいってつ)。ここの責任者だ。兄ちゃんは、弁護士って言ってたな」

 「はい。弁護士の成歩堂と言います。」

 「弁護士っていうのはあれかい、裁判で闘うあの」

 「はい」

 「そうか、まだ弁護士がいたか」

 「まだ弁護士がいる、というと?」

 今の一徹さんの言葉に、少し引っかかることころがあった。

 「いや、弁護士って、要は裁判にかけられた奴を救い出す職業だろう? あんたにとっちゃあ酷な話だろうが、そういった奴らを助け出そうとするやつらは、あまり評判が良くない。俺は、弁護士は別に悪くないと思っているんだが……頭の固い連中どもは融通が利かないもんでねえ。弁護士と聞いただけで差別する輩も中にはいる。最も、妖しの俺からすれば弁護士は味方と言えるがな」

 「妖し、一徹さんも妖怪なのですか?」

 「妖怪とはまた違う。俺は付喪神っていう、ちょっとした神様だ。一昔前までは金槌で、人間に使われていたんだが、ある時付喪神になった。それで、今は鍛冶屋をしているってわけさ」

 付喪神、確か、長い間人間に大事に使われていたものが、稀に進化するものだったけ。

 

 「それで、ええと、十六夜の嬢ちゃんのナイフの話だったけか?」

 「はい。ここに来れば、教えてもらえると朝霧さんが」

 「朝霧か。いけ好かない野郎だったな」

 朝霧さんがいけ好かない、まあ、人によってはそう感じてしまうのも頷ける。なんというか、掴みどころがなさそうな人だったからな。一徹さんみたいな人が毛嫌いするのもなんとなく分かる。

 

 「それで、ナイフの話だったな。うちでは、十六夜の嬢ちゃんと契約を結んで、毎月ナイフを製造している」

 「使用目的はなんなのでしょう?」

 「何でも、侵入者の撃退用だとよ。あそこの館、毎日のように地下の図書館でどんちゃん騒ぎがあって、そいつを退治するために必要らしい」

 図書館の騒ぎ……魔理沙さんのことだな。

 

 「嬢ちゃんのナイフは特別でよお。わざわざ純銀製にしてやっているんだ。何でも、あの館に勤める前は、純銀製のナイフを携えて、放浪の旅をしていたそうで、その時から、純銀製でないと気分が落ち着かねえらしい」

 

 純銀製……確か吸血鬼は銀が苦手だったはずだが……まあ、さすがに主に対して刃を向けることはないし、配慮はしているんだろう。

 「その、純銀製の刃は、普通にお店で売っているんですか?」

 「いや、売っていねえ。幻想郷には、そもそも銀鉱石が取れる場所が少なくてなあ。売ろうにも売れねえんだ。何とかなけなしの銀を使って刃を提供してはいるが……場合によっては、値段を上げての取引になるかもしれないぐらい、価値が高いんだ」

 「なるほど」

 「せめてもの救いは、ナイフの刃の形がうちで売り出している鉄製のものと同じだってことだ。これでもしも刃の形まで特注にしてくれと言われたら、それ用に型なんかを作らなきゃならんくなるから……融通の利く子でよかったよ、まったく」

 

 一連の話をメモにまとめていると、和室のふすまが開き、一徹さんの部下と思しき人が湯呑を置いて行った。一徹さんは一言了承を得ると、それを、ぼくの目をはばかることもなく一気に飲み干した。恐らく冷酒だろう。

 「ぷはぁ! やっぱり、酒が切れると話し辛い。さて、続けるぞ」

 スッキリとした顔つきになると、一徹さんは話しを続けた。

 

 「ここでは、嬢ちゃんが使っているナイフのグリップ部分も特注で製造している。勿論、非売品だ。最初、プラスチック製で頼むと言われた時は正直困惑したが、いざ作ってみるとこれが楽しくてよお。最近では、その知識を生かしてプラスチックの湯飲みなんかも作ったりしている」

 そういえば、証拠として提出されたナイフは、滑り止め加工がされたプラスチックだったな。

 

 「俺が話せることはこれくらいだが。他に何か聞きたいことは?」

 「そうですね……そのナイフって、グリップと刃は取り外しができるんですか?」

 「おうとも。ナイフってのは使っている内にどうしても痛んじまうから、取り外して修復できるようにしてある。ちょっと待ってろ。実物を見せてやる」

 

 そういうと、一徹さんは立ち上がると、部屋の隅にあった棚からグリップとナイフの刃を持ってきた。

 「ちょうどこんなかんじで……ほら。スポリとはまるようになっている」

 一徹さんはナイフの刃で手を斬らないように、刃が立っていないほうを持つと、グリップにそれを差し込んだ。

 

 「うちの店で出している洋物ナイフも同じ構造になっていてな。嬢ちゃんのナイフも同じ構造を採用しているんだ」

 「それで、銀のナイフと、鉄のナイフの刃の形が同じなんですね」

 「そうだ。差し込む根元の部分から刃先に至るまで全部おんなじだ」

 一徹さんはちょいちょいと刃の根元を指さす。

 

