Fate/Dragon Quest   作:極丸

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冬木1

廃墟の中、藤丸達はロトに現在の状況を説明していた。それを聞いたロトは腕を組んでうなづく。

 

「なるほど、俺が呼ばれたのはそう言うことか……」

「ハイ、召喚に応じてくれてありがとうございます。ロトさん」

「あー、悪いマシュ、くんだっけ?自分から名乗っといてなんだけど、ロト以外にも名前が伝えられてるから、できれば統一できる勇者くらいに呼んでくれ。正直言っていっぱい呼び名があるから自分でも忘れそうになるからさ」

「え?ロトって名前がたくさんあるの?」

 

藤丸はロトの発言に疑問を抱く。真名を一つしか持たないはずのサーヴァントに複数名前があると言う現象に興味津々である。

 

「あなたねぇ、絵本でしか読んだことがないからそんな疑問を持てるのよ。ドラゴンクエストを読んだことがある人間なら常識よ。ドラゴンクエストの勇者はそれぞれ違う世界、時間軸を描いているから主人公も別々なの。それに主人公の名前は原本では正確に言うと明記されていないからその土地によって様々な呼び名がつけられているのよ。ロトの名で召喚されたのも、ここが日本だからその名前で呼ばれたのであって、本当の名前はサーヴァント自身しか知らないのよ」

「え?じゃあロトって真名じゃないの?」

「いや、そこのお嬢さんが言ってることは正しいけど、俺は正真正銘の『ロト』さ。けど、呼び名がいっぱいあるって意味はちょっと違くって……」

「GAOOOOOOOOOO!!」

 

『話の最中で悪いけど敵性エネミー2体の反応ありだ!直ぐに戦闘態勢に入って!』

 

「……なんで俺が喋ろうとすると、こうも邪魔が入るのかな……」

「ロ、ロトさんここは私に…」

「そうかい?じゃあ片方の敵を任せるよ、あいにく()()()()()()()()()()()()()()。実戦経験を補うためにも、少しばかり戦っときたいんだ」

「分かりました、ロトさん!」

 

マシュとロトは剣を持ったスケルトンに近づいていく。そしてロトは剣を抜き、斬りにかかる。マシュは等身大程の盾を振りかざしスケルトンに振りかぶる。

そしてオルガマリーはロトの剣を見て驚嘆する。

 

「あの剣、なんて魔力量なの!あれにどれだけの魔力が込められているのか分かったものじゃないわ。流石は伝説の勇者なだけあるわね、宝具も一級品ね」

「あれが宝具……」

「そう、かの竜の王、暗黒神、復讐の堕天使、人を騙る魔族を討ったとされる宝具、それだけの強大な敵を討った剣なのだから、あの威力もうなずけるわ」

 

藤丸のつぶやきに対してオルガマリーは解説を入れていく。その声色は先ほどよりも嬉しげで、生き生きとしたものであり、チラリと立香がオルガマリーの方を覗き込むとその目は少しばかり輝いていた。

 

「ひょっとして所長って……ファンですか?ドラクエの?」

「な、何を言ってるのあなたは!私がコトを欠いて『ドラゴンクエストのファン』ですって!?いい加減にしなさい!私は魔術師のたしなみとして『ドラゴンクエスト』を読んだだけです!当然の教養として覚えているだけよ!」

 

立香のその呟きにオルガマリーはひどく動揺し、まくしたてるように喋り倒す。その光景は先程レイシフト前に見たキツイ印象しか見えなかった『所長としてのオルガマリー』よりもよっぽど好感が持て、親しみやすい姿であった。そんな彼女を立香は微笑ましく見つめるが、焦っているオルガマリーは気付かずに喋り続ける。すると、戦闘が終わってか、マシュとロトが先程とは変わらない様子で帰ってきた。

 

「あ、お帰り二人とも。大丈夫だった?」

「ああ、まぁ大した相手じゃなかったし、正直マシュ一人でも事足りたかもしれなかったな。俺の相手にしたスケルトンなんて一太刀入れたら粉々になっちまった」

『そりゃあ伝説のロトの剣でスケルトンなんか斬りに掛かったら跡形もなくなるよ?威力考えてよ?オーバーキルもいいところだよ?』

「そうなのか……少し実戦離れしてたからちょっと曖昧だな」

 

