逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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法廷2日目 その5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「異議あり!」

 腹の底から大声で、人差し指をつきつけて叫ぶこの感覚。体の奥底にたまっていた、形容しがたいモヤモヤが一気に晴れたような気がした。やはり、ぼくにはこのセリフが一番あっている。

 

 「瑠夏さんが風のお猪口を使っていた……弁護側としては、この上なくありがたい情報でした。……しかし、この証言にはムジュンが一つあるのです!」

 「む、ムジュン? 柄の話を聞いている限りだと、問題ないように思えるけれど」

 紫さんが言った。

 

 「……確かに、柄についての証言は問題ないと言えるでしょう。しかし、本当の問題点は別のところに潜んでいる」

 個人的には、柄の話についてもいささか問題があるように思えるが、ひとまず今はスルーする。もっと明確にムジュンしているポイントがあるのだ。

 

 「これは、開廷時に検察側から渡された資料です。全ての資料にはそれぞれ、お猪口に描かれている絵、付着している指紋の持ち主、そして……お猪口内のアルコール成分について書かれています。今回問題になるのは、アルコール成分のところです」

 「ふむ……。興味深いですね。弁護人、聞かせていただけますか?」

 四季検事が尋ねてくる。その声色は冷静そのものだ。ムジュンを指摘されているのに、焦っている様子がないのが少し変に思えるが、今は無視することにする。

 

 「証人の話によると、瑠夏さんは風の柄のお猪口を使っていたとのことでした。では、それを踏まえたうえで、風の柄のお猪口の情報を見てみると……欠けているものとそうでないものから、共に“強い”アルコール成分を検出、と書かれているのが分かります」

 「そのようね。でも、これが問題足りえるのかしら? 今までの証言を聞く限りだと、お猪口の特定において重要とされるのは、お猪口に描かれた絵のようだけれど」

 「ところが、今回はそうはいきません」

 ぼくはそう言うと、法廷記録からメモを取り出す。

 

 「実は……件の瑠夏さんなのですが、酒に強い鬼族でありながら、ものすごく酒に弱い体質なのです。ですよね、東雲さん?」

 「え、ええ、そうッス。あいつ、全然飲めないくせに、俺たちと飲むってしつこくて……いつも手を焼いているッス。ちょっとでも強い酒が入ったら、すぐにバタンキューっスからね。酔い止めを持参することもあるけれど、効果はほぼ皆無ッス」

 法廷の端で待機していた東雲さんが答える。ここに残ってくれていてよかった。

 

 「鬼族なのに酒に弱い……確かに珍しいわね」

 紫さんは驚きの声を上げる。

 

 「そして、今回の尋問の中で、パルスィさんは“勇儀以外全員酔いつぶれてぶっ倒れればよかったのに……みんななんであんなに酒に強いのよ……”という発言をしました。これは、宴会中誰一人酔いつぶれることがなかった、という事を意味しています」

 ぼくは机を叩くと、続ける。

 

 「さて、ここで瑠夏さんが風の柄のお猪口を使っていた、という前提に立ち返ってみましょう。ここまでの情報を総合すれば……この前提にムジュンがあるということは明確です。もし、パルスィさんの証言が正しいとしたならば、強いアルコール成分を含む酒を飲んだ瑠夏さんが酔いつぶれていないのはおかしい。……つまり! 瑠夏さんは風の柄のお猪口を使っていなかったのです!」

 人差し指をつきつけるとともに、ぼくは叫んだ。久々のムジュン指摘に、傍聴席が少し騒がしくなる。

 

 「静粛に! 今のところ、主張に問題は見受けられないようね。検察側から、何か反論はあるかしら?」

木槌を打ち鳴らした紫さんは、続けて四季検事に問う。張本人である彼女は、どこ吹く風、といった感じでまったく動揺していなかった。

 

「折角のお言葉ですが……。裁判長。検察側から反論は“一切”ありません」

「い、一切、ですか?」

 「ええ」

 思わず聞き返したら、涼しい顔で言い切られてしまった。てっきり、即座に異議が飛んでくると思っていたのに……。

やはり、今日の四季検事は何かがおかしい。まるで、こうなることを予測していた……というよりも、こうなることを“望んでいる”ように見える。

 

