幕間の物語(カルデア編)を番外編として描いてみました。
初回ということでFate/を代表する三人を中心に描いてみたつもりです。
少し話に抑揚がない気がしますが、そこは勘弁してください。
ついでに祝・UA20000突破!
マジでありがとうございました!
幕間の物語・第五次三大騎士編
カルデアの食堂メニューは多種多様である。
出身はアフリカや中東、北欧やアメリカ、日本からブラジルに至るまで、カルデアにいる英霊の出身地で簡単な地図が埋まる程に多様だ。
そして時代も最古は神秘に溢れた神話の時代から最新は科学に満ちた近代まで。これだけ場合分けが多ければ、自ずとメニューもそれに比例して増えていくのも道理といえよう。
そして、それだけ多くの人種が入り乱れるカルデアの胃袋を支えているのは、ごく少数の料理人だということはカルデア内では割と知られた事実だ。
「俺の好み?」
「ああ、この食堂を預けられている身としては、君の趣向も把握しておきたくてな、好き嫌いが無いというのは、
とある日のカルデアの食堂にて。
ロトとエミヤはテーブル一つを使って話し合いをしていた。
ロトの向かい側に座るエミヤは食後のデザートにタマモキャット特製白玉あずきを食していたロトに対して、食の好みを聞いていた。ちなみに今日のロトの食事はチキン南蛮であった。
「別に好みなんて言われてもそこまで意識したこと無いぞ? それに俺以外にも決まったメニュー頼まない奴なんているだろ? マリー王妃とか茶会以外だったら楽しそうって理由で普通にドレイク船長と一緒に酒飲んでたぞ?」
「それは知っている。しかし彼女はあまり酒に強く無いのか、紅茶に比べて飲むペースは普段より遅かった。しかし君は違うだろう? 日本酒であろうと
「って言われてもなぁ……俺もそこまで考えて飯食ってるわけでもないし……」
エミヤの追求にロトは困ったかのように眉をひそめる。自分でも無意識下でそこまで食に頓着がないと見られているとは思わなかった。ロトはじっと見つめてくるエミヤに対してロトは続ける。
「それに俺ってなにかとピンチ続きだったからなぁ……飯にこだわってる暇もなくなってくるから、一時期は薬草と聖水とかで何日も食いつないだ事も何回かあったぞ? ま、仲間からはドン引きされたが」
「……それは聞き捨てならんな」
「え?」
ロトにとっては何気なく言った一言であったが、その一言により、目の前にいた
その顔に歴戦の勇者であるロトの顔は引きつり、直感で察した。
──────地雷踏んだ、と──────
「
徐に立ち上がりロトの方へ歩み寄るエミヤに、ロトは距離を取るように焦りながら席を立つ。その珍しい光景は、食堂にいた英霊達の目にも止まり、聞き耳を立てていたデバガメも面白くなってきそうだと身をひそめる。
「い、いや、大丈夫だからエミヤ! 食に傾倒してた時代もあったっちゃあったから! それに言ってなかったけど俺自分でも料理作れるから! だから別に食育は要らないって!」
「そういう問題ではない。そういう経験があって笑い話で済まされている事が問題なのだ。ようやく分かったよ。君は趣向がないのではなく、食を栄養源としてしか見ていないという事がね」
「い、いや! そんな事はないぞ! 出会った仲間とも酒屋で飲みあったこともあったし、別に薬草とかが好きってわけでもないから!」
ロトは必死にエミヤに抵抗するが
「英霊であるから腹を壊す心配もないが、その思考は少しばかり矯正したほうがいいかもしれんな。そういう訳だ
「うん、いいよ。流石にあれはひどい」
「え?! ちょ、立香?!」
「さて、マスターの許しも得たことだ。今日はしっかりと
「え、えっと……レムオル!」
勇者、逃亡。普段は使わない透明化の呪文である『レムオル』すら利用して逃げる辺り、今のエミヤには何かがあるらしい。しかしそんな勇者の逃亡も失敗に終わる。
「マスター」
「令呪をもって命ずる。ロトよ。今すぐ力を抜きなさい」
「ウグオ! り、立香……なんで……」
立香の令呪により、思いっきり頭から床にダイブした勇者をエミヤは襟の部分を掴んで厨房にひきづる。仔牛を連れていくときに流れるBGMが立香には聞こえた。
「諦めたほうがいいよロト? 今の内に済ませておいたほうが後々楽だよ」
「済まないなマスター。後でこの借りは返す」