ロマンの言い分にロトは首を傾げながら肩を回す。一戦交えたにも関わらずかなりマイペースだ。それが伝わっているのか、少しばかり場の空気が軽い。

 

「んん!それじゃあ貴方達!そろそろこの特異点の調査を始めるわよ!私の指示に従ってもらいますからね!」

「は、はい分かりました!オルガマリー所長!」

「よろしい、それじゃあまずは鉄橋から調べていくわよ」

 

そしてオルガマリーの指示のもと鉄橋付近の調査が始まる。

その間、立香とマシュはロトと少しばかり談笑をしていた。

 

「へぇ……俺の冒険って本になってんのか?しかも聖書の次に読まれてるって……」

「はい、第一章から第六章の本の発見は古代ウルク、そして第七章から第十一章までがエジプトのピラミッドから発見されまして、中国で外伝の魔物の章と無双の章、そして創造の章が発見されています」

「へぇー、そんなに有名だったんだあの本……俺幼い頃の読み聞かせでしか読んだコトなかったから知らなかったなぁ」

「はい、過去の名だたる英雄はこの本を愛読書としている人も多いみたいです。このまま人理修復を続けていけばいずれそう言った方にも出会うかもしれませんね」

「へー、それは会いたいような会いたくないような……」

 

ロトはマシュからの情報に少しばかり頬をひくつかせる。自分のことを他者が書いた伝記がある事が少しばかり複雑な気分らしい。

そこへオルガマリーがゲキを飛ばす。

 

「ちょっと!そこ!もっとちゃんと調べなさい!」

「「「はーい」」」

「フォーウ」

 

そうして4人と一匹は黙々と調査を続ける。するとロトはふと思い出すようにつぶやく。

 

「しかし本かぁ……俺は描いたことはないんだけどなぁ……」

「え?『ドラゴンクエスト』ってロトの直筆じゃないの?」

「いんや、俺がペンを走らせたのは道中での日記くらいだし、内容もほぼ走り書きだから、それとは違うと思うな……」

『ええ!君って日記も書いてたのかい!それは確実に君を呼び出す触媒になり得るし、現代の価値観から見るととんでもない値打ちの国宝になり得るよ!魔術師から見ても重要度は計り知れない!』

「いや、そうたいした事は書いてないぞ?その日の日付と書いたときの場所とか、今日の大まかな流れを適当に綴っただけだし……」

 

突如として通信機越しからのロマンの声にロトは驚きながらもそうたいしたことはないと訂正する。しかし興奮した様子のロマンはすぐさまその意見を否定しに入る。

 

『いやいやいや!君が世界に与えた影響はとんでもないんだから!君の活躍は『ドラゴンクエスト』でしか確認できないし、そこに『君の直筆の日記』って言う重要な参考資料が加われば、その記録はより確実なものになったりするかもしれないんだから!』

「そう言うもんか……?まぁいいや、しかし誰が俺の冒険譚なんて書いたんだ?俺の仲間の中で本を書いて売りに出すような奴っていたっけな?」

「ええっと、私が覚えているのは……一章が著者が『ローラ姫』としか覚えていないです、『ドラゴンクエスト』は章ごとに著者が変わるので……」

「まじ?あの姫さまが……っていうか、その流れだと全部の物語違う人が書いてんの!?嘘でしょ?!ただでさえ自分の話書かれてるって事実だけでもちょっと恥ずかしいのに!」

「へー、じゃあ二章から誰が書いてんだろ……」

「あーなーたーたーちー!」

「「「あ」」」

 

ロトの日記談義に花を咲かせている途中で、後方から声が聞こえてきた。

藤丸達は後ろから聞こえてくる血気を孕んだ声に後ろを振り返る。

そこには白い髪を逆立てたオルガマリーがこちらを睨んでいた。

 

「いい加減にしなさい!」

「「「すいませんでした」」」

 

