その男の初見の印象は少しばかり軽いものであった。男はその場から移動するとマシュ達の方角に駆け寄り長髪の影とマシュ達の前に立ちふさがるように向き合う。
「ようライダー、オメェ随分と変わっちまったな? 今ならキャスターの俺でも倒せそうだ」
「キャスター……」
長髪の影、ライダーは青い髪の男、キャスターと対峙し、歯を軋ませる、その音から苦悶の表情をしているとすぐさま感じ取れる。その間にロトはキャスターでライダーを挟み込む様に位置を取る。
「あんた、
「
「そりゃどうも……で、結局あんたは敵か?」
「そうだな、
「……サンキュー」
そう言いキャスターは杖を構える。ロトもほぼ同時で構えを取り、それを見たライダーの顔は更に顔を苦渋で歪ませたようにみえたそして意を決してか、ライダーはキャスターの方へと駆ける。
「こっちに来やがったか! 森の賢者をなめんなよ!」
「ガァアアア!」
一閃。
ライダーは全速力で駆け抜け、キャスターを討たんと剣を投げる。その剣は真っ直ぐにキャスターの方へと進み、貫かんと向かうが、キャスターに焦りはない。
「へ、狂化されて思考もおぼつかなくなったか? 初歩的なミスしやがって」
キャスターは剣を無視して片方の手をかざす。そこには青白い光を放つ文字が浮かび上がる。
剣はキャスターを貫く直前、
「ガ!」
「喰らいな」
ライダーが驚くのを余所に、キャスターは先程と同じ火球を撃ち出す。高速で放たれた火球はライダーの顔めがけて飛んでいき、ライダーの顔から黒煙が上がる。
「ガァアアア! ヨ、ヨクモ!」
「よそ見厳禁」
「グ!」
ライダーが恨みを乗せた視線を送りつつキャスターへと近づくが、その止まった一瞬をロトは逃さず、その『ロトの剣』で背中を斬りつけ、ライダーは苦悶の声を上げ、地に伏せ、身体が消えかかる。
それをロトは斬りつけた本人であるからか、最後まで見つめていた。
「いやはや、追いつくとは思ったがあそこまで速ぇとはな。槍兵としての俺ほどじゃねぇが、なかなかにいい線いってんじゃねぇか?」
「どうも、キャスター。やっぱり人を斬るのはいい気分がしないな……で、あんたの
「この場合は真名でも言や、信じてくれるか?」
「その辺は彼らに任せるさ」
「あん?」
キャスターはロトの指差す方向に顔を向ける。そこにはこちらに向かって手を振りながら走ってくる立香達の姿が見えた。
「おーいロトー! 大丈夫ー?」
「大丈夫ですかロトさーん!」
「ちょっとあなた達! 敵かもしれないサーヴァントの前で真名を言うんじゃないの! さっき教えたでしょ!」
「えー? でもロトの事助けてましたよ所長」
「フォフォフォーフォーフォウ」
立香達の和気藹々としたら姿を見て、キャスターはケラケラと笑う。
「はっはっは! あれがテメェのマスターか! 真名を俺に伝えちまうなんてなかなかに肝座ってんな!」
「褒めてもらったと受け取っとくよ」
「流石はかの有名な勇者様だ? バレても問題ねぇってか?」
「敵が有利なだけで、味方が不利なわけじゃない。敵地に乗り込んだら、そんな事しょっちゅうさ」
「へ、言うじゃねぇか?」
キャスターとロトは互いを見合う。相手の力量を測るその目は、一部の漏れもなく、相手の情報を吐き出すために光らせていた。
「ロト、何やってるの?」
「ああ、マスター」
そのにらみ合いも、立香達が来た事によりたちまち消え失せる。元々コミュニケーションで冗談半分でやっていた事だ。
流石ケルトクオリティ、肉体言語が激しい。
「よぉボウズ? オメェ結構気に入ったぜ」
「え? 何急に?」
「マスター、この人俺たちに協力してくれるってさ」
「本当ですか! ありがとうキャスター!」
「ははは! 本当に肝座った坊主だな! この聖杯戦争限りだが、よろしく頼むぜ」
そう言ってキャスターと立香は握手を交わす。その様にオルガマリーはすっかり毒気を抜かれ、鬱陶しげにため息をついた。
「ハァ……まぁいいわ、真名もばれているにも関わらず協力してくれてるんだから、貴方のことは一時的にではありますが信じます。ですが、もしこちらに被害を加えようものなら、すぐに交戦の構えを示しますからね! 分かった? ロト?」
「あ、やっぱ俺なのね? いいよ別に、こいつは俺の仲間と目が似てる。信用出来るやつさ」
「伝説の勇者様のお仲間と似てるとは光栄だな?
