プロローグ1−冬木0
みんなは突然世界の命運を任されたらどう思うだろうか?
俺はこう思う。
『なんで俺?』
俺が最初にそう思ったのは目を開けた瞬間に突然『おうさま』がいる部屋の前だった。
目を開けた途端に急に話しかけられ、なにやら世界を救って欲しいだの、『ひかりのたま』を取り返してきて欲しいだのを言われ、特に言い返すこともできず城を出て、出た途端に『スライム』に襲われたのは今ではいい思い出だ。
その時俺は気付いた。『ここはドラゴンクエストの世界』だという事に。
それからは俺は悲壮感に精々二週間は苛まれた。これから『勇者』として生きていかなければならない使命。りゅうおうを倒すまで終わらないであろう人生。平和ボケした日本人にとって、初めて持った剣はとても危なく輝いて見え、スライム一匹ですら恐怖に感じた。ガイコツなんて剣を持ってる時点でもはや立ち向かう気にもなれやしなかった。
それでも俺がりゅうおうに挑みに行ったのは、一つに良心だった。ドラクエは正直言ってⅨをストーリーの最後までやったくらいで、ストーリーも正直曖昧で熱狂的なファンでもない。しかしそんなファンでなくても、救える力があるにも関わらず、救える人を救わないのは気分がいい話ではなかった。
りゅうおうに捕らえられた姫を救い出したい。そして、どうすることも出来ずに街から出ることができなかった俺を、世界を救うという使命がある故の行動だが、最後まで見捨てなかったおうさまや町の人々に答えたかった。
その一心で俺はがむしゃらに剣を振るった。魔法を覚えた。傷を負った。
りゅうおうを倒す頃には満身創痍で、倒した時にはその事実に歓喜して姫の前でみっともなく安堵の涙を滝のように流した。
『これでやっと勇者の使命は終わる』
『もう魔物に怯えることなく人生を過ごせる』
そう思い、姫さまを連れながら街に戻って足を踏み入れた瞬間、変化は起こった。
世界が陽炎の様に曲がり、意識が落ち始める。
最終的には立っていられなくなり膝をつくと、横で姫さまの声が遠くの方から聞こえてくる。肩を揺すりながら心配そうにこちらに話しかけてくる姫さまの声を聞きながら意識が落ちた。
これが最初の俺が世界を救った記録だ。
自分で言うのもなんだがよく覚えてるな。
そしてその時思ったのは安堵だった。『ひょっとしたら帰れるかもしれない』と、心配で涙を流す姫さまを見ながら失礼にもそう思ってしまった。
それがいけなかったのかもしれない。再び目を覚ますと、今度は別のおうさまが俺の前に座っていた。
ここから俺の真の地獄が始まった。
孤独な一人旅ではなく、途中から仲間が増えつつも辛い事に変わりはない世界を救う旅となった。
次の冒険は俺以外の2人の仲間が俺を支えてくれた。
次の冒険は酒場で出会った奴らとその夜馬鹿騒ぎをして結成したパーティーで最後まで悪態をつきながらもお互いを励ましあった。
次の冒険では少しづつ増えていった仲間を一つの馬車に乗り込ませ、世界各地を馬で駆け抜けた。
次の冒険には人間も魔物も仲間になり、そいつらは種族関係なく初めてできた俺の結婚を祝った。
さらに次の冒険では二つの世界を股にかけ、あらゆる経験を積み、数多の術技を手に入れた。
その次の冒険は過去と現在の時間を行き来し、その時代の人々との出会いと別れを繰り返して世界の謎を解いた。
次の冒険は馬となった姫と魔物に変えられた王を救う為に魔術師を倒す旅へと赴いた。
そしてその次の冒険はとうとう人ではなく天使となって空飛ぶ列車で酒場で出会った仲間と地図の場所を探して世界を飛んだ。
次に至っては人間以外の種族と多々に関わり、一度の人生で何度も世界の危機に晒された。正直言うとこの時期が一番多忙で、一番神経をすり減らし、一番冒険をしたかもしれない。
それ以外でも魔物を使役する大会に行く飛行船が墜落して生き抜くのに精一杯だったこともあったし、大量の魔物の軍勢が押し寄せてきて、それを一掃したりもした。
つい最近までは廃れた世界で建物を建てて復興を目指していた。
その復興が完遂したと思ったらこれだ。
一体俺はいつまで世界を救わなければならないのか。
もう何回魔物を倒したか。
もう何回剣を握ったか。
もう何回呪文を唱えたか。
もう何回……世界を救ったか。
廃人にならなかったのは奇跡に近い。でもそれはある種当然かもしれない。何故ならいつも俺の横には仲間がいた。仲間が毎度毎度ダメになりそうな俺を叱責して、俺は毎度ギリギリで自我と保てていた。
そして今も、最後の敵を倒しみんなが勝利を分かち合っていた。これで世界に平和が訪れる。
俺は地面に豪快に頭から倒れこむ。向こう側から仲間たちの動揺した声が聞こえてくる。
悪いな。これでお前らともお別れだ。泣くんじゃねぇよ。お前ら魔王相手でも泣かなかったじゃねぇか?
