Fate/Dragon Quest   作:極丸

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本編を待ち望んでいた人、申し訳ございません。
外伝です。
今本編は何さんが続いておりまして、どうにも筆の調子が悪い状態です。
あるキャラクターの口調が難しく、息詰まっております。
それでは放置し続けた後編をどうぞ。




注意
主人公のキャラブレ
ご都合主義あり?


幕間の物語・結婚物語-当日

「さて、アベルくん。フローラとビアンカさん。どちらと結婚したいかよく考えたかね?」

「いいえ」

 

 ルドマンの部屋の中を一瞬、沈黙で満ちる。誰しもがアベルの言ったことに驚きを示していた。途中デボラが緊急参戦するというトラブルが発生したせいか、その衝撃は思ったよりかは小さく、ルドマンはアベル自身が冷静でいようと、自分の気持ちを落ち着かせようと、場の空気を和ませようと言った一言だと感じる。

 

「なんと?ろくに考えもせずに決めてしまうとは軽はずみな奴だ。まぁ、自分の気持ちは自分でもわかりにくいものだからな。それもよかろう。では、約束通り結婚相手を選んでもらおう!」

「選びません」

「……む?!」

「「「…………」」」

 

 アベルの一言に今度こそ場の空気は冷えた。アベルから告げられた拒否の言葉にルドマンと廊下から隠れて見ているメイドとルドマンの妻の息をのむ声がアベルには聞こえた。渦中の女性三人は無言でアベルを見つめ続けている。

 

「ど、如何言う事かね!?君は確かに昨日そう言ったはずだ!なのに何故!?」

「…………怖いからです」

「怖い?」

「はい。自分は……家族を得ることがとても怖い……」

 

 アベルから少しばかり悲しみの色が見え隠れし始める。顔を下に向け、うつむき気味にぽつりぽつりと語り始める彼の姿を見て、何故結婚をしないのかと問い詰める物は誰一人としていなかった。

 

「昔話を……聞いてくれますか?あるところに心優しい誰にも負けないような強い父親と、その息子がいたんです。二人はある人物を探し出すための旅をしていて、いろんなところに行きました。そんなときです、とある国の王子様の護衛をするという依頼を受けて、父親と息子は護衛をしていました。するとその王子がいたずらで塔に引きこもっていたんです。ようやく王子を見つけ出したら、その王子を攫っていく悪党が現れる。急いでその親子は王子を救うべく悪党どものアジトへ行って、王子を救い出せたと思ったら……」

「「「「………………」」」」

 

 ここでアベルは無言で()を作る。誰もが息を潜めて口を割らず、じっとアベルの事を見守っていた。やがてアベルは再び口を開き始めた。

 

「悪党の幹部が待ち伏せをしていたんですよ。当然その父親は王子と息子を守ろうと剣を抜いて幹部の奴等に立ち向かいます。父親は強かった……幹部たちは二人がかりで父親を相手にしますが、全く歯が立ちません。それを見かねた幹部の一人が、隙を見て息子を人質に取ったんです……そこから状況は一転、息子を盾にとられた父親は幹部二人、に、殴る蹴るやら、切り刻まれ、たり……と先ほどまでの鬱憤を晴らすみたいに…………やられます。それでも父親は、自分の息子を救おうと、必死に……耐え、て…………勝機を伺います……」

「「「「…………」」」」

 

 アベルの頬から光が落ちる。それが何かはその場にいる全員には理解できた。しかし誰もそれを指摘することは無い。途中で息が出来なくなって過呼吸の様な息遣いになっても、えづいた声が聞こえても、全員はただ黙って、アベルの告白を聞いていた。

 

「…………ンゥ……やがて人質を捕えた幹部が、しびれを切らして父親に呪文を向けます。その時息子も必死に抵抗しましたが、歯牙にも掛けずに幹部は呪文を父親にぶつけます。その時の父親の叫びは今でも息子の耳に残っていました」

「「「「…………」」」」

 

-----ぬわーーっっ!!