「あんたでも俺を知ってるのか?」
「あたりめぇだろ? 『ドラゴンクエスト』の呪文はケルトじゃルーン魔術の参考にしてんだからよ? さっきの火球も『メラ』を参考に出来たルーンだぜ?」
「どうりで似てたわけだよ。後で見せてあげようか?」
軽口の言い合いではあったが、聞く人が聞けば卒倒しそうな重要な情報ばかりが飛び交っていた。
原初の魔法とされるルーン魔術のお手本となったのがドラクエの呪文を参考にされているという事実にオルガマリーはひどく動揺していた。
「そんな事実初めて知ったわ……魔術協会が聞いたら驚きそうね……ま、それはいいとして……キャスター、早速だけど貴方が知ってる情報を聞かせてもらうわ。そうすれば私も貴方を信用たり得るサーヴァントであると認めます」
「おういいぜ? 俺にとっちゃそんなもんで信用を得られんなら万々歳だ」
そうしてキャスターは現在の冬木市の現状を話した。
聖杯から溢れた『泥』により、聖杯戦争が変わった事。
汚染された聖杯により、キャスターを除く全てのサーヴァントがセイバーの配下についた事。
泥により、無尽蔵にスケルトンなどの敵が生成され、キャスターを追いかけている事。
現状生き残っているサーヴァントはキャスターとセイバーとアーチャーとバーサーカーのみである事。
聖杯はセイバー一人で守護している事。
それらを聞き、オルガマリーの顔はひどく歪む。
「なるべく敵のサーヴァントと遭遇しないよう作戦を練っていたけど、遠距離が得意なアーチャーがいるとなると遭遇は避けられそうにないわね……こっちはロトとマシュ、キャスターがいるとはいえ、慎重を期さないと……」
「それと、なるべくバーサーカーには出くわしても逃げたほうがいいぜ? ありゃ体力を消費するだけだし、大体の出てくる位置は決まってる。真に警戒すべきはアーチャーとセイバーくらいだ。この二体と出くわしたら戦闘確実。仕留めるまで執拗に狙ってくるぜ?」
「くっ……マシュの宝具解放すらまだなのに……」
「スイマセン……」
悔しげに爪を噛み、必死な顔で打開策を考えるオルガマリーを横に、通信機越しにロマンが落ち込んでいるマシュを励ます。
『大丈夫だってマシュくん! 気にすることないよ! そもそも宝具っていうのはその英霊の偉業を形で成した存在なんだからそう簡単には出来ないって!』
ロマンはマシュに優しく諭すように話しかける。
「「いや、そんな難しいことじゃないぞ?」」
「「!?」」
しかしその応援も、他ならぬサーヴァントにより無に帰る。
その返答にマスターである立香とオルガマリーも驚く。
「宝具って言っても要は自分の体の一部だ。サーヴァントになる時点で嬢ちゃんはもう宝具を使えるはずなんだよ」
「それが出来ないってこと自体珍しいよ? おそらくマシュが聞いたところによるデミ・サーヴァントってところが大きいんじゃないかな? マシュ曰く、サーヴァントの真名すらわからないんでしょ?」
キャスターとロトはサーヴァントならではの感覚でマシュに説く。その意見にマシュの表情に影が指し始める。
そしてその様子を見た二人は顔を合わせて頷く。
「「よし、荒療治だ」」
「「え?」」
そう言ったサーヴァント二人に合わせて、立香とオルガマリーは息を合わせて質問で返した。
この時嫌な予感がマシュとカルデアにいるロマンに感じた。
「たぁあああ!」
『GUOOO!?』
「いいぞーマシュ、その調子だ! アーチャーに見つかる前に少しでもサーヴァントとしての感覚を身に付けるんだ!」
「ハイ! マシュ・キリエライト、頑張ります!」
場所は変わり、マシュはロトに見守れながらスケルトンを盾で倒し続けていた。
その様子を見て立香達は少々キャスターに多少の呆れた眼を向けていた。
「まさか、実践あるのみの『ガンガンいこうぜ』修行だなんて……もうちょっと効率的というか合理的と言うか……なんか思ってたのと違う……」
「俺らにどんなことを期待してたかは知らねぇが、結局数をこなしゃその内身につくんだよ。俺も師匠にゃ散々これの数十倍レベルの苦行させられたもんだぜ? まだまだぬりぃ方よ」
立香の問いかけにキャスターはなんでもないように言い返す。その返答に援護するようにマシュのフォローに回っていたロトも口を挟む。
「俺も強さに行き詰まったりしたら、よく道中の魔物とかとわざと戦ってたもんだよ? どれだけ弱い相手でも実践経験で培われるものは馬鹿に出来ない。マシュに足りないものはそこだよ」
