Fate/Dragon Quest   作:極丸

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冬木6

「ロトー!」

「おっと、なんだ立香?」

「凄いよ! 凄いよロトー! 俺感動した!」

 

 立香はセイバーとの勝敗をつけたロトに抱きつく。ロトもなんら苦もなく受け止め、その仲睦まじい光景は年の離れた兄弟に見えた。

 

「ちょっと何をしているの! マスターが戦場でそう簡単に気を緩めないの! 少し自覚がないわよ!」

「まぁまぁ、少し落ち着いてくれってオルガマリーさん。立香も最後に俺に令呪を回してくれて仕事してくれたんだし、いいんじゃないの?」

「その指示をしたのは私よ! 褒めるとしたら私も褒めなさい!」

「そうだったの? じゃあ貴方も功績者だな。ありがとう」

「い、いえ! 分かればいいのよ! 分かれば!」

『所長がデレた! さすが勇者、何でもできるんだなぁ……』

「や、やったわ……認めてもらえた……初めて……初めて……」

「確かに珍しいです。ロマンさんの失言に所長が食いつかないのはかなり珍しいです」

 

 素直にオルガマリーを褒めたロトに何故か関心を持つロマニと、少しばかり浮かれた様子を見せるオルガマリー。かなりレアな表情に意外だと言う顔を見せるマシュであったが、その数秒後、状況は一転する。

 

「グオガァアアアアアアア!!!」

 

 バーサーカー、暴走再開。

 ロトの固有結界が剥がれた影響で、先程まで静観を決めていたバーサーカーが本来の力を解放する。

 一直線にカルデア一行に突き進むバーサーカーに、ロトはいち早く気付き、庇うように前に出て、バーサーカーの振りかぶった石斧を剣で正面から受け止める。

 

「ふんぐっ!」

 

 地面が勢いを吸収しきれずロトの足を沈める。上から迫る重圧にロトは顔をしかめ、バーサーカーは全体重を上から掛け、腕力の全てを以てロトを押し潰しにかかる。

 

「ロト!」

立香(マスター)、悪いけど、また令呪切ってくれない? もう魔力がすっからかんでさ」

「無茶ですロトさん! いくら英霊と言っても! 宝具を二度も打った後では対抗出来ません!」

 

 マシュの叫びにロトは落ち着かせる様に笑う。

 自身が殺されるかの瀬戸際だと言うのに、ひどく落ち着いている。

 

「安心しろって! いいから早……ぐ!」

「ロト!」

 

 バーサーカーの重圧がより増す。本格的に窮地に追い込まれたロトを見て、立香は助ける為に走ろうとする。

 しかしその足はオルガマリーによって止められる。

 走り出そうと降り始めた手を掴まれ、立香は転びそうになった体勢から元に戻り、オルガマリーの方を見る。

 その顔はなぜ止めたと言う疑問の顔だった。

 

「落ち着きなさい。所詮人間程度が、英霊同士の戦いに巻き込まれれば一たまりもないわ。1秒耐えられたらいい方よ。信じなさい、ロトを。勇者を」

「所長……」

 

 立香はその時になって初めてオルガマリーの顔を見た。

 その顔は何も出来ない自分を責める後悔に苛まれた顔であった。

 その顔を見て立香は頭が冷めていくのを感じた。片方の手を胸に添えて大きく息を吸い、吐く。それを複数回繰り返し、前を見据え、令呪を切るため、手を前へと突き出す。

 

「令呪をもって命じる……!」

 

 しかしその令は途中で途絶える。

 立香は突如として焦る様に顔を振り乱して何かを見つけるとその一点を見つめる。

 その方角は自分たちがこの場所に来る際に入ってきた方角であった。

()()()()()()()()()を感じ取ったその方角には、キャスターが相手をしていたアーチャーがいた。

 そのアーチャーは片手に黝ずんで全容が見えない剣を持ち、もう片方に弓を持っていた。

 

「先程ぶりだな、人類最後のマスターよ。どうやらセイバーはやられた様だな?」

「アーチャー! って事は、キャスターは……」

「ああ、おそらくだが、君の思う通りだ。中々に手こずってしまったが、最後の最後で奥の手を使ってしまった。いやはや、だからあの者は好きになれん」

「ック……! マシュ! やるぞ!」

「はい! マスター! ロトさんばかりに負担は負わせません!」

 

 

 立香の声にマシュは応じ戦闘に入る為アーチャーに近づく。

 しかしそれと同時にアーチャーは意味深に嗤う。

 

「甘いな。敵の目的も分からずに猪突猛進とは三流にもなれんやり方だ」

「……! マシュ! 戻りなさい!」

「遅い!」

 

 アーチャーの何かに気づいたオルガマリーが戻る様呼びかけるが、アーチャーは剣を弓に番え撃ち抜く。その軌道は真っ直ぐに……

 

 

 

 

 

「ゴゥアアアアア!!!」

 

 

 

