Fate/Dragon Quest   作:極丸

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感覚空いた割にかなり適当に。
でもこれで一つの山場は超えた感じ。


冬木8

 完全蘇生呪文(ザオリク)

 『ドラゴンクエスト』を呼んでいる人間であればすぐにピンとくるこの言葉。

 『死者を甦らせる』という人類の一つの夢であるこれを再現するこの呪文は、神話の時代からあらゆる世界に影響を与えた。

 ギリシャ神話に登場する太陽神アポロンの息子、アスクレピオスが不老不死の霊薬を完成させたのは、『ドラゴンクエストⅷ』に出てくる騎士団員の『ククール』があんなチャラ着いた野郎なのにも拘らず医療の理想にたどり着いていることに対抗心を燃やして作ったといわれたりする。

 余談ではあるが、アスクレピオスは『ククール』の所為で自身の銀髪が嫌いになり、『ククールの様だ』と言われるのが嫌なため、自身が認めた相手以外には基本的にフードを被っていたという。

 

 閑話休題。

 

 また悪い方にも影響はあり、聖女ジャンヌ・ダルクが率いていたフランス軍の軍師、ジル・ド・レェが黒魔術を執行しようとした理由の候補の一つにも『ザオリクを再現しようとしていた』という説がある。

 良くも悪くも、大きな影響を残しているドラクエを代表する呪文、『ザオリク』。

 しかし、この呪文の下位互換の『半蘇生呪文(ザオラル)』という呪文については、意外と知られていない。

 ザオラルは幸運であれば、奇跡的に蘇生が出来るという、ザオリクに至る事の出来ない僧が身に付ける呪文である。蘇生できたとしても、その能力はザオリクに比べれば当然劣り、劣化版ザオリクと言える使いどころが少ない呪文の一つであった。

 

 しかし忘れてはならない。

 幸運に頼らざるを得ないといっても、死者を甦らせるという禁忌を行えるこの呪文は、現代の魔術をもってしても再現不可能の領域に存在する、『魔法』の類だという事に。

 魔術師の一家が何代にもわたって『ザオリク』を再現しようとしているにも拘わらず、『ザオラル』に到達することもままならない事実があるという事を。

 

 つまり、何が言いたいのかというと……

『当時ザオリクを多用していた勇者が、現代の聖杯の魔力を使ってザオリクを唱えよう』としても、ザオラルで限界なのである。

 

「さてと……オルガマリー・アニムスフィア!あなたに一つ、僕に託してほしいものがある!!」

 

 ロトは声高らかにオルガマリーの方を振り返りながら叫ぶ。オルガマリーは必死に引力に逆らっている立香とマシュ、そしてフォウに足を持たれながらスカートを必死に抑え込んでいた。

 

「え?!い、いきなり何!!この私に一体何をしろって言うのよ!私はもうレフの言うように死んでいるのよ!!今更私に何が出来るのよ!!」

「ちょ、ちょっと所長!あんまり暴れないで!こっちも結構限界で……」

 

 オルガマリーはやけくそ気味にロトに反論する。立香が抗議の意を示すが、大して気にも止めず話を進める。

 

「今からあなたには『命』を『懸けて』もらう!これは比喩でも何でもない!本当の賭けだし!本当の命だ!そうすればあなたの命は助かるかもしれない!どうする!オルガマリー!」

「ど、どうするって言われても……」

 

 突如として問いかけられたオルガマリーは答えられず口を開けては閉めを繰り返した。本能が叫ぼうとする言葉を紡ごうとするが、理性がそれを寸前で押しとどめる。

 

「叫べ!オルガマリー!!」

「…………!!」

 

ロトの絶叫にオルガマリーは目を見開く。ロトの初めて見せた激情。それが今まで溜め込んでいたオルガマリー・アニムスフィアの激情を解放させた。

 

「助けてほしいわよ!当たり前じゃない!まだ誰にも私を褒めてもらってない!まだ……まだ私は出来るんだから!それを証明したいわよ!()()()()()()()()()!」

「所長……!」

「オルガマリー所長……」

 

オルガマリーの告白にマシュと立香は僅かに息を飲んだ。そしてお互いに目を合わせると無言でオルガマリーを引き寄せようと手に力を込める。絶対に離さないように。

 

「……よし。腹は据えたみたいだな。行くぞ……」

 

ロトはその様子を見ると満足げに頷き、聖杯を持っていない方の手を虚空に掲げる。するとそこに一本の杖が現れる。

それは無骨な木製の両手杖であった。一本の木を削ってできたようなその杖は装飾というものは先端部分にはめ込まれたオレンジの宝玉のみで、それ以外の一切がナニも施されていない杖だった。

 

「これで少しでも確率が上がればいいんだけど……」

 

『賢者の杖』と呼ばれる、名を知れば卒倒することは間違いない代物を取り出し呪文を唱える為、杖を構え意識を集中させるロト。すると淡い光が彼を包み込み、古代文字のような模様がロトの周りを旋回し始めた。

 

「無駄だ。既に()()は実行されている。紛い物であろうと聖杯は聖杯。所有者の願いを叶えようと力は行使され続ける。どんなことをしようと無駄だ」

 

悪あがきだとロトを見下すレフ。隙だらけのいまその瞬間に手を下さないのは、自分の予想が完全に外れることはないという自信の表れだった。それに反応するように、吸引の勢いが増し始める。

 

「う、うぉおおお!す、吸い込みが……きつく……!!」

「先輩!頑張ってください!」

 

それに対抗して二人も踏ん張りを増す。しかし聖杯の力は伊達ではなかった。

 

「あ……」

 