「な、なぁエミヤ? なんで俺ここまでされてんの?」
「おや? 勇者ともあろう英霊が知らないのかね?」
エミヤはロトの問いかけに顔を向けずに答える。
「
その時の顔を見れなくてよかったと、ロトは一人思った。
──────────
「んで、今のこの有様かよ? オメェも人騒がせな奴だな?」
「うるさいクーフーリン。それにしてもそんなに重要な問題かな?」
「ま、そこは俺も生憎だがあの弓兵に賛成だぜ? どーにも宴会の時に楽しそうじゃねぇと思ったらそういう事だったのかよ? ったく、紛らわしいぜ?」
「俺としてはちゃんと楽しんでたつもりなんだけどな?」
数時間後、ロトは食堂にて数多の料理と周囲からの視線に囲まれていた。
ロトの座るテーブルの前には世界各国の料理が並び、その一つ一つが光り輝いて見える、それを味わう側は極楽であるが、それを観る側は一種の地獄であった。
そしてまたもやロトの前に料理が運ばれる。
ロトはその料理を運んできた男、エミヤを見やる。
「なぁエミヤ? ここまでする必要あるか? 一応英霊だから食えはするけど、1日でここまで食材を使うのはもったいなくね?」
「安心してくれ、君が暇さえあれば乱獲してきた食材は幾らでもある。寧ろ食材を消費しきれるかどうか怪しいところだったので、丁度いいくらいだ」
「マジで……?」
カルデアにいる騎士王ですら消費しきれない量の食材を狩ってきたとはロト自身も驚きの一言である。その発言に食堂内も少しざわついた。
「まぁ、今日は思う存分食べていってくれたまえ。残りは騎士王殿や他の英霊に回すから心配は要らん」
「じゃ、じゃあ頂きます……」
「おう弓兵? なんだったら俺の地元料理も教えてやろうか?」
「貴様に料理のやり方を伝えられるかどうか怪しいところだが、まぁ参考にはなるだろう」
そう言いながらクーフーリンとエミヤは厨房へと消えていった。
残ったロトは目の前の料理を味わうべく、食器を動かし始める。
数時間後……
「ふぅ……少し気分的に休んどこうかな……」
ロトの腹は満ちた。気分の問題だが。
ロトの周りに積まれた大皿は最低でも五十をとうに超え、皿の山が積み上がっていた。
その騎士王に迫る大食漢っぷりは、目を見張るものだった。逆によく今までこの事実に気がつかなかったものだ。
特に膨れていないお腹に手を当ててさすりながら、ロトは一旦食休みに入る。別に大食い対決ではないし、これくらいはいいだろうと言う判断のもとである。
そしてロトはどうしても箸を休めて考えたいことがあった。
「うーん、しかしどうにもピンとこないなー……」
そう、ロト自身の食の好みである。今まで食べてきた感覚をなくすのは容易ではなく、どれも一様に美味しいのが、ロトの判断力を鈍らせる目下の原因でもあった。
このままではエミヤが俺の為に作ってくれた料理が無駄になる。そう考えるロトだったが、考えて答えが出るような問題でもない為、結局堂々巡りで終わってしまう。
そしてふと、ロトは視線を感じ、その方角へ顔ごと目を向ける。
「…………………………」
そこには短い金髪にてっぺんのアホ毛を立たせた青いドレスに白銀の甲冑を着込んだ女性、名をアルトリア・ペンドラゴンが柱に身を隠す様にしながらジッとロトを見つめていた。何故か口からはよだれが垂れていた。
「……あー、アルトリアさん? 何してんですか?」
「ハッ! い、いえ! 丁度食堂を通りかかったら美味しそうな匂いがしたもので! 別に勇者殿の料理を食べたいと思っている訳ではないので、どうぞお構いなく!」
「…………そうですか……」
嘘をつき慣れていないのか、彼女の性分なのか、はたまたその両方か、アルトリアから発せられたその言葉に信用性は皆無であった。
それに彼女がエミヤの料理を他の誰よりも気に入っているのはカルデア内では常識レベルで知られている事だ。
もちろんロトもそれは知っており、明らかに彼女が自分の料理を食べたそうにしているのは明白である。と言うか内情を知らなくても相当な鈍感でなければ気付くレベルで本心が見え見えだ。そこが彼女のいいところではあるが。
「……じゃ、頂きまー」
「ああああああ……」
「……あ──」
「あああ!」
「…………」
「…………」
ロトが口に料理を口に運ぼうとすると、それにつられてアルトリアも口を開けて名残惜しそうに声を上げるが、それを止めると安心する様にホッと息を吐く。