 

 アベルの中でその時の記憶がフラッシュバックで蘇る。業火の巨大な球を一身に受け、何もすることが出来ずに灰すら残らずに父親は、『パパス』は死んだ。その時の絶望が、アベルをどれだけ苦しめたかは言うまでもない、いや、言う事などできない。やがてアベルは顔を上げる。

 

「…………それからですかね、その息子が自身を責めるようになったのは。父親を殺したのは幹部でも他でもない。自分自身だと。その時一緒にいた王子なんかはそんなことは無いと言ってくれましたが。その息子はそう思わずにはいられませんでした。そして現在、その息子は、家族を得ようという状況下に置かれている訳なんです……」

「「「「…………」」」」

 

 アベルの話が終わると、辺りは最初の頃に比べると、かなり静まり返っていた。そしてルドマンが口を割る。

 

「なるほど。つまりは……自分の所為で家族を失た自分が、また家族を得てしまってもいいのかという事かね?」

「はい……すいません。魔王討伐のための盾が欲しかっただけなんです……俺にはそれがどうしても必要だから。必要なもののためにと無意識化で今まで抑えてきましたが、昨日の夜にやっと自覚出来ました。自分は……『家族を得たくないんだ』と」

 

 アベルの穏やかな顔に、フローラとビアンカは悲しさを覚えた。その内容とその表情はとても合致するものではなく、演技ではない本心からの言葉だと、直感で分かった。分かってしまったからこそ、その顔に込められた感情が、その言葉に込められた想いがどれだけのものなのかは彼女たちが想像する以上の重みなのだと察した。

 

「ですからルドマンさん。俺に娘さんは、フローラさんはもらえません。それに、ルドマンさんも知っているでしょう?アンディって男を。あの人なら、きっとフローラさんを幸せにできます。あの純粋な気持ちでフローラさんを想ってる彼なら、きっと寂しい思いをさせはしませんよ。俺はこの見た目の通り放浪者ですから、結婚相手には寂しい思いをさせてしまいます。それが分かっているなら、そんな思いはさせたくないのが俺の意見です……」

「う、ううむ……」

 

 アベルの言葉にルドマンは言葉を詰まらせる。アベルの言う事は正論ではあった。アンディという少年がフローラの事を好いているという事もルドマンは知っていた。しかし、正論であっても、それで納得するかは別である。アベルの言い分も分かるが、それでも娘を結婚させたいという気持ちの方が大きかった。

 

「ならば、アベルくん!君はこの『天空の盾』は要らないというのかね!?君はこれが欲しかったんだろう?」

「そうですけど、それは俺が使う為に欲しい訳では無いです。最悪ここに天空の盾があることが分かっただけでもいいですからね。将来勇者が見つかったときにルドマンさんがその盾をその勇者に譲ってくれるのであれば、オレは一向に貰えなくても構いません」

「……アベル」

 

 淡々と告げるアベルの姿に、ビアンカは一言彼の名をつぶやいた。アベルはその声を聞き取って少しばかりビアンカの方に顔を向けると、申し訳なさそうに頭に手を当てて申し開きを述べる。

 

「悪いなビアンカ……選んでやれなくて……でも安心しろ、お前はいい奥さんになれるよ。俺が保証する。だから、昨日みたいに、『一人でも生きていける』なんて言うなよ?」

「…………」

 

 アベルの一言にビアンカは何も言わない。ただ顔に悲しさを滲ませてアベルを見つめていた。そしてアベルはそのままフローラの方を向く。

 

「フローラさんもすいません。でも、俺よりもアンディさんの方が、きっと誰よりもあなたを愛してくれるはずです。ですから、俺の事は忘れて、アンディさんと仲良く暮らしてください……」

「アベル……」

 

 フローラは自然な口調でアベルの名を口にする。本心が心から望むその呼び名を出した途端、フローラの眼から一筋の涙が流れた。アベルはそれに気付かないように目を閉じて話を続ける。そして最後、途中から現れたデボラに、アベルは顔を合わせる。

 

「あなたには……」

「聞く気ないわ」

 

 デボラがアベルの言葉を遮る。するとデボラは無言でつかつかとヒールを鳴らしてアベルの元へ寄ると、大きく手を振りかぶった。弾ける音が聞こえる。アベルの顔には大きな紅葉が出来上がり、デボラの眼には怒りが宿っているのが見えた。アベルは頬に手を当て、デボラの方を見る。