「うちの師匠が実践主義なのもそれがデケェかもな。師匠もオメェさんの本愛読してたぜ?」
「そりゃ嬉しいな」
ロトとキャスターの会話の最中、立香はようやく全てのスケルトンを倒し終えたのを確認してから、マシュの元へと治療魔術を施す為に近づいて行った。
未だサーヴァントになったばかりの体に慣れないままこれまでに遭遇した敵を相手にしてきたのだから、心配するのも当然かもしれない。
「しかし、そろそろスケルトンじゃ相手にならなくなってきたかな?」
「と言ってもここで召喚される雑魚なんざコイツらだけだぜ? それ以上となると……」
「敵サーヴァントしかいない、か」
「マシュ、どうなの? 宝具は打てそう?」
「すいません所長、まだ感覚が……でも、あと少しな気がします! 何かきっかけがあれば、いけそうな気がします」
「きっかけ……」
マシュの言葉にロトは顎に手を置いて考える。自身の体験談から、何かを導き出そうとしているのかもしれない。
そんなロトを尻目に、オルガマリーは少しばかり警戒しがちに辺りを見渡していた。それに気付いたカルデアにいるロマンが無線で呼びかける。
『どうしたんです所長? さっきからキョロキョロしてますけど?』
「アーチャーが仕掛けてこないわ」
『え?』
ロマンの疑問にオルガマリーは警戒を緩めずに即答する。そのオルガマリーの返答に、キャスターも続く。
「ああ、さっきから一応警戒してたが、あの野郎、今まで一発も撃ってきやがらねぇ。どう考えても異常だ。向こうも何か変化があるのかもしれねぇな」
「そうね、こちらのサーヴァントを見られた可能性は十分にあるわ。ただ確かめようもないし、少し聖杯まで急いだ方がいいわ」
「じゃあ、ますます嬢ちゃんの宝具が必要不可欠になってくるな、それも早急に」
キャスターがつけた結論にオルガマリーも悔しながら賛同の意を示す。それを確認したキャスターはマシュに近寄り、口を開いた。
「おい、ちょっといいか嬢ちゃん?」
「あれ? キャスター? どうしたの?」
「いや坊主、ちょいと治療のペース上げてくだけだ」
「キャスターさん?」
先ほどまで静観を決めていたキャスターの接近に立香は疑問を感じ、それにマシュも追随する。
そんな様子も気にせず、キャスターは話を続ける。
「なぁ嬢ちゃん。ちとここからペース上げてくぜ? ここのスケルトンじゃもう嬢ちゃんは鍛えらんねぇ、ツーわけで……」
キャスターは杖を槍のように構えながら凶悪とも、野性的とも言える笑みを浮かべた。その笑みにマシュは本能から震え、ロトはキャスターがする事が何かに気がついた。
「こっからは俺が相手だ。そこの
「え……」
キャスターの言った一言に、マシュは眼を見開き、ロトはそっと静観の態勢に入り、事の成り行きを見守る。
そして立香の方を向き、キャスターは話を続ける。
「あんだけガムシャラに戦っても無理だったんだ。こっからはもっと上の敵とやり合わねぇといつまで経っても嬢ちゃんは宝具を使えねぇ。覚悟決めな」
「キャスター……」
「おい坊主、オメェも覚悟を決めな。サーヴァントの問題はマスターの問題、サーヴァントとマスターは一蓮托生の関係じゃねぇと、この聖杯戦争は終われねぇぜ?」
立香はキャスターの声に考えさせられた。そしてマシュの手を取り、優しく、落ち着かせるように握る。
「……マシュ、俺も最後まで一緒にいるから、頑張ろう」
「先輩……分かりました。私は、先輩のサーヴァントです。先輩を守る為にも、このマシュ・キリエライト、頑張ります!」
マシュは盾を握りキャスターと相対する。それを見てロトも歩み寄る。
「おい勇者さんよ。オメェさんは手ェ出すなよ? コイツらの為にならねぇ」
キャスターはマシュ達を見据えたまま、そうロトに告げる。しかしロトはマシュ達ではなく、キャスターの方に歩み寄った。
「ロト?」
「悪いねマスター。強い相手に鍛えたいなら、オレも参加するよ。その方がマシュの為にもなりそうだ」
スマブラ参戦決まりましたね。
ここで一つみなさんに少しばかり力を貸してください
作者自身はドラクエの経験は小学生の頃にドラクエ9のストーリーを攻略した程度なので、あまり情報がないのです。
そこで活動報告にて、皆さんから色々な情報をもらいたいなと思っています。
一応作者自身も色々と調べますが、アイデアを固める為にも、ご協力願います。
以上、極丸からでした。
ご感想、お気に入り登録してくれた皆様、ありがとうございました。