逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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探偵 後半 その12

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 「さて、ここで出来ることはこれぐらいかな」

 「意外とあっさり終わったね」

 「証拠品もほとんどなかったし、早く終わってよかったよ」

 調査を終えたぼく達は、そんなことを話していた。

 

 ふと、時間が気になって腕時計を確認してみる。時刻は八時二十七分。現場の調査に使った時間は二十分ほどだ。

 裁判の開廷まではあと一時間半ある。裁判所に戻って、対策を練るだけの余裕は十分にある。留置所に行って咲夜さんから話を聞いてもいいが、他に聞くことはないし、それ以前に留置所の面会時間はとうの昔に終わっている。

 

 「時間もあるし、裁判所に戻ろうか」

 ぼくがそう言うと真宵ちゃんは頷いた。

 「調査にご協力、ありがとうございました」

 店を出る前に、一言桜さんにお礼を言う。

 「いえ~。事件が解決したら、是非いらしてくださいね~」

 「はい。また機会があれば」

 ぼく達が、いっぷく堂を去ろうとしたその時だった。

 

 「おや、餅田さん。その方達はどちら様で?」

 出口の暖簾に手をかけようとした瞬間、背後から男性の声が聞こえた。反射的に振り返って、確認する。

 そこには、ぼくとほぼ同じぐらいの年の男性が立っている。

 霖之助さんと同じような白い髪が印象的で、青い羽織を着ている。羽織の下には、紫色の帯を締めているのが分かる。

 

 「あら、朝霧さん~。この方達弁護士さんなんですって~」

 「ほう。弁護士……ですか。これは珍しい……実に幻想的だ」

 白髪の男は、感心そうな顔つきになると、顎のあたりを手でさすった。

 

 「初めまして。弁護士の成歩堂龍一です」

 白髪の男にとりあえず自己紹介をした。ぼくよりも背がやや高めで痩せ形の男は、近づいてよく見ると、何とも言えぬ威圧感を放っているように感じられた。

 

 「ご丁寧にどうも。僕は朝霧純透(あさぎりじゅんと)と申します。種族はただの妖怪です。対した役職ではありませんが、一応警部をやらせていただいています」

 警部か。きっと、この人はにとりさんの上司なのだろう。

 「朝霧さんは、なぜこんな時間に現場にいらっしゃるのですか?もう捜査は終わっているように見えますが」

 

 疑問に思っていたことをぶつけてみる。警部という職業柄、やはり現場にいるのが落ち着くのかもしれないが、すでに被疑者として咲夜さんが捕らえられている以上、捜査をするために現場に戻る必要はないはずだ。

 

 「ははは。なんとなくですよ、なんとなく」

 「は、はぁ」

 朝霧さんは、そんなぼくの予想を裏切るようにそう答えた。少し深読みしすぎたかもしれない。

 

 「僕はね、こうやって捜査が終わった後の現場に来て、いろいろ見るのが好きなんですよ。現場に残ったさまざまな遺留物、被害者の血痕や、銃弾の跡……とても幻想的だとは思いませんか?」

 「幻想的?」

 どうやら、この人は“幻想“という言葉が口癖の様だ。隙あらば、会話の中に幻想という単語をねじ込んでくる。何度もそう言うので、思わず聞き返してしまった。

 

 朝霧さんは、ぼくの問いに頷くと話しを続ける。

 「そう。ここに残っている者達は、皆、幻想の記憶を持っているのです」

 幻想の記憶……何のことだろうか?

 「彼ら……基、この現場にある物達は、事件が起こった瞬間、この現場にいて、事件を見ていた。言葉で語ることは出来ずとも、彼らの思念にはそれらがきっちりと刻み込まれる。事件を静かに見守る目撃者たち。実に幻想的だとは思いませんか?」

 「は、はぁ。まあそう思いますね」

 「そうでしょう、そうでしょう」

 顔を、ズイ、と近づけられ、思わず彼の言葉を肯定した。朝霧さんは、それで気を良くしたのか、何度も嬉しそうに頷いた。

 