 ……バーサーカーの眉間を撃ち抜いた。

 それと同時にバーサーカーの霊基が『座』へと還る。

 突然の敵同士の裏切りに呆然としていると、アーチャーの体がバーサーカーと同じ様に光り始める。

『座』に還るのだと感じ取ったロトは下半分が消えかかったアーチャーに自身の疑問をぶつける。

 

「アーチャー、あんたどうして……」

「なぁに、あの剣は作るのに苦労してね。魔力の供給源が無くなった今では、1つを創り出すのでさえ相当な魔力を使うあの剣を二度も作ったのだ。この様な結果にもなるだろう?」

「そうじゃ無いわよ! どうしてあのバーサーカーを撃ったの! 仲間ではなかったの?」

 

 見当違いな解答をするアーチャーに苛立ったのか、オルガマリーは詰め寄る。その言動にアーチャーは柔らかな笑みを浮かべてから言う。

 

「簡単な話だ、もう既に勝敗は決した。魔力の供給源のセイバーがやられたのだ、消失するのは時間の問題。バーサーカー一人が奮起したところでどうにかなる問題ではないのでね」

「なんでそこまで……」

「さてね? そこまでは教える必要はないかもしれんな」

「ん?」

 

 そう言ってアーチャーはロトの方を含みのある笑みで見る。顔を向けられたロトは小首を傾げるが、アーチャーはそのままバーサーカーと同じように消えていった。

 そこに残ったのはカルデア一行のみだった。

 

「……結局何だったんでしょう。あのアーチャーさんは……」

「分からないわ。けど、今はそんなことを気にしている場合じゃないわ。早くいくわよ」

「「はい!」」

「フォウ!」

 

 オルガマリーの呼びかけにマシュと立香は力強く答え、3人と一匹は光の柱を目指す。

 その後を着いていくようにロトも歩き出すが、ふと止まって後ろを振り返る。

 

「少しでも抗えるようになったんじゃないか? エミヤ……」

 

 そう呟いたロトの声は誰にも届くことなく無へと還る。

 その顔は何かを懐かしむような暖かい顔であった。

 

「ロト―! 早くいくよー!」

「おう、待ってろ立香。すぐ行く」

 

 マスターに呼ばれてロトはすぐさま踵を返す。

 そして振り返る事は無かった。

 

 

 

 

 

「これがこの特異点の原因……」

「変な水晶」

「先輩、あまり近づかない方が……」

「フォウホウ」

 

 立香たちはセイバーを倒した跡地にいた。そこには正体不明の水晶があり、立香たちを困らせていた。

 

「まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外だし、私の寛容さでも許容できないな。48人目のマスターにして、全く見込みがない子供だったからと善意で見逃していた私の失態だな」

 

 そこに突如として第三の声が聞こえる。

 

「「「「!?」」」」

 

 どこからともなく聞こえた声にロトはすぐさま剣を抜き、マシュはその背後をカバーするように立香とオルガマリーを守る。

 そしてその声をよく知るマシュとオルガマリーは目を丸くする。

 何もない空間から緑のシルクハットに深緑のスーツを着込んだ糸目の男が現れる。人柄のよさそうな笑みを張り付けたその顔はなぜかこの場ではひどく冷徹に見えた。

 

「レフ教授!?」

 

 マシュはその男の名を叫ぶ。レフ・ライノール、カルデアに所属する顧問魔術師で、「シバ」という未来観測レンズを作り上げ、未来の世界の危機を導き出した功績者のうちの一人である。

 オルガマリーが最も信を置いている人物であり、カルデアではなくてはならない縁の下の力持ちのような存在だ。

 そんな裏方の彼が何故、事故現場にいなかった彼が何故レイシフト先の冬木にいるのか。

 そんな疑問がマシュの頭の中をかき回す。

 

『レフ? レフ教授だって?! 彼がそこにいるのか!?』

 

 カルデアにいるロマニにもその情報は伝わり、動揺を見せる。それが聞こえたのか、レフは少しばかり目尻を引くつかせると確認を取る様に呟く。

 

「その声はロマニかい? 全く、君も生き残ったのか。すぐに管制室に来いとあれ程言ったというのに……全く……」

「……っ!」

 

 その言葉は徐々にだが、言葉の節々に怒気が込められていた。いや、怒気とも違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。軽蔑、侮蔑、落胆、失望。

 どこまでも俯瞰して相手を見つめているその眼にロトは背中に走る悪寒を感じ取る。

 そんなロトをよそにレフは顔を手で覆い首を横に振る。その一動作で、ロトは益々自身の感じる悪寒を確信する。

 

「どいつもこいつも……統率の取れないくずばかりで吐き気がする」

 

それと同時にレフの顔が再び現れる。

先ほどまで閉じられていた目は瞳孔が開くまでに開かれ、その光のない瞳を極限にまで露わにしていた。普段はにこにこと笑っていたその真一文字に閉じられていた口も歪に歪み、不気味な笑みを作り上げていた。

ロトの心臓が跳ね上がる。その感覚は未知の強敵と戦う直前に感じる危険さそのものだった。

ロトのレフに対する警戒度は限界にまで来ていた。

レフを誰一人にも近づけてはいけない。

そんな使命を胸に、ロトは盾を召喚し、構える。

 

