逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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法廷1日目 その5

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 「異議あり!」

 指をつきつけた勢いで、机を叩いた。

 「証人、今の発言はさすがに聞き逃せません。あなたの証言は、ある情報と決定的にムジュンしている!」

 「な、まだムジュンがあるっていうのか!?」

 二度もムジュンを指摘され、さすがの勇儀さんも動揺する。

 

 ぼくは、法廷記録からメモを取り出すと続ける。

 「これは、名琴さんから聞いた情報です。実は、彼も宴会の場で被害者が酌をされたときに、相手に酒をこぼされていた、と話していました」

 「そ、そうだ。私以外もそう話しているんだ。ムジュンはないはずだ」

 「いいえ、そうはいきません。……問題となるのは、“誰が酒をこぼしたか”という点です。あなたは、酒をこぼしたのは“被告人”と話しました。……しかし、名琴さんは“萃香さん”がこぼしたと話している。……つまり、証人。あなたの発言は名琴さんの話とムジュンしているのです!」

 「異議あり! ふん。一度ならず、二度までも同じことを言わせるとは……。いいですか、そんなことは些細な問題です! 重要なのは、“被告人が被害者の肌に触れた”という事実のみで……!」

 「異議あり!」

 検察側の言葉を遮る。同じことを何度も言いたくないなら、遮って黙らせるまでだ!

 

 「いいえ。四季検事。さすがにこのムジュンは見逃せません。確かに、先ほどの鳥の色の話については、証人の勘違いだと捉えることもできます。……しかし! さすがに酒をこぼした人物を勘違いするのは、いくら酔っていたとはいえ考えにくい! 弁護側は、このムジュンは看過できないものだと主張します!」

 傍聴席が、にわかに騒がしくなる。

 

 「静粛に!」

 紫さんが木槌を鳴らして、それを制止した。

 「……確かに、弁護側の言う通り、さすがにこれを勘違いだと片付けるのは、いささか問題があると思うわ。これは、証人の信用性に関わる話になりえると言えるわね」

 よし。紫さんが、こちらの肩を持ってくれた! これでひとまず安心だ。

 「異議あり!」

 しかし、検察側はまだ食い下がる。

 

 「では、名琴さんの話が間違っているとしたらどうでしょうか。酒をこぼしたのは、本当は被告人だった。これならば、問題はありません! ムジュンなど存在しないのです!」

 「異議あり! 四季検事、それを決めるのはあまりにも早急すぎます! 弁護側は、事実確認のために、伊吹萃香さんの証言、及び尋問を要求します!」

 「弁護側の要求を認めるわ。確か、証言者の中に伊吹萃香の名前もあったはずよ。検察側は、ただちに証人として入廷させるように!」

 紫さんが、検察側に命ずる。よし、まずは第一関門突破だ。この後の萃香さんの証言で、さらに情報を引きずり出してやる!

 

 一方の検察側は、論争に敗れたのが不服だったのか、悔悟の棒で机をバシバシと叩いている。そして、そのままの姿勢で「分かりました……すぐに入廷させましょう」と、紫さんの要請に応じた。

 勇儀さんは、一時法廷の脇に移動する。そして、法廷の扉が開かれた。小さな鬼のシルエットが見える。……さて、第二面と行こうか!

 

 「では、証人。名前と職業……と、言いたいところですが、まずはその前に踏み台を用意してあげる必要があるようですね」

 証言台についた萃香さんは、若干身長が足りないのか、鼻から下の部分が証言台に隠れてしまっている。その代わりに、ピョコンと二本の角がはみ出し、まるで何かのオブジェのような風貌になってしまっている。

 

 「ああ、踏み台かい? それならいらないよ」

 小町さんが踏み台を取りに法廷を退出しようとするのを、萃香さんは制止する。

 「こういう時は、私の能力を使えば大きくなれるってもんさ」

 萃香さんがそう言って、数秒も経たないうちに、彼女の体は少しずつ大きくなり、やがて、証言台につくのに十分なくらいの大きさになった。

 

 「わあ、すごい! これが萃香さんの能力何ですか?」

 真宵ちゃんが驚きの声を上げる。

 「ああ、そうさ。私の能力は“密度を操る程度の能力”。……まあ、物の大きさを自由自在に操る能力だと思ってもらえばいいよ」

 萃香さんは、伊吹瓢に直接口をつけて、ゴクゴクと酒を飲む。

 「応用次第で、色々使えそうな能力だね。あれでトノサマンバルーンを膨らませれば……」

 真宵ちゃんは、何やら一人でぶつぶつと言っている。トノサマンバルーン……そんな事件もあったなあ。

 

 「……ところで証人。なぜ、あなたまで法廷で飲酒を始めるのですか?」

 四季検事は、眉をピクピクとさせ、怒りの感情をあらわにする。

 「ふえ? だって、勇儀の奴が飲んでいるじゃないか。なら、私だって飲んでいいだろう?」

 萃香さんは、当然だ、とでも言いたげな様子で、酒を飲み続ける。

 法廷の角のほうを見ると、勇儀さんがヒョウタンから酒を注いでは飲み、酒を注いでは飲むという動作を繰り返している。

 「……いいですか。あの証人は、“特例”で飲酒を許可しているのです。あなたにまで許可を下すわけにはいきません。私に法廷を無法地帯にしろと言いたいのですか!」

 ……とっくの昔に無法地帯だと思うけどな。

 

 「ほーん……いいのかい、そんなこと私に言って」

 「な……。脅しをかける気ですか?」

 萃香さんは、薄ら笑いを浮かべる。何をする気だ……?