 「グリップのほうについても同じだ。十六夜の嬢ちゃんのグリップは形状がやや特殊になっているが、刃を刺す部分は同じになっている。形状を除いて、洋物ナイフのグリップと違う点は材質ぐらいのもんだろうな。洋物のが鉄に対して、嬢ちゃんのものはプラスチック製だ。……古くなったら修復できないのが難点だが」

 

 「なぜ、修復できないんですか?」

 「ああ、それは……ちょっと説明するのが難しいな……。まあ、とにかく修復するのが大変だと思ってくれ」

 一徹さんは、少し申し訳なさそうな顔をして、頭を掻いた。

 

 「ああ、もしよかったら持って行ってくれ。なんかの役には立つだろう」

 一徹さんはそう言って、また棚のほうに行くと、木でできた箱にナイフをしまった。

 

 ―証拠品「鉄製ナイフの刃」のデータを法廷記録にファイルした―

・鉄製ナイフの刃

鍛冶屋・一徹で売られている洋物ナイフの刃。

グリップと刃が取り外せるようになっている。

 

 ―証拠品「銀製ナイフの刃」のデータを法廷記録にファイルした―

・銀製のナイフの刃

咲夜が普段使っているナイフの刃。

幻想郷では貴重な銀が使われている。

鉄製ナイフの刃と同じ形をしている。

 

 ―証拠品「グリップ」のデータを法廷記録にファイルした―

・グリップ

咲夜が普段使っているナイフのグリップ。

投げナイフ用で少し特殊な形をしている。

刃の差込口が洋物ナイフのグリップと同じ形になっている。

 

 ―証拠品「ナイフ」のデータを法廷記録にファイルした―

・ナイフ

鍛冶屋一徹でもらったもの。

鍛冶屋で保管されていたグリップと

ナイフの刃が組み合わさってできている。

 

 ナイフを受け取ったぼくは質問を続ける。

 

 「なるほど。では、古くなったグリップはどうするのですか?」

 「古くなったグリップは、店で新しいのと交換する。古くなったものは、店で保管して、二カ月に一度まとめて捨てることにしている」

 「そのグリップはどこに?」

 「裏の倉庫にまとめておいているよ。結構たまってきたから、ちょうど明日にでも処分しようと思ってたんだ。ちなみにだが、一緒に銀の刃もしまってある。混ざらないように別々にしてあるがな」

 一徹さんはチョイチョイと窓を指さす。その先には、それなりの大きさの蔵屋敷があった。

 

 「そうだ、蔵屋敷で思い出したんだがよお。この間、倉庫でこんなものを拾ったんだよ」

 一徹さんはそう言って、懐から花の形をしたペンダントを取り出した。

 

 「ウチには男しかいねえからよお。倉に女物の飾りがあって、少し不思議に思っていたんだ。誰の物かもわからないし、あんたの連れの娘にでも渡してやってくれ」

 

 正直、いらない物をただ単に押し付けられた気がしたが、彼の気持ちを無駄にすることは出来ないのでとりあえず受け取った。……しかし、このペンダント、どこかで……。

 

 ―証拠品「ペアネックレスのかたわれ」のデータを法廷記録にファイルした―

・ペアネックレスのかたわれ

鍛冶屋・一徹に落ちていたネックレス。

形から察するに恐らくペアネックレスと思われる。

 

 「さて、他に聞きたいことは?」

 「これで全部です。ありがとうございました」

 

 「おう、いいって事よ。……そういえば、あんた、弁護士ってことは、十六夜の嬢ちゃんを弁護しているんだよな?」

 「はい」

 「だったら、頑張ってくれ。俺には、あの娘が人殺しなんてことをするとは思えねえ。ましてや、主の顔に泥を塗る行為なら尚更だ。頼む、あの子を助けてやってくれ」

 そう言って、一徹さんは、ぼくの手を握りしめて、ブンブンと振った。その目は、とても真剣で、咲夜さんのことを信じているのだとすぐに見て取れた。

 

 「必ず、救ってみせます」

 そう言って、鍛冶屋を後にした。

 建物の外では、真宵ちゃんが、ぐったりとした様子でうな垂れていた。一日中、幻想郷を走り回った疲れが、かなり出てきているようだった。疲れている真宵ちゃんの手を何とか引いて、裁判所へと向かう。

 やるだけのことはやった、後は本番に臨むだけだ。

 

 夜空には、無数の細が爛々と輝いている。不意に、その中を縫うように一筋の流れ星が流れた。慌てて、願い事を思い浮かべる。

 流れ星は、それから間もなくしてどこかへと消えて行った。ぼくの願いが星に届いたかは分からない。けれども、不思議と心が軽くなった気がした。

 

   

 


 

 

 

 

 




どうも、タイホ君です。
探偵パートがようやく終了いたしました。

次回から法廷パートに入ります。こうご期待ください。

あと、今日この話と一緒に、探偵後半終了時点の法廷記録を投稿しておきました。
推理しながら読み進めていきたい方は、ご参照ください。

感想欄に一言感想を書いていただいたり、考察メッセージを送ってくださると嬉しいです。

おかげさまでUAが一万件を突破しました。読んでくださっている皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

では。
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