でも安心しろ、死ぬわけじゃねぇんだ。
ちょっと別の世界を救ってくるだけだからよ?
心配すんな。
すると意識が落ちる。
視界が暗転していく感覚に落ちながら『ああ、またか』と達観した考えで目を閉じた。
ーーさて、次はどんな世界を救わなければいけないのか?ーー
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時と場所は変わり、2004年の冬木市にて『人理継続保障機関フィニス・カルデア』に所属している青年、藤丸立香はこれから赴く戦場に向けて戦力補給の為、召喚サークルの前に立っていた。
「いい!最後になんとしてでも強力なサーヴァントを引き当てなさい!」
「は、はい!」
「先輩、頑張ってください!」
「フォフォウ!フォウフォウ!」
オルガマリーとマシュ、そしてフォウの声援に応えながら、召喚サークルに手をかざし、召喚に専念する。
もう既に魔晶石は残りわずか、藤丸はより一層力を込めて召喚をした。そして現れたのは……
「サーヴァント、クラスはヒーロー。真名は……まぁ今はロトって呼んでくれ……ってどこだここ?」
赤い服に金色の髪を持ち、剣を腰に刺した偉丈夫の男であった。
その佇まいから放たれる圧はまさしく英雄とも言え、藤丸たちを驚かせたが、何よりも驚いたのは、その真名であった。
『ロトだって!?やったよ藤丸君!ひょっとしたら君、とんでもない大物を引き当てちゃったかもしれないよ!』
「え?そんな有名なんですか?この人?」
その真名に一番早くに反応したのは、今この場にはいないロマニ・アーキマン、通称ロマンであった。
ロマンは通信機越しでも分かるほどに喜一色の声で喜びを表すが、藤丸には今一誰なのかがピンと来ていなかった。
「ちょっと!あなたまさか『ロトの勇者』を知らないの?!」
「え、えっと……『ロトの勇者』……どっかで聞いたことあるような……」
「先輩、おそらく先輩が聞いたことがあるタイミングは『ドラゴンクエスト』だと思いますよ?」
「え?……ええ!あの絵本で有名なドラゴンクエスト!あの勇者様のこと!?」
「どの勇者のことかはわからないけど、一応姫さまを救ったことはあるけど?あと絵本ってどう言う……」
「あなた絵本でしかあの伝説を読んでないの!?いい?帰ったら私の本を貸すから直ぐに読みなさい!分かったわね?」
藤丸の返答に唖然として本を勧めるオルガマリーにロトの質問はかき消された。
ロトの顔は少しだけ残念そうだ。
「……まぁあとで聞けばいいか、それでマスター?俺は何をすればいいんだ?」
「えっとそうだな……それじゃあこれからここの周辺を捜索するから、一緒についてきてくれるかな?」
「りょーかい」
「ちょっと聞いてるの!『ドラゴンクエスト』って言うのは、魔術師でなくても読まなくてはいけないレベルで重要な書物で……」
「所長、少しばかりハイになっています。落ち着いてください」
「フォーフォウ……」
そしてロトは頭を掻きながら藤丸の横を歩き始める。それに合わせて藤丸も歩き、追いかけるようにしてオルガマリーも走り始め、宥めながらもマシュも駆け寄り、藤丸の頭の上に乗っているフォウもマシュに加勢した。
燃え盛る炎の中の絵にしては随分と和気藹々とした光景であった。
これが藤丸達と勇者との長い
地雷臭がすごい