「レフ?……レフなの?」

「オルガマリー!行っちゃ駄目だ!」

 

しかしここでロトにとって不幸なのは、オルガマリーのレフに対する依存度が高かったという点だ。

レフを確認したオルガマリーは一目散にロトの横を通り過ぎ、レフのもとへと駆ける。

 

「マシュ!立香を頼んだぞ!後から付いてきてくれ!」

「はい!」

「気を付けてロト!」

 

ロトも慌ててオルガマリーを追いかける。

先ほどオルガマリーの横顔が見えたロトであったが、その顔は一種の催眠状態に近い顔であった。

あのまま行けば何かがやばい。その直感がオルガマリーを追いかける一心だった。

 

 

 

「レフ、レフ、ああよかった!生きていたのねレフ!」

 

オルガマリーは遂にレフのもとにたどり着いた。たどり着いてしまった。

オルガマリーは先ほどまで見せた凛々しい顔ではなく、親鳥の加護を頼る雛のように弱々しかった。

そしてオルガマリーはレフの胸に抱きつきながら泣いた。

 

「怖かったわ!あなたもあの爆発に飲み込まれたのかと思って気が気じゃなかったの!これで安心だわ!だってあなたがいてくれるもの!あなたはいつだって私のそばにいてくれた!だから、また、私を助けて……」

「……オルガマリー……」

 

ロトが追いついた先で見たのはレフに縋るオルガマリーの姿だった。その様は実に痛々しく、ロトは直視できないほどに悲惨な姿に見えた。

 

「もうずっと立て続けに予想外の事ばかりだわ!管制室は爆破されるし、目が覚めたら廃墟の街に飛ばされるし、カルデアには帰る手段も見つからない!」

 

オルガマリーは泣き叫んで今までの感情を吐き出す。その声は辛く切なく、誰かに伝えたかったがそれを許されない立場にいたが故の結露であった。

 

「けど、もういいの。あなたがいれば何とかなるから……だって今までそうだったもの。今だって私を助けてくれるんでしょう?」

 

そしてオルガマリーは母親の膝の上で眠っていた幼い子供のように落ち着いた声でレフに話を振る。もはや先ほどまでの凛々しい頼りになる所長としてのオルガマリーは存在しなかった。

そのオルガマリーをレフは優しい手つきで頭を撫でる。

 

「ああ、もちろんだとも。本当、予想外の事ばかりで頭にくる。特に意外なのがオルガ、君が生きていたとはね。あの爆弾は君の足元に設置したというのにまさか生きてるとは」

「……!!オルガマリー!危ない!」

「キャッ!?」

 

レフは手を休めずに何事もないかのように言った。その事実にロトは直感で危険を察知し、レフの腕を掻い潜ってオルガマリーを自身のもとへと引き寄せる。

そしてレフは邪魔をされたロトを忌々し気に見つめる。

 

「ふん、勘のいいサーヴァントだ。貴様らは一体どこまで私を苛立たせれば気が済むんだ?」

「勝手に気が立ってるだけだろ?想定外を楽しめるくらいしねーと、人生詰まんなくなるぞ?」

「下らん考えだな。流石はゴミクズ共が憧れる存在なだけある。我々とは無縁な考え方。吐き気がする」

「ロ、ロト?何を……というより、レフ?今のって……どういう意味?」

 

オルガマリーはロトの腕の中で困惑していた。突如としてレフの口から告げられた衝撃の事実を前に、脳が拒否反応を起こし、頭が混乱する。聞き返したのは真実を聞きたいからではなく、自分の仮定した仮説が嘘であって欲しいという一種の拒絶であった。

しかし現実はどこまでも残酷であった。

 

「ああ、誤解を招いてしまったね。実をいうと、生きている。というのとはまた違う」

「もういい!聞くな!オルガマリー!」

 

ロトの必死の一言もオルガマリーの耳には遠く聞こえた。ロトはこれだけ近くで、大声で話しているというのに。

レフはあんなに遠くに、小さな声で話しているというのに。

オルガマリーにはレフの声がはっきりと聞こえた。

 

 

 

「ロト!所長!大丈夫!?」

「所長!今助けに来ました!」

「フォウフォウ!」

 

 

 

「君はもうとっくのとうに……」

 

遠い所から藤丸立香(人類最後のマスター)マシュ・キリエライト(そのサーヴァント)の声が聞こえる。

其方に目を向けるが、やけに視界がぼやけて見える。

 

おかしい。

 

レフの口の動きはあんなにもはっきり見えるというのに。

この不思議な現象を止めてもらおうとレフの方を見る。

 

そうだ。レフが何か言おうとしていた。聞かなければ。確か私に関することで誤解があったらしいからその説明をしていたはず……

 

そしてオルガマリーの視線がはっきりとレフの方を向くと、レフは口を割る。

 

 

「死んでいるんだから」




今回の話は区切りどころが難しかったので一旦ここで分割です。
ここで切らないとケッコーな字数になってやばいと思ったので……

今のところのマシュと立香ほとんどが返事しかしていないような気がががが……

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