「異議あり!」
……自分自身でも、このムジュンが意味するものが、いまいち見えてこない。……だが、ムジュンはムジュン。指摘せずに放っておくわけにはいかない!
「証人。あなたの発言によると、被害者は“川の絵”が描かれたお猪口を使っていたそうですね?」
「あ、ああそうだ。それがどうかしたのか?」
「……やはり、あなたの証言はおかしい」
「お、おかしい? どこがさ?」
「……あの日、被害者が使っていたお猪口には、川の絵なんて描かれていなかったのですよ!」
「な、なに?」
「異議あり!」と、四季検事が異議を挟む。
「弁護人、またその話ですか! 何度も言っているでしょう。お猪口に描かれた柄など、酔っていたら見間違えてしまうものです。今回も、先ほどの証人と同じように、勘違いだとするのが妥当です!」
「異議あり! 同じ柄の違いとは言え、今回と前回では訳が違う! 似たような色の黄緑と鶯色を見間違えるのは仕方がないかもしれません。だけど流石に、青と鶯色は見分けがつくでしょう!」
「ぐ……!」
四季検事がやや怯んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、兄ちゃん! 私は確かに見たんだ! 被害者が川が描かれたお猪口を使っていたところを!」
萃香さんもこちらに反論してくる。……どうも、嘘をついている様子はない。しかし、被害者の席においてあったお猪口には、川なんて描かれていなかった。……一体どういうことなんだ?
「……なあ。ちょっとだけいいか」
すると、法廷のどこからからか、声がした。
「……今、発言をしたのは……さっきの証人ね」
見ると、証言台のそばに勇儀さんの姿があった。
「勇儀さん、どうかしたのですか? 何か言いたいことがあるようですが」
ぼくが問いかけると、勇儀さんは頭を掻きながら話す。
「いや~。被害者が使っていたお猪口に、川の絵がどうとか、って話なんだけど……。実は私、華扇が川の絵が描かれたお猪口を使っているのを見てるんだよな」
「な……なんですって!」
ぼくは思わず叫んだ。どういうことだ……? 川の描かれたお猪口を華扇さんが使っていただって?
「い、茨木華扇……!」
四季検事は、お猪口の柄の問題よりも、華扇さんの名前が出たことに動揺しているようだ。何やら様子がおかしい。
傍聴席からは、話声が聞こえる。傍聴人たちも、この状況に困惑しているようだ。
「異議あり!」
そんな中、検察側からまたも異議が飛び出す。
「裁判長! これはもう、お話になりません! 今、この場で議論すべきは、被害者の殺害方法についてです。お猪口の色や柄など、些細な問題なのです!」
四季検事は必死に主張する。その様子は、かなり焦っているように見える。華扇さんの名前が出てから、明らかに様子がおかしい。
紫さんは、四季検事の言葉を、目を瞑って聞いていた、が、首を縦に振ろうとはしない。
「検察側の異議は認められないわ。……確かに、お猪口の柄については、極めて些細な問題。議論すべき話題から逸れた物と言える。……しかし、二度もこのようなムジュンが出てきてしまえば話は別。本法廷は、このムジュンは看過できないものだと考えるわ!」
「ぐ……!」
四季検事が、今回の法廷で一番の動揺を見せた。
「……さて、どうやら食い違った証言が出てきたようね。……弁護人は、どちらが本当の事を話していると思うかしら?」
本当の事を話しているのはどちらか……。それを確定させるには、もう一方の意見が間違っているということを証明しなければならない。……しかし、それを証明できるだけの情報や証拠はない。ならば考えられるのは……。
「……どちらも正しい。弁護側はそう主張します」
「ど、どちらも……。一体どういうこと?」
「この状況が成り立つには、二つのパターンが考えられます。一つは、被害者と華扇さんの二人が、川の描かれたお猪口を使っていた場合。そして、もう一つは二人の間で、お猪口が交換された場合です。このどちらかならば、このような状況が出来上がると考えられます」
「なるほど。……しかし、本人の話を聞かないことには、どちらが正しいかは分からないわね」
……しめた! これは華扇さんを法廷に呼ぶ絶好の機会だ!
ぼくは机を叩く。
「どうやらそのようです。裁判長! 弁護側は、確認のためにも茨木華扇さんの証言を要求します!」
「分かったわ。弁護側の要請を受け入れましょう。検察側、異議はないわね?」
「……問題ありません」
四季検事は、抵抗する様子もなく、紫さんの言葉を飲む。その姿はどこか不服そうだ。
「……確認のために“も”ですか。……なるほど。一本食わされたようですね」
四季検事は、親指の爪を噛む。……どうやら、こちらの意図が読まれているようだ。
あの様子だと、四季検事は華扇さんが吐き気を感じた一件を知っているように見える。
……そして彼女は、恐らく、ぼくと同じ結論にたどり着いているのだろう。被害者だけでなく、華扇さんも毒物を飲んでいる可能性がある、という結論に。
だから、華扇さんの名前が出たとたん、焦りだしたんだ。……名前が出てしまった以上は、華扇さんを証言台に通さざるを得なくなるからだ。
……何はともあれ、これはチャンス。偶然ではあるものの、検察側が恐れていた華扇さんをついに証言台に引きずり出せた! 後は、彼女が毒を飲んでいたことを証明すれば……この裁判は一気にこちら側に傾く!
紫さんが木槌を鳴らした。
「では、本法廷はこれより十五分間の休憩に入るわ。検察側は、それまでに証人の準備をしておくように!」
「……承りました」
「では、一時休廷するわ!」
もう一度木槌が打ち鳴らされ、法廷は一時中断となった。
どうも、タイホくんです。「法廷1日目 その8」をお送りしました。
先日のオケコン、すごくよかったです。予想していたアフレココーナーはありませんでしたが、それでも満足度は十分でした。ネタバレの塊である「続大逆転組曲」をまた聞けるとは思っていなかったもので…。存在自体がネタバレの楽曲ばかりですからね、あれ。
そして大逆転1&2がまさかの発売決定と。予想はしていましたが、オケコンで発表するものだと思っていたので、不意打ちに驚いております。
個人的な欲を言えば、完全新作も期待していたのですが…裁判も検事も大逆転も次回作を作りにくい現状、仕方ないのかもしれません。どれも綺麗に終わらせてしまっているので。
まあ、完全新作が発売されないならされないで、二次創作品を見て楽しめばいいのですが。最近活発になってきていますし。
次回投稿予定日は5月8日になります。法廷パートも残すところわずかとなりました。
現在法廷2日目の中盤戦を過ぎ、そろそろ終盤戦に差し掛かるところまで書いております。
某お馬さんのゲームに時間を撮られている現状。なんとか執筆し切って、3話が終わるまでに4話の探偵1日目だけでも書き上げたいと思っております。
以上です。では。
星熊勇儀の証言とムジュンする証拠をつきつけろ!
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