 

「あんたがどんな過去を持ってようとアタシには関係ない。あたしは『あんたとなら一生を過ごしてもいいって思えた』から結婚候補になったのよ。それを後からうだうだ言った後に『したくない』?ふざけんじゃないわよ……あたしの好みの男はそんな奴じゃないわ」

「……」

 

 デボラはそう言うと、そのままじっとアベルを見つめた。するとそのすぐ横をに、フローラが立つ。

 

「アベル……私は指輪を見つけてくれたから、あなたと結婚するという訳ではないんです……もちろん最初は指輪を見つけた方と結婚しようという思いでいました。けど、それはだんだんと変わっていき、やがてはあなたでないとと思う様になってしまいました……恋は盲目というでしょう?私にとってはアベルさんのつらい過去は、つらい思いは、今は見えないのです。見えないほどに、私はあなたに恋い焦がれてしまっている……あなたが私を弾こうと、私はあなたを想います。ですから、そんなこと、仰らないで下さい……」

「……」

 

フローラの顔は涙を流しながらも、笑みを浮かべていた。引きつった笑みだ。無理に笑って誤魔化そうとする笑みであるのは誰にでも分かった。

 

「……これで良かったのかのかね?アベルくん?これほどまでに女性を泣かせて」

「構いませんよ。これで俺が彼女達に合わない男だっていうことが分かりましたから」

「それは?」

「女性を泣かせたら理由がなんであれそいつが悪役ですよ」

 

 ルドマンの言葉にアベルは身支度をして屋敷を出る準備をする。それを止める人物は部屋には誰もいなかった。

 

「では、失礼します。結婚式の費用は必ず何年かかろうと支払うので、どうか今は……」

 

 アベルは指輪をテーブルに残したのち、そう言い残して扉を閉める。

 

 

 

「なんだよお前ら?」

「「「………………」」」

「ぐわ」

 

 アベルはお供のモンスター達から白い目を向けられていた。居心地の悪さにアベルは何度か頭を掻くなり身動ぎをするなりしてその居心地の悪さを紛らわそうとしたが、当然消えるものではなかった。

 

「ひょっとしてさっきの結婚のこと見てたのか?一応言っとくが、俺は後悔してないからな。たとえ彼女達が泣こうとどれだけあの場でみんなに迷惑かけようと、長い目で見れば正しいことなんだ。父さんがやったみたいに、俺も未来の勇者が現れるまでに天空の装備を揃えた方が確実だ」

「「「「………………」」」」

 

モンスター達からの白い目が更に白け始める。

アベルは知らないことだが、彼のモンスター達の主人に対する唯一の不満はこれだ。主人は時々自分の命を安売りする。それもかなり頻繁に。モンスターに囲まれれば自爆特攻なんて当たり前。危機に陥ればモンスター達を逃すために殿を務めることも厭わない。そんな自傷癖とも言える献身さが気になり彼らは仲間になったのだが、それとこれとは話が別である。

 

「ほら、速く荷台に乗って。ルドマンさんに話もつけたし、チャッチャと他の天空の装備を集めないと」

 

アベルはいそいそと馬車の荷台に乗り込むがモンスター達は一向に乗る気配がなかった。

 

「おいおい頼むよお前ら……言いたい事はわかるぞ?確かに褒められた行為じゃないし、そんな顔する気持ちもわかるさ……でも行かないとダメなんだよ。どれだけ俺が悪役になろうと、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

主人の今の言葉に一体どんな意味が込められているかはモンスターには分からなかった。しかし、それでもこの状況は違うと言うのは分かる。だからこそモンスター達はまだその場を動く気配はなかった。

 

「……そうか。それだったらオレはお前らを置いてくぜ?一人で世界救った経験もあるしな。なんとかなるだろ」

 

そう言って主人は荷物を積み始めた。モンスター達は動かなかった。

 

「……そうか。お前らの言いたいことはよく分かった。だからオレはここでお前らを置いていくよ……」

「ぐるるる……」

「……ゲレゲレ、お前はあいつら連れてビアンカと一緒にいろ。あいつもオレと冒険したから理解はあるはずだ」

 