 「お猪口の分析は、信頼足りうる者たちによってなされたものです。情報にケチをつけるつもりはありません。また、弁護側の只今の証明も、筋が通ったものです。反論の余地は、無いと考えます」

 きっぱりと言い切る四季検事。眉一つ動いていない。演技ではなく、心の底からの発言のようだ。

 

 「あら、こちらも珍しいわね。なんだか、今日の法廷は色々とイレギュラーな要素が多いようね」

 紫さんはまたも目を丸くして驚いていた。

 

 ……結果的には、お猪口を“使っていた”という情報を一つ失ってしまうこととなったが、今回の証言にはムジュンがあった。どうやら、今までの証言にムジュンがなかったのは、検察側の工作でもなんでもなかったようだ。

 

 ……でも、まだどこかに罠が仕掛けられている気がしてならない。証言の穴をつかれたにもかかわらず、動揺することのない四季検事……ムジュンを指摘した結果、こちら側の首が若干締まったからと考えるのが自然だが……あの余裕は、もっと別のところからきているような気がする。

 四季検事……一体何を考えている?

 

 「さて、ムジュンが一つ見つかったところで、尋問に戻ってもらう……と行きたいところだけど、一応弁護側に聞いておくわ。まだ尋問を続けるかしら?」

 「……いえ。今のところ、これ以上ムジュンは見つからないようです。打ち切っていただいて構いません」

 「分かったわ。では、これをもって水橋パルスィへの尋問を終了するわ」

 木槌が打ち鳴らされ、尋問が終わる。

 

 「うう……せっかく丸印が二つ付いたと思ったのに。一つに減っちゃったよ」

 隣では、真宵ちゃんが消しゴムで丸印を消して、代わりにバツ印を書いている。

 「ま、まあ、まだ証人は二人いるし、どうにかなるだろう」

 真宵ちゃんにそう言ったが、自分の声が震えているのが分かる。なんだか、少し嫌な予感がしないでもない。

 

 「では、次の証人を入廷させていただきましょう。鬼灯鈴さんをここへ!」

 四季検事の声にやや遅れる形で、ゆっくりと扉が開く。

小さなシルエットは少し自信なさげな様子で、おずおずと傍聴席を突っ切って、証言台につく。歩幅が小さいというのもあって、席に着くまで少し時間がかかっていた。

 

 「では、証人。名前と職業、種族を述べて下さい」

 「…………」

 四季検事が、慣例通り身分確認を行う。が、鈴くんはそれに答えない。例の人見知りが発動してしまっているようだ。小さな体をさらに小さく縮こまらせて、すっかり委縮してしまっている。頭に生えた二本の短い角も、どこか元気がないように見えた。

 

 「……証人。焦る必要はありません。ゆっくりでいいので……」

 四季検事の声色が柔らかく、優しいものになった。昨日の大ちゃんへの態度といい、彼女は子供が相手になると、途端に柔和な姿勢をとるようだ。子供好きなのだろう。

 

 「わ、わわわ私は、ほほほほほ鬼灯鈴でしゅ! ……です」

 鈴くんは四季検事の言葉が終わると同時に、慌てて名前を名乗った。慌てすぎて、語尾を噛んでしまっている。恥ずかしいのか、頬が紅潮していた。

 

 「……この際、他の事柄はいいでしょう。重要なのは証言です」

 やはり四季検事は子供に甘い。名前しか述べていないが、問題なしと片付けて裁判を進行させる。

 

 「では、証人。宴会中に見たお猪口について話してくれますか?」

 「…………」

 鈴くんは再び縮こまって黙ってしまう。こりゃ相当重症だな。

 

 「これも焦って喋らなくていいのです。落ち着いて……」

 「わわわ、分かりました! 話しますっ!」

 「え、ええ……お願いします」

 鈴くんはどうも緊張が高まりすぎて、行動が空回りしているようだ。突然鈴くんが叫んだことで、四季検事は面食らったような顔で驚いている。彼女のこんな顔を見たのは初めてかもしれない。

 鈴くんは、頬を真っ赤に染めながら証言へと入った。

 

   

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、タイホくんです。少々遅くなってしまいました。ごめんなさい。

さて、久々のつきつけるのコーナーでございます。証拠品が大幅に増えたので、いくつか厳選する形で出題いたします。

ちなみに今回、答えが複数あるパターンです。改めて読み返してみましたが、ちょっと難しいかも。かも、なのでそんな言うほどかもしれませんが()。

次回投稿予定日は、2月26日です。失踪はしません。投稿日を忘れてしまうかもしれませんが…()

では。

―つきつける― 水橋パルスィの証言とムジュンする証拠をつきつけろ!