その一連の所作にロトとアルトリアの間に微妙な空気が流れた。
「……食べます?」
「……い、いえ! その料理はシロウが勇者殿のために作られたご飯です! それを私が食べるのは……」
ロトの気遣いに一瞬だけ迷ったアルトリアだが、鋼の意志を持ってそれを拒否、自分に言い聞かせる様に首を横に振りながら必死に邪念? を振り払おうとしていた。
「はい、あーん」
「あーん」
騎士王、陥落。不意打ち気味に眼前に突き出された料理に持ち前の直感を使って対応するあたり、相当食べたかったらしい。目を閉じて噛みしめるように味わうと、感極まったのか少し身震いをした後に喉が動いた。その幸せそうな表情に食堂内の空気が緩む。
「まだ欲しいですか?」
「……頂きます」
ロトの気遣いにアルトリアは今度は素直に応じた。すると厨房の方からガランガランとトレイが落ちるような音がした。
「ん? あ、エミヤ。どうしたんだ?」
「シロウ?」
何かと思い全員が振り返ると、そこには唖然として立ち尽くしているエミヤがいた。
エミヤは小刻みに震える体をそのままに、二人に問いかける。
「……二人とも、先ほどから何をしているのかね?」
「??」
「……あー、エミヤ、君が懸念していることはここでは起こってないから安心してくれ。それと烏滸がましいかもしれないけど、アルトリアも君の料理食べたいってさ」
エミヤの質問の意図がわからず、アルトリアはキョトンと小首をかしげる。なぜここで発動しないんだ直感スキル。
しかし言いたいことに気が付いたロトがすかさずフォローを入れ、その反応にエミヤは頭を抱えながらも、ブツブツと呟く。
「いや、分かっている、分かっているのだ。あの二人が自覚なしにやっている事など……ただ私が納得していないだけで、」
「シロウ、どうしたのですか?」
「ソッとしときなアルトリアさん。彼も色々とあるんだよ」
そう言いながらロトは食事を再開する。そこに混じったアルトリアをきっかけとして、数多くのサーヴァントがロトの食事にありつき、その日のカルデアはマスター達も混ざりの宴会一色となった。
──────────
翌日、ロトは食堂にてクー・フーリンと向かい合って座っていた。
クー・フーリンはロトに問いかける。
「んで、結局見つかったのかよ? オメーの好み」
「ん、まぁね」
クー・フーリンの問いかけにロトは肯定の意を示す。その返答にクー・フーリンは面白げに笑い、再び問い詰めた。
「なんなんだ、そりゃあよ? 聞かせてみろよ」
「デザートさ」
すんなりと答えたロトの返答にクー・フーリンはキョトンとした顔を浮かべる。
まさか主食ではなく、食後のデザートときたのだ。多少昨日のエミヤの趣旨とずれているかもしれない回答にクー・フーリンは疑問の声をあげた。
「あ?」
「口をスッキリさせるあの感覚が気持ちよくってね、よくよく考えたら俺いっつも食後にデザートを食べてたし、デザート担当はタマモキャットがしてたから、エミヤも気づいてなかったのかな?」
「なんだそりゃ……んなことかよ」
ロトの返答にクー・フーリンは呆れ顔で呟く。ロトは目の前に置かれているタルトにフォークを刺し、切ったタルトを頬張る。
「まぁね、でも英霊になっても自分を学べる機会があるなんて……生前苦労した甲斐があったよ」
「はっ、世界を何度も救った大勇者様の最後の褒美が食後のデザート一つってのもどうだかね?」
「感じ方は人それぞれさ、クー・フーリンも食べる? このタルト美味しいよ?」
「いらねーよ、勇者様のお楽しみ取り上げちまったらバチが当たりそうだ」
そう言ってクー・フーリンは席をさり、食堂に残ったのはロト一人だけだった。厨房にいる面々もレイシフトなどの関係で今はいない。
そして残ったロトは一人黙々とタルトを食べていた。
「ん? 私も食べたい? 悪いな、これは俺に作ってもらったヤツだからあげられないよ。え、そんなに俺って食事の時つまんなそうだった? 参ったなぁ……おいみんな、まだマスター達にみんなのこと伝えてないんだからそう無闇矢鱈に召喚されんな! ちょっと戻ってくれ!」
カルデアの食堂の扉からそんな声が聞こえたらしいが、聞いたものは誰もいないらしい。
出来はどうでしたでしょうか?
ご厚意に沿うことができたなら幸いです。
これからもエタらないように頑張ります!