 現場の遺留品たちが目撃者か。この人は、物に意思があると考えているようだな。

 物に意思があるという考え方は、昔の日本人たちの考えにも通ずる。

 昔、本で読んだので、うろ覚えではあるが、平安時代辺りの日本の人たちは、物には意思があり、大切に扱わないと、化けて出る、と考えていたそうだ。

 この人は、そんな昔の人たちと同じような考え方をしているのか。こう言っては失礼だが、少し変わった考え方をしている人なんだな。

 

 朝霧さんは、嬉しそうに何度も頷いていた。自分の考えを共感してくれている人と出会えて、とても喜んでいるのだろう。しばらくの間、そうしていたかと思うと、朝霧さんは再び話を続けた。

 

 「そんな彼ら、遺留品の持つ記憶を、ぼくの能力で紐解いてゆく。その瞬間が幻想的で、大好きなんです」

 「能力?朝霧さんも、何か能力を?」

 「おや。話すのを忘れていましたね」

 朝霧さんは、ハッとした顔をすると、自身の能力について説明を始めた。

 「僕の能力は“物の思念を読み取る程度の能力”です」

 「物の思念を……」

 「そう。先ほど話したように、物にも意識はあります。普通ならその意識を読み取ることは不可能ですが、ぼくの能力を使えば物が見ていた風景を念写してあげられるのです。もっとも、時間を指定することは出来ません。物たちは気まぐれなので、こちらが指定した時間の記憶を見せてくれるとは限らないのです。それどころか、何も見せてくれない子もいます」

 念写、昔流行った日光写真みたいな感じのことだろうか。

 

 「そうですね。では、例えば被害者の自室から見つけたこのカメラなんかを」

 朝霧さんはそう言ってカメラを取り出すと、自分の額に押し付ける。

 「ふん!」

 朝霧さんが、指に力を入れ、より一層強くカメラを額に押し付けた。それと同時に、懐中電灯ほどの大きさの光が額に灯った。

 「ほうほう……」

 彼は、目を閉じて、なにかを見ているようだ。恐らく、彼の頭の中には、カメラが今まで見てきた景色が流れているのだろう。一体何が見えているのだろうか。

 それから一分と経たないうちに、朝霧さんはカメラを机の上に置いた。

 

 「もういいんですか?」

 「はい、問題ありません。では、次に私が読み取った思念をこの紙に念写しましょう」

 朝霧さんは懐からメモ帳を取り出すと、適当なページを一枚破り、先ほどと同じように紙を額に強く押し当てた。再び、額で小さな光が灯る。

 すると、それと同時に、何かが紙に浮かび上がってきた。

 

 「……成功です。ほら、ご覧なさい」

 朝霧さんはぼくに紙を差し出した。

 「これは、桜さんでしょうか?」

 記憶が映し出された紙には桜さんと被害者の茶太郎さんが写っている。

どうやら、さっき見つけた写真たてに入っていた写真と同じもののようだ。

なるほど、あの写真はこのカメラで撮影されたんだな。だから、カメラにもその時の記憶が残っていたんだ。

 

「ああ、きっとお店を開いた時の記憶だと思います~。茶太郎さんと一緒に写真を撮りましたから~。開店記念に買った特注のネックレスもありますし、間違いないです~」

 桜さんは写真を覗き込むと、少し懐かしそうに言った。

 確かに、写真を見ると、二人の首には同じ形のネックレスがかけられている。

 ペアネックレスなのだろう。

 「これはあなたに差し上げます。捨ててもらっても構いません」

 

―証拠品「カメラの記憶」のデータを

法廷記録にファイルした―

 

・カメラの記憶

朝霧が念写したカメラの記憶。

いっぷく堂開店当時の茶太郎と桜の姿が写っている。

 

 朝霧さんは紙をぼくに渡して続ける。

 

 「いかがでしょうか?これが僕の能力です」

 物の記憶を読み取って、念写。事件の捜査にはうってつけの能力だと言える。この人が警部まで昇進できたのも、この能力あってのことなのだろう。

 「先ほども言いましたが、事件現場というのは実に幻想的です。捜査が終わった後、ふらりと立ち寄って、物たちの思念を読み取る。そうするとですね、時々面白いものが出てくるんですよ」

