しかも話が全然前に進まねぇええ!!
その言葉はオルガマリーに動揺を与えるには十分すぎる言葉だった。いや、威力がありすぎたといっても過言ではない。
自分自身が生きている自覚があるにもかかわらず、死を宣告されたのだから。
見る見るうちにオルガマリーの顔が青く染まっていった。
そしてそれを偶然、ロトとオルガマリーを救いに駆け付けた立香とマシュも聞き、驚愕に顔を染め上げる。
その中で冷静さを保っていたのは言った張本人であるレフ・ライノールとオルガマリーをかばうように抱くロトだけであった。
「お前、俺が今まで見てきた中でもケッコーなランクの下種だぜ?そう認識したら俺は手ぇ抜けなくなるんだけど?」
「フン、粋がるなよ。たかが
ロトの問いかけにレフは手に持っていた金の装飾のない杯をロトに見せる。
ロトはそれを聖杯といち早く認識する。
『あれは聖杯?!ロトくん気を付けて!あれは君がどうこう出来る様なものじゃない!』
「まぁ、これで貴様をすぐに葬り去るくらいは訳はないが、それでは芸がない。そうだ、オルガ君。君を先に始末してから後を追わせて……」
レフは意気揚々と語るが、それも途中までだった。
目に完全な殺意を込めたロトが剣をレフに振りかぶっていたからだ。
すんでのところで聖杯の力で障壁を張り難を逃れたレフだが、その顔は苛立っている。
「全く、話の腰を折ってもらっては困るのだが?それより、貴様の抱えていたオルガはどうしたのかね?」
「立香たちに託したよ。いつお前が仕掛けてきても大丈夫なようにな」
レフはチラリと障壁の向こう側をロト越しに見ると、オルガマリーを庇う様に立香とマシュが周りをかこっていた。それにレフは舌打ちで答える。
「ふん、無駄なことを。聖杯の力は絶対的なものだ。所有者が願えばそれだけでどうとでもなるという事をまだ理解できないか?」
「そういう奴を何度も相手にしてきた俺から言わせて見りゃ、どうにかなるもんだぜ?」
「ならやってみせろ、
「言われずとも!」
そう言ってロトは剣を障壁に向かって叩き付ける。
一撃一撃に強烈な威力を持ってはいるが、聖杯で作り出された障壁を打ち砕くには足りず、ただ障壁を揺らすだけにとどまっていた。
その様子にレフは苛立つような笑みを浮かべてロトに言い放つ。
「ハハハ、無様だな勇者とやら。いや、似合っているといった方がいいのか?あれだけ豪勢に啖呵を切っておきながらこの程度とは、世界を救ったという割には大したことはないな?」
「……」
「ふん、答えもしないか。まぁいい、貴様のあがく姿を見るのも飽きた処だ。ここいらで見せてあげようオルガマリーの最後という奴を」
そう言ってレフの手元にある聖杯が輝きを増す。
「ん!?鎖か……」
「ロト!」
「大丈夫だ立香、倒す威力の鎖じゃないから安心してくれ。そんなことよりオルガマリーを頼む!」
「はい!任せてください!ロトさん!」
その瞬間、ロトの胴体を黒い鎖が体を縛り上げ動きを封じる。ロトはそれを解こうと鎖を切ろうとするが剣も持てぬ状態の為中々に難航していた。
さらには空間に穴が開き、その向こう側にはいくつもの輪に囲われた宙に浮かぶ赤い地球儀の様な物体が浮遊していた。
それを見たオルガマリーの顔が天体とは対照的に青く染まる。
「う、嘘でしょ……カルデアスが、カルデアスが赤く染まって……」
「フフフ、気に入ってもらえたかね、オルガマリー?これが今のカルデアスの現状だ。君の愚行が招いた結果という事だな?フフフフフ……」
オルガマリーの凍り付いた表情を見てレフの顔が不気味に笑う。その笑みを直視したマシュと立香はその不気味さに足が自然と一歩後ろに下がる。
「このカルデアスの状況が何を意味しているかは分かるだろう?そう、破滅だ。残念だね、オルガマリー?あのカルデアスは君がすべてを注いで観測してきたというのに。そのついでだ、異常が本当かどうか、
「レフ……?何を……きゃ!」
「オルガマリー所長!」
「所長!」
突如としてオルガマリーの体が宙に浮き始める。それを止めようと立香とマシュがすぐさま足を掴み、止めようとするが、オルガマリーは降りてこない。その様子を遠くからレフは眺めていた。
「フフ……馬鹿な奴らだ……聖杯の力の前では意味もなく終わるというものをまだ分かっていないようだな」
「分かってねぇのはお前だよ」
「ン?……」
その声を聞き取った方角へレフは忌々し気に顔を向ける。
そこにはいまだ鎖への抵抗をやめていないロトの姿があった。
ロトは鎖に抗いながら不敵な笑みをレフに向けて浮かべた。
「俺の本読んでなかったみたいだな?俺もまだ読んでねぇけど、仲間の奴が書いたんだとしたら鮮明に書かれてる筈だぜ?お前と似たような気質の奴が最後どうなったか位な」
「……何が言いたい」
「お前、俺が倒した奴等に
ロトのその言葉にレフは何も返さない。否、