アベルは最後にキラーパンサーに手をやるとゆっくりと撫で始める。それにキラーパンサー、ゲレゲレは心配そうにアベルを見つめる。

 

「……じゃあな。こんなオレにここまで付き合ってくれてありがとな」

 

そう言ってアベルは馬車を走らせようとする。モンスターはジッと馬車を見つめ続けた。

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

しかしそこで待ったがかかる。それは凛とした声だった。

アベルは声の方に顔を向ける。

 

「……デボラ、ビアンカ、フローラ」

 

そこには先ほどのルドマン邸にいた花嫁候補3人だった。ここでようやくモンスター達はビアンカ達に向かって走り始めた。

アベルは諦める様にため息をつくと馬車から降り、3人に歩み寄る。

 

「どうして……てのは野暮かな」

「当たり前でしょ?女泣かせてただで済むと思ってんの?」

 

アベルの言葉にデボラは睨みをきかせながら言い放つ。

 

「さっきも言ったけど、オレは結婚する気は……」

「関係ない」

 

 アベルが言い切る前に遮る様にビアンカは言った。それにアベルがたじろいでいると、フローラが優しくアベルの手を握る。

 

「アベル様、貴方が自分の意思を押し通した様に、私達も自分の意思を押し倒すことにしました。今一度言います、()()()。私は貴方が好きです。だからこそ、貴方に決めてもらうのではなく、私の意思で貴方についていきます。あなたが身勝手に私たちを振ったのと同様に」

 

 フローラはにこりと笑った。その笑顔は先ほど見た笑顔と同じだったが、その本質はまるっきり違っていた。

 

「そうよ、覚悟しなさいアベル。あれだけ女性を振り回したんだから、報いを受けなさい。悪役は痛い目見る尾が相場でしょ?昔読んだ絵本で書いてあったじゃない」

 

 ビアンカはフローラの取っていない方の手を取り握り込む。そこには暖かさがあり、熱くも包み込むような優しかが込められていた。

 

「そういう事。これがあたしたちの意志よ。あんたが身勝手にあたしたちの事を決めるんなら、アタシたちもあんたの事を身勝手に決めてもいいでしょ?だからあんたの意見は完全無視。なんと言おうと変わんないから覚悟なさい」

「ちょ……」

「ほら早く乗りましょう、フローラ。それにビアンカも」

「ええ!アベル!先に待っているわ!」

 

 アベルの言葉を最後まで待たず、デボラとフローラの姉妹は馬車に乗り込む。それを呆然と眺めていると、そっとビアンカはアベルの傍に立つ。

 

「どう思うアベル?」

「……女性って強かだったのを忘れてたよ」

 

 ビアンカの言葉にアベルは『過去』を振り返る。

 ムーンブルクの王女に、酒場で出会った女性パーティメンバー、サントハイム王国の姫にコミーズ村の踊り子と占い師の姉妹、そして今目の前にいる幼馴染の少女、どの女性も一筋縄ではいかないタフな女性たちばかりであり、そんな彼女たちはとても心強い存在であった。そんな事も忘れていたとアベルは自虐気味に笑みをこぼした。しかしその顔はどこか晴れやかだった。

 

「む!誰のこと言ってるの?」

「……んー、前世(むかし)の事さ。気にしないで」

「ひょっとして他の女性(ヒト)の事?だとしたら夫婦会議ね。急いで知らせなきゃ!」

「おいおい、勘弁してくれよ」

「駄目よ、ただでさえあたしたち全員があなたの妻になるんだから、他の女性(ヒト)に目移りなんてさせないわ!ちょっとデボラー!フローラー!」

 

 ビアンカも馬車に乗り込む、アベルは後のことを考えて頭を掻いた。その様子をモンスター達は先ほどとは違い、朗らかな笑みを浮かべて(いる様に見える)いた。

 

「……降参だよ。お前らの思った通りだ。こっちの方が()()正しいって思えるよ」

 

 モンスター達は今度こそ笑った。それを見てアベルは背中を伸ばす。

 

「さぁ、早く行こう。次の街に行ったら馬車をもう一台買わないとだな。流石に3人増量はきついからな」

 

 そう言ってアベルは歩き出す。それにモンスター達も続く。足取りはとても軽やかだ。

 