その後、黙々と立香達は調査を続けるが、特に成果は実らず時間だけが過ぎていった。

そして立香達は別の場所での調査の為、鉄橋を後にし、魔術師関係が集う、協会の跡地へと向かう。

 

「あのー、所長。俺『ドラゴンクエスト』をそこまで読んだ事ないんですけど、ロトって一体どんな人なんですか?」

「ちょっとなによ?藪から棒に……まぁいいわ。自分の使役する英霊の逸話すら知らないなんてマスターとしては最低ですし、大まかな事くらいは把握しとくのは義務でしょう」

「あ、その話俺も聞いていいか?現代の知識は一応頭に入ってるが、俺の話がどう伝わってるのか気になってな」

「わ、分かったわ……まず最初に、彼、『ヒーロー』がした偉業は単純明快、『世界を救った』。この一点のみよ」

「ああ、その辺は知ってます。絵本でもその辺を主体に聞かされてましたし」

「まぁそうよね。まず『ドラゴンクエスト』の世界だけど、これは時代がかなり古い古代ウルクよりも何千年も前と言われているの。『魔術』と言う概念も『呪文』と言うもので統一されていたし、魔物と言う存在も確認されていたの」

「その魔物の脅威から人々を救うと言うのが、『ドラゴンクエスト』の根幹といってもいいくらいです。それ程までに世界は何度も危機に瀕し、その度勇者に救われていますから」

「そんなにピンチになるの?」

「当時の魔物の脅威がそれほどまで強力ってことよ。つまりその脅威を何度も振り払った勇者は物語上でしか確認できないにも関わらず、現界できる程にこの世界の人々にその偉業を認められているってことよ」

「いやー、面と向かって言われるとどうにもこそばゆいな……」

 

オルガマリーの説明を一通り受けた立香は納得するようにうなづき、少しばかり照れた顔をしているロトの方を見る。

今のところはほとんど気の良いただの年上の男性にしか見えないが、その今までに得た経験は自身が考えるものよりもはるかに過酷な道である事は、立香にも想像が出来た。

 

「ロトって本当に勇者なんだなぁ……」

「ん?どうした立香……!」

 

つい先程まで朗らかな笑みを浮かべていたロトは、突如として眉をひそめ、辺りを見渡す。腰を低く落とし、『ロトの剣』をすぐにでも抜けるよう構えを取りながら浮かべるその顔は寸分狂いなく()()の顔だった。

 

『みんな!そっちにサーヴァントの反応あり!すぐに態勢を整えて!……ってあれ?もうロト君は気づいてる感じ?』

 

「まぁな……数は()()ってところか、出てこい!奇襲はもう意味がねぇぞ!」

「ロ、ロト?」

「立香、所長と早くマシュの側に。サーヴァントが三体こっちに来てる。さっきのスケルトンとは話が違う」

「わ、分かった!所長早く!」

「分かってるわよ!」

 

ロトの要請にすぐさま立香とオルガマリーはロトの背後に回る。二人はその背中から無償の信頼を感じ取れた。

そしてロトにマシュも続く。

 

「ロトさん、ここは私も……」

「いや、悪いけどマシュ。ここは俺一人に任せてくれ。マシュは二人の護衛を」

「で、ですが……」

「安心しろ。お前はその盾で立香達を守ってくれ。俺は守るのは得意じゃないが、救うのは得意なんだよ。今彼らを守れるのはマシュ()で、この危機的状況を救えるのはロト()なんだ。戦闘がまだ不慣れだからって気に病む必要はない。だから、どうか二人を頼む……」

「……!分かりました」

 

ロトに加勢しようとするマシュを宥め、ロトは一点の方角を向く。

するとそこから闇を纏った黒い人型が姿をあらわす。

 

「ホホウ、我ラヲ相手ニ貴様1人デ挑ムトイウノカ?ナント愚カナ」

「ソノ顔ガ絶望ニ歪ムノガ楽シミダ」

「貴様ラ、ソノ辺ニシテオケ。ヤツハ恐ラクソレナリニナノ知レタ英霊ノ可能性モアル。ココハ確実ニ一人ヅツ消シテカラマスターヲ倒シニ掛カルゾ。一人ハ守護ニ専念シテイルヨウダシナ」