「…………仮に私が貴様に倒された奴らに酷似していたとして、それが何なのだ?それに見ろ、彼女のあの様を。もう直にブラックホールと化したカルデアスに触れ、魂と肉体の全てが完全に消滅するのだ。黙って見ていろ、勇者と言われたお前が、何をすることも出来ずにあのゴミが消えていく様をな」
「う、うぉおおお!吸い寄せが……!」
「しょ、所長……!」
その言葉と同時に、立香が声を上げる。見てみるとオルガマリーを吸い寄せる力が強くなっているようだ。彼女の周りの地面が少しづつ剥がれ、吸い寄せられていくのがわかる。
立香とマシュが二人掛かりでオルガマリーを引き留める為足を掴んでいるが、それも限界が近い様だ。
「いい!?絶対に離さないで!!離したら絶対に許さないわよ!!」
オルガマリーも勢いが増したのを感じ取ったのか、立香達に檄を飛ばす。
スカートを掴みながら必死になって乙女としてのプライドを守ろうとしている辺り、どこかアンバランスな部分もいがめない。
「……徐々に出力を上げて最後にズドンって奴か?」
「ふ、良く解っているな。貴様も似たような趣向を持っているのかね?」
「いや、おれ自身にそんな遊びをした経験はねぇが……」
ロトは少しばかり腕に力を籠める。
鎖がきしむ音が聞こえる。
「そういう下種な趣味を持ってる奴は見たことあるよ」
砕け散る鎖。レフはそれでも冷静さを失わなかった。
「ふん、やはり出鱈目だな。しかしこの結界はそう簡単には攻撃を通す事は無い。ここからどうするのかね?」
「簡単だ。攻撃は通らずとも……」
ロトは走り出しレフの横を通過する。特に損傷を負っていないレフがその場に立ち続けており、何をしたのか疑問に思い後ろを振り返る。
そこにはレフの後を通り過ぎたロトと……
「……ッ!それは!」
「普段から小銭ぐらいは持っといた方がいいぞ?でないと貴重品とかを手癖の悪い盗賊にとられるぞ。例えば……」
その手に無造作に土台と器の間の部分を指に引っ掛けて遊ばれている聖杯があった。
「俺とかのな……」
「貴様ッ!」
とある時代のロトは己の見分を広めるべく、勇者以外の職を経験したり、仲間を探す際はどんな人間であろうと仲間に受け入れた事があるという逸話がある。
剣士や武闘家、魔法使いや僧侶といった職業はもちろんの事、中には遊び人や羊飼いといった、魔王討伐にはおよそ関係のない人間までもを仲間に加えて冒険を進めていき、一人の遊び人を賢者にまで押し上げたというのは、ドラクエの中では有名な逸話である。
その中でもひと際異彩を放ったのが『盗賊』だ。
『盗賊』には『ぬすむ』という、モンスターが持っているアイテムを奪い取れるものがある。この、他の仲間では真似出来ない唯一性がドラゴンクエストにおいて異彩を放っており、主人公以外のパーティメンバーの名前が一切明記されていない『Ⅲ』や『Ⅸ』、『Ⅹ』でも、仲間の中に盗賊はいた。
転職を繰り返し続けた『Ⅵ』や『Ⅶ』では、一時主人公自身が盗賊になった場面も存在する。
その『ぬすむ』という行為により、勇者はそのぬすんだアイテムから装備などを強化していき、魔王討伐に役立てたという。そもそもドラゴンクエストの勇者はいざとなれば不法侵入や盗みもためらわない人物だ。
城に潜入する際透明化の呪文を使ったり、相棒のネズミを宿屋の客の話を聞くために忍び込ませた逸話などもある。
そんな清濁を合わせた人物こそが『勇者』である。
決してレフが思う様な綺麗な人間ではない。
いざとなれば
「……まさかそのような方法で聖杯を奪うとはな!しかしそれでどうする!?所詮それは紛い物!!その聖杯を使い彼女を甦らそうというのであれば、それは不可能というものだぞ!?」
「……まぁ、生き返らせるのは正解かな……」
何ともなさげに呟くロトにレフは苛立つ。
こちらが無理だと提示しているにも拘らず、それを実行しようとしているのがとても気にくわない。
『ちょっとロトくん!?死者を生き返らせるなんてそんな方法、本物の聖杯でも使わない限り無理だ!それは確かに聖杯ではあるけど、単なる膨大な魔力の塊なんだよ!!それ単体じゃ蘇生するなんてことは……いや、ロトくん!まさか君が使用としてることって!』
「……なんだ?まさか当てでもあるというのかね」
「まぁな……現代じゃどうも神秘が薄くていつもの魔力消費量だと出来なくてな……
ロトは大胆不敵にレフに笑う。対するレフは、いら立ちが最高潮に達するかのように、歯を軋ませ、目を血走らせ、ロトをにらんでいた。
「ザオラル。聞いた事位あんじゃねぇのか?ケッコーメジャーな呪文だぜ?」
そのロトの言葉と共に聖杯は一際輝きだした。
遅れてしまって申し訳ない……
他の作品の執筆が盛り上がったり、オリジナルに挑戦してみたりと、いろいろ調子に乗ってしまった作者を許さないでください……調子に乗りますんで
今月いっぱいにもう二話は投稿したいとこ
さっさとオルレアンとか行きてぇのに……