 「面白いものですか」

 「そう、面白いものです」

 

 朝霧さんは、そういうと、少し不敵にほほ笑んだ。それを見て、背筋にわずかではあるが寒気が走った。なぜだろう……朝霧さんが、今からとんでもないことを言う気がする。なぜかは分からないが、ぼくの勘がそう告げていた。

 そして、予想通り、彼は、とんでもないことを口にする。

 

 「そうですね、今回で言えば…………“事件の決定的な瞬間“とかですかね」

 「け、決定的な瞬間?」

 「はい。決定的瞬間をバッチリと見ていたんですよ。ある、一つの証拠品が。まあ、その証拠品はもうここにはありませんが。恐らく、この記憶は君たちにとっては不利な記憶ですね」

 ぼ、ぼく達にとって不利な決定的瞬間の記憶……咲夜さんが犯人であることを示す記憶という事か!

 

 「その、決定的瞬間とは、一体!」

 聞かずにはいられなかった。当然だ。ぼく達にとって不利な記憶があると知っては聞かないわけにはいかない。

 

 「おっと、ここでネタばらしは幻想的とは言えません」

 しかし、朝霧さんは、ぼくの要求をあっさりと取り下げた。まあ、朝霧さんは、警察関係者。四季検事の味方に当たるわけだから教えてくれなくて当然なのだが。

 「この証拠品の記憶は、この後の裁判で使われるでしょう。この記憶がどんなものか、それはその時までのお楽しみとしておきましょう。その方が幻想的です」

 先ほどの審理でその記憶が使われなかった、ということは、この記憶は余程決定的な瞬間の物なのだろう。恐らく、検察側の切り札に違いない。この強力なカードをいつ切って来るか。次の裁判では、ここが重要になって来るな……。

 

 「ははは。どうやら、お手上げのようですね」

 きっと、自分でも気づかないうちに、苦虫をつぶしたような顔になっていたのだろう。朝霧さんは、少しだけ笑うと、続けた。

 「では、ぼくからひとつヒントを差し上げましょう。この地区にある“一徹”という鍛冶屋を訪ねて、ナイフについて尋ねてみてください。きっと、あなたを助けてくれる人がいますよ」

 朝霧さんは、そういうと微笑を浮かべた。

 

 「鍛冶屋、ですか?」

 「そう。きっといい情報が得られるはずですよ。さあさあ、急いだ方がいいです。貴重な情報が幻想になる前に、ね」

 朝霧さんがぼくの背中を押す。

 

 「わ、分かりました。よし、真宵ちゃん、早速行くよ」

 そう言って、真宵ちゃんの手を取り、大慌てでいっぷく堂を後にした。

 

   

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、タイホ君です。
長かった探偵パートもようやく次回で終わりです。
何気に半年間も探偵パートが続いていたりもします。最初からお付き合いしてくださった方、お待たせいたしました。

新キャラでオリジナルキャラである、朝霧君が登場しました。
つかみどころのない、面倒くさいキャラとして書いていくつもりです。

一応、私の中での彼のボイスのイメージは、最近放送されていた「ID:INVADED イド:インヴェイデッド」というアニメに登場する、穴あきと呼ばれる人物をイメージしています。さらに細かく言うならば、イドの中に入って名探偵穴井戸になった時の声をイメージしています。ぬるぬるした感じの声ですね。

さて、話は変わりますが、次回分の話を投稿した際に、一緒に探偵パート終了時点での法廷記録を用意しようと思っています。その時に、法廷記録の下のほうにつきつけるのコーナーのヒントを設けておこうかなと思いました。

一応、二パターンのヒント形式を思いついて、ひとつはただ箇条書きでヒント。
もう一つはなるほどくんと真宵ちゃんの掛け合い込みの台本形式のヒント。
このどちらかをヒントとしておいておこうかなと思っています。

ただ、どちらがいいのか判断がつかないので、今回アンケートを設けて皆さんの意見を募ろうと思います。

いらねーよ、という方はヒントはいらないという項目も設けておくので、そちらに投票してください。

締め切りは次回投稿日の5月2日午前0時までとします。

ご協力、よろしくお願いします。

では。
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