 

その人型は一人は長い腕を持ち、もう一人は長い獲物を持ち、もう一人は長い髪を持つのがわかる黒い影であった。

それを確認したロトは、剣を抜く。

 

「いいから早く来い。テメェ等全員相手してやるよ」

 

その声と同時にあたりは静まり返る。そこから聞こえてくるのは燃え盛る業火の音のみであった。火が破裂する音が辺りを響かせ、その場にいる全員の視界に陽炎が浮かび上がる。誰しもが動かず、喋らず。

 

硬直状態で数秒が経過し、彼らの近くで瓦礫が崩れた。

 

「ッシャァアアア!!」

 

最初に動いたのは長い腕の影であった。影はすぐ様腰に携帯していた投げナイフを投げ、そのままロトへと接近する。

 

「ヌゥウウウ!」

「……」

 

それに続くように長物を持った影、長い髪の影も後を追う、長物の影は勢いそのままに手にした得物を振り上げロトへと降りかかる。

正面からのナイフ、上からの得物、どれも常人であれば一撃必殺の威力を持つ攻撃に、長い髪は更にロトに追い打ちをかけるように、手にした鎖のついた剣を横から薙ぐ。

三方向からの攻撃にロトは冷静に対処をする。

ロトはすぐ様剣でナイフを弾き、剣を斜めに構えて受けの体制をとる。

そこに二つの衝撃がロトに剣を通して伝わっていく。

このままいけばロトを力で押し伏せることも、残った長腕が両手の塞がったロトを斬り伏せる事もできると感じ、クスリと笑みがこぼれる。

 

 

 

ロトはニヤリと笑った。

 

「……低位閃光呪文(ギラ)!!」

 

そう唱えると同時にロトの目の前、鍔迫り合いをしているちょうど中心部に閃光が生まれる。

そして一度光を収めると、その勢いを解き放つ様に爆発が起こり、その周辺を土煙が立ち上る。

ロトは爆風に乗りながらバク転の様に着地し、すぐ様爆心地に突き進む。

そして土煙の何も見えない中を剣で突き刺す。

その瞬間、煙は晴れると、その剣の先には、体を貫かれた長物の影がいた。

 

「まず一人……」

「ゴハ……バカナ……」

 

剣を引き抜きながらロトは振り返る。そして背後を取っていた長腕と相対する。

 

「モラッタ!」

低位睡眠魔法(ラリホー)

「……ッグ…」

「……二人……」

 

長腕は突如として襲ってきた眠気に一瞬のみだが、飲まれかける。しかしそれでも耐えたが、その一瞬のうちにロトは懐に入り込み、斬り伏せた。

ロトはすぐ様長い髪の影を探し始める。するとその影は既にマシュ達の方へ走り込んでいた。

 

「しまった、一人そっちを抜けたぞ、マシュ!くそ、各個撃破は時間をかけすぎたか!」

 

ロトは即座に駆ける。しかし影とロトとの距離が縮まる速度より、影の攻撃範囲内にマシュ達が入り込む速度の方が早かった。

 

「……ハッ」

「クッ!ロトさん!こちらは大丈夫です!」

 

影は走りながら鎖を振り回すと、ある程度の速度が出たところで打ち出す。

その攻撃にマシュは正面から迎え撃ち、ロトに無事を伝える。

 

「………………」

「ッ!マシュ!まだだ!」

 

盾に弾かれた剣は弧を描き宙を舞うが、影はすぐ様その剣に飛びつき、空中で再び攻撃の構えを取り、即座に投げる。

その攻撃にマシュは反応が遅れ、盾の動きが遅れる。慌てて構え直すが間に合うかどうかの刹那、その声は突然聞こえてきた。

 

「中々見所のある嬢ちゃんじゃねぇか、気に入ったぜ」

 

同時、火球が剣を打ち、剣はあらぬ方向へと軌道を変える。突然の火球に影は打ち出された方角を見やり、それに続く様に、全員が同じ方角を見る。

そこにいたのは、水色の布に身を包んだ木の杖を持った青い髪の男であった。

 




戦闘描写を初めて描きました。
上手くできたでしょうか?

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