 

 「……泣き叫ぶぞ」

 「……へ?」

 「あんたが飲酒を認めてくれないなら、私、ここで泣き叫んでやる! 証言なんかやってやらないもんねー!」

 「おおー! いいぞ萃香! もっとやれやれ!」

 萃香さんは、いきなり地団太を踏み出すと、とんでもないことを言い出し、勇儀さんが法廷の角からそれに同調しだす。……ああ、もう滅茶苦茶だよ。

 

 「ぐ……酔っ払いの鬼どもめ……。……ああ、分かりましたよ! 認めればいいんしょう、認めれば!」

 「お、話が分かるじゃないか」

 「ああ、なぜ私がこのような目に……」

 四季検事は、行き場のない悔悟の棒をバシバシと机に叩きつけながら、頭を抱える。

……さすがにちょっと同情を禁じ得ない。

 

 「ははは、まあそう落ち込むなって! 別に酒を飲んだところで証言するのに影響はないって! ゴクゴクゴク……」

 萃香さんは、腰に手を当てて酒を飲む。……そのうちぶっ倒れてしまわないのだろうか。

 

 「ぐ……。も、もういいです! 証人、名前と職業、種族!」

 四季検事は投げやりになりながら、身分確認をする。

 

 「あ~。名前は~、伊吹萃香。種族は~、鬼。職業は~、無職でーす!」

 今の一気飲みで少し酔いが回ったのか、萃香さんの呂律がやや怪しくなる。

 「……では、証人。宴会中に、被害者に酌をしたことについて話してください」

 四季検事が、机に突っ伏したまま、ボソボソと話す。

 

 「ふあ? 今、何て言った?」

 とうとう聴力にまで影響が出たのか、萃香さんは耳を手に当て、聞き返す。

 「被害者にっ! 酌をしたときのっ! 証言っ! もうこれ以上私のことを弄ばないでください!」

 「ああ、酌の話ね。了解了解」

 ……かわいそうな四季検事。

 半ベソをかきだした四季検事をよそに、萃香さんは呂律の回らない証言を始めた。

 

   

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、タイホくんです。本日もつきつけるのコーナーを開催いたします。
下に法廷記録を張っておきますので、よければどうぞ。

次回投稿予定日は4月10日。オーケストラコンサートのある日です。

では。

―つきつける―星熊勇儀の証言とムジュンする証拠をつきつけろ!

【証拠品リスト】

・弁護士バッジ
ぼくの身分を証明するためのバッジ。
これが無いと誰もぼくを弁護士として認めてくれないが‥‥幻想郷で付けていてもあまり意味がないような気がする。

・鬼道酒華の解剖記録
被害者の解剖記録。
※詳細
・被害者 鬼道酒華
・死因 鬼殺の秘薬の摂取による内蔵出血。

・鬼殺の秘薬
被害者を死に至らしめた毒物。鬼族の血の濃さに応じて毒性が変化する。
鬼族以外の種族には一切反応を示さない。えぐみのある味をしているらしい。

・宴会参加者の情報
名琴から教えてもらった宴会の参加者の情報。
※詳細
宴会の参加者は妖怪がほとんどを占めていて、
人間は唯一名琴のみ。鬼が全部で六人、残りの二人は妖怪だった。

・名琴の証言書
名琴から聞いたことをメモしたもの。
「萃香が被害者に酌をしたとき、彼女は盛大に酒をこぼしてしまった」

・被害者の盃
被害者が座っていた席に置かれていた。
牡丹と鶯色の鳥が描かれている。

・華扇と勇儀たちの関係
華扇は昔、鬼の勇儀と萃香、さらにもう一人別の鬼と、
四人でよくつるんでいた。

・茨木の百薬升
華扇の持ち物。病気やけがを治す力を持つが、
使用し続けると体が少しずつ鬼になるらしい。

・鬼殺し
宴会でふるまわれた酒。
強い度数と辛みが特徴。

・神便鬼毒酒
宴会でふるまわれた酒。
弱めの度数と甘い味が特徴。

・盃と徳利セット
萃香が持参した盃と徳利のセット。
盃はペアになっているものが5セット入っている。
※詳細
それぞれの盃の柄は以下の通り。
風:表に雲、裏面に風が吹いている様子
花:表に彼岸花、裏面に川
雪:表に降雪の様子、裏面に月
月:表に月、裏面にすっぽん
鳥:表に鶯色の鳥、裏に牡丹の花

・鬼の四天王時代の写真
妖怪の山に鬼の四天王が君臨していた時に撮られた写真。
鬼だった頃の華扇と、勇義、萃香が写っている。
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