 

 

「あんた、これ」

「ん?あ、これって……」

 

 馬車の中にて、デボラは唐突にアベルにあるものを手渡す。それは『ほのおのリング』と『みずのリング』であった。アベルは驚いた顔でデボラを見る。

 

「あとこれ、手紙よ。あんたに渡しとけって」

「手紙って……ルドマンさん」

 

 アベルはデボラから渡された紙を開く。そこには上質な万年筆のインクで達筆な字が綴られていた。そこには……

『アベル君、君に娘二人を託す。ビアンカさんと一緒に、幸せにしてくれ。結婚式についてだが、それは君の使命が終わってからで構わない。だからこそ、君には絶対に生きてほしい。私の娘たちとビアンカさんはその為の理由になるだろう。もう君の命は君だけのものではなくなった。君は生きなくてはいけなくなったのだ。そのことを十分に理解しているのならば私の言いたいことは分かるだろう?いくら私が気にいった男でも、娘を悲しませる様な事をしたのならば、私はたとえ君が死んだとしても、蘇らせてでも償わせよう。それを十分心に留めて君の使命を果たして欲しい。幸運を祈るよ ルドマン』

 

「……敵わないなぁ、ルドマンさん」

 

 読んだ後のアベルの感想はその一言であった。ルドマンは分かっていた。自分がどれだけ簡単に自分の命を捨てることが出来るのかを。自分がどれだけ他人のために己の犠牲を厭わないのかを。すべて見抜いていた。これは戒めだ。彼女たちのおかげで、自分はそう簡単に無茶が出来なくなってしまった。でもそれでいいのかもしれないと今は思う。『責任逃れ』はもう出来ない。『献身』を理由に死に物狂いも出来なくなった。だが、アベルはその不自由な気分が心地よかった。

 

「……ん?なんか続きが書いてある」

 

 そんな風にアベルは心地よさに浸っていると、紙の裏面にまだ何か書いてあることに気が付く。アベルは特に考えることもなく紙を捲った。

 

『その指輪二つは一応フローラとビアンカさんには「次来るときに今度こそ結婚式を開くので、それまで私が預かっている」という事にしといてある。しかしそれは今デボラの手で君の手元にあるだろう。それは将来もう一つ渡す指輪が見つかるまで持っておきなさい。花嫁が三人で指輪が二つだと何かと都合が悪いだろう。もう一つ、君の奥さんたちにふさわしい指輪を、ほのおのリングとみずのリングに劣らない指輪を見つけた時に渡して差し上げなさい』

 

「……気遣い感謝します」

 

 アベルは黙って首を垂れる。何から何まで至れり尽くせりで申し訳なくなってくる。そしてアベルは張本人であるデボラを見る。

 

「あー、デボラ」

「分かってるわよ。あたしもそこまで空気読めない訳じゃないしね。その二つはあの二人に渡しなさい。私は三番目でいいから」

「悪い……」

 

 アベルは居た堪れなくなってきた。自分の奥さんの懐がでかすぎて申し訳なさが半端ではない。アベルは改めて自分に結婚は向いていないことを悟った。

 

「ぐわ」

 

 奥の方でやれやれと言った具合でももんじゃが啼いた。アベルは何も言えなかった。

 

 

 

――――――――――

 

「っていうのが、俺の結婚騒動の全貌。どう?面白かった?」

「ええ!とっても面白かったのだわ!やっぱりハッピーエンドは最高だわ!」

 

 元アベル、ロトは黒いゴスロリ衣装のかわいらしい白髪の少女、ナーサリー・ライムに自身の結婚について話していた。ナーサリーは楽し気に椅子の上でぴょこぴょこ体を上下させ、感動を全身で表す。その光景にロトは自身の黒歴史を話した甲斐があったと考える。子供の笑顔に勝る宝なしである。

 

「でも勇者さん?どうしてあなたは最初結婚式をやめようとしたの?断ったって誰も幸せにならないのだわ!」

「うーーん、そういわれると耳が痛いなぁ」

 

 子供の純真無垢な容赦のない言葉のナイフにロトは苦笑いを浮かべるしかなった。子供とは残酷なものである。

 