【証拠品リスト】

・弁護士バッジ
ぼくの身分を証明するためのバッジ。
これが無いと誰もぼくを弁護士として認めてくれないが‥‥幻想郷で付けていてもあまり意味がないような気がする。

・鬼道酒華の解剖記録
被害者の解剖記録。
※詳細
・被害者 鬼道酒華
・死因 鬼殺の秘薬の摂取による内蔵出血。

・鬼殺の秘薬
被害者を死に至らしめた毒物。鬼族の血の濃さに応じて毒性が変化する。
鬼族以外の種族には一切反応を示さない。えぐみのある味をしているらしい。

・宴会参加者の情報
名琴から教えてもらった宴会の参加者の情報。
※詳細
宴会の参加者は妖怪がほとんどを占めていて、
人間は唯一名琴のみ。鬼が全部で六人、残りの二人は妖怪だった。

・名琴の証言書
名琴から聞いたことをメモしたもの。
「萃香が被害者に酌をしたとき、彼女は盛大に酒をこぼしてしまった」

・被害者の盃
被害者が座っていた席に置かれていた。
牡丹と鶯色の鳥が描かれている。

・鬼殺し
宴会でふるまわれた酒。
強い度数と辛みが特徴。

・神便鬼毒酒
宴会でふるまわれた酒。
弱めの度数と甘い味が特徴。

・盃と徳利セット
萃香が持参した盃と徳利のセット。
盃はペアになっているものが5セット入っている。
※詳細
それぞれの盃の柄は以下の通り。
風:表に雲、裏面に風が吹いている様子
花:表に彼岸花、裏面に川
雪:表に降雪の様子、裏面に月
月:表に月、裏面にすっぽん
鳥:表に鶯色の鳥、裏に牡丹の花

・陽皐瑠夏の水筒
陽皐瑠夏が宴会の時に持参していた水筒。中身は酔い止め。ただし、彼女には効果がない。
蓋と容器がそれぞれ盃と徳利のような形状をしている。
片面に彼岸花、もう片面に黄緑色の鳥が描かれている。

・名琴の水筒
名琴が宴会の時に持参していた水筒。中身は酔い止め。
現在は警察の管理下に置かれている。陽皐の水筒と同じもの。

・風の柄のお猪口①
宴会の場で使われていたお猪口。雲と風の絵が描かれている。
成分分析の結果、強いアルコール成分を検出。

・風の柄のお猪口②
宴会の場で使われていたお猪口。雲と風の絵が描かれている。
飲み口の部分が少し欠けているようだ。
成分分析の結果、強いアルコール成分を検出。

・華の柄のお猪口①
宴会の場で使われていたお猪口。彼岸花と川の絵が描かれている。
成分分析の結果、極微弱なアルコール成分を検出。

・華の柄のお猪口②
宴会の場で使われていたお猪口。彼岸花と川の絵が描かれている。
成分分析の結果、極めて強いアルコール成分を検出。
鬼道酒華と茨木華扇の指紋を検出。

・雪の柄のお猪口①
宴会の場で使われていたお猪口。雪の絵と月の絵が描かれている。
成分分析の結果、微弱なアルコール成分を検出。
メディスン・メランコリーの指紋を検出。

・雪の柄のお猪口②
宴会の場で使われていたお猪口。雪の絵と月の絵が描かれている。
成分分析の結果、極めて強いアルコール成分を検出。
伊吹萃香の指紋を検出。

・月の柄のお猪口①
宴会の場で使われていたお猪口。月の絵とすっぽんの絵が描かれている。
成分分析の結果、微弱なアルコール成分を検出。

・月の柄のお猪口②
宴会の場で使われていたお猪口。月の絵とすっぽんの絵が描かれている。
成分分析の結果、極めて強いアルコール成分を検出。
星熊勇儀の指紋を検出。

・鳥の柄のお猪口
宴会の場で使われていたお猪口。鶯色の鳥の絵と、赤い花の絵が描かれている。
成分分析の結果、微弱なアルコール成分を検出。
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