誰かがそういった。その時、オルガマリーは宙を浮いていた。今まで味わったことのない浮遊感の中、自分がもうすぐ消えてしまうのだという事を本能から察した。数瞬もしないうちに無へと還る自分を予測し、目から涙が溢れそうになる。しかし、その涙が流れ出ると同時に暖かさを伴った鋭い声がオルガマリーの耳に届く。

 

『ザオラル!』

 

ロトは目を閉じつつ、周りの状況をリアルタイムで感じ取っていった。こちらに侮蔑の眼差しを向けるレフ。踏みしめる足に力を込めたマシュと立香。勢いを増す空間の吸引。それに飲み込まれそうになるオルガマリー。普通の人間であれば動揺の一つでも見せそうなこの状況下でも、ロトは冷静にザオリクの施行に移行すべく精神を研ぎ澄ませる。

本来であればすぐさま発動が出来る呪文であるザオラルをここまで集中しなければならなくなったのはシンプルに現代の魔力の神秘性の薄さである。これが要因で膨大な魔力、そして超常的なまでの精神力を要求されるのである。これは普通の英霊でも出来るのは難しい。ではなぜロトはできるのか。それは()()()としか言いようがないのかも知れない。

 

「ハァアアアア…………力を貸してくれ、みんな……ザオラル!」

 

ロトは叫んだ。渾身の祈りを込めて。そしてその杖に込められた魔力は一直線に()()()()()()()()()()()()突き進む。

 

「……え?」

 

オルガマリーは何が起こったのか分からなかった。それは足を持っていた二人も同様である。そして静まり返ったその状況下で笑い声が響き渡る。

 

「はははははははは!!あれだけ大見得を切って結局は失敗か!所詮はサーヴァントだな!死者の蘇生などという奇跡など起こせるわけもない!!はははははははは!」

 

その声は侮蔑であった。それに呼応するようにオルガマリーの体が消滅した。まるで最初からそこにいなかったかのように。その事から推測する事実に立香とマシュは膝を落とす。そして立香はその場で手を突き地面に爪を立てた。

 

「くそぅ……遅かった……」

「そんな……所長」

「くくく、だから無駄だといったのだよ。くだらん希望にすがりよって……自業自得だな……」

 

刹那。

剣風がレフの頬をかすめた。咄嗟で顔を覆い防いだレフは忌々しげにその風の元であるロトを睨みつける。

 

「貴様はとことん人の邪魔をするのが好きな様だな?」

悪人(ヒト)の邪魔しないと、世界は救えないんでね」

「ほざけ」

 

レフは後ろに飛んでロトとの距離を取ると、足元に魔法陣を敷く。

 

「まぁいいだろう。聖杯は奪われたが、もうそいつに魔力は残っていない様だしな。こちらにはまだまだストックがある。貴様一人を仕留めるのに急ぐ必要はないだろう……今回はここで失礼させてもらうぞ」

「させるか!下級爆発呪文(イオ)!」

 

ロトが呪文を唱える直前にレフの姿が消える。

逃した。

その後悔がロトを襲う。だが、その感情も無視し、事態は進む。

 

『大変だみんな!聖杯の魔力が薄まったせいか、特異点が収縮を始めてる!すぐにレイシフトの用意をするから準備して!』

「ロマン……」

『立香くん!悔しいのは分かるけど今は急いで!君がいなくなったら人類が終わってしまう!だから今は堪えて!』

「センパイ!」

「……わかった」

 

ロマンとマシュの激励に立香は涙を拭い前を向く。それをロトは満足気に見ていた。

 

「うん、いい顔だよ。世界を救う顔だね。その調子で頑張りな」

「あれ?ロトは?」

「ああ、オレは英霊だから別に後から追いかける形になると思うから大丈夫さ。気にすんな」

「……どうしてロトはそんなに平気なんだ?」

「ん?」

 

ロトのあっけらかんとした態度に、立香は疑問を抱く。先程のロトの機嫌からは想像も出来ないくらいに軽く、穏やかな笑みを浮かべていたのだ。オルガマリーを救えなかったというのに。

 

「どうしてって……繋ぐことは出来たからかな?」

「……それってどういう」

「お?どうやられいしふとの時間みたいだぞ?まぁ着いたらわかるさ!今はまだ絶望だらけだけど、戻ったらきっといいニュースが待ってるよ!だから気にせず帰れ!」

「ちょっとま……」

 

立香は最後まで声を紡ぐことなく特異点から姿を消した。最後に立香が見たのは、頼もしい笑みを浮かべたロトの顔だった。

 

 

 

 

「……んぱい……ぇんぱい……先輩!起きてください!先輩!」

「……マシュ」

 

立香は気が付くとカルデアスの前にいた。目の前には頼れる後輩が必死に自分の肩を揺さぶって起こそうとしていた。それを理解すると立香はゆっくりと鈍い眠気が走る頭を押さえながら上体を起こす。

 

「どうなったの?あの後」

「それを説明するためにも、早くこちらに来てください!先輩!」

 

そう言ってマシュは腕を引く。デミ・サーヴァント故の腕力に圧倒されながらも、立香はマシュになされるがままについていく。やがて医療室へとたどり着く。

マシュが開くとそこには……

 

「ああ、目が覚めたかい?立香くん」

 

この部屋の主人であるDrロマンと

 

「おお、思った以上に早かったな、立香」

 

立香の初めて召喚した英霊であるロト、そして……

 

「まぁ、回復が早いというのは良い素質だわ。そこだけは純粋に褒めてあげる」

 

ベッドに寝そべっているオルガマリーがいた。




ここから繋ぎを何本か投稿したのちにオルレアンに行こうと思っています。一体何ヶ月かかるか……

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