「まぁ、強いて言えば……弱くなるのが怖かったってだけかな?」

「まぁ!勇者さんにも怖いものがあったのね!驚きだわ!でも弱くなるっていうのはどういう事なのかしら?」

「うーーん、これも難しい質問だなぁ?そうだねぇ、昔だったら一人で野営も出来たのに、結婚したら家族が傷つくのが怖くって夜も安心して眠れない。

 昔だったら巨大な岩すら片手で運べたのに、生まれたばっかの子供を抱き上げるとその重さで膝を着いちゃうくらいに非力になるんだよ。

 奥さんの元に戻ると怒られるのが怖くて無茶も出来なくなってくるし、無茶をして今度こそは奥さんに負けない!って思って帰っても涙ひとつで負かされるくらいに脆くなるんだ……ほらね結婚って弱くなっちゃうんだよ。世界を救うには荷が重すぎるだろ?」

 

 ロトは苦笑する口角を少しばかり上にあげて困ったように笑みを作った。それにナーサリーは満面の笑みで答える。

 

「そういう事ね!だったらそれは間違っているのだわ勇者さん!」

「え?」

 

 ナーサリーの言葉にロトは声を詰まらせる。ナーサリーは笑みを崩すことなく続ける。

 

「だって、勇者さんはそれでも世界を救ったのだから弱いはずないのだわ!もしかしたらそれで世界を救えたのかもしれないのだわ!勇者さんは奥さんのせいで何か損をしてしまったの?」

「いや、してない。してるはずがない」

 

 ナーサリーの質問にロトは間髪入れずに答える。その答えにナーサリーは更に歓喜の感情を体いっぱいに表す。

 

「だったらそれが本当なのだわ!シンデレラだってラプンツェルだって、白雪姫だって!みんな恋や愛が最後は結ばれて(まさ)しくハッピーエンドを迎えるのだわ!だったらドラゴンクエストだって愛で結ばれるハッピーエンドが(ただ)しい筈なのだわ!」

「……そうだね」

 

 ナーサリーの言葉は子供の戯言と言って切り捨てることも可能だ。しかし彼はそうしなかった。その眩しさを、彼はどうしても()()()()と重ねてしまうから。

 

「おーいナーサリー、ジャック達が探してたよー、って此処にいたの?あ、ロトもいた」

「マスター!丁度良かったのだわ!今勇者さんの結婚のお話を聞いていたの!とっても素敵なお話だったのだわ!マスターも聞いた方がいいのだわ!」

 

 マスター、立香が二人を見つける。ナーサリーはマスターを見るとぴょこぴょこ嬉しそうに跳ねながらマスターに近づく。

 

「へぇ、ロト、結婚の話すると渋るじゃん」

「振ってくる相手が悪すぎるんだよ。ティーチとか変なテンションで聞いてくるから正直話したくないんだよ」

「あー、そういう……」

「そうだわ!勇者さん!さっきの話をもう一度ジャック達にもしましょう!きっと楽しいのだわ!」

 

 ナーサリーは二人の会話に割り込み、突然の提案を申し出る。その提案にロトは気まずそうに頬を掻く。

 

「い、いやー……それは正直言って勘弁願いたいなぁ……」

「駄目よ!素敵なお話はたくさんの人と分かち合わないと楽しくないわ!さぁ!行きましょう勇者さん!」

 

 ナーサリーはロトの腕を掴んでずるずると引きずり始める。ロトのステータスなら彼女の腕を振りほどくのは容易だが、それをしないのが彼らしいところだ。

 

「はぁ……あんまり話たくないんだけど、聞いてはくれないか」

「諦めなってロト、正直って俺も聞きたいし」

「今日はどんだけ恥ずかし目に会えばいいんだ?」

 

 ロトはナーサリーに連れられて数時間後の自分を思い描く。ジャック達子供組に再び結婚の話をしていると、自身の息子たちに出会い、質問攻めにあうとはこの時ロトは夢にも思っていなかった。




ちょっと無計画に書いたものなので、前回との主人公の落差が酷いことに……
いつか修正を入れたいと思います。

本編はいつ投稿できるのやら……
少なくとも今年の投稿は無さそう
不定期のタグ付けとこ……

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